百七十話 今やっと気がつく驚愕の真実
神域でロドコルテは胡乱気な顔つきでラムダの、境界山脈内部の情報を見ていた。
【ペルセウス】の鮫島悠里……サルア・レッグストンを見捨てる事を決めたロドコルテだったが、まだヴィダ式輪廻転生システムに導かれていない彼や、他のレッグストン伯爵家の者達の五感を通しての情報収集は継続していた。
しかしヴァンダルーと接触を重ねている訳でもないのに、既に伯爵家の面々はタロスヘイムで日々導かれつつある。どうやら建造物の外壁や、町中に建てられたヴァンダルー像等を見ただけでも、導かれる効果があるらしい。
恐らく、精神的な効果を及ぼすスキルか魔術を使用して作られているのだろう。
既に亡命した者達は殆ど導かれていて、ロドコルテ達が手に入れられる情報は大分限られている。
そんな状態でロドコルテが気に成ったのは、『ザッカートの試練』についてだった。
『……たしか、百年ほど前から出現した特異なダンジョンだったな』
彼も『ザッカートの試練』を知らなかった訳では無い。耳には入っていたが、当時は興味が無かったのだ。
魔王グドゥラニスに魂を砕かれた四人の勇者の一人で、新たに輪廻転生システムを創り自分の権能を侵そうとしたヴィダが魂の無い肉体のみアンデッド化させた存在。その名を冠したダンジョンに、ロドコルテは今まで興味を持たなかった。
何故なら彼の仕事は人間達の輪廻転生を滞りなく行う事で、世界で起きた問題に対処するのはその世界の人間と、彼等を教え導く神々の仕事だと認識していたからだ。
『ザッカートの試練』の真実が何であっても、攻略者が本当にベルウッドの後継者に成れるのだとしても、彼には関係の無い事だ。
勿論多くの挑戦者が死に、魂が解放されずシステムに還らない事には困っていたが、彼にとっては『ラムダ』で起きている数多くの問題の内一つでしかなかった。
だがそれにヴァンダルーが挑戦すると知って、初めて興味を持った。
『……これは、ダンジョン内部に結界が張られているのか? 生還した冒険者達の記録が不鮮明になっている』
早速攻略者の中で唯一生存している冒険者パーティー、『五色の刃』の記録を閲覧するが該当する箇所はノイズのような物が走っていて見る事が出来ない。
当人達の記憶に影響を与えず、しかし神は見る事が出来ない。明らかに結界……それも神が己の領分で、自分以外の神を意識して創り上げた強力な結界が張られている。
ロドコルテや、そして恐らくアルダ等の神々から干渉を出来るだけ受けないようにと。
『だとすると、このダンジョンは魔王と共に現れた邪神悪神が創り上げた物か』
ロドコルテは現在の人間社会で恐れられている邪悪な神々の名を思い浮かべるが、そのどれとも違うように思えた。これ程特殊なダンジョンを創り、結界を張る事が出来る力と権能の持ち主に、心当たりが無かったのだ。
神は幾ら力が優れていても、権能と異なる事柄をしようとすると大きな制限を受ける。輪廻転生の神であるロドコルテは、輪廻の輪に還りこれから生まれ変わる魂には絶大な力を発揮できるが、既に生まれ変わった後の人間にはほとんど何も出来ないように。
転生者のような半ば信者に近い存在になら多少の恩恵を与える事は出来るが、それは例外だ。
『確か、ヴィダ派には『迷宮の邪神』が存在したはず。奴か? しかし、奴だったとして何故こんな事を? 奴がベルウッドの後継者を探す筈はない……まさか狂乱し、ザッカートの後継者探しでもしているのか?』
だとするなら、あまりに愚かしい行動だ。
ヴィダ達が勇者に与えた力は、一代限りの恩恵だ。遺伝もしなければ、他者に継承させる事も出来ない。生まれ変わった先にも、勿論影響しない。
もしザッカート達の子孫が……女性のアークやソルダは兎も角、男であるザッカートとヒルウィロウの場合は、ロドコルテが知らぬ間に魔王に滅ぼされるまでの間に血を残したかもしれない。それが奇跡的に現代まで残っていたとしても、既に十万年以上経っている。
最早血の繋がりに意味を見出す事は出来ない年月だ。グファドガーンには見分ける事も無理だろう。
だから勇者としての力や血筋で後継者を探すのは不可能なはずだ。
唯一可能なのはザッカート達の思想や価値観を受け継ぐ者を探し出して後継者とする事だが、その為にはダンジョンという選別方法が適しているとは思えない。
『いや、ザッカート達の砕かれた魂の欠片、それで私が創った歪な魂なら奴にも見分ける事が出来るかもしれないな』
ヴィダやリクレントが死者の蘇生という、自分の権能を危うくする目障りな行為を試みないよう、欠片を全て回収し強引に一つに纏めて輪廻転生システムに流した魂。
あれなら魂の形を見れば、見分ける事が出来るだろう。
しかし、それはあり得ない。
『あの魂は念のために『ラムダ』では無く、魔術も魔物も存在しない、神もまず動く事が無い『地球』に転生させたはず。私のシステムでは異世界同士で輪廻の輪が交わる事は無いのだから、『ラムダ』に転生するはずが……まさか!?』
ロドコルテは自分の言葉にはっとした。そしてあり得ないと思いつつも、『地球』の輪廻転生システムに今も存在しているはずの、ザッカート達の欠片で出来た魂を探す。
膨大な情報の中からたった一つの、しかし際立って歪な魂を探し出す事はロドコルテと彼のシステムならば不可能では無い。
しかし、システムは『検索結果、無し』と答えるのみ。そんな馬鹿なと、二度三度と繰り返しても結果は変わらなかった。
『『地球』に無い……だとすると、転生者達の中に混じっていたのか? 唯一異世界と輪廻が交わったあの時に!』
そう、ロドコルテ自身が行っていたのだ。『地球』と異世界の輪廻転生を交わらせる行為を。
焦燥に駆られたロドコルテは転生者達の記録を検索し、魂を確かめる。
現れた九十七人の検索結果は、どれも異常無しだった。
フェリーの事故で死んだ人間達の内、選んだのは百二人。最初に一人が転生を拒否して、『オリジン』に転生したのが百一人。
【グングニル】の海藤カナタ、【デスサイズ】の近衛宮司の二名がヴァンダルーに魂を砕かれ、【ゲイザー】の見沼瞳が『第八の導き』達の魂共々リクレントとズルワーンに奪われた。
そして、ヴァンダルーがヴィダの新種族と化してロドコルテが直接干渉できない状態になっている。
『あいつ、急にどうしたんだ?』
『様子がおかしい。何かあったのか』
町田亜乱や円藤硬弥、御使いに昇華した転生者達がロドコルテの様子に気がついて離れた場所から様子を伺っている。
勿論彼等三名の魂も検索済みだ。そもそも、ロドコルテが彼等を御使いに昇華させる際に魂にしっかり触れている。通常とは違う歪な形の魂なら、その時に気がついているはずだ。
『いや、なら最初に『地球』から『オリジン』に転生させる際に気がついているか?』
転生者達には、最初に魔術の素質やチート能力、それに幸運と運命を与えている。その時にロドコルテは彼等の魂に触れている。
という事は、ザッカート達の欠片で作った魂は転生者達の中に紛れ込んでいる訳では無く、それとは別の手違いで『地球』から他の世界に紛れ込んだのだろうか?
あり得る事だ。最近はヴァンダルーのせいで輪廻転生システムに繰り返し障害が発生している。その際に手違いがあったのかも――。
『待てっ! そうだ、ヴァンダルーだ! 私はヴァンダルーの魂に触れていない!』
ロドコルテはその事実に思い至って、愕然とした。
『地球』から『オリジン』へ転生させる際は、彼の分の魔術の素質や能力等を全て雨宮寛人に与えたために渡す物が無く、魂に触れる事も無くそのまま送り出した。
『オリジン』から『ラムダ』に転生させる際も、彼が他の転生者達に危害を加える可能性が高いように思えたので、新たに能力や魔術の素質を与える等の調整を何も施さず、ただ呪いだけを投げつけるようにして与えただけだった。
ロドコルテは、ヴァンダルーの魂に一度も触れていない。
『馬鹿な……そんな……七十億人の、数え切れない程多くの地球生命の中に紛れ込んだ大外れが、百人の中に紛れ込んでいたと言うのか!?』
愕然とした顔つきのまま身体を小刻みに震わせ、喚きだすロドコルテ。彼は気がついてしまった事実を否定する材料を必死に探した。
だが見つかるのは肯定する材料ばかりだった。
ヴァンダルーの、幾ら空枠があったとしても異常としか言えない魔力の量。あれは四人分の魂の欠片を組み合わせて作った魂だからではないのか?
砕かれた欠片の中に魔王グドゥラニスの魔力か何かが染みついていて、それが死属性を発現させる呼び水に成った可能性を否定できるのか?
そして何より『ラムダ』の神々の妙な動き……ヴァンダルーの魂がザッカート達の魂の欠片から作られたからこそ、リクレントやズルワーン、そしてヴィダが奴に協力しているのではないのか?
『おい、いったいどう――』
『なんと、何と忌々しい事だ!』
怒りが頂点に達したロドコルテが放った怒号の衝撃を受けて亜乱が吹き飛んだが、彼はそれに気がつく余裕も無かった。
アルダ or ラムダの神々の反対を無視して行われた異世界『アース』からの勇者召喚。その結果が巡り巡って彼の輪廻転生システムを危うくしている。
自らの過ち、迂闊さにロドコルテは眩暈を覚えた。恐らく『迷宮の邪神』も、ヴァンダルーを探す為にあのダンジョンを創ったのだろう。
このままだとヴァンダルーは今まで以上に強大な力を手に入れ、ザッカート達の再来として、境界山脈内部に蠢く者共だけでは無く、全てのヴィダの新種族共を率いる事になるだろう。
そして自らに導かれない人間達を迫害……いや、虐殺し滅ぼし尽くすかもしれない。
そして『ラムダ』ではロドコルテの輪廻転生システムでは無く、ヴィダの輪廻転生システムが運用される時代が到来する。それを防ぐための有効な手段は――今のところない。
『ならば、最早一刻の猶予も無い。これ以上システム全体に負荷がかかる前に、『ラムダ』をシステムから切り放す』
一時的に損害を被っても、これ以上傷を広げないために。ロドコルテは決断を下したのだった。
……既に『ラムダ』に転生しているサルアやアサギ、ムラカミ達は勿論、アルダ達人間側の神々、そして『ラムダ』の人々を顧みる事無く。
ギラギラと輝く偽りの太陽の元、隊列を成して軍勢を形成する存在があった。
物理攻撃に強い耐性を持つ砂状の肉体のサンドデーモンの上位種である、ランク8のグレーターサンドデーモンの兵士達。
砂の海を自由に泳ぎ回り、キャラバンに畏れられるヒュージサンドウォーム。鉄のように硬い外骨格を持つアイアンスコーピオン。保護色で砂に溶け込み、素早く伸びる舌で人間を捕食するデザートカメレオン。砂漠を徘徊し犠牲者に幻を見せて精神を苛む悪霊、ミラージュシェイド。
それ等ランク自体は4や5と低いが砂漠の環境に適応した恐ろしい捕食者達。
それらを指揮するのはランク10、A級冒険者でも簡単には倒せない悪夢を司る魔術師。ナイトメアデーモンウィザード。
グファドガーンが創り出したこのダンジョンで生成された彼等は、種族が何であろうが全て偽りの生命だ。目的の為に創りだされた肉体に宿るのは、ダンジョンの精神支配を強く受けた生存本能すら無い虚ろな精神。
しかし、この時彼等の瞳には共通した意思の輝きが宿っていた。
まるで同じ旗の元に集った、志高い騎士達のような気高さがそこにはあった。
「GAAAAAA!」
何としてもあの強大な敵を打倒するのだと、ナイトメアデーモンウィザードが檄を飛ばす。
『おおおおおおぉぉぉぉん!!』
それが聞こえたのか彼等が待ち受ける強大な敵……砂漠を自走する骨の要塞、クノッヘンが咆哮を上げる。
人が普通に歩くのと同じ程度の速度で、砂漠の砂に影響を受けずに小山程の大きさの要塞が確実に近づいてくる。
そして彼等にとっての激戦が始まった。
『おおおお!』
クノッヘンから分離した骨がスケルトンやロトンビーストの形となって、毒の息を吐きながらサンドデーモンやサンドウォームに襲い掛かる。
しかも同時にクノッヘンのそこかしこから骨が射出され、遠距離攻撃を行う。その威力はちょっとした砲弾並で、直撃すればヒュージサンドウォームの巨体にすら一撃で大穴が穿たれる。
だが一方的に有利という訳では無い。クノッヘンの手数は多いが、所詮一体の魔物だ。攻撃の種類は限られる。
特にサンドデーモンやミラージュシェイド等、毒も物理攻撃も効かない魔物がナイトメアデーモンウィザードの指揮下には多い。
『『『GYUGYOOOOO!』』』
外見よりもずっと高度な知能を持つサンドデーモン達が、咆哮のような声で唱えた光属性魔術でクノッヘンや彼の分身を攻撃する。
皮肉な事に、デーモンでも対アンデッド用の光属性魔術を唱える事は可能だった。
魔術の直撃を受けた部分や分身が、溶けて蒸発したように消える。
『おおおおおん』
しかしクノッヘンにとってそれは痛手ではない。身体を構成する骨が少々減った程度では、彼には掠り傷でしかない。
だがサンドデーモン達はこれを何度も繰り返せばいずれ勝てると、再び呪文を唱えようとした。
『『『GYUGY――』』』
『ヂュオオオオオ!』
だが、上空から奇妙な咆哮と共に降り注いだ骨の雨が、サンドデーモン達を蜂の巣にした。
高い物理耐性をものともしないその攻撃は、クノッヘンから射出された骨人だ。
『ヂュォ、骨も肉も血も残さないとは、何と不毛な魔物だ』
全身の骨を刃にする事が出来る【骨刃】のユニークスキルを持つスケルトンブレイドデュークである骨人は、サンドデーモンの倒し甲斐の無さを嘆いた。
「せめて骨だけでも残してくれれば、クノッヘンの補充になるのにね」
【精神汚染】スキルの効果で幻が効きにくいエレオノーラが、ミラージュシェイドを魔剣で次々に斬り倒していく。
『あ、でもサンドウォームの肉は栄養満点らしいですよ! 焼きすぎると直ぐパサパサになっちゃうみたいですけど!』
『残念ながら骨は無いですけど。でも、殻が良い素材になるそうです。【魔王の欠片】とは比べるまでもありませんが』
クノッヘンの一部からスケルトンに混じって出てきたリタとサリアが、【霊体】の肉体を露わにしながらグレイブとハルバードを振るい、肉が栄養満点らしいサンドウォームを輪切りにしていく。
この砂漠の階層の最大の障害は、今彼女達が戦っている魔物の軍勢ではない。常に照らす疑似太陽だ。
五十度を超える高い気温と乾燥した空気が挑戦者の体力や気力、思考力を奪い。肌をさらそうものなら、強烈な日光が皮膚を焼く。
この環境では金属鎧を纏うなんて、生きたまま蒸し焼きにしてくれと言う様な物だ。
そのため本来なら攻略に際して周到な備えか、戦闘以外の巧みな魔術が求められる。熱気を遮る砂漠用のマジックアイテムや、水属性や日光を遮る光属性の魔術等だ。
それをヴァンダルー達は最も簡単な方法で攻略した。日光や多少の高温ではビクともしない戦力に任せたのである。
皮膚が無く骨だけのクノッヘンと骨人、鎧が本体でありその青白い肌は霊体でしかないリビングキラーメイドアーマーのサリアとリタ。
「……私、砂漠に適応するために【日光耐性】スキルを獲得した訳じゃ無いんだけど」
そして、貴種だった頃に【日光耐性】スキルを身につけた深淵種吸血鬼のエレオノーラだ。彼女の白い肌は、砂漠の太陽の下でも日焼けする事は無い。
『良いじゃないですか、空も飛べて幻覚も効きにくいなんて、この階層では大活躍ですよ?』
『姉さん、エレオノーラさんは坊ちゃんから離れて、坊ちゃんが見ていないところで活躍してもイマイチなんですよ』
「別にそう言う訳ではないけど、別にこれぐらいの敵なら私が居なくてもとは思うわね」
『いや、主も見ていますよ。ほら』
骨人が不意に指差した先をエレオノーラが見ると、指揮を執っていたナイトメアデーモンウィザードの右肩が爆ぜた。
「あれはヴァンダルー様の【砲術】! クノッヘンから見ているのね!」
肉片を後ろにばら撒いたナイトメアデーモンウィザードがもんどりうって倒れる。指揮官が重傷を負った事で、敵軍に動揺が走った。
その機に乗じたのか、クノッヘンの一部が扉のように開く。同時に「変身!」と言う複数の声が響いた。
「本気狩る~メイスぅ~!」
そして飛び出してきたメタリックな三メートル程の巨体が、アイアンスコーピオンをメイスで叩き砕いた。
『裏々……狩る?』
『『『るるるる……RUUUUUU』』』
そして巨体に続く異様なシルエットの、しかしやはりメタリックな二体が周囲の魔物を倒していく。
二体目は、胴体は女性だとはっきり分かる形をしているが、肘と膝から先が異様に巨大で背中に翼が、腰から尻尾が生えている。
三体目は、巨大なヒュドラだが大蛇の頭の代わりに女の上半身が生えている。
そして共通して全身メタリックだった。
一見すると、液体金属で作られた高性能ゴーレムのように見える。
「……あれ、パウヴィナとラピエサージュとヤマタよね?」
『……でしょうな』
謎のメタリック軍団は、ビスケットを砕くように敵をメイスと拳で粉砕するパウヴィナとラピエサージュと、【叫喚】スキルで強化した絶叫による衝撃波と尻尾の一撃で敵を倒すヤマタだった。
『何でメタリックなんでしょうね?』
『多分、ザディリスさんに渡した変身杖の試作品じゃないでしょうか? 試作品だけに幾つも作ったらしいですし』
『なるほど、あれで日光を防いで三人にレベリングをさせているのですか。流石主』
「そうと分かれば、敵の指揮官は適度に瀕死にして渡すべきね。ふふっ、ヴァンダルー様に尽くすところを見て貰わないと♪」
その頃クノッヘンの中では、ヴァンダルーが大忙しであった。
「敵指揮官沈黙。新たな脅威無し」
『サンドウォームの蒸し焼きトマトソース仕立てと、サンドウォームハンバーグ上がりー』
『【装群術】でもっと緑黄色野菜を』
「……坊や、儂も少しなら手伝えるから、分身を減らしたらどうじゃ?」
クノッヘンを構成する骨は髄が詰まっていた部分が空洞になっているため、断熱効果がある。その骨で作った屋根を更に二重にして間に空気の層を作っているため、内部は適温に保たれていた。
そこでヴァンダルーは【魔王の血】で銃身を作ったまま戦況を見守りながら、【幽体離脱】で作った分身で携帯魔道コンロを使ってサンドウォームの肉を調理していた。
「ザディリスは地面から攻撃してくるサンドウォームを倒す仕事があるじゃないですか」
「それはそうじゃが……」
「ヴァン君、張り切るのは分かるけど少しは休むべきだと思うよ」
『プリベルさんの言う通りだと思いますよ、坊ちゃん』
ゆっくりと地面を歩きながら、ザディリスやサムの荷台から顔を出したプリベルが言う。
そう、移動を続けるクノッヘンの内部の床は剥き出しの地面……と言うか、砂面であった。
クノッヘンは建物の形状を保ったまま移動する事が苦手であるため、砦の壁の地面に接している部分が実は脚になっており、それで歩きながら進んでいるのだ。
当然、内部の者も同じペースで進むかクノッヘンの壁や天井に張り付かなければならない。
そんな構造であるため時折足元からサンドウォームが襲い掛かって来るのだが、それはザディリス達が排除していた。
『しかし坊ちゃん、いっそ私に乗って一気に通過した方が良かったのでは? この階層では魔物を全て倒さなければならない訳では無かったはずですぞ』
サムが空中を高速で走れば、飛行能力に秀でた魔物が存在しないこの階層は楽にクリアできただろう。それが事前に分かっていながら、ヴァンダルーは魔物を正面から殲滅する事を選んだ。
「サム、このダンジョンのデーモンやアンデッドは、通常のダンジョンよりも強く精神支配を受けているので簡単には俺の【冥魔道誘引】の効果を受けません。
だから、皆のレベリングには丁度良いのです」
ヴァンダルーは速やかなクリアよりも、多少時間をかけても仲間の戦力を底上げする事を選んだ。パウヴィナ達は世間一般から見れば兎も角、今回のメンバーの中では弱い部類に入るからだ。
「幾ら早く攻略できても、犠牲者が出たら意味がないですからね。今はまだ以前に攻略した経験者がいる階層ですが、その内未知の階層を進まなければなりません。
パウヴィナ達が治せない怪我をしたら俺も嫌だし、母さんも悲しむし、ザッカートの遺産で何人も復活させる事が出来るとは限らないし」
『確かに、今彼女達はヴァンダルーが渡した試作品でとてもやる気になっているし、レベリングが捗りそうね』
外に出たら日光で香ばしい焼肉に成ってしまうため、大人しくしているレギオンがそう言う。すると、ザディリスが「そう言えば」と口を開いた。
「パウヴィナ達が掛け声代わりにしている『本気狩る』や『裏々狩る』と言う言葉は、どう言う意味なのじゃ? マジカルなら分からなくはないが、リリカルの方はさっぱり分からん」
「……地球で変身した女の子の決め台詞みたいなもんでしょうか。何故知っているのかは、俺は分りませんけど」
『私が教えた!』
『……ワルキューレ、君って奴は』
『良いじゃない、シェイド。三人とも楽しそうだし』
どうやら犯人はレギオン達だったらしい。
「ふむ……なら、儂も言った方が良いかの? それをするとクイーンと名のつく種族にランクアップしやすくなるとか?」
魔物のランクアップには、日頃の行動も影響していると言うのが通説である。ダンジョンに生息しているオーガーが、ミノタウロスにランクアップするのがその例の一つだ。
だから台詞も影響するかもしれないと考えるのも、無理は無い。
「寧ろ遠ざかりますね」
「分かった、絶対言わん」
《【砲術】、【料理】スキルのレベルが上がりました!》
・名前:クノッヘン
・ランク:10
・種族:ボーングランドフォート
・レベル:48
・パッシブスキル
闇視
剛力:1Lv(怪力から覚醒!)
霊体:7Lv(UP!)
骨体操作:8Lv(UP!)
物理耐性:8Lv(UP!)
吸収回復(骨):8Lv(UP!)
城塞形態:4Lv(UP!)
分体:6Lv(UP!)
能力値強化:城塞形態:4Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:2Lv
ブレス【毒】:7Lv(UP!)
高速飛行:6Lv(UP!)
遠隔操作:9LV(UP!)
射出:8Lv(UP!)
並列思考:4Lv(NEW!)
・魔物解説:ボーングランドフォート ルチリアーノ著
巨大な骨の城塞。ボーンフォートが無数の骨を手に入れ、ランクアップし巨大化した魔物。
ランクこそ10でA級冒険者程の実力があるなら対処できるように思えるが、それは錯覚だ。本体には急所に相当する部分が存在しないため、この魔物を倒すには数え切れない数の骨を全て粉々に砕くまで延々戦い続けなければならない。……多少切断された程度では「骨」として機能し続けるので、剣や槍を武器にする者にとっての相性は最悪である。
特にクノッヘンの場合単純に押し迫るだけでは無く空中から、自分には効果の無い毒のブレスを吐きかける事が可能であるためより厄介になっている。
更に普通のボーングランドフォートの場合砦形態以外を取ったと言う記録は無いが、クノッヘンの場合は師匠の言うブルドーザーと言う土木工事用車両を模した物等、様々な形態をとる事が出来る。
これはスキル的な問題では無く、クノッヘンが普通のボーングランドフォートよりも賢いからだと思われる。
既に個人単位でどうにかできる存在では無い。対処したければ軍団か、それともS級冒険者のような超人を超越した超人が必要だろう。
・名前:サム
・ランク:7
・種族:ディープナイトメアキャリッジ
・レベル:67
・パッシブスキル
霊体:8Lv(UP!)
怪力:8Lv(UP!)
悪路走行:6Lv(UP!)
衝撃耐性:7Lv
精密駆動:6Lv(UP!)
快適維持:7Lv(UP!)
殺業回復:3Lv(UP!)
空間拡張:6LV(UP!)
空中走行:3Lv(UP!)
能力値強化:運搬:5Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:2Lv(UP!)
高速走行:6Lv(UP!)
突撃:6Lv(UP!)
サイズ変更:5Lv(UP!)
槍術:3Lv(UP!)
恐怖のオーラ:4Lv(UP!)
空間属性魔術:1Lv(NEW!)
時間属性魔術:1Lv(NEW!)
・魔物解説:ディープナイトメアキャリッジ ルチリアーノ著
サムが大量運搬やダンジョンで階層が進むたびに変わる過酷な環境など、様々な悪条件と魔物を轢き潰し……乗り越えた結果ランクアップした存在。
荷台内部は【空間拡張】スキルの効果で三頭立ての馬車六十四台分の面積が確保され、灼熱の砂漠や極寒の氷原でも快適性が維持される。
そのため乗る側としては夢の乗り物だが、彼の運行を阻む側に回ると一転して悪夢の存在となる。高速で空をかけるのは以前と同じだが、【能力値強化:運搬】スキルの効果により人や荷物を運搬している時は能力値が強化され、更に見ているだけで精神に影響を受ける【恐怖のオーラ】スキルのレベルも上昇している。
……最近本能的に初歩の空間属性魔術と時間属性魔術を使う事が出来るようになったらしく、まだまだ成長の余地がありそうだ。
現在彼の荷台で運ばれている身としては、安全性が格段に上昇するので彼の成長は非常に喜ばしい事である。
2月13日に171話を投稿する予定です。




