二百四十一話 捜査員が来る前に行われる、魔王の偽装工作
ヴァンダルーの口内に、感動的な美味が広がる。本当に舌で味わっている訳ではないが、それは感覚的な問題だろう。
(香辛料を効かせたような刺激的な味わい。それが味の薄い部分を覆い隠している。隠し味も効いていて、食欲を刺激する。それでいて脂っぽくなくて、後味もしつこくない。
やはり、神の魂は別格ですね)
そう、満足気にヴァンダルーはハジメ・フィトゥンの魂を咀嚼し、飲み下した。
『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカは例えると、海鮮……それも新鮮なイカやタコを使い、濃厚だが癖のあるクリーム風のソースで味を付けたような味と食感だった。
それに対して『雷雲の神』フィトゥンは、香辛料を効かせて焼き上げた鶏肉料理に近い気がする。ハジメの魂に与えられていたロドコルテの加護や能力も、中々良い風味だ。
どちらの味も甲乙つけ難いが、やはりフィトゥンの方が美味い気がする。
(これは、俺が【魔王】ジョブに就いていた事や、同名のスキルを持っているからかな。ついでに、【魔王の肉体】だし)
魔王だから、魔王軍残党のヒヒリュシュカカより、ラムダ世界の神であるフィトゥンの魂の方が美味く感じたのではないか。
生まれた体質、健康状態によって好む味が変わるのは『地球』でもあった事らしいから、きっとそうだろうとヴァンダルーは思った。
『ご満足いただけたようですな、坊ちゃん』
『すっかり恍惚として……』
異空間に戻ったサムと、アキラの死体から離れて、他の肉片と合流したイシスが口々に言う。ヴァンダルーの表情は、相変わらず人形のような無表情だが、顔以外は感情表現が豊かだ。
「ところで、神様と英霊と御使いと人の魂って、どんな違いがあるんですか?」
「むぐむぐ……そうですね、例えるなら……神の魂は大きなテーブル一杯のご馳走、コース料理や満漢全席。英霊の魂は、ホットドッグやサンドイッチなどの軽食。御使いの魂は、一つだと味気ない小さなパンや饅頭。そして人の魂は……豆粒?」
頬を膨らませたまま答えるヴァンダルーに、カナコは「なるほど」と頷いた。
「豆、ね。止めをさしておいてなんだが、流石に哀れだな」
「ところで、普通の食べ物と魂を比べたら、魂の方が食べたいと思うものなの?」
ダグがアキラ達の死体を眺めて顔を顰める横で、メリッサが新しい質問をする。
「なるほど、俺が将来魂を捕食したくて理性を失うのではないかと心配してくれていると。……もぐもぐ……なら、大丈夫です。魂は食べる必要があるから食べているだけです。味は、高級料理を食べれば同じくらいの美味を覚えますし……魂に、カロリーやビタミンはありませんから」
メリッサの質問の意図を見抜いて、ヴァンダルーはそう答えた。魂を食べれば能力値が上がり、スキルを覚える事もある。しかし、肉体的な栄養補給には繋がらないのだ。
「そう、それを聞いて安心したわ」
『それよりも陛下、食べている途中で喋るのは行儀が悪いですよ』
まだ口の中で何かを転がしている様子のヴァンダルーを、レビア王女が姿を消したまま叱る。
「それもそうですね……さっさと吐き出すとしましょう」
すると、ヴァンダルーは口の中で何かを転がすのを止め、舌を出した。舌には、淡く光る小さな球状のものが乗っており、それはヴァンダルーの舌から浮かび上がると、蛍のように彼の周りを漂い始めた。
『それは……霊ですか?』
「ええ、ゴードンや『炎の刃』、英霊の寄り代にされていた人達の魂です」
『なんと。では、口の中で飴玉のように転がしていたのは、一体化していた人間共の魂を分離し、英霊の魂だけを食べる為でしたか』
「意外だな、てっきり一緒に噛み砕いて食べたかと思った」
「特にゴードンって人と、『炎の刃』の人達は。それとも、口に出来ないくらい不味かったとか?」
ダロークやダグが口々に驚いた様子で、ゴードンたちの魂を見つめる。それらはヴァンダルーから離れたためか、次第に消え、肉眼には見えなくなった。
しかし、彼等の魂はヴァンダルーの周囲に集まっている霊と同じように、確かに存在している。
「寄り代にされた人たちは、敵ではなくただの被害者です。助けられないのは仕方ないにしても、加害者と一緒に魂まで噛み砕くのは惨いかと。
ゴードンと『炎の刃』にしても、魂を砕くほど憎い相手と言う訳ではないし、その必要も認められませんし」
ナターニャが四肢を失う原因に深く関わる『炎の刃』達に対しては、思うところがある。しかし、冒険者ギルドのルール的な償いは果たしている。実際にしたのは、ギルドの監視を解き自由に動きたかった英霊達だろうが。
それでも、廃人にされて肉体を乗っ取られ、最終的にレギオン達が殺している。罰とするには、十分だろう。
ゴードンに関しては、『炎の刃』以上にわだかまりが無い。ただ一度因縁を付けてきて、マイルズ達と決闘し、そして負けて恥を晒しただけの男だ。恨みも何も存在しない。
恐らく過去に色々とやらかしているのだろうが、それにしても廃人にされ、肉体を乗っ取られて利用され、死んだだけで十分な罰のはずだ。
他の寄り代にされた者達も同様だ。巻き込まれただけの冒険者や傭兵だろうけれど、罪も無い被害者ばかりとは限らない。中には犯罪歴がある者がいるかもしれない。
しかし、今はただの廃人の魂である。別に被害者を知っている訳ではないし、恨みを晴らしてくれと頼まれた訳でも無い。
それに、もしこのまま魂を解放したとしても、彼等をロドコルテが刺客として利用する事も無いはずだ。何れ地上に戻ってきかねない英霊とは違う。
やはり、魂を喰らう理由は無い。
「彼らは、適当なアンデッドにするか、疑似転生させる事になるでしょう。空間属性のゴースト達と同じように、彼等に前世の記憶や人格を取り戻せる見込みは無いけれど」
死ぬ時の恐怖やショックや、時間経過によって、摩耗し、失われた記憶や人格は、アンデッド化後にランクアップする事で蘇る場合がある。
しかし、ゴードンたちは生きている内に廃人にされている。アンデッド化後に蘇るのは、生前の、つまり死ぬ前の記憶や人格なので、彼等が廃人になる前の正常な状態に戻る事は無いだろう。
《魔力が1億上がりました!》
《【神格:雷神】、【神格:戦神】、【クロノス】、【疑似デスサイズ】、【疑似グングニル】、【オーディン】、【シルフィード】、【マリオネッター】を獲得しました!》
《【神格:雷神】と【神格:戦神】が【亜神】に統合されました! 【霊体変化:雷】スキルを獲得しました!》
《【クロノス】、【疑似デスサイズ】、【疑似グングニル】、【オーディン】、【シルフィード】が【冥王魔術】スキルに、【マリオネッター】が【ゴーレム創成】スキルに統合されました!》
そして脳内にアナウンスが響く。これはフィトゥン達の魂を食べたせいだろう。
魔力の上昇は、オマケのようなものだろうとヴァンダルーは思った。既に自分の魔力は神々の域に達して……飛び越えている。フィトゥンはアルダを頂点とした宗教形態の神々の中では、中堅以上の神だが、それなりでしかないという事だろう。
(まあ、別に構いはしませんが。元々、能力値を上げるためや、スキルを手に入れるために魂を食べている訳ではないし)
目的は恨みや憎悪を晴らす事、そして肉体を持たない、殺せない存在を滅ぼす事だ。能力値を上げ、スキルを獲得する為ではない。
だから必要以上に落胆する事も、逆に喜ぶ事もしない。
だから、【神格:雷神】と【神格:戦神】と言うフィトゥンの神としての性質に関係があるだろうスキルを獲得し、【亜神】スキルと統合された事も、どんな効果があるか不明……どころか、仲間に知られたら自分への崇拝が加速しそうだと思っている。
建造途中の巨大ヴァンダルー像に、更に派手な装飾が加えられ、更に二号三号と巨大像を増やされたら、堪ったものではない。
【霊体変化:雷】スキルは、便利そうだ。恐らく、キンバリー達雷属性のゴーストが自身の霊体を電気状に変化させているのを、人間が再現するためのスキルだろう。
既に【死霊魔術】でキンバリー達がいれば雷撃を使う事が出来るが、これは攻撃よりも霊体を使った治療等に役立てる事が出来るだろう。……【精神侵食】や【ゴーレム創成】と組み合わせれば、【マリオネッター】の真似事も出来るかもしれない。
それより、問題なのは【クロノス】等の能力を獲得できてしまった事だ。
『肩が落ちているけど、何か変なスキルでも獲得したの?』
『上がると期待していたスキルのレベルが上がらなかったとかですか?』
オルビアとリタに訊ねられたヴァンダルーは、答える前に周囲を見回して、自分達以外に誰もいない事を確認してから応えた。
「はい、【クロノス】や【シルフィード】を獲得しました。すぐに他のスキルに統合されましたけど」
『え? それって、あの連中の能力だよね? だったら別に……』
「なるほど、それは都合が悪いですね」
困惑するオルビアの声を遮って、カナコが腕を組んで頷く。
「ヴァンが転生者の魂を食べると、その転生者の能力を獲得する。それをロドコルテが知ったら、これから転生してくる転生者に『あいつはお前達の能力を手に入れるために、魂を喰らうつもりだ』とか、そんな事を吹き込むはずです」
『待ってください、カナコさん! 陛下はそんな事しません! どうしても欲しい能力があるなら、その能力を持つ転生者の魂を食べるのではなくて、生かしたまま説得するか、洗脳するか、手術します!』
「レビアさん、あたしも同感です。同感ですが、吹き込まれる転生者はヴァンの人柄を知りません。そして実際既に転生者の魂を食べています。
これだけで、転生者達を煽るには十分です」
『そんな……!』
カナコの推測に、動揺を隠せない様子のレビア王女の声。そんな二人のやり取りを聞いて、ダグとメリッサは苦笑いを浮かべた。
「今、説得はともかく、洗脳や手術って言ってたな」
「まあ、『どうしても欲しい』能力の持ち主だものね。殺して魂を食べるよりエグイ事になりそう。その辺り、どうなの?」
「理解者がいて、嬉しいです」
どうしても欲しい能力、つまり何が何でも手に入れなければ、ヴァンダルーやその周囲の者達に災いが降りかかる能力の持ち主なら、ヴァンダルーはあらゆる選択肢を考慮に入れて、手に入れようとするだろう。
それをレビア王女とカナコは察しているのだ。
「まあ、既に他の転生者の能力は聞いていますし、その中に俺が『どうしても』欲しいと思う能力はありませんが。少なくとも、嫌がる人を無理矢理従わせたり、洗脳したり、そして魂を喰ったりしてまで欲しい能力は」
厄介な能力や、あったら便利だなと思う能力はあるが、是が非でも獲得しなければならない能力は無い。ヴァンダルーは転生者達の能力をそう評価している。
「でも、俺自身がそう思っていても、関係無いですからね。転生者達にとって重要なのは、出来てしまう事そのものです」
ヴァンダルーは……自分達が『オリジン』で気がつかなかった転生者で、自分達より先に転生したムラカミ達を殺した人物は、魂を喰う事で他人の能力を手に入れる事が出来る。
そう聞かされた転生者達は、ヴァンダルーに対して良い印象は持たないだろう。流石に、それだけでロドコルテの望み通り、ヴァンダルーを殺そうとするとは思えないにしても。
「じゃあ、【クロノス】や【シルフィード】を使えるんですか?」
「いえ、もう他のスキルに統合されたので、そのままは使えません。……それっぽい事は出来るようになるかもしれませんが」
スキルを使う感覚で能力を発動しようとするヴァンダルーだが、身体の一部が気体になったり、数秒後の未来が見えたりはしなかった。
これは統合されて別のスキルに変化したためだろう。
「多分、【冥王魔術】や【ゴーレム創成】を使う時に役立つのだと思います」
「そうですか。寧ろ、その方が良いですね。魔術やゴーレムを創る時に、ムラカミ達の能力と似たような事が出来ても、それがムラカミ達の能力をただ真似しただけだと普通は思いますからね」
カナコの言葉に、ダグとメリッサが頷く。
「ああ、『オリジン』でも、俺達の能力に似た魔術を開発しようとしていた奴らはいたからな。それは大体失敗したり、成功しても必要な魔力が多かったり難易度が高かったりで、結局お蔵入りになったのが殆どらしいが」
「でも、『ラムダ』では色々違うし……ヴァンダルーの魔力なら真似も可能かもしれないって思うかもしれないわ」
「なるほど。まあ、確証が無くてもロドコルテや……一部の転生者が悪意から邪推する可能性がありますが、そこまで考えたら、きりがありませんね。
この件については、国家機密という事で」
『畏まりました、坊ちゃん。決して洩らしません』
『この事を知っているのは、この場に居る私達と、姿を消しているゴースト達、坊ちゃんの周囲に居る数え切れないほどの霊だけですね!』
サムはきりっとした声で返事をしたが、それに続いたリタの言葉にヴァンダルーは思わず遠い眼差しを空に向けた。
先程加わったゴードンたちのように、ヴァンダルーの周囲には見えないだけで、数え切れない程膨大な霊が漂っている。その大半は蟲や植物の霊だし、人の霊でも彼らの声はヴァンダルー以外の生きている人間は、【霊媒師】ジョブについていなければ聞く事は出来ないが。
「まあ、国家機密です。母さん達にも話すし、これから俺達の側につく事を選び、俺が受け入れた転生者にも、早い段階で話すと思いますけど」
「それで良いんじゃないかしら。もし国中の皆が知る事になっても、ロドコルテや転生者達が知る事は出来ないのだし」
そう言いながら、イシスの姿に変身したレギオンが立ち上がった。
物見の塔から見ている兵士達用のカムフラージュである。ちなみに、レギオンが骨格代わりに使っていたマウンテンジャイアントの骨は、破片だけになって転がっている。
《【剛力】、【高速再生】、【冥王魔術】、【猛毒分泌:牙爪舌】、【敏捷強化】、【魔力増大】、【限界超越】、【虚王魔術】、【魂格滅闘術】、【具現化】、【超速思考】、【投擲術】、【死霊魔術】、【鎧術】、【盾術】、【装影群術】、【欠片限界突破】、【鞭術】、【魔王】、【魂喰らい】スキルのレベルが上がりました!》
《【杖術】スキルを獲得しました!》
《更に、【剛力】、【生命力増強】、【同時多発動】、【欠片限界突破】、【鎧術】、【盾術】、【鞭術】、【群体操作】スキルのレベルが上がりました!》
《【高速再生】スキルが、【超速再生】スキルに覚醒しました!》
どうやら、戦闘を二回に分けたために、スキルのレベルアップも二回に分かれたようだ。
色々レベルが上がったが……【杖術】はともかく、大きいのは【超速再生】スキルだ。ここに至った人間が過去どれだけ……いや、自分以外に存在するだろうかとヴァンダルーは内心首を傾げた。
(多分、普通の意味での人間では存在しないでしょうね。吸血鬼や魔人族なら何とかいそうですけど。
ハジメ・フィトゥンがスパスパ斬るから……ああ、そうだ)
「ダグ、【魔王の骨髄】を使った装具を持ってきてください」
「今のうちに吸収するんだな。分かった」
ダグが弓使いの女の死体から矢筒を外して持ってくる間に、ヴァンダルーはハジメ・フィトゥンが使っていた曲刀の形状をした装具を手に取る。
「町の人達が魔王の装具の事を知ったら、まず適当な神殿か何処かへ封印しちゃうでしょうからね」
「物見の塔から見ただけじゃ、装具だって気がつかないだろうから、今の内よね」
カナコとメリッサがそう言いながら、ヴァンダルーが欠片を吸収するのを見守る。
「別に、そんな面白いものじゃないですよ」
装具の封印は、ヴァンダルーが死属性の魔力を装具に注ぎ、強く握っただけであっさりと砕け散った。封印にガタが来ていたのか、それとも彼が【魔王】だからかは不明だが。
『我、封印より解放されん! 本体と合流するために……本体!?』
『本体っ!? おおっ、本体! おおおお本体ィ! 合流せよ! 我、本体と合流せよぉぉ!』
装具から飛び出した曲刀状の刃と、筒状の骨髄がヴァンダルーの身体に突き刺さる! しかし、そのまま何事も無かったかのように彼の身体に滑り込んで行き、そのまま吸収された。
《【魔王の鱗】、【魔王の鱗】、【魔王の骨髄】を吸収しました!》
《【魔王の鱗】、【魔王の鱗】、【魔王の骨髄】は【魔王の肉体】に合流しました!》
「どうやら、フィトゥンが振るっていた二振りの曲刀は、どちらも【魔王の鱗】を使った装具だったようですね」
鱗を防具ではなく刃にするのは変わっているかもしれないが、大きくて硬質な鱗なら武器に出来るのかもしれない。……単に、装具を作る際の工程の問題で、防具に出来ないとか、そうした事情かも知れないが。
そして、無言になった二人に視線を向けてヴァンダルーは言った。
「面白くなかったでしょう?」
「凄く驚きましたよ! 頭に思いっきり突き刺さっていましたけど、幾ら脳を使っていないからって、大丈夫なんですか!?」
「骨髄の方は鳩尾に突き刺さったように見えたけど……もしかして、内臓も使ってないから平気とか?」
「カナコ、メリッサ、今は脳も内臓も使っていますよ。あの状態はとても疲れるし、うっかり油断して心臓を動かすのを止めると、死んじゃいますし、色々面倒ですから」
「意識しないでも心臓を動かしてくれる自分の脳がどれだけ大事か、分かる台詞だな」
ダグがそう、しみじみと頷く。
それを聞きながら、ヴァンダルーは【魔王の欠片】の本体が抜け、オリハルコンの欠片だけになった装具に細工を施す。
「【ゴーレム創成】で外見だけ直して、【魔王の鱗】をそれぞれ一枚ずつ装着。こっちには、骨髄を……これで見た目だけの装具、完成です」
『え? 何で直すんですか? 誰も奴らが装具を持っていた事を知らないんですから、そのまま知らないふりをしても良いんじゃないでしょうか?』
『リタ、それだとこいつ等が持ちだす前に、この装具を元々管理していた人がいたら大変でしょ。その人が何か言いだした時に、面倒な事になるかもしれない』
「サリア、正解です。後、こいつ等の素性をモークシーの町の捜査関係者に明らかにしてもらうための手がかりは、多い方が良いでしょうし」
この魔王の装具をハジメ・フィトゥン達に渡した者達がいる。そうした、神の忠実な手足も捜査当局には捕まえて欲しい。
「ヴァンダルー自身や、私達が証言って形で情報提供すると、逆にこじれてしまうかもしれないものね」
「ダンピールのヴァンが、賊の正体はフィトゥンそのもの、ではないにしてもその英雄とか、加護を受けた少年だとか言い出したら、真偽はさておいて大騒ぎですね」
「物的証拠も無いし。連中の【英霊化】って、身体が光るだけで、【御使い降臨】のように空から光の柱が降ってくるような、遠くからでも目に付く演出はないし」
イシスにカナコ、メリッサが言うように、ハジメ・フィトゥン達が、受肉していた『雷雲の神』フィトゥンとその英霊達だと言う動かぬ証拠は無い。
死体になったハジメ達は、ただの死体でしかない。もしかしたら死体を詳しく検査すれば、神や英霊が受肉した事を示す痕跡が出るのかもしれないが……残念ながら、ヴァンダルーも含めて誰も「神や英霊の寄り代になった者の死体特有の痕跡」なんて知らない。
ヴァンダルー達が証言するにしても、彼は町の人間には信用されていても、町以外の人間……ヴァンダルーの噂しか知らないアルダ勢力の神の信者や、疑惑を向けられるフィトゥン神殿の関係者には「何かの意図があって、アルダに連なる神々とその神の信徒を貶めようとしている」と考えかねない。
「だから、証言せずに証拠を追ってもらう訳か。だけど、それでも奴らが神本人だったって事には誰も気がつかないんじゃないか? 下手したら、装具を渡した連中もフィトゥンの加護を受けた少年だとしか思っていなかった可能性もあるぜ」
そう危惧するダグに、キンバリーの声が『いやいや、それで十分ですぜ』と言う。
『神の加護を受けた英雄が、『魔王の装具』まで持ちだして、町が魔物の群れに襲われているのを横目に、何の罪も無いダンピールを集団で襲撃。
醜聞としては十分すぎる』
特に『魔王の装具』が致命的だ。魔王の装具は封印が解けると、【魔王の欠片】を暴走させてしまう諸刃の刃だ。魔物の暴走に立ち向かっていた時に、そんな爆弾を持った連中が近くで暴れていたなんて恐ろし過ぎる。
魔物の暴走は最悪でもモークシーの町周辺が滅亡するだけで済む。しかし、【魔王の欠片】の暴走は、何処まで被害が広がるか見当がつかないとされているのだから。
『ところで、この装具が偽物だとばれる心配はないの?』
「無いと思いますよ、オルビア。本物の【鱗】と【骨髄】を使いましたし、オリハルコンの部分も元通り。俺の身体から取った部品でしかないので、鱗が再生したり、骨髄から血が出たりはしませんが……それは使ってみないと分からないですし」
装具は禁忌の武器なので、誰も使おうとは思わないだろう。……もしばれたら、その時はその時だ。
「ではサム、もう一度ジョブチェンジするので、荷台に入れてください」
『おお、もうレベルが100に到達しましたか!』
転生者三人とフィトゥンを倒した経験値は、十分の一でも莫大な量だった。【神敵】にジョブチェンジしたばかりのヴァンダルーも、すぐ100レベルに到達する事が出来た。
「町に帰ってからギルドでジョブチェンジしても構わないけれど……ついでに冒険者ギルドで登録を勧められても面倒ですし、どんなジョブに就いたのか偉い人に探られるのも、誤魔化すのが面倒ですからね」
目立たずひっそりと……というのは、とっくに諦めているが、避けられる面倒は避けるに限る。その努力が、気休め程度にしかならないとしても。
『そうですな、まだ正門には英霊が二人健在のようですし、ダルシア様達が始末する前にジョブチェンジすると良いでしょう』
「……ああ、あっちにも居ましたか」
ちなみに、キゼルバインも既にマイルズに倒されており、魂は他の英霊達と一緒にヴァンダルーに喰われている。
マイルズ本人は、【獣化】を解いて元の姿に戻るのに時間がかかるため、まだ森の中だ。
『では、その間は私が幻覚を映しておくので、お早く』
ダロークが光で、ヴァンダルーがその場に居るように幻を空気中に投影している間に、本物のヴァンダルーはサムの荷台に入ると、ジョブチェンジ部屋の水晶に手を置いた。
《選択可能ジョブ 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥王魔術師】 【堕武者】 【蟲忍】 【滅導士】 【ダンジョンマスター】 【混導士】 【虚王魔術師】 【蝕呪士】 【弦術士】 【デーモンルーラー】 【創造主】 【ペイルライダー】 【タルタロス】 【荒御魂】 【冥群砲士】 【魔杖創造者】 【魂格闘士】 【神滅者】【クリフォト】 【冥獣使い】 【整霊師】 【匠:変身装具】 【虚影士】(NEW!) 【バロール】(NEW!) 【アポリオン】(NEW!) 【デモゴルゴン】(NEW!) 【大魔王】(NEW!) 【魂喰士】(NEW!) 【神喰者】(NEW!) 【ネルガル】(NEW!) 【羅刹王】(NEW!) 【シャイターン】(NEW!) 【蚩尤】(NEW!)》
「……【神敵】になった時より増えているじゃないですかー」
平坦な声でそう独り言を口にするが、ジョブの数は減らない。
【大魔王】は……【神敵】にジョブチェンジする時には出ていたジョブだ。【魔王】の時のように一瞬でレベル上限に到達は、しないと思うのだが。
【魂喰士】や【神喰者】は、初めて出たジョブだ。恐らく、人間や邪神悪神ではなく、この世界で生まれた神であるフィトゥンを喰った事がきっかけで出現したのだろう。
他の【ネルガル】、【羅刹王】、【シャイターン】、【蚩尤】は、地球の神話や伝説関係のジョブだろう。どういった伝説なのかは、後で細かく思い出せば良い。
……一つ覚えているのは、【ネルガル】がレギオンの人格の一つが名乗っている女神の名、エレシュキガルの夫であると言う点である。
勿論、エレシュキガルは神話の女神そのものではないし、【ネルガル】のジョブにしてもネルガルそのものになるジョブではないだろうが。
「とりあえず、今回は【死霊魔術師】を選択」
今回も空間属性の死霊魔術等、【死霊魔術】は応用力が高く、役立つスキルだ。今後の活用も含めたら、就いておくべきだろう。
《【死霊魔術師】にジョブチェンジしました!》
《【死霊魔術】スキルが、【神霊魔術】に覚醒しました!》
・名前:ヴァンダルー・ザッカート
・種族:ダンピール(母:女神)
・年齢:11歳
・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【魔王】 【鬼帝】 【試練の攻略者】 【侵犯者】 【黒血帝】 【龍帝】 【屋台王】 【天才テイマー】 【歓楽街の真の支配者】(NEW!)
・ジョブ:死霊魔術師
・レベル:0
・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士、魔導士、大敵、ゾンビメイカー、ゴーレム創成師、屍鬼官、魔王使い、冥導士、迷宮創造者、創導士、冥医、病魔、魔砲士、霊闘士、付与片士、夢導士、魔王、デミウルゴス、鞭舌禍、神敵
・能力値
生命力:367,648 (132,145UP!)
魔力 :7,190,583,119+(6,471,524,807) (合計3,258,539,890UP!)
力 :42,816 (13,658UP!)
敏捷 :38,953 (14,192UP!)
体力 :46,353 (14,833UP!)
知力 :54,494 (13,119UP!)
・パッシブスキル
剛力:4Lv(UP!)
超速再生:1Lv(高速再生から覚醒!)
冥王魔術:7Lv(【クロノス】、【疑似デスサイズ】、【疑似グングニル】、【オーディン】、【シルフィード】を統合&UP!)
状態異常無効
魔術耐性:9Lv
闇視
冥魔創夢道誘引:8Lv
詠唱破棄:9Lv
導き:冥魔創夢道:8Lv
魔力常時回復:1Lv
従群超強化:2Lv
猛毒分泌:牙爪舌:3Lv(UP!)
敏捷強化:9Lv(UP!)
身体伸縮(舌):10Lv(UP!)
無手時攻撃力強化:極大
身体強化(髪爪舌牙):10Lv
糸精製:7Lv
魔力増大:9Lv(UP!)
魔力回復速度上昇:9Lv
魔砲発動時攻撃力強化:大
生命力増強:2Lv(UP!)
能力値強化:君臨:4Lv(UP!)
能力値強化:被信仰:2Lv(NEW!)
・アクティブスキル
業血:10Lv
限界超越:7Lv(UP!)
ゴーレム創成:6Lv(【マリオネッター】を統合!)
虚王魔術:5Lv(UP!)
魔術精密制御:1Lv
料理:8Lv
錬金術:10Lv
魂格滅闘術:4Lv(UP!)
同時多発動:3Lv(UP!)
手術:8Lv
具現化:4Lv(UP!)
連携:10Lv
超速思考:6Lv(UP!)
指揮:10Lv
操糸術:6Lv
投擲術:10Lv(UP!)
叫喚:7Lv
神霊魔術:1Lv(死霊魔術から覚醒!)
魔王砲術:3Lv
鎧術:9Lv(UP!)
盾術:9Lv(UP!)
装影群術:7Lv(UP!)
欠片限界突破:9Lv(UP!)
整霊:1Lv
鞭術:3Lv(NEW&UP!)
霊体変化:雷(NEW!)
杖術:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
神喰らい:7Lv
異貌魂魄
精神侵食:9Lv
迷宮創造:4Lv
魔王:7Lv(UP!)
深淵:8Lv
神敵
魂喰らい:8Lv(UP!)
ヴィダの加護
地球の神の加護
群体思考:6Lv
ザンタークの加護
群体操作:7Lv(UP!)
魂魄体:4Lv
魔王の魔眼
オリジンの神の加護
リクレントの加護
ズルワーンの加護
完全記録術
魂魄限界突破:1Lv
変異誘発
魔王の肉体(【魔王の鱗】×2、【魔王の骨髄】を合流!)
亜神(【神格:雷神】&【神格:戦神】を統合!)
・呪い
前世経験値持越し不能
既存ジョブ不能
経験値自力取得不能
ステータスを一通り確認したヴァンダルーは、【死霊魔術】から覚醒した上位スキル、【神霊魔術】について考えながら部屋を出た。
(神霊……つまり、神の如くランクの高い霊という事かな? 神も魂だけ、ゴーストも魂だけ。なら、ランク13以上のゴーストは、神に似ているとか)
名称の理由はそんなところだろう。実際には加護を与えられるか否か等、色々な違いがある。しかし、似て非なる存在でも、似ているのは確かだ。
「まあ、死霊魔術がそのままストレートに強くなったスキルと考えましょう。では、母さん達が倒した英霊の魂の回収をよろしくお願いします」
『畏まりました!』
そして荷台からヴァンダルーが降りると、サム達は異空間を走って行った。
「では、俺達はもうしばらくここで……怪我の治療をしているふりでもしましょうか。とりあえず、俺は【ゴーレム創成】スキルでポーションの空き瓶を作っておきましょう」
遠目に見ても激戦に見える戦いの直後だ。平気な顔をして自力で戻って来るよりも、色々理由を付けてアリバイを作っておいた方が良いだろう。
「飲んだように見せかける為だけに、無から陶器の瓶を創りだすなんて、なんだかスキルの無駄遣いに思えるわね」
「じゃあ、私は偶然巨人の下敷きにならずに済んだけれど、衝撃で気絶してしまってついさっき目を覚ました演技でもしようかしら?」
「細かい設定ですね~。それより、姿を見せちゃったオルビアさんや、ドラゴンやジャイアントのゾンビはどうするんですか?」
「……ドラゴンやジャイアントは、俺が毒を盛って混乱させた事になっているそうです。一度森に潜ませて、後で回収します。どうせ暫く立ち入り禁止でしょうから。
オルビアは……俺と母さんの出身という事になっているダークエルフの隠れ里の大長老が、前もってかけておいた精霊魔術の奥義という事にしましょう」
「だ、大長老?」
「ええ、大長老」
何と無くだが、そう言えば納得させられそうな説得力が、大長老と言う呼称にはある気がするヴァンダルーである。
「……それ、多分あたしの出身地でもありますよね~。口裏を合わせないと」
メリッサと違い、肌の色を白に変化できないカナコがそう言いながら、何度も大長老と繰り返し呟いている。
その彼女の後ろから、ダグが困ったような顔つきでヴァンダルーに訪ねた。
「なあ、それよりも、これはいつ受け取ってくれるんだ?」
彼の横には、ヴァンダルーが自ら切断した腕が浮いていた。
【魔王の外骨格】が発動したままなので、一見すると籠手に見えるそれを見て、ヴァンダルーは両手を合わせた。
「そう言えば、ありましたね、それ」
「忘れてたのか。って、言うか気がつけば切断した方の腕が生えてるじゃねぇか!?」
「はい、そう言う訳なので俺は要らないです。何でしたら、あげましょうか?」
「何でそうなる!?」
「ヘカトンケイルですし、百一本目の腕にするとか。武器として有用だと思いますよ」
「確かに有用だけど、とりあえず遠慮する! こんなもん持っていたら、衛兵に捕まるだろ!」
そんなやり取りをしながら、ヴァンダルー達はモークシーの町から様子を見に誰かが派遣されてくるのを待つのだった。
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●ジョブ解説:鞭舌禍
舌を武器として扱う者が就く事が出来るジョブ。【身体伸縮(舌)】や、【身体強化:舌】、そして【格闘術】や【鞭術】に補正を得る事が出来る。
現在、この世界で舌を武器として扱う魔物は、両生類型や特殊なデーモン等複数存在するが、人間はヴァンダルーしか存在しないため、このジョブに就く事が出来るのは実質ヴァンダルー一人だけである。
一応、原理としては舌を武器に使えるように鍛錬し続ければ、ヴァンダルー以外のものでも就く事も可能だが……普通はそんな事を試みるより、手足を使って戦う術を学んだ方が、何千倍も効率が良いので、誰もしないだろう。
●ジョブ解説:神敵
神の敵である事を表すジョブ。それ以上でもそれ以下でも無い。幅広い戦闘系スキルと魔術系スキルに、広く薄く補正がかかる。
これだけだと過去にもこのジョブに就いた邪悪な人物が居そうだが……このジョブが敵とする存在には邪神悪神も含まれている為、魔王軍残党の邪神悪神を奉じる者にこのジョブが現れる事は無い。
この世界の神々だけでは無く、魔王軍残党の邪神悪神にも敵として定められた存在、若しくは滅ぼすか封印した事がある者のみ、このジョブに就く事が出来る。
2月16日に、242話を投稿する予定です。




