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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第九章 侵犯者の胎動編
229/514

百八十六話 魔王復活

 『ザッカートの試練』への挑戦を諦めたハインツ達『五色の刃』の前に現れた、謎のダンジョン。それに彼等が挑んでから数か月が経っていた。

 だと言うのに、ハインツ達は未だに三十階を攻略できていなかった。何故ならこのダンジョンで彼等に課された試練は、『ザッカートの試練』よりもある意味ではハードルが高かったからだ。


『諦めないだと? ならばその言葉を体現して見せろ!』

 光り輝く騎士……その昔、謀反によって非業の死を遂げた主君の仇を討った忠義の騎士、ヨシュア・アルカムが魔剣を構え直したハインツに向かって剣を振るう。


 それだけで剣の太刀筋が鋭い衝撃波となって、ハインツ達を襲った。

「くぅっ!」

 盾職の女ドワーフ、デライザが前に出てそれを防ぐが衝撃の大きさに思わず呻き声を上げる。


「【極光即応】!」

「【超即応】!」

 その盾の陰からそれぞれ【聖光鎧術】と【鎧術】の武技を発動させ、反応速度を上昇させたハインツと、女格闘士のジェニファーが飛び出し、剣を振り切ったヨシュアに向かって行く。


 二人とも並の冒険者では目で追う事も出来ない速さだったが、ジェニファーの背後に黒い影が出現した。

「あぶねぇっ!」

 その影が突きだしたシミター、片刃の曲刀を肉厚のナイフで受け止めたのは斥候職のエドガーだった。


『斥候職が守りに徹するとは、随分余裕があるようだな』

 そんな事を言いながらエドガーから離れた影は『断罪の神』ニルタークの英霊、ルークだった。

「クソ、こいつ嫌味しか言えないのか!?」


『俺ですら成し遂げられなかった原種吸血鬼殺しをやった後輩がどれ程の物かと期待していれば、この程度だ。嫌味の十や二十は出るだろう?』

 身に覚えのない罪で処刑されそうになったところをニルタークの神託を受けて脱獄し、法の裁きを逃れている千の悪を裁いたと伝わる英雄は、存外饒舌だった。


 しかし英霊の言葉は一瞬で精神に伝わるので、会話に時間はほぼかからない。エドガーがルークを止めた隙に、ハインツとジェニファーはヨシュアに肉薄している――はずだった。

『未熟! 未熟! 圧倒的未熟ぅ!』

 ジェニファーの前に立ちはだかった男によって、彼女は止められていた。


「かはぁ! こいつ……速い上に重いっ」

 彼女の拳を主体にした【格闘術】の武技、男は同じく【格闘術】の武技で受け流し、逆にカウンターを入れてきた。

『そんな事では、魔王を倒すどころか一瞬で屍を晒す事になるぞ! この未熟者め!』

 男の名はゴーシュ。魔王グドゥラニスとの戦いでベルウッドを庇って命を落とした、英雄神ベルウッドの英霊である。


 そしてハインツもヨシュアに辿りつけずにいた。

「まさか、ビクともしないとは。なんて堅牢な守りだ」

『この程度で【輝神剣術】、【聖光鎧術】とは……名前負けも甚だしい。君達の言う輝きとは、魔王の前には淡い蛍の光に過ぎない。一瞬で掻き消されて終わりだ。

 こんな事では、この『勇者の試練』を攻略する事は千年かけても無理だと思いなさい』


 ハインツの剣を盾で受けきったエルフの女性は、フィルリエッタ。十万年前のアルダとヴィダの戦いで、当時のナインロードの傍らに仕えた、彼女の英霊だ。

 そしてヨシュアの更に後衛に佇む女魔術師……『炎踊の神』フォーガンの英霊ポーラが無慈悲に告げる。


『そろそろ終わりにしましょう。あなた達の神官は魔力がほとんど残っていないようだし、この術は避けられないでしょうから』

 彼女の杖から放たれた炎は、踊り狂う様な複雑な軌道で、しかし素早くハインツ達に向かって殺到した。




 気が遠くなったと思った次の瞬間、ハインツは背中に衝撃を受けて目覚めた。

「がはっ! ……また三十階を攻略できなかったか」

 悔しげにそう言う彼の額には汗で前髪が張り付いているが、それ以外の激しい戦闘の痕跡は何一つ残っていなかった。


 火傷を含めた傷や、武具の損傷すら消えている。身体は疲労しているが、ステータスを確認しても生命力は減っていない。魔力が減ったままでなければ、まるで夢を見ていたかのようだ。

 ハインツが振り返れば、他の仲間達の姿もある。勿論彼同様に無事だ。


 底をついていたダイアナの魔力はそのままだが、深い傷が刻まれ砕ける寸前だったデライザの盾すら元通りになっている。

「まさか、英霊との戦いが続くとは……魔力の配分を間違えました」

「ダイアナ、君が気にする事は無い。詫びるのは、指示を出したリーダーの私だ」

 そう話す二人に、エドガーは力の無い笑みを浮かべて「いや、どっちも気にするなよ」と言う。


「誰だって、まさか英霊と三連戦……それも最初は一人で二戦目は二人だったのに、三戦目でいきなり五人とやらされるとは思わないだろ。しかも、明らかにこっちのパーティー構成に合わせて来てる。

 勝てるかって話だぜ」


 英霊……それは生前に英雄として相応しい活躍をした者の魂を神が昇華させた存在だ。基本的には御使いと同じ性質の存在だが、役割が異なる。御使いを神に仕える文官とするなら英霊は武官だ。

 神の補佐をするのも人々を導く役割も同じだが、英霊には更に神域を守り、非常時には地上に降臨して邪悪と戦う役割も課せられている。


 殆どの英霊は生前から武威に優れた者が選ばれるため、場合によっては戦闘が不得意な神々よりも高い戦闘能力を持つ事も珍しくない。

 そのため多くの場合戦闘で使用される【御使い降臨】スキルでも、英霊をその身に降臨させる【英霊降臨】スキルの方が上位スキルであるとされていた。


 ランクにすれば最低でも12と言われているが、実際に戦ったハインツ達にはそれは過小評価としか思えなかった。

 英霊達はほぼ全員が上位スキルに覚醒しており、しかもそれを使いこなし、高い密度で連携してくるからだ。


 英霊が一柱の時はハインツ達も数と連携を頼りに押し切る事が出来た。二柱でも、それは可能だった。だが五柱となると、逆に圧倒されてしまった。

「そもそも……英霊って言うのは簡単には……国の一つや二つ滅亡しても、地上に降臨しないって話じゃ無かったっけ? それなのに何でダンジョンの中に居るのさ」

 ジェニファーが、地面に倒れたまま呼吸を整えながら、そう文句をつけた。


 実際、歴史上英霊が地上に降臨してその武威を振るった事は数えるほどしかない。人間同士の戦争は勿論、ダンジョンから魔物が溢れる暴走や、【魔王の欠片】の出現、邪神悪神の暗躍程度ですぐ英霊が降臨する事は無いのだ。

 英霊が直接地上に降臨すると力を大きく消費し、その後一万年は眠らなければならなくなるからだと伝わっているが、それだけでは無い。


 神々が英霊を派遣して全ての悪を正していては、人々に成長は無い。それに悪の数があまりにも多すぎて、英霊達は全員眠りについてしまうだろう。

 その時真に強大な邪悪……狂った大神ザンタークや境界山脈に巣食う原種吸血鬼、潜んでいる邪神悪神が動き出したら、それこそ世界全体の危機だ。


 実際ハインツ達だけで暴走した【魔王の鼻】を封印する事が出来たし、原種吸血鬼テーネシアをあと一歩のところまで追い詰め……止めを刺す事が出来た。

 『迅雷』のシュナイダーは個人でも邪悪な龍や邪神を倒したというし、『真なる』ランドルフも現役の頃は【魔王の欠片】や邪神悪神の使徒を相手に活躍していた。


 だから英霊達は地上に降臨する事は滅多にない筈なのだが……このダンジョンの三十層では常に英霊が出現していて、ありがたみも何も無い。


「多分、ダンジョンだからでしょ」

 デライザが汗を袖で拭いながらそう推測した。

「神様や英霊様の事情は分からないけど、このダンジョンは特殊みたいだから。これまでの階層でも神話や伝説でしか聞いた事が無い魔物が出てきて、倒したら死体も残さず霞のように消えた事がしょっちゅうあったでしょう? あの英霊達も同じようなものなのかも」


 三十階に至るまで、グールウィザードやグールアマゾネス、ボーンフォート等、希少な魔物を倒してきたハインツ達だったが、死体は素材や魔石も残さず幻のように消えてしまった。

 それがこの『試練のダンジョン』では続いている。


「あれも、幻みたいなものだって言うのか? あたしにはとてもそうとは思えないけど……」

 ゴーシュと拳を合わせたジェニファーには、あれは本物のように思えた。見た目だけでは無く、息遣いや相手の汗の臭いまで、生きている人間としか思えなかった。

 いや、それを言うなら今まで倒してきた魔物全てが幻とは思えない存在感だったが、英霊達はそれ以上のリアルさがあった。


「ああ、ルークの野郎の嫌味も、あの連携や武術の冴えもただの幻とは思えない。だから、幻で作った身体に降臨している様な状態なんじゃないか? 【御使い降臨】の上位スキルには、英霊を身体に降ろす【英霊降臨】ってスキルもある。なら、そんな事も可能かもしれない」


「幻で作った身体に、英霊が降臨……そんな事が可能なのか、エドガー?」

「さあな。思いついた事をそのまま言ったまでだ。そもそも英霊なら、スキルで降臨させられるお前の方が詳しい筈だぜ。

 さて、雑談はここまでにして『街』に戻ろうぜ」

 そう言いながら立ち上がったエドガーは、『街』に向かって歩き出してしまう。


 ……そう、この『試練のダンジョン』の中には『街』が存在する。ダンジョンに入ったハインツ達を最初に出迎えたのは、その『街』だった。

 古めかしい建築様式の街並みに、奇妙な衣服を纏った人種やエルフ、ドワーフが行き交う街だ。宿や酒場、武具を手入れしてくれる鍛冶屋や道具屋があり、そして今まで見た事の無い神殿があった。アルダは勿論ヴィダやザンターク、既に滅びたはずの『巨人神』ゼーノを含めた全ての大神を等しく奉じている神殿だ。


 そんな『街』で唯一浮いているのは、単独で設置されているジョブチェンジ部屋ぐらいだった。それさえなければ現代の何処かの街だとハインツ達も思っただろう。


 ハインツ達は『街』のすぐ外に設置されている通路から今まで辿りついた各階層に向かう。そして敵にやられると今のように無傷の状態で『街』の入り口に戻されるのだ。

 そして『街』からダンジョンの外に出る事は出来ない。


「しかし、『ザッカートの試練』もそうだったが、このダンジョンの難易度は別の意味でおかしいな。普通なら、私達は何度死んでいるか分からない。

 だが、この分では何時になったら外に出られるのか分からないな」


 『ザッカートの試練』よりも出現する敵が強く、しかし絶対に殺される事は無い。それはハインツ達を最低限英霊達よりも強くしなければならない、しかし決して失う訳にはいかない『法命神』アルダがひねり出した最適な試練の形だった。


「まだ三十階で足止めされているからね。そもそも、このダンジョンが何階まであるのかによるけど。まさか三十一階までって事は無いだろうしね。

 セレンの所に帰るのは、まだまだ先になりそうだ」


 ジェニファーのぼやきに、ハインツは外に残してきたダンピールの少女の事を思い浮かべる。この奇妙なダンジョンの中でも、実の妹や娘同然の彼女の事を思わない日は一日たりとも無い。

 だがそれ以上に気になる事もあった。


「英霊達が口にする『新たな魔王』……暴走した【魔王の鼻】が向かおうとした本体を倒す為に、アルダは私達の前にこのダンジョンを出現させたのだろうか」




 グファドガーンが美少女の寄り代を創り、それに宿った経緯をザンターク達に説明したヴァンダルーだったが、ザッカートが美少女を求めていたという誤解は、完全には晴れなかった。

 何故なら、全て誤解とも限らなかったからだ。


『まあ、彼も男だ。異性に関心があるのは普通の事だろう』

『特にあの頃は誰も彼も、妾も余裕が無かった。そんな時ベルウッドが見せびらかすようにして連れ歩いていたからな。流石の奴も自覚は無かったと思うが』

『酒の席での愚痴でもあるし、特に誰と契りを交わしていた訳でもないのだからそれぐらい言うだろう。ザッカートの肉体も十代の物に若返っていたのだし』


 そして『月の巨人』ディアナや『山妃龍神』ティアマト、それに鬼人の始祖もザッカートの愚痴に理解を示したのだった。

『私達が驚いたのはグファドガーン、お前がその寄り代に分霊では無く本体を宿らせている事だ。両性、もしくは無性なのは分かったが……思い切りが良すぎると思う』


「私なりに考えた、ザッカートの望みに最も沿う方法がこれだったのだ。ならば、躊躇う理由は何処にもない」

『だとしても普通は自分が美少女になるのではなく、美少女と縁が出来る様に巡り会わせるのが神だと思うが。神代の時代の女神でもあるまいに』


「……その手段は、思いつかなかった。何たる深い思慮……魔王軍が敗退したのも頷けるというものだ」

 仮面のような無表情でも分かるほど驚愕を露わにするグファドガーンに、ディアナは『いや、そんな特別な事では無いぞ』と苦笑いを浮かべた。


『縁も所縁も無い異世界に招くのだから、それぐらいはするべきだとズルワーンが主張したと聞いている。それにリクレントも、恋人や友人が出来た方が勇者達の意思もこの世界に根付くだろうと言っていたし、誰も反対しなかった』


 どうやら神話に残るベルウッドの伝説には、そんな真実が隠されていたらしい。

『それは初耳だ』

『……俺も初めて聞いたんだが』

 グファドガーンだけではなく、それまで黙っていたファーマウンも驚いてディアナに聞き返す。


『それはそうだろう。お前達を召喚する前の話だ。それに戦争が激化すると、縁を結ぶ余裕も無くなって行ったので、結局成功したのはお前とベルウッドぐらいだったそうだ』

 どうやら、神話に残るベルウッドのエピソードにはこんな真実が隠されていたらしい。


「ザッカートやアーク、それにナインロードにはそうした事はしなかったのですか?」

『ザッカートやアーク達生産系勇者の場合は彼等があまり前線に赴かず、工房に籠る事も多かったので上手くいかなかったらしい。いわゆる、出会いが無かったと言う事だな。彼等を召喚したヴィダやリクレント達には、他の思惑もあったのかもしれないが』


『ナインロードの場合は、巡り合わせの問題であろう。シザリオン達大神がした事は、勇者達が異性と縁……友人以上の関係になれるようきっかけを与えただけで、見合いをセッティングした訳ではなかったからの。まあ、妾達は仕組んだ本人では無いので、気になるなら直接聞くがよかろう』

 どうやら神々の干渉は、「紹介はするけれどその後は当人達の問題」程度のものだったらしい。


 ザンタークは『まさかあの時のあれは』と視線を向けるファーマウンに対して、曖昧な笑みを浮かべて視線を逸らしたが。

「申し訳ありません、ヴァンダルーよ。私が至らないばかりに」

「いえいえ、今のままでお願いします」

 至っていたら、今よりとんでもない事になっていたのは確かだろう。そう思いながらグファドガーンが膝を突こうとするのを止めさせると、ヴァンダルーは話題を変えようと試みた。


「ところで、【魔王の欠片】や魔王軍残党の封印はありますか? あれば、お互いの利益の為に処理しますが」

 【魔王の欠片】の封印は神々が直接押さえ込んでいる場合、オリハルコン製アーティファクトの封印よりも安定するが、負担も大きい。


『ああ、頼む。俺が管理していた分は、アミッド帝国やオルバウム選王国の神殿で管理されていて、持ち出せなかったが』

「そこを何とか」


『悪い、無理だ。約五万年前にお前さんが現れる事を予見していたら、多少強引にでも幾つか持ちだしたんだが……』

 ファーマウンがアルダ勢力から離れた当時の【魔王の欠片】は神々から見てもただの危険物で、とても手土産になるような代物では無かったのだ。【魔王の装具】に加工するにしても、ファーマウンにその技術は無いし、できたとしても魔人族や鬼人達があんな危なっかしいものを使うとは思えない。


『当時のこいつがそんな物を隠し持っていたら、我々は何かを企んでいるに違いないと邪推して全力で追い返していただろう』

『そして、今から取りに戻るのは無理だ。アルダも世界の維持のために火属性の管理はさせてくれているが……戻ったら管理以外出来ないように妙な細工をされかねない』


 魔人族の始祖とファーマウンの説明に、「なるほど、それは残念です」と納得した。


『や、やはり我を喰うのか!? い、嫌だぁ! 消滅は嫌だぁ!』

「怖がらなくても大丈夫だよ。一度タロスヘイムに戻って、フィディルグ達に意見を聞くまでは保留って、ヴァンが言ったでしょ」

「そうだぞ、どうどう」


 一方パウヴィナとオニワカは、処理という言葉に怯えだしたルヴェズフォルを宥めていた。恐怖のあまりもがこうとする翼をパウヴィナが優しく抱きしめる……ような体勢で押さえ込み、オニワカが首を両腕で抱えるようにして固定する。


 まるで小動物のような扱いだが、特殊な封印によってワイバーン並の力と似た外見にされているルヴェズフォルは、この場に居る者達にとっては正に小動物並のか弱い存在にすぎないのだった。

『……はい、お騒がせしてすみませんでした。我もう大丈夫です』

「そう、良かった~」


 自分をこのまま圧殺可能な、身長三メートルで恐らく体重もそう変わらないパウヴィナの微笑みに、ルヴェズフォルは動く事は出来なかった。

 ……それに冷静に考えてみれば、下手に抵抗して彼女達を傷つけた場合本当にヴァンダルーに処理されてしまう。


(しかし何故我が「保留」で、ザンターク達が封印した魔王軍残党は「処理」なのだ? 魔王軍残党の邪神悪神は我と違い奴に直接不利益をもたらした訳でもないのに)

 ただ内心ではそう訝しく思うが、それはヴァンダルーに直接命乞いをしたかの違いだった。ヴァンダルーがルヴェズフォルに情けをかけたともいう。


 そう考えると封印されていて命乞いの機会も与えられない邪神悪神達が哀れかもしれないが、それはこれまでの行動の結果である。

 味方に出来るか否かを判断するために封印を解いて話をしようとしたら、逃亡を試み暴れだして周囲に被害が出たりしたら意味は無い。


『■■■■■~■■■■■■、■■』

「我々が封印している欠片は幾つかある。ただ、やはりアルダ勢力が管理する欠片には及ばないのが実情だと、ザンタークは言っています。

 魔王が倒された当時アルダは勇者を三人抱えており、封印と相性の良い神威を持っていたのでそれも仕方がないかと」


 逆にザンタークは魔王グドゥラニスが倒された時、正気を失っていたので戦いに参加もしていなかった。彼等が持つ【魔王の欠片】の封印は、ヴィダと合流した後彼女達に管理を頼まれた物だ。


『十万年前の敗戦でここまで撤退する時に、アルダの走狗に向かって投げつけたりしたからな。思えば我も若かった』

『……鬼人の、その投げつけられたのが俺なんだが』


 どうやら欠片の封印まで追っ手の足止めに使ったらしい。

「なるほど。正義を自称するアルダ達も欠片を暴走させる訳にはいかない以上、足を止めて封印を回収しなければならない訳か」

『実際それで足を止めた訳だが……そう言えばお前さん達は俺達を見ても平気なのか? アンデッドは兎も角、お前さんは人間……だよな?』


「辞める事を考えてはいるが、まだ人間だね。だが私の汗を見て、平気だと思っているのかね?」

『いや、汗をかくだけで済んでいるなら十分だと思うが……』

 この場に集まっている神々は大物ではあるが、殆どはこの世界に属する神だ。そのため、邪神悪神のように姿を見ただけで精神に異常をきたすと言う事は無い。……それでも気の弱い者なら気絶するだろうが。


 ただザンタークや『鳥の獣王』ラファズ等、邪神悪神と融合している神々もいる。

『ファーマウン、彼等の中に常人はいないはずだと言っただろう。我々を見たくらいで正気を失うのなら、勇者殿を見てとっくにそうなっている』

「うむ、その通り。君達には悪いが、師匠の姿の方がおかしい」


「……その言い方はどうなんでしょうか? 身に覚えがない訳でもありませんが」

 そう言うヴァンダルーだが、彼の【魔王の欠片】を発動させた戦闘形態を見慣れている事以外にも、ルチリアーノを含めた全員が常人の枠から、実力的な意味ではみ出していると言う理由もあった。


 特にアンデッドの場合、正気を失っている状態が正気のようなものだ。それらの要因が合わさって、この程度で済んでいるのである。

「よしよし、良い子だ~」

 オニワカの場合は、ルヴェズフォルを見る事で現実逃避しているような気もするが。


『【魔王の欠片】は兎も角、邪神悪神は一度に食べて大丈夫か? 我々が封印している連中はどれもこれもラヴォヴィファードの同類のような奴等だから、喰らうのは一柱ずつにした方が良いのではないか?』

「確かに、胃もたれしそうですね」

 ディアナの言うラヴォヴィファードの同類に対して、ヴァンダルーがイメージしたのは脂ぎった肉の塊だった。


 あれも中々美味だったが、流石に続けて食べるのは胃に悪そうだ。本物の肉なら串に刺して焼いて余分な脂を落とすなり、レモン汁などをかけてさっぱりした味にする等色々方法があるのだが。


『いや、そうでは無くて肉体や、特に精神に影響が出るのではないかと心配しているのだが』

『陛下、一刻を争う訳ではないですし、魔王軍残党を食べるのは一日一柱にしましょう』

 ヴァンダルーはあまり自覚していないが。悪神を食べた結果【身体伸縮:舌】スキルを獲得し、舌が伸びるようになった事がある。


 一度に複数そんな事になったら大変だと心配した周囲の者達によって、余裕がある時は一日一柱と言う事になったのだった。


 だが【魔王の欠片】は問題無いだろうと、次々に吸収していく。

『ふぅ、【魔王の欠片】から解放されて久しぶりに気分が良いな。それをなしたのがヴィダ様の玄孫に当たる新しい勇者とは感慨深い……どうじゃ、後で妾と一種創らんか?』

「そんな軽く新種族創造に誘われても」


『坊ちゃんには色々先約があるんです!』

『神様でも順番は守ってください!』

『むぅ、先約ならば仕方がない。鬼竜人や魔竜人に続く第三の種が生まれると思ったのじゃが』

 そう言いながらティアマトは引き下がった。流石神話の時代から様々な龍や巨人、獣王との間に子をもうけた女神は違う。


 ヴァンダルーやオニワカが鬼人と魔人族の始祖に視線を向けると、視線を逸らしたりばつが悪そうに頭を掻いたりした。

『我らの子の多くは『戦士の神』ガレスや『戦旗の神』ゼルクスが保護してくれたのだが……その分我々が連れて逃げる事が出来た子等の数は少なかったのだ』

『それ故、力を取り戻すのに信者と成り得る子が必要だろうと……な』


 どうやら、そう言う事らしい。このザンタークの神域と化している土地の近くに、鬼人と竜人の両方の特徴を持つ鬼竜人と、魔人と竜人の特徴を持つ魔竜人が多く住む町があるらしい。


「シュナイダー達からの情報には、そんな話はありませんでしたが?」

『こやつ等が昔なじみのゾルコドリオやヂュリザーナピペに知られるのを嫌がっての。初心な事よ』

 どうやら、特別助けが必要と言う事も無かったのでシュナイダー達には鬼竜人や魔竜人の存在を教えていないらしい。


 余程知られたくなかったらしい。


「俺には教えていいんですか? 昔馴染みどころか、ヴィダの神域に招かれた事もありますけど」

『……遺憾だが、気まずいからと何時までも黙っている訳にもいかん。それにシュナイダー達には出来ない事を汝らに頼みたい』

「なるほど。分かりました……あ、欠片を吸収するのでそのままじっとしていてください」


『ところで我が封印している欠片は副脳なのだが、大丈夫か?』

 副脳。ヴァンダルーが知る副脳とは、肉体の制御を行う器官だった気がする。確か、思考や記憶の蓄積を行う部位ではなかった気がする。実際に副脳を持つ生物が存在するのかは、知らないが。


「魔王の意思を感じた事や、記憶を見た事はありますか?」

『いや、無い』

「なら大丈夫でしょう」




《【魔王の網膜】、【魔王の水晶体】、【魔王の複眼】、【魔王の唇】、【魔王の舌】、【魔王の鰓】、【魔王の副脳】、【魔王の血管】、【魔王の瘤】を手に入れました!》

《【魔王の網膜】、【魔王の水晶体】が【魔王の眼球】に、【魔王の唇】が【魔王の顎】に統合されました!》




 副脳を含めた幾つもの欠片を吸収したが、やはり魔王グドゥラニスの意思や記憶を感じ取る事は出来なかった。しかし、欠片達が何時になく騒ぎ始めた。

(本体に合流した! 本体に合流した! 我等は本体に合流した!)

(今ここに我等は復活せり!)


《【魔王融合】スキルが、【魔王】スキルに覚醒しました!》


 ヴァンダルーが止める間もなく欠片達は歓喜の叫びを上げ、次の瞬間【魔王融合】が上位スキルに覚醒してしまった。

 どうやら、欠片達の認識では魔王は復活してしまったらしい。


「……ちょっと困ったかもしれません。すみません、ちょっと相談があるのですが」

 【魔王】スキルを獲得した影響が自分に出ていないか、ヴァンダルーは周囲の皆に相談する事にした。




・名前:ハインツ

・種族:人種

・年齢:28

・二つ名:【蒼炎剣】 【新吸血鬼ハンター】 【剣聖】 【闇を切り裂く者】

・ジョブ:不死殺し

・レベル:55

・ジョブ履歴:戦士見習い、戦士、剣士、魔剣使い、魔戦士、聖戦士、アベンジャー、剣聖、聖導士、封魔剣士、聖剣使い

・能力値

生命力:78,800(6,850UP!)

魔力 :47,498+(4,749) (11,347UP!)

力  :9,450(975UP!)

敏捷 :12,529(951UP!)

体力 :13,675(975UP!)

知力 :7,797(700UP!)


・パッシブスキル

全能力値増強:中

状態異常耐性:9Lv(UP!)

全属性耐性:9Lv

剣装備時攻撃力増強:極大

魔力使用量減少:10Lv

気配感知:7Lv(UP!)

リベンジ:ザッカートの試練(ザッカートの試練停止により、喪失!)

金属鎧装備時能力値増強:極大

導き:聖道:5Lv

魔力増大:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

輝神剣術:7Lv

聖光鎧術:5Lv(UP!)

限界超越:10Lv

聖剣限界超越:1Lv(魔剣限界超越から覚醒!)

連携:10Lv

光属性魔術:9Lv

生命属性魔術:9Lv

無属性魔術:2Lv

魔術制御:9Lv(UP!)

聖職者:6Lv

英霊降臨:1Lv

礼儀作法:4Lv

魔鎧限界突破:3Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ノーライフキラー:1Lv(アンデッドキラーから覚醒!)

アルダの加護:大英雄の運命

邪悪封殺:6Lv(UP!)

5月16日に187話を投稿するよていです。


5月15日に「四度目は嫌な死属性魔術師」の2巻が発売予定です。もし見かけましたら手にとって頂けると幸いです。

一二三書房の公式ホームページで、店舗特典情報が公開されております。サムのエピソードについてかかれた小冊子が付いてきますので、よろしければ。


ラノベニュースオンラインで「四度目は嫌な死属性魔術師2」と「平凡なる皇帝」の紹介記事が掲載されました! 挿絵も幾つか紹介されているので、よろしければご覧ください。



149話の一部を以下のように修正しました。



「おう、封印するのが面倒だからついてこい」

『我、終わった……』

 そう思ったルヴェズフォルだったが、彼を拾う神がいた。


『いや、まだ説教が足りぬゆえ置いていってくれぬか。妾がしっかり管理するゆえ』

 竜人の片親、ティアマトである。ルヴェズフォルにとっては裏切った元同族の中でも上位の存在であり、彼にとってはゾッドやリサーナ同様あまり話したい相手ではないが、この時ばかりは感謝した。


「そうか? まあ、あんたなら万が一こいつが元の力を取り戻しても大丈夫か」

『うむ、そのヴァンダルーがここに来たら、その時改めて引き渡そう』

『……我、やはり終わった』

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― 新着の感想 ―
[一言] 祝!復活!ってことでいいのでしょうか? 楽しみにしてますので。
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