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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百八十六話 龍皇神

 ヴァンダルーが精神的に最も苦戦した仕事、『五色の刃』に保護されたダンピールの少女、セレンからの手紙に対する返事の執筆。それを彼なりに誠意を込めて書き、商業ギルドを通じて出した。

 返事には、ダンピールである事以外普通の幼い少女であるセレンが理解できないかも知れない、会えない理由がつらつらと書き連ねられているが、大人げないとは思わない。


(どうせ周りにアルダ融和派の大人がいるのですから、その人が翻訳すれば良いでしょう)

 肩の荷が下りた気分で、彼は商業ギルドからカナコがレッスンに使っている空き倉庫に向かった。そこで自分を取材するためにやって来た一風変わったエルフの吟遊詩人と、会う約束をしているのだ。


 ヴァンダルーは、実は既に吟遊詩人からの取材は何度か受けていた。その吟遊詩人……ルドルフの取材を受ける事は、彼にとって何の問題も無かった。


 今日は表向きにモークシーの町に戻って来たとされる日の翌日で、帰って来た当日ではない。それは、当日はモークシーの町の領主、アイザック・モークシー伯爵に呼ばれ、アルクレムで何があったのか説明していたからだ。

 流石に地元の領主の要請より優先する事は出来なかったのだ。


「初めまして。私はルドルフと申します。本日は取材に応じていただき、ありがとうございます」

 そう頭を下げて挨拶するルドルフに、ヴァンダルーは好感を持った。これまで取材にきた吟遊詩人の中でも彼が礼儀正しく、自分に対して敬意を持って接していると感じたからである。


「こちらこそ、よろしくお願いします。しかし、取材なら俺ではなく母さんにする方が良かったのではないですか? それともバスディアやザディリスについて知りたい事でも?」

 人間社会での名声は、ヴァンダルーよりもダルシアの方が高い。そしてモークシーの町を守るために戦ったという点では、従魔という事になっているザディリスやバスディアの活躍の方が知られている。


 これまで彼に取材を申し込んだ吟遊詩人たちの多くも、息子の目線から見て母親はどんな人物なのか知るためや、ザディリスやバスディアに話を聞くための仲介者として申し込んだだけだった者が多かった。

 ヴァンダルーはそう言った吟遊詩人達の態度に、苛立ちやショックは覚えていない。表向き事件がどう扱われているか知っているので、当然だと思うだけ。むしろ、彼にとって母であるダルシアや仲間であるザディリス、バスディアの自慢話を聞いてもらえるのは、喜びですらある。


「そんな事はありません。ご母堂や従魔のグールの方々の曲は、他の吟遊詩人が幾らでも作曲しています。私は、あなたの曲が作りたいのです。

 それに、アルクレムで起きた事件にも興味がありまして……」


 そう言いながらも、ルドルフの取材は事件そのものの情報よりも、その時ヴァンダルーが何を考え、何を思ったのかを聞きたがった。

 それをヴァンダルーは若干不思議に思ったが、他の吟遊詩人とは異なる曲を作曲する為だろうと納得した。


 しかし、取材する側のルドルフ……ランドルフはいつ自分の正体がばれるか、気が気ではなかった。

(こいつ、俺の正体が『真なる』ランドルフだと、まだ気がついていないのか? それにしては見張りが手練れ過ぎる。俺でも気配しか分からないが、得体が知れない。それに、コイツ自身も……)


 ランドルフは、ヴァンダルーの背後の空間の狭間に潜んでいるグファドガーンの気配に気がついていた。殺気や警戒の類は何も感じない……ただただ観察しているだけの無感動な気配。

 それがランドルフにはどうしようもなく不気味に感じられた。同じ人間が出す気配とは思えないと。


 そんな存在に守られているヴァンダルーが、尋常な存在であるはずがない。ただものではない事は、前から分かっていた。ヘルハウンドをテイムしたテイマーが、彼だと気がついた時点で。


 だが、この町に潜入して彼はヴァンダルーがA級冒険者相当か、それ以上の者達に囲まれている事を知った。そして強さだけではなく、歓楽街とスラム街を支配し、孤児院に寄付を行い孤児達と交流する慈善活動を行い、何故か音楽活動にも熱心だという事も分かった。


 正直、それが分かった時点でランドルフが街に潜入してヴァンダルーを調べようと考えた、彼がこの国を崩壊させるような禍をもたらす存在なのかどうかと確かめるという目的は、「そんな人物ではない」という答えを得て終わっていた。


 ランドルフにとって国の崩壊とは、クーデターで王や大貴族がとって代わられるような事ではなく、街や村が物理的に壊滅するような事を指していた。


 だが、ヴァンダルーはそう言った事をしそうにない。寧ろ、貧しい村があれば援助して立て直させ、犯罪組織に牛耳られた町があれば、犯罪組織を噛み砕いて町を解放しそうだ。

 それらは世間的には善行であり、ランドルフ個人としても邪魔する理由は思い当たらない。


 王侯貴族が国を統治し、それを維持するためには大きな問題かもしれないが、幾ら彼らの先祖に借りがあるといっても、流石にそこまで面倒は見きれない。

 ランドルフは国家に仕えている訳ではないし、選王国の守護者を気取るつもりもない。王侯貴族の世話を、無料で焼いてやる理由は無い。


 そもそも、貧困や治安の悪化を防ぎ、改善する事も為政者の仕事だ。革命を起こす側が、悪辣な虐殺者でもなければ、依頼を受けた訳でもないのにランドルフが対処しなければならない理由は無い。


 ヴァンダルーを野放しにした結果、グールやヴィダの新種族の社会的地位が向上し、ヴィダ信者が増えてもランドルフに不都合は無い。……ヴィダの新種族が今までのお返しとばかりに人間を迫害するのなら別だが、不確実な危険性を理由に動くのは臆病が過ぎる。


 だから、目的が果たされた時点で町から引き上げる事もランドルフは考えたが、念のため……そして好奇心からヴァンダルーに会ってから町を離れる事にした。


(好奇心、冒険者を殺すか。引退して気が緩んだな)

 しかし、ランドルフはそれを今では後悔していた。ヴァンダルーが殺気や敵意、悪意を彼に向けて来る事はない。無表情だが友好的で、質問した事には出来るだけ正確に、伝わり易いよう語彙を尽くして答えている事が分かる。


 その声は平坦だが耳に心地よく、聞いているとついつい肩から力が抜けそうになる。

 その瞳には光は無いが深く、ついつい見つめて……覗き込んでしまいたくなる。


(この幸福感すら覚える心地良さは、危険だ。一度浸れば、二度と離れられなくなる。まるで底なし沼だ。先日のカナコも突然雰囲気が変わったが……これはその比ではない)

 そう警戒しつつ、ランドルフはヴァンダルーとの距離を保ちながら、慎重に取材を続けた。

 ヴァンダルーが敬意を払われていると思い込んだのは、ランドルフが彼を警戒して言葉を選んでいるからだったのだ。


「ありがとうございます。お蔭で良い曲が創れそうです」

「こちらこそ、お役に立てて良かったです」

 そして取材を終えたランドルフ……ルドルフは、ヴァンダルーと握手を交わして席を立った。


 後は町から出るだけだ。勿論、取材を終えたその足で出て行くのは目についてしまうだろうから、身辺の整理は行う。

(やはり、俺の正体までは気がついていないようだな。何人か警戒していた者はいたから、街から出た後も暫くは尾行されるかもしれないが……まあ、いい。

 根無し草の吟遊詩人のふりを続けたまま、アルクレム公爵領から出るとしよう)


「ああ、そう言えば何時まで滞在する予定ですか?」

 思考を読んだようなタイミングで背中に発せられたヴァンダルーの問いに、ランドルフは思わず立ち止まった。

「……いえ、今週中にはカナコさんに挨拶を済ませて、他の町に行こうかと思っています」


「そうですか。来週のステージには俺も演奏者として参加する予定だったので、演奏を見て欲しかったのですが……あと、ルドルフさんには演奏者用の汎用変身装具を試してもらいたいと思っていまして。

 何とか予定を伸ばしてもらう訳にはいきませんか?」


 「そうですか。それは光栄ですが、私にも予定がありますので辞退させていただきます。」

「そうですね。急ぐ予定もありませんし、一週間だけ……」

 気がつくと、ランドルフは内心で考えていたものとは反対の答えを口にしていた。




《【楽器演奏】スキルのレベルが上がりました!》




 モークシーの町に帰って来た事になっているヴァンダルーだが、町に居続けている訳ではない。ヴィダル魔帝国に一時帰宅して移住してきた国民との交流を行い、ガルトランドでは工事の様子を監督し、忙しく動き回っている。

 勿論、そうした事は分身である使い魔王に任せても構わないのだが、そうする事に彼は抵抗感があった。


「使い魔王に全てを任せると、俺の主体性が危うくなるかもしれませんからね」

 どれが本体でどれが分身なのか、自分自身で分からなくなってしまうかもしれない。そんな危惧をヴァンダルーは覚えていた。


「考え過ぎだと思うよ?」

「パウヴィナ、俺もそう思いますが念のためです」

『……何故もっと危機感を抱かないのか、我には理解できない』

「ルヴェズ、ブラッシングします?」

『ご勘弁ください』


 ヴァンダルーはガルトランドのトンネル工事現場に、パウヴィナ達と一緒に来ていた。グラシュティグが治める土地にある崖の中腹にあるここは、ヴァンダルーの【ゴーレム創成】スキルによってちょっとした広場に形を変えられている。


 ゴーレムが地上に降りるための階段を備えるなど、工事に必要だから作った場所だが、展望台としても優れた場所になっていた。

 左右を見ればグラシュティグが作った段々畑の緑や、切り立った険しい崖の岩肌が、遠くを見ればドーラネーザ達人魚が住む青い海と、ユラクが治める町が見える。


 更に遠くには氷雪系巨人種が住む、雪を被った白い山々と崖が、アンドロスコーピオンが住む砂漠とピラミッドに似た建造物が見える。

 将来的には、ここを本格的に展望台として整備するのもいいかもしれない。ザルザリット達にそう提案してみようと、ヴァンダルーはパウヴィナと一緒にルヴェズフォルのブラッシングをしながら思った。


「キュイィ」

『な、情けはいらん。我も、快楽に流されてばかりではないのだっ』

 ペインワームからワイバーンより巨大な蛾の魔物にランクアップしたペインが、気遣うようにルヴェズフォルの頭に触角で触れるが、振り払われてしまった。


「キュゥイイイ?」

 しかし、後ろ足で立っている事が出来ず地面に横たわっているルヴェズフォルの言葉は、強がりにしか見えなかったらしい。触角で何度も彼の頭に触れる。


『本当だ! しつこいぞ、ペイン! 『素直になれないのか?』と言われても、我には何の事だか分からんな!』

「この体勢で言っても、説得力は無いと思いますよ」

「体は正直だよ、ルヴェズ」

『ああああああ! お許しをぉぉぉ~!』


 痙攣するように尻尾や翼を振るわせながら、ルヴェズフォルが叫ぶが、ヴァンダルーとパウヴィナが揃っている場所にいる以上、彼がこうなるのは必然であった。

 それは彼自身も分かっていた。だというのに抵抗もせずガルトランドに付いて来たのは、彼にとってここが比較的居心地の良い場所だったからだ。


 ここの神々であるポヴァズやゾーザセイバは、戦争中は魔王軍として戦ったか、逆に魔王軍に寝返った神だ。例外はマリスジャファー一柱であるため、ルヴェズフォルにとっては苦手な神が存在しない楽な場所であった。

 もっとも、マルドゥーク亡き後、ヴィダ派に属する龍で最も格が高い『山妃龍神』ティアマトから罰を受け、他の龍にも一通り謝罪を済ませており、何よりパウヴィナの従魔(仲間)となっているため、ヴィダル魔帝国内で迫害されている訳ではないのだが。


 単にルヴェズフォルが他のヴィダ派の龍に苦手意識を持っているだけで。

 更に言うなら、このガルトランドでもヴァンダルーの義理の妹のペットにされている彼に対して、神々から惜しみない憐れみの視線が降り注いだのだが。


(ゾーザセイバの奴め。『一歩間違えれば儂もルヴェズフォルのようになっていたかもしれない』とは、言ってくれる。確かに、ブラッシングを受けて地を這いのたうち喘ぐ我は、ペットも同然……。

 だが、我はこのままでは終わらん! このワイバーンの封印を解き、必ずや本来の龍の姿に戻って、見返してくれる!)


 そう内心では決意しながらも、現在進行形で地を這い、のたうち喘いでいる彼には無理かもしれない。

 ……彼は本来、水属性と土属性の混合した龍、海ではなく沼や中小規模の川や湖等を好む龍なのだ。空が飛べない訳ではなかったが、自由自在に高速で飛行できる今の身体程ではない。

 つまり、ワイバーンでいる間は本来の姿なんて夢のまた夢なのだ。


 そんな彼の横を、アースゴーレムやクレイゴーレムが通り過ぎていく。鬣が生えている部分から走る快感から気を逸らす為、ルヴェズフォルはヴァンダルーに訊ねた。

『しかし、これはトンネル工事と言うのでしょうか?』

 工事現場の崖では、高さ八メートル、幅十メートルのトンネルの入り口があった。


 ガルトランドから地上まで掘る途中で、魔物が地中から何度も出現する事が予想される。そのため、戦闘員が十分に戦える広さが必要だったのだ。

 普通のトンネルだと、ボークス達巨人種は大型の武器を振るって戦う事は難しいし、狭い地中での活動に特化した形態の魔物が有利になってしまう。


 しかし、大きいトンネルを掘るという事は、その分必要な労力が倍増するという事だ。単純に掘る量が、そして掘った結果出た土砂を運ぶ手間が増える。更に、トンネルを補強するのも大変だ。

 それをヴァンダルーが【ゴーレム創成】スキルで解決していた。


 土や石をゴーレムにし、そのゴーレム自身がトンネルから歩いて出る事で、掘削作業と土砂の搬出にかかる労力の問題を解決しているのだ。トンネルの補強も、石で出来たゴーレムの形状を柱に変えて行っている。

「工事ですよ。本来なら、現地の人達から労働者を募って給金を払い、経済的な交流を行うべきなのでしょうが、流石にそれでは時間がかかりますし、危険ですから」


『いや、そこまでは考えておりませんが』

「この方法だと、突然魔物が出て来ても、最初に襲われるのは人じゃなくてゴーレムだから、安全なんだよ」

「掘る先が岩盤でも、岩盤の一部をゴーレムにするだけなので、作業効率も良いですからね」


 パウヴィナとヴァンダルーのこれでいいのだと言う説明に、ルヴェズフォルは自身の中の常識をまた一つ廃棄した。


「本当は、もっと早い方法やロマンのある方法もあります。【界穿滅虚砲】を撃って掘る方法や、【魔王の欠片】で巨大ドリル型使い魔王を創って掘る方法が」

 世界を穿ち滅ぼす虚砲なら、途中に岩盤だろうがミスリルやアダマンタイトの鉱脈があろうが、魔物が何百匹と潜んでいようが、それらを簡単に貫いて掘り進めるだろう。


 巨大ドリル型使い魔王の場合はそれよりも、土砂を取り除く分の手間がかかるが、ゴーレム化掘削法よりも早く進むはずだ。


「でも、【界穿滅虚砲】だと掘った後すぐ崩落しそうだよ」

「そうですね。一気に長距離が掘れてしまうので、補強が間に合わない。それに、方向や掘削距離の修正が出来ないので、下手をすると封印されているボティンに当たります」


 十万年以上も『法命神』アルダ達が解く事が出来なかった魔王の封印は、余程強固なものなのだろうが……【界穿滅虚砲】の直撃に耐えてボティンを守ってくれる保証はない。

 更に言うなら、地中深くでも【界穿滅虚砲】を何度も撃てば、その際放たれる強大な魔力からゴーン達に気がつかれてしまう恐れがあった。


 巨大ドリル型使い魔王の場合は、音で気づかれる可能性がある。それに、手間を考えると今行っているゴーレム化掘削工事が最も良いのではないかと、検討を重ねた結果選ばれたのだ。


「私達としては、掘削工事で出た鉱物を売ってもらえるので、十分ですが」

 そこにトンネル工事現場がある崖を領土に有する種族、グラシュティグの長であるザルザリットが、崖の下から駆け上がって現れた。


「昼食を持ってきました。朝に収穫した野菜や果物、それに岩塩に漬けた魚を用意しました」

 パピルサグである彼女は、蠍の尻尾に下げたバスケットを指して言う。その彼女に続いて、何人ものグラシュティグが崖を駆け上がって現れた。


「ありがとうございます。では、休憩して昼ご飯にしましょう」

 そう声をかけたヴァンダルーに応えるように、トンネルの中から獅子に似た咆哮が響いた。

 何事かと一同が視線を向けると、トンネルの入り口から他の土や石のゴーレムを蹴散らすようにして、獅子の頭と五本の腕を……内一本は半透明な霊体の腕だが……を持つグール、ヴィガロが飛び出して来た。


「ヴィガロ、どうしました?」

「すまん、我だけではきつかった!」

 そう答えるヴィガロに続いて、トンネルから銀色に輝く身体を持つゴーレムが五体、現れた。ヴィガロが蹴散らした、大人しく歩くだけだったゴーレムと違い、腕を振り上げ金属が軋むような咆哮を響かせる。


「ゴーレムが、暴走している!?」

「違うよ。ヴァンの作るゴーレムは勝手に動かないから、多分野良のゴーレムだと思う」

「錬金術で作られたものではなく、鉱物が魔素に汚染されて発生したゴーレムでしょう」

 ゴーレム達の迫力に気圧され、思わず身構えるザルザリットに対して、特に動揺する様子を見せないヴァンダルーとパウヴィナ。


 それはゴーレムが弱いからではない。ヴァンダルーの見立てでは、あの五体のゴーレムはヴィガロが一時撤退を選ぶほど強い。

「材質は鉄ではありませんね。ミスリルか、アダマンタイトでしょうか」

 野良……自然発生したゴーレムは基本的に知能が低く、魔術は当然だが武技も使わない。怪力とタフさだけが武器の魔物だ。その強さはゴーレムの身体を作る材質によって変わる。


 中でもミスリルとアダマンタイト製のゴーレムは、神々しか精製できないオリハルコン製のゴーレムを除けば、最強とされている。

 ミスリルは対魔術防御に優れ、アダマンタイトは物理的な硬度に優れる、ランク10相当の魔物だ。


「そんな! ガルトランドでは坑道からアイアンゴーレムの群れが出現した事はあるが、ミスリルやアダマンタイトのゴーレムが、五体同時に出現するなんて! ど、どうにかなりますか?」

 『五神の城塞』のダンジョンボスとしても出現しない強力なゴーレムに、動揺が抑えきれないザルザリット。しかし、彼女の質問にヴァンダルーが答えるよりも早く、戦いが始まった。


『ドリル、ロケット、パンチ!』

 トンネルの入り口横で魔物の出現に備えて待機していたラピエサージュが、両拳を射出した。高速で回転する拳が、ゴーレムの脇腹や側頭部、肩や胸部に命中し、転倒させる。


『『ごう゛お゛ぉぉぉ!』』

 怒りの咆哮をあげながら立ち上がろうともがくゴーレム達。飛ばした両拳を回収したラピエサージュは、ゴーレムの自身の拳が当たった場所を観察する。


『痕がついてるの、ミスリル。ついてない……のは、アダマンタイト』

 見れば、ミスリルと呼ばれた方のゴーレムは側頭部にくっきりと拳が減り込んだ痕がついているが、アダマンタイトの方は凹みが少し残っているだけだった。


『『『『分かった~♪』』』』

『【雷の槍】!』

『【氷球】!』

 それに呼応して、ヤマタが音波砲や魔術を放つ。ミスリルには音波砲で、アダマンタイトには魔術で集中攻撃を加える。


 元々は複数の死体を繋ぎ合わせた寄せ集めのゾンビ……ラピエサージュは女魔術師の胴体に女戦士の頭部、それ以外はオーガーの四肢を始めとした魔物の部位を、ヤマタに至っては竜種の中でも下級のオロチの変異種をベースに、頭部を種族の異なる美女の上半身に繋ぎ変えた存在で、知能は高くなかった。


 その二人が敵の性質を判別するために攻撃し、その結果に合わせて攻撃の種類を分ける作戦を自発的に行えるようになるとは。そうヴァンダルーは内心感動していた。


「お蔭で分かり易くなった。助かるぞ!」

 そしてラピエサージュとヤマタが押さえている二体以外の、三体のゴーレムに対してヴィガロが斧を振るって受け持つ。


「ヴィガロ、元々は何体いたのですか?」

「正確な数は分からん! ただ、十体目を倒したぐらいでトンネルの天井が少し崩れた!」

 どうやら、「まだ補強が済んでいないトンネルの先端部」という特殊な戦場で戦い続けるには、ゴーレム達が強すぎたという事らしい。


 実際、外に戦場を移した事で、ヴィガロは魔王の欠片製の斧を振り回し、三体のゴーレム相手に一方的な戦いを展開している。


「ヴィガロの方は大丈夫そうですが、ラピエサージュとヤマタの方は時間がかかりそうですね。パウヴィナ」

「はーい。行こうっ、ルヴェズ、ペイン!」

『むぅ、明らかに苦手な相手だが、仕方ない!』

「キュイイイ!」


 パウヴィナの号令を受け、ルヴェズフォルとペインが翼と羽を羽ばたかせて空に舞い上がって彼女に続く。

 魔王の欠片製メイスがアダマンタイトゴーレムに減り込み、ルヴェズフォルとペインに翻弄されたミスリルゴーレムの身体を、ラピエサージュの拳とヤマタの音波砲が削り取る。


 ヴァンダルーは手を出す必要がないので見ているままだが、一応指揮はしているため【指揮】から覚醒した上位スキル、【将群】スキルの効果が発揮され、パウヴィナ達全員の身体能力が強化されている。


 こうなると怪力とタフさしか取り柄がなく、同種の仲間とも連携をとり合わないゴーレム達は為す術がない。

 後はトンネルの補修について考えるだけでいいだろう。ヴァンダルーがそう思っていると、ミスリルゴーレムの背中に尻尾を叩きつけたルヴェズフォルが、突然悲鳴をあげた。


『っ!? ヒィィィ!? お、お許しを! お許しをぉ!』

「ルヴェズ!?」

 驚いたパウヴィナが見ると、ルヴェズフォルの尻尾に何か白い骨状の物が突き刺さっていた。


「ミスリル鉱脈に混じっていた何かを、ゴーレム化する時に取り込んでいたようですね」

『とりあえず、殴るぅ!』

 パニック状態に陥ったルヴェズフォルをペインに任せ、パウヴィナとラピエサージュがミスリルゴーレムに攻撃を集中させる。


 アダマンタイトゴーレムは、ヴァンダルーが放った怪光線によって沈黙した。


「キュイイ……キュ!?」

 沈静効果のある鱗粉を浴び、ぐったりと地面に横たわるルヴェズフォルの尻尾から、ペインが刺さっていた骨状の何かを引き抜く。

 しかし、何かに驚いてすぐその何かを放り出してしまった。


「どれどれ」

「ヴァンダルー、危ないぞ! 我たちが! お前がパニックになったら誰も止められん!」

「いえ、【危険感知:死】に反応はありませんし、俺は【状態異常無効】で、【異貌多重魂魄】ですから。あ、でも念のためにザルザリット達は離れていてください」


「はいっ! 皆、一時退避!」

 ヴィガロの警告にそう答えながら、ヴァンダルーはその何かを拾い上げた。ザルザリット達グラシュティグを下がらせて、観察する。

 その何かは、骨の欠片のようだった。化石と化していない……骨としての強度と粘度を保っている白骨である。


 しかし、トンネルの先端は地上に程遠い地中奥深くだ。普通の骨が、化石にならず発見されるはずがない場所である。まさか地上で発生したミスリルゴーレムが、一万メートル以上も地中を掘り進んできたとも思えない。

 何より、この骨の欠片に含まれている魔力は尋常なものではなかった。


「どうやら亜神、それもヴァルファズやラダテルとは比べ物にならない程格の高い亜神の骨のようですが、何か分かりますか?」

 そうヴァンダルーに訊ねられたルヴェズフォルは、横たわったまま答えた。


『それは……全ての龍の父、『龍皇神』マルドゥーク様の骨だ』




《【ゴーレム創成】スキルのレベルが上がりました!》




――――――――――――――――――――――――――




・名前:ラピエサージュ

・ランク:10

・種族:ノーライフアビスキメラゾンビ

・レベル:90


・パッシブスキル

闇視

高速再生:10Lv(UP!)

猛毒分泌:10Lv(UP!)

物理耐性:9Lv(UP!)

魔術耐性:8Lv(UP!)

剛力:2Lv(怪力から覚醒!)

身体強化:全身:8Lv(UP!)

能力値強化:創造主:7Lv(UP!)

能力値強化:導き:4Lv(NEW!)

魔力増大:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

帯電:8Lv(UP!)

高速飛行:7Lv(UP!)

格闘術:10Lv(UP!)

鞭術:6Lv(UP!)

限界超越:1Lv(限界突破から覚醒!)

連携:7Lv(UP!)

遠隔操作:8Lv(UP!)

裁縫:2Lv(UP!)

鎧術:4Lv(UP!)


・ユニークスキル

死者侵食

ヴァンダルーの加護

ヴィダの加護(NEW!)




・名前:ヤマタ

・ランク:10

・種族:冥棲オロチ

・レベル:88


・パッシブスキル

闇視

怪力:10Lv(UP!)

猛毒分泌:牙:10Lv

魔術耐性:5Lv(UP!)

水中適応

竜鱗:10Lv(UP!)

超速再生:1Lv(高速再生から覚醒!)

身体伸縮:首:7Lv(UP!)

能力値強化:創造主:6Lv(UP!)

能力値強化:導き:4Lv(NEW!)

魔力増大:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

歌唱:7Lv(UP!)

舞踏:5Lv(UP!)

並列思考:8Lv(UP!)

叫喚:9Lv(UP!)

遠隔操作:7Lv(UP!)

格闘術:6Lv(UP!)

限界突破:10Lv(UP!)

恐怖のオーラ:6Lv(UP!)

魔術制御:2Lv(UP!)

無属性魔術:2Lv

同時発動:4Lv(UP!)

水属性魔術:3Lv(NEW!)

風属性魔術:3Lv(NEW!)

生命属性魔術:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

ヴィダの加護(NEW!)

申し訳ありませんが一度お休みを頂、次話の投稿は八日後の10月25日とさせていただきます。

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ランドルフ「不確実な危険性を理由に動くのは臆病が過ぎる。」 マトモだあー!!
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