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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十一章 アルクレム公爵領編二
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二百四十五話 世界は丸い

 細かい泡を無数に発生させる液体が詰まった樽と、別の黒い液体が詰まった樽とをチューブで繋ぐ。そうする事で、泡から出た気体を、黒い液体に溶かす。

 そうした作業を家の地下に作ったダンジョンの中で行いながら、ヴァンダルーはユリアーナが受けた神託の内容について考えていた。


「ここから北と南に等しい位置にある地と言う事は、多分バーンガイア大陸の反対側にある大陸か、島の事でしょう」

「まあ、そうよね。北と南、正反対の方向なのに、等しいという事は」

「っと、言うかこの世界の人達って、自分達の世界が球体だって知っていたんですね。地図はあっても地球儀みたいな物を見かけないので、てっきり知らないのかと思っていました」


 ヴァンダルーの推測に頷くダルシア達に、カナコが若干驚いた様子でそう言った。彼女達はロドコルテの神域からラムダ世界を見た事で、ラムダが『地球』や『オリジン』と同じような球体の世界である事を知っている。

 見たのは『ラムダ』だけだったので、大きさが『地球』や『オリジン』とは違う可能性や、天体の動きが逆……ラムダの周りを太陽や月が回っている可能性もある。しかし、世界が球体なのは間違いない。


 しかし、それは世界の外から見る事が出来たから分かる事だ。カナコ達は転生してから地球儀に相当する、ラムダ儀と呼ばれるべき物を見た事が無かったため、極自然にこの世界の住人は世界が球体だと知らないのだと今まで思い込んでいた。


 そう驚くカナコだったが、ダルシアは彼女に「皆が知っている訳じゃないのよ」と訂正する。

「正確には、子供の頃神話や伝説、字の読み書きや算術を教わるのと同じ時期に教えられるの。でも、その後あまり意識しないのよね。世界が球体かどうか。

 私もヴィダの神域で改めて教わるまでは忘れていたし、ユリアーナさんも忘れていたみたいだし」


「ああぁっ、見ないでくださいっ! 前世はこの国でも高度な教育を受けたはずの人間だったはずなのに、そんな事も忘れていた私を見ないでくださいぃ!」

「そう気にするでない。儂なんて世界が丸いと聞いても、いまいち理解できておらんのじゃし」

「そうだよ、ユリちゃん。よしよし」

「ごめんなさいね、責めた訳じゃないのよ」

 羞恥に悶えるユリアーナを、慰めるザディリスとパウヴィナとダルシア。どうやら崇拝しているヴァンダルーに向かって「分かりません!」と答えてしまった事が、精神的なダメージになっているらしい。


「魔境に閉じこもって生活していた私達グールに、世界の地理についての知識を得る機会は無かったからな。そんな私達が慰めても、効果は薄いと思うぞ、母さん」

「人間も一般家庭は似たようなものですわよ。昔一度教わるだけで、その後はあまり意識しませんわ。私も、ヴァンダルー様が言いだすまで忘れていたぐらいですもの。

 私の場合は二百年以上前ですけど、今の教育も似たようなものみたいですし。ねぇ?」


 タレアが視線で同意を求めると、その場に居たサイモンとナターニャが困惑した顔つきのまま頷いた。

「ええ、世界が丸いって、言われてみればガキの頃に教わった覚えはあるんですがね……俺には、世界が真っ直ぐにしか見えないんで」


「ううん……山や丘や窪地があっても世界は平らに見えるし……でも、昔そんな事を教わった事があったような、無かったような……」

 サイモンとナターニャも、世界が丸い事は教わっていたが、その知識はすっかり埃を被っていたようだ。


「異世界由来の知識って事で、アルダやベルウッドの信者があまり教えないようにしたとか、そういう感じか?」

 ダグがそう言うが、それにしては子供の頃とは言え基礎的な教育の一環として「世界は丸い」と教えているのが不自然だ。


 そう話していた時、レビア王女がヴァンダルーの背後に現れて口を開いた。

『いえ、世界が丸いのは異世界由来の知識ではないはずです。タロスヘイムの神殿にある、神話を記した石版の世界創成に当たる部分にも、世界は球体で記されていましたから』


「……坊や、お主が直した神殿じゃろうに」

「直したのは、もう九年ぐらい前ですからね。【完全記録術】も当時は在りませんでしたし。でも、レビア王女のお蔭で、何故皆が世界は丸いと知っているのに、知識として定着していないのかがだいたい分かりました」


 この『ラムダ』が『地球』と明確に違うのは、『ラムダ』では人間より先に神々が存在した事。そして、神々が人間を創った後暫くは、神々が地上で人間を教え導き、共に生きる神治時代が存在した事だ。

 神々はまだ幼く、未熟な人間達に過ぎた技術や知恵……狩りに使うには威力が高すぎる攻撃魔術や、肉体と精神に深い傷を与える拷問具の作り方等は教えなかった。


 しかし、世界の形に関しては教えていただろう。世界は丸いと。

 若しくは、当時の人々が神々から学ぶ内に自力で気がついたのかもしれない。

 『空間と創造の神』ズルワーンの従属神であり、現在ハイゴブリン国の守護神をしている『地図の女神』ワーンライザ。彼女は当時の人々に測量の知識を与え、地図の描き方を教えたはずだ。


 何にせよ、この世界の人々は勇者達が異世界から来る前に世界は丸いと知ったのだ。当時の世界は危険な魔物はおらず、国も無く、人々を総べる神々の関係も今と比べるとずっと穏当であった。旅も、ずっと安全だっただろう。

 しかし、魔王グドゥラニス率いる魔王軍との戦闘で世界は一変した。


 激しい戦いの結果地形が変わり、魔王達が出現する以前の地図は正確さを失った。更に、危険な魔物が巣くう魔境、魔海、魔空等の魔の領域が発生。中には大陸全体が魔境と化してしまった魔大陸等も存在する。

 そして魔王との戦い、更にヴィダとアルダの戦いを経て力を失い、アルダ勢力の神々は地上から去り神域に籠っている。ヴィダ派の神々も、境界山脈の内部や魔大陸の一部に閉じこもっていた。


 人々に世界の地理を教えられる状態では無い。

 人間達も、自力で長距離を移動する事や、広範囲の測量を行う事が出来なかっただろう。実際、魔大陸は『迅雷』のシュナイダー率いる『暴虐の嵐』が到達するまで、人間社会では前人未到の地とされていた。


 とても世界地図やラムダ儀を作れる状況ではない。


 そして現在、多くの一般人は生まれ育った町や村とその周辺で人生を終えている。長い距離を繰り返し旅するような生き方をする者は全体から見れば少ない。そうした人々が必要とする地理の知識は極狭いものだ。

 そのため、「世界は丸い」と言う知識は残っているが、それが教えられた人々に知識として定着していないという中途半端な状況になってしまったのだろう。


 そう推測したヴァンダルーの話を聞いたダルシア達は、なるほどと頷いた。

「それは分かったけれど……でも、どうしましょうか? 北と南に等しい地を測るのは、とても難しそうだけれど」

 謎は解けたが、解けたからと言って神託を紐解く事にはいまいち繋がらなかった。


『ワーンライザ様が守護神をしているハイゴブリン国にも、世界地図は無いと思います。ワーンライザ様自身も、十万年以上結界の外には出ていないはずですし』

『シュナイダーに聞いてみるのはどう? あいつら、魔大陸まで往復したんだから、ある程度星から測量できるはずでしょ? なら手がかりになるかも。

 って、言うかグファドガーンは知らないの?』

 レビア王女と、彼女に続いて姿を現したオルビアがそう提案した後、続けてグファドガーンに尋ねる。


「申し訳ないが、私の知識にはありません」

 しかし、グファドガーンは首を横に振った。彼女はヴィダ派の神の中では唯一境界山脈の外へ、『ザッカートの試練』のダンジョンごと点々と移動していた神だ。しかし、その間彼女はダンジョンの管理に集中していたので、外の地理がどうなっているのかは、あまり意識していなかったそうだ。


「私が、もっと女神様の御心を理解できていれば、もっと分かり易い形で神託を受け取れたのにぃ!」

「いやいや、ユリアーナよ、そう気にするな。多分北と南云々は、それほど厳密に測る必要は無いはずじゃ。もう一つの手がかり、『気持ちの悪い色の顎』の方が細かい場所を測る目印じゃろう。

 獣の顎のような形の地形を指しているのじゃろうから、異様な形で毒々しい色をした谷か、渓谷か、洞窟の入り口か。どれにしても、相応に目立つはず」


『神託は謎めいていますが、別にペリア様も意地悪をして故意に分かり難くしている訳ではないはずです。出来るだけ分かり易く伝わるように工夫して、ユリアーナさんが受けた形になったのでしょう』

 ザディリスとレビア王女がそう言って落ち込むユリアーナを慰める。ヴァンダルーも彼女の肩に手を置いて言った。


「そう、気にする必要はありません。最初から神様と話せる人はいませんから。俺も、生まれてから約八年かかりました」

 ヴァンダルーが初めて神、『五悪龍神』フィディルグと遭遇し、会話したのは八歳の頃である。……ちなみに、初めて悪神を食べたのはその約一年前の、七歳の頃だ。


「……師匠。ユリアーナと自分を一緒にするのは、流石にどうかと思うよ。オレ」

 ナターニャは半眼になってそう言うが、ヴァンダルーは彼女の言いたい事をいまいち理解できなかった。


「まあ、確かに八歳になったからと言って神様と話せるようになるとは限りませんか。ではユリアーナ、ランク13以上になる事を目指しましょう。なれれば、神様と面と向かって話せるようになります」

「はい、頑張ります!」

 ユリアーナは瞳を輝かせて即座に頷いた。しかし、ランク13は目指せば至れる領域ではない。領域ではないのだが……。


「ヴァンの周りだと、頑張ればなれそうな気がするよね」

「そうだな。ヴァンと初めて会った頃はランク4だった私が、今は母さん達と同じ12だからな」

 ランクは無いが友達にラピエサージュやヤマタ等高ランクの魔物が居るパウヴィナや、自身がランク12にまで至っているバスディアがそう頷きあった。


 それに、ヴィダの新種族の内魔物にルーツを持つ者達はランクだけではなくジョブも持っている。二重に能力値の成長補正やスキル補正を受けている状態である事を考えれば、バスディアは既にランク13の魔物よりも総合的には勝っているはずだ。

 今の彼女ならフィディルグと直接会っても平気だろう。


「それで『気持ちの悪い色の顎』の方ですが……」

『とりあえず、まず父さんに乗って皆で在りそうな場所を探して見るのはどうでしょう? 今の父さんなら渡り鳥より早いですよ!』

『いざとなれば亜空間に潜れますから、偶然魔物と遭遇しても安心ですし』


 リタとサリアの父親であるサムは、ディメンションロードキャリッジだ。彼の荷台に乗って移動すれば、二人が言うように速く、そして安全にこの星の裏側に行く事が出来るだろう。

「それなのですが、アルクレム公爵から都に呼ばれていますからね。サムには俺の近くに待機していてほしいのですよ」


「あの、ヴァン様? 神託と公爵からの用事を、同時進行でこなすおつもりですの?」

「そっちは、後回しでも良くはないか?」

 ヴァンダルーの発言に戸惑った様子を見せるタレアとバスディア。オルバウム選王国では各公爵領を治める公爵は、小国の王に等しい権力を持っている。その公爵の意向よりも他の要件を優先する事は、普通なら考え難い事だ。


 しかし、女神から与えられた神託となれば話は別である。特にダルシアは聖女や聖母と呼ばれており、ヴァンダルー自身も『変身装具の守護聖人』だ。

 神託があったと言えば、公爵でも無下にする事は出来ないはずである。


「それに、公爵さんやギルド本部の意向と言っても、すぐ行かなきゃならない訳じゃないわ。だったら、ヴァンダルーだけバッヘムさんのワイバーンに相乗りして来るようにと言うはずだし。

 この町から都に歩いて行くのに必要な日程分、最低でも二週間くらいは余裕がある筈よ」


 そうダルシアが言う。その二週間でとりあえず神託が指示した場所を探し、都にはレギオンかグファドガーンの【転移】で向かえば良い。

 公爵達はヴァンダルー達に【転移】があるのを知らないので、これで問題は無い。


 なのだが、ヴァンダルーは首を横に振った。

「多分、神託が指示した場所で簡単には済ませられない事件が起きるでしょうから、公爵さん達の用事は片づけておいた方が良いと思うのですよ。

 それに、神託の方は一年二年を争う事態かも知れないけれど、一刻を争う事態ではないでしょう。まあ、これは俺が神殿に行って直接神様達に聞いてきます。神託を下した本人じゃなくても、色々話を聞けるでしょうし」


『……そう。ところで、聞きたいのだけど……その樽の中身は何?』

 それまでただの肉塊のように横たわっていたレギオンが蠢いてそう尋ねると、ヴァンダルーはコップを人数分用意しながら答えた。

「二酸化炭素を発生させ、炭酸水を作る即席の仕組みです。手土産にする前に、味見は必要ですからね。

 では、試飲会としましょう」


 『地球の神』から教わったレシピを参考に、ゲヘナビーの蜂蜜から作ったカラメルで味を、幾つかの香草や果物をブレンドして味をそれらしく整えたコーラの試作品が、皆に振る舞われたのだった。




 その夜、タロスヘイムは歓声に沸いた。皇帝が目的を果たして戻って来た事を祝い、敵である『法命神』アルダに従う神々の中でも特に戦闘に特化した『雷雲の神』フィトゥンを討ち取った戦果を称えた。

 また、人間社会でもその影響力を強め、貴族でも無視できない存在になりつつある事、そして新たな仲間が増えた事も歓迎された。


 パレードが行われ、様々な料理が振る舞われ、あらゆる種族の者達が集まった。その規模はモークシーの町で行われた物の数倍の活気があったと言う。


『Giiiiiiii~』

 その日の深夜、タロスヘイムの運河から出航した船があった。ヴァンダルーが複数の難破船を組み上げて作り上げた幽霊船、クワトロ号である。


 『ラムダ』世界では稀に見る大型の幽霊船は、帆を広げ南に向かって進んでいた。

『野郎共! 魔大陸から一年以上、久しぶりの陛下からの出航命令だ! 気張りやがれぇ!』

『イエッサー、船長!』


『ですが今回の任務はあくまで偵察、下見です。気がつかれないよう、密やかに行動しなければなりません。分かりましたか?』

『了解です、船長』


 クワトロ号の指揮を執る四人の『死海四船長』、そして配下である命亡き船員達。彼等が立てる物音以外は、風の音しか聞こえない。

 何と、クワトロ号は空を飛んでいた。


『これが本当の飛行船である! しかも、間違いなく皇帝陛下や勇者がやって来た世界の飛行船よりも格上! 我々は異世界を凌駕したのだ!』

 サーベルを抜いて勝ち誇る元魔導船の船長に、船員の一人がカタカタと骨を鳴らしながら話しかける。

『しかし船長、ダグの話だと異世界の飛行船ってのは、屋根にデカい袋をくっつけた乗り物の事で、空を飛ぶ船じゃないそうですけど』


『うむ! 明らかに機動力に問題がある構造だ! しかも、袋に穴が開いただけで墜落するそうであるな! 明らかに我等がクワトロ号の方が格上である!』

『いや、あっしが言いたいのは、比べるようなもんじゃないんじゃないかって……いや、もういいです、はい』

 元魔導船の船長がハイになっているだけだと気がついた船員は、ツッコミを諦めて彼から若干距離を取った。


 しかし、実際クワトロ号が普通の幽霊船とは一線を画する存在になったのは確かだ。

 暫く前、特訓するサムに付き合った結果、彼女は空を飛ぶ事が出来る船となった。そのため構造的に真下という死角が発生する等弱点も増えたが、それ以上に行動範囲が一気に広がった。


 それに機動力も。これまでもクワトロ号は風が無くても自分の意志で海を進む事が出来たが、海と空では明らかに空の方が速い。

 流石にサムが空を走るほどの速さは出ないが。


『とは言え、魔物との不意の戦闘にも気を付けなければなりません。神々の手の者の襲撃も、可能性は小さくても警戒しなくては』

 『死海四船長』最後の一人、帆船の船長が自ら武器の点検を監督しながら言う。クワトロ号にはドラゴンも射殺せそうな巨大な矢を放つ巨大なクロスボウ、バリスタが備え付けられている。更に、ダグ達と作り上げた大砲も新たに設置されていた。

 火薬は水に濡れてダメにならないよう、防水仕様のマジックアイテムで保存されている。


 そしてクワトロ号と船長以下船員自身もそれなりに高位のアンデッドだ。魔大陸に初めて向かった時は骨人とその乗機であるドラゴンゾンビのリオーの引率が必要だったが、今なら不意に遭遇した魔物とも自力で対応できるだろう。

 しかし、もしハジメ・フィトゥンのような受肉した神や英霊、神の加護を受けた英雄が現れた場合は、心許ない。


『その時は頼みましたよ、ミハエル殿。そして闇夜騎士団の皆さん』

『お任せを』

『おお! その時は皇帝陛下の狗が神の走狗より上である事を示してくれる!』

『GOA……!』


 その時の為の戦力として、『氷神槍』のミハエル、そして吸血鬼からゾンビ化した者や吸血鬼の死体を材料に作られたゾンビジャイアント達で編成された闇夜騎士団が乗り込んでいた。

 彼らが居れば、神々が急造で仕立てた英雄とその仲間程度なら撃退できるだろう。


『しかし船長、我々はいざと言う時の備え。基本的には逃げの一手である事を忘れないように』

 だが、それでもハジメ・フィトゥンが率いていた戦力と同程度の敵が現れれば敵わない。そのため、基本的には緊急時にはヴァンダルー達を呼び、【転移】して逃げる手はずになっている。


『分かっております。もっとも、神々もそうそう我々に気がつく事は無いでしょうが』

 神々は人間が考えているよりも、ずっと全知全能では無い存在だ。彼等は神域から……雲よりもずっと上から直接地上を見るか、信者の目を通してしか地上を見る事は基本的には出来ない。


 アルダ勢力の神々の信者が存在しない境界山脈内部、その最南端の人魚国から嵐に紛れて出港し、海上を進むクワトロ号に気がつく可能性は低いだろう。

 そして闇夜を進むこの船に、人間社会の国から出た船が気づく可能性も低いはずだ。


『だが、万が一ということもある。油断せずに――』

『野郎共、日の出だ! 準備しろ! 荷を海に浚われないよう船室に運び込め!』

 ミハエルが警戒を促している間に、地平線の向こうが白み始めた。日の出の時間が来たのだ。同時に、船員達が慌ただしく動き始める。


 バリスタの矢や火薬を抱えて船内に運び入れ、急いで帆を畳む。

『そら行くぞ、潜航開始ィ!』

 そして、『死海四船長』の号令を受けたクワトロ号が、船首を海面に向けて急降下を始めた。ぐんぐんとまだ暗い海面が船首に迫り、そのまま大きな水飛沫を立てて衝突。そのままクワトロ号は船首から一気に沈み……海面から見えない深さまで潜ると、船首の向きを水平に戻した。


『これより日が沈むまで潜水航行! 旦那方ぁ! 多少の水の流れはクワトロ号が防ぎますが、完璧じゃねぇんで、落ちないように気を付けてくだせぇ!』

 頭蓋骨の中に残った空気を眼窩から漏らしながら、元海賊船の船長が忠告する。

 そう、クワトロ号は空だけではなく潜水も可能な幽霊船なのである。


 いくら空を進んでいても、雲よりも高く飛ぶ事はクワトロ号にはまだできないため、遮る物の無い海では昼間だと他の船から見つけられる可能性がある。しかし、海の中なら絶対に気がつかれない。

 夜は空を、そして昼はスピードを犠牲にして海中を進むクワトロ号を神々が察知する可能性は、かなり低い。


『その時は自力で泳ぐさ。神託が指し示す地の周辺まで、伝説の海の魔物に気を付けて進むとしよう』

 ただ、流石に女神が封印されていると言う神託の地周辺には神々の手の者が見張っていてもおかしくない。


 それらしい場所を見つけたら、クワトロ号はその海中で待機する事になっていた。


『では、とりあえずの敵は伝説の海の魔物か。あまりにも恐ろしい姿をしているため、目撃した船乗りは全員発狂してしまう謎の魔物や、遭遇した船はどんな船でも沈没させられる巨大な魔物が海の奥底には居るらしいが、本当か?』


『なぁに、どんなに恐ろしい姿だったとしても本気を出した皇帝陛下と比べれば仔猫みたいなものだ! それに我々が居るのは既に海面の下だぞ!』

『ははは! 違いねェ! 伝説の海の魔物が出て来たら、三枚に降ろしてカレーの具にしてやるぜ!』


『……何故カレーなのかね?』

『何でも、異世界じゃ良い船はカレーが美味いもんだってジンクスがあるんだとか』


 その存在に気がついてしまった者は恐怖のあまり正気を失い、立ちはだかってしまったらどんな船でも海の藻屑にされてしまうだろう幽霊船クワトロ号は、暗い海を悠然と進んだ。




 人口百万人の大都市。山間の小さな村出身の彼にとっては、想像もできない大都会だ。

 まだ町に入っていないと言うのに、城壁を見ただけでも圧倒されそうだ。

「……ふふふ」

 都に入る手続きを待つ人々の長蛇の列を前にして、内向的な性格の彼は震えるのを抑えられなかった。情けない。指も震え出しそうだったので、これ以上情けないところを人には見せまいと拳を作って強く握りしめた。


「アルクレム。我々の、目的地」

 妹も声が震えているが、無理も無い。彼以上に人見知りが激しく、若干男性恐怖症なのだ。不安から俯きそうになっているが、しかし根は芯の強い彼女は町を真っ直ぐ見つめている。


「……女神様の……神託」

 彼の幼馴染のドワーフの魔術師である彼はボソボソと何か呟きながら、蒼白な顔つきで目を見開いている。初めての長旅の疲れと、山菜に混じっていた毒草に当たった影響がまだ抜けていないらしい。

 彼の為にも早く宿を取ってやりたいが……。


「あの、皆さん。何でそんな……なんて言うか、怪しげなんですか!? 周りの人達、凄く怖がってますよ!?」

 そして最近加わった四人目の仲間、弓術士兼盗賊のミリアムが泣きそうな顔をして訴えた。


「怖がって、いる?」

 一行のリーダー、彫りの深い顔立ちに長い黒髪で不気味な影を作っている大男アーサーが、訝しげに顔を歪め唸るような声でミリアムに聞き返す。


「私達を? ……一体、誰が?」

 アーサーの妹なのだが、黒い髪以外まったく似ていない目つきの悪い美女のカリニアが、周囲へ鋭い視線を投げかけた。


「ヒヒヒ、おかしな事を、言うのぅ」

 目を見開いた禿頭(若ハゲ)で痩身のドワーフのボルゾフォイが、病的な笑みを浮かべる。


「だから、皆さんの態度はどうしようもなく怖いし怪しく見えるんですよぉっ!」

 そしてその三人の仲間とはとても思えない、田舎から出て来たばかりの新米冒険者といった様子のミリアム。

 彼ら四人がアルクレム公爵領の都、アルクレムに入るのに衛兵に呼び止められ通常の何倍も長い時間質問攻めにあったのは言うまでもない。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




・名前:クワトロ

・ランク:8

・種族:テラーゴーストキメラバトルシップ

・レベル:59


・パッシブスキル

特殊五感

物理耐性:7Lv(UP!)

精神汚染:7Lv

能力値強化:被操船:6Lv(UP!)

能力値強化:創造主:5Lv(UP!)

自己強化:水上:5Lv(UP!)

自己強化:導き:4Lv(UP!)

衝撃耐性:3Lv(UP!)

怪力:3Lv(NEW!)

空中航行:3Lv(NEW!)

水中航行:2Lv(NEW!)

高速再生:1Lv(NEW!)

水属性耐性:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

限界突破:9Lv(UP!)

高速航行:7Lv(UP!)

射出:7Lv(UP!)

叫喚:5Lv(UP!)

恐怖のオーラ:7Lv(UP!)

砲術:4Lv(UP!)

忍び足:1Lv(NEW!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護(NEW!)

3月28日に246話を投稿する予定です。

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