二百八十九話 五悪と共にあり
前触れもなく眩暈を覚え、急に体が重くなったように感じられた。
急病か、毒でも盛られたかと思ったが、そうではなかった。ステータスを確認したら、【ルビカンテの加護】と【ロドコルテの加護】が消えていたのだ。
自分を支える大切な何かが失われた事を理解したカルロスは、そのショックのあまり崩れるように倒れ伏した。
それから約十日。何をやっても上手く行かない。身体の不調はすぐに無くなったが、実戦でも訓練でも自分の腕が急に頼りなくなったように感じてならなかった。
加護があった頃は、戦闘の度に、依頼を達成する度に、自分が成長しているという実感があった。少しずつだが階段を確実に登っていると確信できた。だが、今は壁の前で足踏みを続けているだけのような気がする。
それからは坂を転がり落ちるように、カルロスは堕ちて行った。漲っていた自信は粉々に砕け散り、天気が悪いのも、足をぶつけたのも、酒の飲み過ぎで気分が悪い事だって、加護が無くなったせいだと、理性では違うと分かっていてもそう考えてしまう。
無くなったのが【ロドコルテの加護】だけなら、カルロスもここまでショックを受けなかっただろう。彼にとってロドコルテは、ルビカンテから受けた神託に指示があったから祈った正体不明の神でしかない。確かに加護を頂いたから感謝はしているが、敬意を抱き日々祈りを捧げているかというと、そんな事はない。
無くなれば残念に思うが、酒浸りになるほどショックは受けなかったはずだ。……彼と同じ英雄候補のエディリアも、【ロドコルテの加護】を失ったが、それを悲観する様子はなかった。
だが、無くなったのは【ロドコルテの加護】だけではなく、カルロスが信仰していたルビカンテから与えられた加護も同様になくなっていたのだった。
「俺は……俺はもうダメだ。神に見放された俺は、もうお終いなんだ。お前等も、俺なんかと別れてもっといい仲間を探した方が良いぜ」
「馬鹿な事を言うなよ、カルロス!」
冒険者ギルドに併設された酒場で昼間から酒を煽るカルロスを、同じパーティーの仲間達は何とか慰めようとしていた。
「そんな事ないって。無くなった加護だって、生まれつき持っていた訳じゃない。お前が加護を得たのは冒険者になって、俺達とパーティーを組んだ後じゃないか」
「あの時はまだ全員E級だったけど、あんたはあたしらを引っ張って、しっかりリーダーをしていたよ」
「それに加護を失ったのは、誰が何と言おうと、お前が悪いんじゃない。それだけは確かだ」
そうだそうだと残りの仲間達も口々に言う。実際、カルロスには自分が何故【ルビカンテの加護】を失ったのか、心当たりがなかった。
火属性の神である『陽炎の神』ルビカンテは、厳格な神ではないはずだった。教義も、普通に冒険者をしていれば、まず破る事はない程度の緩いものだ。だから、ルビカンテはカルロスが教義を破ったから見限った訳ではないはずだ。
では、カルロスに信仰心が無かったから見捨てられた可能性はあるだろうか? 加護を与えた神への敬意が、カルロスには欠けていたのか?
しかし、それもないはずだ。加護を得る前のカルロスの信仰心は、人並みだった。しかし、加護を与えられてからは人並み以上にルビカンテを敬った。
食事の前と眠る前に短くだが祈り、依頼料を稼ぐたびに少額だが喜捨や寄付を行った。熱狂的とは言えないが、確かに信仰していたのだ。
それなのに加護を失ったのだ。
「そんな事ねェよ。きっと、俺が気づかない内に何かやっちまったのさ。それか……俺に加護を与えても、これ以上先は無いって見切られたのかもな」
カルロスはそう言って自嘲する。まさか自分がカナコのアイドルコンサートに夢中になって、そのまま導かれてしまった事が、ルビカンテが彼から加護を取り上げた理由だったとは、全く気がついていなかった。
「気を落とし過ぎないように。捨てる神あれば、拾う神ありと言います。きっと、カルロスさんを評価する神が現れますよ」
そして、カルロスが加護を失った理由を察しているヴァンダルーは、彼の仲間と一緒に彼を慰めていた。
何故なら英雄候補……元英雄候補だったらしいカルロスを懐柔し、仲間に引き入れる為と言うのはオマケで、本当の理由は彼を哀れに思ったからだ。
間違った事をしたとは思っていないし、カナコが導士に目覚めたせいでとも考えていないので、罪悪感は覚えていない。
ヴァンダルーは、ただカルロスに同情しただけなのだ。
勿論、カルロスがダグをパーティーの仲間に勧誘しようと、カナコ達に付き纏った事は覚えている。しかし、それで彼に対して悪印象を持つには至っていない。
何故なら、優れた存在が注目されるのは当然だからだ。それに、カルロスのダグに対する勧誘は、多少しつこかったが、当人同士で既に話は済んでいる。
……勧誘手段が悪質だった者達は『飢狼』のマイケルこと、マイルズが締め上げている。そして、関係者を人質に取るなど悪辣だった者達は、今現在ルチリアーノに管理、飼育されている。
「お酒を飲むだけでは酔いが速く回ってしまいますから、何かつまみも食べてください。マスター、適当に何かお願いします。支払いは俺が――」
「待ってくれ! 支払いは俺達がする!」
「流石に子供に酒のつまみを奢らせる訳にいくか!」
だから元気づけようとしているのだが、流石に奢るのはカルロスの仲間達によって阻止されてしまった。
それに、ヴァンダルーの慰めはカルロスに微妙に響いていないようだ。やはり、十二歳の子供の慰めの言葉には説得力を感じないのかもしれない。
「カルロスの旦那、今は人生のどん底に落ちちまったように思えるだろうが、そんな事はねぇ。俺も利き腕を失った時はそう思ったが、今は何とか冒険者に復帰できた」
「オレだって、両手足が無くなった時でも『もう終わりだ』とは思わなかったぜ。何とか生きていくにはどうすればいいか、考えるのに必死だったよ」
「あんたも、必死に考えて、必死に生きていれば、何とかなるんじゃないですかね」
だが、ヴァンダルーと一緒にカルロスを慰めるサイモンとナターニャの言葉は響いたようだ。
「ほ、本当か? 本当にそう思うのか?」
「そりゃあ勿論。あんたの身体は五体揃っていて、仲間もいる」
「加護が消えたって言っても、能力値が下がったり、他のスキルが無くなったりレベルが下がった訳じゃないんだろ? だったら、諦めなければどうにかなるさ」
「まあ……それに、どう言う訳か能力値は上がっているようだし」
サイモンとナターニャの言う通り、カルロスは別に弱くなった訳ではない。確かに加護を失った事で、将来の伸び代と、成長効率は下がった。しかし、現在持っている力はそのまま維持している。それに、能力値に限って言えば、カナコとヴァンダルーに導かれた事で上がっているぐらいだ。
そもそも、カルロス自身に素質があったからルビカンテに英雄候補に選ばれたのだ。腐らず鍛えれば、まだまだ伸び代はある筈なのだ。
「そうかな? ……加護を失った俺でも強くなれると思うか?」
まだ半信半疑と言う様子だが、カルロスは気を持ち直しかけていた。
(これで、この人は大丈夫でしょう。後、気になるのは、本体が上手くやってくれるかどうかですね)
(ブグルルル)
このヴァンダルーは、本物ではなかった。ヴァンダルーに擬態したキュールが、発声型の使い魔王を取り込んでいるのだ。
そうである証拠に、彼の背後にはグファドガーンが潜んでいない。……それに気がつける者は、そういないが。
では本体はと言うと――
見渡す限り青い海しか見えない、ある海域の上空を五隻の巨大帆船が進んでいた。
その内一隻の船首に、ヴァンダルーの姿があった。
「動きはないようですね」
そう彼が呟くと、彼の背後の空間が揺らめき、グファドガーンが姿を現した。
「偉大なるヴァンダルーよ、こちらから仕掛けますか?」
「いえ、もう一回りしてみましょう。クワトロ号、旋回を続けてください」
『イエス、サー! 右旋回を維持!』
アンデッド船員の復唱が響くのは、魔王の大陸の沿岸ではなく、『水と知識の女神』ペリアが眠っている海域の上空だった。
何故なら、ボティンの防衛隊とばかり戦闘を繰り返していると、ペリアの防衛隊が援軍として魔王の大陸へ差し向けられる恐れがあるからだ。
それを防ぐため、レポビリス達の霊から聞いたペリアが封印されている海域にも足を延ばしているのだ。どちらも狙っているかのように偽装するために。
「ヴァン様っ! 戦いが無いのは良い事ですわ。衛兵が暇なのは平和な証拠と言うではありませんの」
船首に居るヴァンダルーに、タレアがそう声をかける。最近ヴァンダルーと離れる事が多かった彼女としては、彼と一緒に出掛けるのは悪くない。
しかし、ランク13以上の神話に出てくる神と矛を交えるような戦場は、流石に遠慮したかった。何せ彼女は魔術や武術の達人ではなく、武具造りの職人なのだから。
「それに折角の良い天気ですし、ここから離れた海域で遊ぶのが良いと思いますわ! 私たちも水着になって、音楽を演奏して踊って、トロピカルジュースを飲むのは、とっても楽しいですわよ、きっと!」
そのため、ヴァンダルーから以前聞いた、彼のイメージするセレブっぽい事の内一つを口にして促す。
贅沢コンプレックスを抱えているヴァンダルーは、『地球』や『オリジン』でセレブがやりそうな事をしてみたいと言う欲求が強い。
何年も前だが、タロスヘイムに作った公営カジノで、バスディアやザディリス、エレオノーラにバニーガールの衣装を着てもらって『美女を侍らせながらギャンブルをするセレブ』ごっこをしたくらいなので、筋金入りだ。
「いや、流石にそれはちょっと」
だが、今回のタレアの企みは不発に終わった。
「な、何故ですの!?」
驚くタレアに、エレオノーラが半眼になって応える。
「それはそうよ。昨日まで歌って踊っていたのに、また踊って過ごしたんじゃ気分転換にならないわ」
昨日までカナコの元でレッスンを続けていたエレオノーラに、ベルモンドも続けた。
「それに水着と言うのも……ここは空ですからね」
ここは上空約千メートル。とても海にいる気にはなれない。勿論、クワトロ号の高度を落とす事も可能だが、それは海の魔物から襲われる可能性が高くなる事を意味する。まあ、並の魔物程度ならすぐ撃退できるだろうが……。
「海中から亜神に襲われたら大変じゃからな。船底を徹底的に堅牢に改造したクワトロ号ならともかく、形だけ真似ただけの他の四隻は一溜りもあるまい」
「今のところは亜神が出てくる様子はないが、誘い出す為にわざと隙を見せるのにも限度があるだろう」
そしてザディリスとバスディアも口々に反対する。
「そう言う訳なので、今回はレジャーは無しです。また今度遊びましょう。
それに、タレアも口では嫌がっていても気合が入っているじゃないですか」
ヴァンダルーがそう声をかけたタレアは、既に変身装具を発動していた。
「これは気合ではなく、不安の現れですわ! 防御力が上がるから着ているのです!」
「でもタレア、亜神と戦う俺達の様子を見れば、新しい変身装具の開発のヒントが思い浮かぶかもしれませんよ?」
「う、それはそうですけれど……」
「それに、俺が守りますから」
「分かりましたわ!」
渋い表情を一瞬で満面の笑みに変えるタレア。現金な事だが、戦闘が起きたら彼女はヴァンダルーが守る事は決まっていたので、特に文句は出なかった。
「ですが旦那様、このまま旋回を続けても相手が亀のように籠城しては、意味がないのでは? いっそあれを使ってみてはどうでしょう?」
しかし、提案は出た。ベルモンドが尻尾で指した偽クワトロ号の船内には、挑発用の切り札が詰め込まれている。
それを使えば、ペリアを守っている者達も激怒し、行動を起こすかもしれない。
「でも、それで相手が無視したら意味がなくなるわ。別に戦わないといけない訳じゃないのだから、このまま帰っても良いんじゃないかしら?」
だが、エレオノーラは真逆の意見を述べた。確かに、ヴァンダルー達にはペリアを守っている神々を今倒す必要性がない。
彼等が封印を解こうとしているのは、『大地と匠の母神』ボティンであって、ペリアではない。こうしてペリアが眠っている海域の上空を旋回しているのは、「ヴァンダルーはボティンだけではなく、ペリアも狙っている」とアルダ勢力の神々に思わせるための偽装工作のためだ。
「確かに、エレオノーラの言う通り無理に戦う必要はありませんね」
挑発用の切り札は、あくまでも挑発用。相手の動揺や怒りを誘うには効果的なはずだが、戦力的にはそこまで重要ではない。だが、無駄に切るには躊躇いを覚える程度には、創るのに労力を割いている。
このまま温存して次の機会を待つのも手ではある。
「そうじゃな。魔王の大陸に封印されたボティンと違い、ペリアが眠っているのは海の中。神々も、守りの姿勢じゃしな」
「俺達がペリアに近づくには、海の中に入らなければなりませんからね。水属性の神や亜神は、待ち構えた方が有利に戦えますからね」
ヴァンダルーが海上から【界穿滅虚砲】を撃ったとしても、護衛の神々にはペリアを守る自信があるのだろう。もしくは、ペリアが眠っているのは特殊な空間の内部で、外からの攻撃に影響されないという可能性もある。
……それが本当かどうか、試す訳にはいかないのが苦しいところだ。
「じゃあ、今回は帰りましょうか。ただ、偽クワトロ号四番艦を殿に残し、何かあれば自爆させましょう」
背中を向けた途端、敵が襲いかかって来る危険があるが、自爆用の偽クワトロ号は既に切り札でもなんでもない。作るのも、相応の木材と【魔王の脂肪】があればいいので、コストも安い。
なので、殿にするには都合が良かった。
「では、ここから暫く離れたら【転移門】を――」
その時、海中から巨大な水柱が天に向かってそそり立った。
『行け! 奴らを倒せ!』
水柱から飛び出したのは六柱の龍や巨人、獣王……だけではなかった。
「奴らが抱えているのは、巨人……いや、ゴーレムのようね」
エレオノーラの目には、自分達と同じくらいの大きさのゴーレムを後ろから抱えながら飛行する、亜神達の姿が映っていた。同じ人型の真なる巨人はともかく、龍と獣王はかなり不格好だ。
「どうやら、あのゴーレムを私達と戦わせるつもりらしいな」
「何を落ち着いていますの!? あのゴーレムは全てオリハルコン製ですわよ!」
ゴーレムは材質と大きさによって強さが変わる。タレアが見抜いたように、あのゴーレムが神々のみが精製できるオリハルコン製なら、亜神と同じ百メートルサイズである事も考えると、ランクは最低でも13以上。
かつてヴァンダルー達が倒した、タロスヘイムの王城地下にあった壊れかけの、そしてあれらよりも小さいドラゴン型のオリハルコンゴーレムよりも弱いという事はないだろう。
「船長、迎撃開始だ」
『アイ、サー! 迎撃開始!』
『死海四船長』が復唱すると、クワトロ号と偽クワトロ号達の船底に仕掛けられた【魔王の欠片】製大砲が轟音を轟かせて砲弾を放ち、巨大な眼球や唇から怪光線や音波砲を放ち始める。それはゴーレムと、それを抱えて飛ぶ亜神達に降り注ぐが……。
『ゴーレムを盾にしろ!』
亜神達はゴーレムを盾にする事で、怪光線や砲弾の直撃を避けた。【魔王の欠片】は元々、オリハルコンでしか対抗できなかった魔王グドゥラニスの肉体だ。そのため、ヴァンダルーに吸収された今でもオリハルコンに対して一方的に優位に立てる訳ではない。
『だ、ダメだ! このゴーレムでは耐えきれな……ぐああああああっ!?』
だが、砲弾を受け続けたオリハルコンゴーレムの内一体が砕け、それを抱えていた龍と一緒に落ちて行った。
オリハルコンは確かに【魔王の欠片】に対抗する事が出来る、優れた金属だ。しかし、所詮は素材である。作り手の技術の高低によって、性能が変わるのは当然であった。
「しまった。オリハルコンゴーレムを過信しすぎましたか。折角の食材とオリハルコンが……」
「旦那様、まだ五体と五柱登って来ますので、あまり気を落とさず」
加減を間違えたと肩を落とすヴァンダルーを、慰めるベルモンド。彼女の言った通り、残りの五体のゴーレムは、怪光線や砲弾を受けて傷つきながらも、しっかり亜神の盾となっている。
『くっ! 大神謹製のオリハルコンゴーレムが砕かれるとは……修理が甘かったか!』
亜神達が抱えているオリハルコンゴーレムは、十万年前魔王軍との戦争当時に使われ、破壊された物を、ペリアを守る神々が修理したものだった。
魔王の大陸で封印されているボティンを守るために、多くの亜神が集められた。その分ペリアの防衛隊には亜神が少なく、地上における戦力が不足したのでそれを補うために、壊れたゴーレムを引っ張り出したのだ。
(もっとも、ゴーレムだけに機動力が低く、空に浮遊する事は出来ても素早く飛ぶことが出来ぬ。こうして運んでやらなければ、空中戦ではただの的……盾でしかないのだが。
修理する時に飛行能力を加えるよう、進言するべきだった!)
まさかヴァンダルーが空飛ぶ船団でやって来るとは、想定外だった。過去の自分を呪いつつ、『海蛇の獣王』ザバクは仲間と共にゴーレムを懸命に運んだ。
このオリハルコンゴーレムを接近させたら、ザバク達は離脱して、仲間と合流するつもりだった。
今、この場に姿のない仲間達は、ペリアを守るために大急ぎで空間を歪めている最中だ。ヴァンダルーが上空から【界穿滅虚砲】を撃ったとしても、ペリアに届く前に歪曲させ逸らす事が出来るように。
それまでの時間を稼ぐため、旋回を止めたヴァンダルー達が攻め込んで来る前に行動に出たのだ。
実際には、ヴァンダルーは攻め込むどころか撤退しようとしていたのだが……神々はプレッシャーに耐えきれなかったのである。
(もう少しだ!)
そして船団まで残り百メートルまで近付いたザバク達だが、ヴァンダルー達は元々こうなる事を、ペリアの防衛隊達が自分達から襲い掛かってくるのを待ち構えていたのだ。
「このまま接近されるとクワトロ号が傷つくかもしれないな。ヴァン、そろそろ出て良いだろうか?」
「構いませんが、狙うのは皆で一組……一体と一柱にしてくださいね」
「分かった! 皆、狙うのはあのウナギにしよう!」
「バスディア、あれは海蛇よ!」
「まあ、蛇もウナギも似たようなものじゃ。かば焼きにすればどちらも美味い」
「流石にそれは暴論だと思いますが」
バスディアやエレオノーラ達がクワトロ号からザバクに向かって飛び降りて行く。バスディアやザディリスの変身装具はヴァンダルーが改良した結果、飛行能力が付与されている。そしてエレオノーラとベルモンドは、そもそも自力で飛ぶ事が出来る。
「では、自爆船以外の偽クワトロ号はパージを。切り札を順次切っていきましょう」
ヴァンダルーがそう言うと、偽クワトロ号の内一隻が内側から砕け散り、白濁した瞳と土気色の肌をした巨人が姿を見せた。
『ウオオオオオオオオオ!』
稲光を撒き散らしながら、トゥルージャイアントゾンビと化した『雷の巨人』ラダテルが咆哮をあげ、自身に迫ったゴーレムと真なる巨人を迎撃する。
『貴様はラダテル!? くっ、遺骸をアンデッドにされたのか。何と惨い事を!』
真なる巨人はラダテルを知っていたため、顔を怒りに歪めながらオリハルコンゴーレムを解放し、二対一で倒す構えを取る。
『ふはははっ! まさか、ここでオリハルコンゴーレムと戦う事になろうとは、思っても見ませんでしたぞ!』
『おおぉん! おおおおおおおおおおおおおおおお!!』
そして別の偽クワトロ号からは、サムとクノッヘン、そしてピートが現れた。タロスヘイムでのオリハルコンドラゴンゴーレムとの戦いに参加していなかったサムと、その戦いの結果別々のアンデッドから一つに融合したクノッヘンが、猛っている。
『じゃあ、私達はゴーレムを抱えている龍の方ですね! 父さん達には負けていられませんよ、ホーフ!』
『行きますよ、メーネ! ピートもついて来てください』
そしてリタとサリアはそれぞれホーフとメーネを駆って、ピートを引き連れてゴーレムを抱える龍に向かって行く。
「ギシャアアアアア!」
『大渦龍神』ズヴォルドを喰い殺した事で、ピートは更にランクアップし、今や百足の帝王と評すべき威容を誇っていた。今なら、並の龍相手なら単体でも相手が出来るだろう。
……リビングアーマー姉妹を乗せているメーネとホーフは、実力的にはかなり場違いだが、【御使い降魔】を使用しているので多分大丈夫だろう。
一組が途中で脱落し、残り五組中三組も足止めされている。ラダテルはゾンビ化した影響で弱くなっているが、それを【魔王の欠片】製の鎧で補っているので、真なる巨人とオリハルコンゴーレムのタッグでも簡単には倒せない。逆に、サム達は時間さえあればゴーレムと龍を倒しきるだろう。
そして残り二組には、今回ヴァンダルーが用意した切り札が向かっていた。
『ハハハハ! 完全復活だ!』
『気分が良いな! アルダ側に付いた貴様等を見下ろすのは!』
『実に爽快ッス!』
『十万年前の仕返しだ! 受け取れ!』
『あ、そう言えばこいつ、十万年前にいたっスかね?』
鱗に覆われ、指が単眼蛇の首に置き換えられた巨大な手のような姿をした悪神、『五悪龍神』フィディルグだった。口から光弾を吐きながら、彼はアルダ勢力の亜神を見下ろし、笑っている。
『馬鹿な! 貴様はアルダに五つの首の内四つを消し飛ばされた筈! それが、たった十万年で復活し、寄り代を創り出すに至ったというのか!?』
『狼狽えるな! 奴はヴィダ派でもザコの部類だ! 所詮はヴィダの腰巾着。すぐに倒すぞ!』
動揺する仲間を叱責した巨人の言う通り、フィディルグの強さは魔王軍の邪悪な神々の中でも下の部類だ。十万年前のヴィダとアルダの戦いを生き残ったのも、武勇ではなく運によるものが大きい。
確かに完全復活したのは驚くに値するし、敵戦力としても侮るべきではない。だが、上位のグールや吸血鬼達、クノッヘンやピートと同程度の脅威だ。
『儂がゴーレムと協力してフィディルグを潰す! 貴様はヴァンダルーを抑えろ!』
『くっ、致し方あるまい!』
巨人から指示を受けた『海栗の獣王』ドルステロは、針で挟むようにして支えているオリハルコンゴーレムを盾にしながら、ヴァンダルーが乗るクワトロ号に迫る。
本来の作戦では、ここまで近付いたらゴーレムを投げつけるように放り捨て、転身するはずだった。だが、既に一組やられ、残りの二組も足を止められ上空から大砲に狙われながら肉弾戦を強いられている。
このままでは十分な時間を稼ぎきれない。ゴーレムだけではなく、自分達も戦う必要があるとドルステロは覚悟した。
だが、その覚悟では足りなかった。
『潰せるかどうか!』
『試してやろう!』
フィディルグが光弾を口から吐くが、それは巨人が盾にしているオリハルコンゴーレムによって防がれ、ゴーレムにも大した傷を与えていないように見えた。
『犬だけではなく、弱い蛇もよく吠えるようだな! 船が放つ弾の方がまだ効く……なにぃ!?』
巨人があざけるように叫ぶが、その途中でフィディルグが黒いオーラのようなものを放ち始める。
『【御使い降魔】ッス!』
何と、フィディルグはヴァンダルーの分身を肉体代わりの寄り代に宿したのだ。
『加護も御使いも与えられぬのなら、逆に御使いを貸して頂くまでよ!』
『き、貴様! 神としてのプライドは無いのか!? それに、ステータスの無い貴様が何故そんな事が出来る!?』
神としてかなり情けない事を叫ぶフィディルグに巨人が思わず叫ぶが、フィディルグはすぐ言い返した。
『弱者の知恵ってやつっス!』
『お前達も、ステータスが無いのに魔術や武術を使っているじゃないっスか!』
弱さを自覚している者に、それを指摘しても意味はない。ステータスシステムは人間のためのものなので、神々は持ちえないものだが、だからと言って魔術や武術、そうした経験や技術、技能を神々が使えない訳ではなかったのだった。
『いや、人間の御使いを自分に降ろす神は、フィディルグが史上初だと思いますよ』
『つまり、先駆者って事ッスね!』
『では、くらえ!』
ヴァンダルーの分身からのツッコミも軽く流したフィディルグの五つある口に、それまで放っていた白い光弾ではなく黒いエネルギーが凝縮されていき、それが限界まで高まった瞬間、黒い五条の光線が放たれた。
『馬鹿なぁぁぁぁ!?』
黒い光線はそれまでの光弾を弾いていたオリハルコンゴーレムを貫き、そのまま巨人に五つの風穴を空けた。
『仮にも神が、魔王と言えど、人に力を授けられる事を良しとするとは……!?』
グファドガーンによって命を喪った仲間の巨人がゴーレムの残骸ごと回収されるのを止める事が出来ないドルステロは、砲弾を掻い潜りながらも驚愕していた。
フィディルグがとったのは神としての存在意義をかなぐり捨てるような行いだ。神は優れ、偉大であり、人々に加護をもたらす存在だからこそ信仰されるのだ。
神は確かに信者の信仰をエネルギー源にしているが、流石にここまで直接人の力で強化される事はない。
これでは信者から見放されてしまうかもしれない。
「そうではありません。俺とフィディルグは対等な関係です」
だが、ドルステロが近づこうとしているクワトロ号の船首に、ヴァンダルーが反論を口にしながら杖を持って現れた。その杖は、これまで使っていたギュバルゾーの杖ではない。
「変身、五悪の杖発動」
杖から五本の管が伸びてヴァンダルーの腕と融合。そして、杖頭から五つの蛇の頭を思わせる突起が生える。
『ま、まさかっ!? ひ、ひいいいいい!』
生存本能がかき鳴らす「逃げろ!」という警報に従って、ドルステロがオリハルコンゴーレムを放り出して逃走を図る。ゴーレムはその場に浮かぶと、ドルステロを守るように唸り声をあげてクワトロ号に迫ろうとするが……放り出された場所は遠すぎた。とても間に合わない。
「【冥極死閃】」
生命力を奪う【死砲】を凝縮して一つの光線にした新たな【冥王魔術】に貫かれ、オリハルコンゴーレムとドルステロは断末魔の声をあげる間もなく倒されたのだった。
《【魔力常時回復】、【従群超強化】、【殺業回復】、【自己強化:殺業】、【錬神術】、【同時多発動】、【杖術】、【魂喰らい】スキルのレベルが上がりました!》
《【杖装備時魔術力強化】スキルを獲得しました!》
次話は11月10日に投稿する予定です。




