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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第九章 侵犯者の胎動編
223/515

百八十一話 第二プランと真冬の海

 移住の前に、自分達のヴィダの新種族化をヴァンダルーに提案したカナコ。この瞬間の彼女には思惑は無く、ただ強い感情を覚え、それが正しいという直感に従ってそのまま口にしただけだ。

 だがこの発言は過去のカナコが狡猾な意思で、力を巧みに使った結果によるものだった。


 ロドコルテの神域で知った輪廻転生システム。それに属する自分達が見聞きした事は、ロドコルテやその御使いである亜乱達には自由に閲覧されてしまう。

 当然だが、それはヴァンダルーへの合流を目的とするカナコ達にとって厄介この上無かった。実際、そのせいでアサギ達に後を付けられる失態を犯している。


 この自分の目と耳にスパイ用のカメラとマイクが仕掛けられているのと同じ状況を脱するには、ロドコルテ式輪廻転生システムから抜けるしかない。

 そのためには、何れかのヴィダの新種族と化してヴィダ式輪廻転生システムに入るのが、カナコの思いついた中では最も確実な方法だった。


 種族はそのままでもヴァンダルーに導かれると言う方法もある。だが会ってすぐ導かれるか分からないし、彼が自分達に長い時間を使うとは思えなかったのだ。


 しかし、輪廻転生システムに関する記憶は神域から出て『ラムダ』に転生する際に消されてしまう。何かに書き残す事も、物品どころか肉体すら無い状態なので不可能だ。

 だからカナコはロドコルテによって与えられた能力、【ヴィーナス】を使った。


 他の多くの転生者達には他人を魅了する能力だと説明していた【ヴィーナス】だが、実際には自身や他人の記憶や感情をコピーし、自分を含めた対象に張り付ける事が出来る力だ。

 そして努力と経験の結果、カナコは更に【ヴィーナス】の発動に幾つか条件を付け加える事に成功していた。

 例えば、前もって能力を仕掛けて置き、ある特定の人物と直接会うその時まで潜伏させ発動を遅らせるという風に。


 カナコは神域にいる間に、ロドコルテの注意が自分から逸れている時を見計らってそれを自分に施した。ヴァンダルーと直接会った時に、「ヴィダの新種族化」に対して大きな魅力を覚えるよう【ヴィーナス】を仕掛けたのである。

 そして更に自分自身に能力を使った記録も【ヴィーナス】で完全に上書きして消した。


 こうすればロドコルテや亜乱が、カナコについて注目して詳しく情報を調べない限りばれないだろうと考えて。


 【ヴィーナス】で仕掛けたのが感情だけなのは、輪廻転生システムに関する記憶を下手に混ぜると転生する際に一緒に消されて無効にされてしまうかもしれないと、警戒したからだ。

 その分、自分がヴァンダルーにヴィダの新種族化を本当に希望するかは賭けだった。


 条件を付ける方法は、それの数や複雑さが増すにしたがって【ヴィーナス】の成功率その物が下がるし、成功しても数字に出来ない感情の問題だ。

 その時の状況次第で、感じても口に出さない可能性もある。


 しかし過去のカナコは自分ならこの感情を【ヴィーナス】によるものだと気がつくと信じて賭けた。

 そして現在のカナコは、見事賭けに勝利したのである。


「え、つまりヴィダの新種族にもなれて、移住も出来るんですか!?」

 尤も、ヴァンダルーもヴィダの新種族化を要求してくるとは考えていなかったが。


「いや、だからなんでヴィダの新種族にならないといけないのか、説明してくれないか?」

「カナコは理由を説明できないようだけど」

 驚きと困惑でカナコとヴァンダルーを交互に見つめるダグとメリッサに、ヴァンダルーは頷いて説明を始めた。


「俺がヴィダの新種族化をあなた達に要求するのは、後戻りできないようにするためです。アミッド帝国でも、そして遺憾ながらオルバウム選王国の幾つかの公爵領でも、ヴィダの新種族は肩身が狭い。特に吸血鬼や魔人族、鬼人、グールは人間では無く魔物と認識されています」


「なるほど……そんな種族に変化した後じゃあ、何があってもお国の為に尽くすしかなくなる訳か。中々エグイな」

『ダグ! 貴様が思っているよりもヴァンダルーが君臨する国々は広く、そして快適だぞ! 少なくとも閉塞感を感じる事は無いと、このワルキューレが保証してやろう!』

「あんたが嘘を言うとは思わないが……国々?」


 ヴァンダルーの説明に顔を引き攣らせたダグに、ワルキューレがそう言って保証する。しかし彼の影響力がタロスヘイム以外にも及んでいる事を知らないダグは、胡乱気な顔をする。

 それを無視してヴァンダルーは話を進めた。


「他にも理由はありますが……話すのはヴィダの新種族になった後にしましょう。それで、どうします? 本当にヴィダの新種族になるなら事前に簡単なガイダンスを実施して、なった後も色々フォローしますけど」

 種族が変わると言う事は、生態が大きく変化すると言う事だ。吸血鬼の場合は深淵種になれば日光を浴びても平気だし、姿形も瞳の色が変化し牙が生えるぐらいで最もハードルが低い。


 だがそれでも吸血衝動と生涯付き合う事になるし、対吸血鬼用のアーティファクト、ネメシスベル等の脅威もある。そして吸血鬼化した時の年齢のまま永い年月を生きなければならない不老不死は、人によっては呪いでしかない。

 ……それに元邪神派のエレオノーラやマイルズによると、親に当たる原種や貴種や他の吸血鬼との人間関係や、新米故に吸血鬼社会での立場の低さに耐えなければならない等、様々な問題が起こり得るらしい。


 そして吸血鬼以外の種族、魔人族や鬼人、グールやラミアやアラクネ等の場合は姿も変化する。

 それまでの人生と大きく変わってしまう。軽い気持ちで勧めて良いものでは無い。


「吸血鬼、か。まあ、それほど悪い事じゃないだろうが……」

「そうね、ちょっと」

 自分でも提案したカナコは兎も角、メリッサとダグは躊躇いを覚えたようだ。


「この先永遠に十代のガキの見た目のままって言うのは、抵抗があるな。舐められる事も多いし」

「最初から要求されると知っていたら、もっと大人の身体にするようロドコルテに要求したんだけど」

 人種とエルフ、種族は違うが約一年前に十代半ばに見える少年少女の肉体で転生したため、カナコ達三人はまだ幼さが残る姿をしている。


 この『ラムダ』世界の多くの国や地域では十五歳で成人として扱われるので、冒険者ギルドへの出入りは勿論、酒も賭け事も歓楽街への出入りも、やろうと思えば自由だ。


 しかし、現代日本で二十歳の青年が社会的にまだまだ半人前、若造として扱われる事が少なくないのと同じで、『ラムダ』でも多くの場合一人前だと見なされない事が多い。

 それをダグは「見た目で舐められている」と感じるようだ。


 メリッサの場合は単純に外見の事を問題にしているようだが。


「……問題はルックスですか」

『まあまあ、すぐ精神的に影響が出る事に気がつくのは無理よ。まず外見や不老不死に目が行くのは仕方ないわ』

『邪神派の原種吸血鬼も、吸血鬼にする候補がある程度成長するまで待つらしいよ。エレオノーラが言ってた』

 かくりと肩を落とすヴァンダルーに、瞳とジャックはそうフォローした。


「う~ん、確かに今の身体より前世の二十代前半くらいの時の方が、スタイルは良かった様な……でも、エルフでそこまで待つには何十年もかかるし、そもそも肉体の種族が別なんですから、同じスタイルに成長すると決まっている訳でもない訳ですし、十代のままの方が長続きするかも」

 そしてダグ達の言葉に影響されたのか、カナコまで悩み始めた。


『ヴァンダルー、そろそろ考えておいたプランBについて説明したらどうかな?』

「プランB? 閻魔、そんなのがあるのか?」

『ああ、実際には別の選択肢じゃなくて、ヴィダの新種族化を行うまでの間に時間がかかる場合に行う処置だけど。

 ヴィダの新種族化の儀式は、種族によっては用意に時間がかかるからね。僕達は君達の手紙に気がついてからすぐに来たから、君達が選ぶ種族によっては、暫く待ってもらう事になる』


 それに、儀式を行う種族の側の問題もある。

 カナコ達がヴィダの新種族になれば、彼女達が選んだ種族の者は彼女達の親と言う事になる。それには養子縁組以上の意味がヴィダの新種族にはあるので、同意を取り付けた訳では無いのに勝手に話を進める事は出来ないのだ。


 元レジスタンス組織のリーダー、『解放の姫騎士』のイリス・ベアハルトの魔人化をゴドウィンに頼んだ時は緊急事態だったし、彼女は一年以上ヴァンダルーと同盟を組んでいたので彼も「人格は保証します」と言う事が出来た。


 カナコ達の場合も、レギオンは前世で数年以上行動を共にし、非合法活動を行っていた訳だが……。

(人格を保証するとは、流石に言えない)

 利用し合う仮の同盟者としては【マリオネッター】や【デスサイズ】よりも頼もしかったが、この場合はとても推薦出来ない。


「つまりヴィダの新種族化の儀式を受ける事は前提ですが、その儀式までの間に受けるのがプランBと言う事ですね。

 分かりました。とりあえずそのプランBで行きましょう」

 カナコがそう言うと、今度はダグとメリッサも頷いた。それを確認してからヴァンダルーは、懐から三つの布袋を取り出した。


「じゃあ、数日一緒に生活しましょうか。隔離された生活環境で、俺の話を聞いたり、料理を食べたり、レベリングするだけで、難しい事は何もありません。そういう訳で、袋を被ってください」

 目を丸くするカナコ達に、ヴァンダルーは布袋を頭に被るよう促すのだった。




 後にカナコ・ツチヤは、当時の事を振り返ってこう言った。

「分かってはいましたけど、『地球』の頃とは完全に別人ですね。外見だけじゃなくて、内面が。

 もし当時からこんな人だったら、学校中の人の記憶に残っていますよ」


 布袋で視覚を遮られたカナコ達は、レギオンのジャックの【転移】によってどことも知れぬ場所に連れて行かれた。

 そこは何処かの草原のような場所で、明らかに急造と分かる小屋の近くには井戸と、何故かダンジョンの入口らしい階段があった。


 そこでカナコ達は、毎日何処からか【転移】でやって来るヴァンダルーからヴィダの教義やヴィダ派から見た歴史の講義を受け、ダンジョンに潜って訓練をし、ヴァンダルーが作った料理を食べる生活を一週間ほど過ごした。


「ヴァンダルー先生、本当にこれはプランBなんだよな? 普通に町の宿より良い暮らしをしながら簡単な講義と、数は異様に多いがそれほど強くない魔物と戦いながら、美味いものを食べるだけの毎日なんだけど」

 小屋の作りは『地球』や『オリジン』ならプレハブの様な出来だが、清潔でしかも入浴施設がある時点で宿屋でも中の上に値する。


「そんなに贅沢をさせているつもりはありませんが、本当にプランBなのですよ。それは兎も角、大人しくこの謎の特製ジュースを飲みなさい。材料は、今は言えません」

「……このジュース? 美味しいけど色が赤黒いのは何で?」

「二人とも、見た目の事は良いじゃないですか。久しぶりの甘味ですし、他にも揚げ物や味噌汁まであるんですよ! いやぁ、ムラカミを裏切った甲斐があるってものですよ!」


「確かに、食事は豪華だよな。この世界で一年以上暮らしてみて、『地球』や『オリジン』での生活が恵まれていたって、しみじみと分かったぜ」

 そう言いながらダグはデミグラスソースのかかったハンバーグを口に運んだ。


 『ラムダ』の多くの国や地域で、食事を含めた生活の諸々が前世と前々世で生きた国より悪い事を自身も知っているヴァンダルーだが、ダグの言い方には首を傾げた。

「あなた達は大人の身体で転生したのですから、食事も含めて色々工夫出来たのでは? それにこの世界でも予算次第で『地球』や『オリジン』並、部分的にはそれ以上の生活が出来るはずですよ。デミグラスソースがあるかは知りませんが」


 金さえあれば『ラムダ』でも広い屋敷に優秀な使用人を雇い、家電代わりのマジックアイテムを揃えて快適な生活を過ごす事が出来る。

 特に食事ではそうだ。確かに存在しない食べ物や調味料、料理も多い、だが高級食材である魔物を使用した料理は、『地球』や『オリジン』では絶対に食べる事が出来ない極上の美味だ。


 地獄の沙汰も金次第という言葉もあるのだから、異世界でも大体の問題は金で解決できるはずだ。


 そう主張するヴァンダルーに対して、ダグ達は揃って微妙な顔をした。

「まあ、そうだな。金があればだけど」

「工夫も、中々出来なかったしね」

「あたし達の事情だと、そうそう目立つ事は出来なかったですから」


 ダグ達はヴァンダルーを狙うムラカミ達のグループから離反した。そのため、目立つ事が出来なかったため冒険者ギルドの等級が上がらないよう、依頼の受領や魔物の素材の売却量を抑えていたのだ。

 ジョブチェンジは町から町へ移動しながら続けたので実力はA級に匹敵するが、ギルドでの実際の等級はD級だ。


「D級が最も数が多くて、町から町に移動する行商人の護衛に雇われやすい。俺の歳だとD級は若干速いけど、いない訳じゃ無いしな」

「ただ収入の面では御察しの通りでね。自力で美味しい魔物を狩るっていう手段もあるけど……若いD級冒険者三人だけで大きな魔境の奥深くや、高難易度のダンジョンを出入りしたら目立つのよ。まあ、せいぜいオークやインペイラーブルぐらいね」


「それにあたし達は短い期間で町から町に移動して拠点を変えますから、工夫も殆どできなかったんですよね」


 三人もそれなりの知識や技術がある。『地球』では普通の学生だったが、『オリジン』では軍の訓練を受け、その後は『第八の導き』に合流して非合法活動をしていたからだ。

 しかし、流石に資金も限られる上に移動しながらではそれを生かせなかったようだ。


「マヨネーズを作ろうにも、酢や油はまだしも新鮮な卵は高いですからね。それに、万が一あたし達が作った物が誰かの目に留まって噂になったりしたらムラカミに居場所を教える様な物ですし……ベルウッド原理主義者なんて危険な連中が、まだいるかもしれないそうですし」


「ベルウッド原理主義者、ですか?」

 初めて聞いた言葉にヴァンダルーが聞き返すと、カナコは「あたしも詳しくは知りませんけど」と前置きをしてから話しだした。


「アルダ過激派から更に枝分かれした集団で、堕ちた勇者ザッカートの遺産を利用しようとする者を罰する事を使命としているらしいです。

 つまり、あたし達から見ると異世界の知識や技術を使う人達を殺して回る連中ですね。尤も、歴史の上では異端認定されて当時のアルダ神殿が粛清したそうで、今は存在しない事になっていますけど」


「それまた何故?」

「何でも、活動が過激になり過ぎたそうです。米を栽培しているだけで村全体を焼き討ちにしたり、領地内の遺跡から勇者の遺物らしい物を偶然発見してしまっただけでその貴族を暗殺したり、魔術を用いない便利な道具を発明した賢者とその弟子と家族を皆殺しにしたり」


「……狂犬ですか、その連中は。特に最後の、異世界の知識と技術関係無さそうですし」

 昔の出来事とはいえ、ヴァンダルーは思わずそう聞き返していた。聞いた限りでは、本当にザッカートの遺産が関係しているのか調べてさえいない。これではこの世界独自の進歩を妨害しているだけだ。


 冷静に分析するなら、そのベルウッド原理主義者達もザッカートの遺物、つまり異世界の知識や技術について正確には知らなかったのだろう。それでも活動を始めた当初は残っていた伝承を基に判断していたのだろうが、時代を重ねるうちに活動が先鋭化し、過激な行動を繰り返すうちに歯止めが効かなくなったのだろう。


「当時のアルダ神殿もやり過ぎだと思ったみたいですね。それで当時の主だったメンバーを拘束して異端として認定し、粛清したそうです。

 そうなる前に、神様が神託なりなんなり出して止めれば良いでしょうにねぇ」


「アルダを弁護する気はありませんが、本来の信仰から離れている信者程、声が届かないのかもしれませんね。

 それは兎も角、それじゃあ今は居ないんですか、ベルウッド原理主義者」

「組織としては何万年も前に消滅していますけど、今もいるかもしれないと言われていますね。昔話で子供を攫いに来る悪い妖精みたいな扱いです」

 どうやら、現在では確認されていないらしい。それなら何故警戒するのかとヴァンダルーが聞く前に、メリッサが口を開いた。


「私達はあなたの国に移住する事を目的に行動してきたからよ。念のために警戒するけど、オルバウム選王国での暮らしは仮の物だから、今も実在するか本格的に調べる程じゃ無かっただけ」

「だから暫くの間だけと辛抱してたんだ。移住できなかったか、最初からオルバウム選王国で生きる事を決めていたら調べていたと思うぜ」


 そう言う事らしい。アサギやムラカミならもっと詳しく調べているかもしれないが……そもそもアルダ勢力の神の信者である時点で警戒対象なのだし、今から詳しく調べなくても良いだろう。


 そんな風に世間話をしながら暮らしていく内に、カナコ達の身に突然能力値が急上昇するという不思議な現象が起きた。

「こ、これは!? 力が漲って来る……これが俺の隠された才能なのか!?」

「ふっふっふ、どうやらあたし達は何かに覚醒したようですね」

「そうじゃなくて、多分これがプランBの効果だと思うけど」


「はい、あなた達は俺に導かれただけです」

 プランBの正体。それは「一緒に過ごして導いてしまおう」という、言ってしまえば今まで境界山脈の外で出会った人々にしてきた事を、故意に引き起こそうとしているだけのものだった。

 能力値の上昇は、【導き:冥魔創道】の効果である。


 ただカナコ達はエルフと人種で、別に死を望んでいる訳では無いので【冥魔創道誘引】の効果が無い。また、「これをすれば絶対導ける」という確実な手段も思い至らなかったので、時間をかけて何となく導いているっぽい事をしたり、ヴァンダルーの血液が原材料のブラッドポーションをジュースと偽って飲ませたりしてきたのである。


「なるほど……ダンジョンでも自分は後ろで指示するだけだったのも、その一環か」

「いえ、あれは念のために俺が戦っているところを見せないためですけど」

「あ~、そうか」

「では気を取り直して、ステータスを確認してください。ロドコルテの加護や幸運は消えていますか?」


 ロドコルテの加護や幸運は、ヴァンダルー以外の転生者達全員に『オリジン』に居る時からついている物だとヴァンダルーとレギオンの瞳は推測していた。

 しかし、転生者である見沼瞳の魂を含んでいるレギオンのステータスには【ロドコルテの加護】も幸運も表示されていない。


 そこからヴァンダルー達は、「ロドコルテの影響下から外れると、加護や幸運が表示されなくなるのではないか」という仮説を思いついた。

 それでとりあえず、カナコ達を導けないか一週間ほど試してみたのである。


「【ステータス】……あ、消えてる」

「俺もだ。ついでに、【ターゲットレーダー】も消えたな。だけど【ヘカトンケイル】はそのままだ」

「あたしも、【ヴィーナス】は残っていますね。便利だから良いんですけど」


 そして三人の加護や幸運も、ついでに【ターゲットレーダー】という一億以上の死属性の魔力を感知するユニークスキルも消えたらしい。


「これで俺達の移住は認めて貰える……の……気のせいか、あんたが輝いて見える……」

「そう、良かった。私だけじゃないのね」

「ダグ、メリッサ、それは一時的な症状です。そのうち慣れます」

 そして導きの効果で、彼等はヴァンダルーからカリスマ性を感じる様になったようだ。


「今まで無表情だったから気がつきませんでしたけど……結構美少年ですよね」

「……あなたの前に居るのは『地球』でモブだった、あなたと同じ年月を生きている人物です。冷静になってください、元アイドルさん」


 カナコが血迷いかけたその時、家の扉が激しい音と共に蹴破られた。

「新入り共っ、ヴァンダルー様を一週間も独占していたんだから、これからは我慢しなさい! 血迷うなんて言語道断!」

 そして入って来たエレオノーラによって、事態は鎮圧されたのだった。


 実はこの家がある草原も、ヴァンダルーの地下工房に創られた実験用ダンジョンの内部だった。ダンジョンをより安全に居住空間や娯楽施設として活用できないか、指定した階層に魔物が生成されないように出来ないか実験する為に創った物を、流用したのである。


 近くに在るダグ達が訓練をするのに使っていたダンジョンの入り口は、入口に見えるように偽装した下層へ続く階段だった。

 そう、カナコ達は既にタロスヘイムに移住していたのだ。




 ヴァンダルーの導きの効果でロドコルテから切り離されただろうカナコ達は、その後他の転生者達の情報を改めて提供した後、タロスヘイムの国民になるための本格的なガイダンス……法律やアンデッドや他の種族との付き合い方等の講義を受けた後、ヴィダの新種族化の儀式を受けるまでの間レギオンの部下として配属された。


「監視の意味もあるだろうから、それは分かるんだが……結局あんた達はどんな状態なんだ?」

 相変わらずフードを目深にかぶったローブ姿のレギオンに、ダグは胡乱気な顔をして言った。

「相変わらず気配が変ですし、複数の声が一度に聞こえますし……確認しても良いですか?」


『そうね、これから一応私達の部下って事になるんだし』

『我々としても、ずっとこの姿で居るのは窮屈だしな!』

『骨格がある人間の動きを真似するのは、今のあたし等には怠いからね』


『じゃあ、これから俺達本来の形状を見せよう。『オリジン』のホラー映画やゲームに出て来るクリーチャーを思い出して、気を強く持って。無理だったら諦めて』

『念のために物陰からヴァンダルーも見守っているから安心して。すぐ色々投与して貰えるから』


 レギオンの人格達から次々に声をかけられる度に、カナコ達の顔色が徐々に悪くなっていく。特に、ふと振り返ったメリッサは、本当に物陰からヴァンダルーが見守っている事に気がついて蒼白になった。

 何故ならそれはヴァンダルーが見守らなければならないような事が、これから自分達の身に起こる事を意味しているからだ。


『最後に言っておくけれど、悲鳴を上げて怖がっても私達は気にしないようにするから』

「いや、ちょっと段々遠慮したくなって来た気が――」


 ダグの引き攣った声の途中で、ミヂミヂと何かが軋みながら膨張する音が響き、複数の悲鳴が迸ったのだった。

 ただ意外とカナコはすぐに衝撃から立ち直り、メリッサとダグもヴァンダルーの【精神侵食】スキルによるカウンセリングや、分泌した薬剤の世話になるような事にならなかったようだ。




 そうして暫くカナコ達にかかりきりになっていたヴァンダルーだが、事態は色々と動いていた。

 彼女達が導かれてから暫く後、ヴァンダルーが定期的に訪れていた『暴虐の嵐』との待ち合わせの場所に残されていた伝言から、アミッド帝国で政変が起こる兆しがある事を初めて知った。


 『法命神』アルダが歴史上でもそう無い程、積極的に人間社会に干渉している。そして、時期的にそれはヴァンダルー達に対しての動きであるとしか思えなかった。

 ただ皇帝の退位など、まだ表面には動きは出て来ていないようだ。


 そして一方ヴァンダルーは何をしていたかと言うと、新年を迎えたばかりの冬の海で船を探していた。


「俺、結構アルダ教的にも良い事をしている筈なんですけどねー。魔王軍残党の悪神と原種吸血鬼を消滅させるなんて、大金星じゃないでしょうか?」

「でも、ヴァンはアルダ教の偉い人達に褒められても嬉しくないんだよね?」

「まあ、その通りなんですけどね」


 七歳、人種に換算すると十歳と半年程になったパウヴィナは、身体の大きさを無視してもヴァンダルーよりも年上に見えるようになっていた。

 その彼女とヴァンダルーは、ナイトメアロードキャリッジのサムの荷台から顔を出して、外の景色を見ていた。


『いやはや、海は冬でも温かいですな』

「境界山脈内部の海は、バーンガイア大陸の南にありますからね」

『陛下、あの船がいいんじゃないですか? 船首の飾りがカッコイイですよ』

「……レビア王女、残念ながらあの船は前半分しか無いようだ」


 南のコバルトブルーの海に、白い波を受ける岩礁、フジツボや貝類が張り付いた難破船に、『ア゛ア゛ァァ!』と絶叫を上げる船員のアンデッド達。


「うーん、でもどの難破船も似たり寄ったりの状態ですしね。サイズの合う難破船の後ろ半分があったら、アンデッド化する時にくっつけちゃいましょうか」

 ヴァンダルー達は、『暴虐の嵐』の伝言にあった略式の海図を使って魔大陸へ行くための船を探していたのだった。




・名前:カナコ・ツチヤ

・種族:エルフ

・年齢:1歳(外見年齢15歳程)

・二つ名:【転生者】

・ジョブ:土属性魔術師

・レベル:70

・ジョブ履歴:見習い盗賊、魔術師、弓術士、盗賊



・パッシブスキル

暗視

精神汚染:2Lv

直感:6Lv

気配感知:5Lv

死属性耐性:5Lv

敏捷強化:1Lv

弓装備時攻撃力強化:小


・アクティブスキル

土属性魔術:7Lv

水属性魔術:7Lv

生命属性魔術:5Lv

魔術制御:6Lv

歌唱:7Lv

舞踏:7Lv

短剣術:4Lv

格闘術:3Lv

弓術:5Lv

忍び足:5Lv

鍵開け:3Lv

罠:3Lv

投擲術:3Lv


・ユニークスキル

ヴィーナス:10Lv

ユニークスキル隠匿(喪失!)

ターゲットレーダー(喪失!)

ロドコルテの加護(喪失!)

輪廻神の幸運(喪失!)

4月22日に閑話26を投稿する予定です。


●127話を修正して、転生者達全員の能力をロドコルテの神域で使えるようにしたと、以下のように修正しました。


『では、今手に入れた情報を元に引き続きどの選択肢を選ぶか考えて欲しい。ここで有効に使えるかは個人差があるだろうが、全員能力を使用可能にしておく。それも使って考えてほしい。魔力は自前の物を使ってもらうので、限りがあるだろうが』

 絶句している転生者と御使いをその場に残して、ロドコルテは作業と思索に戻った。


●閑話25 日蝕が起きると預言された時期を一月に修正しました。


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やっぱりSANチェックする羽目になったかwww
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