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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
357/515

二百九十話 終末の騎士は走らない

 『海栗の獣王』ドルステロを、形状の関係で分かり難いが倒したヴァンダルーは、心配そうに呟いた。

「今は、『海栗の獣王』の旬でしょうか? いや、そもそも雌雄どちらなのでしょう?」

 今の季節は夏。海栗は精巣と卵巣が食べられるが、『地球』や『オリジン』では卵巣よりも精巣の方が高級食材として扱われていた。それはこの世界でも同様である。


 また、時期によって味と量が異なる。そのため、ヴァンダルーはそれを気にせずにはいられなかった。


「先代は雄でしたが、恐らくドルステロは雌かと。また、獣王は通常の獣と違い、毎年産卵する訳ではないので定かではありませんが……獣王ならば一年中何時でも魔力をふんだんに含んでいるはず。偉大なるヴァンダルーの舌を、必ずや楽しませる事でしょう」

 ドルステロの巨体は勿論、ゴーレムの僅かな破片まで残さず回収しながら、グファドガーンがそう評する。


 途中で撃墜したオリハルコンゴーレムと龍を、距離が離れすぎていたので殆ど回収できなかったため、彼女はこれ以上失態を重ねる訳にはいかないと張り切っているのだ。

「それなら安心ですね。五悪の杖と【冥極死閃】の実験も済みましたし、後は皆の援護に回りましょうか。俺が倒すと経験値になりませんし」


 ヴァンダルーが新たに創りだした自分専用の変身装具、五悪の杖。名前からも分かる通り、『五悪龍神』フィディルグの分霊が宿っているアーティファクトだ。

 変身による形状の変化は少ないが、伸びた管がヴァンダルーの腕と融合する事で【無手時攻撃力増強】スキルの効果を失わないまま、杖の機能を活かす事が出来る。今回偶然獲得した、【杖装備時魔術力強化】スキルも同時に効果を発揮するはずだ。


 その五悪の杖を使って発動させた【冥極死閃】は、複数の【死砲】を収束して放つ冥王魔術の奥義と評せる術だ。

 開発した後、ヴァンダルーは【界穿滅虚砲】も含めて、自分の魔術の奥義が収束して放つものばかりである事に気がつき、自分の想像力に限界を覚えた。しかし、それはそれとして強靭な生命力を誇る獣王と、ついでにオリハルコンゴーレムを一撃で倒せたのは、満足できる成果だ。


 特に、仮初の生命しか宿っていないゴーレムも倒せたのは、ヴァンダルー自身も驚いた。

 今回の作戦は、大成功と言えるだろう。

「では、その前にジョブチェンジを済ませては如何でしょうか?」

 グファドガーンの提案に、ヴァンダルーは驚いた。常識なら、幾らレベルがカンストしても、戦闘を中断してジョブチェンジに行くなんて正気の沙汰ではないからだ。


 だが、戦場を改めて見回すと、戦況は圧倒的。残っている敵はゴーレムと亜神が三組だが……エレオノーラ達が相手をしている組のゴーレムは全身にヒビが入っていて今にも砕けそう。

 そしてリタとサリアが戦っている龍はまだ健在だが、ゴーレムの方はクノッヘンとサムのサンドバッグと化している。


 残る一組も、クワトロ号の砲撃を受けて近寄る事も出来ないでいる。

「なるほど。じゃあ、すぐ済ませて来るのでジョブチェンジ部屋へのゲートを」

「お任せを」

 ヴァンダルーの足元にクワトロ号の船内に設置されたジョブチェンジ部屋へと続く【転移門】が開き、ヴァンダルーが落ちて行った。


「ええっ!? ちょ、ヴァン様!?」

 守ってくれるはずのヴァンダルーがこの場を離れた事に驚くタレアだが、彼女の足元に残っていたヴァンダルーの影が、音もなく立ち上がった。


『俺は残っていますから大丈夫ですよ』

「まぁ、影のヴァン様!」

 【魔王の影】のヴァンダルーが残っているため、タレアも落ち着いたようだ。


「さてと」

 開いたままの【転移門】から彼女の声を聞きながら、ジョブチェンジ部屋に落ちたヴァンダルーは素早く水晶球に触れた。




《選択可能ジョブ 【堕武者】 【蟲忍】 【ダンジョンマスター】 【混導士】 【虚王魔術師】 【蝕呪士】 【デーモンルーラー】 【創造主】 【ペイルライダー】 【タルタロス】 【荒御魂】 【冥群砲士】 【魔杖創造者】 【魂格闘士】 【神滅者】 【クリフォト】 【冥獣使い】 【整霊師】 【匠:変身装具】 【虚影士】 【バロール】 【アポリオン】 【デモゴルゴン】 【魂喰士】 【神喰者】 【ネルガル】 【羅刹王】 【シャイターン】 【蚩尤】 【神霊魔術師】 【ウロボロス】 【ルドラ】 【血統者】 【魔電士】 【陰導士】 【神導士】 【ジャガーノート】 【冥界神魔術師】(NEW!)》





 今回増えたのは【冥界神魔術師】だった。

 凄い名称だが……【冥王魔術】の上位スキルを扱うジョブなのだろう。新しい死属性の魔術も開発したのも、関係しているかもしれない。


 それはともかく、次のジョブはどうするか。当初の予定や新ジョブの【冥界神魔術師】も含めてヴァンダルーは【超速思考】スキルを起動して素早く考えた。


 導士ジョブなら、【神導士】はどうだろうか?

 今は大沼沢地にある祠で、境界山脈内部を守る結界の維持に戻っているフィディルグ。神としては下の部類の彼がオリハルコンゴーレムや亜神を簡単に倒す事が出来たのは、ヴァンダルーの分身を寄り代に降魔させたからだけではなかった。


 ヴァンダルーの【指揮】スキルから覚醒した【将群】スキル、それに【従群超強化】スキルの効果の影響下に入っていた事。そしてなにより、ヴァンダルーに導かれていたからだ。

 だから【神導士】になれば、フィディルグの戦闘能力はより高くなるだろう。


 そう考えたヴァンダルーだったが、新しいジョブと【神導士】への興味を抑えて、やはりあらかじめ予定していたジョブを選ぶことにした。

「【ペイルライダー】を選択」


 今現在行っている、亜神相手の偽装工作目的の戦闘。経験値がかなり手に入るそれを、ガルトランドのトンネル工事の進捗具合から推測すると、後一回行う予定だ。つまり、ボティンを復活させ、その後亜神の防衛隊と本格的な戦闘を行うまでに、後一回ジョブチェンジが出来るかもしれない。


 偽装工作以外での戦闘や訓練を考慮に入れれば、後二回は出来るかもしれない。

 そのため、今回は謎の地球の神の名前と同じ名称のジョブから選ぶことにした。謎ばかりであるため、試しに就いてみて、【滅導士】のように能力値が伸びない等の短所があるかどうか試すのだ。


 【ペイルライダー】は神ではなく聖書に出てくる終末を告げる、疫病をもたらす騎士だが。それに、短所として挙げた能力値が伸びない事も、現在のヴァンダルーのS級冒険者を上回る能力値を考えればあまり気にする事ではないのだが。




《【ペイルライダー】にジョブチェンジしました!》

《【魔術耐性】、【魔力常時回復】、【猛毒分泌:牙爪舌】、【魔力増大】、【魔力回復速度上昇】、【生命力増強】、【殺業回復】、【自己強化:殺業】、【具現化】、【超速思考】、【群体思考】、【群体操作】スキルのレベルが上がりました!》

《【冥王魔術】が【冥界神魔術】、【深淵】が【根源】に覚醒しました!》




・名前:ヴァンダルー・ザッカート

・種族:ダンピール(母:女神)

・年齢:12歳

・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【魔王】 【鬼帝】 【試練の攻略者】 【侵犯者】 【黒血帝】 【龍帝】 【屋台王】 【天才テイマー】 【歓楽街の真の支配者】 【変身装具の守護聖人】

・ジョブ: ペイルライダー

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士、魔導士、大敵、ゾンビメイカー、ゴーレム創成師、屍鬼官、魔王使い、冥導士、迷宮創造者、創導士、冥医、病魔、魔砲士、霊闘士、付与片士、夢導士、魔王、デミウルゴス、鞭舌禍、神敵、死霊魔術師、弦術士、大魔王、怨狂士、滅導士、冥王魔術師



・能力値

生命力:580,660 (2,888UP!)

魔力 :10,281,549,964+(10,281,549,964) (3,576,191,291UP!)

力  :61,419 (1,788UP!)

敏捷 :54,292 (1,324UP!)

体力 :66,411 (2,981UP!)

知力 :78,996 (10,225UP!)




・パッシブスキル

剛力:7Lv(UP!)

超速再生:4Lv

冥界神魔術:1Lv(冥王魔術から覚醒!)

状態異常無効

魔術耐性:10Lv(UP!)

闇視

冥魔創滅夢道誘引:10Lv

詠唱破棄:10Lv

導き:冥魔創滅夢道:10Lv

魔力常時回復:5Lv(UP!)

従群超強化:4Lv(UP!)

猛毒分泌:牙爪舌:6Lv(UP!)

敏捷強化:9Lv

身体伸縮(舌):10Lv

無手時攻撃力増強:小

身体強化(髪爪舌牙):10Lv

魔糸精製:1Lv

魔力増大:10Lv(UP!)

魔力回復速度上昇:10Lv(UP!)

魔砲発動時攻撃力強化:極大

生命力増強:3Lv(UP!)

能力値強化:君臨:8Lv(UP!)

能力値強化:被信仰:7Lv(UP!)

能力値強化:ヴィダル魔帝国:3Lv(UP!)

自己再生:共食い:3Lv

能力値増強:共食い:3Lv

魂纏時能力値強化:中

殺業回復:4Lv(UP!)

自己強化:殺業:4Lv(UP!)

杖装備時魔術力強化:小(NEW!)


・アクティブスキル

統血:1Lv

限界超越:8Lv

ゴーレム創成:8Lv(UP!)

虚王魔術:6Lv

魔術精密制御:3Lv

料理:8Lv

錬神術:2Lv(UP!)

魂格滅闘術:5Lv

同時多発動:6Lv(UP!)

手術:8Lv

具現化:5Lv(UP!)

連携:10Lv

超速思考:7Lv(UP!)

将群:1Lv(指揮から覚醒!)

操糸術:8Lv

投擲術:10Lv

叫喚:8Lv

神霊魔術:3Lv

魔王砲術:6Lv

鎧術:10Lv

盾術:10Lv

装影群術:7Lv

欠片限界超越:2Lv

整霊:2Lv

鞭術:3Lv

霊体変化:雷

杖術:3Lv(UP!)

高速飛行:2Lv

楽器演奏:3Lv(UP!)


・ユニークスキル

神喰らい:8Lv

異貌多重魂魄

精神侵食:9Lv

迷宮創造:5Lv

大魔王

根源(深淵から覚醒!)

神敵

魂喰らい:10Lv(UP!)

ヴィダの加護

地球の神の加護

群体思考:8Lv(UP!)

ザンタークの加護

群体操作:8Lv(UP!)

魂魄体:4Lv

魔王の魔眼

オリジンの神の加護

リクレントの加護

ズルワーンの加護

完全記録術

魂魄限界突破:2Lv

変異誘発

魔王の肉体

亜神


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




「【魔力増大】スキルが10レベルになった事で、俺の魔力も二百億を超えましたね。……前世の二百倍か」

 ロドコルテが雨宮寛人や六道聖に何をしようと、もう魔力で後れを取る事はないだろう。慢心するつもりのないヴァンダルーも、それは確信した。


 そして戦場に戻るために、開いたままの【転移門】からクワトロ号の甲板に戻った。

「お帰りなさいませ、本体のヴァン様! ジョブは何になりましたの?」

「ただいま、タレア。ジョブは【ペイルライダー】になりました」

 そう教えても、異世界の宗教や伝説を知らないタレアや、断片的にしか知らないグファドガーンは【ペイルライダー】が何を意味するのか、全く分からない。


『伝説にある疫病を撒く騎士の事です』

「そうでしたか。早速ジョブの効果を試しますか?」

「止めておきましょう。無差別に病を振り撒く効果だったら、被害甚大ですから」


 もし伝説の通り病を振り撒いてしまったら、【状態異常耐性】があるエレオノーラやベルモンドは平気でも、ザディリスとバスディア、そしてメーネとホーフが危険なので、ヴァンダルーは新しいジョブを試すつもりは無かった。


「では、残りの切り札も予定通り温存しますか?」

「ええ、予定通り」

 ヴァンダルー達には、ランクアップした空間属性のゴースト達等、まだ温存している戦力がある。しかし、戦況は一部以外優勢なので切る意味は薄い。


「むぅ……では、我の出番はなしか」

 それまで船室で待機していたヴィガロは、甲板に姿を現すとそう言って残念そうに肩を落とした。彼は亜神との戦いで味方が苦戦したときや、向かって来た敵が想定以上の戦力だった場合に投入する予備戦力として、船に隠れていたのだ。


「ええ、フィディルグも好調ですし」

「確かに。辛うじて踏みとどまったゴーレム相手に一方的な戦いをしているな」

「ヴァンダルーよ。今のフィディルグに心配はもう無用なようです」


 彼等が心配し、ヴィガロが主に援護する事になるだろうと想定していたのが、彼の娘のバスディアではなく、フィディルグだった。

 ヴィガロも初めてフィディルグに遭遇した時は、彼を自分より圧倒的に強い存在と認識していたのだが……時の流れは残酷だ。


「フィディルグに心配がない以上、これ以上切り札を切ってしまうと戦況が優勢になり過ぎて、ペリアの防衛隊と戦わずに退くと不自然になってしまいますし」

 ヴァンダルー達の目的は、ペリアをどうこうする事ではなく、偽装工作である。そのため、ペリアの防衛隊と本格的な戦闘に発展するのは拙いのだ。


 本格的な戦闘に発展すると、偽装工作のつもりで戦力を調整してきたため、自分達に大きな被害が出る可能性がある。それに、防衛隊を倒してしまうと今度はペリアをどうにかしないと不自然になる。そして可能かどうかは不明だが、ペリアを復活させるなり、眠っている彼女を連れ去るなりすれば、アルダ勢力の神々はまだ無事なボティンの防衛に戦力を集中するはずだ。


 それで集まった亜神達が何らかの能力を用いて、地下でトンネルを掘っている事を感知したら、偽装工作の意味がなくなってしまう。


「それに、タレアが止めて欲しそうですし」

 船首から降りて甲板に戻ったヴァンダルーと影のヴァンダルーは、タレアに縋られていた。体格差のせいで抱きつかれているように見えるが。


「本当に止めてくださいまし。ヴァン様を信じていますけれど、私には刺激が強すぎますわ」

 サムから影響を受けたのか、ランクアップしたメーネとホーフは空を走れるようになり、サリアとリタを乗せて龍を翻弄している。

 その二頭よりランクが高いタレアだが、彼女は生産系のジョブに就いている。そのため、能力値自体はそれ程高くなく、変身装具で防御を固めていても不安を覚えているようだ。


「止めますから安心してください。でも、その前にあのバリスタ型使い魔王で、ラダテルゾンビを援護してやってくれませんか?」

 クノッヘンとサム、サリアとリタとピートは龍とオリハルコンゴーレムを圧倒しているが、ゾンビ化した『雷の巨人』ラダテルは、逆に巨人とオリハルコンゴーレム相手に劣勢を強いられていた。


 ゴーレムに殴られ、巨人が放つ魔術に撃たれ、まだ大きな損傷はないが傷ついている。ラダテルゾンビも咆哮をあげながら電撃を放ち、腕を振り回すように身体ごと回転させて体当たりをして反撃しているが、タレアの目にも逆転の可能性があるようには見えなかった。

「あのゾンビ、ヴァン様が作ったにしては弱すぎません?」

「急ごしらえの、ハリボテみたいなものですからね。元々戦力として期待もしていませんし」


 【手術】で死体を改造すれば、ラダテルゾンビの身体能力を生前ほどではないが、ある程度戻す事が出来る。しかし、ヴァンダルーはそれをしなかった。

 酷い言いようだが、実際にラダテルゾンビは戦力としてではなく、ペリアの防衛隊にいるだろうラダテルの元同族の真なる巨人達を挑発するために創り、運んできたのだ。


 流石にすぐ壊されてしまうのは避けたかったので、【魔王の欠片】で雑に鎧は作ったが、それだけで最悪でも首から上が残れば、後は壊れても構わない程度の存在だ。


 肉体が壊れても、中に入っている霊はまたつかう事が出来るのだから。

 ……ちなみに、ガルトランドでボークス達がラダテルの肉を振る舞ったが、それはラダテルゾンビの弱体化には関係ない。何せ、ボークスが振る舞ったのはハツだ。ゾンビには不必要な心臓の肉だったのだから。


「いや、寧ろそれなりに壊れてくれると都合が良いですね。撤退する理由が出来ますし」

 そう言う訳で、ラダテルゾンビはヴァンダルーにとって『仲間』ではないのだった。

 ちなみに、ラダテルの魂は既にヴァンダルーに喰われて消滅しているため、中に入っている霊は『ヒトデの獣王』レポビリスだったりする。身体に合っていない霊を入れたのも、ラダテルゾンビの弱体化に拍車をかけているのかもしれない。


「なるほど。それは良いですけれど……何故私ですの? 確かに【弓術】スキルはありますけれど、あの使い魔王のヴァン様は、自力で矢を撃てるはずです」

「深い意味はありません。当たればタレアのレベリングになるかなと思っただけです」

『外れても当たるのはラダテルゾンビですから、別に良いかなと』


「まあ、そう言う事でしたら」

 タレアはラダテルゾンビの扱いの悪さに若干同情したが、いっそ壊された方が宿っているレポビリスも新しい身体が与えられるかもしれないと考え直し、容赦なくバリスタを操作した。


 本来なら三人以上で動かす大型の弩だが……タレアも戦闘系ジョブに就いているグールよりはずっと力は弱いが、並の船乗りの数十人分力があるので操作は問題なかった。


「行きますわよ! ふぁいえる!」

 ヴァンダルーの真似をしたタレアが引き金を引くと、【魔王の欠片】製の太く長い矢が打ち出される。

『次は肉弾せ……ひぃっ!? 何か掠めたッス!』

『ギイィィィ!?』

『グオオオオ!? 仲間ごと我を狙うとは、やはり性根はグドゥラニスと同じか!』


 タレアが放った矢は、オリハルコンゴーレムに止めを刺し、勝利に浮かれてそのまま劣勢のラダテルゾンビに加勢しようとしたフィディルグをかすめ、ラダテルゾンビの背中の中央を貫き、敵の巨人の肩に突き刺さった。ただ、全長百メートルの巨体が受けたダメージは、見た目よりも軽そうだった。

 矢を指でつまんで引き抜き、怒号を発する。


「フィディルグ、遠距離戦に終始するようにと事前に言ったじゃないですか。分身から下がるよう言いましょう。

 さ、タレア、次です」

「ヴァン様!? この大きなバリスタ、狙いがかなり危ういのですけど!」

 だが、ヴァンダルーだけではなく、引き金を引いたタレア本人でさえ巨人の言葉を取り合わなかった。ヴァンダルーはただ無視しただけで、タレアはそれどころではなかったからだ。


『初仕事ですからね。二発目三発目と続けるうちに、きっと慣れてきますよ』

「バリスタの俺もそう言っているので、さあ、どうぞ」

 バリスタ型使い魔王が素早く次の矢をセットして、自らバネ代わりの細い筋肉を引き上げる。それを見て、タレアも覚悟を決めたようだ。


「くっ、もうヤケクソですわ!」

 タレアが続けざまにバリスタの引き金を引き、矢が放たれる。それらの三分の一は外れ、もう三分の一はラダテルゾンビに突き刺さっただけだったが、残りは確かにオリハルコンゴーレムと巨人の身体に突き刺さっていく。


 勿論、バリスタの矢だけではなく、大砲型使い魔王の砲弾や、タレアよりも後ろに退避したフィディルグが放つ黒い光弾……暗黒弾も放たれている。流石に、それらはラダテルゾンビに当たらないようしっかり狙っていたが。

 その攻撃に堪らずオリハルコンゴーレムが砕けて機能を停止した。盾を失った巨人は、あまりの猛攻に背中を見せて逃げ出す事も出来ない。


『ぐおおおおっ! 一矢報いてくれる!』

 だが戦意は折れていなかったようだ。彼はなんと、グファドガーンが回収する前にオリハルコンゴーレムの欠片を掴み、それを投擲した。


 弾丸のような速度で、小型の帆船よりも大きなオリハルコン塊がクワトロ号に向かってくる。これに当たればただでは済まないだろう。

『おおおおおおおおん!』

 しかし、オリハルコン塊とクワトロ号の間に無数の骨が割って入った。


「ありがとう、クノッヘン」

『おぉぉん!』

 バキベキボキと硬い物が折れる音を無数に響かせながら、オリハルコン塊を受け止めたクノッヘンは嬉しそうに鳴いた。


 数え切れない程膨大な骨の集合体であるクノッヘンにとって、身体を構成する骨の一万や二万が折れた程度では痛手でもなんでもない。折れても砕けても、骨である事に変わりないからだ。

 自身が全力で投じた反撃が、簡単に受け止められたのを見た巨人の顔が怒りで更に赤くなる。


「ぎゃああああ!?」

 だが、巨人の口から出たのは怒号ではなく悲鳴だった。

『はっはぁ! 加勢いたしますぞぉ!』

『膝の裏が狙い目よ、リタ!』

『背中から肺を狙うのも捨てがたいですよ、姉さん!』


 そこにオリハルコンゴーレムを倒した、サムとサリア、リタが加勢に現れた。彼等の実力なら、ランク10から12の粗い修繕のオリハルコンゴーレムは、既に油断しなければ確実に勝てる程度でしかない。


 こうなれば、多勢に無勢。最後に残った真なる巨人は、一矢報いる事なく倒されるしかないだろう。


「ええい、我も出るぞ!」

 だがしかし、オリハルコン塊を撃ち返そうとしていたが、その前にクノッヘンに止められてしまったヴィガロの忍耐が遂に限界を迎えてしまった。

 四本の実体の腕と一本の霊体の腕に斧と盾を持って、ヴィガロが船から飛び降りた。


「儂等が最も時間がかかったようじゃな」

「出遅れてしまったけど、ここから取り返すわよ!」

「では、私は旦那様の元に控えていますので」

「私も、偶には父に獲物を譲ろう」


 そこにゴーレムと亜神を倒し終えたザディリスたちがやってくる。ただ、巨人に向かったのはエレオノーラとザディリスの二人だけだったが。

 ペリアの防衛隊はやっと空間の歪曲をし終え、【界穿滅虚砲】対策が完成したため海の中から攻撃を始めたが、その前に巨人は討ち取られてしまった。


 水中から放たれる高水圧のブレスや魔術、そして魔術によって創られた獣等による攻撃が激しさを増したが、ヴァンダルーは残った最後の偽クワトロ号を盾にし、それを自爆させて撤退したのだった。



―――――――――――――――――――――――




○ジョブ解説:冥王魔術師


 死属性魔術師の上位ジョブ。能力値の成長は魔力と知力に偏っているが、魔術関係のスキルの取得と成長に大きな補正がかかる。

 このジョブに就くには当然死属性魔術を覚醒させるか、覚醒に近づくまでスキルレベルをあげなくてはならない。

11月14日に次話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
はいはいステタスすごいね、バランス無視ウケる
グファドガーンの「全回収精神」が頼もし過ぎるな。 空間属性って極めれば替えが聞かない存在になれるんやなぁって。
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