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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十章 アルクレム公爵領編
284/514

二百三十二話 町ごと討ち取ろうとする英雄達、町も守ろうとする魔王

 モークシーの町を拠点にしているD級冒険者パーティーの一つ、『岩鉄団』は依頼の関係で潜っていたダンジョンから、町への帰路についていた。

「……妙だな」

 リーダーのロックは、足を止めて考え込む事はしなかったが、訝しげな様子で呟いた。


「妙って、何が気になるんだ? いつもより町の周りに魔物が少ないのは、今が冬なのとヴァンダルー達がいるからだって納得しただろ」

 ゴブリンやホーンラビット等、弱い魔物が町の近くまで近づいて来る事は珍しくない。しかし、冬の寒さは魔物にも等しく降りかかる。そのため、今の時期は魔物の数が比較的減る。


 それに今年に入ってから、町と魔境の間でヴァンダルーがファングやサイモン達弟子の訓練を行うようになった。臆病な魔物は逃げるし、ゴブリンのように相手の力量を測れない魔物は訓練のついでに彼らに狩られている。

「そう言えば、ファングの奴またランクアップしていたな」

「離れた所から見ても分かるほど大きくなっていたからな。ヒュージヘルハウンドか……俺達が途中で撤退したダンジョンで、時々ボスとして出現する魔物だよな?」


「マロル達は、見た目は変わってなかったけど……ランクアップしているんだろうな。……地味にショックだ」

 帰り道に見かけたヴァンダルー達、その中で一際目立っていたファングの姿を思い出してロックの仲間達は溜息をついた。


 初めて会った時はランク2だったファングやマロル達が、今やランク5だ。顔馴染みである彼らの成長を祝う気持ちが無い訳じゃないが、それよりも短期間で追い抜かされたことに対して精神的衝撃を覚えているらしい。

「お前等、サイモンとナターニャには触れないけど……何でだ?」

「妬ましいからだ、サイモンが」

「あいつ等はもう同情する相手じゃなくて、ライバルだからな」


「お前等……俺だって今が冬だってことや、ヴァンダルー達の事を忘れた訳じゃない。それを考えても、妙だと思ったんだ、感覚的に!」

「感覚的にって……ゴブリン狩りの依頼のせいで、冬でも外で狩りをする新人が増えたからか? E級の連中や、D級でも一人で活動している奴や、金を使い過ぎた奴等は結構張り切っているって聞いたぞ」


 ゴブリンは魔物の中でも繁殖力が高いため、冒険者ギルドでは討伐依頼が常時張り出されている。しかし、今までは旨味のある依頼だとは言えなかった。ゴブリンは確かに弱いが、倒して得られるのは安い討伐報酬のみ。素材として売れる部位は無く、真冬に好んで狩りたい得物では無い。


 だが、ヴァンダルーが広めたゴブゴブと、ゴブゴブの材料を求める者達からの依頼によって、今まで無価値だったゴブリンの肉が、少額でも買い取ってもらえるようになった。

 今までだとゴブリンを倒しても一匹では木賃宿に一泊する事も出来なかったが、解体と肉を持ち帰る多少の手間と苦労を厭わなければ、宿泊だけではなく粗末ながら食事も賄える。


 金に困っている新人冒険者にとっては、町や街道の雪かきよりもずっと楽な仕事だ。そのため町の周辺で新人冒険者達を見かける機会が、例年より多くなっている。

 ちなみに、新人冒険者がやらなくなった雪かきは、スラムの住人の日雇い仕事になっている。


「そのせいで町の周辺の雰囲気が、去年までとはちょっと違うからな。だからじゃないか?」

「……見覚えの無い冒険者の姿を見かける事が多いなと思ったのは、その通りだが」


 モークシーの町は、人の出入りが激しい交易都市だ。それは冒険者も例外ではない。隊商の護衛などをしながら新顔が町を訪れ、逆に顔馴染みが旅立つ事は珍しくない。

 特に今はロックの仲間達が話したような事情もある。ロックが見覚えの無い冒険者を、何組か見かけても、あり得ないことではない。


「そうだな、特に気にするような事じゃないか」

 そうロックは考え直すと、仲間達と共に町へ急いだ。




 パンっと音を立てて男が蟲アンデッドを潰した。

「いいんですかい、隊長。それを潰すと、ヴァンダルーに場所が知れますぜ?」

「知られて困る時期は終わったからな」

 ハジメ・フィトゥンは配下である受肉した英霊達を指揮しながら、モークシーの町に向かっていた。


 ハジメは、ヴァンダルーがモークシーの町周辺を、縄張り同然としている事を察していた。そうである以上、下手に隠れても意味は無い。

 蟲アンデッドを潰したハジメ・フィトゥンは、すぐにヴァンダルーが現れるような事態に成らなかった事に息を吐いた。


「前試した時と同じか。蟲アンデッドの五感や、位置を全て把握している訳じゃないようだ。もしそうだったら、ここに殴り込んでくるだろうからな」

 ヴァンダルーが放っている蟲アンデッドを、ハジメはこれまでも何度か潰していた。一度目は【マリオネッター】で操った動物を使って。二度目は動物では無く行きずりの旅人を操って。そして三度目は今、自分自身で。


 だがヴァンダルーやその手下が現れる事は無かった。

「いや、単に様子を見ているだけか。俺達の居場所を把握して、逃がさないよう企んでいる可能性もあるな」

 実際、ハジメが試した時はいつでも逃げられるように準備していた。ヴァンダルーは彼らが逃亡しないように、故意に見逃したのかもしれない。


「じゃあ、作戦は取りやめますか?」

「それは無いですよ、隊長。俺達はいつまでこの身体に入ってりゃいいんですか?」

 『炎の刃』の面々の肉体に降りた英霊達や、ゴードン・ボビーが顔を顰める。彼らにとってゴードンたちの身体は、久しぶりに得た実体だ。


 程度の差はあるが、生前の自分達の肉体よりも格段に脆弱だが、だからこそ難易度がB級程のフィトゥンの試練の迷宮で戦闘を楽しむ事が出来た。

 【英霊降臨】スキルの持ち主などそうそう存在しないため、魔物相手とはいえ久しぶりの実戦は新鮮ですらあった。


 だが、流石に長期間過ごしたいとは思わなかった。それに魔物相手の戦いは、決戦の為の訓練。彼らにとって前座ですらない。

 【魔王の欠片】を吸収し、原種吸血鬼や邪神悪神を倒し、『法命神』アルダが育てた英雄達を追い詰め、腹心を喰らった現代の魔王、ヴァンダルーとその配下達との殺し合い。それが彼らにとっての望みだ。


 それを先延ばしにされれば、不満の一つも覚えると言うものだ。

「そんな訳ないだろ。作戦はこのまま進める」

 それはハジメ・フィトゥンにとっても同じだった。


「ははっ、流石隊長!」

「浮かれるな。一旦引いても、状況は何一つ好転しない。俺達の方が不利だってことを忘れるな」

 しかしそれ以上に、一旦引いてもヴァンダルーに時間を与えるだけで、自分達が不利になるだけだという理由が大きかった。


「町を包囲して、タイミングを待って攻め上がれ。穴状の物は、たとえ自分で開けたとしても絶対に潜るなよ。相手に空間属性の肉塊と邪神がいる事を忘れるな」

 ハジメ・フィトゥンはアルダ達と情報を共有していない。彼の英霊であるゴードン・ボビー達も同様だ。だからヴァンダルーとビルカインの戦いについて、アルダが持っているかなり小さな情報でさえも知らないままだった。


 しかし、『ザッカートの試練』を作り出して大陸中を彷徨っていた『迷宮の邪神』グファドガーンが、ヴァンダルー側にいる事は想像に難くないとも思っている。

 それに【転移】を使いこなすレギオンについても、忘れてはいない。


「蟲アンデッドや霊の警戒網は気にするな。町の周辺に居る人間共も無視しろ。……殺し合いが始まれば、どうせ巻き込まれて潰れて終わりだ」

「それで隊長、そのタイミングは?」


 攻め寄せているのは自分達なのに、まるで追い詰められているかのように後が無い。勝てば官軍だが、勝てなければ賊軍だ。万が一逃げ延びる事が出来たとしても、アルダは自分達を「神に相応しくない」としてヴィダに打ったのと同じ杭を刺すだろう。


「すぐに分かる」

 それを考えるとハジメ・フィトゥンの口は、両端を無意識に釣り上げ弧を描くのだった。




「今日までよく俺を信じてついてきてくれました。今の二人なら、十分義肢を使いこなせるでしょう」

 ヴァンダルーはモークシーの町からやや離れたいつもの草原で、サイモン達の訓練を行った。それが一段落した頃に、彼は唐突にそうサイモンとナターニャに告げた。


「ウォンっ」

「「「チュッチュゥチュウ~♪」」」

 ファングが「良くやった」と褒めるように小さく吠え、マロル達がお祝いの歌を歌い始める。彼らも訓練でスキルレベルを上げ、ロック達の見立て通りランクアップを果たしている。


 元々牛と同じくらい大きかったファングは、今ではバッファローより一回り以上大きくなっている。一方マロル達は変わっていないように見えるが……戦闘態勢を取れば変化は明らかになるだろう。


「え、いや、なんて言うか……マジですかい、師匠?」

「冗談じゃなくて?」

 一人前だと祝われている二人は驚いたように目を瞬かせ、ヴァンダルーに確認していた。


「本当ですよ。二人とも【霊体士】と言う新ジョブに就き、義肢を生身の肉体以上に使いこなせるようになったじゃないですか」


「いや、でもそのジョブって師匠のジョブの下位っていうか、一段下っぽいジョブなんじゃ?」

「【霊闘士】との違いはともかく、霊体を駆使するのに都合の良いジョブを獲得した事に違いはありません。それは誇るべきです。

 それに実力もついています。十日前は自力でコボルトの群れを倒しましたし、五日前は魔境の端でオークを一匹ずつ狩り、そして昨日は謎のヒュージストーンゴーレムを倒したでしょう?」


「あぁ、あの師匠が何処からともなく連れて来た、あの」

「謎の……ねぇ?」

 義肢で四肢を失う以前と同じように、そして以前以上に戦えるよう、ヴァンダルーは二人に模擬戦だけでは無く実戦も経験させていた。


 最初はホーンラビットやゴブリン等の雑魚から、十匹ほどのコボルトの群れ、ランク3のオークと相手の強さを上げて。

 そして最後に戦わせたのが、ランク4のヒュージストーンゴーレムだ。これはヴァンダルーが【ゴーレム創成】スキルで作った物では無く、モークシーの町を模したダンジョンで発生した個体をグファドガーンが【転移】させたものだ。ヴァンダルーの導きや【従群超強化】の影響を受けてはいない、ランク4の額面通りの強さだ。


 勿論ヴァンダルー達にとっては一山幾らの雑魚に過ぎないが……サイモンとナターニャにとっては強敵である。二人とも四肢を失う前はD級冒険者で、一人では一度にランク3の魔物を一匹倒せる程度の実力しかなかったのだから。


 それなのに昨日二人はランク4の魔物を、楽勝と言う程ではないが十分な余裕を持って倒す事が出来た。

 これはつまり、二人が四肢を失う以前よりも実力を付けている事を意味している。


「その結果を見れば、修行を一区切りするには十分だと思いますが」

「いや、オレ達は師匠の事だから、一区切りつける前に仰々しく『卒業試験だ』とか言ってそれっぽい事をするんだろうなって思ってたから……」

「あっさり卒業って言われても、ちょっと……」


 まだ戸惑っている様子の二人に、ヴァンダルーも頷いた。

「俺もそう考えてはいたんですが、ちょっと予定が変わりまして。卒業試験は後回しにする事にしました」

 どうやら、考えてはいたらしい。


「そう言う訳で、これが卒業の印です」

 ヴァンダルーはそう言いながら、荷車の荷台に被せていた布を勢い良く引く。すると、明らかに鉄とは異なる金属で出来た義肢が姿を現した。


「こ、これは!?」

「俺とある人達の合作です」

 タロスヘイムの鍛冶師ダタラと、グールの武具職人タレア、そしてヴァンダルーの技術が込められた死鉄や冥銅等の液体金属製の義肢だ。液体金属を鍛え上げ、【魔王の欠片】の素材と組み合わせ、魔術を込めた一品である。


「初めて見たけど……これが……凄い。こんなの、オレ貰っていいのかな?」

「ありがたい……ありがたいですが師匠、これが尋常な品じゃないのは、俺でも分かる。本当にいいんですかい?」


「ええ、今二人が使っている町の武具店で購入したフルプレートアーマーの四肢の部分を加工した物とは、性能は段違いの筈です。一本でも売れば、本物の四肢と変わらない性能のマジックアイテムの義肢が何本でも手に入るでしょう」

 試行錯誤を繰り返した結果、ちょっとした伝説級マジックアイテム並の性能となっている。


 【アイギス】のメリッサ曰く、「これが貰えるなら、四肢の一本ぐらいなら喜んで切り落とす奴は数え切れないでしょうね」との事である。


「あ、ちなみに色は自由に変える事が出来ます。なので、普段は普通の鉄のように見せておくと良いでしょう」

 なので、慌てて隠蔽機能を付け加えてある。

「それと、勿体ないから受け取らないと言う選択肢は無しでお願いします。これ、二人のサイズに合わせて作ったオーダーメイドで、しかも【霊体】スキルが無いとただの金属製の義肢でしか無いので」


「そう言う事なら……遠慮無く」

 サイモンとナターニャは暫く迷ったが、以前から「いつかとっておきの義肢を渡す」と説明されていたので、結局は義肢を受け取った。


 義肢を固定するベルトを外し、宿らせていた霊体を古い義肢から抜いて、新しい義肢を装着する。その途端、古い義肢との違いを実感する。

「凄い! 重さはそんなに変わらないはずなのに、軽く感じる! 関節も滑らかだし……もしかして変身とかも出来るの!?」

「できますよ。サイモンも、次に戦う時に『変身』と言いながら、義手に魔力を通してみください」


 義肢を装着し、はしゃぐナターニャ。彼女の周りで輪になって踊るマロル達。彼女とサイモンにそう短く説明するヴァンダルー。

 それを聞きながらサイモンは眉間に皺を刻み、何かを迷うように押し黙った後、唐突にヴァンダルーへ向かって頭を下げた。


「師匠! 折り入ってお願いがあります! どうか、俺に全てを話してもらえませんか!? 実は――」

「先月貰ったと喜んでいた加護の伏せ字が取れて、俺の名前が表示されたとかでしょうか?」

「へい、まだ完全じゃないですが……それに今までは敢えて聞きませんでしたが、師匠は妙なところがあり過ぎる! 【霊体】や【実体化】、【遠隔操作】スキルについてもジェシーに聞いたら、義肢を動かすのに使えるなんて話は聞いた事が無いって教えてくれました」


「まあ、でしょうね。敢えて説明はしませんでしたけど」

 元々【霊体】や【実体化】等のスキルは、ほぼアンデッド専用と言っても過言ではないスキルだ。それ以外の魔物や、ましてや普通の人間が覚えている事はほぼ無い。【遠隔操作】スキルに至っては、絶対に不可能だ。


「それで思ったんですが、師匠は、もしかして……」

「サイモン、続きは後にしましょう」

「師匠、俺は今話して欲しいんだ!」


「サイモンっ、そんな事言ってる場合じゃないって!」

「ナターニャっ、あんたは師匠についてもう知ってんだろう? だったら黙っていてくれっ! 師匠、俺はどうしても――」

「GYAOOOOOOO!」


 ナターニャを振り払うようにして、再度ヴァンダルーに迫るサイモンだったが、彼の声は空に響く咆哮によって遮られた。

「えっ?」

 サイモンが思わず上を見上げると、冬の澄んだ青空を舞う、体長十メートル以上のドラゴンの姿があった。


「な、な、な、何だ、ありゃあ!?」

「特徴から推測すると、ランク8のサンダードラゴンですね。ところでサイモン、話はどうします?」

「そんな場合じゃないでしょう!? ダンジョンでも魔境でもなんでもない、町のこんな近くに竜種が、ドラゴンが出たんですぜ!? 何でもっと早く気がつかないんですかい!?」


「だから、オレがそんな場合じゃないって言ったじゃないか!」

 実はナターニャ達は、サイモンより先にドラゴンに気がついていた。彼は頭を下げていたため、気がつくのが遅れたのである。


 そうして騒いでいるとサイモン達の姿が目に入ったのか、サンダードラゴンは地上に顔を向け、鋭い牙の並んだ口を開けた。

「GYUAOOOOOOON!」

 その奥から白く輝く稲妻のブレスを吐いた。炎のブレスよりも効果範囲が狭いが、その分速く、狙いも正確。


「キンバリー」

『了解でさぁ!』

 だが、そのブレスの前に、【風属性無効】スキルを持つシュバルツブリッツゴーストのキンバリーが姿を現した。

 稲妻のブレスはキンバリーにぶつかるが、雷はこの世界では風属性に分類される。そのため、キンバリーには何のダメージも与えない。


「【黒雷】」

「GYAAAAAAAA!?」

 そしてヴァンダルーの【死霊魔術】によって焼かれ、サンダードラゴンは墜落したのだった。


「さ、サンダードラゴンが……そんなあっさり」

 黒い雷に貫かれたサンダードラゴンが音を立てて地面に墜落するのを見たサイモンが、呆然とした様子で呟く。

『ちなみに、その義肢は耐電仕様なんで、生身だった時と比べて電撃に弱くなるなんて事は無いそうですぜ』

「そ、そうですかい。そりゃあ、ご丁寧にどうも」


 戻ってきたキンバリーにそう教えられても、そう礼を言うだけだ。彼がゴーストである事に気がついていても、驚きで思考能力が止まっているのかもしれない。


「……話には聞いていたけど、凄い」

 一方ナターニャも、ヴァンダルーが見せた実力の片鱗に驚いていた。サイモンと違い、ヴァンダルー達の事情や目的を知っていた彼女だが、彼が自分達に訓練を付ける以外で力を振るうのを自分の目で見るのは、これが初めてだったのだ。


「さて、サイモン。真実の説明ですが、そんな場合ではないので、後でいいのでしたね?」

 一方、ヴァンダルーはサイモンから獲った言質を活用していた。

「へっ? ええ、まあ……」

 まだ頭の働きが鈍っているサイモンが、思わず頷く。


「ありがとう、サイモン。実際今はそんな場合ではないので、助かります」

 そう話すヴァンダルーが、町に最も近い魔境の森を指差す。そこから先程と同じサンダードラゴンや、マウンテンジャイアント、重武装のオーガーやトロール、ミノタウロスが続々と姿を現すところだった。


 そのどれもが狂乱した様子で咆哮をあげながら、駆けて行く。

「ドラゴンにジャイアントに、オーガーやトロールに、ミノタウロスの群れ!? あの魔境にあれほどの魔物がいる訳がないってのに、何故!?」

「ダンジョンの暴走!? で、でもあの魔境にあるのはD級とC級だけで、ランク8以上の魔物が出るはずないのに!」


 そして魔物の群れの殆どが、モークシーの町へ向かって行くのに気がついて、サイモンが短い悲鳴を上げた。

 モークシーの町周辺には複数の魔境と、ダンジョンが存在する。だが、どのダンジョンもC級以下だ。そのため、町にいるB級冒険者はほんの数人……それもB級全体から見れば、下の方に位置する者ばかり。


 つまり、町に存在する冒険者では、あの群れと戦うには戦力が足りないのだ。

「このままじゃ町がっ! 師匠、さっきのスゲェ雷は、後何回使えます!?」

「【黒雷】なら、ほぼ回数無制限です」

「そりゃあ、そうか。あんな大魔術、そう何回も……ええぇっ!?」


「でも、俺は多分魔物以外も相手にしないといけなくなるので、俺はキンバリー達と一緒に残ります。サイモン達は戻ってください。母さん達と合流して、町を守るように。それを卒業試験という事にしましょう」

「そ、そんな、師匠! こいつと二人でここに残ってもって……ゴースト!?」

『ボス、もうちょっと早く事情を説明しても、良かったんじゃないですかね?』

 驚き続けて目を見開いた表情のまま顔が固まっているサイモンに、キンバリーは同情的な視線を向けてそう言った。


「俺も彼を信頼してない訳じゃなかったのですが、切り出すタイミングが掴めなくて。試験が終わったら謝ります。

 それはともかく、町をよろしく」

「いや、だから師匠……」

「分かったっ! 別にオレ達が居なくてもダルシアさんだけでもどうにかなりそうだけど、やってみるよ!」

 サイモンの言葉を遮って、ナターニャがそう返事をした。


「ガルルルゥ!」

 言葉を遮られて一瞬黙ったサイモンを、ファングが「いいから来い」と言うように服の裾を咥えて、雑に荷車の荷台に放り込む。

「おわぁっ!? し、師匠ぉぉぉっ!?」

「「「ぢゅっぢゅ~っ!」」」

 そのまま荷車を引くマロル達によって、町へ運ばれていく。


「じゃあ、師匠も頑張れよ!」

 そしてナターニャはファングの背に乗って、サイモン達を追い掛ける。

「戦う時は、ちゃんと『変身』するんですよー。……さて、大物を幾つか潰しておきましょうか。暴走している状態では、殺気や魔眼での威嚇も効果が薄いでしょうし、下手に魔物としての本能を刺激すると人間に対して更に凶暴になりかねないから、普通に倒しましょう」

 そう声をかけて弟子達を見送ったヴァンダルーは、地響きを立てながら町に向かうジャイアントや、空を飛ぶドラゴンを眺めながら、【魔王の血】で銃身を作った。


「あなたも手伝ってください」

『……GRUuu』

 そして視線も向けずに下される指示に、サンダードラゴンゾンビはゆっくりと立ち上がった。




「きははははははははっ! 野郎共、これが合図だ! 魔物共の立てる土煙と、巻き込まれた連中のあげる断末魔が狼煙代わりだ!

 これじゃあ、幾ら蟲アンデッドを放とうが、霊の警戒網を作ろうが、何の意味も無いだろう!」

 ハジメ・フィトゥンが、モークシーの町に向かって行く魔物達の後ろ姿を指差しながら、狂笑と評すべき笑い声をあげていた。


 サンダードラゴンを始めとした魔物は、モークシーの町の周辺の魔境やダンジョンに生息する個体では無い。魔物は全て、フィトゥンのダンジョンで発生した個体だった。

 ダンジョンの管理者であるフィトゥンが、自身の『試練の迷宮』の入り口を配下の英霊の一人に空間属性魔術でここに繋げさせた後、故意に暴走させたのである。


 結果、受肉した肉体をダメにして配下が一人神域に戻ったが、必要なコストだ。

 勿論ランク8前後の魔物が、ヴァンダルーに通用するとは思っていない。

 ただヴァンダルーが、町や周辺で狩りをしていた冒険者を守るために戦力を分散させると読んだからだ。


「アンデッドや蟲の魔物を除いて暴走させるのは手間だったが……チっ、早速死体をゾンビ化させたか。それに竜種の動きが鈍いな。ティアマトの加護でも得たか? だが、多少の効果はあるだろう」

「じゃあ、隊長。俺達は町を守るために立ち上がった魔王を倒すんで?」

「なんだ、文句でもあるのか?」

「当たり前だ!」


 ゴードン・ボビーが、非道な作戦を実行したハジメ・フィトゥンに食って掛かった。

「聞いた話じゃ、魔王の側近もかなりの強さだそうじゃないですか! そんな獲物を魔物に相手させるなんて。それだったら町を襲撃する役は、俺がやりたかったぜ!」

「そうだよなぁ。戦場になった町の連中相手に、美味しい思いをするのも戦争の醍醐味ってもんだしな」

 だが、文句があるのは「非道さ」に対してでは無かったようだ。他の受肉した英霊達も同意見のようで、誰も本気でハジメ・フィトゥンを非難しようとはしない。


 恐らく、他の場所に配置されている英霊達も同じようなものだろう。

 この作戦でも文句を言わない戦場の英雄、戦狂い達を選んで英霊としてきたフィトゥンにとっては、当然の反応だ。


「ククク、これから魔王を相手に戦うんだ、他の楽しみは諦めろ。オラ、進むぞ。魔物共に追いつかないよう注意しろ。俺は奴らを暴走させただけで、操っている訳じゃないからな。それに、ムラカミ達がどんな横槍を入れて来るか分かないから、油断するな!」


 そして進んで森を出ると、マウンテンジャイアントやドラゴンの屍が動き回り、生きている魔物を蹂躙している光景が目に入った。

 それ等のアンデッドの奥で、白い少年が黒い雷や炎を放って、更に死体を増やしているのも。


「見つけたぜ……戦闘開始だ、野郎共! 魔王を討ち取るぞ!」


 勿論ヴァンダルーも、ハジメ・フィトゥン達に気がついた。

 この魔物の暴走のせいで、放っていた蟲アンデッドは潰されるなど滅茶苦茶にされ、霊達も混乱している。

 だが魔物の暴走そのものについては気がついていたし、このタイミングで不自然な魔物が群れ単位で現れるなんて妙な事、確実に自分に関係する事だろうと察しがついていた。


「もうちょっと手段を選べないのですか? 英雄共」

 そう言いながらヴァンダルーが両手を左右に開くと、彼の影が一気に広がる。そして影から這い出るように数人の人影が現れ、ハジメ達を出迎えた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――




・名前:ファング

・ランク:5

・種族:ヒュージヘルハウンド

・レベル:21


・パッシブスキル

闇視

怪力:4Lv(UP!)

気配感知:3Lv(UP!)

直感:2Lv(UP!)

自己強化:導き:3Lv(UP!)

身体強化:牙、爪:4Lv(UP!)

精神耐性:2Lv(UP!)

火属性耐性:2Lv(NEW!)


・アクティブスキル

忍び足:3Lv(UP!)

闇のオーラ:3Lv(UP!)

叫喚:3Lv(UP!)

突撃:3Lv(UP!)

連携:4Lv(UP!)

炎のブレス:4Lv(UP!)

限界突破:2Lv(NEW!)

舞踏:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダ■ーの加護





・名前:マロル

・ランク:5

・種族:火炎鼠

・レベル:35


・パッシブスキル

暗視

状態異常耐性:2Lv(UP!)

身体強化:前歯、毛皮、尻尾:4Lv(UP!)

敏捷強化:4Lv(UP!)

高速治癒:3Lv(UP!)

能力値強化:創造主:4Lv(UP!)

自己強化:導き:3Lv(UP!)

殺業回復:2Lv(UP!)

炎熱無効


・アクティブスキル

限界突破:4Lv(UP!)

鞭術:3Lv(UP!)

鎧術:3Lv(UP!)

突撃:4Lv(UP!)

連携:3Lv(UP!)

魔術制御:3Lv(UP!)

射出:4Lv(UP!)

歌唱:1Lv(NEW!)

舞踏:1Lv(NEW!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

炎熱の毛皮:5Lv(UP!)




・名前:ウルミ

・ランク:5

・種族:雪鼠

・レベル:34


・パッシブスキル

暗視

状態異常耐性:2Lv(UP!)

身体強化:前歯、毛皮、尻尾:3Lv(UP!)

敏捷強化:3Lv(UP!)

高速治癒:3Lv(UP!)

能力値強化:創造主:3Lv(UP!)

自己強化:導き:3Lv(UP!)

殺業回復:2Lv(UP!)

冷気無効


・アクティブスキル

限界突破:4Lv(UP!)

鞭術:3Lv(UP!)

鎧術:3Lv(UP!)

突撃:4Lv(UP!)

連携:3Lv(UP!)

魔術制御:4Lv(UP!)

射出:4Lv(UP!)

歌唱:1Lv(NEW!)

舞踏:1Lv(NEW!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

水氷の毛皮:5Lv(UP!)




・名前:スルガ

・ランク:5

・種族:鋼鼠

・レベル:33


・パッシブスキル

暗視

状態異常耐性:3Lv(UP!)

身体強化:前歯、毛皮、尻尾:5Lv(UP!)

敏捷強化:2Lv(UP!)

高速治癒:5Lv(UP!)

能力値強化:創造主:3Lv(UP!)

自己強化:導き:3Lv(UP!)

怪力:2Lv(UP!)

身体伸縮(尻尾):1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

限界突破:5Lv(UP!)

鞭術:3Lv(UP!)

鎧術:5Lv(UP!)

連携:5Lv(UP!)

射出:2Lv(UP!)

歌唱:1Lv(NEW!)

舞踏:1Lv(NEW!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

甲鉄の毛皮:5Lv(UP!)

12月30日に次話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
アルダもナインロードもクソ過ぎる。 後者は元人間のくせに大概だと思うよ、アルダのバカさ加減に隠れてるけど(^ω^#)
[気になる点] マジでアルダの人(神?)を見る目ないよね
[気になる点] アルダくんさぁ……。 なんでこんな連中神にしちゃったの?
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