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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十一章 アルクレム公爵領編二
331/515

閑話40 輪廻神は邪推する(オリジン)

 墨田城……オリジンでは【ドルイド】のジョゼフ・スミスと呼ばれる男は、目は健康だと思っていた。実際、健康診断でも問題は見つからなかったし、視力は良好。

 そして精神も、最近は飛躍的に回復していると自分では思っている。悪夢にうなされ不眠に苦しんだり、幻聴や幻覚、フラッシュバックに悩まされたりする事が、今年に入ってからめっきり少なくなった。


 カウンセラーは彼が悪夢の代わりに見るようになった夢の内容のせいか、中々回復したと認めてくれない。しかし、快方に向かっているはずだと思っていた。

「久しぶりだね、ジョゼフ。君が来てくれて助かった」

「墨田先生……じゃないわよね。ジョゼフ君、本当にありがとう」

 久しぶりに顔を合わせた雨宮夫妻は、そう言って彼を迎え入れた。二人とは半年以上会っていなかったが、特に変わったところはないように見える。


「は、初めまして、ジョゼフさん! 俺、雨宮博って言います!」

「こらこら、スミスさんでしょ」

「いやいや、気にしないでください。男の子は元気な方が良いですから」

 初対面で名前の方でジョゼフを呼ぶ夫妻の長男である博を、やんわりと注意する雨宮成美。極普通の母と息子の姿だ。


『めー君、ご挨拶は?』

「めー、です。いっしゃい!」

「スミスおじさんにご挨拶できて偉いね、冥。上手、上手」

『ええ、上手ですよ、めー君』


 そして、成美に抱っこされた一歳の……確か後二ヶ月ほどで二歳になる長女の冥。その右隣りには妻と娘を見守る夫の寛人がいて……左隣に怪人が立っている。

 遠目には、マントを羽織り、不気味な仮面を被っているだけのように見えるだろう。しかし、約一メートルの距離から怪人を見つめるジョゼフには、四つの目と耳まで裂けた口は全て本物だという事が分かってしまう。


(あれは……夢に出てきて、私を宥め、寄り添い、導いてくれた謎の存在に、何となく似ている!)

 そしてジョゼフは、怪人……バンダーに見覚えがあった。何故なら、彼はヴァンダルーと夢の中で出会っており、その時彼から魂の欠片を与えられたからだ。


 ヴァンダルーの魂から作られたバンダーに、親近感を抱くのは彼からすれば当然である。

(だが、どうして見えるんだ? 私は今、起きている筈なのに。これは夢……いや、幻覚なのか!?)

 だが、即座にバンダーがどんな存在なのか理解し、受け入れられるほどジョゼフの直感は鋭くなく、彼は理論的な人物であった。


「すまないが、今日から三日、子供達の護衛を頼む。君以外にもボディガードや、軍や警察の護衛がつくが……」

「ああ、分かっている。相手は『第八の導き』かもしれないのだろう。油断はしない」

 そして内心の動揺を抑えこんで、雨宮夫妻と会話をしながら様子を伺う事が出来る程度には、彼は訓練を受けていた。


『やはり『第八の導き』の皆は強敵だったようですね』

 だが、バンダーはジョゼフが自分に対して反応しない事から、他の人間や【タイタン】の岩尾のように自分の事が見えていないのだろうと思い込んでいた。

 彼の本体であるヴァンダルーは、戦闘経験は豊富でも、時に諜報も行う軍の訓練を受けた経験はなかったのだった。


(雨宮達には見えていないし、声は聞こえていない? つまり……やはり私の幻覚か)

 そして雨宮夫妻に見えていない事から、ジョゼフもバンダーは自分が見ている幻覚、幻聴であると思い込んだ。

 こうして奇妙な三日の共同生活が始まったのだった。




 だが、バンダーとジョゼフの擦れ違いは一日目に解消された。

 ジョゼフが博の勉強を見ていると、やって来たバンダーが博に問題の解き方を囁いて教えたのだ。それを聞いた途端、博が算数の問題を解き始めたので、ジョゼフが「バンダーは自分にしか見聞きできない幻ではない」と気がついた。


『俺の事が見えるのですか。それは驚きましたが……それはともかく博、この公式を覚えれば問題を解けるようになるので、頑張りましょう』

「バンダーっ、そんな事言ってる場合じゃないだろ! でもおじさん、バンダーの事見えるのか!? スゲーっ、俺はバンダーが見せてくれないと見えないのに!」

「あ、ああ。もしかして、誰かの能力なのか? 雨宮達は知っているのか?」


 驚くジョゼフに対して、バンダーは首を横に振った。

『いいえ、俺は『ブレイバーズ』の誰かの能力によって作られた存在ではありません。それに、俺の事を知っているのは雨宮冥こと、めー君と博だけです。あの二人には秘密にしています』


「では、何故この家に居るのですか!? やはり、『第八の導き』……!」

『いえ、そう言う訳ではありません。俺はただ、友達のめー君に付けられた本体の分身です。目的は、めー君が健やかに育ち、幸福に過ごす事。それだけです』

「本体!? バンダー、俺、初めて聞いたんだけど!? 後、俺の事はどうでもいいの!?」


『どうでもいい訳がないでしょう。あなたはめー君の家族です。めー君の幸福は、大好きなお兄ちゃんが幸福でなければ達成されません』

 そう博に告げながら、バンダーはジョゼフに手で「少し待て」と伝え、更に続けた。


『こう言うと博がもう少し大きくなった頃に、『大切なのは冥の兄としての俺で、俺自身はどうでもいいんだろ!』と思うかもしれませんが、それも大きな誤解です。

 人間は産まれた瞬間から様々な立場を与えられ、それは一生ついて回ります。雨宮寛人と成美の長男で、めー君の兄である事は、あなたが死ぬまで変わりません。斜に構えず、捻くれず、否定せず受け入れる心を育てましょう』


「ええっと……まあ、何が言いたいのかは何となくわかったと思う。多分」

 かなり困惑した様子の博がそう返事をすると、バンダーは『それは良かった』と言って彼の頭を四本ある手の一つで撫でた。

 そしてジョゼフに向き直る。


『お待たせしました。出来ればこのまま、話を聞いてほしいのですが』

「……そうですね。話を続ける事に異論はない。幾つか納得できた事もある」

 バンダーが博に話しかけている間に、ジョゼフは思い出した。バンダーの声が夢で聞いた声と同じである事に。


 更に博と冥が誘拐された事件で、犯人達を惨殺したのがバンダーである事も察する事が出来た。

 あの人間業とは思えない死体の状態も、人外の存在の仕業なら不思議はない。

「しかし、まず言いたい事がある」


「ジョゼフさんっ、バンダーは見た目が確かにあれだけど、良い奴なんだ! 本当なんだよ!」

 そうジョゼフとバンダーの間に割って入る博。その彼の為にも、ジョゼフは言わなければならない事があった。

『ありがとう、博。言いたい事は何でしょうか、スミスさん?』


「では言うが……先程の言葉は理屈っぽすぎる。言葉を尽くそうとしているのは分かるが、もっとストレートに思いを伝えるのも大切じゃないだろうか?」

『なるほど、確かに。

 博、大好きですよ。触手、触ります?』


「うわわわわっ!? 止めろよ~っ!」

 ジョゼフの言葉を即座に採用して、博を後ろから抱きしめつつ触手を伸ばすバンダー。博は驚きと照れを浮かべながら、必死な様子で触手を振り払う。彼は妹と違い、にょろにょろした物が好きではないらしい。


「にょろにょろ~♪」

 そしてお昼寝から起きた冥が、バンダーにトコトコと歩み寄る。その様子から、ジョゼフはバンダーが子供達に対して害意を持たない者には、無害な存在だと理解したのだった。




 勉強を終えた博が秘密の修行……無属性魔術の修行を始め、冥が再びお昼寝をしている間、バンダーとジョゼフは会話を重ねた。

 他のボディーガードは子供達のいる部屋の外で護衛しており、彼等には最初からバンダーの声は聞こえない。先程の騒ぎも、子供達と遊んでいただけだとジョゼフが誤魔化した。


 彼らと違いジョゼフがバンダーの姿を見て、声を聴く事が出来るのは、彼の能力である【ドルイド】が原因だろうという推測が成された。

 本来は植物を操る能力だが、生命属性魔術に近い力であるためかジョゼフは、生命体のオーラを見る事が可能だった。

 それで、冥の魂の一部であるバンダーをオーラとして視認出来たのだろう。


「まさか、そんな事になっていたとは……『第八の導き』と合衆国のヘクサゴン壊滅の裏で、六道が糸を引いていたなんて、信じ難い。いや、信じたくない」

 そしてバンダーはジョゼフの耳元で、囁くようにカナコ達から聞いた『オリジン』での情報を話した。

 それは、ジョゼフに自分の存在を黙っていてもらうために事情を話す必要があった事と、彼自身に六道に対して注意するよう頼むためだった。


 ただ、『ラムダ』の事や自分の正体については話さなかった。『ラムダ』について説明すると情報の量が多すぎるし、ジョゼフがそこまで信じてくれるか分からなかった。それに、自分の正体を知った事で『第八の導き』との関係や、『ブレイバーズ』との確執を疑われるかもしれないからだ。


「ですが、あなたには嘘をつく理由がない。それに六道が【メタモル】をマインドコントロールして、操っているのなら、私が知っている彼のアリバイは意味が無い。彼は【メタモル】を影武者にして、同時に別の場所に存在する事が出来るのだから。

 信じましょう。あなたの正体も含めて」

 衝撃的な内容である上に、バンダーが全てを話していない事に気がつきつつも、ジョゼフも囁くような声で彼の説明を受け入れた。


 ちなみに、ジョゼフ達が囁き声で会話し続けているのは、今雨宮邸の中には『第八の導き』の残党を警戒するために、死属性の魔力も検知する事が出来るセンサーを搭載した希少な警報機器が設置されている。だから死属性魔術で音を消す事が出来なくなっているためだ。


『……俺が言うのもなんですが、信じて良いのですか? 俺が『第八の導き』でない根拠はありませんよ?』

「まあ、そうですが……疑っていたらきりがありませんから。それに、『第八の導き』なら私を助けたりはしないでしょうし……冥ちゃんならともかく、博君にあそこまで懐かれる事はないでしょう」


 ジョゼフの視線の先では、博が【念動】で積み木の組み立てを行い、魔術の制御を学んでいた。

 無属性魔術はこの世界では存在を確認されておらず、そのため無属性の魔力を検知するセンサーは発明されていないため、博は自由に練習する事が出来るのだ。


「しかし、そうなるとあなたはやはり、死後の世界から戻ってきた『アンデッド』なのか。だとしたら、何故私を助けるような事を? 私はあの時あの場所には居合わせなかったが……それでもあなたにとっては味方ではないはずだ」


 完全にではないが、自分の正体を言い当てたジョゼフの言葉を否定せず、バンダーは触手を伸ばしながら答えた。

『ただの偶然ですよ。夢の中で自己紹介した訳ではないでしょう?』


「そうですが……この事を雨宮達には?」

『話せると思いますか?』

「難しいでしょう。成美さんは分かりませんが、寛人に打ち明けるのは危険だ。彼は、死属性は存在してはいけない禁断の力だと仲間達に語っていました。あなたの事を……冥ちゃんの事を知った時、どう出るか分からない」


 ジョゼフにとって、雨宮寛人は善人だ。精神的にも、自分よりもずっと強く、安定しているように見える。しかし、娘が死属性の魔力を持っていると知った時、彼が今までと同じ良き父親でいられるかまでは信じる事が出来ない。


「だが、もし死属性の魔力を消す事が出来るのなら、彼は娘から死属性の魔力を消そうとするのは間違いないでしょう。もし娘が死属性の魔力の素質を持っている事や……あなたの存在が世間に知られれば、娘が『アンデッド』や『プルートー』と同じ立場になるのは間違いない」


『やはり難しいですね。雨宮寛人がめー君の父親でなければ、話は単純なのですが』

「……六道の方をどうにかする事は出来ませんか? 彼が裏で糸を引いていたのなら、死属性ではなくそれを利用しようとする人間が不幸の原因なのだと、雨宮の考えを改める事が出来るかもしれません」

 冥にとって良好な家庭環境を保ちたいバンダーに恩を感じ、雨宮にも友情を感じているジョゼフは、両者の関係が穏便に済む方法として、六道の悪事を明らかにする事を提案する。


 六道に他の転生者や政財界の大物が協力している事を知らない二人には、その案が雨宮対策にはもっとも現実的な手段に思えた。

『しかし、可能ですか?』

「私だけでは難しいと思う。ですが、彼の影武者にされている【メタモル】、獅方院真理を正気に戻し、その身柄を保護する事が出来れば動かぬ証拠になるはずです」


 獅方院真理は、社会的には『第八の導き』によって監獄を爆破され、死亡した事になっている。その彼女が六道の姿に変身して影武者をさせられていた事が明らかになれば、六道は破滅だ。

 真理が正気に戻った後に、影武者をさせられていた間の記憶が残っていればそれも重要な証言になる。


 そう語るジョゼフに頷きながらも、バンダーは答えた。

『問題は、俺が彼女のマインドコントロールを解けるかどうかですね。あと、本物の六道か【メタモル】かを見分けるのも難しいでしょうし』

「え、私の時のようには出来ないんですか?」

『俺が人の心を自在に操れるのなら、とっくに雨宮寛人を操って、六道を警戒させています』

「それは、確かに」


 ジョゼフの作戦は、バンダーが獅方院真理を助けられないのなら成功しない。

 バンダーも魔術や【魔王の欠片】による洗脳なら解く自信は在るが、長期間施された獅方院真理の洗脳を解けるのか、自信はなかった。


 尤も、その真理にも夢でヴァンダルーが魂の欠片を与えていたのだが……バンダーもヴァンダルーも、それに気がついてはいなかった。


「じゃあ、どうしましょうか? 私だけでは出来る事に限界があるのですが」

『あなた以外にも魂の欠片をあげた人が何人かいるので……縁があれば会う事もあるでしょう。それまでは、現状を維持しながら様子を見るという事で。

 決して無理はしないでください』

「そうするしかありませんね……」


 ジョゼフが危険な真似をして六道に捕まり、バンダーの存在が知られれば冥が危険に晒される。

 それにバンダーも、ジョゼフを捨て石にするつもりはなかった。そんな理由で彼の本体は、ジョゼフに魂の欠片を分けたつもりはないのだから。


「バンダー、積み木の城が出来たっ」

 【念動】の課題を熟した博が、バンダーがいるだろうジョゼフの周りにやって来てそう小声で報告する。見てみると、確かに積み木で城が組み上げられていた。


『よく出来ましたね。博は、俺よりも呑み込みが早い』

「そ、そうかなぁ?」

『ええ、そうですとも。では、次はトランプのピラミッドを作ってみましょうか』

 バンダーが次の課題を告げると、照れていた博の顔が鮮やかに変わる。


「それ、凄く難しいやつ! もっと簡単なのないの?」

『まあ、ぶっちゃけると大人でも難しいと思います。でも、あなたなら出来るようになると思いますよ。それが出来たら、次の魔術を教えましょう』

「ん~、分かった。でも、ちゃんと魔力を分けてくれよな」

『ええ、勿論』


 口をへの字に曲げながらも、満更でもない様子で博は冥の積み木を片付け、ピラミッド作りに挑戦し始める。

「魔力を分けられるとは……無属性魔術と言うのも、奥は深そうですね」

『まあ、練習と魔力次第ですがね。博には、才能があるようです。

 ああ、そろそろおやつの時間なので、冷蔵庫のゼリーをめー君に食べさせてあげてください』


「……そうでした。私は二人の護衛兼子守でした」




 その頃、神域ではロドコルテが『五色の刃』のメンバーの一人、エドガーの治療を終え、彼の魂をアルダ達の元に送り返したところだった。

『通常なら一年以上かかる作業を、半年とかからずに済ませたのだ。文句はあるまい』

 魔王の魂の微細な欠片、魂の粉とも呼べるものを使ったが、それでも文句を言われる筋合いはないとロドコルテは思っていた。


 エドガーの魂は傷つき、記憶やスキルだけではなく人格にもダメージが出ていた。それに『断罪の神』ニルタークの英霊ルークの魂の欠片を繋ぎにして元通り復元する。

 輪廻転生を司り、魂の専門家であるロドコルテにとっても難易度が高い作業だ。


 それを一年以内に終えるためには、魔王の魂の粉と言う劇薬を使うしかなかったのだ。

 町田亜乱は魔王の粉を使った事を正直に伝えた方が良いと最後まで主張していたが、ロドコルテはそれも無視していた。


 魔王の粉は、魂の中の意味のない記憶や感情の残滓で、魔王グドゥラニス自身にとっても価値のない部分だ。粉を核にエドガーの魂を乗っ取るような事は、天地がひっくり返ってもあり得ない。

(身に覚えのない記憶を思い出し混乱する事や、人格に多少影響を受ける可能性ならあるが、それならルークの魂から受ける影響の方が遥かに大きいはずだ。

 その上で魔王の魂の粉を使った事をアルダ達に伝えれば、エドガーに対して無意味な警戒心を抱き、ヴァンダルー討伐に支障が出る可能性がある。故に、アルダ達に伏せた私の判断は正しいのだ)


 そう自己正当化を行ったロドコルテは、各世界の転生者達の様子を確認するため意識を切り替えた。

 『ラムダ』の情報は人間達の記録、そしてアルダ達から日々送られてきている。ヴァンダルーが相変わらず、好き勝手に人を導いている事も、輪廻転生システムがあげるエラーの警告音で分かった。


 最近では円藤硬弥や島田泉が素早く対処するので、その警告音もすぐに鳴りやむようになっていたが。

『ヴァンダルーが今回魂を砕いたのは、魔王軍の残党か。厄介な事だな』

 邪悪な神の配下の魔物は魔王式輪廻転生システムの管轄なので、幾ら魂を砕かれてもロドコルテは構わない。魔物の主人である邪悪な神についても同様だ。


 そもそも神の魂の行方については、ロドコルテも詳しくは知らない。もしかしたら、ロドコルテ達神々よりも更に上位の存在が神々の魂を管理しており、今頃ヴァンダルーの行いに頭を悩ませているかもしれない。

 だが、仮にそうだったとしてもロドコルテ達には関係ないだろう。グドゥラニスが配下の邪悪な神々や敵であるラムダの神々の魂を砕いた時も、居るかもしれない上位の存在が出て来た事はないのだから。


 そうした妄想はともかく。最近のラムダの情報を確認したロドコルテは、アルクレム公爵領の現状を知り溜め息を吐いた。

『これでまたヴァンダルーの、ひいてはヴィダの勢力が増し、アルダの勢力が削られるか。信者どころか、神々まで奪われるとは。

 手ぬるい事だ。ゼーゾレギンが健在だと分かった時に、アルクレムの街やボルガドンごと攻撃し、壊滅させてしまえば良かっただろうに』


 そうすれば損失は同じでも、ヴィダ派の神々の信者は増えず、人間社会にモークシーの町以上に大きな橋頭堡を与えずに済んだ。問題は百万人程死人が出る事だが、その死人の霊はヴァンダルーに利用される前に回収し、輪廻転生システムにかければいいだけだ。


 アミッド帝国の大神殿の教皇に、素質のある者を付けたのだから、オルバウムは帝国に侵略させても問題ないはずだろうに。

『いや、ヴァンダルー達は【転移】で逃げるか。そうなると、地上に干渉し大都市を滅ぼすのは力の浪費につながる。後の戦いが不利になるのを嫌ったのか。なるほど』


 そう勝手に納得すると、ロドコルテはビルギット公爵領にいるアサギ達、バーンガイア大陸を出たマオやゴトウダ。そして、【ウルズ】のケイ・マッケンジーを見た。


『そろそろ五歳のはずだが。転生先を死産となるはずだった胎児の身体にした分、受精卵から転生するよりは成長しているはずだからな。

 しかし、未だ記憶は戻ってはいないか。後数か月から半年ほど様子を見るか』


 そして次は『オリジン』の転生者達に視線を移す。まずは死属性の研究を続ける【アバロン】の六道聖と、その仲間達。まずないだろうが、研究が成就して不老不死に到達されでもしたら困るからだ。

『今のところはその兆候はないようだな。では、雨宮寛人達は……』

 その六道を倒し、死属性の研究を止めてくれる事をロドコルテに期待されている雨宮寛人も、特に変化は見られない。


 そしてそれ以外の転生者達は――。

『何だ、これは!?』

 【ドルイド】のジョゼフの記録を見た途端、ロドコルテは驚愕の叫びをあげた。彼の記憶に、バンダーの存在が映っていたからだ。


『馬鹿な。これはヴァンダルーの魂の一部、分身か。何故この世界に……どうやって、何の目的で!?』

 驚愕するロドコルテが慌ててシステム内の人間の記録などを調べるが、それは分からなかった。

 直接バンダーと話しているジョゼフや、博、そして冥の記録を探ろうとしたが、ジョゼフと博の記録には映像や音声にノイズが混じって詳しい事が分からない。冥に至っては、見る事すら出来なかった。


『私の輪廻転生システム以外のシステムが存在しない、ステータスもスキルも存在しない『オリジン』で、導いているのか? 『オリジンの神』がヴァンダルーに協力しているとしても、そんな事が可能なのか?』

 ステータスシステムは『ラムダ』世界の内のみ有効なものだと考えていたロドコルテは、大いに困惑したが、事実として冥や博、ジョゼフは半ば導かれていると感じた。


 いや、ロドコルテ自身が口にしたように、『オリジン』世界だからロドコルテの輪廻転生システムに留まっているだけかもしれない。彼女達がもし『ラムダ』世界に移動したら、その瞬間完全にヴィダ式輪廻転生システムに組み込まれる事になるだろう。


 いったい、何故こんな状態になったのか?


『まさかズルワーンの手引きか? そして雨宮寛人の長女に己の魂の一部を植え付けたのは……転生者達の情報を雨宮寛人の近くで集め、ゆくゆくは長女の肉体を乗っ取り、転生者達が転生する前に魂を喰らうため?

 ……いや、もしかしたら『ラムダ』が滅びた時の為に、『オリジン』を侵略するつもりかもしれん』


 アルダ達神々とヴァンダルーを筆頭にしたヴィダ派の神々の戦いは、世界を国に例えると内戦だ。両陣営とも争いに勝たなければならないが、やり過ぎればラムダ世界が滅びてしまう。

 ヴァンダルーがもし戦いに勝っても、アルダ勢力の神々の多くを滅ぼしてしまえば、世界の維持管理が行えなくなり、『ラムダ』は遠からず滅びる。


 そうなってしまった時の為に、保険として異世界に自分の分身を送り込み、有事の際は世界と世界を繋ぐ【転移門】を開き、魔王グドゥラニスがかつて行ったように異世界を侵略するつもりではないか?

 いや、魔物やアンデッドの数が極端に少なく、ステータスシステムが存在しない『オリジン』の人間達の軍事力は、ヴァンダルー達の前では容易く捻られてしまう。アルダ達との決戦前に、侵略してしまうかもしれない。


 そして『オリジン』の全人類を殺してアンデッドにし、ヴィダ派の神々を信仰させる。約百億匹のアンデッドの祈りに支えられたヴィダ派の神々の力は、アルダ達を上回り、戦いを優勢に進める事が出来、その後の世界の維持管理も余裕を持って行えるだろう。

 それが狙いだと、ロドコルテは推測した。


『何という事だ!『オリジンの神』も協力している以上、このままでは『オリジン』の全人類がアンデッドにされてしまう……』

 そして、自分の推測が正しいと確信した。


 何とかしなければと焦るが、『ラムダ』世界の神であるアルダ達に警告しても、『オリジン』では何もできない。ロドコルテ自身も、『オリジン』の人々に信仰されていないため、輪廻転生以外では何の手出しも出来ない。

 転生者達に神託を出す事は可能だが……。


『雨宮寛人と成美に警告したとして、同じ転生者はともかく自分達の子供を殺せるかどうか……寧ろ、ヴァンダルーの分身に私が二人に警告した事を気がつかれ、魂を滅ぼされてしまう危険がある。

 ならば……ヴァンダルーの分身が警戒している六道聖を利用するべきか』


 六道聖を煽り、ヴァンダルーの分身の注意が彼に向いている間に、雨宮寛人達に警告する。

 これしかヴァンダルーの分身を排除する方法はない。

『まさか六道聖の死属性研究を、私が後押しする事になるとは。しかし、彼に私の神託が正しく伝わるだろうか?』

 そう疑問に思いながらも、ロドコルテは神託を送る準備を始めた。


 その一連の様子を眺めていた亜乱達は、どうしたものかと頭を押さえていた。

『……賭けてもいい。絶対あの推測は外れだ』

『その賭けは成立しないわよ。ハズレに賭ける奴なんていないから』

『それもそうか』


 亜乱達ロドコルテの御使いは、ヴァンダルーが『ラムダ』での戦いを有利に進める為、『オリジン』世界を侵略し全人類をアンデッドにするつもりだと言うロドコルテの推測を、欠片も信じていなかった。

 確かに、ヴァンダルーにとって『オリジン』は良い思い出がない世界だ。その上、二度目の人生での両親はどちらも彼を捨てている。彼を信仰する『第八の導き』が一人も残っていない。


 ヴァンダルーと『オリジン』世界の関係は、ヴァンダルーやレギオンが【オリジンの神の加護】を持っている事を知らない亜乱達からすると、切れているに等しい。

 彼にとって『オリジン』世界の人類の殆どは、「どうでもいい存在」でしかないだろうと、彼等は考えていた。


『だが、彼は『どうでもいいから殺しても構わない』とは考えない人だろうからね』

『ああ、零をマイナスとは考えないだろうな』

 特に面識がなく、縁のない他人でも、相応の理由もなく殺す事はない。相応の理由があると躊躇わない点は、『地球』の一般的な日本人とは大きく異なるが、少なくともロドコルテが心配しているような事はしないだろう。


 実際、『オリジン』ではなく、『ラムダ』でだって同じ事は出来るのだ。人間をアンデッドにして魅了し、ヴィダ派の神々を信仰させるのは。

 それをしていないのだから、『オリジン』でも実行する事はないだろう。


『とは言っても、あの様子では私達が何を言っても聞かないだろう。止められないし、放っておくしかないな』

『ヴァンダルーもいつか気がつかれるとは思っていただろうし、自力で切り抜けて貰いましょう。それより亜乱、ヴァンダルー達が『法命神』達との戦いに勝つ可能性は、どれくらいあるの?』


『んー、……【演算】するが、あんまり当てにするなよ。ヴァンダルー達の戦力は推測だし、アルダ達の方もロドコルテや俺達を信頼していないから、詳細なデータは無いんだから。

 だが……ヴァンダルーがヴィダ派の神々と一緒に総力戦をアルダに仕掛ける場合は、現時点で一割以下だな』


 まずアルダ達は神域に居るので、ヴァンダルー達は何らかの方法で神域に行かなくてはならない。

 次に、神域は英霊や神々のホームグラウンドだ。地上では制限がある英霊や神々が全力を振るう事が出来る。

 最後に数の差である。アルダ勢力の神々は多く、更に十万年の間に英霊に至った英雄達や、亜乱と同じように御使いになった人間達が無数にいる。


 ヴィダ派も数は多いし、ヴァンダルーの仲間には神々と戦える者も少なくない。だが、それでもアルダ勢力の方が数は多いのだ。

 しかもアルダ勢力の英霊達には、地上に降臨した時と違って時間制限はなく、そしてフィトゥンが作った急造英霊と違い装備も、いわゆる神々の武具を揃えている。


『まあ、単純に勝つだけなら五割ぐらいあると思う。ヴィダ派の神々は消耗している神が多いが、ザンタークにファーマウン、グファドガーン、ティアマト、原種吸血鬼、そして消耗していてもヴィダ達大神も三柱。何よりヴァンダルーがいるからな。

 だが、勝った後ヴァンダルーが滅ぼした神や、力を消耗した神々が多ければ世界の維持管理を熟せないから、結局世界ごと滅びる』


 『法命神』アルダ達は、攻め込んできたヴァンダルー達に対して死力を尽くして応戦するだろうし、ヴァンダルー達もアルダ達に手加減して勝つのは不可能だ。

 アルダ勢力もヴィダ派も消耗し、結局世界と共に皆滅びる可能性が最も高いだろう。それが亜乱の【演算】結果だった。


『まあ、そもそも神域にヴァンダルーが仲間を連れて行けるのかが問題だけどな。後、これはベルウッドが眠っている状態を想定した計算だからな。ベルウッドが復活したら、更に勝率は下がる』

『ちなみに、ロドコルテの推測が正しかった場合は?』

『『オリジン』の人類約百億総アンデッド化作戦か? その場合は、ヴィダ派の勝率九割以上は硬いな。『ラムダ』のアルダ勢力の神々の信者の百倍以上の信仰だから』


『……つまり、ロドコルテの推理もあながち的外れじゃないのね』

『しかしそんな作戦、ヴァンダルーは発想もしていないだろうから……近いうちにヴァンダルーがアルダと決戦に臨む事はないという事か』

 硬弥の言葉に、亜乱は大きく頷いてから、こう続けた。


『だろうな。俺としては、ヴァンダルーから決戦を仕掛けるような事はしないと思うぜ。アルクレム公爵領でしたように、アルダ勢力の神々の信者を、ヴィダ派の神々の信者に転向させていき、タイミングを見てアミッド帝国を侵略する。

 それでアルダ勢力とヴィダ派のパワーバランスが逆転する。その前にアルダ達も何か手を打つだろうが……神域に攻め込むより地上で決着をつけた方が、ヴァンダルーにとっては有利だ』


『……なら、私達にもまだしばらく時間がある訳か。亜乱、硬弥、システムの運営と管理には慣れた?』

『普通に回すだけなら。エラーにも慣れてきたが……応用はきついな』

『同じく。万全を期すためには、あと数年は時間が欲しい』


 なら、昨日までと同じ事を続けよう。三柱の御使いは頷き合うと、輪廻転生システムの補助に戻った。

コミックウォーカーとニコニコ静画で拙作のコミカライズが始まりました! もしよろしければ第一話をご覧ください。




また、書籍版第四巻が7月15日発売予定です。一二三書房公式ホームページの商品情報→発売予定のタイトルで、カバーイラストと試し読み、購入特典が公開されました! 是非ご覧ください!




7月18日に閑話41を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
あの3人、ロドコルテを見切って銃後のフォローする気満々なんだろうな・・・
[気になる点] ■この物語の「品格」ないし「品性」が高くない理由   ●登場人物の男性の会話の「第一人称」が、  殆どが『俺』であるため。   ●登場人物に『僕(ボク)』と発言する人が増えれば、「品格…
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