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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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閑話48 オリジンに迫る危機

 異世界、『オリジン』に、存亡の危機が迫っている。

『人類が絶滅すると、オリジンの神も遠からず消滅してしまう。そうなると、惑星自体は残っても、世界としては消滅したのと変わらない』


『オリジンの神は、人類全体の信仰心や畏怖が創りだした存在だ。そのため、我々のように新たな知的生命体を創る事が出来ない。

 人類が絶滅すれば、共に滅ぶしかない』


『我々も簡単に創れる訳ではないけどね、知的生命体』

 『空間と創造の神』ズルワーンと、『時と術の魔神』リクレントは『ラムダ』世界の外周部で、異世界に動きがないか念のために調べていた。


 『オリジン』は『地球』と同じく、『ラムダ』と空間的に近い世界であり、世界間の時間が流れる速さはだいたい同じだ。しかし、誤差で数か月から一年分程時間の流れが速くなる事がある。ついこの間、それがあったばかりだが、だからといってしばらく起きないとも限らない。

 普段ならそれで困る事はなく、気に留める事もないのだが……今の状況では、それを見逃す事は避けなければならない。


『たしかに、その通りだが、茶々を入れないでもらおう。それより、『オリジン』の危機だが……ロドコルテは動くと思うか?』

『動かないどころか、存亡の危機が迫っている事にも、気がついてないかもしれない。気がついていて、動かない可能性も高い』


 『オリジン』に迫っている危機とは、【アバロン】の六道聖による死属性魔術の研究だ。

 もし研究が上手く……つまり、最悪の結果を出せば、六道聖が研究を行っている大陸が、そして『オリジン』の人類が対処できなければ、南半球か北半球、どちらかの生命体が死滅する。


 人類が、ではなく生命体が死滅するのだ。鳥と獣、魚、植物だけではない。空気中や水中、そして地中の菌やカビ、バクテリアまで残らず死滅する。

 数年前『第八の導き』のプルートーが、自身の死後、国防総省で死属性の魔力を暴走させた時に起こった事が、大陸規模、もしくは半球規模で起きるのだ。


 即座に人類が絶滅する事はないが……将来的に人類が生き残る事が出来るかは、分からない。何せ、ただ人類が半分に減るだけではなく、広大な面積が生命体の存在しない死の大地と海と化すのだ。


 ロドコルテがそこまでの事態を想定しているかは、不明だ。いや、想定していたとしても、転生者である【ブレイバーズ】が大勢死に、対ヴァンダルーのための手駒として使えるようになる機会としてしか、考えていないかも知れない。


『今の奴が、オリジンにどれ程の価値を感じているかは不明。死属性の魔力の暴走で世界の生命体が半分死んでも、魂が砕かれる訳じゃない。砕かれていなければ、奴の輪廻転生システムはビクともしないのかもしれない。

 それに、『オリジン』の神はヴァンダルーの味方だから、寧ろ世界の滅亡を望んでいることも考えられる』


 そう推測するズルワーンは、ロドコルテが以前『ラムダ』世界を輪廻転生システムから切り離すために、『地球』と『オリジン』ごと見捨てようとした事を知らない。もし知っていれば、自分の推測に確信を持っただろう。

 実際、ロドコルテにとって『オリジン』の事は二の次になっており、最も優先すべき「ヴァンダルー抹殺」を達成させるためならどうなっても構わない。そんな世界でしかなくなっている。


 ヴァンダルーを抹殺し、ヴィダル魔帝国が滅亡してラムダ世界の神ではなくなった時、『オリジン』が存続していれば「ちょっとラッキー」、滅びていても「まあ、別にいいか」で済まされる程度なのだ。


『もっとも、ただ単に他の転生者が抑止力になると信じているだけかもしれないが』

『雨宮寛人か。オリジンの神も力を貸すそうだから、何とかしてもらいたいところだな。……そして、あわよくば生き残って、平均寿命を遥かに凌駕する年齢まで余生を過ごしてくれれば幸いだ』


 ズルワーンとリクレントはそう言いながら、雨宮寛人の健闘を祈った。


『それよりもズルワーン、他の世界の神々に動きはあるだろうか? もし、ロドコルテが応援を頼み、それに応じる神がいたら……あまりにも哀れだ』

 リクレントが心配しているのは、ロドコルテが自身のシステムによって輪廻転生を司っている異世界の神々に、応援を要請する事だ。


 ヴァンダルーの抹殺に協力しなければ、お前達の世界の輪廻転生を止める。そう脅す事によって。


『我は、考え過ぎだと思うけどね。それはあまりにも諸刃の剣過ぎる』

 空間の遥か彼方を見据えながら、杯に黒い液体を注いでズルワーンがいう。

 リクレントが案じているのは、世界の存続を望む神全てに効果のある脅迫をロドコルテが行い、それに異世界の神々が応えてしまう事だ。


 だが、実際に脅迫が行われれば、多くの異世界の神はロドコルテに不信感と危機感を覚えるだろう。彼等にとってこの脅迫が一度だけで済む保証はない。これ以後、何度も輪廻転生を盾に理不尽な要求を突き付けられるかもしれない。そう考えるだろう。


 そうした神々が行うとズルワーンが考えるのが、独自の輪廻転生システムの構築だ。魔王グドゥラニスや、ヴィダがシステムを模倣する事が出来たのだ。異世界の神々に出来ない理由がない。

 すると、ロドコルテは力の源である複数の世界の輪廻転生を独占できる体制を、失ってしまう。その危険性を彼が冒すとは、ズルワーンには考え難かった。


 ロドコルテの賢さを信じているのではなく、彼にはそこまで思い切った手段を取る事は出来ないだろうと考えていたからだ。


『それに、もし異世界の神が我々の世界に攻め込もうとしたって……我々やヴァンダルーが何もしなくても、数分とかからず消滅すると思うけれど。

 物理法則が異なる異世界に降臨するのだから』


 基本的に、神々が地上に降臨するには、大量のエネルギーが必要になる。それを、自分の世界とは物理法則が異なる『ラムダ』で行うのだから、より大量のエネルギーが必要になる。そして、特定の世界に根差している神は、その世界から準備をせず……信者の大多数と共に世界を超える等をしなければ、四肢の内一本を引き千切られるような痛みとダメージを負う。


 そんな状態でこの世界にやって来ても、ズルワーン達が何もしなくても、数分で力を使い果たして眠りに入るだろう。亜神のように肉体がある場合は、ただ死ぬだけだ。

 唯一心配なのは、グドゥラニスや配下の魔王軍の邪悪な神々のように、ズルワーン達通常の神や亜人とも異なる異世界の神々が侵攻してきた場合だが……逆に言えば、ロドコルテがそんな存在と交渉し輪廻転生を司る事を了承させているとは考えにくいので、その心配が現実になる事はないだろう。


『それは分かっている。十万年以上前、我々が『アース』に赴き、勇者達を見出す事が出来たのは、我々の世界と『アース』に満ちている魔力が我々にとって都合が良かった事、汝の尽力、そして我々が己の存在を維持する事を中心に力を使っていたからだ』


 あの時は、事前に『アース』の神との交渉が済んでいた事も大きかったが……リクレント達ラムダの神々にとって『アース』世界の環境は暫くなら耐える事が出来るものだった。さらにズルワーンが世界同士を空間の穴で繋げ続けた事で『ラムダ』から切り離されずに済み、そして何より目的が勇者として招く人間を選ぶ事であって、戦闘ではなかった事もあってそれ程力を使わずに済んだ。


 勇者達に力を与えたのは、世界から世界へ渡るその刹那の間に行ったので、『アース』と『ラムダ』、両世界の物理法則に邪魔されずに力を与える事が出来たのも大きかった。


『リクレント、もしや我々と同じ事が異世界の神々にも出来ると考えているのか?』

『そんな事はない。異世界と『ラムダ』の差異については不明だが、戦闘を目的にしてくるのなら不可能だろう。……杯からコーラを飲む事を指しているのなら、可能だろうが』


 四つある頭部の内一つで真面目な話を、三つでコーラを飲むズルワーンに、リクレントはじっとりとした視線を向けた。自分も三つある姿の内、二つで軽食でも食べようかと神としてあるまじき思考が脳裏を過ぎる。


『我が哀れに思うのは、異世界の神々がロドコルテの脅迫に屈した場合、僅か数分で力を失い眠りにつき、そのまま復活する事が出来ないからだ』


 しかも、異世界から訪れた神をラムダの人々は知らない。故に、信仰によるダメージの回復は望めない。元の、信者のいる世界に戻らなければ、復活する事が出来ないのだ。


『それは、たしかに哀れだが……ロドコルテが他の世界の神々を脅迫しない事を祈るしかないだろう。今のところ、その様子はなさそうだが』

『……その通りだが、念のために我は暫く警戒を続けよう。事前に察知できれば、警告する事も出来るだろう』


 そう話し合う二柱の神は、異世界にズルワーンのような空間を操る神とシュナイダーやランドルフ、ハインツ達に匹敵する英雄が存在した場合の事を、神が自分達の世界とこの世界を繋げて英雄達を送り込んでくる可能性は考えていなかった。


 何故なら、それほどの行動力と力を持つ神が存在するのなら、『ラムダ』ではなくロドコルテの神域に侵攻し、輪廻転生システムを奪うか、システムの情報を盗んで自分達の世界で独自の運営を始めた方が少ないリスクで大きなリターンを得る事が出来るからであり、その事に気がつくはずだからだ。


『しかし、ロドコルテが消滅するか、眠りにつくほどのダメージを受ける事が避けられないと知った場合は、その限りではないが……どうなっている?』

『進捗状況は、ぼちぼち? 本人に訊ねられないから、覗き見る事しかできない。確かめられないのだよね』




 その頃、大国同士の全面戦争よりも『ラムダ』世界の存続を脅かす脅威と見なされている男、【アバロン】の六道聖は、中々進まない計画と研究に苛立ちと疑問を覚えていた。

「【メタモル】はもう使えそうにない、か」

「はい。錯乱が酷く、姿を維持する事が出来ません。安定しているのは、鎮静剤で眠っている時だけです。再洗脳を試みましたが、魔術も薬物も効果がありません」


 【シャーマン】の守屋がそう答えると、六道は溜め息を吐いた。彼はこれまで、【メタモル】の獅方院真理を洗脳し、影武者として使う事で自身の安全と、何より死属性魔術の研究を進める時間を確保していた。

 だが、【メタモル】が六道の影武者として参加した雨宮家で行われた冥の三歳のお祝いで、突然錯乱してから、彼女をコントロールする事が出来なくなってしまった。


 そのため、六道はあれから表社会のメディアに露出する仕事を、自分自身で行わなければならなくなった。それが彼の時間を大きく削っている。

 六道以外に死属性魔術の研究を進める事が出来る、有能な人材を抱えていれば、問題はなかったのだが……。


「死属性魔術の研究者を、何人か手元に残しておくべきでしたね」

「正確には、有能な研究者を、だな」

 死属性魔術の研究者の多くは、『第八の導き』、プルートー達によって殺害されている。プルートー達が見つけられなかった、合衆国が秘密裏に確保していた研究者達も、他ならぬ六道聖の企みによって、国防総省ごと抹殺されている。


 何故、研究者を拉致や引き抜いて利用しようとせず、抹殺してしまったのかというと、研究を独占するためだ。そして、六道が研究者として有能であり、【メタモル】という便利な影武者のお蔭で表と裏の顔を使い分けても十分な時間を確保する事が可能だったため、外部の研究者を取り込む必要を感じなかったためだ。


 ただ、今六道達がいる彼の極秘研究所には彼等以外の研究員もいる。ただ、その多くは研究員という名の研究機器を動かす職員であり、実体はほぼ労働者でしかない。

 協力者達が派遣している人材もいるが、彼等も六道の補助としては有能でも、研究を主導的に進める事は期待できない。


 それでも、研究が順調に進んでいれば支障はなかった。時間が減っても、雨宮冥を拉致し、六道聖が死属性の魔力を、そして世界を手に入れる計画を進めるだけで良かった。

 計画の方は、表と裏、両方の権力者と協力体制を構築し、何年も前から下準備を済ませている。進めるだけなら、すぐに出来る。


 【ブレイバーズ】の方への工作は、【ドルイド】のジョゼフを中心にした数名から警戒されているようなので、多少やり難くなった。しかし、それも決定的な障害にはならない。雨宮寛人も影武者が錯乱するのを見て疑念を覚えたようだが、まだ決定的なものではなさそうだ。


 だが、雨宮冥を拉致する計画を実行して、肝心の研究がまだ十分に進んでおらず、六道聖が死属性の魔力を手に入れられませんでしたでは全てがそこで終わりだ。

 協力者たちはいっせいに掌を返し、六道達は裏切り者として雨宮寛人に倒されてしまうだろう。


 六道は世界でも有数の魔術の使い手であり、身体能力も超人的。【シャーマン】の守屋幸助以下、大勢の転生者を味方につけているが……【防御力無視】等のチート能力を持つ雨宮寛人は、それでも対抗できない相手なのだ。

 彼を倒すには、死属性の魔力が必要だ。


 それに、未だ正体不明な敵対者の存在もある。

「雨宮家に潜んでいる……いや、雨宮冥に憑いている何者かの正体は不明。雨宮夫妻の様子から、彼等と通じ合っている訳ではなさそうだが……ジョゼフと通じている可能性はあるな」


「やはり、【メタモル】に影響を与えたのも……?」

「そのはずだ。いったい、どんな魔術を……いや、能力なのか? もしや、我々が把握していない転生者が、『アンデッド』以外にいるのか?」


 雨宮家には、死属性を含めた全ての魔力を感知するセンサーが設置されている。それでも、正体不明の敵対者をセンサーは感知できなかった。【メタモル】の洗脳に影響を及ぼし、錯乱させた時もだ。

 正体不明の敵対者……バンダーを、『第八の導き』の生き残りか、狂信的な崇拝者。もしくは、何者かに送り込まれた工作員と考えている六道達にとっては、理解できない事だ。



 魔術も使わず……魔力を発する事なく姿を消したまま行動し、【メタモル】を錯乱させるなんて、出来るはずがない。それこそ、自分達が持つチート能力でもなければ。チート能力は、発動に魔力を使うが、魔力を発散する訳ではないから、センサーでは感知されないのだ。


 実際には、バンダーにとって姿を消した状態が素であり、【メタモル】の洗脳を揺るがす事が出来たのは、以前に夢の中で会ったからなのだが。そして、冥の言葉がきっかけになっただけなので、魔力は全く使っていない。


「……私は、やはり何者かの能力で創られた存在が、雨宮冥に憑いているのだと考えます。私の人工精霊を一瞬で消す程の強力な存在を隠し通すには、そうとしか考えられません」

 そう述べた守屋の推測は、実はあっている。ただ、その『何者か』がコードネーム『アンデッド』、この世界には既に存在しない転生者だとは、想像もしなかったが。


「やはり、転生者か。何者かが私の企みに気がつき、ジョゼフ達を味方に引き込んで雨宮冥を守っている。だが、雨宮寛人と成美にまで秘密にしているのは何故だ?

 情報が少なすぎる。今の段階で絞り込むのは不可能だな」


 生き残っている転生者はまだまだ多い。そして、神から与えられた能力は成長させる事が出来る。その結果、六道達が把握していない能力の応用法を編み出したとしても、不思議ではない。


 だから、六道は『何者か』の正体を探るのをいったん諦めた。冥を守っている以上、計画の障害になるのは避けられない。だが、障害としての大きさは雨宮寛人以下だと判断したためだ。


「それよりも、問題は研究の方だな。何故、死属性の魔力が発生しない?」

 彼が視線を落としたのは、これまで行ってきた膨大な実験の結果が記されたデータだ。しかし、そこにあるのは失敗例だけだ。


 『アンデッド』を捕えていた軍事国家の極秘研究所では、死属性を「他の全ての属性に適性がない人間が、死属性の適性を持つ」と考えて研究を続けていた。

 世界中から魔術の適性を持たないとされる人間のサンプルを集めたが、失敗。どのサンプルも、持たないと評しても過言ではない程だったが、実際には僅かに適性があった。常人を1とするのなら、その百分の一ほどだったが。


 極秘研究所の研究員たちは、次に適性を持たない人間を人工的に創ろうとした。だが、これも失敗した。そもそも、当時の技術では無から人間を作る事は出来ず、既存の人間をコピーしたクローンでは属性の適性を抑える事は出来ても、無にすることは出来なかった。


 そして最後の手段として、『アンデッド』のクローンや、人工的に創りだした子孫、彼を売り渡した両親やその親類等を調べ尽くしたが、全くの無意味だった。

 そもそも、人に備わる属性の適性が何によって決定されるのか、今現在の『オリジン』の技術力でも判明していないのだ。


 それからは極秘研究所の研究員たちの研究は、迷走し始める。後に『第八の導き』となった者達が実験を施されたのも、この頃だ。


 しかし、六道は人間が持つ属性の適性が何によって決まるのか、知っていた。

「この世界の人間が持つ属性の適性は、魂によって決定される。DNAを幾ら観察しても、全くの無意味だ。

 だが、『第八の導き』のように、不完全だが後天的に死属性の適性を得た例もある。私はそれからヒントを得た。彼女達は、条件を一部満たしていたのだと」


「ええ、以前説明を受けました。六道さんが死属性の力を得るには、死ななければならないと。

 『第八の導き』が死属性魔術を使えるようになったのは、奴らが属性の適性を後天的に失い、さらに不完全だが死んでいたからだと」


 脳死状態だったイシス、心臓が動いていなかったワルキューレ、成長が止まっていたプルートー、肉体を殆ど失っていたベルセルクと、完全に失っていたシェイド……他のメンバーも、多かれ少なかれ完全に生きているとは言い難い状態だった。


 そこに『アンデッド』が死属性の魔力を与えた事で、彼女達に死属性の適性が根付いたのだ。


「そうだ。だから、私はこう考えた。属性の適性を後天的に失い、肉体が完全に死んでいる状態なら、完全な死属性の魔力を手に入れる事が出来る、と」


 勿論、そのままでは魔力を得たとしてもただの死体。動けるとしても、アンデッドだ。魔力が定着したら心肺蘇生を施し、生き返らなければ成功ではない。


「だが、何かが足りない。適性の除去技術は、極秘研究所で既に完成している。体外に出た魂を捕らえ、元の肉体に再び戻す技術も、仮死状態ではない完全な死亡状態でありながら、蘇生を可能にする技術も完成した。

 しかし……それでも出来上がるのは『第八の導き』の劣化コピー、不完全な出来損ないか、毛色の変わったアンデッドばかり」


 何と六道聖は、この世界の人間が不可能だった魂を保管し、肉体に戻す技術を開発していた。

 もし彼がその技術を公表し、医療分野に活かしていたら、この世界の医科学と治癒魔術は大きな躍進を遂げただろう。


 将来的には、事故や殺人、自殺、そして老衰以外では人が死なない社会の実現すら見えてくる。今世紀で最も偉大な発見と賞賛され、六道聖の名は歴史に深く刻まれえるだろう。


 だが、その程度では六道聖の望みを叶えるにはとても足りない。彼にとっては、野望を遂げるために必要な技術の一つでしかないのだ。

 書類には、サンプルが不完全な死属性魔術を獲得した実験例も何件か記載されていた。触れた物を腐らせる術、対象の水分を直接奪う術……他にも、『第八の導き』のメンバーと同じ術を獲得した者。


 サンプル達が不完全な死属性魔術しか使えないのは、何故なのか。考える六道に、守屋が声をかけた。

「……やはり、転生者とこの世界の人間では何かが違うのではないでしょうか? 丁度【メタモル】も使い物にならなくなりましたし、最後に研究に役立ててはいかがでしょう?」


「いや、それでは雨宮冥の例が説明できない。彼女の両親は転生者だが、彼女自身はこの世界の人間だ。無駄な実験で貴重なサンプルを失うのは……。

 待て、雨宮冥と『アンデッド』の共通点は何だ? そこに、私が死属性の魔力を手に入れる鍵があるのではないか?」


 はっとした六道は、さらに思考を深める。

 死属性の魔力を得る条件になり得る共通点があるとしたら、一つしか思いつかない。しかし、それを今から確認する事はプルートーと【ウルズ】が死んでいるため、出来ない。


 だが、もしこの推測が正しければ――。


「よし、【メタモル】で実験を行う。その結果次第で、計画を進めるが……時間がかかるかもしれない。場合によっては、私は今のこの身体を捨てる必要がある」


 『オリジン』世界の存亡を左右する脅威は、遂に動き出したのだった。

2月18日に十二章キャラクター紹介上。22日にキャラクター紹介下を投稿する予定です。その後、十三章のプロットの練り直しのため一度お休みを頂き、3月2日に十三章を投稿する予定です。

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