二百五十九話 空中大戦闘
東の空が白み始めた頃、まだ闇で満ちた何処かで二人の人物が、何か相談していた。
「まさか、奴がラルメイアを始末しないとは。まさか、ステータスを見られた事に気がつかなかったのか? 奴ほどの存在が。それとも、わざと見逃したのか? 我々の策を潰し、公爵家から牙を抜くために?
神は、神は何とおっしゃられている!?」
「落ち着け。ラルメイアが書き残したメモの大部分は、書いている内に正気を失っていったためだろう、筆跡が乱れている。内容が支離滅裂で意味が分からない個所もあった。それを利用して、私が誤った方向に公爵達を誘導してある。
公爵達は奴が導士である事等、重要な事に気がついていない。能力値だのなんだのと、上辺だけの情報に踊らされている」
「それは不幸中の幸いだ。神の声を正しく聞く事の出来ない悲しき俗物達は、奴が導士だと知れば取り込みにかかるか……甘い蜜にありつこうと、今までの全てを捨てて追従しかねない。それでは、我々の神の意志に反する」
【導士】が社会に与える影響力は大きい。少なくとも、現代ではそう認識されている。
実際には、その導士が説く思想によって影響力は異なり、余人に理解できない思想の場合、導けるのは数十人から百人程度の小集団に留まる。
逆に、多くの人々に理解され、惹きつける思想の場合、国や大陸等の境を越えて影響力が拡大していく。
では、ヴァンダルーはそのどちらかに当て嵌まるのか? ヴァンダルーの導きがどんな思想か二人は知らないが、後者である事を確信していた。そうでなければ、神々が直接動くはずがない。
アルクレム公爵達がどう判断するかは不明だが、二人と同じくヴァンダルーの導きは後者よりだと考えれば、簡単に掌を返して膝を折る可能性が高い。
『蒼炎剣』のハインツに注目し、アルダ融和派に転向した時のように。
「だが、結局は不幸中の幸いだ。我々にとって、状況が好転した訳じゃない。だが、そもそも五騎士やアルクレム公爵家の戦力は当てになるのか? ただの盾なら、この聖務に参加する栄誉を身寄りのない子供達に与えた方がいいはずだ。
ラルメイア以外の三人でかかったとしても……やはり最初から我々が自ら出るべきではないのか?」
「それは思慮が足りない意見だ。確かに、五騎士が何人揃ってもヴァンダルーを倒す事は出来ない。だが、我々ならヴァンダルーは倒せる……そうとは言えないだろう?」
「それは……そうだが、だったらどうすれば良いと言うのだ? 他の英雄候補達のように生き延びるために逃げ散るか、息を殺して隠れていろと言うのか!?」
「そうとも言っていないだろう。神は、確実な勝利を手に入れろとは言っていない。迫る困難に対して備え、力を少しでも集めろと説いておられる。
そうだろう?」
「……では、少しでも勝率を上げるための力として、五騎士が必要なのか?」
「その通りだ。神々の望みは、一パーセントの可能性に全てを賭ける事ではない。一を二に、十を二十に、勝率を上げるための努力を怠らず、利用できる者は全て利用する事だ」
「分かった……それが神の意思ならば、従おう。だが、これ以上『顔剥ぎ魔』の真似をして顔の皮を剥ぐのは無理だ。恐らくヴァンダルーの手先が、動き始めている気がする。力を蓄えるには、別の方法が必要だ」
「確かに、お前が尻尾を掴まれたら、五騎士云々どころの話ではなくなるな……。分かった、顔の皮を剥ぐのはもういい。アルクレムの民共の罪と悪は、十分煽られた。我等が神の力も最大限高まっているはずだ。
対して、ヴァンダルーが全力を出す事が出来ないのは、先のフィトゥンとの戦いを見れば明らか。公爵との茶会で、我々の十万年の成果を全てぶつけよう」
この『ラムダ』世界において、クラーケンはドラゴンと並んで有名な魔物だろう。ただし、ドラゴンが恐怖だけではなく畏怖の対象であるのに対して、クラーケンは恐怖と絶望の対象でしかない。
それはクラーケンの外見がドラゴンよりも不気味で、生理的嫌悪感を催すからではない。多くの場合、クラーケンとの遭遇は絶望と直結しているからだ。
それは多くの場合クラーケンと遭遇するのは、逃げ場のない海上であるからだ。ドラゴンなら退治できなくても逃げ出す事が出来るかもしれないが、クラーケンの場合は撃退できなければ船が沈められ、逃げる事も出来ず魚の餌になってしまうからだ。
そのせいで目撃証言も少なく、生態は謎に満ちている。それでも分かっている事を繋ぎ合わせると……クラーケンは大型のイカやタコが魔物化した存在とされ、基本的なランクは10とされている。多くの場合脚は十本で、全長は五十メートル以上百メートル以下。姿はイカやタコをそのまま大きくしたものである事が多い。
その大きさから魔境と化した海、魔海でも浅瀬には出現しない。水深数百メートル以上の深い海で出現する。
性質は凶暴であるとされ、深海から常に海面を見上げていて、船影を確認すると一気に浮上して襲いかかるとされる。
その巨体と不気味な姿から食用には適さないと思われがちだが、その希少性と珍味さから好まれている。また、墨は錬金術の上等な素材として常に需要がある。
更に数多くの下位種や変異種、上位種らしい存在の噂があり、幾つかは真実であると確認されている。
体長二十から三十メートル程のクラーケンの幼生、リトルクラーケン。
身体を透明にして浅瀬に潜み、多くの船を沈めたカメレオンクラーケンや、淡水に適応して巨大な湖に棲みついたレイククラーケン等の変異種。
全長数百メートルにまで巨大化したアイランドクラーケンや、アダマンタイトより頑丈な巻貝の殻を被ったオームクラーケン等の上位種。
「しかし、クラーケンが空を飛ぶとは聞いた事がありませんね」
「そうね。普通のタコやイカの魔物が浮遊するのは珍しくないけど……クラーケンは初耳だわ」
空飛ぶ幽霊船クワトロ号から、空を飛ぶクラーケンの姿を眺めながら、ヴァンダルーとダルシアはそう言った。
漏斗状の器官から海水を噴射することで推進力を得て、海面から一キロメートル以上飛び上がる全長数十から百メートル程のクラーケン達の姿はそれ程衝撃的だった。
『地球』では最大の哺乳類、シロナガスクジラを上回る巨体が次々に空に向かって飛び上がっては、空中を滑空して海面に着水する光景は、雄大ですらある。恐ろしく、不気味な存在であるというクラーケンのイメージが一変しかねない。
「……その全てがクワトロ号を落す為に飛びあがっている訳でなければ、ですけど」
この大規模な自然のショーは、クラーケン達がクワトロ号とそれに乗る者達に対して強烈な食欲と強い殺意を抱いているがために起きている光景であるため、ヴァンダルー達は感動ではなく寒気を覚えていたが。
『とりあえず、クワトロ号はあのクラーケン……仮名フライングクラーケンの最大飛行高度よりも高い場所にいるので問題はありません。
初めて遭遇したのは昨日の丁度明け方、潜水の為に降下を始めた時の事で、慌てて迎撃しましたが……次々にクラーケンが空を飛んで襲いかかって来て、空に逃れるしかありませんでした』
『ヂュウ、強さは、戦った感じではランク10から11ぐらいでしょうな。空を飛ぶ事以外は、通常のクラーケンよりも全体的に若干優れている程度かと』
『数匹なら倒しきれるんだがよ、流石に数十匹となると俺達じゃなくてクワトロ号に攻撃が入る可能性があったから、昨日は一旦退いたんだ。
ちなみに、倒した死体は預かってるアイテムボックスの中に入れてあるぜ。ちょっと喰ったが、普通のクラーケンよりも美味い気がしたな』
『氷神槍』のミハエル、骨人、そして『剣王』ボークスが続けてそう報告する。
「ランク10から11がこんなに沢山……境界山脈の内側に接している海にもクラーケンは多いって聞いていたけど、これは桁が違うよ」
一匹出現しただけで大船団を危機に陥れるクラーケン、その上位種らしき個体が何十匹も群れで出現した衝撃に、プリベルは目を回しそうになっている。
「どうやら、海水を噴射して推進力を得た後は、触手の隙間に生えている膜や胴の平を広げて、滑空しているようですね。それなりに魔力も消費していますが……フライングシャークやジーナのようにはいかないようですね」
昔、タロスヘイムの水路にも生息していたランク3の、風属性の魔力で空を飛ぶように自由自在に泳ぐサメの魔物やジーナと比べて、ヴァンダルーはそう評した。
『それはそうだよ。フライングシャークは三メートルぐらいだけど、クラーケンは船より大きいんだから。そんな大きさと重さで自由自在に飛んだら、魔力がすぐ切れちゃうよ』
『それに陛下君、私とクラーケンを比べるのは止めようよ』
そこにタロスヘイムの第二王女にして、ダルシアやザディリスと同期の魔法少女としてデビューした英雄ゾンビのザンディア。そしてデビューはザンディアよりも遅れたが、生前からの仲間である『癒しの聖女』ジーナがやって来た。
「ザンディア、ジーナ、こっちに来ていたのですか。魔大陸やヴィダル魔帝国でのコンサートはいいのですか?」
『うん、カナコがいつもやっていたら飽きられちゃうからって言う理由で、暫く休みなんだよ』
『後、ここの慰問と増援かな。前衛ばっかりで後衛が少ないようだったから』
『お姫さんはともかく、姉さんは明らかに前衛……いえ、何でもないです!』
クワトロ号を操船する『死海四船長』の一人が何か言いかけたが、ジーナが視線を向けると震え上がって全身の骨をカタカタ鳴らしながら逃げだした。
ジーナは生命属性魔術の達人で優れた癒し手であると同時に、優秀な盾職でもある。巨人種の女性の中でも大柄で、その肉体は女性的な曲線に逞しい筋肉が同居している。
「それはともかく、あのクラーケンの群れをどう思います? 何者かの意志が働いているのか、それともただの偶然か」
クワトロ号を妨害するために、何者かが空を飛ぶクラーケンの群れを差し向けたのではないか? そう怪しむヴァンダルーに、ザンディアは首を横に振った。
『偶然に一票かな。何かの意図……私達をペリアが神託で指示した場所に近づけたくない邪神や悪神の手先にしては、フライングクラーケンの動きが単純だから』
「単純?」
『クワトロ号の高度に届かないのはもう分かっている筈なのに、思い切り飛び上がっては着水するのを繰り返しているから。何かに操られているなら、もっと作戦を練ると思うんだよね』
「なるほど」
ザンディアの意見に頷いて船の縁から海上を見下ろすと、いつの間にかフライングクラーケンのジャンプ大会は終わっていた。海面は数匹のフライングクラーケンがこちらを見上げているだけで、静かなものだ。
『クラーケンみたいな巨体の魔物は、ただ生きるためにも魔力が必要だからね。空を飛ぶのに使い過ぎたんじゃないかな』
この世界の生物、特に魔物の類は生命活動を維持するために、本能的に魔力を使っている。クラーケンの場合は、巨体の自重で内臓が潰れるのを防ぐ事等に魔力を使っているとされる。
そしてフライングクラーケンは、空を飛ぶためにも魔力を使用したため、数匹が水面に浮かんだまま休んでいた。
「確かに、妨害にしては奇妙ですね」
フライングクラーケンが何者かの意志で配置された番人、ヴァンダルー達に対する障害だったら、クワトロ号が海中に潜る時にタイミングを合わせて不意を突く等、襲撃を仕掛ける時を合わせるはずだ。
少なくとも、自分達の最大高度を知られてからも無意味なジャンプを繰り返す事はないだろう。
「でも、これから向かう大陸に今まで誰も到達していない理由は分かったよ。途中で空飛ぶクラーケンの群れに襲われたら、海の藻屑になるか慌てて逃げ帰るしかないだろうね」
「そうね。普通の船なら勿論、錬金術で作られた空飛ぶ船に乗っていたとしても、あの数に襲われたらどうしようもないわね」
この世界の錬金術の粋を集めれば、空を飛ぶ船を創る事は可能だ。勿論、大きさや飛行速度や最大高度は様々だが。しかし、アミッド帝国やオルバウム選王国ぐらいの大国になれば、ヨットサイズの空飛ぶ船なら創れる可能性が高い。
最大高度数百メートルで、海上のヨットと同程度の速度と機動力を持つ空飛ぶ船。それを使えば、未開の海の冒険もずっと捗るはずだ。
それでもこれから向かう地が、人間社会にとって前人未到の地である理由の一つが、このフライングクラーケンだとプリベルとダルシアは推測した。
『それで、あのフライングクラーケンを倒すのに手を貸していただきたいのですが、良いでしょうか? 昨日からずっと我々を狙い続けているので、今後も諦める事はないと考えられるので』
そしてミハエルがそう本題を切り出す。ヴァンダルー達にフライングクラーケンを見せたのは、珍しいものを見せたいからというのもあったが、戦力を期待したからだった。
ボークスや骨人、そしてミハエル本人でもフライングクラーケンは倒せる。だが、クワトロ号を守りながら数十匹を倒しきるのは、流石に難しい。
「分かりました。このまま神託のあった場所まで、クラーケンを引き連れて行くわけにはいきませんしね」
フライングクラーケンは飛び上がった後、魔力も使用して滑空しながら速度を緩めて着水している。しかし、元々数十メートルから百メートル程の巨体なので、どうしようもなく目立つ。
神託で指定された地に何があるかはまだ不明だが、まず間違いなく気がつかれるだろう。
「じゃあ、母さん達も頑張るわね」
「ボクも! 同じ触腕を持つ種族としては、負けられないしね。……まあ、大した力にはなれないと思うけど」
「プリベル、そんなあなたにこれをどうぞ。あ、ジーナにはこれです」
ダルシアに続いて手を上げるが、自信がなさそうなプリベルにヴァンダルーは自身の【影】から、飾りのついた杖を取り出し、手渡す。同じように、ジーナには盾を渡した。
『これって、最近陛下君が作っていたアーティファクト!? 神様の力が宿っているっていう……』
「えっ? じゃあメレベベイル様の!?」
「いえ、プリベルの杖にはリオエンの御使いが宿っています。ジーナはタロスです」
ヴァンダルーが最近作り続けていた、ヴィダ派の神々の御使いが宿っているアーティファクト変身装具。二人に渡したのはその内二つだったが、プリベルに渡されたのは、スキュラ種族の片親である『汚泥と触手の邪神』メレベベイルの御使いが宿っている物とは別の品だった。
『やったー! これで私も魔法少女だ~!』
『少女って図体じゃネェだろうに……イデデデデ! おい、右側は骨しかねぇんだぞ!?』
「え、何でリオエン? ボク、特にリオエンを信仰してはいないはずだけど」
歓声をあげて盾を掲げながら、ボークスにアイアンクローをかけるジーナを余所に、そう戸惑うプリベル。ヴァンダルーは彼女にこうなった経緯をざっと説明した。
「最初は俺もメレベベイルにするつもりでしたが、作ってみると既に触手や触腕を生やしている人とは相性が悪い装具になってしまいまして」
「そうなんだ。じゃあ、この機会にリオエンにも祈ってみようかな」
『アーティファクトは加護と違って、その神様を信仰していなくても使う事は出来るけど、感謝と敬意を表すのは大事だからね。
じゃあ、フライングクラーケン達がまた飛び出して来る前に準備を……あ、もう来たみたい』
ヴァンダルー達が戦闘準備を始めたのとほぼ同時に、一旦は静まり返った海面が再び騒がしくなり、次々にフライングクラーケンが姿を現した。
しかも、今度は大きな個体が小さな個体を乗せて飛び出し、大きな個体の推進力が尽きると小さな個体が海水を吐き出しながら飛び上がる。
まるで多段式のロケットのように。
『どうやら、作戦を練って来たらしいな。ザンディアの声でも聞こえたか?』
『ええぇ!? 私のせいにしないでよ!』
「まあ、元々群れを作る社会性のある魔物のようですから。それに、タコは学習能力の高い動物だと『地球』ではされていましたし」
この世界のクラーケンの見た目は、タコよりもイカの方に近いが。
『とやかく言っている場合ではないぞ!』
多段ロケット方式の結果、クワトロ号がいる高度まで到達したフライングクラーケンの触腕を、ミハエルの操る槍が切り飛ばす。
『船としての構造上、クワトロ号は下から攻められるのに弱いんだ! どうにかしてくれぇ!』
『落ち着きなさい! ここまで来てくれれば、配備されたこの大砲で撃退する事が出来ます!』
『死海四船長』の一人が、狼狽える部下を叱責しながら、クワトロ号に配備された大砲でフライングクラーケンを狙う。
『ファイエル!』
轟音と共に撃ちだされる砲弾。それは狙い違わずフライングクラーケンに迫り……ベチンと直撃したが傷らしい傷も与えられず、砲弾はぽろりと落ちて行った。
『馬鹿な!? 無傷だと!?』
『あり得ないっ! まさか【物理耐性】スキルをもっているのか!?』
「多分、持っているからでしょうね。それはともかく……ファイエル」
驚愕する『死海四船長』達に続いて、ヴァンダルーは掌に【魔王の眼球】を発動させ、【発光器官】を調整。そして怪光線を放った。
眼球のレンズで収束、増幅された怪光線は小型なフライングクラーケンの胴体に直撃する。そしてそのまま貫通し……クワトロ号の間近まで迫ると触腕で攻撃してきた。
『坊主っ! あの図体じゃあ、指先程度の穴が空いても平気みたいだぜ!』
すかさずボークスが触腕を切り飛ばし、そう怒鳴る。小型の個体と言っても、数十メートルの巨体だ。小さな穴を空ける程度では、心臓や脳に直撃しなければ効果は薄いだろう。
「みたいですね。【魔術耐性】スキルは持っていない事が分かりましたが……クワトロ号の最高高度は?」
『あと二百メートルぐらい上空まで行けます!』
「じゃあ、上がっても無駄かもしれませんね。じゃあ、最初は援護優先で行きましょうか」
ヴァンダルーは【魔王の触手】を生やすと、【卵管】に変化させ、飛べる骨人とジーナ以外の背に卵を産み付ける。
『うわ、何っ!? わわわ!?』
卵は産みつけられた瞬間から爆発的なスピードで成長し、コウモリのような使い魔王に変異する。
『欠片の内、【副脳】、【骨】、【皮膜】、【眼球】、【血】、【触手】を組み合わせた飛行補助型使い魔王です』
『これで空を飛んで戦う事が出来ます』
そして誕生した飛行補助型使い魔王自身に説明されて、なるほどと頷くザンディア達。
『って、言うかさっき卵出してなかったか?』
『陛下君、もしかして陛下ちゃんになったの?』
「……俺は陛下君のままです。昨日、【魔王の卵管】と言う欠片を吸収して……説明は後でしますから、今はフライングクラーケンをよろしくお願いします」
『それもそうだな! 行くぜ、【御使い降魔】!』
使い魔王を背中に張り付けたボークスが、【御使い降魔】まで発動させてクワトロ号から飛び降りてフライングクラーケンに襲いかかって行く。
『主よ! ブレイドカイザーとなった私の剣、ご照覧ください! ヂュオオオオオオ!』
次いで、自らバラバラになった骨人が飛び降りる。途中、クラーケンが吐いた墨が直撃するが、彼には効果がなかったようだ。
「クラーケンの墨って、イカスミなのかタコスミなのか、どっちなのでしょうか?」
「気にした事はなかったけれど、重要な問題なの?」
「イカスミに近い場合、食材として使えます」
「それは重要ね、後で確かめてみましょう。じゃあ、変身!」
『【変身】! うわぁ、何だか体が引き締まる感じがするね!』
「変身! 町では普通のスキュラの振りをしていたけど、ここでは思いっきりいくよ!」
ダルシアに続いて、ジーナとプリベルが初めて変身装具を発動させた。
ジーナは巨大な盾から液体金属が分離して、身体にぴったり張り付いたボディースーツと装飾に変化した魔法少女と言うより女子プロレスラーのような格好に。一方プリベルは、上半身は水着にドレス風の装飾や長手袋を加え、下半身の触腕には液体金属がラインに変化して張り付いている。
そしてジーナは太陽の意匠、プリベルは水晶状の飾りが所々に施されている。
「じゃあ、行ってきます!」
『陛下君、私の下半身よろしくねー!』
プリベルは背中の使い魔王で、そしてジーナは上半身を下半身から分離させて空を舞い、クラーケンに襲い掛かる姿は……製作者のヴァンダルーでも魔法少女について疑問を覚えた。
「とりあえず、今空を飛んでいる小型のフライングクラーケンを狙いましょう。大型は、ここまで飛んでこられませんから、後回しでも構いません。
【死空斬】」
そう言いつつも、空間属性のゴーストを使った【神霊魔術】で、ミハエルを狙った大型のフライングクラーケンの触手を両断するヴァンダルー。
「まだ空間属性は使い慣れませんね。魔力の消費が激しい。それにしても……向こう千年はイカ焼きやタコ焼きの材料に困らないで済みそうです」
ランク10から11相当の魔物の群れが相手なので、ボークス達もそれなりに苦戦している様子だったが……所詮はそれなりである。
飛べるのは驚異的だが、高度な武技は使えず触腕による大ぶりな攻撃と、既に見ている墨を吐きかける単純な動き。これでは飛べるようになったボークス達の敵ではない。
フライングクラーケン達は群れの半数以上を失い、それで流石に諦めたのかクワトロ号の周囲から去って行ったのだった。
――――――――――――――――――――
・名前:骨人
・ランク:13
・種族:スケルトンブレイドカイザー
・レベル:0
・パッシブスキル
闇視
剛力:3Lv(UP!)
能力値増強:忠誠:1Lv(能力値強化から覚醒!)
霊体:10Lv
能力値強化:騎乗:7Lv
自己強化:創造主:8Lv(UP!)
自己強化:導き:7Lv(UP!)
物理耐性:3Lv(UP!)
殺業回復:4Lv(UP!)
能力値強化:君臨:4Lv(UP!)
身体強化:骨:6Lv(UP!)
・アクティブスキル
虚骨剣術:5Lv(UP!)
盾術:10Lv
弓術:8Lv
忍び足:3Lv
連携:10Lv(UP!)
指揮:5Lv
鎧術:10Lv(UP!)
騎乗:7Lv
遠隔操作:10Lv
恐怖のオーラ:6Lv(UP!)
並列思考:6Lv(UP!)
限界突破:7Lv(UP!)
御使い降魔:2Lv(NEW!)
・ユニークスキル
骨刃
ゼルクスの加護
ヴァンダルーの加護
ランクアップした事により、念願かなってエンペラーからカイザーに種族名が変化した骨人。カイザーでも皇帝と言う意味だったはずだが、骨人本人は気がついておらず、満足している。
そしてヴァンダルーは最初から種族名にエンペラーとついていようと気にしていなかったので、骨人本人が満足しているなら、別に良いと思っている。
5月27日に260話を投稿する予定です。




