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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第九章 侵犯者の胎動編
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百九十六話 血と祝福。そして実った呪詛

『全ては予定通りに進んでいる……』

『ああ、多少の予定外はあったが、全ては我々の掌の上』

「なるほど、それは結構。ブラッドポーションの材料の備蓄量はどうかね?」


『ククク、原種吸血鬼共が幾ら飲み干そうと、偉大なる黒き血に底は見えん』

『それよりも獣共の心配をしたらどうだ? 奴らは飢えているぞ……ヒヒヒッ!』

「そうか、私も同じ意見だ。ダグ君、実験動物達の餌やりを頼めるかね」


「……それは構わないけど、あんたらもっと普通に会話できないのか?」

 半眼になったダグは、ルチリアーノと会話している十匹ほどのデーモン達にそう呟いた。


 先程の、陰謀を練っているようにしか聞こえないやり取りは、実は何の事は無い。「実験は予定通り。ちょっと遅れているけど、コントロールできているから問題無し」と言う報告と、「ブラッドポーションの材料の備蓄量は、原種吸血鬼達が幾ら飲んでも大丈夫」と言う答え。そして「実験動物の餌やりの時間だよ。彼等はお腹を空かせている」と言う助言である。


 しかし、そう言ったダグにルチリアーノは驚いたように言い返した。

「何とっ、私に彼等と合わせろと!?」

「いや、あんたは別に良いんだよ! 寧ろあんたまで合わせたら、デーモンが何を言ってるのか分からなくなるだろ!」


 そう怒鳴り返すダグに、今度はデーモン達が心外だと言わんばかりに顔を歪めた。

 彼等は『ザッカートの試練』でヴァンダルーにテイムされたデーモン達の一員で、その中でもランクと知能が高く、人間の言葉を覚えている者達だ。


 彼等は『ザッカートの試練』から連れ出されたものの、それ以後はヴァンダルーが創ったダンジョンの内部でただ飼われていた。それは魔人王ゴドウィンや魔人国の者達から、デーモンの扱いの難しさを教えられていたからである。


 肉体が破壊されても魂は記憶と人格を保ったまま新たなデーモンとして、数日から数百年の間に復活する。だから自身の命に対してすら享楽的で、自身の快楽の為なら何でもする。彼等にとってテイムされた状態とは、人間に従う従僕プレイを愉しんでいるだけだ。


 そう言われたのですぐには信用できず、町に放てなかったのである。時間がある時に、改めて使えそうな個体を選ぼうと思い、先送りにしていたのだ。

 だがそれに危機感を覚えたのは、ほかならぬデーモン達であった。


『怪しいとは心外……我々は主の信を得ようと心から忠を尽くしているだけに過ぎんと言うのに』

『全くだ。貴様等人間に合わせ、こうして朗らかな笑みを浮かべて振る舞っているのに哀しい事を言ってくれる』

『クヒヒヒ、そう言ってやるな、同胞よ。我々と同じ転生を経験した者とは言え、二度だけだ。ここは先達として心で泣き、表で柔和に微笑んでやるとしよう。キヒヒヒヒ!』


 大まかには人型ではあるが、頭部や手足の数や、形は人間とは大きく逸脱した異形のデーモン達が口々にそうダグを非難する者と、非難した者に大目に見てやろうと彼等の言う朗らかな笑いを浮かべて宥める者に分かれていた。


「お前等も、絶対わざとやってるよな。特に最後に笑った奴」

『ククク、ダグ、お前は見た目より知能が高いようだな』

「ヴァンダルー、ルチリアーノのオッサン、こいつぶん殴って良いか?」


『工房の外でなら構いませんよ。後この俺はヴァンダルーでは無く、錬金術型使い魔王です』

「師匠に同意見だ。それと、私は君が生きて来た年数を合計した数よりも若い筈なんだがね」

 この地下工房にも、勿論使い魔王が設置されている。胴体部に大きな宝珠を嵌め、骨と血管と吸盤だけの腕を持つ、デーモン達よりも更に奇怪な形状だ。


 血管を収縮して腕の骨を操り、指の吸盤で吸い付いて物を保持する。そんな仕組みである。


『それに、彼らが彼等なりに信頼を得ようと頑張っているのは本当ですよ』

「……マジか?」

『マジです。元々精神構造が人間とは違うので、どうしても人を喰ったような態度になりますけど』


『左様です、我が主よ』

『我等は貴方に永遠の忠誠を誓います』

『ですから、どうか魂だけは……』


 デーモン達がヴァンダルーにテイムされ、それだけでは無く自分達から信頼を勝ち得ようとする理由、それはヴァンダルーが創造者である魔王に近い気配を放っているから、そして何より魔王グドゥラニス同様に彼等に真の滅びを与える事が出来るからだった。


 穢れた魔力で出来たデーモン達にとって、肉体の死は恐れるものでは無い。しかし、魂を砕かれれば輪廻転生は無い。

 そのためデーモン達は魂を喰う事が出来るヴァンダルーを恐れ、消滅したくない一心で彼の信用を得ようとしているのだ。彼らなりに人間に歩み寄って。

 ……魔人族ならまだしも、ダグのようにそれ以外の種族に対しては以前から完全に軽く見ていたのでどうしようもなく態度が悪いが。


『ほら、こんなに必死です』

「確かに、そうだな」

 明らかにプライドを捨てたデーモン達を、ダグは情けないとは思えない。事実、自分達も同じ様な理由でヴァンダルーに下っているのだから、当たり前だ。


 思わず親近感すら覚える。これからはもうちょっと温かい目で見てやろうと、ダグは思った。

『ククク。何だ、奇怪な目つきをして』

「……ヴァンダルー、やっぱり俺、こいつ等嫌いだ」

『彼等、長い事人間を見た事が無かったので表情の読み取り方が苦手なんですよ』

「それよりも、動物の餌は?」

「言われなくてもやってるよ」


 そう言ってダグは自分の後ろを顎で指す。ルチリアーノがそちらに視線を向けると、幾つかの容器が空中に浮いており、中には実験動物に与える餌が既に用意されていた。

 【念動】の魔術……では無く、ダグの能力である【ヘカトンケイル】だ。


 【ヘカトンケイル】は強力な【念動力】であり、他にもダグが持つ【全方向知覚】、【フォースビジョン】の力と併用して使う事で全周囲に強力な攻撃を行う事が出来る。その様子は、まるで無数の目と腕を持つ巨人が暴れまわっているかのようで、彼はそれが由来で神話の百手巨人の名をコードネームに付けられた。


 そのため遠くの敵を捻り潰したり、装甲車をひっくり返したりするような力技の能力だと周囲には認識されていた。しかし、実際にはダグは【ヘカトンケイル】を器用に使いこなしている。

 全力を出せば戦車を叩き潰せる念動力を微細にコントロールして、編み物や書道等をする訓練をしてきたためだ。


 大雑把に力を振り回すだけでは生き残れないし、そもそも『ブレイバーズ』は本来テロリストと戦う戦闘集団ではなく、災害救助等を主に行う団体だったのだ。

 その一員だったダグも、生き埋めになった被災者を救助するため瓦礫を撤去する等、見た目よりもデリケートな作業を行う必要があった。


 これは別に隠していた事ではないが……付き合いの浅い転生者はダグが意外と器用な事に気がつかなかった。

 それに、やはり『オリジン』で死んだ時は役に立たなかったのだが。


「おお、やはり器用なものだね」

『私のように後頭部に目がある訳でもないのに後ろが見えるとは、やはり貴様は奇妙な奴だ』

「それは一応褒めてるんだよな? まあ、前世から似たような事はやってるからな。こっちの世界に来てスキルが手に入ってから、ずっと楽になったし」


 【並列思考】スキルを獲得したため、ダグの【ヘカトンケイル】は『オリジン』の時よりも格段に洗練されていた。今なら一度に複数の編み物をしながら、同時に書を認め、料理をする事も可能だろう。……別にそれらが趣味と言う訳ではないが。


「ところで、こいつ等いったいいつまで飼っておくんだ? 大体もう四世代目だろ?」

 ダグが餌をやり始めた実験動物とは、実験に使う動物では無い。生金や霊銀を移植したアンデッドとの交配実験の結果、生まれた動物である。


 ネズミに兎、鶏に小さな豚、カエルに蟲までいる。その数は既に数百匹に至っていた。数が多いのは特に小さいネズミや蟲だが、このままのペースで増えていくと幾らなんでも世話がしきれない。

『生まれた子に個体差が無いかとか、何回か交尾と出産を繰り返させましたからね。育つ過程で少し自然死しましたけど、増えるペースの方が速いです』

「そうだな……次の第六世代あたりで止めるか。正直、普通の小動物と変わった部分が無いので飽きて来ていてね。第四世代ぐらいで一匹ぐらい想像を絶する変異を遂げると思っていたんだが」


「オッサン……バイオハザードを期待するなよ」

 とんでもない問題発言が出たが、交配実験の終わりも見えてきたようだ。六世代までと言うのは足りないかも知れないが、実際今ダグが餌をやっている動物は、普通の動物にしか見えなかった。


(まあ、俺もそれ程動物に詳しい訳じゃないし、この世界に転生してから間近で動物を見たのはこいつ等がほぼ初めてだけどな。馬や犬猫、ネズミを何度か見たくらいで、後は魔物ばっかりだったし。

 ……そう言えば、何でこいつ等は平気なんだ?)


 当然だが、通常の動物は魔物を恐れるか忌避する。直接的な脅威以外にも、魔物が漂わせる汚染された魔力を感じ取り、自分が魔力に汚染されるのを本能的に恐れて避けようとするのだ。

 そのため魔境には普通の動物は、汚染された魔力を恐れないよう進化した特定の鳥や蟲以外殆どいない。


 そしてこの地下工房は、魔境並みかそれ以上に汚染された魔力で満ちている。何と言っても高ランクのデーモン達が十数匹うろつき、使い魔王が何匹もいるからだ。

 普通の動物なら恐怖に耐えきれず狂ってしまうだろう。


 なのに実験動物のマウスやウサギは平気な様子で餌を齧り、小鳥は暢気に鳴き、蟲も平常運転だ。


(何でだ? アンデッドの子孫だから平気なのか? 生まれた時からずっとだから慣れたとか)

 餌をやりながら考えるが、専門家では無いダグが思いつくのはそれぐらいだった。それで納得しても構わない気もしたが、好奇心が刺激された彼はふと背後でブラッドポーションの瓶を弄っていたルチリアーノに声をかけた。


「なあ、こいつ等がデーモンや使い魔王を怖がらないのって何でだと思う?」

 すぐにしたり顔で説明し出すだろうと思っていたダグだが、問いかけられたルチリアーノの反応は予想と異なっていた。「そう言えば」と驚いたように呟きを漏らしたのだ。


「何故動物達はデーモンを恐れない? 慣れている師匠の肉体から生成される使い魔王を怖がらないのは理解できるのだが」

 どうやらルチリアーノも、動物達がデーモンを怖がっていない事に気がついていなかったらしい。使い魔王はそうでも無かったようだが。


『何? 動物たちは本来我々を恐れるものなのか?』

『今まで魔物以外の動物を見たのはそいつらが初めてだったので、気づかなかったぞ』

 そしてデーモン達自身も困惑している。


「これは一度調べてみる必要が――おっと」

 ダグ以上に好奇心を刺激されたルチリアーノが目をギラギラと輝かせて飼育ケージに近づこうとして、手を滑らせてブラッドポーションを床に落としてしまった。


 ポーションの瓶は丈夫に作られているのだが、当たり所が悪かったのかガシャンと音を立てて凝固した血液に似た色の赤黒い液体が漏れだす。

「しまった。エレオノーラやベルモンドに知られたら大目玉を食わされるぞ」

『ククク、ではあのアイラと言うアンデッドの女吸血鬼に話そうか?』

「止めてくれ、生皮を剥されてしまう。仕方ない、布で容器に集め、こして再利用しよう」

『……【殺菌】してあげますから再利用しても良いですけど、人に呑ませるのはダメですよ』


「おいおい、瓶の破片で怪我するぜ。俺の【ヘカトンケイル】で集めてやるから――おわっ!?」

 ルチリアーノやデーモン達、何よりもダグの注意が割れた瓶と零れたブラッドポーションに集まった。その瞬間、餌をやるために開けていたケージから、動物たちが一斉に逃げ出した。


 【ヘカトンケイル】も使って餌を与えていた為、複数のケージからマウスやウサギ、小鳥にカエルやトカゲ、甲虫等が一気に逃亡する。

 勿論、ダグは彼等を【ヘカトンケイル】で捕まえようと試みた。しかし器用な彼でも、逃げ出した小動物を一度に複数傷つけない様に捕まえるのは難しく、出遅れてしまった。


「な、何だね!?」

 しかし種類の異なる動物達はバラバラにならず、全てがルチリアーノの足元……零れたブラッドポーションに殺到する。反射的に飛びのいた彼を無視して、赤黒い液体に舌や嘴を付けて飲み始める。


『主よ、そのブラッドポーションとは動物にも人気があるのか? 小動物共がまっしぐらに駆け寄って来たぞ』

『さあ……動物に呑ませた事がありませんからね。甘いから、嫌いじゃないかもしれませんけど』

 ブラッドポーションを貪るように飲む動物。その効果を認識できる知能が無いため、あり得ないはずの行動をとる彼等に、興味津々といった様子のデーモン達と使い魔王(ヴァンダルー)


 とりあえず様子を見る事にしたダグや、メモを取りだしたルチリアーノが見ている前で、小動物はミヂミヂと肉と骨が軋む音を上げながら変化してく。

「こ、これはっ!?」

「素晴らしい! まさか目の前でこれ程多種多様な動物が魔物化するとは!」


 掌に乗る程度の大きさだったマウスや蜥蜴、カエルや甲虫は、中型犬並の大きさのジャイアントラットやジャイアントリザード、ビッグフロッグやジャイアントインセクトに。

 ウサギも一回り以上大きくなり、額からは鋭い一本の角が生えホーンラビットに変化した。

 そして小鳥は小さいままだったが、鋭い嘴と爪を持つシザーフィンチになった。


 そして変化した魔物達はブラッドポーションを飲み干すと、今度は使い魔王に殺到して……懐き始めた。

『おや?』

 自分に身体を擦りつけるホーンラビットやジャイアントラット、眼球を舐めまわすジャイアントリザードやビッグフロッグ。骨の腕に止まって囀るシザーフィンチに、身体によじ登るジャイアントインセクト。

 後半は分かり難いが、多分親愛の情を示しているのだろう。


『ほぅ、可愛らしいじゃないか』

『いやいや、もしかしたらもっと血を出せと主にたかっているだけかもしれんぞ。尤も、奴等程度の力では主に傷一つ付けられんだろうがな』


 デーモン達が言うように、どれもランク1の魔物で危険度はただの中型の野生動物と同じかそれ以下。タロスヘイムではか弱いと評しても良い程度だ。【魔王の欠片】で出来た使い魔王を傷つける事は、眼球を直接攻撃しても不可能だ。


 しかし重要なのはそれらが一分前までただの動物だったという事である。

「もしかして、ケージに残っている連中もブラッドポーションを飲んだら魔物になるのか?」

 ダグはゾッとした顔つきで、背後のケージにいる小動物達を視た。全方位知覚に映る彼等は、一様にケージの壁から魔物になった同類を見つめ、鳴き声を上げている。


 羨ましいと。


「変化するのがランク1だから良いものの、本物のバイオハザードだ! おい、オッサン、ヴァンダルー、ここでもう絶対ブラッドポーションを零すなよ!」

「君の言う通りだ、ダグ君。まず他の小動物もちゃんと魔物化するのか、そしてどれくらいの分量で変化するのか、量によって魔物化した時のランクは変わるのかを慎重に調べてみよう。

 つきましては師匠、ブラッドポーションの増産を」


『仕方ないですね。一度本体を戻しましょう』

『ククク、面白くなって来たではないか』

「ここには俺以外マッドサイエンティストしかいないのか!?」

 ダグは思わず頭を抱えて仰け反りながらそう叫んだ。


「しかし、そのブラッドポーションの主な材料である師匠の血の原液を飲んだ私やダグ君が変化しないのは一体何故だろうね? 【魔王の欠片】を発動していなかったせいか、それとも何か理由があるのか……もしや、遅行性なのでは!?」

 だがルチリアーノの言葉に、ばね仕掛けのように姿勢を戻した。


「一度は覚悟したが怖くなるような事を言うんじゃねぇ!?」




 その頃、魔大陸の『街』では、増設中の為に出来た空き地に急遽設置された仮設巨大ステージの上で説法が行われていた。

 『ラムダ』世界では、昔『地球』でもそうであったように神話や伝説、神々の教えやそれに関する逸話や、教訓を含んだ小話を聞く事は庶民の娯楽であった。


 そうした理由もあって人々は聖職者の説法に耳を傾け、お布施を支払い、道徳を学び、神々に親しむのである。それは守護神たちに歩いて会いに行ける、ある意味神代の神治時代に最も近い魔大陸の『街』でも変わらない。

『こうしてヴァンダルーは『ザッカートの試練』に打ち勝ち、私を生き返してくれました。不可能としか思えなかった事を成し遂げたのです』


 特にステージ上で説法をしているのがダルシアで、語られているのが彼女の息子ヴァンダルーの冒険のエピソードであるため、普段より多くの者達が巨大ステージ前には詰めかけていた。

 風属性の魔術で声を大きくしているダルシアは、聴衆達が自分の語る物語に引き込まれ、感極まっている様子を見つつ、頭の中で次の段取りを確認する。


(偉い人とお話しするのとは違う緊張感があるのよね、大勢の人達の前で話して歌って踊るのって。でも、これも皆に楽しみながらヴァンダルーの事を知ってもらうため。母さん、頑張る!)

『これから演奏するのは、私達の冒険をテーマにした曲のメドレーです!』

 聴衆達が「おおっ!?」とどよめき、「待ってました!」と歓声を上げる。


 その瞬間ステージ上に色とりどりのライトが、煌びやかに灯された。

『今日完成した新曲も含まれています! 自信作ですよ♪』

『メンバー全員一生懸命練習したのじゃ。じゃから、皆も応援してくれると嬉しいのぅ』

 作詞作曲振付を担当したカナコがそう宣言する事で聴衆……観客たちのテンションが上がり、ザディリスの呼びかけに答えて次々に呪文を唱えるか、マジックアイテムを準備する。


「……【光】」

「【蛍火】」

「おい、俺のスティックにもかけてくれ。光属性魔術は使えねぇんだ」

「だったらマジックアイテムを買いなよ、ケチ臭い男だね。仕方ない、今回だけだよ」

「へへ、恩に着るぜっ」


 観客達が持つ短杖よりも短いスティックと呼ばれる物に、白い小さな光が灯り観客席が星空のようになる。それを見計らって、ザンディアが大きく手を上げた。

『じゃあ皆、行くよ~っ!』

 その手には複雑な形状で金属質な杖……変身杖が握られていた。


 ザンディアに合わせてザディリス、カナコ、そしてダルシアも変身杖を掲げ、叫んだ。

『『『『変身!』』』』

 強くなる舞台照明、跳ね上がる四枚の外套。そして歓声に迎えられたのは、変身杖の装飾部分の液体金属が形を変えた金属繊維の戦闘服……コスチュームに身を包んだ四人の姿。


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 それを目にした観客達のボルテージは一気に最高潮に達した。瞳を炯々と輝かせ牙を剥き、魔物も思わず逃げ出すような咆哮を上げる。

 中には思わずブレスを口から漏らしてしまい、警備係の『氷神槍』のミハエル達に『会場でブレスはご遠慮ください』と注意を受ける者もいる程だ。


 観客達の名誉の為に説明すると、彼等はザディリスやカナコのミニスカート状の装飾が付いたレオタードや、ザンディアの大胆なスリット、ダルシアの豊かな胸だけに興奮している訳では無い。

 観客達の半分は女性だし、彼女達の中にはステージ上のダルシアと同じくらい露出度が高い格好をした者が少なくないからだ。


 観客達が熱狂しているのはこの説法の形態……アイドルコンサートその物に対してである。

 音楽に合わせて歌とダンスを同時に行うアイドルに、変身杖や光を使った斬新な演出。更に観客も応援と言う形で加わると言う一体感。

 曲とダンスそのものの目新しさもあるが、それらが観客達に今まで味わった事の無い未知の体験を与え、新たな世界観に引き込んでいるのだ。


(ふっ、この分なら一週間連続説法……コンサートの五日目も大成功ですね)

 アイドルでありながら現在『ラムダ』世界唯一の芸能界の黒幕であるカナコは、リボンやレースが多めで可愛さが強調されたコスチュームで笑顔を振りまきながら、内心でそう確信していた。


 このコンサートに、彼女はそれなりの熱意と労力を注いできた。

『おおぉん?』

『おぉ~』

『うぉおん』

 ライブ会場は、ヴァンダルーや『剣王』ボークス達の活躍に感化された『街』の住人が『街』を広げようと工事を始めた事で出来ていた空地を利用し、クノッヘンになってもらった。


 ヴァンダルーが吸収した【魔王の骨】を何十何百本と提供され、強度を増したクノッヘンは魔大陸での鍛錬の成果もあってランク11のボーンパレスからランク12のボーンデスパレスへ、そして更にランク13のボーンパンデモニウムにランクアップを果たしていた。


 その大きさは正に万魔殿。東京ドームを敷地ごとすっぽり覆える程の規模になった。

 それを利用してステージを組み、観客席を配置し、しかも器用にバンド演奏もこなしている。……楽器は骨を加工した笛や、木琴ならぬ骨琴だが。


『カァサン……ザン……』

『カナカナ……ザディ……光……』

 そして照明などの演出は、ヴァンダルーから提供された使い魔王だ。一抱えほどの眼球から骨の腕が生えた、舞台の照明演出に特化した、照明型使い魔王である。


 【魔王の鉤爪】や【魔王の吸盤】でクノッヘンの骨を掴んだり張り付いたりしながら、【魔王の骨】で出来た腕で姿勢を制御。【魔王の発光器官】の輝きを【魔王の水晶体】のレンズで調整する仕組みである。

 だが、この使い魔王を通してヴァンダルーが見守っている訳ではない。


 魔大陸とバーンガイア大陸は距離があるため、ここはヴァンダルーの【群体操作】スキルの範囲外だ。また、タロスヘイムに置かれている疑似本体型使い魔王は魔大陸には存在しない。あまり疑似本体を作ると、ヴァンダルー本人の精神に混乱が生じる可能性があるからだ。


 そのため魔大陸の使い魔王はヴァンダルーの制御下には無い。そして【遠隔操作】や【群体操作】等のスキルの効果範囲外に身体の一部が存在する場合どうなるのかと言うと……本来なら動けない。精々刺激に反応して痙攣する程度で、意味のある動きはまず出来ない。


『カ……カ……カ……』

 だが使い魔王の場合は違う。使い魔王はヴァンダルーの一部だが、個体ごとにある程度存在が維持できるように作られていて、【魔王の眼球】や【魔王の触角】等感覚器官や、【魔王の副脳】や【魔王の神経】など不十分だが思考する器官がある。


 そのためヴァンダルーの制御下に無くても、使い魔王は動き続ける。思考力が動物並に落ち、スキルが殆ど使えなくなるが、使い魔王達はヴァンダルーが仲間と認める存在の指示を従順に聞く為、魔大陸の『街』では力仕事や工事で役立つ重機の代わり、『街』の外壁に魔物が寄って来ていないか見張る警備員として活用されている。


 そしてカナコは照明係等スタッフとして活用していた。

(細かく指示しないといけませんけど、欠点と言えばそれだけですしね。あたしの【ヴィーナス】で演出プランのイメージを伝えれば、その通りにしてもらえますし)

 対象を魅了する力と偽っていた、自身の感情や記憶を相手に焼き付けるチート能力【ヴィーナス】。それをカナコは遠慮無く使っていた。


 使い魔王は本来【異貌魂魄】スキルの効果でそうした精神的な影響を受けないのだが、本人が受け入れれば記憶の改竄等は無理でも、記憶やイメージを共有する事は可能だった。


(やっぱりこのライブ……ユニットはいけます! 後は移動手段として協力してくれているレギオンかグファドガーンを正規メンバーにしたいところですけど……やっぱりレギオンの誰かに頑張ってもらうしかないですかねぇ)


 そんな事を考えながらも、カナコ達はメドレー曲をミス無く……正確には、カナコ以外のメンバーが時々ミスするが、大きな影響は無く進んで行く。


 それを観客席で見ているボークス達は楽しんでいた。

『異世界の説法ってのは楽しいもんだな! まるで祭りだぜ! ザンディア、足をもつれさせて転ぶんじゃねぇぞ!』

「正確には、説法じゃなくてアイドルのライブか、コンサートね。『地球』や『オリジン』で歌って踊る説法は一般的じゃないわ。……無いとは言わないけど」


 応援グッズの光るスティックをリズミカルに振りながら声援を送るボークスに、口調は冷静なまま同じようにスティックを振っているプルートーが言う。

『そうなのか? それにしちゃあ『一週間連続説法』だって書いてあったぜ』

「ライブやコンサートだと意味が伝わらないけど、説法って言っておけば皆一度は聞きに来るだろうって、カナコが考えたみたいよ」


『確か、楽曲も振り付けも実は『オリジン』や『地球』の楽曲を少し変えた物らしいですね。私達は聞いた事が無いので分かりませんけど』

『この世界では真似しても分からないから、楽できるところは楽をすると言っていましたね』

『ヂュゥ、なるほど。やり手ですな』

 サリアとリタの言葉に、スティック代わりの自分の肋骨を振りながら骨人も頷く。


 前世では元アイドルだったカナコも、流石に作詞作曲振付まで一流だった訳では当然無い。出来ない訳ではないが、数か月でメドレー演奏が出来るだけの楽曲と振付を仕上げるのは流石に無理だ。

 そこで過去に自分が歌った曲や、聞いた曲を流用したらしい。流石に『地球』や『オリジン』の権利団体も、異世界まで取り締まりには来られないので、思い切ったらしい。


「おばあちゃん、頑張れ~!」

「それより、ザディリスは……あれで本当に目立たなくなるつもりなのか? 我は心配だ……」

「母さんは年単位で徐々にやると言っていたし、前に立つ回数も比較的少ないから、カナコがメンバーを増やして行けば、多分」

 一方、孫のジャダルがザディリスの艶姿にはしゃいで声援を送っている横で、祖父のヴィガロと母親のバスディアは大丈夫だろうかと心配していた。


『だけど、バスディアさんも誘われてますよね? そのメンバーに』

「そうなんだ。変身杖はもうヴァンに作ってもらっているしな。後は、『ぼいすとれーにんぐ』とダンスの練習をすれば、ステージに立てるらしい」

 リタの質問にヴァンダルーから既に受け取っている変身杖を見せて頷くバスディア。やはりカナコはアイドルユニットを魔法少女で固めるつもりらしい。


「私も興味が無いわけでは無い。士気高揚には効果があるのは見て分かるし、踊りは武術に通じるからな。グールアマゾネスの皆を盛り上げる事や、新しくタロスヘイムに参加したグール達を纏めるのにも役立つだろう。……母さんのように」

『ザディリスさん、自分で思っているよりもグールの人達に受けがいいですからね』


 タロスヘイムに後から参加したグール達にとって、部族の口伝にも伝わっていない程上位のグールであるザディリス達は、カリスマ的存在。正にレジェンドである。

 そのザディリスがステージに立っているのだから、注目されないはずがない。今も魔大陸のグールアマゾネス達が声援を送っている。


「カナコも流石にここまでは考えていた訳では無いと思うが」

『だけどよ、バスディアまでステージに立ったらますます注目されるんじゃねぇか?』

「そこが少し悩んでいるところなんだ。母さんは、長くても十年も過ぎれば流行も落ち着くと言っているから、なら良いかなと思わなくもないのだが」


「母さんも魔法少女になるんだよね!」

「ジャダルもこう言ってくれるしな」

 どうやら、バスディアはカナコの誘いを受ける方向で考えているらしい。ステージ上の母娘共演が実現する日は近そうだ。


「この世界のアイドルの基準が、最初から凄い事になるわね」

 今でもダルシアとザディリス、メンバーの内二人が子持ちなのだ。デビューした時には子供がいるアイドル……『地球』や『オリジン』なら色々な意味で注目されそうだが、『ラムダ』では彼女達がアイドルの先駆けである。

 将来の『ラムダ』の芸能界は凄い事になりそうだと、プルートーは思った。


「僕達はその前に、骨格があるように見せるダンスを踊れるようにならないとね」

「折角ゴーストが折れたのに、ダンスで躓くなんてね」

 シェイドとイシスがプルートーの口を借りてそう言ったのに、彼女は「その通りね」と頷いた。外見は人間そっくりに変身できるようになった彼女達レギオンだが、それは見た目だけで骨が発生した訳では無い。


 そのため、ダンスの様な激しい運動をすると奇怪な軟体舞踊になってしまうのだ。

「いっそ、手足の骨と背骨を変身している間だけでも埋め込もうかしら」

『それはいい考えですな。説法が終わったらクノッヘンに一人分の骨を分けてもらいましょう』


『おお、プルートーさんのデビューも近いですね! 姉さん、やはり私達も!』

『リタ、私達は本来ダルシア様の護衛と警備スタッフとして来ているんだから、メンバーになってどうするの』

『……ところで、そろそろその警備の交代の時間なのだが』

 ミハエルが控えめに時間を告げた事で、一旦会話は終わった。しかし、彼女達とは別の一団が行っていた不穏な会話は誰にも咎められる事無く続いていた。


「やはり許せん……いや、許すべきでは無い」

「そうよ。あんな事をしておいて……」

 身長三メートル前後の逞しい身体に二本の角や鉤爪を生やし、腕や脚、肩等に鱗を生やした鬼竜人と、皮膜の翼や竜の尻尾を生やした魔竜人達が呪詛を込めて囁く。


「許せん……ハインツとその一党め。奴らは何の罰も受けていない」

「全くだわ。私達の聖母を捕まえ火炙りの刑にして殺しておきながら、今も英雄面をしているそうじゃないの」

 ただ、呪詛が向けられているのはステージのメンバーでは無く『五色の刃』のハインツ達に対してだった。


 ダルシアはヴァンダルーとの冒険を主に語り、殊更自分を直接拷問し処刑したゴルダン高司祭や、背後で糸を引いていた邪神派の吸血鬼達、そしてハインツを糾弾した訳では無い。

 彼女の目的は集まった観客にヴァンダルーの事を知ってもらい、そしてこの催し物を楽しんでもらう事だからだ。


 しかしそうしたダルシアの心遣いに比例して、「こんな良い人を惨たらしく殺し、幼かったヴァンダルーが長年苦労する原因を作った」と言うハインツ達への悪感情も高くなる。

 聴衆達にとって『ヴィダの化身』であるダルシアは、正に現人神。早くも聖母として信仰する者も出始めているその聖母を殺した者達が、遠い異国で英雄として崇められている。怒りを覚えずにはいられない。


「聖母殺しめ……」

 そうハインツを罵る声は静かに、根深く広まって行った。

 そしてこうした動きは、実はタロスヘイムや境界山脈内部の国々では既に起きている事だ。特にヴァンダルーから話を直接聞く事が多いタロスヘイムの人々にとって、ハインツの名は悪漢の代名詞に等しい。


 ただ今までは呪詛が何か形になった事は無かった。今まではだが。


 そして曲が進み、説法と評したコンサートも終わりに近づいた時、空に巨大な二柱の女神、『山妃龍神』ティアマトと『月の巨人』ディアナが現れた。


『皆よ、鎮まるがよい。今日はこのめでたき日に、贈り物を贈ろうと思い妾達はやって来たのだ』

 まさか大規模な魔物の暴走か、それともアルダ勢力の襲撃か。そう驚いた観客達はティアマトの声に落ち着きを取り戻した。


「贈り物、ですか?」

 戸惑いを浮かべるダルシアに、女神達は頷く。

『うむ。妾から贈るのはダルシア、汝では無くヴァンダルーにじゃが。

 皆よ、我が子等よ、ヴァンダルーはこの『街』を治める皇帝。我が子等魔竜人と鬼竜人を総べる皇帝、そして妾達を率いる者じゃ。

 故に、此処にヴァンダルーに『龍帝』の二つ名を贈ろうと思う』


 以前『晶角龍神』リオエンが贈ろうとして失敗した『竜帝』の二つ名より上の、龍の帝と言う二つ名を贈ると言うティアマト、現状最も上位の龍の宣言に一瞬観客達は静まり返り、次の瞬間爆発するような歓声を上げた。

『反対意見は無いようじゃな。こうして皆も同意すれば、既にフィディルグやルヴェズフォルを従えているヴァンダルーなら、確実に二つ名を獲得するであろう。……そう言えばあのパウヴィナは何処かの? 龍姫とでも名付けて、加護を与えようかと思っていたのじゃが』


「パウヴィナちゃん達は昨日までは観客席で応援してくれていたんですけど、今日はルヴェズ君を連れてジーナさんやラピちゃん達と一緒にダンジョンに行っています」


『そうか、タイミングが悪かったの。では帰って来たら何時でも良いから妾の神像の前に一度来るようにと言付けておくれ』

『外堀を全て埋められずに残念だったな』

『はて、何のことかの』


 とぼけるティアマトにディアナは溜息をつくと、カナコやザンディア、ザディリス、バスディアとレギオンに目を向けた。


『私からは、加護を贈ろう。ヴァンダルーを支える一助とせよ』

 月の巨人である彼女が淡く輝き、その輝きがカナコ達を包む。

「凄い、これが加護ですか!?」


『そうだ。私に近い者にしか与える事は出来ないが……思ったより多いな、私に近い者。ちょっと驚いたぞ。

 ザンディアよ、汝の二人の姉には我が兄が目覚めたら加護を貰う様にと伝言を頼む』

 想定したよりも多くの者に加護を与えられた事に驚いた様子のディアナは、そうザンディアには話しかけて光るのを止めた。


『あ、はい! ……って、タロス様って復活するんですか!?』

『ああ、ヴィダを庇おうとしてベルウッドやナインロードに手酷くやられたから時間がかかったようだが、そろそろだろう。……もしかしたら、頭の上に大勢の酔っぱらいが騒いでいるから出るに出られないだけかもしれんが』

『え? 酔っぱらい?』


『後でヴァンダルーに聞けば分かる』

 そう答えると、空に映っていたディアナの姿は消え、ティアマトも同じように姿を消した。

「なるほど……これは大変な事が起こりそうですね」

『そうだね、タロス様の復活……姉さんとジーナ姉ぇを呼び戻さないと』


「お客さん達の盛り上がりが半端じゃありません。アンコール演奏しないと、とても収まりそうにありませんが……どの曲にしましょう?」

『そっち!?』

「まあ、確かにそれも大変じゃがな。……ところで儂、そろそろ喉が……」


 その後急遽『街』の音楽家や歌自慢に協力してもらい、休憩時間を挟んで喉の調子を整えたカナコ達はアンコール演奏を何度か行ってコンサートは盛況のうちに終わったのだった。




 その頃アルダのダンジョンで新たな階層に挑もうとしていたハインツの脳裏に、不意にアナウンスが流れた。




《【聖母殺し】の二つ名を獲得しました!》




「な……何だって、私が『聖母殺し』!?」




・名前:クノッヘン

・二つ名:【万骨殿】(NEW!) 【コンサート会場】(NEW!)

・ランク:13

・種族:ボーンパンデモニウム

・レベル:1


・パッシブスキル

闇視

剛力:5Lv(UP!)

霊体:10Lv(UP!)

骨体精密操作:2Lv(骨体操作から覚醒!)

物理耐性:10Lv(UP!)

吸収回復(骨):10Lv(UP!)

城塞形態:8Lv(UP!)

分体:10Lv(UP!)

能力値強化:城塞形態:7Lv(UP!)

能力値強化:創造主:5Lv(UP!)

自己強化:導き:5Lv(UP!)


・アクティブスキル

忍び足:2Lv

ブレス【毒】:10Lv(UP!)

高速飛行:6Lv

射出:10Lv(UP!)

並列思考:10Lv(UP!)

建築:3Lv(UP!)

楽器演奏:2Lv(NEW!)

舞踏:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

■ァンダルーの加護

骨群操作:3Lv(遠隔操作から覚醒!)




・魔物解説:ボーンパンデモニウム ルチリアーノ著


 骨の万魔殿。伝説ではおぼろげに語られているだけで、概念上の存在でしかないと考えられているある意味最強のアンデッドである。

 名の如く万の骸骨の軍勢を展開する。動くアンデッドモンスターの巨城である。その規模は大国の城を越え、山に例えた方が現実を伝えられるだろう程だ。


 例えA級冒険者パーティーでも、S級冒険者でもこれを相手にしたい者はいないだろう。下手をすれば、自分が餓死するまで戦い続けなければならないのだから。


 そしてクノッヘンの場合は更に厄介だ。師匠が【魔王の骨】を「喜んでくれるから」とペットを甘やかす感覚で数え切れない程与えているので、所々オリハルコンの武具でも装備しなければ傷つけられない骨が混じっている。

 正直、もうクノッヘン一人でミルグ盾国ぐらい落した挙句首都を占領統治出来るのではないだろうか? 無数の分体を派遣して住民を見張るなり、始末するなりする事が可能だし、本人が戦略上の拠点になる。


 山を割るようなA級冒険者やそれ以上のS級冒険者が出張って来ても、クノッヘンには手を焼くだろう。こう言った魔物のお約束である「中心となる核を破壊する」と言う攻略法が通用しないのだから。

 尤も、防御力と数に特化しているが攻撃力が低いのと攻撃手段が少ない等、改善点が無いわけでは無い。ただ、それはランク13にしてはという意味で、並のA級冒険者ならゴリ押しで圧殺する事が可能である事は疑う余地は無い。


 そんな彼が何故かコンサート会場になっていて、しかも【楽器演奏】や【舞踏】のスキルを習得している。

 やはり異世界人の発想は侮れない物がある。それに自分の経験や記憶も焼き付ける事が出来る【ヴィーナス】の力も。

6月29日に、197話を投稿する予定です。


一二三書房様でサーガフォレスト創刊2周年フェアが開催中です! 拙作「四度目は嫌な死属性魔術師」も創刊2周年記念SSペーパー特典で参加しております。

配布店舗等詳細は、一二三書房公式ホームページでご確認ください。


5月15日に「四度目は嫌な死属性魔術師」の2巻が発売しました! もし見かけましたら手にとって頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歌、踊り、物語は古来信仰と深く結びついている要素で現代でもわりと一般的ですね オルガン弾いて讃美歌歌ったり、節をつけたり楽器鳴らして読経や祈祷したりなんかはわかりやすいところで 文字の前には…
[一言] ハインツの唐突な二つ名【聖母殺し】獲得に草
[一言] 《【聖母殺し】の二つ名を獲得しました!》 …絶対に獲得すると思った‼️
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