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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百九十一話 戦後の一時と共食い

 あれから何度仮の死を体験したか、もう数えてもいない。あと一歩深く斬っていれば、もっと早く動いていれば。そんな失敗を何度も繰り返した。

 それだけ『堕ちた勇者』ザッカートや吸血鬼の真祖、魔王と激戦を繰り広げた『獣神』ガンパプリオや『巨人神』ゼーノ、『龍皇神』マルドゥークは強いなんてレベルではなかった。


 そして魔王グドゥラニスにはまだ一度も勝てていない。

「これでまだ四層……グドゥラニスを含めると、五層残っているのだから、先は遠いな」

 『五色の刃』のリーダー、ハインツは、本来の管理者である『記録の神』キュラトスが消滅した事で、無人となった街で溜め息をついた。


「いや、かなりのハイペースだろ。攻略できないかもしれないって、神様に心配されたのに、もう残り五層なんだから」

 『五色の刃』の前衛の一人、格闘士のジェニファーがそうリーダーにツッコミを入れた。


 キュラトスの捨て身の行動によって崩壊は免れたものの、この『アルダの試練のダンジョン』の約三分の一の階層はヴァンダルーによって破壊され、使用できなくなっていた。

 そのためジェニファーたち『五色の刃』は、中層までしか進んでいなかったのに、残り十層というダンジョンでも深い場所から再スタートする事になってしまった。


 その難易度は高い。敵として現れるのは、マルドゥークやゼーノといった大神や、魔王グドゥラニス(第一形態)だ。キュラトスが消滅したことで、コピーの行動が単調になったため、ハインツ達は数え切れないほど敗北を繰り返し行動パターンを学んで何とか倒してきたが……残り四層で出て来るのがどんな敵か、考えたくもない。

 『法命神』アルダが心配したのも納得の難易度だ。


 仮想の死とはいえ、痛みや感覚はそのままなので、精神的に折れてしまっても不思議ではない。

「そうですね。復帰したあなたとエドガーがいなければ、そうそうに諦めていたかもしれません」

 ヴァンダルーに魂を傷つけられた二人は、特にエドガーは再び戦えるようになるかも分からない状態だった。


 しかしハインツはダイアナが信仰する『眠りの女神』ミルの、そしてエドガーは名も明かされていない神の手によって、想定されていたよりもずっと速く、そして完璧な状態で復帰する事が出来た。

「ああ、そうだな。特にエドガーには驚いたよ」

「前と同じどころか、より強くなって帰って来るとは思わなかった」


 だが、エドガーの成長は驚異的だった。彼の魂と移植された英霊ルークが乗り移ったかのような鋭い動きに、技の切れ。まるで常に【英霊降臨】を発動させているかのようだった。ハインツ達が残り五層まで進めたのも、エドガーが急激に実力を高めたのが大きい。


「確かにそうだけど、無理は禁物よ」

 『五色の刃』の盾職、女ドワーフのデライザがそう言って釘を刺した。

「エドガーは、まだ具合が悪いようだから。魂の治療がどう言うものなのか分からないけど、その分慎重にならないと」


 急激に成長したエドガーだが、彼女の言う通り謎の体調不良に悩まされていた。特に長時間戦った後は動悸や息切れ、頭痛や吐き気が酷くなり、動けなくなってしまうのだ。

 ダイアナの治癒魔術でも効果がなく、精神を落ち着かせる【鎮静】の魔術を使うと僅かに楽になるため、精神的な問題だと考えられた。


「それは……やっぱりトラウマのせいじゃないか? 結構酷い状態だったんだろ?」

 ヴァンダルーに魂が壊れる寸前まで嬲られ、かつての仲間であるマルティーナの姿をしたキュラトスに、このままでは魂が危険だからと介錯された。


 その経験がエドガーのトラウマとなっているのではないかとジェニファーは主張したが、ダイアナは首を横に振った。

「その可能性はあります。ですが、それなら私の魔術がもっと効果を発揮するはずなのです。我が神ミルは『眠りの女神』。人々に安寧をもたらし、心身を癒す女神なのですから」


 この世界で精神は、生命と密接な関係にあると解釈されている。そのため、精神に効果を及ぼす術が生命属性には存在する。

 ダイアナはそれらの術をエドガーに求められ、何度もかけていたが効果は薄かった。


「勿論、私の力不足かも知れませんが」

「いや、ダイアナの魔術は確かだ。やはり、精神ではなく魂の問題だろう」

 ハインツは目を伏せるダイアナにそう言って頷いた。エドガーと『断罪の神』ニルタークの英霊、ルークは【英霊降臨】が可能なくらい相性が良かったが、ルークの魂の欠片を移植して副作用が起きない訳はなかったという事だろう。


 普通ならそう考える。エドガーがその副作用を乗り越えてくれることを願い、仲間として彼を支えていくのがリーダーとしての務めだ。

(だが、試練を受けている時、エドガーが発する強すぎる殺気と……ヴァンダルーに似ているが異なる気配はいったい?)

 しかし、ハインツはエドガーから不審な気配を感じ取っていた。


 試練の為に出現したコピー、実体のある幻覚のようなものとは言え、戦いは実戦そのものだ。殺気を放つのはおかしくないし、ジェニファーやデライザ、そしてハインツ自身もそうしている。

 しかし、エドガーがコピーに放つ殺気はただ鋭く、冷たいだけではない。毒々しい恨みの念が含まれているようにハインツには感じられた。


 そして、戦闘が長引くと僅かに感じられるようになる、あの気配。


「答えがあるかは分からないが、アルダに訊ねてみよう。ダイアナも、ミルに祈ってみてくれ」

 神々も忙しい。地上では、ヴァンダルーとの戦いが激化しているらしい。ハインツ達にかかりきりになれないのだろう。

 そう思うが、魂については神々に訊ねるしかなかった。


 その頃エドガーは宿屋……正確には、十万年前の人間の街にあった宿屋を再現した建物の部屋で、一人横になっていた。

「うっぐ……ぅぅっ! まったく、酒も飲んでないのに、二日酔いになるのは、どう言う事だよっ」

 頭痛に吐き気が治まらないのに、首から下は絶好調。戦闘になるとその頭痛と吐き気も、嘘のように消えてすっきりした気分で戦う事が出来る。


 【状態異常耐性】スキルも、各種ポーションも、効果はない。ダイアナの魔術も、気休めにしかならない。戦闘だけがエドガーをこの症状から解放してくれていた。

 しかし、その戦闘に耽溺する訳にもいかないのを、エドガーは本能的に理解していた。


 戦闘を続ければ続ける程、相手が憎くなる。コピーでしかないのは理解しているし、敵として現れるのは、そもそも彼と面識のない神話の住人達だ。

 そのはずなのに、気がつけばエドガーはガンパプリオやマルドゥーク、ゼーノのコピーを忌々しいと感じている。特に、グドゥラニスのコピーを初めて見た時は、我を失いそうになった。


 エドガーの人生全体でもそうそうない程の、酷い侮辱を受けたような気分になり、憎悪で意識が塗りつぶされかけた。

 症状が出た直後は、移植された魂の欠片、ルークの記憶や感情が影響しているのかと思った。しかし、考えてみればルークは魔王グドゥラニスが倒されて数万年以上後に活躍した人物だ。


 神の眷属となったため、グドゥラニスを憎むのは理解できるが……それにしてはあの憎悪は生々し過ぎた。

(全く、どうなったんだ、俺は? だが、だんだんマシになっている。やっぱり、魂を砕かれかけたのに、すぐ元通り戦闘を……いや、より過酷な戦闘をしているせいか?)


 ジョブやスキルは魂に刻まれるのだと、子供の頃教わった覚えがあった。普段はそれを意識した事はないが、魂を砕かれかけた自分には、それが原因で何らかの副作用が起こっているのかもしれない。

 だが、その副作用も最初の頃に比べれば弱くなってきているとエドガーは感じていた。


「ニルターク達が副作用について何も言ってこないのも、そう言う事かもな。安静にリハビリさせる時間も余裕もないから、治るまで耐えろって」

 なら、これはヴァンダルーにやられた自分の弱さのせいだと思って、治るまで耐えるしかない。そうエドガーは思い込んだ。


 ヴァンダルーがペリアやボティンの防衛隊に甚大な被害を与えている事や、英雄候補のエディリアやカルロスを導いた事で、確かにアルダはエドガーを長期間休ませる時間も余裕もないのは事実だ。

 しかし、副作用は実際には軽くなるどころか進行していた。そして、ニルターク達神々は、エドガーの魂の状態を正確に把握しておらず、エドガーと同じように「副作用が起きているが、徐々に収まりつつあるようだ」としか考えていなかった。


 それだけ魔王グドゥラニスの魂の微細な欠片、粉を移植したロドコルテの行為は、常識から逸脱したものだった。

 そして、魔王グドゥラニスの魂の粉は、ロドコルテが考えるよりもずっと狡猾だったのである。




 エドガーが侵食されつつある頃、元英雄候補のカルロスは酒場のカウンターで水を飲んでいた。

 サイモンとナターニャに諭され、ようやく仲間達の声も届くようになった彼は、それまでの自分を戒めるように酒を断ち、鈍っていた身体を鍛え直していた。


 今日も、モークシーの町に数か月前に出現したばかりのB級ダンジョン、『ガレス古戦場』に挑戦し、最初の中ボスを倒して戻ってきた。

 加護が無くなり、レベルが上がり難くなったのを実感したが、それでもゆっくりと前に進んでいる。それで十分じゃないかと思いながら。


「親父、新しい水をくれ! 炒った豆も!」

 そうカルロスが注文するが、酒場の親父はカルロスを見向きもしない。酒場で水を注文しているのだから無理もないだろうが、つまみも注文しているのだから良いじゃないかと彼は思ったが、文句を言うのは止めた。


 もっと高いつまみと一緒に注文すれば、愛想もよくなるだろう。そう思って、今度はチーズの盛り合わせを頼もうとした時だった。

「調子は良さそうですね」

 何時の間にか、横の席にヴァンダルーが座っていた。しかし、カルロスは何故か驚きを覚えなかった。


「おう、信じられないくらいだぜ。身体も軽いし、気分は良いし、食欲はあるし」

「それは、単に深酒を止めたからでは?」

「はは、そうだな! でもお前さんとお前さんの弟子のお蔭だ。感謝してるよ」


 もし、あの時サイモンとナターニャが諭してくれなかったら。そう考えると、カルロスはゾッとする。何時まで酒浸りになっていたのか、何処まで落ちていたのか、分からない。

 自分に限ってと、思わないでもない。しかし、加護を失って酒浸りになっていたのは他ならない自分自身だ。

 仲間から愛想を尽かされ、冒険者を辞め、山賊の用心棒にまで落ちぶれる事になったかもしれない。


 そう考えると、サイモンとナターニャ、そして二人を連れて来たヴァンダルーは恩人だ。

「一杯奢りたいところだが……たしか、酒は飲まないんだよな?」

「ええ、母さんから成人するまでは止められているので」

「そうか、そいつは残念だ! 昼間だったら代わりに菓子でもって言えたんだが、この時間じゃやってないな」


 カルロスが外を見ると、もう真っ暗になっていた。カルロスが酒場に入って軽い夕食を取り始めたのは、ダンジョンから帰って来てからなので、何時の間にか時間が過ぎていたようだ。

 今は夏で、日が沈みきるのは遅いはずなのだが。


「じゃあ、代わりに俺が一杯奢りましょう」

「おいおい、なんでそうなるんだ……よ……」

 ヴァンダルーの言葉を冗談だと思ったカルロスが笑い飛ばし、視線を手元に戻すと……紅い液体で満たされたワイングラスが何時の間にか置かれていた。


 酒場の親父は顔を背けたまま、カルロスに一歩も近づいていないのに。

「わ、悪いな。酒を断ってるんだ。自分への戒めにしようと思ってさ」

 何かがおかしい。そう思いつつ、カルロスはグラスを自分から遠ざけようとした。しかし、彼がグラスを掴んだ瞬間、中身の紅い液体が沸騰したかのように泡立ち始めた。


「っ!? な、何なんだ!?」

「大丈夫ですよ、それはワインではありませんから」

「いや、そう言う事を言ってるんじゃ……うおわ!?」

 紅い液体が、グラスから溢れた。その時になってカルロスは液体が泡立っているのではなく、グラスの底から新たに湧いているのだと気がついた。


「お、おいっ? これは何なんだ!?」

 そう叫ぶカルロスの視線の先で、酒場の親父が溶け落ちた。まるで熟れすぎて腐った果物のように、酒場の親父の皮膚や服が破れ、内側から紅い液体が溢れる。


 気がつけばヴァンダルーの姿はなく、酒場は紅い液体に満ちていた。

「うわあああああああ!?」

 カルロスは悲鳴をあげながら逃げ出そうとしたが、紅い液体に呑みこまれてしまった。必死に泳ぎ、水面に出ようともがくが、身体は沈む一方だ。


 恐怖と共に下を見ると、黒い巨大な穴が見えた。そして本能的に、彼は「あれが出口だ」と気がついた。

(そうか、俺は酒場に居た訳でも、沈んでいる訳でもない。……最初から、穴の底にいたんだ)

 カルロスは紅い液体……ヴァンダルーに見送られて、水面へと落ちて行った。




「うわあああああああ!?」

 そして叫びながら目覚めた。モークシーの町では高級宿とされる宿屋のベッドから転げ落ちたカルロスは、夢から覚めた事に安堵しながら、立ち上がった。


「なんだったんだ、あの夢は?」

 悪夢、なのだろうか。叫び声をあげながら目覚めたのだから、悪夢だったのだろうとは思う。だが、カルロスにはあの夢が悪い夢だとは思えなかった。


 夢で見た事は全て克明に覚えているのに、不思議と恐怖感は覚えていない。逆に、訓練で気持ち良く汗を流した直後のような、すっきりとした気分だ。 それに、液体に飲みこまれた時に口に入ったあの液体はとても――。

「うわぁああああああ!?」

 その時、隣の部屋から叫び声が聞こえた。最初は、朝っぱらから騒いだ自分への怒鳴り声かと思った。しかし、響いた叫び声に意味がなかった事から、声の主は自分と同じように夢にうなされて目覚めたのだろうと気がついた。


「たしか、右隣の部屋はもうすぐB級に上がるとかなんとか言っていた……『岩鉄団』のロックって奴が泊まってたっけ?」

 夢ってのは移るのだろうか? そんな馬鹿な事を考えながら、カルロスは顔を洗うために部屋を出た。口の中に残る微かな、甘い味についてはその頃には忘れていた。


 そして自身のステータスに【■■■■■■の加護】が表示されるようになった事に気がついたのは、軽い朝食を食べた後だった。




《【料理】スキルのレベルが上がりました!》




「今朝、何故かカルロスやロック達に、『いっぱい』飲ませる夢を見ました」

 ペリア防衛隊と戦ってから一週間後。ヴァンダルーは魔大陸中央にある『炎と破壊の戦神』ザンタークの疑似神域で……つまりマグマの池がそこかしこにある野外の、巨大な白い球体の近くで皆の昼ごはんを作っていた。


『ほほぅ。そのカルロスやロックとは、見込みの有りそうな若者なのかの?』

『夢で奢るほどの仲か。しかし、ここやタロスヘイムでは見た覚えのない名だ』

『自分も覚えがないっスから、人間の名前じゃないっスかね?』

『カルロス、ロック……俺は聞き覚えがあるな。アルクレム、いや、モークシーの町だったか?』


 そして出来上がりを待っている面々が、ヴァンダルーの口から出た名前について思考を巡らせる。

 ちなみに、作っているのは『海栗の獣王』ドルステロのクリームにガルトランド産の茸を加えたパスタだ。

 解体したドルステロの体内には、何と卵巣だけではなく精巣もあった。ウニは種類にとって雌雄が分かれていたり、雌雄同体だったりするが、ドルステロは雌雄同体のウニだったようだ。


 これには雌だと思い込んでいたグファドガーンも驚いていたが、卵巣と精巣の量と質は彼女の言う通り、時期に関係無く栄養を溜めこみ、滋味豊かで大変美味だった。

 あまりに美味しかったのでルチリアーノがドルステロを保管し、ライフデッド化させるべきだと訴えたぐらいである。……もしかしたら、次の偽装工作に参加させられるのを防ぐため、自分のスケジュールを埋めるために提案したのかもしれないが。


 その分、グールアーティザンプリンセスにランクアップしてしまったタレアが、「是非次も連れて行って下さいまし!」と、悲壮な熱意を見せている。しかし、今の彼女を連れて行くと無茶をしそうなので、ヴァンダルーはしばらく様子を見るつもりだ。


 なお、ヴァンダルーによるとドルステロの魂も濃厚な味わいにクリームのようなまろやかな食感で、とても美味だったそうだ。

 今作っているパスタのソースは、その魂の味を再現し、ガルトランド料理で多用する茸と、龍と巨人のベーコンを合わせてさらなる高みを目指した一品である。通称、魂のウニクリームパスタ。


 そのソースを準備し、パスタを茹でながらヴァンダルーはティアマト達の質問に答えた。


「今はアルクレム公爵領の、モークシーの町に滞在している冒険者です。見込みは……カルロスの方はあるのでしょう。ロックの方は、よくわかりません」

『分からんのか? いっぱい飲ませた夢という事は、加護は与えたのじゃろう?』

 首を傾げるティアマトに、ヴァンダルーは瞬きもしないで答えた。


「はい。見込みの……才能の有無で加護を与える訳ではありませんから。そもそも、意識して与えられる訳ではありませんし」

 ヴァンダルーも相手の強さを見抜く目は……同程度の力量を持つ戦士や魔術師と比べるとかなり濁っているが、完全に節穴と言う訳でもない。


 ただ、才能があるかどうかはさっぱり分からなかった。そのため、ヴァンダルーは相手を助け、加護を与える際に相手の才能の有無を考慮しない。

 サイモンやナターニャを弟子にした時も、ファングやメーネとホーフを拾った時も、彼等の才能を見抜いたからではない。


 ただ、カルロスの方は『陽炎の神』ルビカンテが加護を与えていたから、才能や素質があるのだろうと思っただけだ。

『ん? では、どう言う理由で加護を与えているのだ? 汝は幾らでも加護を与えられる力があるが、無差別に撒いている訳ではないのだろう?

 意識して撒いている訳ではないと言っていたが、汝なら問題だと感じたら、何らかの方法で制御しようとするはずだ』


 タロスの妹、『月の巨人』ディアナが疑問に思った通り、ヴァンダルーも無差別に加護を撒いている訳ではない。顔見知りであっても、敵と見なしている者には加護は与えていない。

 だから、選考基準はある筈なのだが……。


「多分、人柄を見ているか……俺が後押ししたいと思うかどうかじゃないかと」

 ただ、夢の自分と起きている時の自分では感覚が異なるので、ヴァンダルー自身もはっきりした事は言えないのだった。


『ふむ……まあ、そんなものでよいのかもしれんな。導士である時点で、汝は導いた者全てに加護を与えているようなものであるし』

『あ、思い出した。あいつ等か。ロックの方は、確かに良い奴等だな。素質は人並みよりやや上ぐらいだが、性質が良い。良い後輩を育てられるだろう。

 カルロスの方は……俺の立場じゃ何も言えねぇな』


 火属性の大神の代理であり、冒険者ギルドの創設者として崇められている英雄神、ファーマウン・ゴルドは『岩鉄団』のロックと、元英雄候補のカルロスについて思い出したようだ。

 全ての冒険者ギルド支部に小さいが神像が置かれている彼でも、全ての冒険者を把握している訳ではない。


『何も言えないんスか?』

『ああ、言えない。俺は人間社会じゃ、アルダ勢力の神々の一柱って事になっているからな。ルビカンテも、俺の従属神だと思われている。まあ、ヴィダ派に大神代理のまま来たから、形式上その通りではあるんだが』


 つまり、ファーマウンの監督不行き届きなので、カルロスに合わせる顔がないという事である。

 勿論だが、彼がルビカンテの代わりに加護をカルロスに与えると言うのも、悪手だ。人間社会では未だにアルダ勢力の一員である彼が加護を与えれば、カルロスはアルダ教の信者のままになってしまう。


 神託で意志を伝えようにも、正確に伝わる保証はない。ルビカンテがカルロスをヴァンダルーに近づけさせまいとして、失敗したように。

「そう言えば、ファーマウンは英雄候補の見分けはつかないのですか?」

『……難しいな。その英雄候補が俺に祈る時、『最近、他の神の加護を貰いました』っと言うか、直接見ればわかるかもしれないが』


 ファーマウンの言う「直接見る」とは、神域で相手と顔を合わせる事ではなく、神域から地上を見れば分かると言う程度の意味だ。相手の英雄候補らしい人物には、気がつかれないで済む。

 しかし、バーンガイア大陸に彼が戻るという事は、アルダ勢力が彼の存在に気づくという事だ。


 最悪の場合、神域でファーマウン対アルダ勢力の戦いが勃発してしまうため、英雄候補どころではなくなってしまう。

「なるほど。ままならないものですね」

 そう言いながらヴァンダルーは茹であがったパスタを皿に盛り、ソースをかけていく。


「出来ましたよー」

『おお、これは美味そうじゃ!』

『ああ、食材に感謝して……いただこう!』

『……今更だが、お前等、共食いになるんじゃないか?』

『それがどうかしたっスか?』


 人間と同じサイズに縮んだティアマトとディアナ、そして五悪の杖を寄り代代わりに使っているフィディルグにファーマウンはそう指摘したが、相手にされなかった。

『『『『いただきます!』』』』

 そして夢中になってパスタを食べる神々。四柱の食事がある程度落ち着くのを待って、ヴァンダルーは訊ねた。


「……縮む事も出来たのですね」

『うむ。正確には縮んだのではなく、本体から意識の一部を切り離して、具現化しているのじゃがな』

『戦いの役には立たないし、私のような巨人がすると人と見分けがつかなくなるから、滅多な事ではやらないのだぞ』


 亜神も含めて、神々は神域の中でなら色々と融通が利くようだが、その融通をドルステロパスタを食べる為に利かせたというのが、ヴァンダルーとしては誇らしい。

 次のパスタを茹でながら、ヴァンダルーはティアマトに巨大な白い球体……自分と彼女の間に生まれた卵を見上げて尋ねた。


「ところで、第一子の名前は考えて来たのですが……あの卵の中で育っているのは、一人ですよね?」

 直径約十メートルの卵を産んだ、一度に百匹を産んだという伝説のあるティアマトは『そうじゃよ』と答えた。

『妾ぐらいになれば、時と場合によって選ぶ事も出来る。昔は数が必要じゃったから一度に何人も産んだが、今は違う。百匹も産んで、子育てに忙殺される訳にはいかんからの』


 かつてヴィダとの間に竜人を、そして魔人と鬼人の間に魔竜人や鬼竜人を生み出したティアマトは、それ以前は亜神である龍や真なる巨人の子を何度も産み落としている。その場合も双子や三つ子である場合が多かったが、流石に十に至る事はなかった。


「なるほど。子を神として産むか、人として産むかによって性質が変わるようですね。……名前を一つしか考えてこなかったので、安心しました。

 あ、動いた」

『元気に育っているようだな、汝とティアマトの子は。生まれるのはまだ先だが、きっと強い龍が生まれるだろう』


 地熱で温められている柔らかい殻に包まれた中身は、外界に生まれ出ることを待ち望み、蠢いていた。




――――――――――――――――――――――――――




・名前:タレア

・年齢:274歳(肉体&外見年齢18歳)

・二つ名:【職姫】(NEW!)

・ランク:9

・種族:グールアーティザンプリンセス

・レベル:13

・ジョブ:アーティザンアイドル

・ジョブレベル:80

・ジョブ履歴:見習い武具職人、武具職人→奴隷(47Lv時強制ジョブチェンジ)、見習い娼婦、娼婦、武具職人(48Lv~)、武具職人:名工、魔術職人、錬金職人、魔錬職人、変身職人、錬冥職人、歌鬼姫



・パッシブスキル

闇視

痛覚耐性:3Lv(UP!)

怪力:6Lv(UP!)

麻痺毒分泌(爪):1Lv

色香:8Lv(UP!)

能力値強化:導き:8Lv(UP!)

自己強化:変身:5Lv(UP!)

魔力増大:2Lv(UP!)


・アクティブスキル

目利き:10Lv(UP!)

冥匠:防具:1Lv(防具職人から覚醒!)

冥匠:武器:1Lv(武器職人から覚醒!)

枕事:6Lv(UP!)

舞踏:5Lv(UP!)

房中術:3Lv(UP!)

弓術:5Lv(UP!)

無属性魔術:3Lv(UP!)

魔術制御:4Lv(UP!)

錬金術:6Lv(UP!)

限界突破:4Lv(UP!)

歌唱:3Lv(NEW!)

御使い降魔:2Lv(NEW!)

連携:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ゾゾガンテの加護

ヴァンダルーの加護

ゼルゼリアの加護(NEW!)




○魔物紹介:グールアーティザンプリンセス ルチリアーノ著


 グールエルダーアーティザンから、グールハイエルダーアーティザン、そしてグールアンリミテッドアーティザンときて、何故かグールアーティザンプリンセスにランクアップしてしまったタレア嬢。私としてもアンリミテッド(限界無し)の次が、プリンセスでいいのかと問いたいところではある。

 やはり、【歌鬼姫】という、【歌唱】スキルを持つグールや鬼人の女性がつく事が出来るジョブに就いたのが原因かもしれない。


 私としては、更なるランクアップを目指す彼女の熱意が続くことを応援したい。……願いが成就しないよう、心から願うがね。成就してしまうと、師匠の関心が私に向き、私が戦場に連れていかれる事になるのでね。


 新たにゼルゼリアの加護を得たが、恐らく彼女が元娼婦だったからだろう。かの女神は、娼婦に信仰される事も多いらしい。




・名前:メーネ&ホーフ

・ランク:7

・種族:ダークナイトホース

・レベル:1


・パッシブスキル

怪力:6Lv(UP!)

闇視

精神耐性:6Lv(UP!)

病毒耐性:3Lv(UP!)

身体強化:蹄:7Lv(UP!)

自己強化:導き:5Lv(UP!)

影同化

空中走行:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

高速走行:7Lv(UP!)

限界超越:1Lv(限界突破から覚醒!)

突撃:4Lv(UP!)

闇のオーラ:5Lv(UP!)

御使い降魔:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

・【冥帝魔術)を、【冥界神魔術】に変更しました。ご迷惑をおかけします。


11月18日に次話を投稿する予定です。

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