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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十章 アルクレム公爵領編
277/515

二百二十六話 雷雲の前の静けさ

『オ、オカエリ……ナサイ……マセェ……ゴ主人……サマァ……』

 たどたどしい口調と、ぎこちない笑顔で女が挨拶をする。

 血の気の失せた肌に、体中に残る縫合の痕。女は、アンデッド……ゾンビだった。


 だが、ただのゾンビでは無い。吸血鬼の死体がアンデッド化した、ヴァンパイアゾンビである。口元から覗く牙と、光を失いどろりと濁っていても紅いままの瞳がその証拠だ。

 この世界では、アンデッド化する事は生前より強くなる事には必ずしも結びつかないが……たどたどしくても言葉を話せる程知能が残っているのなら、人間にとって脅威になる事は間違いない。


 特に生前貴種だった場合は、高度な魔術を使い、翼も無いのに空を飛ぶことが可能だ。そんな恐ろしい存在なのだが……彼女が着ているのはメイド服だった。しかも、胸元が覗いていたりスカート丈が膝より上だったりと、露出度が高くなるように改造されている。


『オォ、オカエ……リィ……ゴ……しゅじ…ん……ザマァ……』

 そして先程から、何故か挨拶の練習をしている。

『うぅぅん……やっぱりたどたどしいですね。姉さんがハルバードで頭を叩き割ったせいでしょうか』

『そうね……ちょっと動きがぎこちない。リタがグレイブで首を落したからかも』


 そしてそのヴァンパイアゾンビの挨拶を監督しているリタとサリアが、そう評価した。そう、女はビルカインの四人の腹心の一人にして、リタとサリアに倒されメイドにされた貴種吸血鬼である。

 名をマギサと言い、生前はランク11の吸血鬼侯爵でありバーンガイア大陸の闇夜を何万年もの間暗躍し続けた恐るべき存在である。

 ただし、当然だがメイドとして有能かどうかは別の話である。


『メイドとしては新人その物ですが、私達にはあなたを手にかけた責任があります!』

『吸血鬼の人が一気に増えたので、私達メイドも増えました。ですがマギサさんは私達の手で立派なメイドにして見せますからね』

 そして二人が『だから一緒に頑張りましょう!』と言うと、マギサの濁った瞳は潤み、手足は小刻みに震えた。


『とりあえず挨拶は後回しにするとして……まず【霊体】と【遠隔操作】スキルの獲得から行きましょうか。体中をバラバラにして、自在に家事が出来るのは私達アンデッド系メイドの利点ですからね』

『それより、まず加護の獲得を目指して坊ちゃん漬けにするのはどう? 身体や脳の修復作業の時も一緒に居たから、もう少しだと思うんだけど』

『目と脳の修復に時間がかかったと、坊ちゃんから注意されちゃいましたからね……』


「……それより良い提案があるんだけど、良い?」

 震え続けているマギサの教育方針について相談するサリアとリタに口を挟んだのは、【アイギス】のメリッサだった。


『メリッサさん、離乳食作りは終わったんですか?』

「終わったわよ。それより、あんた達が彼女を立派なメイドに仕立て上げる気なら、まずするべきなのは彼女にまともな、つまりフォーマルなメイド服を着せる事よ。そのコスプレ衣装みたいなのじゃなくて」

 エプロン姿のメリッサは、半眼でマギサの格好を改めるべきだと提案した。


 実際、マギサが着ているメイド服は本職の、それも高貴な身分の主人に仕える一流のメイドなら気分を害するような改造メイド服である。それを二十代半ば程の外見でスタイルの良いマギサが着ているので、どうしても「夜の商売で女王様タイプの人が、客の要求を断れなくて仕方なく着ている」と言う風に見えてしまう。

 つまり、本物のメイドには見えない上に無理をしているように感じられるのだ。


 しかし、二人には異論があるようだ。

『そんなメイドさんが増えたら、私達が目立っちゃうじゃないですか』

 リビングビキニアーマーとハイレグアーマーの彼女達は、鎧から伸びる肢体は全て本体から出ている霊体だ。だが、はた目には露出度が高い格好をした少女に見える。

 もしフォーマルなメイド服を着た女性達の中に混じっても、一目でわかるほど目立つだろう。


『それに人間社会のフォーマルなメイド服を着たメイドなんて、タロスヘイムには一人もいません』

 そしてタロスヘイムの王城で働くメイド達の多くは、ヴィダの新種族やアンデッドである。そのため、人間社会の常識は当てはまらないのだった。


「そう言えばそうだったわ。私、メイドにだけはならないようにしよう」

 メリッサはそう言って、二人の説得を諦めたのだった。捨てられた子犬のように震えているマギサを出来るだけ見ないようにして。


「ワウゥゥゥ~ン!」

「チュウゥ~♪」

 その時、納屋からファングの困り果てたような鳴き声と、マロル達と子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。


『子供達が遊んでいるみたいですね。ファングは子供達に遊ばれているみたいですけど』

『マロル達は流石ですね~、カナコさんの教えが良く身についてます』

「ネズミは世界的な人気キャラクターになる可能性があるって言って、勝手に芸を仕込んだのよね。ルチリアーノも止めないし」


 なごんでいる三人を眺めながら、マギサはヴァンダルーが冒険者ギルドから帰って来たら服について直訴しようと企んでいた。




 ヴァンダルー達が冒険者ギルドの建物に入ると、中に居た冒険者達は思わず注目した。

「あれは、確かにサイモンだな。俺が新米の頃受けた町の清掃の依頼で一緒だったから、覚えてるぜ」

「隻腕だったはずなのに……今じゃあのマジックアイテムの義手で、昔みたいに両手剣で魔物と戦っているらしいな。どうやってそんな高性能な義手を手に入れたんだ?」


「その程度で驚いてる場合じゃないぜ。隣を歩いている獣人種の女。お前は知らないだろうが、あの女はミノタウロスに襲われて捕えられたところを助け出された女の一人だ。その時には片腕どころか、両手足全部斬り飛ばされていたらしい」


「何っ!? じゃあ、あの手足は鎧を着ている訳じゃなくて……!」

「義肢だろうな。よく見りゃ、多少の差はあるがサイモンの野郎の義手とよく似てるし」

 まず注目を浴びるのは、サイモンとナターニャだ。二人とも腕や四肢を失った事が冒険者達の間ではそれなりに知られており、そしてそれらを義肢で補っている事が噂になっていたからだ。

 尤も、噂では義肢がマジックアイテムだと勘違いされていたが。


「その義肢を二人に与えたのが、あのガキか? ダンピールらしいが、正直、気味が悪いだけのガキにしか見えないぞ」

「おい、滅多な事を言うんじゃねぇ。あのガ……お子様はここのマスターやテイマーギルドのマスターと親交があって、領主様のお茶会に呼ばれるような大物だ! この町の歓楽街はもうあのお子様の庭みたいなもんなんだぞ!」


「な、何でガキが歓楽街を庭にしてるんだよ!? どんなマセガキだ!?」

「だから、滅多な事を言うんじゃねぇって! 聞かれたら二度と娼館に行けなくなるぞ!」

「それよりも、腕利きのテイマーだって教えてやれよ。ランク4のヘルハウンドに、他に新種の魔物を三匹も連れているらしいぞ。表が騒がしいのは、そのせいかもな」


「新種ねぇ。ちょっと興味があるわ。見てこようかしら」

「ところで、そのお子様におんぶされている獣人種の子供は何だ? ええっと……牛系の獣人種なんて、いたっけ?」


 そんな囁きが冒険者ギルドのあちこちで洩れる。どうやら、ヴァンダルーと顔見知りである『岩鉄団』のロック達はいないようだ。


「あのさ、師匠。噂がちょっと変な風に流れてるけど、放っておいていいのかよ?」

「大丈夫、本当の話はその内自然と伝わるでしょう。……魔術師ギルドの人達から、意味の無い圧力をかけられていますけど」

「あいつ等、師匠がただでマジックアイテムを配り歩くつもりじゃないかと邪推しやがって……実害が無いなら良いんですけどね」


 そう言葉を交わしながら、ヴァンダルー達は職員に案内されるまま二階へ上がり、奥のギルドマスターの執務室に入ったのだった。




「最近は落ち着いてきたようですね。この町にも慣れましたか?」

 連絡があると当事者であるナターニャと、その仲間や保護者であると言う理由でヴァンダルー達を一緒に呼び出した冒険者ギルドのマスター、ベラードはそう語りかけた。


「……ええ、まあ。最近は落ち着いてきました」

 そう同意するヴァンダルーだが、ベラードとは言葉のニュアンスが異なっていた。

 ベラードの最近は、「ここ半月ほど」という意味だ。彼の目から見ると、実際ここ半月ほどヴァンダルーの周りで奇妙だったり、驚愕に値したり、胆が冷えるような事は起きていない。


 商業ギルドのサブギルドマスターだったヨゼフは何事も無く追放されたし、ギルドマスターも出張から戻ってきた。行方不明の汚職衛兵、アッガーが正気を失った状態で発見されたのはちょっとした事件になった。だが発見された場所は、ヴァンダルーが住む地域や屋台を出している歓楽街から離れていたので、無関係だと見られていた。表向きには。


 後はヴァンダルーの傘下の屋台が増え、ゴブゴブとコボルト肉の蒸し焼きがモークシーの町の新しい名物になった事や、『飢狼』のマイケルがすっかり彼の仲間のような関係になり、配下のチンピラ達に訓練を施し用心棒……警備員に仕立てて歓楽街とスラム街の治安を劇的に回復させた事だろうか。


 冒険者ギルドがらみでも新種の魔物、火鼠や濡れ鼠、鉄鼠の発見で注目されている。

 それだけでは無く、ベラード自身も今後冒険者の中に手足を失った者がいたら、サイモンやナターニャのように義肢を扱えるように訓練してもらえないかと、話を持ちかけているところである。


 本来ならそれらは大きな出来事だ。特に、商業ギルドの職員や、歓楽街やスラム街の関係者にとっては、十年経っても忘れられない大事件。ベラードとしても、義肢の件は小さくはない。

 だが彼らと立場が異なる冒険者ギルドのマスターであるベラードにとっては、「大事件」という程では無い。胃の痛みに耐えながら、伯爵やギルド本部へ報告書を書かなくてもいい、日常の延長線上にある出来事だ。


 だがヴァンダルーにとっての最近は、「ここ二日ほど」程度の意味である。

 原種吸血鬼のビルカイン、そして『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカを喰らい、それからの約二週間は、ベラードが知っている出来事以外にもやらなければならない事が多く、忙しかったのだ。


 まずビルカインが残した組織や施設の内、放置しておくと危険な場所や、価値のある物がある場所を巡った。

 生贄やアンデッド、そして吸血鬼にするための人間を「飼育」するための施設は殆ど放置しても問題の無い場所だった。このモークシーの町のように、洗脳されたダンピールや吸血鬼や、裏の事情まで全て知っている悪人が世話役をしている施設は数える程で、多くは何も知らない人達が運営している事が分かったからだ。


 必要があった時に人間に変装した吸血鬼が里親として孤児を引き取り、奴隷や娼婦を身請けして回収していたそうだ。

 その回収役の吸血鬼が逃げるか恭順を示しているため、今後は極普通の孤児院や娼婦館、奴隷商として運営されていくと思われた。なら、手を出す必要は無い。


 組織の場合も各地の犯罪組織を裏で操っている程度の場所は放置し、向かったのはアンデッドの保管庫や、ビルカインの趣味の拷問の一環で脳を弄られた従属種吸血鬼が集められている場所等だ。


 アンデッドを芸術作品だと認識していたテーネシアや、戦力にしていたグーバモンと違い、ビルカインはアンデッドを労働力だと認識していたらしい。

 建物の建築や武具の製作等、生産的な活動をさせるためのアンデッドが複数の施設で保管されていた。

 まさか、自分がヒステリーを起こすたびに建物を破壊してしまうからという訳でもないだろうが……。


 脳改造された従属種吸血鬼達は、理性や感情を無くしたり、知性が獣並になっていたりしたが、逆にそれが幸いした。彼らはヴァンダルーを認識した瞬間にアンデッドや生ける屍と同じように魅了され、大人しくヴァンダルーに従うようになった。


 そして、アイテムボックスを含めた国宝級のマジックアイテムを手に入れた。それまではただ各地を【転移】で巡るだけの、弾丸ツアーで特に苦労も何も無かった。

 忙しかったのはその後、危険な施設から救出した孤児等や、回収したアンデッド、従属種吸血鬼達を連れ帰った後だ。


 孤児達の内、元々モークシーのスラムの孤児院出身者や、捕らえられている間にその出身者と仲良くなった孤児達十数人も、一緒にホリー院長の孤児院で暮らす事になった。

 だが、孤児達は全部で百人以上いる。なので、孤児院に戻る孤児以外はタロスヘイムに連れて行く事になった。しかし、保護者のいない子供を百人も適当に寮に詰め込む訳にはいかない。


 生産系アンデッド達は命令しない限りじっとしているので問題は無かったが……従属種の方も連れて来た後放置するのは問題だった。特に脳改造された者は、ヴァンダルーには従順でもそれ以外の者にとっては危険だ。

 そうした問題を片づけながらベラードが知っている出来事や、ナターニャやサイモン達の修行を見て、ある計画を始動し、生まれ変わった「彼女達」の世話をしているのである。


 中々忙しかった。

(マイルズ達が表でも活動できるようになったから、その点は楽になったけれど)

 この町を裏で牛耳っていた犯罪組織に潜入していたマイルズ達だが、ビルカインを始末した事で潜入を続ける意味が無くなった。


 既に組織の情報網は掌握しているし、残るターゲットの転生者達は、ロドコルテやその御使いとなった仲間達から情報を手に入れているだろうから、最初から彼らの潜入はばれている。

 尤も、それなりに裏で名前が売れていたマイルズは、引き続き『飢狼』のマイケルと名乗っているし、アンデッドであるアイラは表に出ず裏に留まっているが。


「最近は従業員を増やしたとか。それに、外の彼女達……サイモン君、彼が何処からあんな美人を連れて来るのか、知らないか?」

「いや、俺には見当もつきませんぜ。それに、まあ、師匠っすからね」

 ちなみに、まだサイモンはヴァンダルー達の秘密を知らされていない。しかし、最近は「師匠だから」という便利な言葉で、ヴァンダルーとその関係者の奇妙な点を納得してしまい、探ろうとはしていない。


 いつか話してくれると信じているのか、もしかしたら加護の伏せ字が解放されつつあり、それで何かを察しているのかもしれないが。


「そうか、出来ればあやかりたかったんだが。ギルドの組合員でもない彼の事を調べる訳にもいかないから諦めるか」

「それより、オレの賠償金全額を『炎の刃』が払ったってどう言う事なんだ? まだ、賠償金額も決まってないはずだと思ったけど」

「そうです。早く教えてください」


 ヴァンダルーを取り巻く人間関係を探るのを諦めたベラードに、自分達を呼んだ用件を早く説明しろと急かすナターニャと、彼が初めて見るはずなのに見覚えがある少女に見える何か。

(君の事も出来れば詳しく聞きたいような、見なかった事にしたいような……)

 ベラードはその何か……ユリアーナ・アルクレムの面影を強く残した、牛を思わせる角と尻尾を持ち、従魔用の首輪を付けた五歳前後に見える少女に、憂鬱な視線を向けた。


 そのベラードの視線に気がついた二人は口々に言った。

「だから、この子はユリアさんが産んだミノタウロスの変異種だって言ってんだろ!?」

「ユリアーナと申します。以後、良しなに」

 そう説明するが、実際は当然異なる。ミノタウロスキングによって産み付けられた、卵の一つに疑似転生したアルクレム公爵の末の妹だったユリアーナが産まれたのは、ヒヒリュシュカカを滅ぼした数日後だった。


 卵の状態で産まれたユリアーナは、すぐに孵化して成長し、十日程で赤ん坊の状態から五歳前後に見える今の状態になった。

 ヴァンダルーの加護以外にも何故か『水と知識の女神』ペリアの加護までもっており、同時にペリアからの神託を受けたようなのだが、まだ思い出せていないなど、想定外の事も起きている。しかし、今のところは問題無く元気に育っている。


 元気に育ち過ぎかもしれないが。だが元々ミノタウロスの子供はゴブリン程ではないが成長が速く、さらに【魔王の卵管】によって産み付けられ、ヴァンダルーによって変異させられた卵から産まれた子供だ。これぐらいの変化は許容範囲だろう。

 ……ヴァンダルー達にとっては。


「そうか、変異種か……変異種なら仕方ないのかねぇ?」

「仕方ないんじゃないでしょうか。テイマーギルドのバッヘムさんも、『目の前に存在している以上、変異種として納得するしかない』って言っていましたし」


 なお、変異種とは通常とは異なる外見や能力を持って産まれた魔物の事で、いわゆる突然変異の事だ。


「通常のミノタウロスとは似ても似つかない姿……っと、言うか女の子だね、明らかに。しかも、言葉を話しているし、魔物の討伐中に戦死したと発表されたはずの誰かにそっくりだけど……変異種なら仕方ないのか」

「そう思いますよ」

 この世界にはステータスが存在し、種族もしっかり表示される。だがそれを見る事が出来るのは本人以外には、【鑑定の魔眼】と言う希少なユニークスキルの所有者か、テイムしている存在のみ。ユリアーナの場合は、ヴァンダルーだけである。


 他には、ギルドの登録証などのマジックアイテムで他人に見えるようにステータスを表示する事も出来る。しかしユリアーナは人間ではなく魔物とされており、魔物が登録する事が出来るギルドは存在しない。

 そのためどんなに奇妙で怪しくても、ヴァンダルー達が「ユリアーナはミノタウロスの変異種です」と言い張る限り、納得する以外ないのだった。


「私の中の変異種の概念がどうにかなりそうだよ。あと、ギルドの建物内はテイムした魔物の持ち込みは禁止されているはずだが」

 そうベラードが細やかな抵抗を試みる。それに対してヴァンダルーは、椅子から立ち上がりユリアーナを抱き上げて見せた。


「ただし、こうして個人が保持できる小型の魔物の場合は持ち込みを許可すると規約にありますから、問題ありませんね。……俺が抱き上げる側なのは、少し新鮮です」

「お、恐れ多いので降ろしていただけると……ベラードさんっ、私は誤魔化されませんからね!」


「は、はあ、以後気を付けます。ええっと、ですね……」

 別にユリアーナ達の追及をかわそうとしたわけでは無かったベラードだが、もう彼女に関して考えるのは止める事にした。


(公的な身分はただのテイマーで商売人見習いの筈なんだが……この町では歓楽街やスラムを中心に大きな影響力を持っているし……最近何処からか連れて来た赤毛と銀髪の美女も、身のこなしからしてただ者じゃない。

 変に突っついても、良い事は無さそうだ。相変わらず、得体が知れないのが不気味だが)


 そして『炎の刃』に関する報告書を出して読み上げる。

「確かに、まだ君に支払うべき賠償金の額も決まっていなかったのだが……どうやら『炎の刃』が想定される最高金額を冒険者ギルド支部に払ったようだ。

 一人十万で、合計五十万バウム」


「「ご、五十万!?」」

「……思っていたよりも高額ですね」

 ベラードから告げられた金額に、思わず腰を浮かすナターニャとサイモン。ヴァンダルーも目を瞬かせ、ユリアーナも口を手で覆っている。


 正確ではないが、通貨の価値は一バウム百円程だ。なので、五十万バウムは『地球』の五千万程の大金となる。『地球』では四肢を失う事になった被害者へ加害者が払う賠償金としては、あり得ない金額では無いだろう。だが『ラムダ』の物の価値に当てはめれば、五十万バウムはかなりの大金である。


 慎ましく清貧に暮らすなら、十分残りの一生を食べていける額だ。それだけあるのなら四肢を失ったとしても生きていけるだろう。ただ、本来はこれほど高くはならないらしい。

「ず、随分吹っかけたじゃないのさ」

「それはね……汚い話だが、ただのD級冒険者でしかなかった君が伯爵のお茶会に出席するような人物になったし、保護者が彼だからね。向こうのギルドも、精一杯配慮したようだ」


 後、ナターニャがギルドに報告する際ユリアーナの名前を出さず、あくまでも「村娘のユリア」だと証言した事も関係するかもしれない。相場より多い分の幾らかは、彼女への口止め料が含まれている可能性も否定できない。


「ただ、それはあくまで最高額で、そこからある程度……恐らく数万バウム程度は値引きされた金額に決まるはずだった。しかし、『炎の刃』は金額が決まる前に狩ってきた魔物の素材や魔石で、値引きされる前の最高金額を完済してしまったらしい」


「そんなのは何かの間違いか、からくりがあるに違いねぇ! 俺達がナターニャにあって、ギルドに報告してからまだ一カ月も経ってないんだ。A級やB級冒険者なら兎も角、D級冒険者が稼げる額じゃない」

 自身もD級冒険者であるサイモンがそう主張し、ナターニャとユリアーナも頷く。「私も怪しいとは思う」とベラードも同意した。


「向こうのギルドでも流石に怪しんだらしい。十日以上狩りに行ったまま町に戻って来ないと思ったら、大量の素材と魔石を持って戻って来たらしいから。買い取りの際も、素材や魔石が本物かどうかいつもより入念に調べたそうだ。

 だが、全て本物だという事が分かったそうだ。あと、ギルドの規約やアルクレム公爵領の法に違反する方法で手に入れた物ではない事も」


 『炎の刃』がギルドに持ち込んだのは、全て本当に価値のある素材と魔石だった。そして、それらが他の冒険者からの強盗や窃盗などの行為によって集められたものでない事も、明らかになった。

 ……五十万バウム相当の大量の素材や魔石を他の冒険者から奪うには、彼らが拠点にしているイトバムの町のギルドに所属する冒険者を襲い尽くしても、約十日では足りないからだ。


「ただ、目撃者によると『炎の刃』以外の冒険者が何人か一緒に居たらしい。そいつらに協力させたのかもしれない。……まあ、それでも妙な話なんだが」

「他人が協力って、それは不正じゃないのかよ!?」


「残念ながら、不正じゃないんだ。昇級試験ならともかく、『炎の刃』がしているのは賠償金の納付……借金の返済みたいなものだからね」

 食って掛かるナターニャに、ベラードはそう説明した。組合員の実力を測る試験なら他人の手を借りるのは不正だが、賠償金の場合は他人の手を借りても払ってもらえれば、ギルドとしては誰の手を借りても構わないのだ。


「彼らに協力していた冒険者の名前や素性は教えてもらえますか?」

「すまん、無理だ」

 だからヴァンダルーもベラードが首を横に振っても驚きはしなかった。


「そりゃないだろ!」

「ギルドマスターさんよぉっ! 頼むぜっ!」

 そう言って食ってかかるナターニャとサイモンに、ベラードは慌てて抗弁した。


「落ち着いてくれ、出来れば私も教えたいんだ! 落ち目の『炎の刃』に手を貸す上位の冒険者、何らかの思惑があるとしか思えない!」

 『炎の刃』のメンバーの誰かが希少で特殊なユニークスキルを持っているとか、実は何処かの貴族家のご落胤だとか、親類に腕利きの冒険者がいる等の特殊な事情があるなら、分からなくもない。


 しかしギルドが知っている限り、『炎の刃』はありきたりな普通の冒険者だ。素質はある方らしいが、注目を集める程の才能がある訳ではない。

 そんな『炎の刃』に、短期間で五十万バウムを稼ぐ事が出来る上位の冒険者……恐らくB級以上の腕利きが手を貸すなんて、考えられない。何らかの思惑が無ければ。


 そしてベラードはその思惑は、直接の被害者であるナターニャ、その保護者であるヴァンダルーが関係するものだと考えた。

 だからナターニャだけではなく、ヴァンダルー達もこの場に呼んだのである。


「ただ、情報が無い。その冒険者はギルドどころか、町に入ってもいない。その冒険者の顔を知っている者も町に居なかったらしくて、名前や等級も不明だ。もしかしたら、実際は冒険者じゃなく傭兵か何かかもしれない。

 分かっているのは髪を逆立てた、若い人種の男だってことくらいだ」


「それじゃあ、仕方ない。町に入ったんなら、門の衛兵から聞き出せば名前と、冒険者だったら等級ぐらい分かったはずだが……」

 町に入る時、身分証の提示を求められる。その時ギルドの登録証を衛兵が見ていれば、そこから聞き出せたのにとサイモンが悔しがる。


「なあ、そんなに徹底して正体を隠している奴なら、もしかして賞金首なんじゃないか?」

「それは調べたが……少なくとも、この辺りに手配書が出回っている賞金首じゃなかった。あと、似顔絵の類は……流石に無い。どう考えても怪しいが、違反を犯していない人間の似顔絵を他の町の支部に回すのはどうかと、イトバムの支部長が判断したようだ」


「まあ、そうでしょうね。怪しいだけで似顔絵が周辺の町に回されていたら、俺の似顔絵も回されているでしょうし」

 ヴァンダルーがそう言って引き下がると、彼以外の全員が驚いた様子で動きを止めた。


「……師匠、怪しいって自覚はあったのか」

 サイモンが思わずつぶやき、ベラードとナターニャが同感だと頷く。……ちなみに彼らには見えないが、レビア王女達ゴースト達も同じように頷いていた。

「まあ、失礼な!」

 ユリアーナは異論があるようだが、「まあまあ」とヴァンダルー自身が宥めて落ち着かせる。


「心当たりはありますし」

「あるのか!? じゃあ、やっぱりアルクレム公爵家からの……!」

「いや、公爵家は関係無いです」

 ベラードはユリアーナの件で、公爵家が何らかの陰謀を仕掛けようとしているのではないかと疑っていたようだが、ヴァンダルーが違うと言うと、あからさまにほっとして椅子に座り直した。


「師匠、やっぱり悪名高いアルダ過激派ですかい!?」

 代わりにサイモンがそう尋ねて来るが、ヴァンダルーは首を傾げた。

「そうと言えなくもない、と思いますけどちょっと微妙でして」


 ヴァンダルーの心当たりとは、ビルギット公爵領に居るアサギ達三人以外の転生者、ムラカミやハジメだ。彼らはこの世界に転生する際、十五歳程の年齢の若い人種の肉体を手に入れている。【シルフィード】や【超感覚】などの女性陣はエルフを選んだそうだが。

 転生者達は、ロドコルテから与えられたヴァンダルーの位置が分かるレーダーを使って、狙い通りにこのモークシーの町に誘き出されてきたのだろう。


(居場所が分かるとしても、馬鹿正直にこの町へ来るとは流石に思いませんでしたが……何を考えているんでしょう?)

 名前を知られないようにしている時点で、自分を狙って来た転生者だろうなという事は分かる。だが、彼らが何を考えて『炎の刃』に手を貸したのか、ヴァンダルーには分からなかった。


 能力で操るか懐柔して手駒にするにしても、D級冒険者五人程度ではヴァンダルーは勿論、その仲間の相手にもならない事は転生者達も分かっているはずだ。

『でも、能力で操っているなら【マリオネッター】の乾初って人ですよね?』

『でしょうね。聞いた話だと、体か電気で接触した相手が対象で、一度に複数の人間は操るのは難しいそうですが……ロドコルテが与えた能力には成長させる余地があるようですから、転生してから研鑽を積んだのかもしれません』


『じゃあ、カナコを呼んだ方が良くない? その転生者が【マリオネッター】なら、絶対無視できないよ!』

『レギオンさんも呼んで、イシスさんの姿に変身してもらいましょう!』

 念話でオルビアとレビア王女が、嬉々とした様子でエグイ提案をした。


 『オリジン』でハジメはレギオンの人格の一つ、イシスを【マリオネッター】の力で操って拉致しようとして失敗し、彼女が体内に仕掛けていた爆薬で瀕死の重傷を負った。そして助けを求める彼に、止めを刺したのが当時は仲間だったはずのカナコである。


 色々と自業自得なのだが、女に続けざまに酷い目に遭わされたハジメの心の傷は深く、ロドコルテの神域で女性恐怖症を発症させていたそうだ。

 彼が転生した後どうなったかは分からないが……心理学が未発達なこの世界で、約三年程度の時間で恐怖症を克服できるかは、怪しい。


ベールケルトやチプラス達が『お、女って怖い!』、『テーネシアも女でしたからな……』『……テーネシア?』と戦いている。

『まあ、逆上して二人を殺そうとする可能性もあるので、慎重にならないといけませんが……』


「心当たりはありますが、此処ではちょっと話せません」

 念話を一旦止めて、サイモンにそう答えると、彼では無くベラードが口を開いた。

「そうしてくれると助かる」


 その言葉で、サイモンも彼は自分達と立場が違う事を思い出したようだ。

「私は何があろうと、この町の冒険者ギルドのマスターとして行動する。君達を信頼してない訳じゃないし、明らかに『炎の刃』の方がきな臭いのは分かっているが、私に話せない事はあるだろう」

 ベラードはヴァンダルー達に好意的な立場だが、仲間ではないのだ。


「では、受付で賠償金を受け取ってくれ。個人的には、ギルドに預金する事を勧めるが。冒険者を続けるなら、もしもという事もあるだろうからね」

 そしてヴァンダルー達に退室を促そうとしたベラードだったが、逆に彼の執務室に入って来る者がいた。

「ベラードさんっ! 外で騒ぎが起きてます!」


 ノックもそこそこに、血相を変えたギルド職員が入って来る。

「おい、来客中だぞ」

「それどころじゃありません! そのお客さんの従魔を賭けて、あなたの娘さんと『飢狼』のマイケル、そして男達が決闘を始めそうなんです!」


「はぁっ!? 何でうちのジェシーが!? あいつは錬金術師だぞ!?」

 部下から告げられた緊急事態に、ベラードが思わず椅子から立ち上がって叫ぶ。

「訳が分からないが、こいつは一大事だ! 師匠、早く行かないと……って、師匠達が居ない!?」

「さっきユリアーナを持ったまま出て行ったよ。オレ達も早く行くよ!」





・名前:サリア

・ランク:12

・種族:タルタロスメイドチーフアーマー

・レベル:45


・パッシブスキル

特殊五感

身体能力超強化:1Lv(身体能力強化から覚醒!)

水属性耐性:10Lv

物理攻撃耐性:10Lv

自己強化:従属:10Lv

自己強化:殺業:10Lv

殺業回復:10Lv(UP!)

能力値強化:創造主:8Lv(UP!)

身体強化:霊体:7Lv(UP!)

自己強化:導き:7Lv(UP!)

槍斧装備時攻撃力強化:中(UP!)

魔術耐性:3Lv(UP!)

魔力増大:1Lv


・アクティブスキル

家事:6Lv

冥土槍斧術:1Lv(槍斧術から覚醒!)

連携:10Lv(UP!)

弓術:8Lv

霊体:10Lv

遠隔操作:10Lv

鎧術:10Lv

恐怖のオーラ:9Lv(UP!)

無属性魔術:3Lv

魔術制御:5Lv(UP!)

水属性魔術:5Lv

限界突破:5Lv(UP!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護




・名前:リタ

・ランク:12

・種族:タルタロスメイドチーフアーマー

・レベル:49


・パッシブスキル

特殊五感

身体能力超強化:1Lv(身体能力強化から覚醒!)

火属性耐性:10Lv

物理攻撃耐性:10Lv

自己強化:従属:10Lv

自己強化:殺業:10Lv(UP!)

殺業回復:10Lv(UP!)

能力値強化:創造主:8Lv(UP!)

身体強化:霊体:7Lv(UP!)

自己強化:導き:7Lv(UP!)

魔術耐性:2Lv(UP!)

魔力増大:1Lv


・アクティブスキル

家事:6Lv(UP!)

冥土薙刀術:1Lv(薙刀術から覚醒!)

連携:10Lv(UP!)

弓術:8Lv

投擲術:10Lv

霊体:10Lv

遠隔操作:10Lv

鎧術:10Lv

恐怖のオーラ:8Lv(UP!)

無属性魔術:2Lv

魔術制御:3Lv

火属性魔術:6Lv(UP!)

限界突破:3Lv(UP!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

11月28日に227話を投稿する予定です。

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