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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十二章 魔王の大陸編
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二百七十三話 魔王の大陸防衛戦

 白い雲の海を進むクワトロ号の前方、遥か彼方に見えた大陸を、ヴァンダルーは目を凝らして観察した。

「もう少し大きくしないと見えませんね」

 ボコリと、【魔王の触角】の先端に生じた【魔王の眼球】が巨大化する。


 そうすると、やっと大陸……かつて魔王グドゥラニスが最初に侵略し、魔王軍の拠点と化した大陸を詳しく見る事が出来た。

 流石に全体的な大きさや形までは分からないが、近海と沿岸部、そしてその奥の様子は、これで詳しく見る事が出来た。


「これは……魔大陸以上に禍々しいと言うべきか、それとも滅茶苦茶と評すべきか」

『どんな様子なんだ? なあ、魔王の城の跡とか見えるのか? 強そうな魔物や、ダンジョンでもいいぜ』

『伝説では、魔王配下の邪神悪神を称える神殿や、魔物を産みだすための生命を冒涜する産卵場、悍ましい儀式を行うための円形の闘技場に似た施設があるとされていたのですが、見えますか?』

『それよりも邪悪な神や、アルダ勢力の神々の使いの姿はありますか、主よ』

「やっぱり、十万年前の地図って役に立たないかな?」


 大陸を観察するヴァンダルーに、『剣王』ボークスや『氷神槍』のミハエル、そして骨人とプリベルが次々に話しかける。

 どうやら未知の大陸への冒険者らしい好奇心や、強敵への戦いに思いを馳せているらしい。


「分かりました。口で説明するのは難しいので、視覚的に説明しますね」

 そう言うとヴァンダルーの背中から触手が二本生え、その先端と彼の後頭部から更に【魔王の眼球】が出現する。そして瞳から光を照射したと思うと、そこに異様な大地と海の映像が浮かび上がった。


『うおっ!? これは幻術か何かか?』

「ボークスは見てないけど、これはこの前ボク達に見せてくれた【魔王の眼球】と【発光器官】を使った映像だよ。

 これはヴァン君が見ている光景をそのまま映しだしてくれているみたいだね」

『しかし、この映像は幻術のように立体ですが……?』


「立体映像です。壁に映すよりも魔力がいりますが、この方が地形は分かり易いですから」

 異なる方向から映像を照射して作った立体映像は、アルクレムで映した悪神VSボルガドンの化身の映像よりも動きが少ない分、迫力に欠けていた。

 しかし、『魔王の大陸』の異様さを詳細に表していた。


 大陸近海は、毒々しい紫や汚らしい緑等、様々な色の液体が混在している海や、無数の水柱が出現しては消えるのを繰り返す海と言うより海水の森と評した方が良さそうな海域、そして流氷や氷山がアイスゴーレムと化して泳ぎ回る極寒の海まである。


 そして沿岸部は端から砂漠、森林、岩山が見えるが、砂浜では砂嵐が荒れ狂っていて、森林の木々は黒い霧を漂わせ、岩山はマグマが流れている。

 それを見たプリベルは、残念そうに肩を落とした。

「航海だから役に立てるかもって思って付いて来たけど、これは陸地の方が安全そうだね。海岸に接舷するんじゃなくて、直接上陸した方が良さそうだよ」


『そうっすねぇ。マグマはヤバいんで、砂嵐が治まるのを待つか、森の一部を開墾して上陸するとしやしょう』

 『死海四船長』の一人、元海賊船の船長はプリベルに同意すると、早速号令を出そうとした。

「いえ、陸地も危なそうですよ。今、映像を拡大します」

 しかし、ヴァンダルーはそれを止めて、映像を更に拡大した。触角の先端の眼球の直径は、もう一メートルに達している。


 そして砂漠、森林、岩山の順に映像が映し出された。

 砂漠の砂嵐の向こうに、ボークスやミハエルも見た事が無い巨大な魔物が踊っているのが見える。

『デカイな。俺の十倍はある、こいつは大物だ』

『待て。どうやら、この魔物は既に死んでいるようだ』


 立体映像に映しだされた体長約三十メートルの大型の魔物は、踊っているのではなかった。砂嵐に翻弄されているのだ。体中を削り取られ、肉片を撒き散らしながら。

『ヂュウ~、なるほど。あの砂漠の砂は、どうやら小さな刃物のようですな。それが高速で飛ぶ事で、巨大な魔物でも生きたまま摩り下ろす事が出来るのでしょう』

 スケールはともかく、自分も骨で似たような攻撃が出来る骨人がそう解説する。


『あの巨大な魔物は、最低でも7ランク程でしょう。それが成す術もなく削り殺されたという事は、並の冒険者や騎士なら、武具を纏っていても一分とかからず赤い霧となるでしょう。ヂュヂュオォ……』

『ど、どうやら砂漠に上陸するのは、止めておいた方が良さそうだな。クワトロ号が、大鋸屑にされちまう』

 元海賊船の船長の言葉に同意するように、クワトロ号が、木が軋むような声を出す。


『では、森にしましょう。毒や病は我々アンデッドには無力ですからね』

『いや、あの黒い霧、どうやら呪詛みたいだよ』

『はっ!? 呪詛!?』

 無言で森を観察していたザンディアは、森の木々が発する黒い霧が、実体のある気体ではない事に気がつき、呪詛ではないかと推測していた。


『風の流れに逆らって動いているからね。森の木々が魔物で呪詛を放っているのか、十万年以上前の魔王軍の恨みがまだ残っているのかは、分からないけど。でも、呪詛は私達アンデッドにも効くから、迂闊に近づくのは止めた方がいいと思うよ』


 多くの場合勘違いされるが、呪いや呪詛の類はアンデッドにも有効だ。これは毒や病気が「死んでいるから」という理由で効かないのとは違い、呪詛は対象が生物でも非生物でも有効であるためだ。

 ただ、害があるかどうかは呪詛や呪いの種類による。たとえば、『身体が腐る』呪いをかけられたゾンビは、瞬く間に腐敗が進んで骨すら砕け、ただの塵になってしまう。しかし、『病気にかかる』呪いをかけられても、何の意味もない。


 そのため、森の発している呪詛の種類によってはクワトロ号を含めたアンデッド達は何の影響も受けないが……流石にその可能性を信じて突撃する気にはなれない。


 そして、岩山は頂上からマグマを噴き出しているのではなく……逆に吸い込んでいる。どう言う訳か、山の周囲に点在するマグマの沼からマグマが山頂に向かって流れていき、吸い込まれているようだ。

 どうやら岩山周辺は重力の法則が狂っているらしく、巨大なカタツムリに似た魔物が山頂に向かって下から上へ転がり落ち、マグマと一緒に飲み込まれていく光景が映像に映しだされた。


『……奇怪極まりねぇ。確かに、魔大陸より摩訶不思議だ』

『ヂュウ。魔大陸は大陸全土とその近海、更に上空まで魔境と化していましたが……一つ一つの魔境自体は、他の通常の魔境でも見られるものが殆どでしたからな』


 元海賊船の船長の感想に、骨人もそう言って頷いた。

 魔境とは汚れた魔力……いわゆる魔素によって汚染された土地の事を言う。そこでは数多くの魔物が生息し、ダンジョンが発生する事もある。だが、その環境の多くは森や谷、山や砂漠など、それ自体は自然と同じである場合が多い。


 だが魔素の汚染が最初から重い時は、砂漠の中に氷に覆われた極寒の魔境が出現したり、時間と共に汚染が進むと普通の草原や森の魔境が、常に落雷の脅威に晒される草原や深い霧に包まれた森の魔境に変化したりする。

 魔大陸の魔境は、そうしたまるでダンジョンの階層のような魔境が多かったが、魔王の大陸の魔境はそれよりも更に危険で奇怪だ。


 大陸全体がダンジョンと化していると言われたほうが、まだ納得できる。


「魔王が健在だった頃から、こんな様子だったのですか?」

「いいえ、当時はこれ程ではありませんでした」

 ヴァンダルーが誰ともなく問いかけると、空間が裂けて内側から彼の背後邪神である『迷宮の邪神』グファドガーンが姿を現し、そう答えた。


「魔王グドゥラニスの指揮の下、私を含めた当時の魔王軍があの大陸を侵略した際、人間達が魔素と呼ぶ魔力で染め上げ、我々にとって快適な環境に変えました。ですが、僕である魔物を創り、増やす必要があったため、ある程度抑えていたのです」


 異世界、それも『ラムダ』と『地球』のようにある程度環境が似ている世界とは違い、完全に環境が異なる『魔王の世界』から現れたグドゥラニス達にとって快適な環境とは、魔物の材料にするために集めたこの世界の生物では、生存できない過酷なものだった。


「本格的にこの世界の物理法則が歪むほどの変化は、居住に使う空間に止めました。それが伝説で語られている魔王城や、魔王軍の城塞、邪悪な神殿等と評されている施設です」

『なるほど。伝説では、邪悪だの悍ましいだのと、くどい程形容詞が使われていたが……実際、この世のものとは思えない場所だったという事か』


 生前はミルグ盾国の英雄だったミハエルがそう言って納得すると、死海四船長やアンデッド船乗り達も頷いた。

『そこまでくどかったかな? 結構あっさりしていたような気もするけど』

 一方、『癒しの聖女』ジーナ等、境界山脈内部出身の者達はミハエルの言葉に不思議そうに目を瞬かせた。


『ジーナ殿、それはあなた達が学んだのがヴィダ派に伝わる伝説であるため、私の知っている伝説と異なっている箇所があるからだろう』

『ああ、なるほど。ヴィダは魔王が倒された後、アルダから離れたものね』


 境界山脈の内部や魔大陸に暮らしている者達は、アルダから離れたヴィダが連れていったヴィダ信者達と、後に女神によって産みだされたヴィダの新種族の子孫たちだ。

 邪神や悪神を片親に持つ種族もいるので、伝わっている伝説の描写や表現が人間社会と異なるのは当然であった。


『じゃあ、今の魔王の大陸の状況は、グドゥラニスが倒された後、十万年以上放置されて、魔王城等から内部の汚染が広まったのが原因?』

「いいえ、ザンディア。グドゥラニスが倒された後、ベルウッドやファーマウン、ナインロード、そして我々が魔王城等の施設を全て跡形も残らぬよう、念入りに破壊しましたので、それはありません」


「跡形も残らないようって、結構過激な事をするんだね」

「隠れ潜んでいるかもしれない、強力な魔物の生き残りの駆除や、逃げ延びたヒヒリュシュカカやラヴォヴィファード等残党に後々利用されるのを防ぐためです。

 魔王軍に非戦闘員は存在しませんでしたし、大陸はこれまでの戦いで多くの神々と人の血によって汚れ、荒れ果てて通常の生物が生息できる環境ではなかったので、遠慮する必要はありませんでした」


 グファドガーンがプリベルに説明した以外にも、魔王軍の殆どは人間が利用可能な物資を拠点に備蓄しておらず、また役に立つ資料なども無いだろうから、破壊を躊躇う必要がなかったという理由もあった。

 強いて言えば建物に使われていた石材や、食用に耐える魔物の肉が物資に当たるだろうが……大陸間を移動する労力をかけてまで運ぶほどの価値が石材や魔物の肉には無かったのだ。


 ……生き残った人類は僅か三千人程度だったので、備蓄していた分を使えば十分賄えてしまったし、石材や魔物の肉は近くで手に入れる事が出来るからだ。


「では、この滅茶苦茶な状況はいったい何故?」

「残念ながら、分かりません。ザンターク達神々や、魔竜人や鬼竜人ら、ヴィダの新種族達がいた魔大陸と違い、魔物を減らし、汚染を抑える存在がいなかったためだと推測する事は出来ますが」


「……魔物を狩る事がどれだけ大切か、分かりますね」

 しみじみと頷きながら、ヴァンダルーは再度魔王の大陸を見つめる。だが、目に映るのは奇怪で過酷な環境ばかりで、人工物は……亜人型の魔物の集落も含めて、全く見つからない。


「ですが、接舷も着陸も出来そうにないのが一番困りますね。大陸の上空からクワトロ号で女神が封印されている場所を探すと、魔物と延々戦い続ける事になるでしょうし……目立つでしょうからね」

『このまま大陸の外周を回り、安全そうな場所を探すしかないかな?』

『いざとなったら、陛下君と護衛として数人だけで降りて、陛下君が拠点用のダンジョンを創るって言うのはどうかな?』


 ヴァンダルーは、ザンディアとジーナの提案を少し考えてから「そうしましょう」と頷いた。


「接舷する場所が見つからなかったとしても、大陸の形が分かれば目的の場所が何処か探す手がかりになります。

 その後、拠点をダンジョンにすれば見つかり難くなります」

 クワトロ号もヴァンダルーの【魔王の影】で出し入れするか、グファドガーンの魔術で【転移】させればいつでも出航できる。


『じゃあ、早速行きましょう! ところで、北と南、どっちからにしますかい?』

「……じゃあ、北にしましょう」

 南は、何となく縁起が悪い気がする。転生者のアサギ・ミナミを思い出してしまったヴァンダルーは、北側から魔王の大陸の沿岸を回る事にした。


 それがいけなかったのか、実は大陸沿岸に着いた時から気づかれていたのか、雲海を進むクワトロ号の遥か下、まだ魔境化が及んでいない海面に渦が発生した。

 それだけならクワトロ号もヴァンダルーも気がつかなかっただろう。数千メートルも下の海面で渦が起こっても、航行に支障はないのだから。


「急速旋回」

『きゅ、急速旋回! 面舵ぃ!』

 【危険感知:死】の反応に気がついたヴァンダルーの言葉に従って、『死海四船長』達が弾かれたように動きだし、クワトロ号が軋むような叫び声をあげる。


 そして、ほんの少し前までクワトロ号が存在していた空間に、大きな水柱が……竜巻と巻き上げられた海水が下から突き抜けた。

『チィ! 死角を突いたはずだが、何故気がついた!?』

 そして、竜巻の中からクワトロ号よりも巨大な龍が姿を現した。全体的に蛇に似た細長い体をした、『地球』のアジアに多いタイプだ。


 その迫力は『五悪龍神』フィディルグや、『暴邪龍神』ルヴェズフォルを軽く上回っている。

『だが、逃がさんぞ!』

 その龍の脚に捕まっていた巨人が、ひらりと空中に舞い上がる。


『受けろっ、裁きの雷を!』

 そして巨人が突き出した拳から、電撃が放たれる。

『いきなりなにしやがる! ぶった切るぞ、ご先祖様が!』

 同時に、ボークスが【魔王の欠片】で作られた巨大剣を振り回し、斬撃を放つ。だが、雷撃と斬撃は衝突する事なく交差し、それぞれの目標へと突き進んだ。


『ぬおう!?』

『おのれっ! 忌み子の成れの果てが、小癪な!』

 斬撃は、巨人と龍が身を捻った事で回避されてしまったが、それによって巨人が放った雷撃が途切れた。


『電撃ならあっしの出番でさぁ!』

 姿を現した【風属性無効】スキルを持つ、イビルシュバルツブリッツゴーストのキンバリーが自ら電撃の盾になる。雷は風属性の一部であるため、たとえ真なる巨人が放った雷撃でも、彼には効かないはずだった。


『全く効かぁぁぁぁああああばばばばば!?』

 しかし、巨人から放たれた雷撃に打たれたキンバリーの声が途中から悲鳴に変わった。


『キンバリーっ!? 何で悲鳴をあげてんの!?』

『ばばばっ!? かはぁーっ! それが、何でかは知りやせんが、滅茶苦茶痛みまして。ありゃあなんですかい!?』

 ボークスの攻撃で巨人の雷撃が途切れたため、キンバリーはすぐに雷撃から解放され、つぎの瞬間にはゴースト仲間のオルビアの近くに戻る事が出来た。


 しかし、電撃を無効にできるはずの彼は、明らかにダメージを受けていた。

「恐らく、あの雷撃に風属性以外の魔力を融合させたかどうかしたのでしょう。単純に混ぜただけか、俺や吸血鬼に対して有効な光属性の特殊版、神聖属性や【輝命】の魔術のように、高度な改良を行ったのかは分かりませんが」

『そんな事が出来るの!?』

「出来るのでしょう。あれは龍種と真なる巨人……ティアマトやタロスと同じ神様ですから」


 驚くザンディアに、ヴァンダルーはそう説明する。真なる巨人はヴィダの新種族の巨人種の片親になった種族であるため、巧みな魔術や特殊な力を振るうよりは、肉体的な力を振るう方が得意とされている。

 しかし、己が得意とする属性の魔術だけは、かなりの応用が可能だと伝わっていた。


「ヴァンダルーよ、思い出しました。あれは――」

 そうグファドガーンが龍と真なる巨人の正体を告げようとするが、ヴァンダルーは「それはちょっと後で」と彼女の言葉を遮る。


 見ると、龍と真なる巨人が体勢を立て直して再び攻撃を仕掛けようとしている。ボークスとミハエルが武技で斬撃を飛ばして攻撃しているが、距離が離れている上に大きさが違い過ぎるため、殆ど役に立っていない。

 それに対してクワトロ号は、突撃でも逃亡でもなく、側面を龍と真なる巨人に向けた。

『左舷大砲展開ぃぃぃっ! 出番ですぜ、大砲の方々ぁ!』

 『死海四船長』の号令に応えて、クワトロ号の側面に設置された大砲達が……大砲型使い魔王達が顔を出す。


『『『『どーれ』』』』

『ファイエルゥゥゥゥ!』

 大砲型使い魔王は声を揃えて狙いを付けると、船長の号令を合図にそれぞれ弾を轟音と共に撃ちだした。


『フハァ! ザッカートが作った玩具如きが我等に効くと――』

 それに対して真なる巨人は、大砲について知っていたようだが、かつてザッカートが作りだした普通の銃砲を大きくした程度の武器だと判断し、構わず攻撃を続けようとした。


『ば、馬鹿者! 避けろ!』

 龍はそう叫んだが、それに真なる巨人が応じる前に砲弾がぶつかった。

『何だ? 卵――!?』

 弾は、砲弾大の卵だった。だが、中に入っているのは黄身や白身ではない。


 殻が砕けた瞬間、内側に詰まった【魔王の脂肪】が大爆発を起こし、仕込まれていた角や結晶を撒き散らし、真なる巨人を爆炎で飲み込む。


 だが、流石は真なる巨人。【魔王の卵管】から産みだされた砲弾用卵の爆発にも耐え、煙の中から姿を現した。

『おのれ! ふざけた真似を――』

『ファイエルゥゥゥ!』

 だが、大砲から卵弾が連続で放たれ、真なる巨人の姿は再び爆炎と煙の中に呑みこまれた。


『ラダテル!? だから油断するなとあれほど言ったのだ!』

 煙の中から黒く焦げた真なる巨人、ラダテルが海面に向かって落下していくのを見て、龍は思わず毒づく。

「お前も他人の事は言えないでしょう」

 その龍に、煙を貫いて青白い二条の光線が放たれた。咄嗟に長い身体を捩って直撃は避けたが、側面を焼かれて尻尾の先端を切断され、大気を振るわせる悲鳴をあげながら、龍はラダテルの後を追うように海面に向かって落ちて行った。


 触角の先端につけた巨大【魔王の眼球】から怪光線を放ったヴァンダルーは、一息ついてからグファドガーンに話しかけた。

「それで、さっきの続きをお願いできますか?」

「はい。今巨大な水柱を作って海に落ちたのが、『雷の巨人』ラダテル。『巨人神』ゼーノの孫、『轟雷の巨人』ブラテオの息子の一人です。

 龍の方は『大渦龍神』ズヴォルド。『龍皇神』マルドゥークの孫、『大海龍神』マドローザの息子の一人です」


 グファドガーンは、巨大な水柱になった二柱の神、ラダテルとズヴォルドの名と素性を説明する。

「十万年前のヴィダとアルダの戦いでは両者ともアルダ側に付き、我々と戦いました。

 神としての格は、アルダやヴィダ達大神を上の上、タロスやティアマト達準大神とも評される神を上の下と仮定するなら、中の中から下といった程度です。

 ただ、あの者達は肉体を持つ亜神であるため、寄り代に宿った『雷雲の神』フィトゥンと違い本来の力を振るう事が出来る為、総合的に判断するとこの前のフィトゥンよりも、脅威としては上だと判断した方が良いかと」


「なるほど。アルダが俺達の動きを察知して、見張りとして配置していたようですね。フィトゥンの時と違い、近くに人里が無いから助かりましたけど」

 ヴァンダルーの言葉に、船員アンデッド達がざわめいた。彼らも自分達が伝説の魔王の大陸に向かっている事、そして魔王の大陸では神に匹敵する強大な魔物と戦う事になるかもしれないと覚悟はしていた。


 しかし、大陸の沿岸部で神々が見張りとして配置されているような大陸だ。これからもアルダ勢力の神々の襲撃は避けられそうにない。


『へへ、やってやろうじゃねぇか。俺達巨人種を忌子呼ばわりする奴は、ご先祖様じゃねぇ!』

『神々との戦いか……遂に贖罪の機会が巡って来たか』

『ヂュオォ、ご馳走を主に献上する機会! それに、私が神々相手に通用するか試す、格好の機会でもある!』

 だが、ボークスやミハエル、骨人は戦意を滾らせて目を爛々とさせる。


『まあ、今のを見た感じ、龍も真なる巨人もボークスとミハエルの武技を避けたり弾いたりしていたから、私達でもやってやれない事はないと思うよ』

『効かないなら、避けたりせず無視して攻撃していたはずだものね。後の問題は、やっぱり距離かぁ。今の内に、飛行用の使い魔王を創ってもらった方が良いんじゃない?』


 そしてジーナとザンディアは、先程の戦闘を分析して、自分達の力でも神に通じそうだと推測していた。


「でも、このまま巨人や龍と戦いながら封印された女神様を探すの? ボク、それは止めた方が良いと思う。さっき落ちた龍と巨人も、まだ死んでないよね?」

『何ィ!? まだ生きてるのか!? じゃあ、早く止めを刺そうぜ!』

 プリベルの言葉の後半に反応したボークスが、ラダテル達を追う事を主張するが、ヴァンダルーは首を横に振った。


「追撃も考えましたが、【危険感知:死】に反応があったので。後、慌ててここから動くのも良くないようです」

『ん? そいつはどう言う意味だ?』

 ヴァンダルーの答えにボークスが首を傾げると、それに応じるようなタイミングで、ラダテルやズヴォルドとは別の巨人や龍、巨大で神々しい獣や魚が空や海面からクワトロ号を大雑把にだが、包囲するように姿を現した。


 その数は十以上。その中でも一際大きい二人の巨人が指揮を執っているようだ。

『ラダテルとズヴォルド……未熟な小僧共が先走りおって!』

『先走っているのは貴様もだろう、ブラテオ。全員が揃ってから奇襲を仕掛ける手はずだったではないか。まだ三分の一も揃っていないぞ!』


『黙れ! 文句は奴がまだバーンガイア大陸に留まっていると見誤った、シリウスに言え! 戦うつもりがないのなら、封印を守りに戻るがいい! 貴様に空は似合わんぞ、ゴーン!』

 だが、険悪な様子で揉めている。どうやら、この状況は彼等にとっても想定外だったようだ。


『一度にこれだけの神が出て来るとはな……どうする、坊主!?』

「奴らの言葉がブラフでなければ、敵はこの三倍以上の数がいるようですから……隙を見て離脱しましょう。問題は何処へ逃げるかですが……」


 ヴァンダルーは周囲を見回した。

 グファドガーンの【転移】でバーンガイア大陸や魔大陸に戻ったのでは、魔王の大陸まで航海した甲斐がない。何処か無いだろうかと周囲を見回していると、魔王の大陸の沿岸の魔海の一つ、毒々しい紫や汚らしい緑の液体が混在している海が目に入った。


「あそこへ。俺達を……正確には、俺を呼んでいる存在が居ます」

8月26日に二百七十四話を投稿する予定です。

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