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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十章 アルクレム公爵領編
276/515

二百二十五話 呼ばれて生えるデミウルゴス

書いているうちに主人公の出番が減ってしまいました。すみません

 ヴァンダルーが【デミウルゴス】ジョブに就いた直後。


『……名称から【御使い降臨】と似た効果のスキルである事は推測できる。でも本当にそうなのか、そしてどれくらいの効果があって、どれくらいの時間有効なのか。それを確かめてからじゃないと、実戦では使えないわ』

 そう理論武装したアイラは、エレオノーラとベルモンドがヴァンダルーの元へ駆けだしたのを見送ってから、祈るように目を閉じた。


『【御使い降魔】、発動!』

 その瞬間、「オォォォン」という呻き声にも似た音が響き、彼女の足元から黒い光としか形容できない何かが湧き出した。


 そして黒い光がアイラの身体に吸いこまれるように融合し、彼女の脳裏に声が響いた。

『呼びましたか、アイラ?』

 それは彼女の主人であるヴァンダルーの声だった。


『ヴァンダルー様!? ヴァンダルー様の御使いが来る事は予想していたけれど、ヴァンダルー様本人が私の中に!?』

『正確には俺本人ではありません。魂の再構築の時に余った欠片でアイラ達が作った、小さな俺の一人です。まあ、御使いのような存在だと思ってください。普通の御使いがどんな存在なのか、砕いた時の感触と味しか分からないのであまり知りませんが』


 通常、【御使い降臨】で降臨する御使いはスキルを所有する者の信仰対象の神が、魔力で作り上げた存在であるため自我が薄い。そのため発動して降臨させても、所有者と会話するような事は殆ど無い。

 しかし流石ヴァンダルーの魂の欠片から創られた分身と言うべきか、彼はアイラと会話が可能なようだ。


『ちなみに、俺が知っている事は降魔解除後本体に伝わるので、秘密にしたい事があるなら注意してください』

 そして、やはりヴァンダルーの一部であるのは使い魔王と同様らしい。

『そんな、ヴァンダルー様に秘密なんて! 私の胸の内を好きなだけ……お望みでしたら私の全てをご覧ください!』


『……いえ、記憶や思考までは読めませんから。こうして話しかけられた、いわゆる心の声と、降魔している間あなたが見聞きした事は伝わりますけど』

 そう彼が伝えると、アイラは残念そうに『そうですか』と呟いて肩を落とした。しかし、すぐ気を取り直した。


『でも、今こうしてヴァンダルー様と一つになっていると思うだけで、無限に力が湧いてくるようだわ!』

『【御使い降魔】の効果ですね。無限ではなく有限なので注意してください。後、1レベルだと数分しか持ちませんからね』

『あぁっ、事務的に説明を続けるなんて……つれない方。でもそれが……!』


『別につれなくしているつもりはありませんよ。あなたの事を思えばこそ、詳しく説明しているのです』

 アイラがスキルを試す前に行った理論武装。それ自体は間違っていないし、彼女に降魔している御使いも同じ事を考えていた。


 だから数分と言う限られた時間の中で、説明を行っているのだ。

『ヴァンダルー様が私の事を、想って!?』

『ええ、思っていますよ』

 そのためアイラのニュアンスが微妙に異なりそうな聞き返しも、否定しなかった。


『ではちょっと身体を動かして見ましょうか。素振りでもしてみてください』

『はい♪』

 アイラは剣を抜いて、敵がいる事を想定して身体を動かし始める。頭の中にはお花畑が広がり、心臓が止まっているとは思えない程胸がときめいていても、その動きは鋭い。


 眺めている者達の目には、アイラの動きは完成された演武のように映った。……本人にとっては、ヴァンダルーとのダンスのつもりだっただろうが。

 しかし夢のような時間はすぐに終わってしまうものだ。


『そろそろ時間なので、それではー』

 そう言い残して御使いはアイラの中から抜け落ち、消えて行った。

『そんなっ、待って! 行かないで、ヴァンダルー様!』

 底上げされた能力値が元に戻る事によって覚える以上の喪失感に耐えられず、アイラが悲鳴をあげた。


「はいはい、戻って来ましたよー」

『あぁ、身体のある方のヴァンダルー様♪』

 そこにジョブチェンジ部屋から戻ってきたヴァンダルーが戻って来たため、すぐ立ち直ったが。


「えー、皆さん。彼女は正気を失っていた訳ではありません。ですから、怯えないでも大丈夫です」

「そうよ、一人で会話したり、見えない敵と戦ったり、変な事を口走って突然泣き崩れたようにしか見えなかったでしょうけれど。無理だと思うけど気にしないで」


 そしてベルモンドとエレオノーラは、アイラの奇行を見て引いていた従属種吸血鬼達や、セリスに宥められても自分もああなるのかと怯えるベストラに事情説明を行っていた。

 降魔した御使いの声は、スキルを発動した者にしか聞こえない。彼らから見ると、アイラが正体不明の黒い輝きに包まれたと思ったら、正気を失ってしまったようにしか見えなかったのだ。


 ……既にヴァンダルーに導かれている従属種達の一部には、降魔の光景に感極まって涙を流し祈り始める者もいたが。


 なお、ホリー院長が様子を見ている子供達は、ジョブチェンジ部屋に繋がる広間には居なかったので、幸運にもアイラの奇行を目撃する事は無かった。




 『悦命の邪神』ヒヒリュシュカカの消滅は、直接見ていた訳ではないアルダ勢力の神々や、他の魔王軍残党も察知した。

『バーンガイア大陸にあったヒヒリュシュカカの気配が消えた……?』

『どうやらヴァンダルーによって滅ぼされたようだな』

 そして詳しい事情は不明だが、ヒヒリュシュカカが狙っていたヴァンダルーの動きが奇妙なので、やはり彼の仕業だろうと神々は考えた。


『……この十万年、散々我々を悩ませてきた邪神も、滅びる時はあっけないものだな。自ら進んでヴァンダルーの餌になるとは。大人しく我々の手で封印されていれば、滅びだけは避けられたものを』

『万が一にも、奴がヴァンダルーを殺せるとまでは期待していなかったが……仲間の誰一人道づれに出来ないとは、魔王軍も落ちたものだ』


 『法命神』アルダは、ヒヒリュシュカカを喰らった事でヴァンダルーが更なる力を付けただろう事を嘆き、輪廻転生の神ロドコルテはそう言った。

 そして他の魔王軍残党の神々は震え上がった。


 『解放の悪神』ラヴォヴィファードだけでは無く、ヒヒリュシュカカまで滅びたのだ。魔王が倒された後、上手く本来以上の力を手に入れた、現代で成り上がった力ある邪悪な神々が、ほんの数年の間に続けて消滅した。

 それは残党と呼ばれつつも実際には個々に活動している魔王軍残党としても、危機感を覚える事態だった。


 だからと言って再び力を結集して……とはならない。元々魔王グドゥラニスと言う強力な支配者の存在が無ければ、価値観も生態も異なる邪悪な神々が大規模な組織を形成する事は不可能だ。特に魔王軍残党としてラムダに残っている邪悪な神々は、悪い意味で個性の強い者が多い。

 下手に徒党を組もうとすれば、力を合わせるどころか潰し合いに発展しかねない。


 それを邪悪な神々も分かっているため、性質の近い数柱の神々が小規模な同盟を築く程度で、大規模な動きをする事は無かった。




 そして動かない……眠っていると思われていた女神は邪悪な神々とは対照的に、小さな、しかし後々大きな出来事に繋がる一手に出た。

『彼女は私だけを信仰していた訳ではありませんから、繋がりはとても細かった。しかし、今の彼女の状態はヴィダや彼だけでは無く、私にも近い。

 『海は全ての生命の母』という異世界の言葉そのままですが……今なら私の力も届くでしょう』


 正確には、自分は海では無く水属性を司る神だが『海の神』も従属神にいるから問題無いだろう。

 そして『水と知識の女神』ペリアは、彼女に加護と伝言を与えた。

 この事を彼女が彼に伝える事が出来るようになり、それを聞いた彼が動き出す時までの間は、眠っているふりを続けて待ちましょうと思いながら。




「皆、心の準備は良いか!? 俺はまだだからもうちょっと待ってくれ!」

「……フェスター。お前、父親になったんだからもうちょっとしっかりしろ」

「な、なあ、【限界突破】とかと同じ感覚で良いんだよな?」

『ええ、そうよ、カシム。生きていた頃御使いを降ろした時は、その感覚だったわ。……多分ね』

「み、御使いを降ろすのは初めてだ。大丈夫なのか?」


 ヴァンダルーが【デミウルゴス】にジョブチェンジしてから数日後、タロスヘイムでは数十人の【御使い降魔】スキルを獲得した者達が集まり、一定の距離を取って並んでいた。全員武装しているので、これから武道大会でも始まりそうな様子だ。


「意気込んでいるところ悪いが、実験開始までもう少し待ってくれ。魔大陸や他の国の協力者達とタイミングを合わせなくてはならないのでね」

 しかし実際に行われるのは、武道大会では無く検証の為の実験だ。ルチリアーノがゴブリン通信機を幾つも持ちながら、各地と連絡を取り合っている。


 一度に大勢が、それもある程度別々の場所で『御使い降魔』スキルを発動させ、御使いを呼んでも問題無く効果は発揮されるのかという実験である。

(……普通の神がこのような実験をされたら、神罰の一つや二つ下しかねんな)

 信者の身で神の限界を測ろうとする、不遜な行いのように彼には思えた。その本人がこの検証実験を提案したので、今回はその心配はないが。


(いや、そもそも普通だったら同じ国にこれ程大勢加護を持った者がいるはずがないか。……気安くばらまくにも程がある。

 っと、言うか何故我にまで……)


『我は、本当に何をやっているのだ……』

 その一員と化している『暴邪龍神』ルヴェズフォルは、遠い眼差しで自身が置かれた状況を顧みていた。

 『龍皇神』マルドゥーク配下の龍の一頭だった彼は、この世界を裏切り魔王グドゥラニスにつき、そして数年前まで魔王軍残党の一柱だった。


 そして彼とは逆に魔王軍からヴィダ側に寝返った、『五悪龍神』フィディルグが支配していた大沼沢地を奪ってリザードマンの信仰を独占していたら、ヴァンダルー達に奪われた。

 その後は彼にとっては転落の一途だった。バーンガイア大陸から逃げ出す途中で『暴虐の嵐』に封印されるし、その後は魔大陸で『山妃龍神』ティアマトやかつての仲間に醜態を晒すわ……。


(それでも魂を喰われたラヴォヴィファードやヒヒリュシュカカ等よりは大分マシなのは間違いない……間違いないのだが……)

 ルヴェズフォルには、信念の類は無い。あるのは、生き延びたいという強い欲求のみだ。だから魔王軍に寝返ったし、ヴァンダルーに命乞いもした。命の為なら誇りは二の次三の次にしてきた事は、自覚している。


 だがこの状況を顧みると、正直もう少し誇りを大切にして生きるべきだったのではないかと思わなくはない。

「皆、緊張しないでも大丈夫だよ! 降臨……って、言うか降魔するのはヴァン君の一部だからね!」

「一体化すると言っても、記憶や心の奥底までは読まれないのは普通の【御使い降臨】と同じらしい。ザナルパドナからの神託にもあったから確実だ」

「そうそう、だから君も安心してね!」


 そう周囲の者達に声をかけて、安心させようとしているスキュラとアラクネ……スキュラの長老の娘のプリベルと、女王の娘の一人で大型種のギザニアの言葉も、ルヴェズフォルの憂いを拭う事は出来ない。

 それどころか、逆に深くなった。こんな小娘共に心配される程、己は矮小な存在に成り果てたのかと。


 だが、それも仕方がないだろう。今のルヴェズフォルは体長十メートル前後の、ワイバーンの姿をしているのだから。

 『暴虐の嵐』にタコ殴りにされ封印された結果、彼は本来の龍の肉体では無く、今の脆弱なワイバーンの肉体に閉じ込められてしまった。


 一般人から見れば、ワイバーンは恐ろしい魔物だ。力は強く、牙と鉤爪は鋭く、鱗は堅牢。そして空を飛び、ブレスを吐く個体も多い。

 だが龍であるルヴェズフォルから見れば、自分達の劣った子孫である竜種の中でも最下級の種でしかない。


 力も牙と鉤爪も、そして鱗とブレスも評価するには全く至らない。飛ぶ速さは飛竜と呼ばれるだけあって中々だが、人間が猿の敏捷さを褒める感覚と同じでしかない。

 そして知能が獣並と来ては、もう子孫として認識するのも難しい。……まあ、彼は水と地の属性に親しい龍なので、ワイバーンの直接の親ではないが。


(魔王に命じられて何度か子を残した事もあるが、我の子孫は水棲の竜が多かったな。そう言えば鱗王の奴、すっかり我の事を忘れて、スケルトンのペットと化しおって。知能は竜にしては高かったはずだが……)

 ルヴェズフォルが現実逃避気味に思考をあさっての方向に向けていると、その背に大きな手が触れた。


「大丈夫だよ~、ヴァンは怖くないよ~」

 そのままゴリゴリと彼の身体に指がめり込む。

『ぐおぉ~!? ぱ、パウヴィナ様! 何を!?』

 体長十メートルのルヴェズフォルの身体に気軽に触れる事が出来る人物……約身長三メートルのノーブルオークハーフの少女、パウヴィナの突然の暴挙に彼は目を剥いた。


「うん、ルヴェズが緊張しているみたいだったから」

 ヴァンダルーが初めて行った疑似転生の結果、ノーブルオークと人間の血が混じった混血として生まれたパウヴィナは、人種より大分成長が速い。身長は三メートル前後になってからあまり伸びなくなったが、身体の大きさを考慮に入れなければ十代前半の少女に見える。……すっかりヴァンダルーを追い越している。


『ご心配いただき、ありがたき幸せ! ですが、私は大丈夫です!』

 そしてルヴェズフォルの直接の上司が彼女だ。……大多数の者達は「飼い主」と認識しているが。

 先程まで誇りを捨てた事を若干後悔していたのに、その後悔すら即座に捨ててへりくだるルヴェズフォル。それにはパウヴィナがヴァンダルーの妹分である事もあるが、彼女自身が今のルヴェズフォルぐらいなら軽く捻り殺せる実力を持っているのも大きな理由だ。


 龍の本能として、自分より強い存在をどうしても上位者として認識してしまうのだ。

 彼女はノーブルオーク由来の恵まれた身体能力に、最近は魔法少女なるジョブに就く事を目指して魔術の修行までして一定の水準まで修めている。

 尤も、「この方が皆の力を引き出せるから」と【魔法少女】の前に【テイマー】になって、【従属強化】スキルを獲得する事を選んだが。……その【従属強化】スキルの対象になってしまっているのが、今のルヴェズフォルの立場である。


(それにこいつ、この約一年の間にこの身体の弱点を知り尽くしている! 何て厄介な兄妹だ。兄の方も、何を考えて我に加護なんぞ――)


『うおおお~っ! お止め下さいっ、どうか、どうかお止め下さい!』

 ボキボキと音を響かせても止まらないパウヴィナに、堪らず懇願するルヴェズフォル。しかし彼女は「え~?」と何故止めて欲しがるのか、理解できないらしい。一向に指を止める様子は無い。


「だって、凝ってるよ? コリコリってしてるし」

 ルヴェズフォルをヴァンダルーから預けられてから、パウヴィナはルヴェズフォルのワイバーンと化した肉体の弱点……何処をマッサージすれば疲労回復に効果があるのかを、知り尽くしていた。


 主にフィディルグからの情報提供と、実践によって。

(お、おのれフィディルグめ! 最近頭が四つに戻って、あと一つ戻れば完全体だからと調子に乗りやがって!)

 ツボを突かれながらそう心の中でフィディルグを呪うルヴェズフォルだが、フィディルグにとっては心外だろう。


 同じ龍という事で、フィディルグにルヴェズの世話の仕方(飼い方)を尋ねにパウヴィナが来た時、彼は困り果てていたのだから。

 『えっ? いや、同じ龍って言っても我は正確には『この世界の龍に似た異世界の生物の神』なので……』『サンショウウオにイモリの生態を聞くようなものです』『正直、あのヤロウの生態なんて知らない……ああっ、泣いちゃダメッス! 何とか頑張るから待ってほしいッス!』『とりあえずワイバーン! ワイバーンはどこ!?』


 そしてダンジョンで生成されたワイバーンを五つの内復活した四つの頭にそれぞれ咥えて生け捕りにし、それで調べたのだ。

 決して、『女の子にマッサージされて悶え喘ぐがいいッス』と、嬉々として教えた訳ではない。


『なれ……ろ』

『ろろろろ~♪』

 パーティー……と言っていいのか人間から見ると微妙だが、同じパウヴィナ付のラピエサージュとヤマタが虚ろな瞳でルヴェズフォルを眺めている。


 ラピエサージュはヴァンダルーが発見した『氷神槍』のミハエルの仲間の死体や魔物のパーツをツギハギして創られたキメラゾンビ。ヤマタは原種吸血鬼テーネシアが九の首を持つヒュドラの変異種の死体の頭部を、それぞれ種族が異なる美女の上半身とすげかえて創ったヒュドラゾンビ。

 どちらもアンデッドなので、マッサージの威力はあまり理解できていないので悶えるルヴェズフォルに対して、あまり同情していない。


『キュオン』

 そして最近蛹から羽化して、ワームから巨大蛾に成長したペインを加えたメンバーがパウヴィナパーティーのレギュラーである。場合によってレギオンやサム等が此処に加わる事になる。


 このパーティーでの活動は、ルヴェズフォルにとって悪い事ばかりでは無く、利益ももたらしていた。一番助かったのは、魔大陸から連れ出されヴィダ派の神々とも直接会わずに済むようになった事だが、それ以外にもレベリングにつきあう事で、何度かランクアップする事が出来た。


 当初はパウヴィナを乗せて飛ぶ事も出来なかったが、ランクアップした今では完全武装の彼女も軽々と……まではいかないが、乗せて空を飛ぶ事は出来る。

 とは言ってもワイバーンからヒュージワイバーン、そしてグレートワイバーンになっただけで、ワイバーンなのは変わらないのだが。


 テイマーギルドのマスター、『飛竜使い』のバッヘムが見れば驚くだろうが、ワイバーン全体を下に見ているルヴェズフォルにとっては、ランク5から7に変わったとしても、所詮ワイバーンでしかない。

 とは言っても、周りの連中にちょっと本気で殴られたら撲殺されてしまうひ弱い生き物だった頃からは、かなりマシな状態だ。後は、翼とは別に前足が生えれば文句は無いのだが。


 しかし次のランクアップでドラゴンになれるかも――。

(は、いかんっ! このままでは眠ってしまうっ!)

 コリを解されるのが気持ち良すぎてまどろみかけていたルヴェズフォルは、はっとして目を開いた。


 このままでは、本当にただのペット転落だ。生き延びる為に誇りを捨てた自分だが、元龍である。いつか「元」の字を取ろうと狙っているのに、「龍」の方を失ってどうする。


「そう言えば、ルヴェズも分霊を派遣したり加護をあげたりしてたんだよね?」

『砕……かれて、いた。ヴァン、ダルーに撃たれて』

『今は、骨人のドラゴン、リオー』

 ふとパウヴィナが、ルヴェズフォルが過去に加護を与え、【分霊神降臨】スキルを鱗王が持っていた事を思い出す。


 ここ一年で前よりも流暢にしゃべるようになったラピエサージュと、歌っていない時は若干たどたどしい口調のヤマタが補足する。

「なのにヴァンの御使いを降ろせるの?」

『はい、問題はない……っと、思います』

 正直、プライドやらトラウマやらを抉る話題なので話したくはないルヴェズフォルだが、マッサージからパウヴィナの関心を逸らすためなら、饒舌にもなる。


『今の我はこのワイバーンの肉体に封印……退化している状態にあり、疑似的な転生を強制されています』

 『暴虐の嵐』がルヴェズフォルに施したのは、強制転生の封印だ。『水と知識の女神』ペリアが『時と術の魔神』リクレントと共に編み出した秘術を基にした物だ。

 本来は邪神悪神を無力な動物や植物に強制的に転生させ、復活するまでの時間を先延ばしにするためのものだ。


 それを『暴虐の嵐』は肉体を持つ龍であるルヴェズフォルに使った結果、無力な動物では無く彼の肉体の一部と融合して退化し、ワイバーンになってしまったのだ。

 その時点で、封印は本来なら失敗したはずだった。無力どころか、ランク5の魔物にしてしまったのだから。……『暴虐の嵐』の前にはランク5は無力な動物に等しかったため、手も足も出なかったが。


 だがそうして肉体を得た結果ルヴェズフォルにもステータスが表示されるようになり、いつしかそこには【ヴァンダルーの加護】が表示されるようになった。

 何故加護を与えられたのかは、繰り返し考えても理解できなかった。しかし、それで分かった事がある。


『その結果、我は神としての格は零落……亜神と呼べない程弱体化したのです。そのため、他の神から加護を与えられ、御使いを身体に降ろす事が可能になってしまった……なったのでしょう。

 ヴァンダルー様の亜神化に関しては、何とも言えませんが』


 ルヴェズフォルの解説を、ふむふむと頷きながら興味深そうに聞き入るパウヴィナ達。その手は彼の狙い通り、止まっている。

「キュオー、キュオン?」

 かなり奇妙な、甲高く響くような鳴き声をあげるペイン。この鳴き声の意味は、パウヴィナにも分からない。


『亜神とはなにか、だと?』

 だが何故かルヴェズフォルには理解できるらしい。

『亜神とは、肉体を持たない純粋な神ではないが、人間や通常の鳥獣の枠に収まらない存在の事だ。我のような龍、タロスのような真なる巨人、そして獣の王と原種吸血鬼。これらが代表的な亜神だ』


 他にもランク13以上の魔物や、ヴィダの新種族、S級冒険者等は広い意味では亜神と呼べるだろう。神に匹敵するとか、神の領域に足を踏み入れたとか、神の如く畏敬の念を払われているとか、そう言った意味で。


「でも、原種吸血鬼の人達は誰かに加護をあげたりしてないよ?」

『パウヴィナ様、亜神にも格の違いがあるのです。ただ神に匹敵する強さを持っているだけの者もいれば、純粋な神の如く自身の神域に住み、信者に神託を下し加護を与えられる者。そして御使いや分霊を創り出し、派遣できる者等に分かれるのです』


 不思議そうに聞き返すパウヴィナに、ルヴェズはそう説明しながら暗に「昔の自分は凄かったのだ」と主張した。

「なるほど。亜神という括りは、随分大雑把なもののようだ。種族や役職的な物と言うより、一定の水準以上にあるものを一括りにして呼ぶ時に使う、尊称のようなものか。

 思い返してみると、神々の序列は大体大雑把なものだが……もっと厳密に序列を分けようとは思わなかったのかね?」


『貴様、いつの間に!?』

 音も気配も感じさせずに出現したルチリアーノに驚愕しつつも、ルヴェズフォルは会話を続けるために彼の質問に答える事にした。


『厳密な序列分けか。我は神々の意思や考えを代表する立場でもないが、そんな物人間にとって、そして我々にとっても何の意味も無い。寧ろ有害だ。

 故に、誰も行わなかったのだ』


「ルヴェズ、もう少し詳しく説明して」

『……亜神も含めて神としての力を十段階評価にした場合を想像してみてください。同じ属性の神なら、人間は利益を期待して評価の低い神よりも高い神の方に目を向けるのではないかと。

 神の性質も教義の内容も二の次にして』


 信者の立場からすれば、力の強い神を選べるのは利点かも知れない。しかし、直接邪神悪神に支配される魔物でもあるまいし、神から直接恩恵を受ける者等全体から見れば僅かだろう。

 『法命神』アルダを例に挙げれば分かり易いだろう。この世界で最も多くの人間が信仰している大神だが、その加護を受けている者は一万人もいないだろう。全体の一パーセントを遥かに下回る。御使いを降ろす事が出来る者は更に減り、御使い以上の存在を降ろせる者となると片手で数えられる程度だ。


 殆どの信者は、加護を受け取る事が出来ないのが実情だ。それを考えれば、信仰するのが力の弱い神でも変わりは無い。

 しかし、多くの人間共はそれに気づかないだろうとルヴェズフォルは思った。


(もっとも、厳密に序列を分けられた場合、我も下の方になるから困るのだがな)

 分けられる神としても、堪ったものではない。教義や守護し司る対象、これまでその神を奉じて来た者達の功績等を無視して、神としての力の大小だけしか見られなくなるのだから。


 力の弱い神でも、信仰を集められれば年月はかかるが神としての力を増し、信者達に加護を与え、御使いを作る事が出来るようになる。

 しかし力の強い神ばかり注目されるようになったら、それも難しくなる。強い神は強いというだけで力を増し、弱い神はどれだけ正しく、心優しくても力が弱まる一方になる構図が固定化してしまうかもしれない。


 上記の理屈で神を選んだと仮定すると、『法命神』アルダ一択になる。人々が知る中で、最も神としての力が強いのはアルダだからだ。最近まで封印されていたヴィダなんて見向きもされなくなってしまう。


「なるほど。本来加護は少々努力したくらいでは手に入らないものだし、御使いを呼ぶスキルも簡単には得られないものだ。だからそればかりに注目して神をえり好みするのは、信仰とは言えないという事か。

 神としての立場からの貴重な意見をありがとう。大いに参考になった」


『付け加えておくが、ヴァンダルー様は例外だ。あの方は、我の知識の範疇を超えている。

 それとルチリアーノ、貴様等自身も世間一般の普通の信者と同じだと思うな。他の神々から加護を受けている者が多い貴様等も、例外だ』

 納得してメモを取っているルチリアーノに、ルヴェズフォルはそう付け加えた。

 普通、人間は生きている間は御使いを創る事は勿論、誰かに加護を与える事は出来ない。少なくとも、ルヴェズフォルは聞いた事が無い。


 ルチリアーノはルヴェズフォルの説明をメモし、その横ではパウヴィナが「なるほど」というかのように繰り返し頷いている。

「そうなんだ。ところでルヴェズ、あたしの事は呼び捨てで呼んでいいし、口調も普通で良いよ」

『いえ、そんな恐れ多い……』

「あたしの事は、パウって呼んでいいよ」

『タメ口……きけ』

『キサマ、とか呼ぶ?』

「キュ~オン」


『いえいえいえ! 恐れ多いので』

 ルヴェズフォルはパウヴィナ達の提案を、全力で拒否した。

「それとね、人によって態度を変えるのは良くないって。変える場合でも、そんなにあからさまにしない方が良いと思うってヴァンが言ってたよ」


『ひぃっ!? 見ておられる!?』

 『悦命の邪神』を喰い滅ぼした新たな魔王に、素行をチェックされている。それを知ったルヴェズフォルは、悲鳴をあげながらキョロキョロと周囲を見回すが、当然それでヴァンダルーが見つかるような事は無い。


 何故なら、実験の為にこの会場の近くに使い魔王は配置されていないからである。

『さて、興味深い話も聞けたところで、時間だ。魔大陸のダグ君、魔人国のイリス君、旧スキュラ自治区のスレイガーとハッジ君達から、準備が出来たと言う連絡が来た。

 では、カウントダウンを開始する。十から数えて、零と私が言ったタイミングに合わせてスキルを発動するように!』


 マジックアイテムを使って声を拡大したルチリアーノの声が響き渡り、カウントダウンが始まる。

(待てっ! 今の状態で御使いを降ろしたくない!)

 ルヴェズフォルは内心でそんな叫びをあげるが、無情にもカウントダウンは続き、集まった者達が【御使い降魔】を発動させた。


 ルヴェズフォルも、後ろ暗い事があるから御使いに思考を読まれたくないと怪しまれるのを避けるため、仕方なく【御使い降魔】を発動する。

 地の底から現れたヴァンダルーの御使い……分身はそんな彼の狼狽し、乱れた心の声がだだ洩れになっている思考を読んでこう言った。


『なんなら、俺の事もヴァンって呼んでみますか?』

 それを純粋な提案では無く、ある種の脅しだと解釈したルヴェズフォルは、白目を向いて気絶した。


 意識を失う者が一人でたが、それ以外にアクシデントは無く検証実験は終了した。【御使い降魔】はヴァンダルー本体からどれだけ距離が離れていても、また同時に大勢が使用しても問題無く発動し、本体のヴァンダルーにも悪影響は出ない事が判明したのだった。



 ヴァンダルーがモークシーの町を訪れ、屋台を開いてから一カ月が経った頃。

 冒険者ギルドのギルドマスター、ベラードからナターニャと、そして仲間としてヴァンダルー達に連絡があった。

 『炎の刃』が賠償金を全額払い終ったと。




―――――――――――――――――――――――――――――


・名前:パウヴィナ

・種族:ノーブルオークハーフ

・年齢:8歳

・二つ名:【次代の魔法少女】(NEW!) 【魔物使い】(NEW!) 【龍姫】(NEW!)

・ジョブ:テイマー

・レベル:71

・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、棍術士、重戦士、獣戦士、守護戦士、冥甲重棍士、見習い魔術師、魔術師、魔棍士



・パッシブスキル

闇視(暗視から変化)!

怪力:10Lv(UP!)

精力増強:1Lv

物理耐性:6Lv

鈍器装備時攻撃力強化:大(UP!)

金属鎧装備時防御力強化:大(UP!)

盾装備時防御力強化:大(UP!)

精神耐性:5Lv(UP!)

直感:3Lv(UP!)

自己強化:導き:4Lv(NEW!)

魔力増大:1Lv(NEW!)

従属強化:2Lv(NEW!)



・アクティブスキル

棍術:9Lv(UP!)

投擲術:4Lv

鎧術:7Lv(UP!)

盾術:6Lv(UP!)

限界突破:5Lv(UP!)

家事:1Lv

格闘術:4Lv(UP!)

解体:2Lv

無属性魔術:2Lv(NEW!)

魔術制御:3Lv(NEW!)

土属性魔術:3Lv(NEW!)

魔棍限界突破:2Lv(NEW!)

歌唱:1Lv(NEW!)

舞踏:2Lv(NEW!)

魔闘術:1Lv(NEW!)

御使い降魔:1Lv(NEW!)



・ユニークスキル

ガレスの加護

ヴァンダルーの加護

ムブブジェンゲの加護(NEW!)

ティアマトの加護(NEW!)

11月24日に226話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 炎の刃ってハジメに殺されていませんでしたか?どうやって賠償金を払ったんでしょうか?アンデッドにでもなったんでしょうか?あと、ルヴェズウェルがなんかかわいそうになってきた。でもまあ、自業自得…
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