百九十話 嵐と蝕
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【超感覚】のカオル・ゴトウダが置き手紙を残して消えた事は、【シルフィード】のミサ・アンダーソンや【オーディン】のアキラ・ハザマダには、衝撃的な出来事だった。
だが【クロノス】のジュンペイ・ムラカミにとっては痛手ではあったが、驚きには値しなかった。
「ここ暫くの間に、それなりにやって行けるようになったからな。この遅れた世界でも」
前世で習得した魔術の腕を抑え、チート能力を出来るだけ使わないようにして地道に鍛えながら過ごしてきたお蔭で、ムラカミ達は全員がC級冒険者に昇級する事に成功していた。
転生して手に入れた肉体の年齢が十代半ばであるため、C級冒険者としては注目されてもおかしくない程の若手だ。しかし今まで何度も拠点にする町を変えてきたお蔭で、それほど目立ってはいない。……普段から自分達の等級や実力をひけらかすような真似をせず、目立たないよう行動している事も大きい。
今この町で彼等がC級冒険者である事を知っているのも、ギルドの職員と一部の冒険者ぐらいだ。
そんな気を使わなければならないC級冒険者にまでムラカミ達が昇級したのは、魔術の腕が優れていたり、ユニークスキル(チート能力)を持っていたりする事がばれても、この等級ならそれほど疑われずに済むと推測したからだ。
C級冒険者は、D級以下の冒険者から超人の領域であるB級に向かって一歩踏み出した存在だ。だからそうした特技があっても、「なるほど、だからあんなに若くてもC級になれたのか」と納得するだろうと。
それにC級冒険者になるとD級以下とは手に入る情報の質が変わる。町の情報屋とコネクションを作るのも楽に済む。
そして何より、欲しい装備を購入するのに十分な収入が得られる。
この世界の杖は『オリジン』より技術力で劣っている。グローブと腕時計が一体化した様な外見をした『オリジン』の軍用杖のように、優れた機能性と携帯性を併せ持つ魔術媒体は望むべくもない。
しかしこの世界には『オリジン』には存在しなかった、魔物の素材や魔導金属が存在する。そのため、ムラカミ達の目から見ても有用な装備やマジックアイテムが幾つも存在していた。
だが、それらを購入するために十分な収入はこの世界でも十分な生活を過ごす事が出来る経済力に繋がる。
「それであいつは『このままでも良いじゃないか』と思ったんだろう。危ない橋を渡って、『地球』に生まれ変わる事はないと」
C級冒険者の収入なら、ムラカミ達から見ても十分豊かな生活を送る事が出来る。カオルはロドコルテの報酬よりも、この世界でそれなりの人生を生きる事を選んだのだろうとムラカミは断言した。
それに、『第八の導き』に潜入していた時と違ってムラカミ達の社会的な身分は、普通の冒険者でしかない。地理的にも開かれており、逃げようと思えばすぐ逃げられる環境なのも彼女の背を押した要因の一つだろう。
「チッ、流されやがって。この世界で一生魔物相手に命がけの仕事を続けるつもりかよ、俺達やヴァンダルーの影に怯えながら。馬鹿じゃないのか」
「もしかしたら、情にでも流されたのかもね。男が出来たとか。私達に対する裏切りには変わりないけど」
「ムラカミさん、本当に追わなくて良いのか? もしあいつがヴァンダルーに捕まって命惜しさに俺達の事を喋ったら拙いぜ」
アキラとミサがそう口々に言うが、ムラカミはカオルを追うつもりは無かった。
「追っても無駄だ。カオルは前から準備してこのタイミングで逃げた。なら、もうこの町には居ないだろう。そうなると追いつくには時間がかかる。
捕まえてどうする?」
「どうするって、そりゃあ……簡単には殺せないよな」
「当たり前だ。傍から見れば、カオルはただ冒険者パーティーから勝手に抜けただけだ。褒められた事じゃないが、それで殺したら俺達はお尋ね者だ。……ばれないように殺すにしても、準備やら作戦やら面倒だ」
それにカオルのチート能力は【超感覚】だ。五感が鋭くなるだけと言えばそうだが、その鋭さはある意味超能力じみている。彼女の耳や鼻に気がつかれずに接近する事は、まず不可能だ。……『第八の導き』のゴーストが近づけたのは、その特異な隠形の力故であってムラカミ達にその力は無い。
追って見つけていざ口を封じようとしても、先に察知される可能性が高いのだ。余程念入りに作戦を練らなければならない。
「それに考えても見ろ。奴もヴァンダルーからは逃げるはずだ。そう簡単に見つかるような事は無いだろ」
「確かに、考えてみれば…。カナコ達のように寝返るつもりだったら、流石にロドコルテから警告も来るだろうし、心配いらないかも知れないわね」
ミサがふと口にしたロドコルテの名に、ムラカミは胸中で舌打ちした。何故ならロドコルテは知っていたはずなのだ。カオルが自分達から抜けて逃げだすつもりである事を。
それなのに警告も何も無かったのは、単純にカオルに注意を払っておらず見過ごしたのか、それとも彼女がいなくてもムラカミ達三人の行動に支障は無いと考えたのか。
(警告しても仕方がないって事かもしれない。抜けると決心していた以上説得しようがないし、トラブルに発展する前に穏便に消えて貰った方が良いと考えたのかもな)
ムラカミには他人の記憶を改竄し、意思を捻じ曲げるような力は無い。言葉でカオルを説得できる可能性が低いのだから、下手に揉めて刃傷沙汰に発展して死人が出てまたやり直しになるよりはと考えたのかもしれない。
(こういう時に、カナコの能力があったらとは思うが……無い物ねだりをしても仕方ないな)
無意味な仮定に逸れていた思考を元に戻して、ムラカミは残ったアキラとミサ、二人の仲間に対して宣言する様に言った。
「カオルがいなくなったのは残念だが、ヴァンダルーを殺す作戦は変わらない。あいつがいなくなった分の穴を塞ぐ方法は考えるが、お前等がいればどうとでもなる。
これからも頼むぞ」
「ああ、任せてくれよ。前世とは違うと証明してみせる」
「『オリジン』での失態は今生で取り返すわ」
そう請け負う二人に、これ以上手勢が減ったら困るムラカミは頷いた。
「奴を殺して、このきな臭い世界とは縁を切って、俺達は異世界で人生をやり直す。カオル達を尻目にな」
ロドコルテは未だに何も言ってこないが、ムラカミはこの『ラムダ』世界が危険な状態になりつつある事を察していた。
最近冒険者ギルドで聞いた噂……【魔王の欠片】の暴走や、それまで生息していなかった高ランクの魔物の出現。それに合わせたかのように、冒険者や騎士が神に選ばれ神の加護を授けられ、神殿に保管されているアーティファクトを贈られる事が増えている。
噂の中には、【魔王の欠片】や魔物の暴走に居合わせた冒険者や兵士に、直接神の分霊や御使いが降りてきて加護とアーティファクトの両方を授けられ、それらを討伐したと言うものまである。
どう考えても普通では無い。この世界の多くの人々とは違い信心が薄く捻くれた精神の持ち主であるムラカミには、神が故意にトラブルを起こし、それを事前に選んだ人間に解決させ英雄に仕立てているようにしか思えなかった。
何故神々がそんなマッチポンプをするのか……それは大勢の英雄を必要としているからだろう。
(そして、そこまでしてでも英雄を揃える必要があるって事はこの世界が危険な状態にあるって事だ)
英雄が求められている世界程、危うい場所は無い。
その危険な状態に陥っている要因の一つは間違いなくヴァンダルーだろうが……そのヴァンダルーを殺しただけで何もかもが解決するともムラカミには思えなかった。
こんな面倒で生き難い世界、さっさと出て行くに限る。
月と星が輝く夜空の下、マルムークを経由したシュナイダー達はタロスヘイムへの移住希望者を連れて、待ち合わせの場所に来ていた。
「前に連絡した時より、大人数になっちまったが、大丈夫だと思うか?」
「……さあな。伝言を頼んだ奴には、『千人でも二千人でも、いるだけ連れて来てください』って言っていたそうだが」
「額面通りに受け取って千人も集めてどうするのよ……」
ぼそぼそと言い合うシュナイダーとドルトンの背後から、女ドワーフのメルディンが半眼になってそう指摘する。千人と言えば、この世界では小規模な町の人口とほぼ同じであり、簡単に受け入れられるものでは無い。
勿論シュナイダー達も、最初は移住希望者を百人程に抑えるつもりだった。そしてその百人の中には、そのまま移住するのではなく、隠れ里にタロスヘイムの様子を伝える為の視察に来た者達が半分以上含まれているはずだった。
だが各隠れ里を巡っていたら、思った以上に切迫している状況の隠れ里が多く、「冒険者が来ない土地なら、荒野や砂漠でも構わない」と言う者もいた。
特にシュナイダー達が接触して、初めて自分達がヴィダの新種族であると自覚したグール達に多く居るようだった。
そうした者達を【転移】で移動させて集めていたら、この数になったのである。
「まあ、仕方ないわよ。他の隠れ里も人数や食料にそう余裕がある訳じゃないんだから、匿ってもらう訳にもいかないし」
「それに我々ヴィダの新種族は、種族ごとに生態が異なりますからな。一時的にとは言え、馴染みの無い種族と同じコミュニティで暮らすのはトラブルの元です」
リサーナとゾッドがそう二人をフォローする。
「もしタロスヘイム側の食糧が足りないなら、アイテムボックスの食材を提供すると言う方法がありますからな。尤も、妻子を匿ってもらう以上、これ以上の迷惑はかけたくないのですが……仕方ありますまい」
「そう言えば、レイチェルとジークは馬車の中?」
「ええ、勿論休ませています。大切な身体ですので」
レイチェルとは、アミッド帝国の皇帝マシュクザールが主導した工作によって、記憶を改竄され彼の子を孕んだ状態で【暴虐の嵐】に送り込まれた女性だ。そしてジークとは、その後生まれたマシュクザールの血を引く赤子である。
その二人を何故ゾッドが妻子と呼ぶのかと言うと……そう言う事であった。彼の正体が原種吸血鬼ゾルコドリオである事を知っている者には驚かれたが。吸血鬼とは、そうした欲求は薄いか殆ど無いのではないのかと、ダークエルフや他のヴィダの新種族の長老衆もそう言って目を丸くした。
それに対してゾッドは、「何と、吸血鬼はそう言うものだったのですか」と逆に驚いたと言う。……十万年前のヴィダとアルダの戦いで封印され、数年前シュナイダー達の手によって封印を解かれた彼の主観では、人種から原種吸血鬼に変化して百年と少々しか経っていないのだ。寿命の無い吸血鬼にとっては、それほど長くない年月である。そのため、ゾッドは自分の生態が人種だった頃からどれ程変化しているのか、性欲の減退などから見ると些細な点まで自覚しきっていなかったようだ。
それに、十万年前は魔王グドゥラニスとの戦争で荒廃した世界の復興と新種族達の為の国づくりの為に忙しく、【暴虐の嵐】に加わってからは時代の変化に夢中でそれどころでは無かったのである。
そんなゾッドがレイチェルと結ばれたのは、特別な理由は無い。偶々彼がレイチェルと話す機会が多く、性格等相性が良かった。そうして惹かれあった結果として結ばれ、結ばれたなら妻が夫を求めるのは必然で、それに応えようと夫が思うのも道理だろう。
そうした経緯の結果、ゾッドはジークの義理の父親になり、レイチェルの中には彼との間に出来た第二子が成長している。
今ではその経緯に皇帝の作為があったのではないかと、レイチェルと結ばれたのは彼女がマシュクザールの手の者に記憶を消された後、彼女の意識に『暴虐の嵐』のメンバーに取り入るよう命令が刷り込まれていた、洗脳されていたからではないかと疑う事は出来る。
しかしゾッドはそこに拘らない。それがただの考え過ぎなら、考える意味が無い。事実だったとしても、後十年と持たず失脚する男の謀に拘って自らの愛情を否定するのは、愚かな事だ。
「繰り返しますが、妻は大事な身体です。例の件についてはまだ内密に」
だがレイチェルと、幼いジークには真実はまだ伏せてあった。
「分かってる。お前の子供だって思うとドラゴンに踏まれても平気そうだが、レイチェルは違うしな。だが、ヴァンダルーにはもう伝えてあるぞ」
シュナイダーの言う通り、レイチェルとジークについての真実を、移住先の為政者であるヴァンダルーには黙ってはいられない。
下手をすると将来戦争の火種になりかねないからだ。これが普通の国の王侯貴族相手ならシュナイダーも全てを教える必要は無いと思うのだが、ヴァンダルーは彼が信仰するヴィダの御子……それも直接女神と交流があるような人物である。
秘密にするよりも、自分から打ち明けて信頼を得ておいた方が良い相手だと判断したのだ。
「無論、覚悟の上です。……大丈夫だとは思いますが。我が女神の御子でありますし」
「そうだな、懐が深いのか無関心なのか微妙だが、多分ジークの出自にも拘らないと思うぜ」
ゾッドの言葉に、この中で唯一ヴァンダルーと直接会った事があるドルトンがそう保証する。
ただの印象だけでは無く、根拠もある。ヴァンダルーが復讐の対象だったミルグ盾国の軍務卿、トーマス・パルパペックの妻子や部下、使用人に一切手を出そうとしなかった。それどころか、警備の騎士すら殺さず意識と記憶を奪うだけに留めていた。
それは博愛の精神では無く無関心から来る寛容さのようにも見えたが、懐の深さも垣間見えた。
勿論、属国の伯爵の妻子とアミッド帝国皇帝の息子では立場や価値に大きな差があるのだが、それも込みでドルトンは楽観していた。
「それにもしダメだったとしても、ゾッドが籠絡すれば解決だ」
ヴァンダルーが筋肉に強い執着を持っている事を知っている。彼なら筋肉の化身であるゾッドがパンプアップしながら頼めば、多少の無理は嬉々として頷きそうだ。
……実際、ヴァンダルーはゾッドの事を「ゾルコドリオ様」と崇めているのだが、流石にそれはまだドルトン達には伝わっていなかった。
「まさかこの筋肉が脅迫以外で交渉に役立つ時が来るとは……ドルトン殿、シュナイダー殿、もしもの時は助勢をお願いしますぞ」
「おう、任せとけ!」
「……ちょっと自信無くすわー。別に色仕掛けしたい訳じゃないけど」
「私も微妙かも」
リサーナとメルディンが半眼になってそう呟く。二人共タイプは異なるが、異性を惑わすには十分すぎる魅力を持つ美女だ。しかし、ヴァンダルーを籠絡するのには適当とは言えない。
「俺はパスだな。歳のせいか二十代や三十代の頃より痩せて来たし、衰え盛りの五十代の筋肉なんざ、誰も見たくないだろう」
シュナイダーがそう言い出したのは、そんな二人に不必要な配慮をしたからでは無く、本当にそう思っているからだった。
「いや、違うんだって。言っとくがマジだぞ、四十代になった頃に服のサイズが落ちたんだ!」
「それは衰えたんじゃなくて、引き締められたの! 無駄な筋肉が落ちて機能的な体つきになっただけよ!」
言い終わった瞬間周囲から集まってくる「またこいつは……」と言う呆れが混じった視線に、慌てて違うんだと主張するシュナイダーに、すかさずツッコミを入れるリサーナ。
「健康趣味は良いけど、年寄りぶるのは止めなさい! 皆も何か言いなさいよ!」
「そうですな。しかしリサーナ殿、先方が着いたようですぞ」
「えっ? これは……」
ゾッドが指差した先の空間には、黒い円盤状の何かが発生していた。リサーナ達は、それが空間に空いた穴だと直ぐ理解した。
何者かが此処に空間を渡って現れようとしている。
「……お初にお目にかかる、『迅雷』のシュナイダー、希代の精霊魔術師ドルトン。そして十万年の時を超え再会できたことを、光栄に思います。原種吸血鬼ゾルコドリオ様」
耳に心地よい、しかし平坦な口調の声と共に穴から現れたのはエルフの少女だった。
肉感的な体つきのリサーナとは逆に凹凸の薄い、銀髪に白い肌をしたか弱そうな、だがどうしようもなく人形を連想させる。
そんな少女が、普通の存在ではない事をシュナイダー達は感じ取っていた。
「あんた、邪神か悪神か。ゾッドに会った事があるって事は、リサーナみたいにヴィダ派に付いた転向組か」
「いや、お待ちください、シュナイダー殿。転向組の邪神悪神と言えど、私に様を付けて呼ぶような方はいなかったはず。貴殿はいったい?」
「申し遅れました、私は『迷宮の邪神』グファドガーンと申します。この度は、我が主ヴァンダルーより皆様の送迎を申し付かりました」
少女、グファドガーンがそう自己紹介すると、ゾッドとリサーナは暫し硬直し、その後仰け反って驚いた。
「何とっ!? あのザッカート殿の背後邪神のグファドガーン!? 信じ難いが、この魔力は確かに……!」
「ええええええっ!? 何でそんな姿になって、しかもゾッドを様付で呼んでるの!? ザッカート以外とは殆ど会話しなかったあんたが!」
思わず叫んだゾッドとリサーナの言葉には、十万年前のグファドガーンがどんな風に思われていたのかが現れている。二人とも十万年前はそれ程グファドガーンと親しかった訳では無いのだが……それでも記憶に濃く残るほど、彼女のザッカート信仰は突き抜けていたため周囲から奇異に映っていたのである。
「偉大なるヴァンダルー・ザッカートが崇める存在に、僕たる私が無礼を働く訳にはいかないからです。
お前、いや、あなたはヂュリザーナピペか。気がつくのに遅れて申し訳ない」
一方、当時のグファドガーンはゾッドとリサーナと話した事も無かったので、実は名前と顔ぐらいしか覚えていなかった。なので、実は再会したと言う感動はあまり無い。
「崇めるって、その子、そこまで筋肉が好きなの? って、いうかザッカートって、本格的に二代目になったの?」
「ふむ……流石に若干プレッシャーを覚えてきましたぞ。ですが、その姿に成った理由は如何に?」
時間があれば二人の疑問について説明し、この寄り代がザッカートの嗜好に叶っている事がまた証明された事に悦に入りたいグファドガーンだったが、深夜に千人程の移住希望者を待たせ続けるのはどうかと思ったらしい。
「説明は、送迎が終わった後に。では、順番にこの【転移門】を潜ってタロスヘイムに向かってほしい」
黒い空間の穴、【転移門】を潜った先はヴァンダルーが建設を急いでいた移住希望者用の新市街地の広場だった。
全体的には未完成だが、半分以上の建物には居住が可能で、家具も最低限だが運び込んである。
「移住希望者の皆さん、これから説明会を行います! 体調が思わしく無い方は申し出てください!」
「思ったよりもグールが多いようじゃな。皆よ、町が気になるのは分かるが今は大人しくこの広場で待つのじゃ!」
そして声を張り上げて気真面目そうなサキュバスと、変わった杖を持ち額に第三の目がある少女の外見を持つ女グール、イリスとザディリス、他にも何人ものヴィダの新種族達が指示を出していた。
「なるほど……こいつは大したもんだ。千人でも二千人でも連れて来いってのは、冗談じゃ無かったらしい」
移住希望者もだが、シュナイダーも町の建物を見て驚き、感心していた。
どの建物も作りがしっかりしていて、人間社会なら普通に不動産屋が高値で取引する類の家だ。貴族の屋敷並とは言わないが、平均的な中流層の人間が住むには十分な作りと広さのように見える。
「ここからじゃ町全体は見えないが、千人どころか一万人連れて来ても問題無さそうだな」
これを移住希望者がいるとシュナイダー達が伝令に寄越した者から聞いた後に建て始めたのだから、その建築能力は凄まじい。似たような家が多くてやや没個性だが、それは一人が建築を指揮した結果である。
「……ところでグファドガーン、何でさっきから黙ってんの? 説明は?」
リサーナが【転移門】を閉じた後はまるで置物のように黙ったままじっとしているグファドガーンに話しかけると、彼女は淡々とした口調で答えた。
「私は、あなた達が主を讃える言葉を聞き、優越感に浸っていたのです。ヂュリザーナピペ」
「そ、そう。あなた色々変わった……のかしら? それとも、ずっと前からこういう奴だったっけ?」
「説明は、これから主によって行われる。拝聴する事をお勧めします」
グファドガーンが無表情な瞳の中に恍惚とした光を宿して見つめる先を見ると、そこにヴァンダルーがいた。
「では、タロスヘイム皇帝ヴァンダルー・ザッカート陛下主催の説明会を始めます!」
【念動】で浮かせているらしい椅子に腰かけた小柄な人物を、イリスが紹介する。
「…………」
ぐったりとした様子で椅子にもたれかかった。十代に入ってからそう時間が経っていないように見える白髪と屍蠟のような肌をした少年。その真紅と紫紺のオッドアイからも、まるで死んだ魚のように生気を感じない。
普通なら威厳やカリスマ性は全く感じられないだろう。
「おぉ……!」
「あれが、『ヴィダの御子』……『蝕帝』!」
しかし移住を希望してやって来たヴィダの新種族達の目には違うものが映っていた。強大な何かが降臨したかのような強烈な存在感を覚え、しかし圧力では無く優しく包み込まれるような……心地良いぬるま湯につかっているような安心感があった。
それらをどれ程感じるかは個人毎に違いがあるようで、獣人やダークエルフ、竜人は高揚した様子で見つめるぐらいだが、魔物にルーツを持つ種族、鬼人やラミアは頬を染めて熱狂的な視線を向ける。
「うぉぉぉぉぉ!」
「話には聞いていたけど……これが『グールエンペラー』!」
特にグール達の反応は顕著だった。感極まって涙を流しながら咆哮し、高鳴る胸を思わず押さえ、気がつけば膝を地面に突いている。
「何と、何と言う事でしょう……!」
それはブラッドポーションを飲み、深淵種の原種吸血鬼、深淵原種に変化したゾッドも例外では無かった。興奮のあまり無意識のままパンプアップし、困惑と懐かしさが混ざった眼差しでヴァンダルーを見つめる。
「おい、ゾッドどうした!?」
普段は落ち着いている仲間がいきなり戦闘態勢になった事に驚いたドルトンが声をかけるが、彼の耳には殆ど届いていない様子だった。
「私には今まで三人の親がおりました。人種として生まれた時の両親と、原種吸血鬼となった時に祝福を賜った真祖様です。
ですが、あの方からも同じ親しみを……同じ血が流れている事を感じる。二つ名は聞かされていたので、ある程度の影響はあるだろうと思っていましたが、ここまでとは」
約十万年もの間封印されていたゾッドだが、自由だった時間だけでも百年以上生きている。そして何より、肉体を持っているため純粋な神ではないが、龍や真なる巨人と同じく亜神と呼べる存在である。
そんな自分が生まれて十年と少々しか経っていない少年を、親としか思えないとは完全に予想外だった。
「そこまでなの? 私はなんだか凄そうって感じしかしないけど」
『暴虐の嵐』の中で一番受けた影響が軽いメルディンがそう尋ねると、感極まってそれどころでは無いゾッドではなくリサーナが答えた。
「うん、かなりの物だと思う。二つ名の効果や【導き】だけじゃなくて魔力と……魂も。正直、痺れるわ」
転生した邪神であるリサーナは、ヴァンダルーの魔力と魂の形を感じ取っていた。
黒く底の見えない魔力に、邪神である彼女の目から見ても異形としか言い表せない魂。そうでありながら、とても穏やかなのだ。
【魔王の欠片】を幾つも吸収していると聞いているが、魔王グドゥラニスとは印象が全く異なる。グドゥラニスは恐怖と力故に頭を垂れずにはいられなかったが、ヴァンダルーは……気がついたら近くで憩いてしまいそうな雰囲気があった。
「シュナと会っていなかったら、コロっといってたかもしれないぐらい?」
「そこまで!?」
「然り。これがヴァンダルーの偉大さ、その一端です」
リサーナの言葉に驚くメルディンに、彼等と一緒にヴァンダルーの説明を恍惚とした様子で聞いているグファドガーンが頷く。
「魂の形は俺には見えないが、そうした諸々も合わせて【導き】って奴なんだろうな。やっぱり凄ぇな、【導士】は」
特にリサーナに何か言う事も無く、シュナイダーはそう感心していた。
『迅雷』や『飛行人製造者』等数々の二つ名を持ち、アミッド帝国の勢力圏だけでは無くバーンガイア大陸全土に名を轟かせてきたS級冒険者、シュナイダー。彼は導士系ジョブに就いた事が、一度も無い。
敢えて選ばなかったのではない。一度もジョブチェンジ可能なジョブとして表示されなかった、成れなかったのだ。
表のS級冒険者としての立場でも、裏のヴィダ信者としての立場でも、数多の功績を打ち立てて来た。倒した魔物の数は知れず、それで救った人々の数も無数。
それでも、【導士】には成れなかった。
そんな導士系ジョブについて、シュナイダーは片手間にだが調べていた。
彼にはもう圧倒的な力があったため殊更【導士】を目指していた訳ではないが、ここまでした自分が成れないジョブだと思うと、若干興味が湧いた。幸い、ザッカートを始めとした勇者達と面識があったリサーナやゾッドがいたので、手がかりは簡単に手に入った。
それでシュナイダーなりに推測した答えは、【導士】とは読んで字の如く導く者であると言う事だ。
自らが先頭に立って目標を掲げ、思想を説き、導いた者達を治める。そうした者達が就く事が出来るジョブである。
この推測なら、七人の勇者達全員が【導士】だったのも頷ける。異世界から来た勇者達は人々の先頭に立って平和を取り戻す目標を掲げ、異世界出身故にこの世界の者達にとって新鮮な思想をそれぞれが持っていた。そして生き残ったベルウッドやナインロード、ファーマウンは魔王や、ヴィダ派との戦いの後もそれぞれ国や組織を興している。
伝説に残っている他の【導士】も、似たり寄ったりだ。シュナイダーとは違う。
ヴィダの新種族を保護すると言う目標を掲げ第一線で戦って来たが、表向きには身分を偽っていたし、何かを説いた覚えも無い。治めるなんてやった事も無い。
表と裏、両方で動く冒険野郎としての在り方が彼の性に合っていたのだ。
「もし俺がヴィダ信者とヴィダの新種族を率いて帝国相手に革命戦争でも起こしていたら、俺も【導士】だったかもしれないけどな」
「うわ、似合わない。そんな事やるつもりだったの?」
意識せず漏らした呟きをリサーナに聞かれたシュナイダーは、苦笑いをして続けた。
「まあ、お前とゾッドと会わなければ、それでヴァンダルーが出て来なければ最終的にはやったかもな。裏で保護するにも限界が在ったし、俺が老いさらばえて死んだ後どうなるか分からなかった。
なら、老兵として去る前に大仕事をしなけりゃならなかったろうよ」
アミッド帝国相手の大暴れ。それはそれで面白そうだが、出来ればやりたくは無い事だ。どんな展開になったとしても、流れる血が多すぎる。
そんな決断を下さなければならない程追い詰められる前に、寿命を持たない邪神のリサーナや吸血鬼のゾッドと出会い、そして自分の代わりに自分よりずっと上手くヴィダの新種族達の国を建てたヴァンダルーが出現したのは、僥倖だった。
「……いや、だからあんた不老でしょ。ステータスにもユニークスキルとして出てるじゃない」
「いや、あの【不老】って見た目が若いままとか、そういう意味だろ。実際、白髪になっちまったしな」
「リサーナ、もう諦めようよ。これがシュナイダーの個性なんだよ、きっと」
「ダメよ、メルディン! 諦めたらそこで終わりなんだから!」
自分をまだ若いと元気づけてくれるリサーナと、あるがままを受け止めてくれるメルディン。良い女に恵まれたなぁと思いつつ、シュナイダーはヴァンダルーの説明会が終わるのを待っていた。
「老人らしく、思い切り世話になるぜ、若人」
恩義は忘れないし、協力は惜しまない。アミッド帝国やアルダ神殿……アルダそのものと戦う時も命を賭けよう。
だがやはり政治は性に合わない。面倒な事を背負わせて悪いと思わなくもないが、最近腰が悪い気がするからやはり若者に任せたいシュナイダーだった。
《【怪力】、【冥魔創道誘引】、【導き:冥魔創道】、【従属強化】、【身体強化(髪爪舌牙)】、【業血】、【ゴーレム創成】、【実体化】、【群体操作】スキルのレベルが上がりました!》
説明会は順調に進んだ。
移住希望者の迎えには、空間に門を持続的に開き、多くの存在を転移させられる【転移門】の術を使う事が出来て、リサーナやゾッドと面識のあるグファドガーンに行ってもらった。
レギオンの【転移】は彼女達に触れていないといけないので、既に知っているドルトンは兎も角移住希望者たちには刺激が強すぎると思ったからだ。
そしてやって来た彼等を、イリスやザディリス、バスディア等ヴィダの新種族を中心としたメンバーで落ち着かせ、ヴァンダルー本人が説明会を行う。魔物やアンデッドはまだ不慣れだろうから、離れた場所で作業をしてもらう。
お蔭で大したトラブルも無く一回目の説明会を終える事が出来た。この後とりあえずの住居を割り当て、明日から戸籍作りの為の名簿作成、食料と生活必需品の配給をし、魔物やアンデッド、そして人種……特に元アミッド帝国やミルグ盾国出身の人間について慣れて貰うためのガイダンスを行っていく。
これまでも何回かしてきた事なので、今回も大丈夫だろう。
ただ実は座っているだけでも疲れるヴァンダルーとしては、説明会の司会を誰かに任せたかったのだが……適任者が彼しかいなかったのが誤算だった。
(将軍のチェザーレと副将軍のクルトは元ミルグ盾国貴族だし、他の文官の大多数はクオーコみたいなアミッド帝国貴族か、アンデッドだし……人員が偏っているなぁ、俺の国)
移住希望のヴィダの新種族がチェザーレ達の顔を知っているかは分からないし、クオーコ達は他の帝国貴族と比べて特別ヴィダの新種族を迫害した訳では無い。しかし、帝国の勢力圏で隠れ住んできた新種族達から恨まれる立場であるのは事実なので、いきなり対面させる事は出来なかったのだ。
ドルトン達がタロスヘイムでアミッド帝国やミルグ盾国の人間を受け入れていると、前もって説明して納得させていたとしても。
『それで、彼がジークですか』
「ああ。あんまり耳も尖ってないから、全く気がつかなかったぜ」
そして『暴虐の嵐』と自己紹介や神託の解釈を間違えて助けられなかった事の謝罪や、シュナイダーが生け捕りにした魔王の欠片の封印などの受け取り、等諸々の事を済ませた後……何故グファドガーンが今の姿に成ったのかの説明も含めて……ヴァンダルーは、ゾッドの義理の息子であるジークと対面していた。
レイチェルから眠っているジークを預かって来たゾッドが、父親の顔で静かに頭を下げる。
「なにとぞ、寛大な判断を」
『はい、構いません。彼はゾルコドリオ様の息子、ジーク。それ以上でもそれ以下でもありません』
前から聞いていたので、ヴァンダルーは特に驚かずに穏やかに眠っている男児を受け入れた。
シュナイダーやドルトンの予想通り、ヴァンダルーはマシュクザール本人なら兎も角、その血族……特に記憶を改竄された女性や、その女性との間に生まれた幼児には恨みも何も持っていなかった。
寧ろ同情を覚えたぐらいだ。これから人生大変だろうなと。
『俺に協力できることがあったら言ってください。出来る限り善処します。なので……例の物を、二つ』
「勿論です。こんなもので良いのなら百でも千でも押しましょう」
決して、【筋術】の使い手であるゾルコドリオの手形を貰う約束をしたからでは無い。
その時、ふとジークが小さく唸ると、瞼を開いた。どうやら起こしてしまったらしい。
「ん……んヴァ!?」
だが、何処かぼんやりとした眼差しでヴァンダルー達を眺めた次の瞬間、ジークは瞼を限界まで見開いて可能な限り仰け反った。
反射的にヴァンダルーから逃げようとしたかのように。
「おお、起こしてしまいましたか。よしよし、驚く事はありませんぞ」
「おかしいわね、この子普段は胆が据わっていて、滅多に怖がることが無いのに」
慌ててジークを抱き上げあやしにかかるゾッドとメルディン。
「まあ、起きたら見慣れない上に同じ顔が幾つもあったら、驚くわよね」
まだヴァンダルーの激しい成長痛は続いており、動かない身体を数体の分身で支えていたのだった。
『そんなに怖いでしょうか……?』
「まあ、怖いって言うか……驚くだろ。同じ顔が幾つもあったら」
ショックを受けているらしいヴァンダルーに、シュナイダーは少し言葉を選んで答えてから、「その内あいつも慣れるって」と慰めた。
何せジークはゾッドの……深淵原種吸血鬼の義理の息子で、もうすぐ生まれてくるダンピールの兄になる少年だ。ヴァンダルーがゾッドのファンである以外の理由でも彼と会う機会は多い筈なのだから。
「……そうですね。とりあえず、折角生け捕りにしてもらったので、宿主を生かしたまま暴走した欠片を吸収できるか、試してみましょう」
「おう、役に立ちそうで嬉しいぜ」
・名前:シュナイダー
・種族:人種
・年齢:58歳
・二つ名:【迅雷】 【貴族殺し】 【暴虐王】 【ドラゴンスレイヤー】【女殺し】 【飛行人製造者】 【種馬】 【救世主】 【女神の入り婿】 【アルダに愛されし者】 【邪神殺し】 【自称老人】 【偽聖者】 【魔大陸生還者】
・ジョブ:拳神
・レベル:58
・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、格闘士、魔術師、魔戦士、魔闘士、武術家、光属性魔術師、狂戦士、龍拳士、拳聖、蹴槍士、冒険家、超戦士、超魔闘士
・能力値
生命力:175,470
魔力 :119,163
力 :27,525
敏捷 :35,344
体力 :30,092
知力 :6,871
・パッシブスキル
状態異常耐性:10Lv
全属性耐性:10Lv
全能力値増強:極大
無手時攻撃力増大:極大
気配感知:8Lv
精力超絶倫:1Lv
物理耐性:3Lv
能力値増強:冒険:10Lv
自己強化:冒険:10Lv
高速治癒:10Lv
魔力回復速度上昇:4Lv
・アクティブスキル
拳神術:7Lv
短剣術:10Lv
投擲術:3Lv
限界超越:10Lv
解体:5Lv
鎧術:10Lv
忍び足:7Lv
無属性魔術:1Lv
魔術制御:8Lv
生命属性魔術:10Lv
光属性魔術:10Lv
風属性魔術:3Lv
連携:10Lv
魔闘術:5Lv
料理:2Lv
無剣術:3Lv
無槍術:3Lv
無斧術:1Lv
無棍術:1Lv
無薙刀術:1Lv
高速思考:2Lv
詠唱破棄:1Lv
御使い降臨:2Lv
・ユニークスキル
成長促進:全能力値
武真
不老
ヴィダの加護
ザンタークの加護
ファーマウンの加護
ティアマトの加護
ヴ■■■■■の加護
アミッド帝国側のS級冒険者にして、隠れヴィダ信者の『迅雷』のシュナイダー。一応人種である。冒険者に成ってから四十年以上表と裏で活躍を続けている。
二つ名の多彩さは、彼の複雑な背景を表している。『迅雷』の二つ名を得た時には既にA級冒険者であり、それから彼の活躍は過激さを増して行った。
子供の奴隷を公衆の面前で殺した貴族を、公衆の面前で撲殺した事から『貴族殺し』。その際彼を捕縛しようとした兵士、騎士、冒険者全員相手に素手で圧倒し続け、逃げずに逮捕を免れた事で『暴虐王』。そして皇帝マシュクザールから、赦免と引き換えに命じられた龍討伐を果たした事で『ドラゴンスレイヤー』の二つ名を獲得した。
なお、『アルダに愛されし者』とあるが、それは彼が表向きアルダ信者のように装っていた事と、『法命神』アルダからアルダ大神殿の教皇が彼のみに起きる危険を予言する神託を受け取った事から付けられた。……実際には愛されるどころか危険人物としてマークされており、神託も「奴は危険だ」と警告したのを当時の教皇が解釈を間違えて「奴が危険だ」と勘違いしただけである。
当人にとっては真意を隠すのには丁度良いが、極めて不本意な二つ名だ。
『女神の入り婿』は、彼のヴィダに対する信仰心と種馬さ加減を表している。
『偽聖者』は、アルダ信者だと偽る自分を皮肉って言った言葉がヴィダの新種族達の間で流行し付いてしまった。
この二つの二つ名がばれないように、シュナイダーはアミッド帝国で活動している間は隠蔽用のマジックアイテムを身に着けている。
冒険者に成りたての頃経済的に困窮していた為防具を買ったら武器代が残らなかったため、【格闘術】を身に付ける事にした。その結果自分に【格闘術】の才能があると気がつき、その後は格闘術に関係するジョブを多く選択するようになった。光属性魔術を多用するのは、表向きアルダ信者である事の説得力を増す為だ。
格闘術の上位スキル【拳神術】、そして武具を使用しない事を表す剣術の上位スキル【無剣術】や同様の【無槍術】等数多くの上位スキルを獲得している。
人種でありながら【高速治癒】や【物理耐性】、【不老】スキル等を獲得している理由は、龍の末期の血を繰り返し浴びた効果である。
尚同じS級冒険者のハインツと比べてシュナイダーの能力値が高いのは、【成長促進:全能力値】のユニークスキルと長年第一線で活躍し続けた経験のためだ。
ただ、実は最近まで分厚い成長の壁にぶつかっていた。これは彼が加護を一つも得ていなかった事と、既に超人的な力を持っている事。そして人間社会では、A級冒険者以上の存在が十分な経験を積める場所が少ない事が原因である。……A級冒険者が倒すのに苦労するような魔物が頻繁に現れるようなら、そこはA級冒険者未満の者にとって日々の生活の場所には相応しくない。
これまでは魔物に堕ちた龍等を討伐して限界を超えて来たが、そうそう龍が出るはずも無いので壁を強引に越える事が出来ず、それも「俺も老いたな」と彼が思う原因の一つと思っていた。
なお、『堕酔の邪神』ヂュリザーナピペであるリサーナは、エルフに転生して純粋な神である状態から、亜神と言える状態になっていたためシュナイダーに加護を与える事が出来なかった。
しかしヴァンダルーがヴィダの封印を解いた事、魔大陸でザンタークとファーマウン、ティアマトと直接会った事で一気に加護を獲得。更に、ヴァンダルーと直接会った後謎の加護も獲得した。
これにより成長の壁を越えている。
6月1日に191話を投稿する予定です。
5月15日に「四度目は嫌な死属性魔術師」の2巻が発売しました! もし見かけましたら手にとって頂けると幸いです。