二百三十五話 地の底で戦う英雄と英霊
すみません、今回もヴァンダルーの出番は少な目です。
ジーナの種族を、ゾンビハイプリーストから、ノーライフハイプリエステスに修正しました。
モークシーの町周辺で最初に戦いが始まったのは、ゾンビ化したドラゴンやジャイアントとそれをこっそり援護するヴァンダルーがいる草原だ。
では二番目に戦いが始まったのは、マイルズがいる魔物の群れが通った後の森……では無く、実はグファドガーンが創り上げた、モークシーの町を模したダンジョンの中だった。
「ウゴ~っ!?」
「ウウゴ! ウゴルガ!」
老婆の肉片……レギオンの一部を浴びたトロール達は、レギオンの人格の一つであるジャックの特殊能力によって、ダンジョンの内部へ強制的に【転移】させられた。
『オリジン』でジャック・オー・ランタンのコードネームを与えられた彼は、空間に穴を空けなくても、触れた相手を強制的に別の場所へ連れて行く事が出来る【限定的死属性魔術】の使い手なのだ。
しかし、ジャックはトロールを含めた町とヴァンダルーに害意を持つ者を運ぶのが役目だ。戦い、始末する事が役目ではない。
「お連れの方をお探しでしたら、申し訳ありません」
戦い、始末するのは突然見知らぬ場所に連れて来られて驚き戸惑っていた二匹のトロールに話しかけた、甲高く幼い声の持ち主たち。
それが始末の担当者達だ。
「ウゴっ!? ……ガアアアア!!」
トロール達は自分達より先に姿を消した同族が無残な姿で転がっているのに気がつくと、声の主を見上げて吠え声をあげた。
それを屋根の上から見下ろしながら、担当者達の代表者にして指揮官であるユリアーナは号令をかけた。
「総員構えっ! 武技を使える者は使用しっ、撃てーっ!」
「「「「おーっ!」」」」
甲高く幼い声で、声をあげながら、生前からユリアーナの指揮下にあった女性騎士や、死に場所を共にした女達が疑似転生したミノタウロスハーフ達が、クロスボウを撃ち、槍や斧、そして岩を投げ落す。
「うぐおおおおっ!?」
「ぐおおおっ! おおおおおっ!」
トロールのランクは5で、知能はかなり低い。だが、怪力だけではなく、貪欲な食欲と生命力、そして心臓を貫かれてもすぐ武器を胸から抜けば再生可能という、驚異的な再生能力を武器とする魔物だ。
そのため、亜人型の魔物でも倒し難さではトップクラスと言われている。
「【強投】!」
「【強弓】!」
だが、そのタフネスでも、ユリアーナ達が数十人で撃つ矢や投擲武器の前には無傷ではいられない。彼女達はまだ十歳に満たない外見までしか成長していないが、全員が【怪力】スキルを持っており、更に生前所有していたスキルを再び使えるようになった者も少なくない。
そしてユリアーナの【指揮】スキルに、カナコとザディリスのレッスンで鍛えられたダンス……ではなく【連携】スキル。そしてヴァンダルーの導きに【従群超強化】による補正。
極めつけは、戦場の構造にあった。
「ぐおおおおおっ!?」
トロール達が飛ばされたのは、四方を建造物に囲まれ逃げ場も隠れ場所も無い、中庭のような場所。そしてユリアーナ達は、トロールの巨体でも手が届かない、建物の屋上に陣取っている。
建造物の壁を登ろうにも指がかかる場所は無く、矢と投擲武器の雨を浴びながらではとても登れない。
「ごおおおっ!」
なら、逃げ場を封じている建造物そのものを、トロールの怪力で破壊して穴を空けるのはどうか。
「ぎゃごおおおおおっ!?」
勿論、不可能だ。この建物は一見するとただの石材だが、実際にはダンジョンの壁や床と同じ材質で出来ている。ヴァンダルーの【虚砲】ならともかく、トロールの腕力程度では砕けるのはその拳の方である。
そして一分も持たずに、再生能力の限界を超え、トロール達は息絶えたのだった。
「やりましたっ、姫様!」
「我々の勝利です!」
喝采をあげるミノタウロスハーフの少女達。
ランク5のトロールを三匹討伐したとなれば、騎士団でもそれなりの手柄だ。彼女達がはしゃぐのも無理は無い。
「皆さん、落ち着きなさい!」
しかし、ユリアーナは彼女達を大声で叱責した。その瞬間、しんと静まるミノタウロスハーフ達。
「我々は確かにランク5のトロールを、生前でも討伐するのは困難だった魔物を様々な助けを受け、倒しました。犠牲者どころか、怪我人を一人も出さずに。
これは、我々にとって大きな勝利と言えるでしょう」
先程の戦果を認めつつも、ユリアーナは続ける。
「しかし、今生の我らの主、ヴァンダルー様にとっては小さな勝利でしかありません! 我々は既にアルクレム公爵に仕える騎士で無い! ヴァンダルー様の騎士を……魔法少女騎士を目指すのなら、この程度の戦果で浮かれている暇は無いと知りなさい!」
ユリアーナの叱責にはっとしたミノタウロスハーフ達は、緩んでいた緊張の糸を張り直す。
『……そこまで肩に力を入れなくても良いと、ジャックは思うよ』
そして、若干引いているジャック。自分達の事を棚に上げて、『狂信って怖い』と怯えている。
「ジャックさん、次の魔物をよろしくお願いします!」
『……ああ、ジャックの声は聞こえていないんだね。ところで、魔法少女騎士って何? ジャック達もならなきゃだめかな?』
「魔法少女であると同時に騎士と言う事です。目指すかどうかは、お任せします。納得して頂けたのなら、次の獲物をお願いします」
『微妙に納得できないけど、分かったよ。瞳ちゃんも、そこにあまり触れない方が良いって言っているし。
じゃあ、次も亜人型で、オーガーかミノタウロスあたりを飛ばすね』
「ミノタウロス!? 皆さん、ミノタウロスが来ますよ! 惨殺です! 滅殺です!」
「「「「惨殺! 滅殺!」」」」
盛り上がるユリアーナ達を見上げながら、『騎士って怖い』と思いながらジャックは次の獲物を運ぶため、意識を他の肉片へと向けるのだった。
そしてユリアーナ達からやや離れたダンジョン内の別の場所には、レベリングではなく魔物の駆除に励む者達がいた。
「【突貫】!」
オーガージェネラルの心臓を剣で貫いたカチアは、更に首を刎ねて止めを刺して次の獲物を探した。
「はぁ、私も下に行きたかったなぁ。……まあ、実力以上の活躍を望むのは良くない事だと分かってはいるのだけど」
そう言いながら、ジャックが新たに運んできたサンダーライガーが放つ牙と前足を、素早く避ける。
「【疾風付与】! 【三段突き】!」
「ギャオン!?」
風属性魔術で身体の動きを加速させ、素早く放った突きでライガーの急所を抉って止めを刺す。
「でも……運ばれてくるのが微妙にザコばっかりなのは何で!?」
カチア……ミルグ盾国の出身で、ノーブルオークの集落に捕らえられていた元女冒険者で、助け出された後グールになる事を選んだ彼女は、不満そうに叫んだ。
「そりゃあ、俺達が簡単には倒せない魔物は、新しく作った下の階層に飛ばされてるからだよ」
「今は数を熟さないといけないし」
「それに、強敵は町の人間に注目されているだろうから、転移させたら拙いだろ」
その叫びに、ハートナー公爵領の開拓村出身の元冒険者、カシムとフェスター、ゼノがそう説明する。
彼等はタロスヘイムから、ジャックが運んでくる魔物を処理するために呼ばれてきたのである。タロスヘイムの使い魔王が探索者ギルドの建物内に居たカシム達に声をかけ、グファドガーンが空間にこのダンジョンへ繋がる門を開けたのだ。
そして彼らの役目は、ジャックが運んでくる魔物を始末して、魔物の群れの規模を程良く調整する事だ。
ダンジョンの暴走で地上に出た魔物達は、一つの群れとなって人里に押し寄せる。しかし、その群れには明確な長が存在しない烏合の衆だ。
オーガージェネラルやマウンテンジャイアントチーフ等が、同族の下位に属する個体を指揮している場合はある。しかし、それはあくまでも同族内だけの指揮系統で、他の種族の魔物を従えている訳ではない。
暴走時の魔物の群れは、「人間を害する」という魔物の本能のまま、同じ方向に向かっているだけに過ぎないのだ。
そのため、魔物の群れは時が経つにつれてバラバラになる。移動速度の違いや、前の魔物を避けようとした結果横に逸れる等して列が乱れても、魔物達は気にしないからだ。
そのため、モークシーの町に迫る魔物の群れも一塊では無く、ある程度左右に広がって町に向かっていた。群れの大部分は、ダルシア達が待ち構える町の正門に向かって直進するだろう。
しかし群れの本流から別れた数十匹の魔物が、城壁を壊して町の中に入ってしまう可能性がある。ダルシア達の本来の実力なら、それも対処できるのだが……実力を隠さなければならない以上、後手に回るしかない。
そこで本流から離れた魔物をレギオンやグファドガーンがこのダンジョンに転移させ、カチアやカシム達が駆除しているのだ。
「まあ、だから苦戦するような魔物を割り当てても困るのは分かるけど……あ~っ、これが終わったら私も首輪して外に連れて行ってもらおうかな~!」
カチアはそう話しながら、新たに出現したレッサーデーモンを斬り殺す。
「私は死んだ事になっているだろうけど、ミルグ盾国のD級冒険者の情報が伝わっているとは思えないし。グールになったし行けるでしょ!」
「あ、私も行きたい! ヴァービとジャダルも連れて、皆で町を歩くのって楽しそうじゃない!?」
「ビルデ、それは楽しそうだけど……ヴァンダルーに変な二つ名が増えそうね」
カチアの思いつきに、土属性魔術でサイクロンブルを倒したビルデが賛同する。しかし、ヴァンダルーをパパと呼ぶビルデとバスディアの娘達の姿を想像して、カチアは頷き返す事は出来なかった。
「あっ、いいな~。俺達、ハートナー公爵領の冒険者ギルドから除籍処分を受けてるから、表に出にくいのに!」
「フェスター、別に町に出ても良い事は何も無いだろ。ヴァンダルーの新しい弟子には興味あるけど」
グール組の話をフェスターが羨ましがり、それをカシムが窘める。
「人間達が治める国の町に少し興味はあるが……まだ尚早だな」
『グールを連れて歩くだけでも、ちょっとした騒ぎになるくらいだものね。エンプーサや私達アンデッドはとても地上には出られないわよね』
そうカシム達と同じパーティーの、カマキリの特徴を持つヴィダの新種族のエンプーサの戦士ガオルと、英雄ゾンビのゲルダが口々に言う。
実際、エンプーサは人間社会では魔物として認識されている上、遥か以前に絶滅し古文書の中にしか存在しない。そしてゲルダを含むアンデッドは、人間社会の常識ではテイムする事は不可能とされている。
人間社会に出れば、幾らヴァンダルーがテイムしていると言い張っても大騒ぎになるだろう。
「それに、町に居る間は口を滑らせないように注意しないといけない。タロスヘイムは勿論、境界山脈の内側の事は秘密なんだから。
……俺はフェスターが口を滑らせたらと思うと、怖くてとても町に出たいとは言えない」
『「た、確かに!」』
「えぇ!? ちょ、待って、俺ってそんなに口が軽い奴だと思われてるのか!?」
「日頃の行いのせいだな。さて、次の魔物が来る前に、魔石だけでも取っておくか」
周囲の血生臭い状況を無視して、どこかのんびりと会話を交わすカシム達。
彼らとは離れた場所ではブラックゴブリンニンジャ達が高速で跳ねまわり、真正面から敵を暗殺すると言う、暗殺の概念が揺らぎかねない方法でオーガーを倒し、メイド服姿で奮戦するヴァンパイアゾンビのマギサが三目犀の首を捻り、アヌビスとオーカス達がヒルジャイアントやロックジャイアントをバラバラに粉砕していた。
しかし、魔物の群れには彼らの実力でも楽には倒せない個体も存在する。
そうした倒すまでに少々の時間が必要な魔物は、グファドガーンが新たに追加した階層に送られる。そこでカシム達を上回る猛者が処理する予定だ。
ただ、カシム達の実力は既に並のB級冒険者を超えているため、フィトゥンの『試練のダンジョン』から発生した魔物の駆除には、今まで必要が無かった。
『強敵っぽいから、こっちに連れて来たよ』
そんなジャックの声と同時に、人種の男と女の二人組が姿を現すまでは。
「っ!? ちぃっ、こいつがレギオン……ジャックか!」
「ここは、一体!?」
自分達の身に何が起きたのか理解し、いつの間にか靴に着いていた肉片を咄嗟に剥し、周囲を見回す。
だが、この階層には光が無く、暗闇が支配していた。人種の冒険者の肉体を使っている二人の目には、何も映らない。
そのため、気配で周囲の存在を探る事にした。二人は、『疾風鬼斬』のキゼルバインと同じ小隊で行動していた英霊達だ。この仮宿のような肉体でも、闇の中でそれなりに戦う事は可能だ。
(ドジを踏んだものね……敵はどこ!? 隊長から聞いたジャックの能力なら、【転移】先を自由には設定できないはず!)
(必ず近くに、奴らの仲間がいるはずだ)
二人を含めた英霊達は、ハジメ・フィトゥンから『オリジン』でのレギオン……転生する前の『第八の導き』のメンバーについての情報も与えられていた。
彼女達がどんな能力を持っているのかだけではなく、念のために生前どんな姿だったのかも、簡単にだが教えられていた。ハジメ・フィトゥンが最後に得た情報ではレギオンはあの肉塊の姿のままだったが、もしかしたら生前と同じ姿に変身できるかもしれないと考えたからである。
元々正体不明な謎の生命体なのだ。外見を変化できるようになったとしても、おかしくは無い。
だから地面に転がっていたのがワルキューレの頭部だったら、英霊達はレギオンに気がついて【転移】させられる事は無かったかもしれない。
しかし、レギオン達は英霊達の、フィトゥン達の作戦を読んでいた訳ではない。確かに自分達、シェイドやイザナミ以外の姿をハジメが『炎の刃』やゴードンに教えている可能性があるとは、考えていた。
けれども、自身が管理するダンジョンを空間属性魔術で繋ぎ、更に暴走を引き起こし、自身に祈りを捧げる信者達もいるモークシーの町を危機に陥れるような作戦を実行するとまでは考えていなかった。
ただ、ハジメはヴァンダルーが町の外に居るタイミングを読んで仕掛けてくるだろうと、予想していただけだ。
その予想に対する備えとして、レギオン達は『邪血の悪神』トゥベリースの狂信者達に襲われ、皆殺しにされた小さな村の被害者達の死体を融合吸収し、その姿に変装して町の周辺で見張っていたのだ。薬草の採取やゴブリン狩りを行う新人冒険者のように偽装して。
『岩鉄団』のロックが気にしていた、見慣れない新人の半数以上がレギオンだ。そして暴走が起きた時、我が身を盾にして逃げ遅れた者達を助けたのも、彼等である。……分離した分身であるため死なないし、分身でもトロールに殴られた程度では、当たった部分の肉が飛び散るだけで、すぐ再生する。
レギオンには骨も内臓も血も無く、全て「肉」なのだから。
そしてワルキューレ達は自分達を踏みつけたり、一部を口に入れたりした魔物をダンジョンに転移させていると、冒険者らしい者達が近づいてきた。
しかし、怯えも慌てもせず、町の危機に駆けつけようとする様子も無い彼らの話す言葉に耳を立てると、どうやら町を襲うつもりらしい。しかも、体捌きと装備から見るに中々の手練れだ。
そのため、強そうな賊だと判断したジャックがこの階層に【転移】させたのである。
それは実際、間違ってはいなかった。
「何!?」
暗闇一色だった空間に、突然パっと光が走ったのだ。その瞬間、男は光の正体に気がついた。
「あれはブラハム! 確か奴は町の東側に居たはず――」
『おう、そうだぜ。『月光紫電』のブラハムと言えば、敵軍から夜襲を受けても、皆殺しにして返り討ちにした古強者って聞いてたが……今はどう見ても二十歳そこそこの若造だがな』
暗闇の奥から響いてくる低く、怒りが込められた声に二人は驚きを強引に意識の外に押しやった。
『見た目が違うのは仕方ないよ。だって他人の……信者の身体を乗っ取っているそうだしね』
しかし、続いて聞こえた女の声を聞いた瞬間、思わず後ずさっていた。
口調も声も最初の低い声よりも優しげなのに、最初の声を上回る迫力があったからだ。
『二人とも、特にジーナ姉ぇ、冷静にね』
そして三つ目の少女の声から、二人は声の主たちの正体を推測した。
(『剣王』ボークスと、『癒しの聖女』ジーナ、そして『小さき天才』ザンディアか!)
英霊達は人間とは時間の感覚が異なる。そのためミルグ盾国の遠征軍と戦い、元『五色の刃』のメンバーの『緑風槍』のライリーを屠り、旧スキュラ自治区に出現した巨人種アンデッドの剣士を、約二百年前ハートナー公爵領と友好関係にあったタロスヘイムのA級冒険者だと見破るのは容易かった。
そうなれば、彼が一緒に居る女と少女が何者か推測も出来る。
なら取るべき選択肢は一つだ。
「【英霊化】! 【真・即応】! 【破城凶棍撃】!」
「【英霊化】! 【火炎付与】! 【疾風の鎧】! 【火炎風獣推参】!」
二人は……『城壁踏破』のウォーレンと、『雷炎の魔術師』ヤハンナは、作戦を放棄してボークス達を倒す事に全力を尽くす事を選んだ。
逃げてこの空間から脱出を試みても、B級冒険者程度の実力しかない肉体では、瞬殺されて終わりだ。なら、この肉体を失う事になっても全力で戦い、ヴァンダルーの戦力を削るしかない。
【英霊化】の瞬間激しく輝き、その後も全身から淡い輝きを放つ二人によって、ボークスやジーナの姿が明らかになり、そこにウォーレンと、ヤハンナの魔術によって創りだされた獣が突っ込む。
『ぐ! 思い切りだけは、良いね!』
ヤハンナの付与魔術と自身の【鎧術】で強化されたウォーレンの【破城凶棍撃】を、ジーナは巨大な円盾で受け止めた。だが、一撃で城壁を吹き飛ばし、瓦礫すら残さなかったと謳われる武技を受け止めきれず大きく後ろに押し込まれる。
『切る手札が他人の肉体なら、躊躇いもしねェってか!?』
ボークスは獅子に似た火炎風獣を黒い巨大剣で迎え撃ち、逆に押し込んで行く。燃え盛る炎をものともせず、振り下ろされる両前足を剣の一振りで切り裂き、牙を剥く頭部を柄で叩き潰し、残った胴体も蹴散らす。
「我が魔力を生命の炎に、雷の鋭さを角に変じて現れよ! 【雷炎大獣群推参】!」
しかし、そのままヤハンナに接近する前に、更なる獣が彼女の魔術によって創られる。ボークスは舌打ちをして、ヤハンナへの接近を一端止めた。
明らかにウォーレンがジーナを倒し、戻って来るまでの時間稼ぎが目的だが、放置すれば後衛のザンディアに獣の群れが向かう事は明白だったからだ。
だがヤハンナが雷と炎で出来た獣の群れを創ったのには、別の目的があった。
(ここから見えるだけでも、ブラハムと私達を入れて十人以上が此処に【転移】させられ、戦っている。彼らと合流できれば勝てる!)
獣を照明代わりにして、ヤハンナは周囲と自分達が置かれた状況を把握した。
自分達以外の英霊達も、【英霊化】を発動してヴァンダルーの仲間達と戦っている。英霊本来の力で戦っているのに、圧倒されず持ち堪えているヴァンダルーの仲間達は驚愕に値する。しかし、ヤハンナはこの状況を不利だとは考えなかった。
他の英霊達と合流し、連携して戦えば、ヴァンダルーの仲間の中でも高い戦闘能力を持つ者達を倒し戦力を大きく削り取る事が出来ると考えたのだ。
しかし、その考えは甘かった。
『【風走り】! 今だよ、ボークス!』
『おうよ! どっこいせっとぉっ!』
何と、それまで獣の群れと戦っていたボークスが、巨体からは想像できない身の軽さで高く跳躍したのだ。壁が消えた獣の群れは、ヤハンナに創られた時に与えられた命令に従って、ザンディアへ向かって襲い掛かる。
それと入れ替わりに、ボークスは、ザンディアの風属性魔術によって空中を走って間合いを詰め、ヤハンナに向かって斬りかかった。
『【竜殺し】!』
「ら、【雷神壁】!」
得意技の武技を魔術で創られた防壁で防がれ、ボークスが憎々しげに、しかし楽しそうに口元を歪める。戦闘を楽しむ趣味は、フィトゥン達だけでは無く彼も持っていた。
『魔術だけでこの技を防いだ奴は初めてだ! 外道の割にやるじゃねぇか!』
(ヴァンダルーは隊長から『甘い』と聞いていたけれど、その手下は仲間を危険に晒しても術者を先に殺しに来るとはね。だけど、そう甘くはいかない!)
ヤハンナは呪文の詠唱を続けながら、彼女の魔術で創った獣の群れがザンディアを蹂躙し、倒す事を確信した。
『小さき天才』ザンディアは、ボークスやジーナと比べて一段下だ。そして接近戦が得意だと言う話は一切聞かない。【詠唱破棄】で魔術を連打しても、獣を倒しきる事は出来ないだろう。
「変身! 【御使い降魔】! 行くよ、陛下君!」
『はーい』
そのヤハンナの予想は、あっさりと裏切られた。
ザンディアが掲げた杖の一部が、「変身!」の掛け声と共に分離変形して彼女の身体に巻きつき、ドレスとレオタードを掛け合わせたような形状に変わり、更に足元から闇の光としか言い表せない何かが吹き出し、纏わりつく。
『【氷魔王獣群推参】!』
そして氷で出来た、怪物の群れを魔術によって作り出す。無数の眼、出鱈目な数の節足、不規則に生えた角等、悪夢の中にしか存在しないだろう異形が、ヤハンナの獣の群れを蹴散らしていく。
「な、何て悍ましい!」
思わず悲鳴をあげるヤハンナに、ザンディアは反射的に言い返した。
『ええっ!? 可愛いでしょ!?』
異形の怪物達のモデルは、ヴァンダルーの使い魔王だった。
『……俺も可愛いとは思いませんが』
「ヤハンナ!?」
ヴァンダルーの分身の声を遮るように、ウォーレンが仲間の名を呼び、下がるか一瞬にも満たない刹那の間、迷った。
このままでは自分がジーナを倒しきる前に、彼女が倒されてしまう。だが、ジーナは彼の攻撃に防戦一方で、ハルバードを振るう余裕も無い。あと少しで押しきれるとウォーレンは読んでいた。
どちらを優先すべきか迷うウォーレンの、ほんのわずかな隙をジーナは突いた。
『【シールドバッシュ】!』
身長約三メートルの彼女だからこそ使える巨大円盾を突きだし、ウォーレンを僅かだか後ろに下げさせる。彼は反射的に踏みとどまろうとするが、続けてジーナが叫んだ。
「【御使い降臨】!」
なるほど、ここで御使いを降ろして仲間がヤハンナを倒すまで足止めする作戦かと、ウォーレンは誤解した。
しかし、光の柱はウォーレンのすぐ横に落ちた。
「っ!?」
『【槍撃脚】!』
慌てて横を見たウォーレンに向かって、突き刺すように放たれるジーナの光り輝く爪先。咄嗟に盾で受け止めようとするが、その盾を蹴り砕いて胴体に減り込む。
『や~いっ! 引っかかった!』
上半身だけのジーナは、下半身によって蹴り飛ばされたウォーレンに向かって、そう笑った。彼が突っ込んで【破城凶棍撃】を放った時、ジーナは既に下半身を分離して上半身のみで空中に浮いていたのだ。
そしてザンディアが下半身を【光属性魔術】で創った幻影で隠し、ジーナは巨大円盾でウォーレンの視界を遮りながらチャンスを待っていたのだ。
「がはっ、クソっ、何でもありか、化け物共め!」
しかし、ウォーレンも【英霊化】している。蹴り一発では……内臓が潰れて大量に吐血するだけで、まだ死にはしない。
ウォーレンはそのまま倒れるどころか、蹴り飛ばされたのを利用してジーナからそのまま離れ、ヤハンナの防壁を破ろうと剣を振るうボークスに肉薄しようとする。
『チッ、やってる事は外道でも実力は英霊か! 仕方ネェ! 連戦は諦めるか!』
それを見たボークスは、この二人を速やかに倒し、変装して地上のヴァンダルー達の助太刀に行くと言う企みを諦めた。
『【御使い降魔】! 行くぜ、坊主っ!』
地上で事情を知らない者が見れば白熱した、知っている者の目にはしょっぱいと映る、時間稼ぎ目的の遠距離戦を繰り広げていたヴァンダルー達とハジメ・フィトゥン達。
「……チィっ!」
「……そろそろ良さそうですね」
二人はほぼ同時に、時間稼ぎの止め時だと判断した。
ヴァンダルーの場合は物見の塔から感じていた視線が無くなり、町の正門でダルシアが【御使い降臨】を使用して、自分達に向けられる目が減った事。
そしてハジメ・フィトゥンの場合は……町を囲むように配置した配下の英霊達全員が、町以外の場所に【転移】させられるか、町に辿りつく前に【英霊化】を使用した事を知ったからだ。
「少しだけ、本気で戦いましょうか」
「全力じゃないのか?」
「ダグ、全力を出したら森で戦っているマイルズを巻き込んでしまいますし、この辺りの地形が変わってしまいます」
「君の本気って、ただ全力を出すのではなくて、死に物狂いって意味なんですね……」
カナコが若干引き攣った笑みを浮かべ、ヴァンダルーは【魔王の影】からギュバルゾーの杖を取り出す。
「テメェ等! 全員【英霊化】だ! ここで死力を振り搾れ!」
そしてハジメ・フィトゥンの号令でゴードン・ボビー達も【英霊化】を発動させる。
こうして本格的な戦いが始まったのだった。
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・名前:ボークス
・ランク:13
・種族:ゾンビレジェンドヒーロー
・レベル:49
・二つ名:【剣王】 【旧スキュラ自治区の死神】(NEW!)
・パッシブスキル
闇視
剛力:5Lv(UP!)
物理耐性:9Lv
剣装備時攻撃力増強:大(剣装備時攻撃力強化から覚醒!)
非金属鎧装備時防御力増強:中(非金属鎧装備時防御力強化から覚醒!)
直感:6Lv(UP!)
精神汚染:5Lv
自己強化:導き:4Lv(UP!)
魔術耐性:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
剣王術:5Lv
格闘術:10Lv(UP!)
弓術:7Lv
鎧術:10Lv
限界超越:5Lv(UP!)
解体:6Lv
指揮:3Lv(UP!)
連携:9Lv(UP!)
教師:2Lv(UP!)
魔剣限界超越:5Lv(UP!)
魔鎧限界突破:3Lv(NEW!)
御使い降魔:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ヴァンダルーの加護
タロスの加護(NEW!)
・名前:ジーナ
・ランク:12
・種族:ノーライフハイプリエステス
・レベル:53
・二つ名:【癒しの聖女】 【筋肉の聖女】
・パッシブスキル
闇視
精神汚染:6Lv
剛力:2Lv(UP!)
物理耐性:9Lv(UP!)
魔力増大:1Lv(魔力増強から覚醒!)
能力値強化:信仰:10Lv(UP!)
盾装備時防御力増強:中(盾装備時防御力強化から覚醒!)
毒耐性:5Lv
冷気耐性:3Lv(UP!)
自己強化:導き:3Lv(NEW!)
・アクティブスキル
無属性魔術:7Lv(UP!)
命王魔術:3Lv(UP!)
魔術制御:9Lv(UP!)
槍斧術:10Lv
聖盾術:4Lv(UP!)
限界突破:10Lv(UP!)
魔盾限界超越:2Lv(魔盾限界突破から覚醒!)
御使い降臨:5Lv(UP!)
遠隔操作:9Lv(UP!)
霊体:7Lv(UP!)
詠唱破棄:4Lv(UP!)
連携:5Lv(UP!)
格闘術:3Lv(NEW!)
歌唱:1Lv(NEW!)
舞踏:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
治癒効果増大:9Lv(UP!)
ヴァンダルーの加護(NEW!)
ヴィダの加護(NEW!)
タロスの加護(NEW!)
・名前:ザンディア
・ランク:12
・種族:ノーライフマジカルプリンセス
・レベル:27
・二つ名:【小さき天才】 【月下の魔法少女】(NEW!)
・パッシブスキル
闇視
怪力:2Lv
魔術耐性:6Lv(UP!)
魔力増大:1Lv(魔力増強から覚醒!)
魔力回復速度上昇:10Lv(UP!)
魔力自動回復:6Lv(UP!)
杖装備時魔術攻撃力増強:小(杖装備時魔術攻撃力強化から覚醒!)
冷気耐性:2Lv(UP!)
能力値強化:変身:4Lv(NEW!)
自己強化:導き:4Lv(NEW!)
・アクティブスキル
無属性魔術:10Lv(UP!)
生命属性魔術:10Lv(UP!)
光属性魔術:10Lv(UP!)
火属性魔術:10Lv(UP!)
水属性魔術:10Lv(UP!)
土属性魔術:10Lv(UP!)
風属性魔術:10Lv(UP!)
空間属性魔術:10Lv(UP!)
時間属性魔術:10Lv
魔術精密制御:3Lv(UP!)
解体:2Lv(UP!)
詠唱破棄:8Lv(UP!)
恐怖のオーラ:4Lv(UP!)
杖術:2Lv(NEW!)
歌唱:4Lv(NEW!)
舞踏:4Lv(NEW!)
御使い降魔:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
魔術の天才
リクレントの加護
ヴァンダルーの加護(NEW!)
ズルワーンの加護(NEW!)
ディアナの加護(NEW!)
1月11日に236話を投稿する予定です。




