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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十一章 アルクレム公爵領編二
327/514

二百六十七話 正体を現す邪悪神、ゼーゾレギン

『いたぞ!』

『追えっ! 地上に降臨させるな!』

 アルダ勢力の神々の神域では、大騒ぎになっていた。


 『山の神』ボルガドンに封印されていると思われていた、二柱の邪悪な神、『強奪の悪神』フォルザジバルと『共食いの邪神』ゼーゾレギン。それが実際には、ゼーゾレギンがボルガドンとフォルザジバルを喰って吸収し、封印されているように偽っていた。

 それが明らかになったためである。


 愕然とした神々だったが、すぐに自分達の中に巣食っていた間者を捕まえにかかった。

 間者とは、『山の神』ボルガドンの御使い。そう偽っていた、ゼーゾレギンの御使い達の事だ。彼の御使い達は、擬態人間のように姿を自在に変化させ、他の御使いを吸収同化するような能力は持たないが、優れたスパイだった。


 十万年以上、神々の目を欺き続けたのだから。御使いの中には他の土属性の神々に謁見し、何度となく直接言葉を交わした者もいたのだが、その正体が邪悪神の走狗である事を気がつかれる事はなかったのだから。


『これで全てか?』

『少なくとも、我々の手が及ぶ範囲に存在する御使いはこれで全てだ。尤も、残っていたのは自我を持たない、魔力で創られた御使いばかりのようだが』

『事前にばれる事を予想し、己の近くに引き戻していたという事か……法の杭を打たれても、本体に影響が出ないように。なんと狡猾な奴だ』


 アルダ勢力の神々に仕える英霊達は、捕獲したゼーゾレギンの御使い達を見降ろしながら、悔しげに顔を歪ませる。数だけで考えれば中々の戦果だが、実際は切り捨てられたトカゲの尻尾を拾い集めたのと変わらないのだから、当然だろう。


『何故約十万年もの間、神々にとっても長い時間、奴らの正体に誰も気がつかなかったのだ。幾ら、吸収したボルガドンの魔力や神格を利用していたとしても、おかしいではないか!』

 ラムダの神々は全知全能、万能無限からは遠い存在だ。しかし、人間を超越した存在である事に違いはない。

 その神々ならもっと早く、ゼーゾレギンの存在に気がつく事が出来たのではないか?


『奴の存在がもっと早く明らかになっていれば、『雷雲の神』フィトゥン殿も自棄を起こす事はなかっただろうに……!』

 風属性の神に仕える英霊が、そう運命の皮肉を嘆いた。本物の戦いから遠ざかった故に、神としての道を踏み外したフィトゥンがゼーゾレギンの存在に気がついていれば、彼は邪悪神との戦いに嬉々として赴き、それで満足していたかもしれない。


 神にあるまじき最期を迎える事も、なかったのではないだろうか? そう思う英霊に、槍を持っている英霊は首を横に振った。

『無理を言うな。確かに神々なら、邪悪な企みに気がつく事が出来るだろう。だが、逃げた者達も含めてゼーゾレギンの御使い達の頭の中に、邪悪な企みが無いのでは気がつきようがないだろう』


『何を言っている!? 邪悪神が邪悪ではないとでも言うのか!?』

『違う。ただ単に、俺達が捕まえた御使いも、逃げた御使いも、この十万年間普通の御使いと同じ事しかしていなかったから、怪しいと神々ですら疑わなかったのだと言いたかったのだ』


『な、何だと? そんなはずが……』

 言われた英霊は思い返してみるが、ゼーゾレギンの御使い達は十万年の間怪しい言動を見せた事はなかった。それどころか、極めて真面目に御使いとしての務めを果たしていたように見えた。


 特定の情報について不自然な調査をしたり、手に入れた情報を秘匿したり、偽情報を他の神々の御使いに流して混乱を引き起こそうとしたり。そんな事は何一つしていない。

 自分の主人以外の神々にも敬意を持って対応し、この世界の維持管理を『眠っている』と評していた主人のボルガドンの分も調整し、ヴァンダルーに関する情報も残らず報告していた。


『確かに……おかしなところが一つもない』

『ここ数日は様子がおかしかったが、それは事を起こす事をゼーゾレギンから伝えられていたからだろう』

『では、こいつ等は何がしたかったんだ?』

 斧を肩に担いだ英霊が訝しげな顔で顎に手を当てると、他の英霊が答えた。


『『法命神』アルダを頂点とする、神々の動向を探るためだろう。自身が疑われていないか、神々に大きな隙がないか確かめるために。……普通の御使いも、主である神に見聞きした事を報告しているので、これも怪しい動きとは言えないがな』


『それだけなのか? やろうと思えば、大規模な悪事も働けただろうに。我々は誰一人奴の正体に気がついていなかったのだから』


『確かに、魔王グドゥラニスに率いられていた邪悪な神々の一柱とは思えない、臆病とすら感じる程の慎重さだ。御使いは勿論、僕の擬態人間達にやらせてきただろう事も含めても。

 だが、その臆病なほどの慎重さのせいで、ゼーゾレギンの存在に誰も気がつかなかったのだろう?』


 槍を持つ英霊の言葉に、他の英霊達も『確かに』と頷いた。今回の一件……ゼーゾレギンがヴァンダルーの【魔王】スキルを狙って起こした事件がなければ、神々は今もゼーゾレギンの正体に気がついていなかっただろう。そして数百年後か数千年後か、いつか英霊達の言う『大規模な悪事』をゼーゾレギンが起こしていたかもしれない。


『それを考えれば、今回はヴァンダルーのお蔭という事になるのか。複雑な気分だな。ルークやヨシュアを含めた、数多の英霊を滅ぼした魔王に救われるとは』

『フンッ、魔王と言っても奴は人間だ。異世界からの転生者であっても、侵略者ではない。この世界そのものがどうにかなってしまえば、奴自身も困る。それだけの事だ。恩義を感じる必要はない』


『しかし、これからどうする? 我々は見ているだけでいいのか? もしゼーゾレギンが勝ち、ヴァンダルーを吸収同化すれば、とんでもない事になるぞ』

『その逆でも、とんでもないことになる。ヴァンダルーがゼーゾレギンを喰えば、奴の力は増すばかりだ』

 英霊達がそう言いだすが、槍を持つ英霊は溜め息を吐いた。


『見ているだけでと言うが、見ている事しか出来ないの間違いだろう。地上に降臨しようにも、我々の神の加護を受けた英雄候補達は、アルクレムの都から離れて一人も残っていない。『荒野の聖地』周辺も含めてな』

 神々は育ちきっていない英雄候補を害されないよう、彼らをアルクレムから離れた場所に向かわせ、ヴァンダルーから遠ざけた。


 誘導に失敗してアルクレムから三日程しか離れていない、モークシーの町に向かった者達もいるが、今から彼等をアルクレムに戻らせても、間に合わないだろう。


『確かに、その通りだが……魔王に託すくらいなら、いっそ!』

『自力で降臨するような自棄は起こさないでくれ。起こしたとしても、最悪の場合お前の言う魔王に降臨する途中で撃ち抜かれて終わる』

 同僚を止める槍を持った英霊だが、今の状況に思う事がないわけではない。


『それよりも、まず捕まえたこいつ等を封印して貰うため、神々の元に戻るのが先だ。その後は、恐らく他の邪悪な神々の封印が正常かどうか確かめる事になるだろう。第二第三のゼーゾレギンが潜んでいたら、それこそ世界の命運に関わるからな』


 しかし、自分達が魔王と呼び、英霊や神の魂を喰ったヴァンダルーに任せるしかないのが現実だった。

 出来れば共倒れになって欲しいところだが、そうはならないだろうと思いながら。




 三代目魔王を自称するゼーゾレギンの野望は、魔王グドゥラニスになり代わる事だが、実はそれでもまだ通過点に過ぎない。

 魔王となり、その力を使って神々の頂点を自称する『法命神』アルダを喰らって吸収同化する。


 それによってゼーゾレギンは、『魔王』であると同時に『法命神』、この世界の光と闇の双方に君臨し、人類を支配する唯一無二の存在となるのだ。


 そして世界と人類を管理する。意味もなく滅ぼすような真似はしない。この世界が無くなれば、ゼーゾレギンも困るのだから。世界の管理は今まで通り行い、人類が滅亡しないよう守護もするつもりだ。

 『魔王』としてのゼーゾレギンは魔物を創造し、災害を起こし、病を流行らし、愚か者を戦乱に駆り立てる。災いを起こして人類が増え過ぎないよう、力をつけすぎないよう間引いて管理する。


 そして『法命神』としてのゼーゾレギンが人々の祈りに応えて、信者の中にいる英傑に加護を与えて魔物を倒させ、災害や病から立ち上がり復興するための力を与え、戦乱に傷ついた人々を癒す。

 人類は『魔王』ゼーゾレギンを畏怖し、救いを『法命神』ゼーゾレギンに求め祈る。


 人類の祈りと畏れ、両方を独占する存在となった時、この世界はゼーゾレギンへ捧げるための食料を生産する人類牧場となるのだ。


 そのために十万年以上の時間を、邪神とは思えない程大人しく過ごした。この世界は何れ自分が手に入れる牧場、これはその為の実験……予行演習だと思えば、家畜である人類を繁栄させるために悩むのも、下僕である擬態人間を動かすのも、苦ではなかった。


 実際、人々は封印された悪神である『強奪の悪神』フォルザジバルを恐れ、『山の神』ボルガドンに祈りを捧げた。どちらもゼーゾレギンである事を知りもしないで。

 このマッチポンプが上手く機能すると確かめたゼーゾレギンは、具体的に自分が世界の闇と光に君臨するための策を練った。


 そして潜伏している間に本拠地である『荒野の聖地』を、本物の聖地だと思わせ、人間達に【魔王の欠片】や邪悪な神の封印を自主的に納めさせようとし、幾らかは成功した。

 後は傷を癒し、力を蓄えるだけだ。そして数百年後、再びアルダとヴィダが争い出したら寄り代に宿って、各地の【魔王の欠片】の封印を奪い、それらの力を使い、アルダ達神々を倒して吸収同化して更に力を高めるつもりだった。


 もしヴィダ派とアルダ派、両勢力の神々が再び大きな争いを始めていれば、ゼーゾレギンは野望達成のために動き出していただろう。

 だが、ヴァンダルーが転生した事で、全ての歯車が狂いだした。驚くべき速さで力を身につけ、グドゥラニス同様に魂を砕き、神々にすら滅びをもたらす異世界からの転生者。


 アルダ勢力の神々を倒し、勢力を弱めてくれた事自体は好都合だが、魔王の欠片を集め、次々に吸収しているのは都合が悪かった。

 何れ、この『荒野の聖地』にも来るに違いない。その時ゼーゾレギンが封印されていない事や、擬態人間の存在に気がつかれたら、十万年以上の努力は全て水泡に帰す。


 まずヴァンダルーに喰われないよう逃げねばならないが、逃げ延びても僕の擬態人間と人々からの信仰を失う。

 更に、アルダの『法の杭』から逃げる為、逃げ続けなければならない。

 それぐらいならヴァンダルーを倒して喰らい、魔王の欠片とヴァンダルーの力を手に入れ、そのまま『法命神』アルダをも喰らうと言う、一見無謀な策に出るとゼーゾレギンは決めた。


 少しでも勝率を上げるために、ヴァンダルーがアルクレム公爵と会談を行うこの日を決行の日と定めた。

 アルダ勢力の神々が自身の英雄候補達をアルクレムから遠ざけ、更に擬態人間を使って偽顔剥ぎ魔をでっち上げ、人々からアルダが司る法への信用を落とした。そして人々が顔剥ぎ魔を義賊として賞賛しても、逆に社会不安を煽る賊として畏れても、ゼーゾレギンの力となる。


 そして遂に【魔王】スキルを、ヴァンダルーを魔王たらしめているスキルを手に入れたのだ。


『さあ、恐れおののくがいい! これが新たなる魔王の力だ! ふはははははははは!』

 寄り代に宿ったゼーゾレギンが、哄笑をあげると、それに合わせて彼の肉体が膨れ上がった。ひょろりとした四肢が、見るからに薄かった胴体と首回りが、太く逞しくなる。


 それを見たヴァンダルーは、ゼーゾレギンが何をしたのかピンときた。

「【魔王の欠片】ですか」

『正解だ。この十万年の間、人間達が我の下へ届けてくれたものを、【吸収同化】したのだ!』


 当初、ゼーゾレギンの策では、【魔王の欠片】を吸収同化していくと言うものだった。

 他の欠片の使用者と違い、【魔王の欠片】を吸収同化によってゼーゾレギンの一部としたため、欠片が暴走する事はない。……欠片一つを吸収同化するのに、千年以上かかるのが難点だったが。


『だが、貴様の【魔王】スキルによって、これからは【吸収同化】が間に合わなかった欠片も使う事が出来る。ハハハハ!

 更に、我が僕達が十万年かけて集めたスキルを合わせれば、貴様等を倒す事も不可能ではない!』


 ゼーゾレギンは、『荒野の聖地』に残っていた擬態人間達を自身の寄り代に吸収し、そのスキルを全て宿していた。優れたスキルはゴルディとその補佐である『相棒』に渡していたため、殆どのスキルは5レベル以下だ。

 しかし、同じスキル同士を次々に統合させ、レベルを強引に上げていく。


『さあ、古き魔王よ! 王座を明け渡してもらうぞ!』

 存在感も、物理的な体積も倍以上に膨れ上がったゼーゾレギンが、隙のない踏み込みで間合いを詰め、拳を振るおうとする。


「【死砲】」

 その前に、ヴァンダルーが【死砲】を魔力のごり押しで発動させた。しかし、黒い光線はスキルのレベルが足りないためか、収束が途中で乱れて無数の【死弾】に変化して飛び散った。


『ぬぐあっ!?』

 不意を突かれたゼーゾレギンは足を止めて回避に専念するが、散弾の幾つかを受けてしまう。その彼に、グファドガーンが攻撃を仕掛けた。


「貴様如きが、至高なる御座につこうなど、傲慢にも程がある。身の程を弁えよ」

 エルフの美少女に擬態した寄り代の姿を現し、縦に裂けて体内の亜空間に収納している蜘蛛の脚に似た器官を繰り出した。


 小柄な少女の中にあったとは信じ難い長さと太さの蜘蛛の脚、その先端に生えた鉤爪が縦横無尽に振るわれ、ゼーゾレギンを攻め立てる。

『至高なる御座だと!? 貴様が崇拝していたのは魔王ではなく、ザッカートであったはずだぞ!』

 しかし、ゼーゾレギンは【格闘術】の武技【柳流し】でグファドガーンの節足を捌き、逆に掴みとって圧し折ってしまう。外骨格が砕け、青い体液が飛び散る。


「その通りだ。偉大なるヴァンダルー・ザッカートが在る座こそ、至高なる御座である」

 しかし、痛みを感じないのか、節足を何本か折られる程度では大したダメージにならないのか、その声に動揺は見られなかった。


「……別に魔王の座自体は渡しても構わないのですけどね、俺は。ところで、足を捕食されたらスキルを奪われるのではないですか?」

「その危険を予想したので、まずは私が。私はグファドガーンの寄り代。スキルを奪われても、後日また寄り代に宿り直せば元通りです」


 グファドガーンの寄り代にとって、節足の数本程度は人間にとっての小指程度でしかない。擬態人間に捕食されたとしても、スキルを奪われる事はないはずだ。

 しかし、相手は擬態人間ではなく、その創造主であるゼーゾレギンの寄り代だ。擬態人間よりも強力なスキル強奪能力を持っていても、おかしくはない。


 それを確かめるために得意な空間属性魔術ではなく、彼女は肉弾戦で挑んだのである。

「しかし、この様子ではその危険性は無いようです。邪悪神の寄り代とは言え、スキルの強奪は擬態人間と同じと見るべきかと」

 圧し折った節足を捕食する様子がない事から、グファドガーンはそう判断した。


『抜かせっ。貴様のスキルに興味を覚えんだけだ!』

 そう言いながら、更に繰り出された節足を叩き折るゼーゾレギン。しかし、その言葉はただのハッタリで、実際はグファドガーンの判断が正しかった。


 スキルの強奪は、ゼーゾレギンが元々司っていた『共食い』に、彼が吸収したフォルザジバルが司っていた『強奪』が合わさった事で、偶然誕生した能力だ。

 『時と術の魔神』リクレントが作り上げ、魔王グドゥラニスが干渉し、そして『ステータスの神』達が運営するステータスシステム。彼らのスキル強奪は、そのシステムからすれば不正利用だ。


 そのためか神であるゼーゾレギンも、スキル強奪に関しては創造物である擬態人間と同じ程度でしかない。彼が『ステータスの神』を喰らえば、変わるかもしれないが……今は、これが限界である。


「私の空間属性魔術に、貴様が興味を持たない訳がない」

 しかし、ゼーゾレギンのハッタリも、グファドガーンの自負の前には脆くも崩れ去った。

『そう言う事なら、もう様子見をする必要はない!』

 そう叫んで前に出たのは、首にチョーカーを嵌め、拘束具と鎖を連想させる鎧に身を包んだ女だった。


『ヴァンダルー様になり代わろうという不敬、ヴァンダルー様の腹を満たす事で償うがいい!』

 モークシーの犯罪組織をほぼ完全に掌握したため、一日休暇を取ってヴァンダルーの影に潜んでいたヴァンパイアゾンビ、『蝕帝の猟犬』アイラである。


『ガアアア! パウヴィナの分もっ、殺す!』

『『『アアアアアアア!』』』

 更にアルクレム公爵達にはまだ刺激が強いだろうと、パウヴィナと一緒に影から出なかった、複数の人間や魔物の死体を繋ぎ合わせて創られたラピエサージュと、ヒュドラの首にそれぞれ異なる種族の美女の上半身を縫い付けて創られたヤマタが加わる。


『アンデッドまで連れ込んでいたとは……!』

 嫌悪感も露わにゼーゾレギンが叫ぶ。

 まだヴァンダルー達は気がついていないが、彼のスキル強奪が可能な対象に、アンデッドは含まれていない。アンデッドはそもそも生きておらず、人間だった者であって、人間ではないためだ。


 だからこそ、ゼーゾレギンはヴァンダルーが邪魔なアンデッドを連れてこないだろう都で、ゴルディにスキルを奪わせたのだが……。

「ばれなければいいのです、ばれなければ」

 ヴァンダルーの順法精神は、理由がなければ破らないが、相応の理由があれば破ってもやむない、と言う程度だったため、彼は強力なアンデッドと戦う羽目になっていた。


 しかしゼーゾレギンは、同じ神を二柱吸収した邪悪神だ。変身したアイラの【惨殺屍剣術】やラピエサージュの怪力、ヤマタの多重音波砲を受けても大きなダメージは負わず、すぐに対応しようとする。

 だが、それでも遅すぎた。


「神殿内、及び周辺に生命反応無し。巻き添えが出る心配もないので……【大骸炎獄滅連弾】、収納」

 ヴァンダルーの周囲に一つ一つが巨大な黒い炎で出来た髑髏が出現し、次の瞬間光に逆らって形を変え、伸びた影にアイラ達の姿が飲み込まれる。


『っ!? 取り戻したばかりの魔術で、これ程の術を行使できるはずが――!?』

「これは【神霊魔術】ですから。では、宜しく」

『はい! 皆行きますよ!』


 黒い髑髏に姿を変えたレビア王女達がゼーゾレギンに突撃していく。嘗て、ハートナー公爵領に存在した奴隷鉱山を消滅させた大魔術によって、ゼーゾレギンとその背後にあった神殿が飲み込まれ、轟音が響き渡った。

 これで終わったかと思われたが……土煙を割くようにして黒い刃が飛び出してきて、ヴァンダルーに迫った。




 ヴァンダルーが去った後の別邸での戦いは、早くも決着の時が迫っていた。

「ええい! 奴らにだけでかい顔をさせるものか! 我が【轟炎剣術】で塵にしてくれる!」

 『轟炎の騎士』ブラバティーユが、ゴルディの祖父よりも前の『崩山の騎士』の姿の擬態人間に切りかかる。


「確かにっ、このままじゃ良いところがない!」

 『遠雷の騎士』セルジオが、自身の大伯母の姿に擬態した擬態人間と切り結びながらそう同意する。

 彼等『アルクレム五騎士』は、サムの中に公爵が保護されたため、公爵の護衛をラルメイアに任せ、前線に出ていた。


「舐められたものだ。お前達の腕は、今までの『アルクレム五騎士』の平均的な水準から出るものではない」

「腕は我々の方が若干だが、優れている。この意味が分かるな?」

 擬態人間達はそう言いながら、それぞれブラバティーユとセルジオに攻撃を繰り出す。その言葉通り、彼らの動きは洗練されていて無駄がなく、敵ながら見事な武術だと思わせる。


 しかし、ゴルディの先祖役が放った鋭い斬撃はブラバティーユの剣に「ぬぅん!」と受け止められ。ジスティナの隙が無いはずの槍捌きを、セルジオが盾で回避する。

「確かに技は見事。地力も十分、だが同じ『アルクレム五騎士』で、そこまで実力に違いが出る訳なかろうが!」

 ブラバティーユの言う通り、歴代『崩山の騎士』を務めた擬態人間達は、ある一定以上に強くならないようにしていた。それは、表舞台で活躍しすぎると神々の注目を浴び、擬態人間である事が暴かれる可能性があったからだ。


「こっちは本物の大伯母上と同じスキルに能力値なんだろうが……お前が使っているのは、うちの家に伝わる槍術だ! お蔭で他の武術より先が読みやすいぜ!」

 そして他者からスキルを奪う事が出来る擬態人間は、それ故に自力で独自の武術や魔術を編み出す事を苦手としていた。そのため、スキルを奪った後自らの武術に組み込むような事はせず、そのままの方向性で使い続けていた。


「皆の偽物は、これで全部か」

「ほぼ見かけ倒しでござったな。サイモン殿達も、変身したら一気に勝てたようでござるし」

 擬態人間の屍を乗り越えて、ギザニアとミューゼが息を吐く。擬態人間達はモークシーの町でダルシア達が披露した変身装具についても知っていた。しかし、当然だが知っているだけでその機能を再現する事は出来なかった。


 ……見た目だけは再現できたので、見た目だけ変身する偽物もいたが。

「ザディリス……ボクが偽物を倒すのが遅れたばっかりに、知らない所で変身姿を披露する事になっちゃってごめんね」

 魔術とブレスで氷像と化した偽ザディリスを砕きながら、プリベルは本物のザディリスに詫びていた。


 だが、彼女達の活躍もあって、残っている擬態人間はブラバティーユ達が相手をしている、過去の人間に擬態した数人だけだ。既にゴルディの『相棒』も倒れている。

「最早目的は果たした! 我等擬態人間は、創造主ゼーゾレギン様の駒に過ぎん。このまま貴様等を足止めする事に、我々の命は費やす!」


 新しく擬態人間を産みだす事を止めたゴルディが、変身したダルシアと鍔迫り合いを演じながらそう宣言する。

 その瞳には死に対する恐怖はない。


「それは、立派な覚悟だと思うわ。でも、私達を足止めする事に意味があるとは思えないのだけど?」

「貴様等ほどの戦力を足止めする事に、意味がないはずがない」

「まあ、普通ならそうなのかもね。でも、あの子には味方が多いのよ!」


 乾いた音がして、ゴルディの剣にダルシアが持つ戦闘用包丁が食い込む。彼の剣は、倒れた『相棒』から回収した宝剣なのだが……。


「くっ! 上位スキルの所有者は厄介だな。【白炎獣推参】! 【氷竜推参】! 【鋼の連刃】!」

 このままでは宝剣が切断される。そう見て取ったゴルディは、【詠唱破棄】スキルで魔術を発動させ、超高熱の炎で出来た狼に、氷で出来たドラゴン。そして無数の刃を出現させる。


 彼ら擬態人間は奪ったスキルを分割する事は出来ないが、スキルが同じなら統合する事は可能だ。それによってゴルディは自身のスキルのレベルをある程度上げている。

 しかし、上位スキルに覚醒しているのは、元々彼自身が覚醒させた【盾術】と【鎧術】の上位スキル、【崩山盾術】と、【山壁守護術】だけだった。


 上位スキルへの覚醒はスキルの熟練度だけではなく、所有者自身の経験が必要なのだ。1レベルや2レベルのスキルを数十、数百統合しても届きはしない。


 更に、同じ名称のスキルでも中身は全く異なる事がある。

 【剣術】で例えれば、レイピアのような細身の剣を使う刺突主体の【剣術】と、バスタードソードのような大きな剣を振り回す【剣術】。両者はシステム上の呼称は同じ剣術でも、中身は全く異なる。


 こうした中身が異なるスキルは、名称が同じでも統合する事が出来なかった。

 しかし魔術系スキルは属性が同じなら、大体統合する事が出来る。それを利用してダルシア達を攻撃しようとするゴルディだったが―


「【氷腕群推参】!」

「えぇぇぇぇぇい!」

「【限界超越】、【千刃乱斧】!」


 しかし、炎の狼はプリベルが作り出した無数の氷の腕によって押しつぶされ、氷の竜はパウヴィナのオリハルコンの棍棒で砕かれ、無数の刃はバルディリアの武技によって阻まれた。


「あなたは逃がすと厄介そうだから、生け捕りなんてことは言わない! 【微塵斬】! 【雷蹴爪】!」

 ダルシアの包丁が閃きゴルディが全身から血飛沫を上げ、【混沌】によって猛禽類の鉤爪が生えた足による蹴りが腹に減り込む。


「こ、こうなれば……貴様のスキルを道連れに!」

 死が目前に迫っている事を悟ったゴルディは、ヴァンダルーにしたように腹部を変化させダルシアの脚を捕食しようとした。

「っ!?」

 だが、ヴァンダルーの腕と違って、ダルシアのオリハルコン製の骨は切断する事が出来なかった。


「貴様、この骨は!?」

「私があなたと肉弾戦をしていた理由が分かった?」

 ダルシアは脚を、胴体に生じた口に咥え込んだままのゴルディごと上げると、動きのとれない彼の首を戦闘用包丁で刎ねた。


 これで、ここの戦いにはほぼ決着が着いたのだが、その時遠くから爆音が響いた。




――――――――――――――




・名前:ギザニア

・年齢:38歳

・二つ名:【武姫】(NEW!) 【牛姫】(NEW!)

・ランク:9

・種族:大ウシオニサムライマスター(アラクネ大型種)

・レベル:90

・ジョブ:刀巫女

・ジョブレベル:7

・ジョブ履歴:戦士見習い、戦士、剣士、サムライ、魔剣使い、サムライマスター、鬼武者、狂戦士、節足闘士


・パッシブスキル

闇視(暗視から変化!)

剛力:1Lv(怪力から覚醒!)

敏捷強化:7Lv(UP!)

刀装備時攻撃力増強:中(刀装備時攻撃力強化から覚醒!)

身体強化:甲殻複眼体毛:9Lv(UP!)

能力値強化:忠誠:6Lv(UP!)

能力値強化:導き:4Lv(UP!)

糸精製:2Lv

高速治癒:7Lv(UP!)

毒分泌:2Lv(UP!)


・アクティブスキル

刀術:10Lv(UP!)

鎧術:7Lv(UP!)

格闘術:8Lv(UP!)

高速走行:4Lv(UP!)

限界突破:10Lv(UP!)

連携:7Lv(UP!)

魔刀限界突破:6Lv(UP!)

並列思考:2Lv(UP!)

御使い降臨:5Lv(UP!)

料理:1Lv(NEW!)

弓術:3Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ザナルパドナの加護

ガレスの加護

ヴァンダルーの加護(NEW!)




・名前:ミューゼ

・年齢:73

・二つ名:【水晶刃】(NEW!)

・ランク:10

・種族:クリスタルエンプーサクノイチマスター

・レベル:95

・ジョブ:クリスタルクノイチ

・ジョブレベル:12

・ジョブ履歴:盗賊見習い、盗賊、暗殺者、暗闘士、クノイチ、クノイチマスター、幻術使い、鎌腕使い、水晶剣士



・パッシブスキル

怪力:7Lv(UP!)

闇視

敏捷増強:3Lv(敏捷強化から覚醒&UP!)

能力値強化:任務:6Lv(UP!)

身体強化:甲殻鎌:10Lv(UP!)

忍具装備時攻撃力強化:極大(UP!)

結晶体精製:6Lv(UP!)

火属性耐性:5Lv(UP!)

気配感知:4Lv(NEW!)

毒耐性:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

擬態:6Lv(UP!)

晶刃腕術:1Lv(格闘術から覚醒!)

投擲術:7Lv(UP!)

鎧術:7Lv(UP!)

忍び足:9Lv(UP!)

開錠:6Lv(UP!)

罠:5Lv(UP!)

限界突破:7Lv

暗殺術:7Lv(UP!)

無属性魔術:1Lv

魔術制御:3Lv(UP!)

風属性魔術:4Lv(UP!)

発光:4Lv(UP!)

御使い降魔:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ザナルパドナの加護

リオエンの加護

ヴァンダルーの加護(NEW!)

コミックウォーカーとニコニコ静画で拙作のコミカライズが始まりました! もしよろしければ第一話をご覧ください。


また、書籍版第四巻が7月発売予定です。こちらもよろしくお願いします!


268話は7月2日に投稿する予定です。

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