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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第一章 ミルグ盾国編
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二話 ハードモード開始と狂気の引継ぎ

 次の日の朝に成ってヴァンダルーが目を覚ましても、ダルシアの姿は無かった。


『おかしい……嫌な予感しかしない。迎えに行った方が良いか』


 普通なら生後半年の乳幼児が一人で外出するなんて無謀な考えだが、どっち道このままダルシアが帰らなければ今日中にヴァンダルーは外に出なければならなくなる。

 まだ生け捕りにしてある野兎は一羽いるが、これも今日一日で生き血を飲みきってしまうだろう。その後は自力で離乳食を作らなければならないが、生後半年の胃腸は母乳と血以外の物を大量に受け入れるのは難しい。


『赤ん坊は、見た目よりも食べる。一日に六回から五回は食事が必要だ。特に俺の場合は、魔術の練習や体力作りと、エネルギーの消費が激しいからな』


 なので、ヴァンダルーには通常の赤ん坊よりも大量の食糧が必要だ。このまま赤ん坊らしく座して待てば、数日中に餓死する可能性がある。

 人間ではなくダンピールだから、正確な時間は分からないが。


『じゃあ、準備を始めるか』


 ただ、ダルシアを迎えに行くと言っても走るどころか歩く事もまま成らない身体なので、色々と準備が必要だ。まず、移動のための足を確保しなければならない。


『まずは……起きろ』


 ヴァンダルーがそう念じると、彼本人が血を吸い尽くして殺した野兎がピクリと震え、何と動き出した。

 息を吹き返したのではない。周囲に漂っていた雑多な霊を野兎の死体に魔術で憑りつかせ、アンデッド化させたのだ。

 死属性魔術のアンデッド作成術である。


『成功したか。まだスキルレベルが2だから出来るかどうか不安だったけど、魔力を多めに使えば何とかなるな。

 でもレベルが低いからなのか、作れるのはただ動けるだけの死体だけど足には成る』


 生前の俊敏さ等の特徴も無く、ただただ動くだけ。オリジンではこれで軍事施設からの脱走も企てたが、厳重な警備に断念するしかなかった程度の、こんな手駒しか作れない。

 しかも、野兎一羽をアンデッドにするのに殺菌や殺虫とは比べ物に成らない量の魔力を消費した。ステータスを確認すると、魔力が一万も減っていた。

 殺菌一回で使う魔力が一なのに対して、あまりにも多すぎる。


『でも兎一羽じゃ足りないな。

 もっと起きろ。お前も、お前も、後お前も起きろ。お前もだ、さっさと起きろ』


 ダルシアがロープ代わりに使っていた蔦が、蛇のように這いずる。

 料理に使っていた小さなナイフが、ふわりと宙に浮く。

 ガタガタと木で組まれた粗末なベッドが音を立てて震える。

 霊を憑りつかせられるのは、何も死体ばかりではない。蔦や木材、金属等の無機物だって可能だ。地球のファンタジーやオカルト作品で見た、悪霊が憑りつき持ち主が居なくても独りでに動く武器や、呪われた宝石や壺、ポルターガイスト現象で動く家具等が、その発想を産んだ。

 尤も、無機物に霊を憑りつかせるのは死体に霊を憑りつかせるよりも何倍も魔力を消費するのだが。


『今ので百万近く使ったな。頭が少し痛い……補給してから行こう』


 残っていた最後の野兎の血を吸いつくして魔力を回復し、それもアンデッドにしてからヴァンダルーはベッドに乗って家を出た。





『起きろ、起きろ、起きろ起きろ起きろっ! 町はどっちだ? 人が多い場所は何処だ?』


 骨だけの鹿、毛皮を張りつかせた熊のミイラ、頭と内臓の無い猪、何故か白骨化していた人の死体。それらが、ヴァンダルーが乗るベッドを運んで進んでいた。

 その光景を見た者がいたら、冒険者や兵士でない限り恐怖に震え上がった事だろう。

 アンデッド達を率いる、銀髪で真紅と紫紺のオッドアイの赤ん坊。恐ろしい光景だろう。

 しかし、その実態はそれほど脅威ではない。

 動物のリビングデッドに、リビングボーン。そしてアンデッド化した道具や家具類のカースドツール……全て一匹なら農夫が鍬を振り回すだけで撃退できるし、冒険者なら雑魚の集団と評するだろう。

 それが分かっているから、ヴァンダルーは先を急ぎながらアンデッドの数を増やすのを止めなかった。


『森に母さんが居ない』


 アンデッド化した羽を持つ虫に森を探させたが、ダルシアの姿は無かった。森の中で彷徨う霊から聞き出したが、求めていた答えは得られない。

 頭が湯立つ様に熱く、眩暈が治らない。魔力をもう何百万使ったか分からない。でも嫌な予感が止まらない。


『もっと早くアンデッド作成を試すべきだった! そして作ったアンデッドを母さんに付けるべきだった!』


 そうすれば、何処にいるのか分かった。何かあったら素早く察知する事が出来た。

 いや、そもそもこんな事が出来るとダルシアが知っていたら、もっと早く森を出て生まれ故郷に向けて旅に出られたかもしれない。

 なのに、試さなかった。スキルレベルが次に上がった時にしようと、安穏と過ごしていた。ダルシア母さんに甘えてしまった。


『早く、町にっ!』


 残り魔力、五千万少々。ヴァンダルーが率いるアンデッドの群が森から最も近い町、エブベジアに辿り着いたのは夜になってからだった。


 エブベジアは村と村の間にできた小規模な町で、人口二千人程。ベステロ準男爵の領都である。

 その周囲は魔物避けの外壁に囲まれ、東西南北の門からしか中には入れない。空でも飛べない限り。


『お前達は森で待機。骨猿は俺を背負え』


 森で見つけた大きな猿の骨から作ったアンデッド、命名骨猿の背中に掴まってこっそりと外壁へと近づく。

 たった二千人しかいない小さな町で、強力な魔物や敵対国の脅威に晒されている訳ではないので、警備体制はヴァンダルーから見ればザルだ。オリジンの軍事施設の警備担当者が見たら、憐れみすら覚えるかもしれない。

 しかし、流石に夜になれば門は全て閉じられるし見張りも立つ。

 そんな中に人間並みの大きさのスケルトンモンキーが近づいたら大騒ぎだ。だから、ヴァンダルーは門を無視して壁に向かう。

 そして、壁の石材に魔力と適当な霊を押し込める。


『俺達が通れるぐらいの、穴を空けろ』


 死属性魔術によってアンデッドウォールと化した外壁の一部が、主人の命に逆らう訳がない。ゴゴゴガガガと小さな音を立てて形を変形させ、抜け穴を拵える。

 残り魔力、四千九百万。


【死属性魔術のスキルがレベルアップしました】


 そんな脳内アナウンスが聞こえた気がするが、眩暈が酷い。頭痛も、まるでハンマーでコメカミを絶え間なく殴られているようだ。

『骨猿、人気の無い路地を進め』

 かしゃりかしゃりと骨が擦れる音を立てて、骨猿が進む。その歩みはぎこちなく、背中にしがみつくヴァンダルーへの配慮は皆無だったが問題無い。自力で歩く事は出来ないものの、ヴァンダルーの腕力は既に平均的な成人男性を上回っている。骨猿の肋骨を両手で掴んでいれば、十キロも無い身体を支える事は容易い。

 そして、殆ど明かりの無い暗い町を、見回す。その視界は闇視のお蔭で、真昼のようにはっきりとしていた。


『母さんを探せ』


 虫アンデッドを放して情報収集する傍ら、町の中に漂う霊の内知能が残っている者から話を聞く。

 アンデッドになっている訳でもない普通の一般人の霊は、余程の精神力が無ければ死後急速に劣化する。だからあまりあてに成らないと、思っていた。


『……広場に居るよ』


 だから、その答えを聞いた時は驚きで心臓が止まりそうになった。


『広場にっ!』


 骨猿が、がしゃりがしゃりと音を立てて疾駆する。

 そして見えて来た広場に、ダルシアの姿があった。

 あってしまった。


『ヴァンダルー……ごめんね……』


 今にも消えそうな、霊に成って。





『母さんっ!』


『ごめんね、お母さん死んじゃった。でも、ヴァンダルーの事、喋らなかったよ』


『何が、あったの……?』


 鞭の痕が幾つもあるダルシアの霊は、ヴァンダルーが求めるままに何があったかを話した。

 ヴァンダルーを連れてダンピールでも殺されない安全圏であるダークエルフの里に逃げるため、旅に必要な情報をこのエブベジアで手に入れるつもりだった。


『だって、ヴァンダルーはお父さんと同じ真紅の瞳と、お母さんと同じ紫紺の瞳をしているのだもの。顔を見られただけで、ダンピールだって気づかれちゃうもの』


 だから、街道は使えない。魔物の出ない比較的安全なルートを探す必要があった。

 しかし、誰かに密告されたようだ。ダルシアの名前と人相書きがアルダ神の教会関係者に渡っていて、それと時折町に来るダークエルフの女冒険者がそっくりだと。

 何も知らずに町に入ったダルシアは、待ち伏せていたベステロ準男爵の騎士と教会の僧兵、雇われた冒険者達に囲まれ、抵抗するも捕まってしまった。


『必死に戦ったんだけど、弓も精霊魔術も冒険者の人達の中に私より上手い人がいて、ダメだったんだ。

 その後、教会の人達が鞭で叩きながら言ったの、お前が産んだダンピールは何処だ、言え魔女めって』


 教会がダルシアに加えた拷問は、苛烈だった。鞭で叩き、指を叩き潰し、焼き鏝を押し付けた。

 その時の痛みが魂まで傷つけたのだろう、霊に成ったダルシアの肉体に傷跡となって残っている。


『それでも黙ってたんだよ、偉いよね、頑張ったよね。

 でも、拷問しても無駄だって思った教会の人達に今日の夕方、火炙りにされちゃった』


 準男爵と教会は自分達の手柄を喧伝するために、そして吸血鬼の誘惑に負けた女の末路を領民に知らしめるために、ダルシアを生きたまま公開処刑にかけた。


『それで、生きたまま燃やされて死んじゃった。

 せめて幽霊になってヴァンダルーに会いに行きたかったんだけど、教会のゴルダン高司祭が、私の灰に聖水を撒いたんだ。お蔭で、会いに行くどころかここで消えないように頑張るのが精一杯に成っちゃった』


 ダルシアの言葉を聞く度に、ヴァンダルーは自分の身体が腐り落ちるような、視界が歪むような絶望と無力感を覚えた。

 昨日の内に、探しに出れば間に合ったのに。もっと早くここに辿り着けば、間に合ったのに。


 母は、自分がのんびりと惰眠を貪っている間に綺麗なチョコレート色の肌に鞭を受け、野兎の生き血を飲んで満腹になっていた時に焼き鏝を押し付けられていた。

 そして無様に森を彷徨っている間に、晒し者にされて生きたまま焼き殺されてしまった。

 ダルシアが生きていた痕跡は、広場の石畳の上に残った灰と炭の小さな山しかない。


《【精神汚染】スキルを獲得しました!》


『もっと俺が早く成長していれば、もっと魔術の腕を磨いていれば、以前から情報を集めていれば……強くなっていれば母さんを殺されずに済んだのに!』


 狂おしい感情がヴァンダルーの精神を駆け巡った。表情そのものは大きく変わらなかったが、哀しみに体は震え、悔しさと怒りのあまり涙が止めどなく流れた。


《【精神汚染】スキルのレベルが、2に上がりました!》


 その様子を、ダルシアは悲しげに見つめていた。

 彼女も、本心ではヴァンダルーに自分が殺されるまでに受けた仕打ちを聞かせたくなかった。だが、黙っている事は出来なかった。

 何故なら彼女は消滅しかけている弱い霊で、死属性の魔術を使い莫大な魔力の持ち主であるヴァンダルーの望みに逆らう事は出来なかったからだ。

 そして彼女が見ている前で、ヴァンダルーの下に虫アンデッド達が戻ってくる。虫達はエブベジア中からダルシアに関する情報を持ち帰っていた。


『お館様、今日の公開処刑は盛り上がりましたな』


『うむ。その上、吸血鬼ではなく股を開いたダークエルフの方だけでも十分な手柄になる。陛下や教会の覚えも良くなり、私の昇爵も近づくという物だ』


『ベステロ準男爵様から、準の文字が取れる日も近いですな』


 上機嫌で晩餐を楽しみながらバラ色の未来に酔う領主と家令。


《【精神汚染】スキルのレベルが、3に上がりました!》


『あの魔女め、結局ダンピールの事を吐きませんでしたね』


『フンっ、母親気取りのつもりか。火あぶりにした時も、命乞いの一つもすれば良い物を。最後まで悔い改めようとしないとは、まさに魔女よ』


『今頃地獄の業火に焼かれているでしょう。それで、明日からは五色の刃達とダンピール狩りですか』


『赤子等放っておけばいいのでは? 乳呑児が母親から離れてもう三日目。今頃死んでいますよ』


『侮るなっ! 赤子と言っても吸血鬼との混血児だ、どんな能力を受け継いだか分からん! 奴の父親が従属種なら兎も角、貴種……もし原種だったらどうするつもりだ!』


『も、申し訳ありません、ゴルダン高司祭』


『だが、五色の刃を長々と雇う予算は無いし、これ以上手柄を上げられるのも拙い。それに奴らもこれ以上付き合うつもりはないだろう。所詮は冒険者、我々法命神アルダ様の使徒とは違う。

 山狩りはエブベジアの猟師達を道案内にして、準男爵殿の騎士達と共に行う』


『分かりました』


 教会では、ダルシアを魔女呼ばわりした高司祭と神殿騎士達が彼女を忌々しげに罵り、自分を見つけて殺すための相談をしていた。


《【精神汚染】スキルのレベルが、4に上がりました!》


『今日の仕事は楽だったな。あのダークエルフ、弓や精霊魔術の腕はそこそこだったが、精々D級程度だったし、俺達の敵じゃなかったぜ。

 なぁ、ハインツ』


『どうしたの、ハインツ? 様子がおかしいけど』


『……いや、なんでもない。ただどうにも後味が悪くてな』


『あのダークエルフに同情してるのか? 俺達五色の刃のリーダーにして、二つ名持ちのB級冒険者が甘い事言うなよ』


『吸血鬼の誘惑に負けたのか、不老不死に成りたかったのか知らないけれど、あのダークエルフの自業自得よ。気にする事ないわ。

 それに、この依頼を受けようって言ったのはあなたよ。蒼炎剣のハインツさん?』


『それはそうだがな、伯爵からの紹介状を見せられたんだ。仕方ないだろう』


『まあ、稼いだ金で酒を飲んで、飯を食おうぜ。倒した魔物の肉を食うのと一緒さ、こうするのが供養って奴さ』


 ダルシアを捕まえるために雇われた冒険者グループ、『五色の刃』は、彼女を捕まえて手に入れた金でご馳走を貪り、それを供養だと言った。


《【精神汚染】スキルのレベルが、5に上がりました!》


『カンパーイ! 準男爵様と高司祭様に乾杯!』


『はっはっは、オルビーの根暗にも乾杯!』


『おい、誰が根暗だっ!』


『お前だよ、お前っ。町に来る美人ダークエルフに一目惚れして、振られた腹いせに襲おうと後を付けるような猟師仲間がいて、俺は誇らしいぜ』


『なんだよ、そのお蔭であの女が手配書にあった魔女だって分かったんだろっ!』


『でも、勿体なかったよな。あんな美人を火あぶりだなんてよぉ。それで、明日はダンピール狩りで小遣い稼ぎか。どうせ主役は騎士様達だろうけど、道案内で小銭ぐらいは貰えるだろうしよ』


『何言ってんだ、俺達でダンピールを捕まえるんだよ。そうすれば小銭どころか、大金が手に入るぜ』


『お前、まさかあのダークエルフの隠れ家が何処にあるか、言ってないのか!?』


『でかしたぜ、オルビーっ! ダンピールを捕まえれば、教会に魔術師ギルドに奴隷商人に、好きな所に売れるぜ!』


 ダルシアを密告した猟師たちが、下卑た笑い声を上げながら今度は自分を捕まえて売る算段をしている。


《【精神汚染】スキルのレベルが、6に上がりました!》


『良い子にしないと、魔女みたいに火あぶりにされてしまうよ』


『ダンピールの方は見つかっていないのか。不安だな、早く退治されればいいのに』


『吸血鬼が報復に来る事は無いだろうな?』


『吸血鬼が出る町のワインなんて噂が流れたら大迷惑だ。さっさと終わって欲しいね』


 そして町の人々……ごく普通に日常的な生活を過ごす人々の言葉。その中に、ダルシアに同情するものは無い。


《【精神汚染】スキルのレベルが、7に上がりました!》


 何という事だろう。

 ヴァンダルーは、世界が自分を中心に回っているとか世の中が善意に溢れているなんて思った事は、三度の人生で一度も無い。

 しかしここまで非情とは、ここまで悪辣とは、思ってもみなかった。

 地球、オリジン、そしてラムダ。

 三度も人生を生きているのに、何故一回も幸福に成れないのか。ただひたすら奪い、苛み、耐える事を強いるのか。


 どの人生でも、悪い事は何もしていないのに掛け替えの無い存在が失われ、その代わりに得る物は何も無い。

 本当に存在した神でさえ、救おうともしない。


『ごめんね、ヴァンダルー……』


 そして、ヴァンダルーの目の前からもう一度ダルシアが失われようとしていた。


『もう、お母さん限界みたい』


 ただでさえ薄いダルシアの姿が、揺らめき、声も不鮮明になって行く。彼女の霊体が現世に留まる限界に近づいているのだ。


『待ってっ! 母さん、逝っちゃダメだっ!』


 このままでは死後の世界、あの輪廻神ロドコルテの下にダルシアが行ってしまう。ラムダでもヴァンダルーが母親を喪ったと知れば、奴は笑うだろう。もっと絶望しろと、さっさと諦めろと、嘲るだろう。ダルシアの魂の前で。それだけは嫌だった、とても容認できない、耐えられない。


『ごめんね、こんな風にもっと沢山お話ししたかった。ヴァンダルーが大きくなって、大人になった姿を見たかった。お嫁さんを貰って、子供が生まれて、沢山幸せに成った姿を見たかったよ』


《【精神汚染】スキルのレベルが、8に――9――成長限界に達しました!》


『解ったよ、母さん』


 残りの魔力、四千五百万。それをヴァンダルーはダルシアの霊体に注ぎ込んだ。

『えっ、あっ、あ、ああっ? ヴぁ、んだ、あああああっ!』

 アンデッドを作る時の要領で、ダルシアの今にも消えそうな儚い霊体に魔力を注ぎ込む。穴の空いたバケツに水を流し込むような物だったが、幾ら穴が空いていても水が莫大なら効果はある。


『後は、母さんの魂が憑依する憑代があれば……』


 適当な石や道具、骨ではいけない。それではダルシアの人格を長い時間保つ事が難しくなる。

 本来なら本人の遺体が最も好ましいが、灰にされてしまった。


『何かないか』


 骨猿に灰の山を探させると、焼け焦げた骨が見つかった。それは、ヴァンダルーの小さな手の中にも収まってしまう様な、小さな欠片だった。


『これでいい。母さん、この中に』


 膨大な魔力を流し込まれているダルシアは、そう望む息子の言葉に逆らおうとした。

 何故なら、それがこの子の為だから。

 悲しいけれど、自分はもう死んでしまった。アンデッドに成っても、生きていた時とは違う。そんな自分が傍にいるのは、息子の為に成らない。寧ろ、悪影響を与えてしまう。

 だから、本当はもっと傍に居たいけれど、涙を堪えて離れようとしたが――。


《【死属性魅了】スキルを獲得しました!》


 傍に居たい傍に居たい傍に居たい、ずっと一緒に居たい! この子の近くから離れたくないっ!


『解ったわ、母さんはずっと一緒だよ』


 思考が一色に塗りつぶされ、ダルシアは嬉々として自分の遺骨の中に宿った。


『これで、母さんは霊体だけだけど取り戻した。いつか、新しい身体を作ってあげるからね』


 霊体を維持する魔力と憑代が揃ったが、所詮は骨の欠片だ。今のダルシアは自力で動く事も難しい、ヴァンダルーが声をかけるまで眠り続ける事しか出来ない状態だ。

 だから、もっと死属性魔術の腕を磨いてダルシアが生前と同じように生活できる器を用意する。きっと。


『でも、その前にこいつ等に復讐しないと』


 準男爵とその家臣たちに、教会の連中に、冒険者に、猟師たちに、町の人々全てに、復讐を。

 しなければ気が済まない、このまま奴らが何の罰も受けないなんて筋が通らない、あまりにも不条理だ。


『でも、今は……限界だ』


 残り魔力が、もう一割も無い。頭が痛い、喉が渇いた、空腹だ、眠い……生後半年の身体で、無茶をし過ぎた。


『ごめんよ、母さん。復讐は、後で……骨猿、来た道を戻れ』


 骨猿はヴァンダルーを抱え上げると、そのままカシャリカシャリと音を立ててエブベジアの町を出た。穴の空いた外壁はヴァンダルー達が通ると元通りに成り、待機していたアンデッドの集団も大人しく骨猿の後に続いた。

 人々はまだ知らない、恨みを買ってはならない相手から、高値で大量の恨みを買ってしまった事を。



《【限界突破】スキルを獲得しました!》

《【高速治癒】スキルのレベルが、2に上がりました! 【限界突破】スキルのレベルが、2に上がりました! 【状態異常耐性】スキルのレベルが、2に上がりました!》



・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:半年

・二つ名:無し

・ジョブ:無し

・レベル:0

・ジョブ履歴:無し

・能力値

生命力:18

魔力 :100,000,600

力  :27

敏捷 :2

体力 :33

知力 :25


・パッシブスキル

怪力:1Lv

高速治癒:2Lv(UP!)

死属性魔術:2Lv(UP!)

状態異常耐性:2Lv(UP!)

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv(NEW!)

死属性魅了:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

吸血:1Lv

限界突破:2Lv(NEW!)


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能

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― 新着の感想 ―
つくづくダークヒーロー誕生の瞬間だなぁ 運命の賽は投げられ、神も含めた復讐劇が始まる
スキルレベルが低過ぎるとか、生後半年では術に体が見合ってないとか、生贄,依代,触媒,時期場所場合が整ってなかったとか色々な無理を押し倒して行使した術だから1万魔力とか言う法外な量を費やしてしまったのか…
[一言] ふーんステタス、漢字もっと書いて
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