二百九十六話 万能魔殿と砕ける角笛
12月21日にコミック版四度目は嫌な死属性魔術師の一巻が発売されます! もし書店で見かけた場合は手にとっていただけたら幸いです。
ヴァンダルー達と亜神がぶつかり合い、勇ましい角笛と太鼓の音色が響くこの戦場で、最も忙しいのはクノッヘンとゾゾガンテ、レギオンかもしれない。
『今の内だ! 船を潰せ!』
『偽物でも構うものか!』
幾柱かの亜神と魔物の何割かが、クワトロ号を含めた船団に狙いを定めたからだ。
空を飛ぶ船はヴァンダルー達にとって拠点であると同時に移動手段……という程、重要な存在でない事は、流石にゴーン達も気が付いていた。
だが、偽クワトロ号は全て攻撃手段であり、自分達に大ダメージを与える兵器その物でもある。
そのため、ブラテオがヴァンダルーを引きつけているだけではなく、他の敵も船団から離れた今の内に出来るだけ沈めておこうと考えたのだ。
『ギイイイイイイイ!』
勿論、クワトロ号や残り二隻になった偽クワトロ号もただの的ではない。砲弾で反撃しながら回避行動をとり、亜神達の魔術やブレスを避けていた。
『おおおおおおん!』
そして、避けられない攻撃や接近しようとする素早い魔物は、クノッヘンがその身で防いでいた。
『クソっ、何という堅牢さだ! 炎も雷も大して効かん! それに、あの骨の群れは何体いるのだ!?』
【遠隔操作】から覚醒した【骨群操作】スキルを持つクノッヘンは、骨の群体である身体をいくつかに分けていた。
骨人とルチリアーノの救援に向かった本体に、クワトロ号と偽クワトロ号の護衛に残った分身が三体。どれも全て全長百メートルの亜神達と同じくらいの体積がある。
「ギャアアアアアアア!」
巻き込まれた魔物が悲鳴をあげながら骨の嵐にすり潰され、クノッヘンの一部となった。最近、【解体】スキルを覚えたらしく、自力で骨を取り出すまでの速度と丁寧さが向上している。
『おお、助かったぞ、クノッヘン殿!』
ゾゾガンテはそう礼を言いながら、枝に連なる無数の眼球に似た果実から黒い光線を放ち、亜神達を牽制する。
『おおおん?』
『我は接近戦が苦手なのだ! 見た目より力も防御力もない! そして、それは奴等も知っている! 何せ、十万年前は共に魔王と戦ったのだからな!』
『闇の森の邪神』ゾゾガンテは、『五悪龍神』フィディルグと同じく、魔王軍では弱い部類だった神だ。外見は黒い大木で、枝に眼球が果実のようになっているという禍々しいもので、植物型の魔物のように生命力も旺盛に見える。
実際、生命力は旺盛だ。しかし、神の中では力や防御力は弱い方で肉弾戦は不得意だった。それは、完全復活して作ったこの本体とほぼ同じ寄り代でも同じ事だ。
『下級邪神だからと言って油断するな! 距離を取れ!』
『あのフィディルグのようにパワーアップするかもしれん。前衛は魔物共に任せろ!』
『くっ、奴風情にここまで警戒せねばならぬとは! 魔王の威を借りる狐め!』
だが、ペリア防衛隊との戦いで姿を現した『五悪龍神』フィディルグが、ヴァンダルーの御使いを寄り代に降ろして劇的なパワーアップを遂げ、一撃で亜神を倒したという情報が此処まで伝わっていた。
そのため、フィディルグと同じように復活したゾゾガンテに対しても油断するような事はなく、距離を取った複数の亜神が彼を狙っている。
結果的に、背後の船団を守る事にも繋がっているのだが。
『おのれ! 好き放題言いおってからに! いくら本当の事とは言え許せん!』
散々な言われように、ゾゾガンテの苛立ちは募っていく。
『おおおおん』
『分かっている! 挑発に乗って近づくような真似はせぬとも! それ、パスだ!』
だが、ゾゾガンテはブラテオのように短慮ではなかった。近づいて来たサタンジャイアントより二回り以上小さな黒いジャイアントを、伸ばした根で絡めとってクノッヘンの骨の渦に投げ入れる。
魔王の大陸の濃厚な魔素で狂い、実体化した精霊……仮名イビルスピリットバーサーカーには、黒い光線を集中させて消滅させる。
『ハート戦士団』達が倒した前後合わせて八本の脚を持つ熊の魔物……仮名サタニックグリズリーには、故意に根や蔓を傷つけさせて乾くとアダマンタイトのように硬くなる樹液を浴びせ、身動きが取れなくなったところを枝で打ちあげ、偽クワトロ号の砲撃の雨に晒して殺した。
巨大な、全身を鱗に覆われた単眼の虎のような正体不明の魔物……タロスヘイム周辺の魔境やダンジョンに生息するラプトルキャットの上位種と思われる魔物には、目玉であり果実でもある実を投げつけ、爆発させて追い散らした。
どの魔物もランク10以上であり、本来ならランク13相当のゾゾガンテなら確実に勝てる相手だ。一対一ならだが。
『おぉん!』
『うむ、我だけならば数に押されて捌ききれず接近を許し、最後は後衛の亜神共にやられていた事だろう』
確実に勝てるが、それは一瞬で倒せると言う意味ではない。ゾゾガンテはフィディルグよりも防御と耐久力、そして何より再生力に優れた神だが、その分フィディルグより攻撃力と速さで劣っている。
その傾向は、ヴァンダルーの御使いを寄り代に降ろした今でも変わらない。もし、御使いを寄り代に降ろしておらず、偽クワトロ号やクノッヘンの援護を得ていなければ、彼が言ったように早々に敗れていただろう。
実際、魔物を倒している間にも亜神達の遠距離攻撃は続いている。一撃や二撃ならすぐ再生できるが、クノッヘンや偽クワトロ号の援護がなければ、再生する間もなく海の藻屑にされていたかもしれない。
それを考えると、調子に乗って全力で戦い、敵の警戒度を上限まで上げたフィディルグに対して、『帰ったら殴ろう』と思うゾゾガンテだった。
『おおん、おおおおん、おおおおおおん』
『うむ……このまま時間を稼ぎ、次に繋げる。分かっておるとも』
『おおおーん』
『そうだな、そう考えれば、奴等に憐れみすら覚えると言うものだ』
作戦の第二段階になれば、あの亜神達も本気を出したヴァンダルーに屠られて肉は食材に、骨は出汁を取った後はクノッヘンの一部となるのだ。憎む価値はない。
ちなみに、彼がクノッヘンと意思疎通が出来ているのは、彼の憑代に降ろしたヴァンダルーの御使いが同時通訳しているためである。
残り三隻の船団を狙うのはゾゾガンテとクノッヘンが相手をしている亜神だけではない。
ブラテオ同様、仇討に燃える龍、『大海龍神』マドローザ率いる一隊も船団を狙っていた。これは、『岩の巨人』ゴーンの指示なので、ブラテオとは違い、独断専行はしていないが。
『これ以上、自爆やあの血の霧を出させる訳にはいきません! 何としても落とすのです!』
マドローザが号令と共に、圧縮された水のブレスを吐く。それに続いて、『氷の巨人』ムガンや、『蟹の獣王』ガビルデス、『光龍神』リュラリュースがそれぞれ攻撃を加える。
それに続いて、各々が背中に乗せて来た魔物達を船団に向かって嗾ける。魔物を己の背に乗せるのは抵抗を覚えたが、ゾゾガンテやクノッヘンを掻い潜って船団に攻撃を仕掛けるには魔物達の機動力が不足しており、仕方がなかった。
『ギィィィィィィ!』
『『ぎぃぃぃぃぃぃ!』』
本物のクワトロ号と、見た目は同じだが実際には使い魔王が操作している偽クワトロ号が回避運動を取る。
だが、回避し続けるのは無理だと判断したのか、船団の内一隻が強引な方向転換をして他の二隻の盾になる。
圧縮された水や氷山、酸性の泡や光のブレスがその側面に炸裂した。
まずは一隻。そう思ったマドローザだったが、光や水飛沫の向こうで偽クワトロ号が健在である事に気が付くと、『馬鹿な!』と声をあげた。
『何故、我々の攻撃を受けて沈まない!? これまでの偽物なら、簡単に砕けるか、爆発したはず!』
『マドローザ殿! あの船の側面を見てください! あれはオリハルコンです!』
ムガンが指差した偽クワトロ号の側面は、木で出来た表側が砕け、オリハルコンで出来た本当の姿が露わになっていた。
『念のために作っておいた、鉄鋼船ならぬオリハルコン船を披露する事になるとは思いませんでした』
ペリア防衛隊との戦闘でオリハルコンゴーレムを鹵獲した事で手に入った、大量のオリハルコン。【魔王の欠片】に対抗できる神造金属の一部を、ヴァンダルーは偽クワトロ号の内一隻の装甲に使ったのだ。
作戦に参加している仲間の武具は、既に【魔王の欠片】で揃えている。そのため、折角だからと他の船の盾にするための船の造船に使ったのだが、大成功だった。
『これでは、遠距離からの攻撃が通じない!』
オリハルコンは、魔力を弾く性質だけではなく、優れた硬度、そして弾性と形状記憶の性質を持つ。そのため、マドローザ達の魔力による攻撃は殆ど効かない。そして、僅かに与えた傷や歪みもオリハルコンの弾性と形状記憶が元に戻してしまう。
『こうなれば、懐に飛び込むしかない!』
攻撃を多少受ける覚悟で接近し、直接攻撃するしかないとマドローザは思った。オリハルコンといえど、無敵ではない。亜神の中でも上から数えた方が早い実力の持ち主である彼女が肉弾戦に持ちこめば、あの船を沈める事は不可能ではない。
『待て! あのオリハルコン製の船に固執するな!』
その時、角笛の音に込められた声がマドローザの耳朶を打った。
『っ!?』
『目標は、自爆や【貪血】が仕掛けられた船の破壊だ。オリハルコン製の船は、それらを守るための盾だ。盾を壊す事に全力を注いでどうする』
『……ムガンは魔物と共にあのオリハルコン船を釘づけにしなさい。残りは、他の船を狙います。行くぞ!』
冷静さを取り戻したマドローザは、亜神達を指揮して再び船団の排除を試みる。オリハルコン製の偽クワトロ号はそれを防ごうとするが、彼女の指示通り、氷の鎧と武具を持った真なる巨人ムガンと、配下の魔物がそれを牽制し、自由にはさせない。
『おや、てっきり、こちらに突っ込んで来るかと思ったのに』
『オリハルコンで出来ている分、装甲が硬すぎて自爆できない事ぐらいは見抜くと思いましたからね』
偽クワトロ号を動かす使い魔王に宿るヴァンダルーの分身達は、マドローザがこれまでよりも指揮官らしく立ち回っている事に違和感を覚えた。
すぐに【超速思考】スキルを起動して、【群体思考】による会議を始める。
ヴァンダルーは最初、マドローザがこれまでの経験を反省して学び、群れる事が少ない龍としての殻を破って現場指揮官としての成長を遂げたのかもしれないと思った。しかし、それにしては、彼女の様子が妙だ。それに、だとすると、ブラテオがあのままなのもおかしい。マドローザが成長したのなら、ゴーンと協力してブラテオを抑えこむ気がする。
では、どうしたのかと考えると……ふと、気が付いた。
(さっき……マドローザが何か言いかけた直後、角笛の音が不自然に変わった気がします)
以前のヴァンダルーなら、戦場に響く角笛や太鼓の音色に深く注目する事はなかっただろう。ただ、『角笛の神』と『陣太鼓の神』が、ゴーン達を援護しているのだろうと思うだけだ。
(それまでの曲調から考えると、少し不自然でしたね)
(誤魔化していましたが、不協和音でした。これまでの音色を思い出して比べると、明らかにおかしい)
(そう言えば、ブラテオが飛び出す前にも曲が変化したような気がします)
しかし、今のヴァンダルーは自身でも楽器を演奏し、カナコからダンスも習った。それで才能が開花した、なんて事はない。元々彼に、音楽の才能は備わっていないのだから。
しかし、彼には後天的に獲得した【完全記録術】がある。感覚器官が捉えたあらゆる事を正確に記録する事が出来る彼は、疑似的な絶対音感を持っているに等しい。
所詮は疑似的なものだから、本当の絶対音感に比べれば頼りないが……今回は違和感を覚える事が出来た。
(『角笛の神』シリウスがゴーンに代わって指揮を執っているのなら、面倒ですね)
(作戦遂行に致命的な問題……という程ではない気がしますが、だからと言って、放置すると足元を掬われそうですし)
(かと言って、隠れているから何処にいるか分からない。前のように、適当に【界穿滅虚砲】で薙ぎ払うのは大雑把過ぎますし……調べてもらいましょう)
脳内会議を終えたヴァンダルーは、ブラテオと戦いながら、キンバリーと空間属性のゴーストに、『角笛の神』シリウスの位置を探るよう指示を出した。
「……【魂格滅闘術】、【肉怪】」
勿論、それを敵に気がつかれないよう激戦を繰り広げながら。【具現化】した魂の鎧に包まれ、膨張した拳を受けたブラテオが、苦しげに呻く。
『貴様っ……儂の反撃を恐れんのか!?』
「ええ、すぐ生えてきますからね」
ヴァンダルーの腕には、ブラテオの青銅の手甲に包まれた拳が薄く延ばされた魂の装甲を破って突き刺さっている。しかも、体内に直接ブラテオの電撃が流され、焼かれている。
だが、無意味だ。
『貴様っ! 儂に攻撃する前に腕を切り落としていたのか!?』
ヴァンダルーは【肉怪】を発動する前に、腕を切り落としていたのだ。【群体操作】で操っている腕にカウンターを仕掛けられても、既に繋がっていない以上、ヴァンダルーは痛くも痒くもない。
後で表面を覆っている魂を回収すればいいだけだ。
収縮した腕から黒い魂が剥がれ、ヴァンダルーの新しい腕に装着される。それを見たブラテオの瞳に怒りと焦りが浮かび、魔力が高まる。だが、角笛が一際大きく響く。
『チッ!』
すると、ブラテオは舌打ちをして、これまで通り雷撃を放ち、カウンターに備えて拳や蹴りの大技は控える。
(さっき、明らかに『こうなったら大技で倒すしかない』と考えていましたよね)
(それなのに、俺を引きつけておくために今まで通りの攻撃を続けている。この忍耐強さは異常ですね)
(やはり、角笛の音で指示を出しているのでしょう。出来れば、潰しておきたいですが……)
「ヴァンダルーよ、私もキンバリー達に協力すれば迅速に発見する事が可能ですが、その分、素材の回収に手が回らなくなります。如何しましょう?」
「……頼みます。あまり時間をかけると、俺は平気ですがゾゾガンテとサイモン達が辛いでしょうし」
ゾゾガンテは精神的、サイモン達は体力的な問題がある。作戦を開始する前は、きついようならサイモン達はクワトロ号に戻すつもりだったが……船団の様子を見るとその余裕はなさそうだ。
マドローザとブラテオが冷静なだけで、致命的な事態ではないが、作戦の難易度が数段上がっていた。
「畏まりました。暫し、失礼します」
背後からグファドガーンの気配が消えた。
オリハルコン船を除いた残り二隻の船団に、配下と共に攻撃を仕掛けるマドローザは甲板に人影があるのに……その違いに気が付いた。
どの船の甲板にも、人影がある。それから、あの中に自爆を目的にした偽物は含まれていないのかと思った。
明らかに囮だったラダテルゾンビを除いて、ヴァンダルーは仲間とした者を使い捨てない。犠牲にしない事を分かっていたからだ。
(つまり、自爆以外の目的のために作られた偽物と本物が一隻ずつ。なら、本物はどれだ?)
マドローザ達の目的はこれ以上の被害を防ぐため、偽クワトロ号が自爆する前に落とす事だ。だが、自爆する船が無いのなら、本物のクワトロ号を狙うべきだ。
偽クワトロ号を排除しようとして、最後の一隻もオリハルコン船だったら、ただの時間と魔力の無駄だ。なら当然、本物のクワトロ号を狙うべきだろう。
それを見分ける手がかりは、甲板にある人影だ。
(片方はレギオンと、海賊や船乗りの姿をしたスケルトン。もう片方は、海賊や船乗りの姿をしたスケルトンのみ。……本物は後者だ!)
マドローザは、レギオンを構成する人格の一つであるエレシュキガルの【カウンター】の能力について知っている。そのため、前者を【カウンター】を発動させる事を目的とした偽物だと推測した。
乗り合わせているアンデッドは、クノッヘンの分身だとしたら、配下を使い捨てる事にはならない。
『私に合わせなさい!』
そう命じながら、マドローザは本物と確信した方のクワトロ号に魔術を乱射しながら、多少の砲撃は受ける覚悟で接近を試みる。
『マ、マドローザ殿!? 止めろ、リュラリュース!』
『無理だ! 彼女に合わせるしかない!』
ガビルデスとリュラリュースは、突然動きを変えたマドローザに驚き焦った。しかし結局彼女の言葉に従うしかないと、角笛の音に押されるようにして酸性の泡や光のブレスを吐き、残った魔物を突撃させる。
咄嗟にオリハルコン船が間に入ろうとするが、ムガンが創りだした氷山が行く手を遮り、動きを封じた。
砲弾の多くはリュラリュースの速度と命中精度重視の光のブレスで撃ち落とされるが、それでも数発がマドローザの身体に直撃した。
『グオオオオオオオ!』
苦痛を怒りに変えて、至近距離から咆哮と共にブレスを放つ。そしてバランスを崩した船体に向けて、尾による渾身の一撃を放った。
十万年前の魔王軍との戦いでは、何柱もの悪神を退けた連続技だ。これが決まれば、オリハルコンゴーレムでもただでは済まない。
そんな一撃が船に直撃する直前に、船から船長帽を被ったスケルトンが一体飛び出した。我が身を盾にして尾の一撃を防ごうとしたのだろうか?
無駄な事をとマドローザが思った瞬間、船長帽から肉片が零れ落ち、巨大化。そして女の姿になった。
「引っかかったな」
そして女は……エレシュキガルはマドローザの尻尾の一撃を受けて生々しい音をさせて無残に潰れた。
『ぐげごぶっ!? がはあぁぁぁ……』
それを掻き消す大音量で骨が砕け、内臓が潰れる音を響かせたマドローザが、顔中の穴から血を流しながら、海に向かって落ちて行く。
エレシュキガルは、本物のクワトロ号にいるレギオンから分離して【サイズ変更】スキルを使い、船長帽の中に隠れていたのだ。もしかしたら来るかもしれない亜神達の、それも必殺の一撃を【カウンター】で返すために。
『おおーん』
ただ、乗り合わせていたアンデッド船員は全てクノッヘンの分身なので、マドローザの推測は完全に間違っていた訳ではない。
偽物と本物が逆だっただけで。
『マドローザ殿!』
ガビルデスが見かけよりも俊敏な横移動でマドローザを助けに行き、リュラリュースがブレスを連打してクワトロ号と偽クワトロ号を牽制する。
『あれ、生かしておかないといけない奴よね? 大丈夫だと思う?』
『瀕死の重傷っぽいけど、仕方がないと思うよ。エレシュキガルが【カウンター】しなかったら、偽クワトロ号が至近距離で爆発したはずだから』
『勇猛と蛮勇を履き違えてはいけないと言う事だな!』
レギオンを構成する人格のプルートーとシェイド、ワルキューレがそう話している間にも、角笛の音が何度も響いた。
どうやら、ゴーンとシリウスもマドローザの危機に動揺しているようだ。
『ターゲットが隠れている場所が分かりやしたぜ!』
『いつでも……繋げられます。お任せを』
そして、キンバリー達はその角笛の音から、シリウスが隠れている疑似神域の場所を特定する事に成功した。
「では、奴を滅ぼして撤退しましょうか」
ヴァンダルーが魔術を発動するために、魔力を集中させる。
『させぬ!』
それに気が付いたブラテオが、その隙を突いて必殺の一撃を放った。電撃によって自らの筋力や神経の働きを強引に強化した、最速の拳だ。
ヴァンダルーは音速の壁ごと打ち砕くブラテオの拳を正面から受け、踏みとどまる事も出来ず吹き飛んだ。
「【界穿滅虚砲】」
だが、そのブラテオの背後で神々にすら滅びをもたらす漆黒の光線が放たれた。
『なっ!まさか、切り落とした腕を使ったのか!?』
ブラテオのカウンターを防ぐために切り落としていた腕。それをヴァンダルーは【群体操作】で操って再生させ、リサイクルしたのである。
そして【界穿滅虚砲】は、軌道上に現れた【転移門】を潜って方向を修正。
『がっ!? グアアアアアアアアア! あ、後は頼む――』
何かが砕ける音と断末魔の悲鳴が響き、角笛の音は途絶えた。
――――――――――――――――――――――――
・名前:クノッヘン
・二つ名:【万骨殿】 【コンサート会場】
・ランク:14
・種族:ボーンパンデモニウムギガント
・レベル:85
・パッシブスキル
闇視
剛力:10Lv(UP!)
霊体:10Lv
骨体精密操作:5Lv(UP!)
物理耐性:10Lv
吸収超回復(骨):1Lv(吸収回復(骨)から覚醒!)
城塞形態:10Lv(UP!)
能力値強化:城塞形態:10Lv(UP!)
能力値強化:創造主:10Lv(UP!)
自己強化:導き:7Lv(UP!)
魔術耐性:3Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:2Lv
ブレス【毒】:10Lv
高速飛行:8Lv(UP!)
射出:10Lv
並列思考:10Lv
建築:5Lv(UP!)
楽器演奏:4Lv(UP!)
舞踏:5Lv(UP!)
御使い降魔:1Lv(NEW!)
解体:3Lv(NEW!)
サイズ変更:2Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ヴァンダルーの加護
骨群操作:3Lv
群体:2Lv(分体から覚醒!)
ヴィダの加護(NEW!)
・名前:クワトロ
・二つ名:【絶望の船】(NEW!)
・ランク:11
・種族:フォビアゴーストウォーバトルシップ
・レベル:88
・パッシブスキル
特殊五感
物理耐性:10Lv(UP!)
精神汚染:7Lv
能力値強化:被操船:10Lv(UP!)
能力値強化:創造主:8Lv(UP!)
自己強化:水上:8Lv(UP!)
自己強化:導き:7Lv(UP!)
衝撃耐性:7Lv(UP!)
怪力:7Lv(UP!)
空中航行:6Lv(UP!)
水中航行:3Lv(UP!)
高速再生:3Lv(UP!)
水属性耐性:5Lv(UP!)
自己強化:空中:3Lv(NEW!)
空間拡張:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
限界超越:2Lv(限界突破から覚醒!)
高速航行:9Lv(UP!)
射出:10Lv(UP!)
叫喚:8Lv(UP!)
恐怖のオーラ:10Lv(UP!)
砲術:10Lv(UP!)
忍び足:1Lv
御使い降魔:3Lv(UP!)
精密操船:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ヴァンダルーの加護
●魔物解説:ボーンパンデモニウムギガント ルチリアーノ著
全ての質量を合わせると、『太陽の巨人』タロスも寛げるワンルームになる事が出来る、恐らく世界一巨大なアンデッドである。
【建築】スキルのレベルが上がったお蔭か、室内に設置する家具やインテリアの質とデザインも(全て骨製だが)向上している。
そして【サイズ変更】を覚えた事で小さくなる事も可能になり、お蔭で偽クワトロ号の中に入って作戦に参加する事も出来た。
ちなみに戦闘力だが……人間社会の並の軍相手なら、前に進むだけで潰せるだろう。高速で空を飛ぶ山と戦うようなものだ。小山を割るぐらいならA級冒険者なら可能だが……【物理耐性】が10レベルの骨の山を一撃で全て塵にするのは、師匠でも無理だろう。何回か、回数を分ければやってしまいそうだが。
●魔物解説:フォビアゴーストウォーバトルシップ ルチリアーノ著
ランク8のテラーゴーストキメラバトルシップから、ランク9のフォビアゴーストバトルシップ、ランク10のフォビアゴーストウォーシップを経て至った魔物。
亜神との戦闘を経験したためか、短期間で目覚ましい成長を遂げている。元無機物とは思えない進化だ。
さらに、【空間拡張】スキルを獲得した事で、船内に大量の荷物や人員を乗せる事が可能となっている。
その存在を知れば、サムの次にどの国でも欲しがる輸送手段だろう。……サムと違って、アンデッドの船員付きなので、アミッド帝国は欲しがらないだろうが。
ちなみに、二つ名の『絶望の船』はボティンとペリアの防衛隊が付けたものと思われる。まあ、気持ちは分からなくもない。自爆する偽クワトロ号も、見た目はクワトロ号と同じ船だから。
●スキル解説:全能力値強化 ルチリアーノ著
能力値の内、力、敏捷、体力、知力を強化するスキル。全能力値と言いながら、生命力と魔力は含まれていない。
S級冒険者に至る者の多くが、このスキルを獲得しているらしい。
ちなみに、師匠は【剛力】スキルを保持したままこのスキルを獲得したが……そう言う事もあるのだと納得するしかないだろう。
12月12日次話を投稿する予定です。
誤字報告ありがとうございます。沢山報告を頂いたのですが、件数が二千件を超えまして(汗 ……誠に申し訳ありませんが、反映するまで時間がかかると思われます。どうかご了承ください。




