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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第九章 侵犯者の胎動編
225/515

百八十二話 命名クワトロ

 レギオンの下に部下として配属されたカナコ達三人だったが、与えられた仕事は普通では無かった。

『第一に、私達の監視下に常にいる事ね』

「……瞳、ストレートに言い過ぎだと思うけれど」

 上司と言うより監視役である事を、一切隠す気の無いレギオンの人格の一つであり、同時に転生者でもある見沼瞳の言葉に、【アイギス】のメリッサは若干口元を引き攣らせた。


 無数のピンク色の人型を球形に捏ね上げたような、若しくは巨大な肉塊に肉で出来た人間の上半身や下半身を出鱈目に生やしたような姿に、まだ慣れきっていないようだ。


「監視下に常にいる事が仕事って……他に何かないのか? 別にいきなり大役を任せろなんて言わないからよ。

 後、その眼球は何だ? 昨日まで無かったよな?」

 ダグは不満そうな顔つきのまま、レギオンに埋め込まれている自分の頭と同じくらいの大きさの眼球を指差して尋ねた。


『これはヴァンダルーの【魔王の眼球】よ。これを【遠隔操作】スキルで操って、離れた場所の物を見る事が出来るのよ』

『もっとも、今は何も見えていないけど。ヴァンダルーが【遠隔操作】スキルの外に居るから』

『今は二つの実験の為にヴァンダルーから借りている! 一つは我々に埋め込んだ場合どれくらいの時間持つのか試しているのだ! だが移植した訳では無いぞ! 我々の肉体に眼球が入るだけの窪みを作り、そこに入れただけだからな!』


「そ、そうか。……『オリジン』で聞いたら引きそうな話なのに、全くショックを受けない事がショックだぜ」

「これが導きってスキルの効果ですか。意識して使えないのは不便だけど、持続力と効果の幅広さはあたしの【ヴィーナス】よりずっと上ですね」


 レギオン達の説明を聞いても、ダグやカナコは少し驚いた程度で殆ど動揺しなかった。寧ろ、巨大な眼球の虚ろな瞳に、若干だが好感を覚えている。

 これはカナコが言った通り、彼女達がヴァンダルーの導きを受けた結果である。【魔王の眼球】がヴァンダルーの一部であるため、彼と同じように感じているのだ。


 彼女達がレギオン本体の異形を直視し、更にその正体が前世での知人達だった事を知っても「凄く驚いた」程度で済んだのも、導きの効果だ。どんな異形でも同じ対象に導かれている者同士なら親近感や同族意識を感じ、それが結果的に精神的な衝撃を和らげている。


「それで、もう一つの実験は私達には言えない事?」

『いいや、実験にはお前達の協力が必要だ。……銃は得意だったな?』

 ゴースト……『オリジン』で生きていた頃は、最後までカナコを含めた転生者達全員に存在を気がつかれなかった彼の質問に、カナコ達は「まあ、それなりに」と答えた。


 そして連れてこられたのは、実験用ダンジョンの内部だ。カナコ達がヴァンダルーから導かれるまで暮らしていたのと同じ階層である。

 そこでメリッサは『銃』でレギオンに狙いをつけ、引き金を引いた。パァンっと言う音が響き、射出された弾丸がレギオンの巨体に減り込む。


『……外したの?』

「当たったわよ、それもど真ん中に」

 プルートーの言葉に、メリッサは猛然と抗議した。


『ん~……あ、当たってる。まったく痛くないから外れたのかと思ったわ』

 その言葉と共に、球形の弾丸がレギオンからポロリと落ちる。どうやら、痛みを感じなかったので外れたのかと思ったらしい。


『じゃあ、次は目にお願い。白目の部分でも良いけど、出来れば瞳に当ててね』

「分かった。瞳を撃つわね……面倒ね」

 メリッサは火縄銃に火薬と弾を再装填すると、レギオンの肉体にはめ込まれた【魔王の眼球】に狙いを定めて引き金を引いた。


 銃声が再び響き、丸い銃弾が虚ろな【魔王の眼球】にぶつかり……ぽろりと落ちた。

「傷一つつかないなんて……その瞳、防弾ガラスや強化プラスチックより硬いわよ」

『あなた達、私をからかうのは止めてね。ジャックが動揺するじゃない』

『ごめんね、瞳。ちょっと面白かったから、つい。

 それにしても流石ヴァンダルーの一部ね。平均的な銃じゃ、直撃しても潰れない。じゃあ、次は一番大きいのを試してみて。確か、普通のライフル銃の倍以上の大型銃があったはずよ』


「私じゃ持てないわ。ダグ、やって」

「へいへい……いくぜ!」

 ダグが【ヘカトンケイル】の念動力まで使って支えた巨大火縄銃が、レギオンの【魔王の眼球】に向かって火を噴いた。轟音が響き、弾丸は眼球の表面にめり込み、ダグの腕と肩が反動で痺れた。


『……少し凹んだけど、破れていないわね』

 しかし、弾丸は【魔王の眼球】を貫きレギオンの肉にめり込むどころか、眼球の表面で止まっていた。


「これは弾丸を鉛から魔導金属にしないと傷一つつかないですね。火薬の量も増やして、銃身も長くしないと」

 カナコ達がやっているのは、『ザッカートの試練』の最奥に有った彼の工房に残されていた、試作品の銃が実用に耐えられるかのテストであった。


 全てザッカートや彼に協力したヒルウィロウの作品で、歴史的にも大きな価値がある物ばかり。カナコ達はそんな貴重品を自分達が扱っていいのかと事前に確認を求めたが、管理していたグファドガーンは「構わない」と答えた。


「ザッカートは兵器としてそれを作ったのだ。美術品や調度品では無く。それにお前達に仕事を任せるのは、ヴァンダルーの意思だ」

 ザッカートの遺産は全て貴重だとグファドガーンは認識していたが、個々の遺産ごとに用途や希少さ、そして危険度に違いがある。


 その中でも銃器類は、あまり重要では無い遺産として彼女に認識されていた。


 そしてダンジョンに持ち込み、火薬や弾丸をザッカート手書きの説明書通りに込めてレギオンと【魔王の眼球】を的にして試射しているのである。銃本体も弾丸も、そして火薬までグファドガーンが保存していた為、十万年経った今でも使う事が出来た。


 だが、何故レギオンと【魔王の眼球】を的にしているのか。それは撃たれた対象に感想を聞く事が出来るから。そして【魔王の眼球】を高ランクの魔物の目に見立てているからだ。

「しかし、目に直撃しても潰れないって……本当に現実か? ザッカート達が作ったのはこの世界に来てからでも、性能は『地球』の火縄銃とそんなに変わらないはずだよな?」


 今まで注目を集め無いようにしていた為、精々ランク7以下の魔物としか戦った事が無いダグが銃の方に問題があるのではないかと言い出した。幾ら銃が旧式で眼球が巨大でも、銃弾を止められる事が彼には信じられないらしい。


「たしかにザッカートがその銃を作ったのはこちらの世界に来てからだが、『地球』の火縄銃と性能が同じかは不明だ。残念だが、私はザッカートの世界とお前達の世界に存在した火縄銃の性能を知らない」

 ダグの言葉に、グファドガーンはやや考えた後そう答えた。


 銃の製作者であるザッカートは元々金属加工を主に行う町工場の経営者兼技術者だった。だが当然銃を作った事は無い。俳優志望だったヒルウィロウも、小道具を見た事がある程度だっただろう。

 そのためぼんやりとした知識を基に、試行錯誤しながらソルダと黒色火薬を作り、苦労しながら銃を製作した。


 だからこれらの銃は火縄銃と呼称されているし、似た部分もかなりある。しかし実際には火縄銃モドキでしかない。……材料に一部アダマンタイトやミスリル等が使われているし。


 なので、オリジナルと同程度の性能があるとは製作者のザッカートも断言できなかったのだ。


「寧ろ、銃に関してはお前達やレギオンの方が詳しいはずだ」

 そう言われたダグ達はお互いに顔を見合わせると、少し肩を落として答えた。

「そうか。だけど、俺達も旧式の銃を撃った事無いんだよな。アサルトライフルとか、オートマチックだけで」

「私達はダグ以下よ。使えない訳じゃ無いけど、戦闘では能力や魔術を使う事の方が多かったから」


「あたし達の中で銃が得意だったのは、【超感覚】と【オーディン】と、後ムラカミも得意でしたね。後は、【グングニル】の海藤カナタとか。

 レギオンはどうです? エレシュキガルなんかいつも銃を持っていたから、結構なマニアだと思っていたんですけど」


 話を向けられたレギオンの肉体に生えている全ての上半身が首を横に振った。

『私は受けた攻撃を返す【カウンター】しか出来なかったから、護身用の武器を手放せなかっただけだ。ヌイグルミの代わりと、格好をつけるためのアクセサリー。マニアじゃない』

『銃をヌイグルミ代わりにする時点でどうかと思うけど、知っての通り僕達は君達と違って銃の扱いを習っていない。自分の足を撃たないようにするので精一杯なのが殆どだよ』


『……ワルキューレやイザナミは自分の足を撃ったし、プルートーは撃った衝撃でひっくり返ってからは、一度も銃を握らなかったよね』

『シェイド、それはちゃんと口止めしたはずよね?』

『乙女の秘密を漏らすとは、この裏切り者め!』

 恐らくシェイドだろう肉で出来た頭部を、何人かの女性の上半身がペチペチと叩いて抗議し始めた。

 ちなみに元ブレイバーズの瞳は、一応訓練を受けたが教官から出来るだけ銃は使うなと言われる程下手だった。


 つまり、カナコ達は銃の使い方は知っていても本当の意味で詳しくは無い、精通しているとは言えない者達で銃の性能テストをしているのである。何とも心許ない状況だ。

「改良点ぐらいはあげられるし、ヴァンダルーがいるなら部品作りも進むでしょうけれど……これより近代的な銃を作るのは無理ですよ。

 薬莢や信管が作れれば、リボルバーぐらいは出来るかもしれませんけど」


 そう言うカナコに、ダグとメリッサも同意する。彼女達の表情に自信が無いのは、『ラムダ』に転生する前に亜乱から聞いた、異世界の科学知識をそのままでは使えないと言う問題点があるからだ。

 魔力の有無や、属性の関係など世界毎に物理法則は異なっている。そのため、元の世界で培った科学の知識はそのままでは役に立たない。

 それどころか、異世界の産物を直接持ち込むと何が起こるか分からない。


 特に近代兵器の場合、ちょっと揺らしただけで爆発したり、逆に何をしても作動しなくなったりする。亜乱によると携行ミサイルぐらいなら発射する事はできるらしいが……発射した後どうなるかまでは言っていなかったような気がする。


 今試している火縄銃と使っている火薬はザッカート達が『ラムダ』に存在する材料で作ったので、そうした心配はない。ただカナコ達の知識をそのまま活かす事は難しい。

「ヴァンダルーは、現在の性能で銃は『ラムダ』で有効に使えるか否かを聞きたいそうだ」

『あなた達の意見を聞いて、性能が向上したとしてどれくらい使えそうか教えて欲しいのよ。異世界から来て、人間社会で冒険者として生活していたのは、あなた達だけだから』


 グファドガーンとレギオンの説明で、この銃の試験の意図が分かったカナコ達は暫く銃を撃つ事に集中した。

 アダマンタイトやオリハルコンの銃弾も試したが、火薬が同じ量では普通の銃弾より威力が若干上がった程度で、やはり【魔王の眼球】を潰す事は出来なかった。


 そして出した結論は、「微妙」というものだった。


「冒険者の武器としては、向かないな。持ち運びと火薬の扱いが難しい。銃声が他の魔物を呼び寄せるかもしれないし、硝煙の臭いも付くし。

 威力もレギオンで試した感覚だと、ランク3や4までなら効くだろうが、ランク5以上は目や口の中でも狙わないと掠り傷にしかならないぜ」


「ランク5以上になると動きが速い魔物も多いし、連射できないのはちょっとね。後、魔物は変な特殊能力を持っている場合も多い。それにランク10以上だと、目に当てても効くか分からないわね」

「人間相手なら普通の兵士やD級冒険者までなら有効だと思いますよ。相手が銃を知らない事を考えると、C級でも行けるかもしれませんね。拳銃サイズまで小型化出来れば、護身用に一つ懐に入れておくのも良いかも。

 でも、やっぱり一番の利点はクロスボウと同じで習得の簡単さだと思いますよ。銃声で威嚇できる点を除けば」


 カナコ達の意見は、普通に武器として使うならクロスボウと同じぐらいというものだった。

 『地球』の猟師と違い魔物と複数回遭遇し戦う事が常である冒険者にとって、一度撃ったら再び使うのにクロスボウ以上に手間のかかる火縄銃は、常備する武器としては不適格だ。


 ただ人間を対象にした場合は、形状が一見すると武器と気がつきにくい為多少は有効である。しかし、同じ敵に対して二度以上は通じないだろう。

「火薬作りと弾丸の加工の手間、そして扱いの難しさを考えたらクロスボウの方が良いと思いますよ」

『そうだねぇ……多分ヴァンダルーがカースウェポンにしても、自力で弾込めが出来ないだろうしねぇ』

『勇士達による銃士隊を結成してみたかったのだが、残念だ!』


 カナコ達の結論に、イザナミやワルキューレが残念そうに嘆く。ただザッカートの遺産の有用性が認められなかったグファドガーンは、特に気を悪くした様子も無く「やはりか」と頷く。


「ザッカートも様々な問題点を理由に魔王軍との戦いで役立てる事を諦め、自分や他の勇者達が使うための特別製の銃を幾つか作っただけで研究を止めてしまった兵器だ。

 それを簡単には覆す事は出来ないだろう」


「……意訳すると、凄いザッカートに出来なかったのに俺達に出来る訳が無いって事か?」

「然り。ダグ、お前とは話が合いそうだ」

 皮肉を込めたダグの言葉に、グファドガーンは我が意を得たと頷き返して、そう答えた。


 自分より後にヴァンダルーに従ったので、自分と同等と考えて接してくるこの邪神の価値観は、当然のようにザッカート……そしてヴァンダルー中心に世界が存在する形で構成されている。そのためダグの皮肉は理解されなかった。


「俺は合わないと思うが……じゃあ、銃じゃなくて火薬を使う武器を考えたらどうだ? 爆弾とか」

 ダグのアイディアに、全員が「それなりに役立ちそうだ」と考えた。爆発する火の玉や大きな石の弾丸を飛ばす魔術が存在するこの世界だが、魔術は誰もが使える訳では無い。特に、普通の警備兵や徴兵された一般人はまず使う事が出来ない。


 全員が他国と比べて高度な訓練を受けているタロスヘイムの国民も、槍や弓の扱いは一般的な兵士と同じ水準で扱えるが、攻撃魔術が使える者は稀だ。


「冒険者の武器としては扱い辛いのは変わらないと思うけど、音と光だけのかんしゃく玉が出来れば魔物を威嚇したり、気を逸らしたり、便利かもしれない」

「防衛兵器としても、爆弾に金属片を混ぜれば殺傷力を上げる事が出来ますし有効かもしれませんね」


「ザッカートも、魔王軍との戦いでは銃を諦めて火薬を狼煙の代わりに用いていた。当時魔王軍で先兵として使われていた魔物には、混ぜる金属片をオリハルコンにでもしなければ効かなかったそうだ。

 だが、平和になったら夏の夜空に向かって撃ちあげたいと言っていたのを覚えている」


『空に?』

「はい、確か……花火と言うのだそうです」

 どうやらザッカートは、金属の燃焼反応を利用して黒色火薬を信号弾として利用していたらしい。そして、それをいつか花火として使う事を考えていたそうだ。


「花火……最初の実績としてはまずこの辺りですね。兵器を作っても実際に使うのは何時になるか分かりませんし、花火ならイベントにも使えますし。まあ、本格的な打ち上げ花火まで作れるかは試さないとわかりませんけど」


「実績を積む目途がついたようで何よりだ。お前達が活躍し、認められる時を心待ちにしているお方も喜ぶだろう」

 カナコの呟きに、グファドガーンはそう言って頷く。

「あたし達、そんなにヴァンダルーに期待されているんですか!?」

 それを聞いたカナコが驚いて嬉しそうにグファドガーンに聞き返したが、彼女は首を横に振って「ヴァンダルーでは無い」と答えた。


「その方は、ヴァンダルーにとても親しい方だ。その方は歌って踊れる魔術師であるお前が、ヴァンダルーにある品を与えられるほど信頼される事を期待している」

「……そ、そうですか。応援されるのは良い事ですが、なぜ歌と踊りが?」


 謎の、自分以外の魔法少女の出現を求める人物の応援を受けつつカナコ達はそれから爆弾では無く、花火作りを行う事になった。

 黒色火薬に必要な材料の配分や、金属の燃焼反応で出る炎の色など『地球』や『オリジン』との違いに戸惑いつつも、花火を形にして行った。


 そして新年を迎えて暫く経った頃、ダンジョンの中では無くタロスヘイムの郊外で花火を試す事になった。

「死鉄って、粉末を燃やすと黒い炎が上がるんですね」

「夜には使えないわね……あ、日蝕?」

 空を見上げたメリッサが、太陽が端から黒く染まって行く事に気がついて声を上げる。


「この世界にも日蝕があるんだな。って、おいどうした!?」

 ダグが視線を向けた先では、レギオンが無言のまましかし激しく脈打ち蠢いていた。




 日蝕が起こる前まで時間は遡る。

 人魚国からやや沖に出た場所に在る、難破船が流れ着く船の墓場と呼ばれる岩礁でヴァンダルーは、航海に使うための船を調達しようとしていた。

「とりあえず、この四隻の船のパーツを使いましょう。……起きろ、融合」

 【ゴーレム創成】スキルで、それぞれのパーツを融合させ、更にアンデッド化させる。


『ウ゛ォォォォォォ……』

 船から唸り声が上がり、難破船が幽霊船と化した。バタバタと破れた帆がはためき、藻やフジツボのついたオールが海面を叩く。


『大きい船ですね、陛下!』

「うわ~、脚の多い生き物がいっぱい。ピートみたい」

「おお、外の世界の船は大きいだけではなく、こんなに沢山のオールがついているのか」

 完成した幽霊船をサムの荷台から眺めて、レビア王女とパウヴィナ、そして鬼人国の姫オニワカがそれぞれ歓声を上げる。


 パウヴィナは船よりも、船から溢れ出てきた無数の蟹や海老やシャコっぽい何かに注目しているが。


『ボス、ガレアス船と帆船と魔導船が混ざってますぜ』

 ただパウヴィナ達と違って大型船についてある程度知っている元アミッド帝国軍人のキンバリーは、出来上がった船に対して不安そうな顔をした。


 ちなみに魔導船とは造船時に船大工だけでは無く錬金術師も加わった、マジックアイテムとして造られた船である。主な所有者は王侯貴族や莫大な富を築いた商人、また魔境と化した海域である魔海を航行するために冒険者が持っている事も多い。

 恐らく、境界山脈の内側に海から入ろうと試みて失敗して難破したのだろう。


『あっしも精々川ぐらいで、海に出た事は無いんですがね。それでもあれで、大丈夫ですかい?』

「まあ、多分。船自体がアンデッド化しているので、動かすのは問題無いでしょう。不具合が起きたら、また改造しますし」

 本格的に問題が起きて沈没しそうになったら、サムに乗って空に逃げれば良いので大丈夫だろう。


「ところでヴァンダルー、船の上で四人の船長が言い争いを始めているぞ。あれはお前が作ったアンデッドなのか?」

「いえ、多分自然にアンデッド化したそれぞれの船の船長でしょう。怨念が特に残っていそうな船のパーツを選びましたからね。他にも活きの良いアンデッドが多いので、船員の募集もしましょうか」


「お掃除に人手が必要だもんね」

 その後、自分こそが船長だと言い張る海賊船と軍船と商船の元船長と魔導船の冒険者が言い争いをしているのを宥めて、四人とも採用。

 その後、周囲を彷徨っているアンデッド船員をスカウトした。彼等には『暴虐の嵐』から貰った略式の海図を見て貰わなければならない。


「とりあえず【鮮度維持】の後【消臭】と【殺菌】……張り付いた貝類や藻は、勿体ないので後で食べましょう」

 アンデッドなのに海生生物と共生関係にある彼等だが、これからは白く清潔な身体で人生をやり直す事になる。


「っと、言う訳で魔大陸に向けて出港しましょうか。途中幾つか魔海を突っ切る事になりますけど、何とかなるでしょうし。

 先導を頼みますね、骨人、リオー」


『お任せください、主よ。さあリオーよ、遂にお前が活躍する時が来たぞ!』

 何本もの縄で幽霊船と繋がったリオー……タロスヘイム南の大沼沢地をかつて支配していたグレートマッドドラゴンのゾンビの背に立つ骨人が、張り切って応える。


『GUROOOO……』

 するとリオーはワニに似た頭部から低い鳴き声を上げ、尻尾とヒレ状の四肢とを動かして幽霊船を牽引し始める。

 沼沢地よりもずっと深く、波がある海に若干戸惑っている様子だがその進みは力強い。岩礁にヒレが当たっても、砕きながら進んで行く。


「幽霊船自体はまだランク3ですけど、リオーは今ランク9ですからね。しかも骨人も乗っている。普通の魔物だったら通り過ぎるのを待つでしょう」

「ところでヴァン、船の名前はどうするの?」


「そうですね……クワトロ号にしましょう」

 パウヴィナに聞かれたヴァンダルーは、暫く考えた後スペイン語で四を表す言葉を口にした。由来は勿論、四隻の異なる船のパーツを使って造った幽霊船だからである。

 若干ピザっぽい名前だなと思わなくもないが、大丈夫だろう。


『クワトロ……ボスがつけたらしい、変わった名前で』

『キンバリーさん、他の船はどんな名前なの?』

『大体は女の名前か、『雄々しきクジラ号』みたいな形容詞と海の生き物を合わせた名前が多かったですねぇ』


 海は『水と知識の女神』ペリアやその従属神、そして魚や海生哺乳類の獣王の領域であるため船に女神や生き物を称える名前が付けられる事が多いそうだ。


『まあ、別に変わった名前だからって罰が当たるもんでもないですしねぇ。マリー号とかエリー号とか、似たような名前の船が山ほどあるよりはいいんじゃないっすかね?』

「まあ、そうですね。よろしくクワトロ」


 ヴァンダルーに依って名付けられた幽霊船クワトロが、軋みのような声を上げて喜びを露わにする。幽霊船である事を除けば、世界最大規模の大型船の誕生である。

「じゃあ、船員と船の掃除をしましょうか。食べられる物は回収して、後で船上バーベキューでもしましょう」

 しかし船内には棲みついた海洋生物やゴミが山ほど残っている。既に一度【殺菌】の術をかけてあるが、放置しておけばすぐカビが生えてしまうだろう。


「目指せ、世界一清潔な幽霊船」

「確かに、綺麗にしないと今夜眠る場所にも困る事に成りそうだな」

「オニワカちゃん、夜には一度タロスヘイムに帰るから大丈夫だよ。もし泊まる事になっても、サムがいるし」

「あ、そうか」


 早速【幽体離脱】後に分身して掃除や船員たちが身体から貝を剥がすのを手伝うヴァンダルーに続いて、サムの荷台に乗せて来たデッキブラシを手にとるパウヴィナやオニワカ。

 魔海を航行しているので警戒もしているが、それはオルビアやキンバリーが担当している。


 こうして航海初日は気の良い船乗り達が提供してくれたサザエやカキ、クワトロの内部に取り残されていた甲殻類や魚などに舌鼓を打つ、楽しいものになった。


 だが航海七日目にして、空がにわかに陰り出した。

「これが『暴虐の嵐』のドルトン達からの連絡にあった日蝕か」

『陛下っ、不吉の前兆です、何か起こるかもしれません!』

 レビア王女が黒く欠けて行く太陽を見上げて、不安そうな顔をする。『太陽の巨人』タロスを片親に持つ巨人種にとって、日蝕は不吉な事が起こる前兆なのだ。


『それって、昔のタロスヘイムの話じゃなかったっけ?』

 だがオルビアが聞き返したように、新タロスヘイムではあまり気にされていない。

『あ、そうでしたね。陛下、多分大丈夫です』


 しかし言われたヴァンダルーは、空では無く海に視線を向けていた。

「何かが……這い上がって来ます」

 そう言いながら【魔王の触角】を伸ばし、先端に【魔王の眼球】を発動させる。その濁った瞳は、青白い不吉な輝きを宿していた。

4月30日に183話を投稿する予定です。


5月15日に「四度目は嫌な死属性魔術師」の2巻が発売予定です。もし見かけたら手にとって頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
日蝕か… てっきり【蝕帝】の暗喩か、そうでなくてもヴァンダルー関係やと思ってたんやがハズレか。
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