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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十章 アルクレム公爵領編
254/515

二百五話 変異の時は来たれり!

「さ、どうぞ執務室へ」

 人のよさそうな笑みを浮かべる壮年の男、副ギルドマスターのヨゼフの言葉にヴァンダルーは若干迷った。

『ヴァンダルー様、本来仮登録にサブギルドマスターが出て来る事はありえません。何か企みがあるに決まっています。……ですが、公然と逆らうのも不味いのでとりあえず執務室には行くべきかと』


「分かりました」

 だが二重の意味で頷いた。チプラスの意見も尤もだと思ったし、嫌な予感はするが【危険感知:死】に反応は無い。と言う事は、最悪の場合でも実力行使で切り抜ける事が出来ると思ったからだ。


 【魂格滅闘術】や魔術を使わなくても、ヴァンダルーが鉤爪を振り回しながら暴れれば商業ギルドの建物を壊して脱出する事は容易い。


「母さんはその間どうします?」

「そうね、じゃあ先にジョブチェンジを済ませていようかしら。従業員でもジョブチェンジ部屋は使えますよね?」

「ええ、勿論です――親子なのか!?」

 ヨゼフが驚いた顔をヴァンダルーとダルシアに交互に向ける。後ろの受付嬢も驚いているようだが、ヨゼフと違いそれを声と態度に出す事は無かった。


『……二十歳前後の受付嬢よりも内心が顔と態度、更に口にも出てしまうとは。この町の商業ギルドは大丈夫なのかと、このチプラス、不安を覚えますぞ』

 ヴァンダルーはチプラスと同様に若干不安を覚えながらも、ヨゼフに答えた。


「はい、俺は父似なのであまり似ていないでしょう。でも片方の瞳の色が一緒です」

「な、なるほど……では、とりあえずこちらへ」

 驚きに引き攣ったままの顔で、ヨゼフはヴァンダルーを執務室へ案内した。


 通された部屋でヴァンダルーが促されるままに椅子に座ると、ヨゼフは早速話し出した。

「それで屋台を開きたいとの事ですが……何故この町で? あなたはこの町で生まれ育ったわけでも、近隣の村や町で生活していた訳でもありませんね?」


「仮登録をするのに、事業を行う動機も話す必要があるのですか?」

「気を悪くしたのなら、申し訳ありません。ですが、あなたの場合は特別です。何せ、ダンピールで……あのダークエルフの女性は実の母親なのでしょう? 養母ではなく。なら気になって当然です。

 ダンピールのあなたが何故屋台の経営を、馴染みの無いはずのこの町で行おうとしているのかと」


 ヨゼフは特別な情報網を持っている訳では無かったが、商業ギルドに勤めていれば様々な情報が耳に入って来る。そして地元やその周辺にダークエルフの母親とダンピールの息子が生活していれば、絶対に噂になり、彼の知るところになるはずなのだ。


 だから知らなかったと言う事は、このダンピールは親子共々他の土地からやって来た事になる。

 モークシーの町は交易都市としてはアルクレム公爵領では知られた町だが、公爵領内には同規模の町が幾つかある。それなのに何故この町を選んだのか。

 そして何よりもヨゼフが気になるのは……何故屋台なのかという事だった。


「ダンピールなら、冒険者になった方が稼げるのではありませんか? それに今までダークエルフの集落で生活していたのでしょう? まさか屋台を始めるために町に出て来たなんて訳も無いでしょう」

『なるほど。ヴァンダルー様、この男は今まで自分がヴァンダルー達の噂を聞かなかったのは、ダルシア様が生まれたダークエルフの集落で暮らしていたからだと思い込んでいるようです』


 チプラスの解説に納得しつつも、ヴァンダルーは面倒だなと内心溜息を吐いた。


「……少々事情があって今まで暮らしていた場所から引っ越す事になり、母と新天地でやり直そうとこの町に来ました。冒険者では無く屋台を始めようと思ったのは、冒険よりも商売に興味があったからです。

 それだけですよ」


 ダルシアが来たので元々予定していた「山賊の襲撃から運良く生き延びた丁稚」と言う嘘の代わりに、そう説明するヴァンダルー。昨日衛兵のケストとアッガーに話した内容と違うが、もしヨゼフがそこまで調べても「すみません、嘘をつきました。でもそれが何か?」で押し通す予定である。


 何故なら、衛兵に嘘をついても違法ではないからである。

 禁制品の持ち込みや税金を誤魔化そうとするのは違法だし、犯罪事件を捜査している衛兵の質問に嘘を答えれば、当然違法だ。しかし、そうでない場合町に入る時衛兵に嘘をついても問題無いのだ。


 これは『地球』、特に現代日本の常識を考えれば信じ難いかもしれない。しかし、町に訪れる者をあまり厳しく取り締まると町から人が遠ざかるし、衛兵に強い権力を持たせすぎると汚職に手を染めた時摘発するのが難しくなると言う事情があるのだ。


 もっとも、ここまで開き直れるのは町の犯罪組織を乗っ取っているヴァンダルーだから出来る事だが。

(あまり気にするようならエレオノーラ達に動いてもらう事になるので、出来れば止めて欲しいんですけどね)

 そのヴァンダルーの思いが通じたのか、それとも単にヨゼフにとって今の話題はこの後に続く本題の前振りでしかなかったのか、彼は「なるほど」と頷いて引き下がった。


「では、そう言う事にしておきましょうか。……それで本題なのですが、宗教にご興味は御有りですかな?」

 どうやら、後者だったらしい。ヨゼフは何故かニチャリとした音が聞こえて来そうな笑みを浮かべた。

「私、こう見えてもアルダ信者の端くれとして関係者に顔がきくのですが、昨今選王国ではヴィダの新種族とも仲良くしていこうと主張する、アルダ融和派の力が大きくなっておりまして。このアルクレム公爵領でも、その影響力は無視できないものになりつつあります」


「……それくらいでしたら、これまで旅をしている間に耳に挟みました」

 ヨゼフに言われなくても、それくらいヴァンダルーも知っている。

 このアルクレム公爵領では、以前は人間しか衛兵や官僚、騎士になれなかった。そのため長い間ヴィダ神殿が制度を改めるよう抗議していたのだが、それを近年になって後押しするようになったのがアルダ融和派だ。


 そして制度が改正され、ヴァンダルーが門で会ったケストのような獣人種を含むヴィダの新種族でも衛兵等の公務員になれるようになったのだ。

 ……ヴァンダルーとしては不快だが、これには『五色の刃』のリーダー、『蒼炎剣』のハインツの影響力によるところが大きい。


 ハインツが直接アルクレム公爵領に足を運んで公爵に抗議した訳では無い。ハインツが名誉伯爵位を受けた時に、アルクレム公爵がヴィダ神殿とアルダ融和派の提案を受け入れたのだ。

 恐らく国家的な英雄となったハインツに対して、自分から歩み寄った形を演出したかったのだろう。


 その為このアルクレム公爵領ではヴィダの新種族への迫害は、表面上は弱くなり、かと言って実際には無くなった訳でも無く、ハインツも殆ど訪れていないため『五色の刃』の関係者もほぼいないだろうと言うヴァンダルーにとって程良い土地だったのである。


 迂闊にヴィダ神殿の力が強い公爵領に行くとダンピールの彼を手厚く保護しようとする者達が出かねないし、逆に過激派のアルダ信者が多い土地に足を踏み入れたらトラブルが頻発する事になる。

 その中間がこのアルクレム公爵領だったのである。


「それで、本題は?」

 ヴァンダルーが気になるのは、そんな基本的な情報をヨゼフが事情通のように語る理由である。

 話しを進めるよう促されたヨゼフは、顎に手を当てて笑みを深くした。


「性急ですな。言葉の駆け引きも商売の醍醐味だと思いますが、まあそう言う事は経験と共に身につければよいでしょう。

 私があなたに提案したいのは、儲け話です。私のコネクションを使えば、そのアルダ融和派の象徴でありS級冒険者のハインツ、そしてその関係者と会う事が可能です。国家的な英雄であり名誉貴族である『五色の刃』やその縁者との繋がりを持つ事で、どれ程の商機を得られるか……考えるまでも無いでしょう。

 屋台稼業では一生かけても稼げない金額が動くのです。このチャンスを逃す手は――」


「お断りします」

 どうやら嫌な予感が当たったらしい。地雷を踏み抜いたヨゼフに向けて、チプラスは黙とうを捧げた。




 ダルシアがジョブチェンジを終えてカウンター前のロビーで待っていると、無表情ながら疲れた様子のヴァンダルーが戻ってきた。

「話は終わりました……あの人、あきらめが悪くて」

 そう言いながら、ヴァンダルーは空気の振動を止める結界、【消音】を使って会話をカウンターに戻っていた受付嬢に聞かれないようにした。


「ヴァンダルー、お帰りなさい。どんなお話だったの?」

「たいした話じゃありません。彼は、『五色の刃』の関係者とのコネクションを作るのに、俺を利用したかったようです」

『あれは陰謀に向いていませんな。役者としては三流でしょう』


 ヨゼフはヴァンダルーのために儲け話を持ちかけているように装っていた。だが、チプラスが三流と評す通り、他人の内心を見る目が節穴気味のヴァンダルーでも気がつくほど、その下心はあからさまだった。


 考えてみれば分かる事だが……幾らS級冒険者兼名誉貴族の関係者とのコネクションに価値があり、仕事を任される事になれば莫大な金額が動く事になるとしても、これから屋台稼業を始める少年には扱い切れるものではない。


 ヨゼフはヴァンダルーの嘘を信じていないようだが、流石に境界山脈内部と魔大陸を治める皇帝であるとは見抜いていないはずだ。

 だからヨゼフがヴァンダルーに持ちかけたはずの儲け話の利益は、話が実現した場合殆ど彼の懐に入る事になる。


 少なくともそう皮算用をしていたのだろう。ヨゼフはしつこく食い下がり、ヴァンダルーはそれを繰り返し拒絶して彼の執務室から出て来たのである。


「それは……困った人ね。社会的な立場も高いし」

 悪党としては小者でも商業ギルドでの地位が高いので、【精神侵食】スキルで洗脳して黙らせるのは難しい。それを察したダルシアがため息をついた。

 そして、ヴァンダルーの耳元に顔を近づけて尋ねる。


「エレオノーラさん達は、あのヨゼフって人に関して何も言わなかったの?」

 犯罪組織に関わっているか、町の要注意人物なら組織を乗っ取っているエレオノーラ達が知らないはずはない。そう思っての質問だったのだが、ヴァンダルーは力なく頷いて応えた。


「一応商業ギルドについては聞いていました。ギルドマスターと、三人いる副ギルドマスターは、金儲けの事しか頭の無い、毒にも薬にもならない連中らしいとそれだけ」

「……ええっと、つまりどう言う事かしら?」

 困惑するダルシアに、ヴァンダルーも若干困惑して答えた。


「つまり犯罪組織とは関わっていないけど、俺達にとっては困った人物。そんな奴のようです」

 ヴァンダルーを辟易させたヨゼフだが、彼は犯罪者では無かった。口先でヴァンダルーを利用しようとしたが、それは詐欺ですら無く、商売の話でしかないのだ。


 ヨゼフの人格や経歴等は、一般的には褒められたものでは無いのかもしれない。日頃の行いにも、問題があるだろう。しかし、犯罪組織が注目するようなものでは無かったのである。

 そのためエレオノーラ達もヴァンダルーに彼を警戒するようにとは言わなかったのだ。


『門でヴァンダルー様から小銭を巻き上げたアッガーと言う衛兵と同じですな。小者過ぎて犯罪組織では注目されておらず、注意対象とは考えられていなかったと』

「でも、その人の話だとあの人達にヴァンダルーを紹介できるんでしょう? じゃあ、アルダ融和派の関係者か何かなのではないの?」


「母さん、ダンピールを保護していれば誰でも連中やその関係者に会う事が出来ますよ」

 困惑するダルシアにヴァンダルーはそう説明する。


 『五色の刃』が保護したダンピールの少女、セレン。彼女以外のダンピールがいるなら、それまで顔も名前も知らない人物の紹介でも、アルダ融和派の関係者は応じるだろう。

 ヨゼフが語ったコネクションとは、その程度。まやかしに等しい。


「元同業者として、どう思います?」

『……商人としても、三流かと』

 元商業ギルドのサブ(副)ギルドマスターも務めていたチプラスは、ヨゼフをそう評した。


『下心をヴァンダルー様に見抜かれている時点で丁稚以下かと。しかも、企み自体が杜撰ですな。ヴァンダルー様を利用して、奴等と縁が出来れば儲けに噛めるかもしれない。

 ダンピールが仮登録に現れたと聞き、その瞬間思いついた企みにそのまま飛びついて来たのでしょう』

 そう言う事らしい。ヴァンダルーも自分の見る目の無さは自覚しているので、彼の推測を否定する事無く頷いた。


「つまり、普段なら注目する程では無い人でも思わず飛び付くくらい、ヴァンダルーがカモに見えたのね」

「そう言う事かなと。今日は偶々ヨゼフがギルドに居たので彼が絡んできましたけど、昨日や明日だったら彼以外のサブギルドマスターやギルドマスターが絡んで来たでしょう」

「……目立たないって、大変なのね」


 ふぅっとため息をつくダルシア。しかしすぐに彼女は顔を上げた。

「でも、これぐらいで気にしていたらダメよね。ヴァンダルーがダンピールだって知られたら、いつかは起きた事だし」

「ビルカインを誘きだす為、そして後々の布教活動の為に種族を偽ると支障が出ますからね。……人種やハーフエルフだと偽っても、俺ではボロを出すでしょうし」


 【魔王の墨袋】で瞳の色素を変えて種族を偽る事は出来る。しかし、それでは手に入る社会的な身分が不確かなものになる。

 それに……今後ヴァンダルーが口内の牙や伸びる鉤爪、人間は持っていないはずの再生能力、そして完全な闇も真昼のように見渡す【闇視】等が他人にばれた時、面倒な事になる。


 それらの特徴はダンピールである事を明らかにしていれば、特に怪しまれる事は無い。後、年齢にそぐわない高さの能力値を見ても、ダンピールについて詳しく知らない者なら「希少な種族だし、そう言う事もあるか」と納得してくれるかもしれない。そんな予想もあった。


『ですがヴァンダルー様に断られたのを根に持ち、サブギルドマスターの権限を使って嫌がらせをして来たら面倒です。エレオノーラ達に奴の事を調べ、見張るように伝えてきましょう』

「いえ、チプラスはこのまま俺達といてください。伝令は他のゴーストに行ってもらうので。……アドバイザーがいないと不安ですし」

 そう言って伝令に出ようとするチプラスを引き止めるヴァンダルー。止められた彼は頼りにされて嬉しそうな、しかし微妙に引き攣った笑みを浮かべた。


『ヴァンダルー様、確かに私は商業ギルドに潜入した経験がありますが……生前の記憶は所々思い出せない時期がありますし、そもそも屋台を開いた事は無いのですが』

 生前原種吸血鬼テーネシアの配下だったチプラスは、邪神派吸血鬼の組織の利益の為に商業ギルドに潜入していたのであって、本心から商人を志していた訳ではない。


 だからあまり商人として頼りにされると、チプラスとしては期待に応えられるか不安になるらしい。

「チプラス、あなたの言いたい事は分かります。ですが、俺のような素人よりはずっと頼りになるので、お願いします」

 しかしそれ以上にヴァンダルーは商売の素人だった。今の彼にとってチプラスは、ダルシアに次ぐ精神的な支柱に等しいのである。

『……分かりました。このチプラス、改めてヴァンダルー様の為に微力を尽くしましょう』


「話が纏まったわね。気を取り直して、ジョブチェンジしていらっしゃい、ヴァンダルー。

 私は【魔杖装者】ジョブに就いたのよ。ヴァンダルーが作ってくれた杖をこれからはもっと使いこなせるようになるわね」


『ほほぅ、変身して串焼き屋の売り子をなさるので? それは売上が期待出来ますな』

「……チプラスさん?」

『こ、これはとんだ失言を! お許しくだされ~っ』

 恰幅の良い吸血鬼のゴーストがヴァンダルーの内部に逃げ込んだ。


「そこまで怖がらなくても良いのに。ヴァンダルーはどんなジョブに就くのか、決めてある?」

「とりあえずは。ルチリアーノやダグ達の希望を叶えられそうなものにしようかと。ハインツ達に負けたので、能力値の上昇率が高い導士も考えたのですが……この前の状況だと、俺の能力値が今の五割増しだったとしても結果はあまり変わらなかったと思いますから。

 では、行ってきます」


 そう言うとヴァンダルーはギルドのジョブチェンジ部屋に向かった。

 このギルドのジョブチェンジ部屋は廊下の奥の扉の、さらに奥に作られている。使用する時は廊下の扉に内側から鍵をかけてから、ジョブチェンジ部屋に入るそうだ。


 冒険者ギルド程ではないが、商業ギルドでも誰がどんなジョブに就いているかは重要な情報なのである。




《選択可能ジョブ 【鞭舌禍】 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥王魔術師】 【神敵】 【堕武者】 【蟲忍】 【滅導士】 【付与片士】 【ダンジョンマスター】 【魔王】 【混導士】 【虚王魔術師】 【蝕呪士】 【弦術士】 【デーモンルーラー】 【創造主】 【デミウルゴス】 【ペイルライダー】 【タルタロス】 【荒御魂】(NEW!) 【冥群砲士】(NEW!) 【魔杖創造者】(NEW!) 【魂格闘士】(NEW!) 【神滅者】(NEW!) 【夢導士】(NEW!) 【クリフォト】(NEW!)》




 水晶に触れると選択できるジョブが意識内に表示されるが、例によって増えていた。【魔杖創造者】は、変身杖を創っているから現れたジョブで、【魂格闘士】は昨日覚醒した【魂格滅闘術】スキルに関連したジョブ。【神滅者】は【記録の神】キュラトスを滅ぼした事で出現したジョブだろう。

 神を滅ぼしたのはキュラトスが初めてでは無い。しかし考えてみれば、魔王軍では無く元々この世界に存在していた通常の神を滅ぼしたのは、確かにキュラトスが初めてだったのでそのためだろうか。


【夢導士】は今までの事を振り返れば、心当たりが山ほどあった。しかし、最後の【クリフォト】には心当たりが無かった。


(【クリフォト】……どう言う意味なのかさっぱり分からない。新ジョブだとしても名称まで新しい造語と言う事は多分無いだろうから、後で皆に聞いてみよう)

 ヴァンダルーは正体不明のジョブの推測はとりあえず後回しにして、予定通りジョブを選ぶことにした。


「【付与片士】を選択」

 それはルチリアーノやダグを人間外に導けそうなジョブ、【付与片士】だった。

 ヴァンダルーは【付与片士】を、自分の欠片を他者に付与して何かを起こすジョブだと推測した。そして自分の欠片……つまり血やヴァンダルーの一部と化した【魔王の欠片】から作ったブラッドポーションを飲んだ存在に、何らかの効果を及ぼすジョブではないかと考えていた。




《【付与片士】ジョブに就きました!》

《【変異誘発】スキルを獲得しました!》




「【変異誘発】……ブラッドポーションを飲んだ実験動物を魔物化させたぐらいだし、こんな名前のスキルを獲得してもおかしくないのかな?

 ええっと、ルチリアーノ達の様子は――」


 ヴァンダルーは何か起きていないかと、タロスヘイムの疑似本体型使い魔王に意識を同調させた。




 タロスヘイムの地下工房では、ヴァンダルーがジョブチェンジするのを何十人もの人々が待っていた。

『今本体が【付与片士】にジョブチェンジし、【変異誘発】と言うユニークスキルを身に付けました。

 何か身体に異常は起きましたか?』


 握り拳大の脳が無数につまったカプセル状の頭部を持つ、疑似本体型使い魔王がヴァンダルーの現在の状況を伝える。ルチリアーノやダグ、そして導き中毒に陥っていた少女達や、エマは急いで自分達の身体を確認した。


「ふむ……脈も心音も呼吸も、体温も異常無し。特に変化はないようだ」

「外見もな。肌や瞳の色が変わったり、牙や角が生えたりもしてないぜ。だよな?」

「ええ、尻尾や翼が生えたり、目が増えたりもしていないわ」

 しかし、ルチリアーノやダグの身体にはまだ変化は起きていなかった。付き添いで来ていたメリッサが見る限り、少女達の誰にもまだ変異は起きていないようだ。


『実験動物にも、特に変化はないね。これは、空振りかな?』

 レギオンの閻魔が言うように、今回はヴァンダルーの勘が外れたのかもしれない。そう皆が思い始めた時、それは起こった。


「む? むむ……かは~っ!? 気のせいかと思ったが、身体が急に熱くっ、更に動悸息切れ眩暈がっ! とても立っていられないっ!」

 そう叫びながらルチリアーノが床に倒れ込んだのである。


「おいおい、おっさん、わざとらし過ぎて冗談にしても笑えな――うおっ、お、俺にも似たような症状がっ!?」

「ダグっ!?」

『皆さん、座ってください。倒れて怪我をしたり、他人にぶつかったりすると危ないので、その前に座ってください』


 ルチリアーノが自分の身に起きた症状を解説しながら倒れ込んだだけでは無く、ダグにも同じ症状が起きた。

 疑似本体型使い魔王のアナウンスに従って少女達は慌てて床に座ったが、その直後に彼女達にも症状が現れたようだ。

「ちょっと、これ大丈夫なのよね?」

 メリッサが抱き留めたダグの身体が、どんどん熱くなるのに動揺して疑似本体型使い魔王に確認する。


『命の危険は特に無いようですから、多分何かしらの変異の途中で起きる副作用ではないかと』

 しかし疑似本体型使い魔王に分かるのは、ダグ達の症状が病気や毒に寄るものでは無く、また命の危険が無い事だけだ。


「メリッサ……もし種族が変わったらお前に言いたい事が……」

「ダグ、不吉だから冗談は後にして!」

「いや、別に冗談で死にフラグを立てた訳じゃなくて……本当に言いたい事があるんだよ! ――って、ありゃ? 治った?」


 メリッサの腕の中で何とか言葉を紡ごうと奮闘していたダグは、途中で激しい動悸や眩暈が無くなっている事に気がついた。息切れと熱はまだ少し残っていたが、それもすぐに平常に戻っていく。

「な、何だったの?」

「どうやら、師匠が言うようにあれは変異の途中で起きる副作用だったようだ」


 困惑するメリッサに、何事も無かったかのように立ち上がったルチリアーノが額の汗をハンカチでぬぐいながらそう言う。


「何が起きたのかは、ステータスを確認して見たまえ。一目瞭然だ」

「感じるっ、感じるわ! ヴァンダルー様を強く感じる!」

「ああっ、まるであの時に、初めて助けられた時に戻ったようだわ!」


「……見なくても何が起きたのか分かる子も多いようだが」

「俺は分からないから、ステータスで確認するよ。……冥系人種だぁ?」


 ダグがステータスを確認すると、彼の種族は人種から冥系人種に変化していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




・名前:ダルシア

・種族:カオスエルフソース

・年齢:0

・二つ名:【魔女】 【聖母】 【モンスターのペアレント】 【ヴィダの化身】 【皇太后】

・ジョブ:魔杖装者

・レベル:0

・ジョブ履歴:魔法少女、命帝魔術師、マジカルアイドル



・パッシブスキル

闇視

魔術耐性:10Lv

物理耐性:10Lv

状態異常耐性:10Lv

剛力:5Lv

超速再生:5Lv

生命力増大:8Lv(UP!)

魔力増大:6Lv(UP!)

魔力自動回復:6Lv(UP!)

魔力回復速度上昇:6Lv(UP!)

自己強化:ヴァンダルー:10Lv

自己強化:導き:10Lv

能力値強化:創造主:2Lv(UP!)

能力値強化:君臨:2Lv(UP!)

色香:7Lv(UP!)

弓装備時攻撃力増強:中

非金属鎧装備時防御力増強:中

眷属強化:1Lv


・アクティブスキル

料理:5Lv

家事:5Lv

狩弓神術:1Lv

竈流短剣術:1Lv

格闘術:10Lv

無属性魔術:5Lv

魔術精密制御:1Lv(魔術制御から覚醒!)

命帝魔術:2Lv(UP!)

水属性魔術:10Lv

風属性魔術:10Lv

精霊魔術:4Lv(UP!)

解体:2Lv(UP!)

霊体:1Lv

限界突破:2Lv(UP!)

詠唱破棄:5Lv

連携:7Lv(UP!)

女神降臨:2Lv(UP!)

聖職者:2Lv(NEW!)

舞踏:3Lv(NEW!)

歌唱:3Lv(NEW!)

魔杖限界突破:1Lv(NEW!)

杖術:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴィダの化身

生命属性の神々(ヴィダ派)の加護

カオスエルフの祖

ヴァンダルーの加護

神鉄骨格

再生の魔眼:5Lv

混沌




・ジョブ解説:霊闘士


 死属性の適性を持つ者か、死んでいた経験がある者が、【霊体】スキルを持ち、一定のレベル以上の【格闘術】スキルを持っている場合就く事が出来るジョブ。

 己の霊体を実体化させ、それを手足や武器のように使う事が出来るよう【実体化】スキル等も補正がかかるジョブ。一応、【格闘士】等【格闘術】スキルを主に扱うジョブと同じ系統のジョブでもある。




・ジョブ解説:マジカルアイドル


 魔術系スキルを習得している者が自分専用の変身杖を所有している場合、就く事が出来るジョブ。魔術系スキル以外に【歌唱】や【舞踏】、そして【杖術】に補正がかかるジョブ。

 そのためか多くの場合魔術師系のジョブは魔力と知力以外の能力値の上昇率は低いのだが、このジョブは生命力や敏捷、体力の上昇率も高くなっている。


 この世界で初めてこのジョブを発見したカナコ・ツチヤ曰く、「アイドルは体力が無くちゃやって行けません!」との事である。

すみません、今回は短めです。


8月28日に二百六話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
ルチリアーノ達のはギャグだろw てかハゲた!ヴァンダルーの加護って全表示されてるやんけ!!
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