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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第八章 ザッカートの試練攻略編
215/514

百七十七話 生命体の根源

 自己が発生した瞬間をグファドガーンは記憶している。


 親に当たる存在の本能に則った活動の結果生まれ、そのまま本能に従い生き続けたら、悪魔のような偶然の繰り返しによって神に至った。それがグファドガーンと言う存在の半生だ。


 グファドガーンは『地球』の蜘蛛、若しくはアリジゴクに相当する種族に生まれついた。『地球』と違うのはその種族は本能の一部として空間属性魔術を操り、空間を歪めて罠を張りそこにかかった他種族を捕食する生物であるという事だった。


 本能に従うだけで思考力をほぼ持たない原始的な種族。そこから神に至る個体はグファドガーンが初であった。しかし、神に至った瞬間グファドガーンはその本能を失ってしまったのだ。

 罠を仕掛け後はただ待つという生態故に闘争本能も狩猟本能も薄く、単生殖で分裂するように増える為に性欲も無い。そして神に至った結果、食欲も睡眠欲も失ってしまった。


 その代償に得たのは元の種族では持ち得なかった思考力や記憶力、神としての力だった。

 しかしグファドガーンはそれらを活かす事が出来なかった。僕である元同族達は彼の意思を理解する事も出来ず、繁栄をもたらす意味も弄ぶ甲斐も見出せなかったのだ。


 神に至ったグファドガーンは、それ以外何も思いつかないために神に成る前の事を繰り返すだけの日々だった。違うのは、仕掛けられる罠がより大きく、より複雑に変化していった事だ。


 その内新たに魔王となり世界に君臨したグドゥラニスによって、異世界への侵略が始まった。逆らうという発想が無かったグファドガーンは当然魔王に従い、『ラムダ』への侵略に加わった。

 『ラムダ』では魔王が模倣した輪廻転生システムと、それを利用した魔物の生産において、彼の創る罠がダンジョンとして有用に機能した。


 だがそうした力を持つ者はグファドガーン以外にも『魔城の悪神』等他にもっと強力な力を持つ存在が既にいた。更に魔王によって数多くの邪神悪神がダンジョンを創造する術を習得していった。

 そのためグファドガーンはただただ他の神々の間に埋没していった。


 そんな時、グファドガーンに呼びかけたのが勇者ザッカートだ。彼を認め、必要とし、求めた存在。

 グファドガーンはその時こそが、己が真に誕生した瞬間だと記憶している。


『ここがダンジョンの宝物庫に相当する場所、ザッカートの工房をそのまま取り込んだ場所です』

 直接見る事でヴァンダルーが、ザッカート達の魂の欠片を組み合わせて創られた魂を持つ存在だと気がついた彼は表面上冷静に、新たな主とその仲間達を案内した。


 しかし主とその仲間達は宝物庫の前で立ち止まってしまった。

「この、周りで群れている苦悶の声を上げる無数のゴーストは何でしょうか?」

 何故ならグファドガーンが内心誇らしげに案内した宝物庫の周囲には、千を優に超えるゴーストが「オォォォ……」と苦悶の声を上げながら漂っていた。


 生前の姿形を失い、漠然と人の顔の形をした千を超える人魂が上げる、苦悶の声のオーケストラ。ゴーストはランク2の魔物に過ぎないが、その悍ましさは計り知れない。

『試練の結果死んだ、アルダ勢力の神々の信者共の成れの果てです』

 そして真実は、アルダやその信者達にとってより悍ましいものだった。


『アルダ派の神々にこの『ザッカートの試練』の情報を渡さぬ為、御使いや英霊になり敵の戦力に加わらせぬため、幽閉しこれまで我が力の一部として利用していました』

 神の力は信仰だが、その信仰には恐れや畏怖も含まれる。祈りよりも得られる力は少ないが、塵も積もれば山に成る。


 グファドガーンが特殊性と難易度が規格外な『ザッカートの試練』を維持運営する事が出来た要因の一つが、このゴーストの群れなのだ。

 しかし、もう用済みである。


『申し訳ありません、今すぐ虚空の彼方へと追放し始末します』

 ちょっと部屋が汚れているから、すぐ片づけるね。そんな感覚でゴースト達を処分しようとするグファドガーン。ゴースト達が恐怖と絶望に戦く。


「ちょっと待ってください、ゴーストは使えるかもしれないのでそのままで」

『畏まりました』

 そしてヴァンダルーが止めた瞬間、空間を歪めるのを止めるグファドガーン。ゴースト達は安堵の声を上げ、【冥魔創道誘引】スキルの効果で、ヴァンダルーの周囲に集まり出す。


「凄い光景だけど……見分けは付きそう?」

 スキンヘッドで目と口の位置に黒い穴がある事で辛うじて人魂だと分かる。そんな状態のゴーストに囲まれるヴァンダルーの姿に、合流したエレオノーラやイリスは顔を強張らせた。


 アンデッドに慣れている彼女達だが、ヴァンダルーがテイムしたゴーストは実体が無い事以外は生前の姿形を保っている。これほどまで姿を崩したゴーストの群れを見た事は、殆ど無いのだ。

「んー……ほぼ無理ですね」

 喉を撫でられて気持ち良さそうに唸り声を上げるゴーストを観察しながら、ヴァンダルーは答えた。


 個人の特定どころか種族や年齢、性別すら見分けられる自信は無い。

 この中にハインツの仲間だったエルフの女精霊魔術師、マルティーナのゴーストも含まれている筈なのだが。

「マルティーナって名前のエルフはいますか?」

 念のために訪ねてみたが、ゴースト達は呻き声を上げるばかりで意味のある言葉を答えない。


 いや、比較的最近死んだらしいゴーストが答えた。

『しラなイいぃぃ』

「……ありがとうございます」

 どうやら、ダメらしい。


『お探しのゴーストがいるのですか? それは申し訳ありません』

 ヴァンダルー達の挙動に注目していたグファドガーンだったが、詳しい会話の内容までは聞いていなかったらしい。石像や氷像の前で何かしているのも、てっきりアンデッドの材料にするための死体を見繕っているのだと考えていたようだ。


 勿論ヴァンダルー達の中にレビア王女等のゴーストがいる事も知っているが、彼女達はグファドガーンも見た事が無い高ランクなゴーストだ。それなのにこのゴースト達を必要とするとは思わなかったのだろう。生前はA級冒険者だった者も混じっているが、今はランク2のゴーストでしかないのだから。


「もしや、グファドガーンでも見分けが付けられないのか?」

 境界山脈内出身のギザニアが思わずそう呟くと、それに気がついたグファドガーンがピクリと肩を震わせる。

『誠に、重ね重ね申し訳ありません』

 そしてその場で許しを請うように、ギザニアに向かって頭を下げた。


『己の目が節穴だった事を棚に上げ怨念を高め、私の魔力に当てられゴーストと化した彼等が勝手な事を……遺産の破壊や他の挑戦者に助言を試みる事が無いようにと、短期間で人格や記憶を失うように仕向けておりました。

 そのマルティーナと言う名に覚えはありますが、その者がこの中の誰なのかは最早見当がつきません。

 全ては私の管理能力の無さ故。ギザニア殿、どうぞ罰をお与えください』


「ば、罰っ!? そ、そんな恐れ多いっ 頭を上げてくれ! ザナルパドナを含めた全ての境界山脈内に生きる種族は、今もあなたの恩恵を受けている、謝るのは軽はずみな発言をした拙者の方だ!」

 ぎょっとして仰け反り、千切れそうな勢いで首を横に振るギザニアだが、グファドガーンはまるで岩のように動こうとしなかった。


『お言葉ですが、私が過去成した事は関係ありません』


「何故っ!? 数々の偉業が歴史に残っているのに!?」

「そうでござるよ! 鬼人国や竜人国、魔人国周辺のダンジョンを創って汚染された魔力を前もって抑え、管理できる形にしたり、『ヴィダの寝所』を創ったり!」

「父さんからも、ザンタークは親父、ゼルクスは叔父貴、グファドガーンは親方だと教えられています! どうか頭を上げてください!」


 ギザニアだけでは無くクリスタルエンプーサのミューゼと、魔人化して魔人王ゴドウィンの養女になったイリスが何とか彼が平伏するのを止めさせようとする。

 彼女達の慌てようから、グファドガーンが境界山脈内の人々からどれだけ畏敬の念を注がれているか分かるだろう。


 だが本人はそれを顧みるつもりは無いようだ。

『いいえ、今の私は神である前にヴァンダルーの僕。先輩である皆様に、新参者の私が礼を持って接する事の何処に問題があるのでしょうか。

 皆様も、私の事は新人の召使いか従僕とお考えください』


 一旦顔を上げるとそう言って、ギザニア達だけでは無くエレオノーラやレギオンと言った面々も視界に入れて再度頭を下げるグファドガーン。

「ちょっとっ! それって私達も入っているの!?」

「いや、それはかなり具合が悪いのじゃが……」

 それまで内心緊張しながらも様子を見ていたエレオノーラとザディリス達、自分達も含まれていると知り、顔を引き攣らせる。


『勿論でございます、エレオノーラ様、ザディリス様』

「なんで様をつけるの!?」

『ヴァンダルーの将来妻と成る方々に敬意を払うのは従僕として当然の事です』


 グファドガーンは動揺しているヴァンダルーの仲間達全員を、本気でヒエラルキーにおいて自分より上に存在すると認識していた。例外は、元挑戦者のゴースト達ぐらいだ。

 何故なら彼は、ついほんの数分前配下に加わる事を認められたばかりの新参者で、それに比べて彼女達は『ザッカートの試練』に挑む前からヴァンダルーに仕え、侍って来た存在だ。どちらが先輩か、考えるまでも無い。


 そこに神と人の関係性は意味を持たない……グファドガーン以外は「そんな事は無い」と言うかもしれないが。


「わ、私は元邪神派の吸血鬼で、貴方方を裏切った原種吸血鬼テーネシアの側近だった者です。それでもですか!?」

『勿論です、ベルモンド様』


 それにはヴィダの新種族だけでは無く、謎の肉塊(レギオン)や人種、そして元邪神派の吸血鬼であるベルモンドやエレオノーラですら含まれる。

 何故ならヴァンダルーが仲間として認め、傍に置いているのだから。


 グファドガーンにとって世界で唯一価値のある存在はザッカート、そして今はヴァンダルーである。ならばその思想、善悪の判断基準、哲学、好みはヴァンダルーに準ずるものでなければならないのだ。


『あー、ここにいる女はほぼ坊主に嫁ぐ事に成ると思うが、もしかして全員に様を付けるつもりか、あんた?』

『なんと、そうでしたか。ギザニア様、ミューゼ様、イリス様、御無礼をお許しください』

「余計な事を言わないでいただきたい、ボークス殿!」


『……様付で呼ばれたらどうしようか、シェイド?』

『……外堀から埋められている気がするのは気のせいかなぁ』

『最近思うんだが、流れに身を任せたら楽なんじゃないだろうか?』


『グファドガーンさんっ、私は違うのよ。母親だものっ』

『はい、存じております』


 ボークスが余計な事を言ったり、レギオンの男性陣が懊悩したり、ダルシアが慌てて訴える混沌とした状況で、ヴァンダルーは黙ったまま困っていた。

(エレオノーラやベルモンドと揉めるかもしれないとは思っていましたが、こうなるとは想定外だった。どうしましょー)


 まさか『五悪龍神』フィディルグより腰の低い……いや、慇懃で低姿勢な神が存在するとはヴァンダルーの想像力を越えた事態だった。

「ええっと、もっとフランクな感じでお願いします。様は止めて、さんとか君、呼び捨てで呼んでください。あと、膝は突かないでください」

 しかし何時までも困っている訳にはいかないので、そうリクエストした。納得してもらえるまで繰り返すつもりで。


『畏まりました。以後、その様に致します』

 だがグファドガーンはあっさりと受け入れた。そして立ち上がる。

『ではこのゴースト達は如何しますか? 最早私の用は済みましたので、お任せいたしますが』

 気がつけばゴースト達に対する対応まで柔らかくなっている。グファドガーンの認識では、ヴァンダルーに魅了されたゴースト達は利用すべき敵では無く従僕の後輩、同僚であるらしい。


「……とりあえず、このまま連れて行きましょう。ゴーストなら食費はかからないし、どれがマルティーナか分からなくても、まあ構いませんし。

 死体の方は見分けがつきますよね?」


『はい。入った直後に死んだ有象無象の者共なら兎も角、ある程度進む事が出来た者達の姿形は忘れておりません。

 特にお探しの者はアルダ勢力の信者達の中では最も深くまで進んだ者達だったので、記憶に残っています』

「なら問題ありません」


 ハインツ達への嫌がらせには、マルティーナの死体から作ったアンデッドがあれば十分だ。その中身の霊が本人の物かどうかなんて、ハインツ達には分からないだろう。

 そもそも既にゴーストと化している場合、死体に【憑依】する事は出来ても宿ってゾンビに成る事は出来ないのだし。


 適当に選んだ霊に、それらしい演技をしてもらう事にしよう。


『では、ザッカートの工房にご案内します』

 ヴァンダルーが頷いたのを見て、グファドガーンは中断していた案内を再開したのだった。




 ザッカートの工房は、職人の作業場兼魔術師や錬金術師の研究所といった不思議な雰囲気の場所だった。

 床には五芒星や六芒星の魔術陣が大小幾つも描かれ、ドリルや研磨機など工作機械を模したマジックアイテムが備え付けられている。他にも金属を溶かす炉等大きい装置が置かれ、金属のインゴット、粘土や木材がそれぞれまとめられている。


 そして空いたスペースには無数の宝箱が積み上がり、そこに納まりきらない金銀財宝やマジックアイテムが散乱していた。

「あれもザッカートの遺産なのか?」

 それを見たグールの戦士長ヴィガロが、訝しげに尋ねる。低姿勢から丁寧でやや慇懃な態度程度に成ったグファドガーンに、彼は早速慣れ始めているようだ。


『あれは私が『ザッカートの試練』を創った結果、自然に生成されたダンジョンの宝物です。ザッカートとは何の関係もありません』

 ダンジョンでは各階層に宝箱が、そして最奥には財宝が生成されるのが定められた法則である。ダンジョン造りの専門家であるグファドガーンも、それを止める事は出来なかったようだ。


 だがそのままにしていては試練の邪魔になるので一か所に集め、そのまま保存していたらしい。

 グファドガーンにとっては何の価値も無いが、新たなザッカートにはそうでは無いかもしれない。それに先代ザッカートは「もったいない精神」なるものを重視していた。


『迷宮を攻略した正統な報酬です。これも石像や氷像と化した者共同様、ご自由にお持ちください』

「それは後で良いので、母さんを復活させられそうな遺産を早く」

 城を家具と使用人、城下町と田畑付きで買った上に七代先まで遊んで暮らしても使いきれないだろう、『ザッカートの試練』百年分の財宝に、ヴァンダルーは目もくれずそう急かした。


 そのくらいの財宝、ヴァンダルーなら百年もかければ確実に稼ぐ事が出来る。しかしダルシアの復活は百年かけても確実とは言えないからだ。

『はい、こちらです』

 グファドガーンが腕を一振りすると、工房の壁が動きだし隠されていた空間が露わになった。そこにはSFを連想する謎の装置や、結界の中に安置されたハザードマークの刻まれた金属筒、試作品と思われる何丁もの銃、ヴァンダルーやレギオンの目から見ても用途不明な装置や物品の数々が置かれていた。


 その中の一つが、人が入れそうな円筒形の透明なカプセル群。その中に満ちた液体の中に漂う白い泥のような物をグファドガーンは指し示した。

『あれが偉大なるザッカートが創り上げた、『生命体の根源』でございます』

 不定形のまま脈打ち、形を変える様子がレギオンの元となった肉塊ちゃん……『生命の原形』に似ていた。


「生命体の根源……!? 生命の原形とは違うのかね!?」

 それまでメモやスケッチを取るのに集中していたルチリアーノが、思わず声を出す。

『非常に近いものですが、異なります。ザッカートはこれを万能細胞と評していました。再生医療を可能にするものです』


『万能細胞!?』

「異世界の方で先に再生医療の実用化を目指すとは、先代も予想の斜め上を行きますね」

 『生命体の根源』よりも馴染み深い名称を聞いて、レギオンの見沼瞳とヴァンダルーが声を上げる。『地球』と『オリジン』それぞれの世界で失った器官を取り戻す為の再生医療は研究が進んでいたが、勇者ザッカートは十万年前に完成させていたらしい。


 魔王軍との戦いでは、数多くの傷病者が出た。しかし当時は神々が地上に存在した。手足や内臓に障害が残った者達も、彼等の治療を受ける事が出来ればすぐに健康体に戻る事が出来た。

 だが戦況が悪くなると神々に全ての傷病者に完璧な治療を行う余裕は無くなっていった。


 切り傷や骨折、切断された手足の接合ぐらいなら神に仕える聖職者達でも可能だったが、四肢を焼き斬られ脳に大きな損傷を負った戦士達を再び戦える身体にする事は出来なかった。


 『生命と愛の女神』ヴィダから力を得て、元々法医学者を目指していた為それなりの医療知識を持っていたザッカートでも、限界があった。何より勇者であっても一人では、一度に癒せる人数に限りがある。

 そのため、ザッカートが創ったのがこの『生命体の根源』と名付けた万能細胞だ。


 ザッカートの知識を基に科学では無く魔術と錬金術で再現し、完成させたそれは万人のあらゆる部位に適合、再生を促す正に万能の細胞であった。

 腕に移植すれば新たな腕が、機能を停止した内臓に注入すれば内臓が再生する。骨、神経、眼球、脳すら元通りだ。それは既に再生医療と言うよりも、再生魔術と評するに相応しい。


 流石に本当の魔術程即効性は無かったし、脳の損傷によって失われた記憶や人格までは再生しなかったが、それでも数日あれば傷病者は戦場に戻る事が出来た。

 『生命体の根源』の生成自体はザッカートしか出来なかったが、移植措置はやり方を知っていれば誰でも行う事が可能という利点もあった。


 勿論、『ラムダ』の戦士だけでは無く勇者達もこの『生命体の根源』の世話になっている。

「再生医療は確かに魅力ですが、母さんの場合肉体全体を再生しないといけないのですが、可能なのですか?」

『可能です。この『生命体の根源』は対象の魂に適応した形に変化し、部位を再生します。アンデッドには適応しませんが、魂を内包した通常の霊であれば問題無く肉体を再生するはずです…過去、そのせいで使用を停止する事に成りましたので』


 ある時、『生命体の根源』から死んだはずの戦士が出現した。霊を知覚する事が出来なかったザッカート達は、『生命体の根源』に彷徨っていた霊が入り込んだのに気がつかなかったのだ。

 それだけなら奇跡的な死者の復活で済むが、復活した戦士は死に際に味わった恐怖と絶望によって正気を失っていた。

 ザッカートの工房で無茶苦茶に暴れまわり、治療を待っていた怪我人を魔物と誤認して殺そうとしたので、結局ザッカート本人の手で二度目の死を迎えた。


 それを問題視した『法命神』アルダの主張で、再発防止策を徹底するまで再生医療は中止される事になった。

 そして再開する前に、ザッカート達は魔王の手によって討たれたのだ。

 残った『生命体の根源』は「再発防止策がどこまで進んでいたのか分からない」事と「残った三人の勇者が重傷を負った場合に使うため」そのまま工房に保存された。そしてヴィダがアルダ達から離れる際に、グファドガーンが工房ごと持ち出したのである。


『見れば、御母堂の霊は多少の損傷が残っており弱ってはいますが、正気を保っておりアンデッド化しておりません。復活は、十分可能だと思われます。

 ただこの『生命体の根源』が創り出された当時ダークエルフは存在していませんでした。多少の不具合が起こるかもしれません』


「なるほど……どうします、母さん?」

 危険性がある事を説明するグファドガーンに頷いて、ヴァンダルーはダルシアを見上げる。

『勿論お願いするわ。だって、ヴァンダルーや皆が私を生き返す為に協力してくれたのだもの。何も怖がることは無いわ。それに……あれを使うのよね?』


「はい。グファドガーン、ちょっとここにサムを出しますね。皆、出すのを手伝ってください」

 名状しがたい音を立てて、空いた場所にサムの荷台を出すヴァンダルー。そして中からダルシアの新しい肉体に使うために用意してきたオリハルコンの骨格や、魔物の内臓、そしてグーバモンから摘出した【破壊の魔眼】を取り出していく。


『いよいよですね、坊ちゃん!』

『ダルシア様が復活するのが楽しみですね!』

「ありがとう、リタ、サリア」


『おおおおおん!』

『主、いよいよ大願成就とは……感無量です』

「クノッヘン、骨人、うっかり成仏しないように気を付けてください」


「師匠、私はこの瞬間に立ち会える事を誇りに思う!」

「……ルチリアーノは立ち入り禁止にしようかな」

「何故かね!?」

 記録用にスケッチしようと身構えているルチリアーノに、思わずそう思うヴァンダルーだった。ただ、必要性が無いわけでは無いので、今回は見逃す事にする。


『ヴァンダルーよ、それは……『生命体の根源』に合わないのでは?』

 新鮮でも魔物の部位を人間サイズに加工した物に、そもそも生命体では無い金属製の骨格。そんな素材を使った例は過去に存在しない。遠慮がちに止めようとするグファドガーンに、ヴァンダルーは肌身離さず持っていたある物を見せた。


「大丈夫です、このヴィダから貰った女神の血が有ります」

 結晶化したヴィダの紅い血を見て、グファドガーンは感嘆の声を上げる。

『おおっ! それはヴィダの血液。それも憎き敵に流されたのではなく、寵愛を注ぐ者に自ら授けた血結晶! 血は生命の象徴、それならば御母堂の新しい肉体に何をどれだけ組み込もうと、必ずや復活が叶う事でしょう!』

『止めてグファドガーンさん!? ヴァンダルーをこれ以上煽らないで!』


 感嘆の声を上げるグファドガーンを慌てて止めるダルシア。

「……ダルシア様って、復活したら何に成るのかしらね?」

「ダークエルフ、ではない気がしますね」

『アブソリュートエルフとか、アンリミテッドエルフとか、そんな新種族かもしれないわね』

「わぁ~っ! スゴーイっ! ダルシアママも変身だね!」


 エレオノーラやベルモンド、アイラがそう囁き合い、パウヴィナが手を叩いて喜ぶ。


「変身って、魔法少女では無いのじゃぞ?」

『ザディリスが魔法少女なら、ダルシアさんも魔法少女で行けると思うよ』

「そういう問題では無い」


「お墨付きを貰うと今からもっと素材に拘りたくなる気がしますが……まあ、これ以上の素材を集めるのは時間がかかるでしょうし。

 始めましょう」


 ヴァンダルーがそう言うと、グファドガーンは『生命体の根源』が入ったケースの内一つを開く。そして数々の素材を中に入れる。

 『生命体の根源』はそれを飲み込みながらも、何処か困惑した様子で持て余している。だがヴィダの血の結晶を入れると、途端に全ての素材が溶けだした。そして完全に『生命体の根源』と混ざり合い、融合する。


『後は御母堂だけです』

 そしてグファドガーンは最後にダルシアを手招きする。

『分かったわ……ヴァンダルー、行って来るわね』

「はい、母さん。行ってらっしゃい」

 ヴァンダルーの頭を実体の無い手で撫でるような仕草をして、ダルシアの霊は宿っていた骨片ごと『生命体の根源』の中に消えた。


 その瞬間、『生命体の根源』は大きく脈打った。




・名前:キュール

・ランク:10

・種族:セイタンブラッドスライム

・レベル:0


・パッシブスキル

打撃無効(打撃耐性から覚醒!)

飢餓耐性:3Lv(UP!)

捕食回復:10Lv(UP!)

身体形状操作:10Lv(UP!)

毒分泌:10Lv(UP!)

魔術耐性:5Lv(UP!)

怪力:7Lv(UP!)

物理耐性:2Lv(NEW!)

自己強化:導き:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

忍び足:7Lv(UP!)

業血:7Lv(UP!)

限界突破:8Lv(UP!)

巨大化:6Lv(UP!)

格闘術:5Lv(UP!)

連携:4Lv(NEW!)

突撃:3Lv(NEW!)

並列思考:4Lv(NEW!)

遠隔操作:5Lv(NEW!)

寄生:4Lv(NEW!)


・ユニークスキル

■■ン■■■の加護(NEW!)




・魔物解説:セイタンブラッドスライム ルチリアーノ著


 ヒュージディープブラッドスライム、ブラックブラッドスライム、ダークブラッドスライムへのランクアップを経てキュールが至った魔物。魔王の血のスライムである。

 レビア王女と同じくブラッドポーションを飲む事と、時折師匠が直接ポーションの原材料……自分の血を与えているからだと思われる。


 外見は赤黒いスライムだが、最近では【身体形状操作】スキルを使って人間や動物の姿を模して行動する事も多い。そのせいか【格闘術】に加えて【突撃】スキルを獲得した。更に師匠の真似をしたのか本体から分けた分身を【遠隔操作】で操る事も出来る。


 ……赤黒い師匠やレギオンを見かけたら、それはキュールだと考えた方が良いだろう。稀に、【魔王の血】を全身に纏った師匠が逆にキュールの仮装をしている時があるが。


 その分身を獲物の傷口から体内に侵入させ、【寄生】し頃合いを見て体内から継続的に攻撃する事も、一気に血を吸い尽くして殺す事も可能である。

 この特技の為、獲物の血抜き作業の担当がキュールに成ったのは当然の成り行きであった。


 ゴーレムやアンデッド、精霊等血が無い存在とは相性は悪いが、相手が人間の場合は恐ろしい捕食者に成るだろう。

 因みに、もう加護についてはコメントしない。私にも生えたし。




・名前:ピート

・ランク:11

・種族:魔鉄轟雷大百足

・レベル:0


・パッシブスキル

飢餓耐性:3Lv(UP!)

自己強化:従属:10Lv(UP!)

毒分泌(神経毒):顎角:10Lv(UP!)

風属性耐性:8Lv(UP!)

肉体強化:外骨格 角:10Lv(UP!)

剛力:1Lv(怪力から覚醒!)

自己強化:導き:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

忍び足:1Lv

突撃:10Lv(UP!)

限界超越:1Lv(限界突破から覚醒!)

鎧術:7Lv(UP!)

轟雷:1Lv(雷光から覚醒!)

連携:4Lv(NEW!)


・ユニークスキル

竜喰い:6Lv(UP!)

ザナルパドナの加護(NEW!)

ヴ■■■■■の加護(NEW!)




・魔物解説:魔鉄轟雷大百足 ルチリアーノ著


 ……これ、もう百足では無いだろう?


 大きさはドラゴン以上、突進の勢いは城壁どころか砦も貫通しかねない、放つ雷は空から落ちてくる物より強力、外骨格の硬さはアダマンタイト並。しかもユニークスキルを三つ持っている。

 下手な竜種はもう近寄りもしない。寧ろ、ピートを先頭にして進んだら、ハリケーンドラゴンも避けるのではないだろうか? 師匠によると竜種が好物のようだし。


 地味に【連携】スキルも獲得している。種によっては群れで行動するスライムや植物型の魔物と違って、単独で行動する事が基本である百足の魔物なのに。

 まあ、以前から師匠がテイムした蟲型の魔物達の纏め役をやるとか、先輩であるセメタリービー(今はゲヘナビーだが)との仲介役をやっていたが。それでコミュニケーション能力が磨かれたのだろうか?


 因みに、竜人国を訪ねた時は歓迎されていた。「これを捧げますから暴れないでください」的な意味合いのご馳走を振る舞われ、ご機嫌だったようだ。ワイバーンの丸焼きなんて初めて見たよ、私は。




・名前:アイゼン

・ランク:11

・種族:スクーグクロー・エンプレス

・レベル:98


・パッシブスキル

剛力:3Lv(怪力から覚醒!)

高速再生:10Lv(UP!)

状態異常耐性:8Lv(UP!)

魔術耐性:9Lv(UP!)

物理耐性:9Lv(UP!)

生命力増強:10Lv(UP)

身体強化:樹皮枝:10Lv(UP!)

果実高速精製:3Lv(果実精製から覚醒!)

樹液高速精製:3Lv(樹液精製から覚醒!)

枝高速精製:3Lv(枝精製から覚醒!)

色香:8Lv(UP!)

自己強化:従属:7Lv(UP!)

自己強化:導き:5Lv(NEW!)


・アクティブスキル

格闘術:6Lv(UP!)

投擲術:7Lv(UP!)

鎧術:6Lv(UP!)

精気吸収:9Lv(UP!)

無属性魔術:4Lv(UP!)

土属性魔術:5Lv(UP!)

生命属性魔術:5Lv(UP!)

縮小化:2Lv(NEW!)

魔術制御:2Lv(NEW!)

指揮:1Lv(NEW!)

連携:5Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ゾゾガンテの加護

賦活:植物(NEW!)

■■■ダ■■の加護(NEW!)




・魔物解説:スクーグクロー・エンプレス ルチリアーノ著


 もうこれスクーグクローじゃないだろう……いや、元々スクーグクロー自体新種の魔物なのだが。


 スクーグクロー・ウィドウから、ウィッチ、クイーン、そしてまさかのエンプレス。女帝である。

 外見は緑色の肌に樹皮の服、背中に生えた何本もの枝とあまり変わらないが、頭に月桂樹の王冠を被っている。


 グール国の守護神にして『闇の森の邪神』ゾゾガンテの加護を得たためか、色鮮やかな花を咲かせ、甘い蜜や最近では鉄のように硬いリンゴだけでは無く様々な果実を付けるようになった。……人間の眼球に酷似したガンテの実等を。


 彼女が生成するシロップは正に天上の甘露と評すに相応しく、未だにクオーコ・ラグジュ一家が夢中なのも頷ける。現在人気拡大中で、レッグストン伯爵家の中にも彼女のファンがいるようだ。

 彼女自身はあまり嬉しくなさそうだが。まさか彼等がアブラムシか何かに見えているという事は……ないと思う、多分。

 ただ花の蜜を集めに来る蜂達は歓迎しているらしい。やはり受粉を助けるからだろうか?


 更に獲得したユニークスキル【賦活:植物】の効果で、彼女はいるだけで周りの植物を活性化させる事が出来る。どんな繊細な植物でも雑草のように旺盛に成長し……偶に魔物化する。

 勿論、スキルの効果は植物型の魔物にも作用する。


 そのためかタロスヘイムのイモータルエントの森では、イモータルエント達がランクアップしてスクーグクローやレーシィー(スクーグクローの男性版のような魔物)に成る事が最近増えており、自然とアイゼンがその纏め役に成っている。




・名前:クイン

・ランク:12

・種族:ゲヘナアブソリュートクイーンビー

・レベル:0


・パッシブスキル

状態異常耐性:8Lv(UP!)

高速再生:4Lv

高速繁殖:1Lv(産卵から覚醒!)

精力絶倫:5Lv(UP!)

魔力増大:7Lv(UP!)

魔力自動回復:7Lv(UP!)

猛毒分泌:針:2Lv(UP!)

身体強化:外骨格:2Lv(UP!)

能力値強化:被奉仕:7Lv(UP!)

自己強化:導き:4Lv(NEW!)

色香:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

魔術制御:2Lv(UP!)

空間属性魔術:4Lv(UP!)

群蜂連携:10Lv

群蜂指揮:10Lv

限定的錬金術:3Lv(NEW!)

裁縫:3Lv(NEW!)

建築:5Lv(NEW!)


・ユニークスキル

群蜂超速成長

ザナルパドナの加護

■■■■■ーの加護(NEW!)




・魔物解説:ゲヘナアブソリュートクイーンビー


 ランクアップの結果ゲヘナクイーンビーからハイクイーンビー、グレートクイーンビーを経てクインが至った種族。外見に大きな違いは無いが、より存在感と評すべきかオーラ的な物が増している。

 相変わらずクイン本人の戦闘能力はランクに比べると低いが(それでもB級冒険者ぐらいなら力任せに殴殺できるのだがね)、それを補って余りある群れの力がある。


 万が一群れから離れていても、彼女は魔力を大量に消費する事で卵を尻尾のように生えている蜂の腹部から即座に産卵する事が出来る。そして産まれた卵からは、次の瞬間には成虫が孵化する。それを一分間に十匹程度まで行う事が出来るらしい。


 魔力を大量に使うのと、そうして産まれた娘達は普通に育てた娘達よりも能力値は同じだがスキルのレベルが低く、寿命も短くなるらしく、緊急事態以外は行わないそうだ。


 また普通の女王蜂と違ってマジックアイテムを作ったり、蜜絹で裁縫をしたり、巣の建築を指揮したりしている。ただ【限定的錬金術】を本能的に使って製作できるのは蜂蜜や蜜蠟を使ったマジックアイテムのみで、巣の建築で実際に動くのは働き蜂達だ。


 会話も可能に成ったのだが……時々師匠と無言で見つめ合っている時がある。どうやらお互いの触角でコミュニケーションを取っているらしい。師匠のは、【魔王の触角】で生やしたので生来のものではないが問題無く通じているらしい。

3月13日に178話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
復活するかどうかってよりは、何が生まれるのか心配するレベルwww
200話近くか…話数だけでも、苦労したのが伝わってきますね。 読んでる方も安堵のため息が出ましたよ( ´Д`)=3
いよいよか…
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