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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十章 アルクレム公爵領編
281/515

二百三十話 巨大神像を作られる真の支配者

 共同神殿でヴィダの聖職者であるポーラ司祭との打ち合わせをした帰り道、エドモンドと名乗る青年に呼び止められたダルシアは相手の話を一通り聞いた後、微笑んで答えた。

「エドモンドさん、お話は分かりましたが、お断りします」

「待ってください、これは私だけでは無く貴方方にも、そしてグールの方々の為にもなる話なのですよ」


 ダルシアを呼び止め、飲食店に商談を持ちかけていたエドモンドは再び彼女を呼び止めた。

「私は見ての通り商人ですが、グールについてはそれなりに調べています。その際目にした資料によると、グールの方はとても子供が出来にくいとありました。しかし、人間と交配を行った場合は、子供が出来る可能性がグール同士の場合よりずっと高まるとか」


「ええ、それはその通りですけれど……」

「でしたら、グールの神聖娼婦専門の店を開けば、ヴィダへの信仰、グールの種族的な問題の解決、そして利益! 全てを達成する事が出来、誰もが得をできます!」

 そう力説するエドモンドに、ダルシアは苦笑いを浮かべた。


「『生命と愛の女神』ヴィダへの信仰には、神殿に聖職者として娼婦が仕え、信者達に愛を授けていたと言う記録があるではないですか!」

「ええっと、確かにありますが……実際に行われていたのは数千年も前の事ですから」

 少なくとも、人間社会で行われていたのはそれぐらい昔の事である。ヴィダの新種族の集落や、境界山脈内部の国では事情は異なるが。


「ですから、それを今の時代に復活させるのです! ヴィダの神殿を建て、そこでグールの娼婦を働かせる。グール達は喜んで働くでしょうし、客も美人ぞろいのグールの娼婦たちが相手なら幾らでも集まって来るでしょう!

 そして客には『喜捨』として料金を払わせる。……良い案だと思いませんか!?」


 それがエドモンドの持ちかけて来た商談だった。幾つもの個室を用意したヴィダ神殿を建立し、神聖娼婦と称してグールの女達を働かせ、信者である男達に一夜限りの愛を授け、決まった額の喜捨を寄付する。

 つまり、様々な法律や慣習の抜け穴を突いた特殊な娼館である。


「建設費や様々な費用は私が持ちます。あなたは『飢狼』へのコネクションを活かして歓楽街への根回しを、そしてご子息に集めたグール達をテイムしているという事にしていただければ準備は整います。

 後はグールを何人集められるかですが……あなた達とは交流があるのでしょう? この辺りから姿を消した、グールの群れと。

 あの二人のグールは、そこから連れ出した。そうではありませんか?」


 そしてエドモンドはダルシア達母子か、彼女達が暮らしていたダークエルフの隠れ里はグールの群れと交流があるのではないかと推測しているようだった。ヴァンダルーが屋台で売っているゴブゴブやコボルトの蒸し焼きを、グールの知恵だと言って宣伝している事も、自分の推測を裏付けていると彼は感じているらしい。


「……さぁ? 私には何の事か分かりません。息子が二人をテイムしてきた経緯は、テイマーギルドに報告した通り、魔境の外側としか聞いていませんから」

 苦笑いを浮かべたままのダルシアが言った、ヴァンダルーがギルドに報告した内容とは、「ファング達の訓練をしている時、ザディリスとバスディアに偶然出会った」と言う、ほぼ意味が無い報告であった。


 災害指定の魔物の目撃証言なら正確な報告が義務付けられるが、テイムした魔物との出会いの経緯だとこの程度でも許されてしまう。この辺りではグールの危険度は、基本的なランクが同じオークとほぼ同じと考えられているから尚更である。


 戦闘力はグールが若干高くても、人間に対する有害さではオークの方が上だから、バランスを取って同じと言う判断らしい。


「それは私もギルドで聞いてきましたが……本当だとしたら、親としてお子さんの交友関係をもっと把握するべきだと思いますが」

「うちの子は社交的ですから」

 いよいよ苦笑いも限界に近づいて来たので、張りついたような笑顔を向けてエドモンドに答えるダルシア。


「ふむ……ゴブゴブやコボルトの蒸し焼きを態々グールの知恵だと宣伝しているからには、グールに関係するビジネスか、何かを行おうとしているのだと思いましたが?」

「さぁ。屋台の経営は息子の事業で、私は口出ししていませんから」

 作り笑いを維持しているダルシアの内心は、エドモンドの勘を鋭いと評価すると同時に、苛立ちも覚えていた。


 エドモンドの勘は鋭い。だが、ダルシア達の一連の動きを計画的に見過ぎている。多分、『飢狼』のマイケルとのコネクションや、スラム街の住人からの支持、そしてダルシアが御使いを降臨させ、『聖女』の二つ名を得た事、そしてヴァンダルーが行っている全ての事。

 それら全てを、大きな計画の為に入念に練られたものだと思い込んでいるのだろう。


(……全然そんな事ないのだけど)

 『飢狼』のマイケルことマイルズとのコネクションが有効に働いているのは、商業ギルドの元サブギルドマスター、ヨゼフがヴァンダルーの屋台の営業場所を歓楽街の裏路地に指定したからだ。スラムの住人や、孤児院との関係も、ヨゼフの嫌がらせが無ければ今とは変わった形になっていただろう。


 そしてヴァンダルーの行動は……大筋は予定通りだ。だが、逆に言うと大筋以外は全て予定外である。ゴブゴブやコボルトの蒸し焼きの販売も含めて。

 だから、そこから発展してグールに関係する何かを企んでいた訳ではない。


「エドモンドさん、あなたのお話はよくわかりました。ですけど、私達ではあなたの期待には応えられそうにありません」

「意見は変わりませんか? かかわった者達全員に旨味のある話だと思うのですが」

「ええ、変わりません」


 笑顔で、しかしきっぱりと断るダルシア。エドモンドの話は、確かに旨味がある話だと思う。実現すれば彼は金を稼げるし、グールの女達は子供を作り易い環境が手に入るのだから。

 だがそれはエドモンドの知識にある、普通のグールの場合だ。


 バスディアやザディリス達、タロスヘイムに連れて行ったグール達の少子化問題は、子供が出来にくい体質を改善するマジックアイテムによって、とっくに解決している。

 態々人間社会の法制度上の穴を突いてまで人間の相手を探す意味は無い。


 それにヴィダの信仰的にも微妙だ。確かに歴史上、神殿で神聖娼婦が信者達に愛を授けていた事はある。だが、娼館を神殿、娼婦を神聖娼婦と偽装して客を取り、商売をするのでは話が逆……いや、全く違う。

 これでは統治者側に「ヴィダ神殿は娼館の隠れ蓑だ」等と悪印象を持たれかねない。融和派の影響で力を失いつつある反融和派のアルダ信者などは、嬉々として攻撃材料に使うに違いない。

 それどころか、同じヴィダ信者からも疎まれかねない。


 グールが人間社会で魔物だと誤解されている問題の解決には、人々にグールと実際に交流してもらうのが地道だが効果的だとは思う。思うが……なにも偽装娼館を建ててまで交流しなくてもと思うし。

 何より……エドモンドの人柄が信頼できないとダルシアは感じていた。

 彼の言葉の端々から、金を稼ぐ事以外の事全てを軽んじている事が透けて見えるのだ。……まあ、商人としてはある程度仕方ないのだろうが。


 それに、もし重大な問題……狂信的なアルダ勢力の信者や、グールが町中で大量に集まる事を認められない人間中心主義者がグール達を傷つけようとした場合、守ろうと言う気概があるか疑わしい。


「エドモンドさん、確かに信仰にはお金は必要だと思います。私も霞を食べている訳ではありませんし、神殿を維持するのもタダではありませんから。

 でも、お金の為に信仰を利用するのは違うと思いますよ」

 ちょっと前まで霞どころか何も食べる必要の無い幽霊だった事を棚に上げて、ダルシアがそう諭すとエドモンドは溜息をついた。


「……神から加護や御使いを賜る方は、皆同じような事をおっしゃいますね。では、私から一つご忠告を。

 ロドリゲス!」

 エドモンドがそう呼ぶと、別の席に座っていたロドリゲスと言う名前らしい壮年の男が立ち上がった。

 彼は軽装の皮鎧を着て腰に剣を差しており、歳による衰えを感じさせない動きでダルシアの横まで歩いて来た。


「彼の名はロドリゲスと言いまして、元B級冒険者ですが今は縁あって私の護衛をしてもらっています。昔は『剛剣』と呼ばれていた猛者で、昨日あなたのご友人やご子息のお弟子さんにのされた『剛腕』とは、格の違う男ですよ」


「それは何となく分かりますけれど、忠告とは?」

 ゴードンを直接見てはいないダルシアだが、目の前のロドリゲスがそれなりに強い事はその動きを見て察する事が出来た。出来たが、それだけである。


 驚いたり気圧されたり、怯えた様子は微塵も無い。

 エドモンドは、自分が自信たっぷりに紹介したロドリゲスに対するダルシアの態度に若干苛立ちを覚えながら、言葉を続けた。


「いえ、ただ……どんなに理想的なお考えをお持ちでも、時には力ですべて奪われてしまう。世の中にはそんな話が幾らでもあるのだとご忠告しようと思いまして」

 まるでこの話を断ったら、ロドリゲスに力ずくで奪わせるぞと言うかのように、圧力をかけようとするエドモンド。


 しかし、相手が悪かった。原種吸血鬼の肉体に受肉した邪神相手に肉弾戦をして、しかも追い詰めるダルシアの目には、幼児が「ボクはコワーイ悪い奴なんだぞ!」と言っているのと変わらない。

 だからダルシアは笑顔を崩さずに言い返した。

「でも、力ずくで奪おうとした人が返り討ちにされて、身ぐるみ剥されて犯罪奴隷として売り飛ばされる事も、幾らでもある話だと思いますけど」


「……なるほど。確かに、冒険者ギルドではよく山賊退治の依頼書が張り出されますね。ロドリゲス、君はどう思う?」

「このご夫人の言う通りだと思いますよ、エドモンドさん」

「そうだろう、現実は退治される数より被害に遭う者の数の方が多……何だって?」

「エドモンドさん、俺はこのダルシアさんの言う通りだと思います」


 自分の耳を疑って思わず聞き返した雇い主に、ロドリゲスは静かに同じ答えを返した。

 驚いて硬直するエドモンドに構わず、ダルシアはロドリゲスに笑顔を向ける。

「そうですよね。じゃあ、私はこの辺で失礼しますね」

「お呼び止めして申し訳ありませんでした。ここの代金は当然こちらで持ちますので」

「まぁ、ありがとうございます。美味しい紅茶をありがとうございました」


 席を立とうとするダルシアに道を開け、まるで紳士のように一礼するロドリゲス。軽やかな足取りで立ち去ろうとするダルシアの後ろ姿を見て、我に返ったエドモンドが彼女を呼び止めようとするが、それも彼が強引に止めさせる。


「……ふぅ、すみません、エドモンドさん」

 そしてダルシアが店から出て行った後、ロドリゲスは口を塞いで押さえこんでいたエドモンドを解放した。

「全くだっ! 一体、何故こんな事をした? 君を使って彼女に圧力をかける事は事前に打ち合わせをしただろう。息子の方に話を持ちかけたら拒否されるだろうから、まず母親の方に商談を持ちかける事も。

 だと言うのに一体何故?」


 説明を求めるエドモンドに、ロドリゲスは青い顔をしたまま答えた。

「エドモンドさん、俺達は彼女の事を他の神殿の聖職者……御使いを降ろす事は出来ても戦闘経験は殆ど無い連中と同じだと思い込んでいたが、そうじゃない。

 冒険者でもなく、普段は串焼き屋の売り子をやっているあの女は、明らかに俺より格上だ。立ち振る舞いからそれが見て取れる。武術系スキルのレベルは、俺より確実に高い」


「そんな……! 【剣術】スキルが8レベルの君よりも、彼女の方が格上だと……!?」

 愕然とした様子でダルシアが去った店の扉に視線を向けるエドモンドに、ロドリゲスは言った。


「エドモンドさん、あんたには恩がある。あんたがその金とコネで取り寄せてくれた特効薬のお蔭で、俺の倅は今も生きている。

 だから俺には、あんたのためなら命も張る覚悟がある。もし龍に襲われたとしても、あんたが逃げる時間を一秒でも長く稼ぐためになら死んでやる。

 だが、龍の尻尾を踏みつけに行くために死ぬのは御免だ。あんたの身を守るためにも」




 人を模した石や土で出来たゴーレム達が、ただただ行き来するだけの町の紛い物、ダンジョンでヴァンダルー達は作業を行っていた。

 ビルカインやヒヒリュシュカカとの戦いで汚れた建物の清掃や、壊れた使い魔王の補充とメンテナンスが必要だったからだ。


 ビルカイン達はダンジョンそのものを壊す事は出来なかったが、ヴァンダルーが使った砲台型や砲弾型使い魔王は、それぞれ使い捨てだ。砲弾型は爆発するから当然だが、砲台型使い魔王も弾を発射するのとその際の衝撃で、魔力を使い果たして壊れてしまうためだ。


 それにその爆発で起きる煙や煤で、ダンジョン内の建造物が黒く汚れてしまう。汚れた程度ではこのダンジョンの性能に差は無い。しかし、このダンジョンに誘い込んだ敵には暫くの間は本物の町だと誤解してもらった方がやり易い。


 次に使う時も、ビルカインと戦った時のように、動揺している間に一撃を浴びせて仲間と分断し、各個撃破出来るかもしれない。

 だから清掃も、爆発で付いた煤を落しても本物の町よりもきれいにならないようにしないといけないのだ。

「それは分かりますけれど……雪と寒さはどうにかなりませんの?」

「無理です」

 変身杖を発動してボディースーツ姿になっているタレアに、グファドガーンは首を横に振って応えた。


「このダンジョンは、本物のモークシーと同じ気象と気温になるように設定している。本物の町で雪が降れば雪が、雨が降れば雨が降る」

「それは聞きましたわ、ですけど敵が来ない間だけでもどうにかなりませんの?」


「出来なくはない。だが、このダンジョンの階層は平均的な階層の倍以上の広さがある。もしダンジョンを適温にしてしまったら、気温や気象を元通りにするのに一日以上かかってしまう。

 なので、暖房はそれぞれ工夫をしてもらいたい」


「確かに、町一つ温めたり冷やしたりするのは大変ですわね。仕方ありませんわ、ヴァン様で暖を取る事にしましょう」

「変身装具を発動していれば、これぐらいの寒さはどうにかなるはずだが?」

 そうタレアに声をかけるバスディア。見かけはミニスカートやボディースーツ状で、とても寒そうに見える変身装具だが防寒性能も付与されている。


 実際、変身しているタレアには真冬の雪空でも「やや寒い」と感じても凍える程の冷気は感じられない。


「心の暖の問題ですわ。あなたもお母さん達と一緒に後輩の指導に当たって来たらどうなの?」

「私は良いんだ、もう今日の分のレッスンは済ませたからな。ユリアーナ達の指導は、母さんとカナコに任せる」

「……よし、これで大丈夫。タレア、あなたも知っての通り俺は体温が低いので、暖は取れないと思いますよ」

 それまで砲弾型使い魔王を作り出し、自走砲台型使い魔王に装填する作業をしていたヴァンダルーはそうタレアに答えた。


『本体、折角つけたこの脚だけど……多分、砲弾を撃ったら衝撃で壊れると思うよ』

 自走砲台型使い魔王は、【魔王の節足】を蠢かせてそう答えた。

「一度目を撃つまで動くなら十分ですよ。

 それで母さん、エドモンドって人の話はどうなったのですか?」


「ええ、それがね……タレアさんもバスディアさんも聞いて。悪徳商人って訳じゃなさそうなんだけど……」

 ダルシアが昼間にエドモンドから持ちかけられた話を説明すると、ヴァンダルーよりもバスディアとタレアが先に口を開いた。


「何と言うか……昔の焦っている頃の私なら良い話に思えたかもしれないが……」

「微妙な話ですわね。以前なら聞く価値もあったと思いますけれど。それと、そのエドモンドって方が思っているほど皆は喜ばなかったと思いますわよ」

 グール達も、子供が出来るなら相手は誰でも良いと言う訳ではない。彼女達には彼女たちなりの好みが在る。


 そう、強さだ。

 エドモンドがどんな客層をターゲットに狙っていたのかは不明だが、男性冒険者や騎士でもない限りグールの女性達の食指は動かない。戦闘能力の無い商人や、だらしのない酔っぱらいは男として見られない可能性すらある。


 それにグール達は性に対して開放的だが、別にプロの娼婦と言う訳ではない。そのまま客の相手をさせれば、大小様々なトラブルが起きていただろう。

「あと、モークシー伯爵とバッヘムさんの心労が凄い事になりそうです。特にバッヘムさんはバスディア達の正体を薄々察しているようでしたし」


 テイマーギルドのバッヘムは、ヴァンダルーが申告した通りバスディアをグールウォーリアー、ザディリスをグールメイジとして判断して従魔用の首輪を渡した。

 ただそれは、彼の経験や直感から二人がランク4や5とは思えないけれど、二人の本当の種族が何なのか彼の知識に無いから、ヴァンダルーの申告内容を否定できなかっただけに過ぎない。


 バッヘムがヴァンダルーを信用していなかったら、強引にでも申請を却下していた可能性もある。

 ……その直後に偽装ヴィダ神殿と神聖娼婦にするためにグールを大勢町に連れ込むような事をしたら、流石に彼の許容量を超えてしまうだろう。


「そうよね。でも安心して、話はちゃんと断って来たから。エドモンドさんは少ししつこかったけれど、護衛のロドリゲスって人が見る目のある人で助かったわ。

 だから迷宮に閉じ込めたり、肉団子や肥料にしたりしちゃダメよ」


「……御意」

 グファドガーンがダルシアに短く答える。エドモンド達が、数日で不良衛兵のアッガーを総白髪にした迷宮行きを免れた瞬間である。


「ところで、あのジェシーと言う錬金術師はどうなった? 私と母さんの毒を受け取った後は、ヴァンにサイモン達の義肢の作り方を教えてくれとせがんでいたようだが」

「錬金術的に教える事は何も無いと説明したのですが、中々諦めてくれません」


「あの義肢を作るのに必要な技術は、錬金術と言うより鍛冶師の領分ですものね」

 ゴードンとの決闘騒ぎでナターニャやサイモンの活躍を見た錬金術師のジェシーは、生身と同様に動き、更に意思一つで分解し、再結合も可能な義肢へ興味を移していた。


 だがあの義肢そのものは、ただの金属製の義肢でしかない。動かしているのは装着者の霊体である。

「いい御嬢さんよね。魔術師ギルドがヴァンダルーに圧力をかけようとしているのに、気にせず皆に接してくれて。

 彼女がグールの人達や義肢の正しい情報を魔術師ギルドに伝えて、誤解が解けるといいと思わない?」


「母さん、それは中々難しそうですけど……グールのレポートを纏めてギルドに提出する事を交換条件に、訓練を見学してもらうと良いかもしれませんね。

 今は……何故かサイモンと一緒ですね」


 サイモンの義手に仕込んである使い魔王の反応を見ると、ジェシーはいま彼と一緒にいるようだ。どうやら、スラム街を出て部屋を借りるために不動産屋を巡っているサイモンとばったり出会ったらしい。

 そしてそのまま「義手を見せてくれませんか?」と、サイモンの周囲に付きまとっているようだ。


「……まあ、サイモンとは夜に店でもう一度会いますから、その時まで付きまとっていたら話を持ちかけてみましょう」

「サイモンが捲かない限り、付きまとっていそうだな」

「多分捲いたりはしないんじゃないかしら。冒険者ギルドのマスターの娘さんなんだし」


 ジェシーとの遭遇がサイモンにとってロマンスなのか、それともトラブルなのか微妙なところである。


「ところでヴァン、経験値はどうだ? タロスヘイムでは神像が建設中の筈だが」

「……日々高まっています」

 【デミウルゴス】ジョブに就いて亜神となってから、何もしていないのに経験値を手に入れレベルが上がる事が頻繁にあった。


 そこで原因は【デミウルゴス】ジョブに関係があると考えると……人々のヴァンダルーに対する信仰心が経験値になっているのだろうと推測された。

 試しにグファドガーンに祈ってもらったら、その途端ヴァンダルーのレベルが上がったので確実であろう。


 そのためタロスヘイムのヴィダ神殿の現責任者であるヌアザが以前から求めていた、巨大ヴァンダルー像建立計画に大義名分が出来てしまい、遂に計画が始動してしまったのだった。

 今も『建立反対』や『像をもっとコンパクトにしよう!』と書かれたプラカードを持った使い魔王達を無視して、タロスヘイム国民が自主的に神像建設の為に働いている。


 『太陽の巨人』タロスが生きた巨大重機として作業を手伝ったり、態々ヴィダの寝所から原種吸血鬼達が作業を手伝うために集まってきたり、しまいには境界山脈内部の各王が親善の為建設現場を慰問しに来るらしい。

 各国の王や代表者が大小の石材から一つ選んで運び、建立に協力すると表明すると言う式典も行うようだ。


「偉大なるヴァンダルーよ、その大いなる慈悲によって偶像を作る事をお許しください」

「これも国民の意思よ、ヴァンダルー」

「そうですね、グファドガーン、母さん」

 暴君にならないよう、民の意思は尊重しなければならない。ヴァンダルーとしては、もう巨大神像建立を止める事は諦めるしかないのだった。


「為政者が国民に巨大な像を『建立される』……普通、逆ですわね」

「そう言えば、魔大陸でもタロスヘイムに負けない巨大なヴァンの石像を建てる計画が進行中らしいぞ。ティアマトが主導して」

「魔大陸でもですか? それは止めたい。けど、疑似本体型使い魔王がいないから直接意思を伝える事ができないのですよね」


「ティアマト様ったら、自分と同じくらいの大きさのヴァンダルーの像が欲しくなったのかしら。

 あら、あの光は?」


 その時、ダンジョンの町の広場に相当するところから煌びやかな光の輝きが見えた。そして歌声が聞こえてくる。

「そうです! その調子です! 皆さん素質がありますよっ、未来の魔法少女はあなた達です!」

「うむ、将来……数か月後から来年が楽しみじゃ」

 そこでは変身杖を発動させ変身しているカナコとザディリスが、ユリアーナや生前彼女の部下だったミノタウロスハーフの少女達に歌と踊りのレッスンを指導していた。


「はい、皆さんのような魔法少女になれるよう、頑張ります! そうでしょう、皆!」

「「「はい! 目指せ、魔法少女!」」」

 生まれ変わる前はユリアーナを含め、殆どが騎士だったはずだが、今や彼女達は魔法少女騎士団を目指して情熱を燃やしていた。


「微笑ましい光景だな。将来はマジカルプリンセスナイトミノタウロスハーフとか、そんな感じの種族になるのだろうか?」

「かもしれませんね。まだ子供なので、大人になるだろう来年まで色々安定しませんが。……もしかしてミノタウロスハーフでは無く、他の種族になるかもしれませんし」


 何処か遠い眼差しで未来の魔法少女達のレッスンを眺めるヴァンダルーとバスディア。しかしタレアが胡乱気な視線を向けたのは、ザディリスだ。彼女は光姫魔術を使用してスポットライトや光の乱舞等、本番さながらの演出を行いユリアーナ達の士気を上げている。

「それよりも私が気になるのは、あの人が本気で魔法少女を辞めようとしているのかと言う点ですわね。とても、疑わしいですわ」


 魔法少女の数を増やし、自分は適切なタイミングで変身するのを控え、「姫」や「魔法少女」と無関係な種族とジョブへ変わる事を目指す。

 その予定だったはずだが……ドツボにはまりつつあるのを察していた。彼女以外の全員が。




 歓楽街の裏路地。一カ月と少々前までここはスラム街から働きに来る者が、不味いが安い食事を買うための屋台が数件あるだけの薄暗く、如何わしい雰囲気の場所だった。

「いらっしゃい、いらっしゃい! 今日のゴブゴブのスープも良い味が出てるよ~!」

「コボルトのサンドイッチはいかがかね~! 食べ応えのある黒パンではさんだのと、高いが柔らかい白パンで挟んだの、二種類があるよ~!」


 しかし今ではピンクのハートマークが描かれた屋台の店主達が、景気の良い客引きの声を響かせる何処か異様で、だが陽気な通りに生まれ変わっていた。

「あれ? 秋に来た時はこんな通りなかったよな?」

 広い範囲を旅していて、数か月ぶりにモークシーの町に立ち寄った者は驚き、目を瞬かせる。


「ここが噂のヴィダ通りか! よし、全ゴブゴブ料理制覇だ!」

「おう、行って来い! 吐かずに達成できたら百バウムだ!」

 逆に噂を聞いてやってきた者達は、度胸試し兼賭けを行うために通りに入っていく。そして想定したより美味いゴブゴブ料理を食って、男は百バウムを手に入れる事になる。


 スラム街の屋台の店主達を救ったゴブゴブやコボルトの蒸し焼きを売る、ヴィダの聖印を飾る屋台が集まるこの裏路地は、モークシーの町の新たな名物になりつつあった。


「いつもの香草ソースと胡桃ソースの串焼き、五本ずつね。お待ちどうさま」

「今日はウォーキングマッシュソースの肉と茸の串もありますが、如何ですか?」

「まあ、首領の愛人とか隠し子よりはマシだけど。はい、林檎ソースのステーキお待ち」

 そしてその通りを入った半ばの、ダンピールの少年の店主と、美人ダークエルフの母親の売り子がいる串焼き屋台は、今や完全に観光名所と化していた。


 ビルカインとヒヒリュシュカカを倒した後、正体を隠して犯罪組織に潜入し続ける理由が無くなったエレオノーラやベルモンド、メリッサがただ暇を持て余しているよりはと、屋台の手伝いに来ているのである。

「焼き加減と言うのは奥が深いな、ヴァン」

「バスディアさん上手ですね、私なんて自分で作ると、いつの間にか半分ぐらい焦げちゃうんですよ!」

「……ジェシー、儂が思うにそれは料理の途中で別の事に気を取られているからではないかの?」


「ジェシー、手伝ってもらうのがだんだん不安になって来るのですが」

 そしてバスディアとザディリス、そして何故かジェシーまで加わっていた。ちなみに、ナターニャは家でリタとサリア姉妹と一緒にユリアーナ達の世話をしている。


 エレオノーラ達の服装は首領の護衛や秘書兼愛人と偽っていた時のものでは無く、冬らしい温かい普段着だったがそれでも美女と美少女揃いなのは間違いない。

 そのため男性客が次々にやって来ては串焼きを買って行く。……ヴァンダルーが魔境での狩りを続行しているため、値段の割に良い肉とソースを使っているので、純粋に料理目当ての客もいるが。


「そんな事言わないでください、師匠! 私頑張りますからっ!」

 そんな中で目が覚める程の美女と言う程では無く、どちらかというと野暮ったい雰囲気のジェシーは若干浮いていた。


「いや、まだ弟子入りを認めた訳じゃありませんし」

「師匠!?」

「……弟子にしても、教える事が殆ど無い事は説明したでしょうに」

 これはやはり一度サイモン達の訓練に連れて行き、義肢について詳しく見せる必要があるかもしれない。諦めず食い下がって来るジェシーにヴァンダルーはそう思った。


「ジェシーさん、師匠を困らせちゃいけない。それにあんたみたいな御嬢さんが歓楽街を出入りしているなんて、親父さんが知ったら心配しますぜ」

「サイモンさん、父さんの事は気にしないでください。私はもう成人しています、子供じゃありません。何処で働こうと私の勝手です」


「ですがねぇ、親ってのは何時まで経っても子供の事が気にかかるもんなんですよ。俺も随分心配をかけ続けてしまいましてねぇ。そんな親不孝はするもんじゃないですぜ」

「サイモンさん……もしかして、十年以上会っていなかったご家族の事ですか?」


「ええ、最近やっと手紙を書く覚悟が決まりましてね。最後の手紙を出してから、やっぱり十年くらい経ってるんで、死んだと思われていてもおかしくないんですがね」

「ごめんなさい、私ったら無神経で……」

「いや、気にしないでください。事情ってもんは、人それぞれ。俺も御節介でした」


 不動産屋を巡っている途中で偶然遭遇し、そのまま話し込んでいたらしいサイモンとジェシーは、ここでも話し込み始めた。

「何かドラマがあったみたいね」

「ドラマがあったみたいですねー」

「おお、これが『二人だけの世界』か。二人とも凄い集中力だ、私達の声が全く聞こえていない」


 それを近くで眺めるダルシアとヴァンダルーはデバガメ気分で、バスディアは純粋に感心していた。

 尚、サイモンは屋台の手伝いではなく、ダルシア達にちょっかいをかけようとする酔っぱらいを追い払う用心棒的な役割だったのだが、あまり役立っていない。


「グルルル」

 代わりにファングが大活躍していた。牛と同じ大きさの灰色の犬が小さく唸って牙を見せれば、それだけで酔っぱらいは酔いが醒めた様子で逃げて行く。


 その酔っぱらいの後ろ姿を見送りながら、ヴァンダルーは首を傾げた。

『まだ転生者達が仕掛けて来ないし、偵察もされている様子が無い? 空気も普通ですし、ファングも反応しないから【シルフィード】も居ないようですし……待つだけでは無くもっと自分から攻めに行くべき頃合いでしょうか?』


 そう思うヴァンダルーの脳裏に、突如アナウンスが響き割った。




《【歓楽街の真の支配者】の二つ名を獲得しました!》




「何故?」

 思わず聞き返すヴァンダルー。しかし、手は休まずに串焼きを焼き続けていた。




――――――――――――――――――――――――――――――――




・名前:ダルシア

・種族:カオスエルフソース

・年齢:0

・二つ名:【魔女】 【聖母】 【モンスターのペアレント】 【ヴィダの化身】 【皇太后】 【聖女】(NEW!)

・ジョブ:変化闘士

・レベル:25

・ジョブ履歴:魔法少女、命帝魔術師、マジカルアイドル、魔杖装者



・パッシブスキル

闇視

魔術耐性:10Lv

物理耐性:10Lv

状態異常耐性:10Lv

剛力:6Lv(UP!)

超速再生:5Lv

生命力増大:9Lv(UP!)

魔力増大:7Lv(UP!)

魔力自動回復:7Lv(UP!)

魔力回復速度上昇:7Lv(UP!)

自己超強化:ヴァンダルー:1Lv(自己強化から覚醒!)

自己強化:導き:10Lv

能力値強化:創造主:5Lv(UP!)

能力値強化:君臨:3Lv(UP!)

色香:8Lv(UP!)

弓装備時攻撃力増強:中

非金属鎧装備時防御力増強:中

眷属強化:1Lv

能力値強化:変身:4Lv(NEW!)


・アクティブスキル

料理:5Lv

家事:5Lv

狩弓神術:2Lv(UP!)

竈流短剣術:2Lv(UP!)

千変闘術:1Lv(格闘術から覚醒!)

無属性魔術:5Lv

魔術精密制御:1Lv

命帝魔術:3Lv(UP!)

水属性魔術:10Lv

風属性魔術:10Lv

精霊魔術:6Lv(UP!)

解体:2Lv

霊体:2Lv(UP!)

限界突破:3Lv(UP!)

詠唱破棄:6Lv(UP!)

連携:7Lv

女神降臨:3Lv(UP!)

聖職者:3Lv(UP!)

舞踏:3Lv

歌唱:3Lv

魔杖限界突破:3Lv(UP!)

杖術:4Lv(UP!)


・ユニークスキル

ヴィダの化身

生命属性の神々(ヴィダ派)の加護

カオスエルフの祖

ヴァンダルーの加護

神鉄骨格

再生の魔眼:5Lv

混沌



・スキル解説:千変闘術 ルチリアーノ著


 【混沌】スキルによって身体を変異させながら戦う事で本領を発揮すると思われる、格闘術の上位スキル。

 このスキルに覚醒するには格闘術を修め、更に身体の一部を様々な魔物や獣の部位に変化させるだけでは恐らく不可能だ。


 変化させた部位を振り回すだけでは無く、格闘術の一部として十全に使いこなす事が出来て、初めて覚醒する条件が揃うと思われる。

 カオスエルフ以外にもミミックスライム等が獲得する可能性はあるが、尻尾や蹴爪、翼の扱い方を教えてくれる師匠の存在が不可欠だろう。




・スキル解説:生命歪曲、魔素侵食、輪廻模倣、従僕創造


 【魔王】ジョブに師匠が就くと同時に獲得したスキル。名称から推測すると、魔王グドゥラニスがこの世界に現れた直後に行った事をスキル化したものではないかと思われる。


 生命をあるべき自然の形から歪め、世界を魔力で汚染して侵食、輪廻の輪を模倣し、従僕たる魔物を創造した。

 この一連の流れを再現する事が可能なスキルだったのだろう、本来なら。しかし、全て師匠が既に持っていたスキルに統合されている。

 ……つまり師匠は魔王グドゥラニスがやった事と同じ事が実行可能、若しくは実行していた事になる。


 流石は魔王と言うことだろうか。

12月18日に閑話33(オリジン)を、22日に231話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 国王がデモ活動してて草
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