十八話 敵の敵が動き始めたが、気がつかないまま襲撃準備
抵抗もせずオークに降伏した女冒険者は、縄代わりの太い蔓を打たれて連行された。
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた若いノーブルオークが、飼い犬でも扱うかのように蔓の端を握っている。それに従う魔物達も、一様に嗤っていた。
この女が主人の嬲りものになっている間、主人の機嫌は維持されるのが嬉しいのだろう。
そして女冒険者はノーブルオークに引っ立てられて、彼の父親が築いたオークの王国に連れて行かれた。
これから死ぬまで魔物の仔を産まされ続ける事になるかもしれないというのに、女冒険者は無表情のままだった。しかし、それにノーブルオークも含めて誰も気がつかなかった。
魔物に人間の細かい表情を読むのは無理な話だし、ノーブルオークには女の表情なんてどうでも良かったからだ。
椅子に深く腰掛け、眠っているように目を閉じていた面長の男はパッと瞼を開くと、素早く口元をハンカチで押さえた。
「おぉ、なんて汚らわしい……」
生臭いオークの息、ゴブリンの嗤い、小賢しいコボルト。極め付きは、自分が高貴だと思い込んでいる豚共。そしてそれらに殺してもらう事も出来ず、家畜同然の扱いを受けている女達。
それらを見る事は覚悟していたし、そういう依頼だと知って受けた。しかし、それでも男は吐き気を堪えるのに苦労した。
「大丈夫ですか、ルチリアーノ殿」
「も、問題無い。うぇ……それより執事殿、子爵を呼んでください。御報告がございます」
「畏まりました、旦那様を呼んでまいります。申し訳ございませんがその間、ルチリアーノ殿は少々お待ちください」
たまたま様子を見に来ていたらしい執事が、香り高い紅茶を一杯淹れてから退室する。主人が来るまでに、この紅茶を飲んで吐き気から立ち直るようにとの気遣いだろう。
素晴らしい紅茶の香りに、ルチリアーノは脳裏に焼きついた悍ましい光景が薄れて行くのを感じた。いや、仕事だから忘れてはいかんのだが。
「偵察は成功したのか!?」
そう極秘依頼について喚きながらカイゼル髭が入って来た。いや、カイゼル髭を生やした貴族が入って来た。カップを素早く置いて、ルチリアーノは貴族に一礼して出迎えた。
「ご報告申し上げます、ベルノー・バルチェス子爵」
この貴族、ベルノー・バルチェス子爵はこの辺り一帯の領主であり、そしてルチリアーノの依頼主だった。
見た目は壮年の割にスマートな、そして立派なカイゼル髭を生やしている事以外特徴の無い貴族だが、無能では無い。平均的な貴族だ。
「私のライフデッドは、オークの集落に無事潜入する事に成功いたしました」
ライフデッド。それは生命属性の魔術で作られる特殊なアンデッド……アンデッドに分類されている存在だ。
鼓動も呼吸も止めた新鮮な死体に、魔術を施し生命活動を再開させた死体だ。
心臓や肺が動いているが魂は無いためアンデッドに分類されているが、見た目は生者と区別がつかない。触れても体温があり、魔術で生命反応まで探知できる。無表情で口調が平坦な人にしか見えないのだ。
欠点は身体を魔術で生かしているため、食事や睡眠を必要とする事くらいだ。後、生粋のアンデッドと違って毒が効くし、病気にもかかる。
ルチリアーノはそのライフデッドを使い魔として使い、その五感を借りてある噂の真偽を確かめるようにとバルチェス子爵に雇われた。
冒険者達の間で流れている噂……町から遠い方の密林に似た魔境に、強力な魔物が巣食っているという噂だ。
暫く前から、密林に似た魔境に向かった冒険者達のパーティーが帰って来ない事が多くなった。最初は腕の無い冒険者の泣き言だと思われていたが、ソロで活動している盗賊が恐ろしい物を目撃した。オークやゴブリン、コボルトを率いる、ノーブルオークだ。
オークの上位種族であり、高い知能を持つノーブルオークは魔物の群れを組織する事が多く、その数は数百に及ぶ。
その盗賊が目撃したのは本当にノーブルオークなのか、本当だったらノーブルオークの群れは現在どれ程の数なのか調べる事。それがルチリアーノの仕事だった。
「私の操るライフデッドをノーブルオーク率いる中隊規模の群れが捕縛し、そのまま連中の集落に連れていかれました。場所は、魔境に入ってから三日程進んだ所ですか」
「それで、ノーブルオークは何匹だ!? 群の規模は!?」
「確認できたノーブルオークの数は中隊の指揮官と、集落の王の二匹です。ですが、後一匹か二匹はいる様子でした。
魔物の総数は、四百から五百程かと」
「ノーブルオークが三匹、魔物が五百……っ!」
ルチリアーノの報告に今にも卒倒しそうになるバルチェス子爵。ノーブルオークは最低でもランク6の魔物で、その中でも上位の個体はドラゴンをも屠るという。そんなのが少なくとも二匹、多くて四匹以上。更に五百匹の魔物が従っているとなれば彼の領地が抱える総戦力……騎士から町の警備兵、活動している冒険者まで総動員しても滅亡の二文字が見える。
「ですが、ノーブルオーク達は王も含めてそれほど優れた個体ではないかと。ああ、勿論ノーブルオークとしてはですよ。私見を言わせてもらうなら、B級冒険者を筆頭に、C級やD級を二百人程集めればどうにかなるかと」
「本当か!?」
途端、紙のようだった顔色に血の気が戻るバルチェス子爵。しかし、すぐに溜め息をつく。
「だとしても大事だ。二百人の冒険者に、B級以上の一流を呼び集めなければ。騎士や兵士では魔物相手の戦闘には対応力に不安が残る……これは私だけの手には余る。
パルパペック軍務卿に相談しなければ」
自分では対応が難しい事態なら、上に助力を請うのも統治者としての能力だ。プライドの高さ故に独力で対応しようとして魔物の討伐に失敗すれば、失態どころか領地を魔物に蹂躙されかねないのだから。
その点ではバルチェス子爵はカイゼル髭に恥じない貴族だと言える。
「ノーブルオークは夏には動くつもりだそうです。どうやら魔境で自分達に従わない魔物のグループがいるらしくて、その対応に追われているようです。多分、グールでしょう」
「なら、時間はあるか。
ルチリアーノ、ご苦労だった。依頼料は冒険者ギルドに支払っておくが、今回の事はまだ内密に頼むぞ。民がパニックを起こすからな」
「ありがとうございます」
さて、これでようやく路銀が稼げたとルチリアーノは安堵した。アルダ教の勢力が強く、アンデッドを使う事に制限がかかるアミッド帝国とその属国から、彼は抜け出そうと前々から考えそのための旅費を貯めていたのだ。
とりあえず隣のオルバウム選王国に行き、その後は居心地の良い町でも探すとしよう。
「では、引き続き指名依頼を受けてくれるな」
しかし、その予定はバルチェス子爵の一言で延期になった。
二月になる頃、ヴァンダルーは魔境に残っている無事なグール達を集め、対ノーブルオーク軍を組織していた。
普通キングは本拠地でどっしりと構えているものだが、ヴァンダルーの場合は直接使者に加わってグール達の下を訪ねて、協力するように説得していた。
それは【死属性魅力】の効果で、グール達をスムーズに纏める為だったが……。
「キングという名の雑用係なのだろうか、俺は」
「そんな事無いよ、キング。ところで人数が増えたから新しい家を建ててくれよ、キング」
「はいはい」
【ゴーレム錬成】スキルを使い、ウッドゴーレム等の形を変えて竪穴式住居を作っていく。本格的な家は建築の知識が無いので難しいが、一年以上滞在しているため竪穴式住居なら作れるのだ。
材料が自分から動いて命令通りの場所に移動し、命令通りの形に成ってくれるのでこのゴーレム建築はとても楽だ。材料さえあれば竪穴式住居一つ作るのに十分もかからない。
「おお凄いっ! 後十軒頼む!」
「キング、集落を広げるから外壁も頼む」
「はいはい」
伐採されたままの木をウッドゴーレムにして形を整え、木材に錬成。地面の土をアースゴーレムにして退いてもらって穴を掘り、竪穴式住居を作っていく。見える範囲なら同時進行で十軒施工可能。
オルバウム選王国に行ったら、これで食べて行けるのではないだろうか? あの国に竪穴式住居のニーズがあるかは知らないけどと、そんな事を考えられるくらい余裕である。
更に竪穴式住居をもう十軒建て終えると、今度は外壁に取り掛かる。これは住居より更に簡単な作業だ。ただ単に丈夫な壁を建てればいいだけの事だから。
命令すれば後は放置しておいても出来上がるので、ほんの数分で終わる。
「流石キングだっ!」
「素敵ーっ!」
『キングっ、キングっ、キングっ!』
拳を振り上げてキングコールを行うグール達。グールは基本的に怠惰な性質を持つ種族なので、ヴァンダルーのように面倒な作業を手早くこなしてくれる者に対する賞賛を彼らは惜しまない。
見習おうとは思わないようだが。
「おーい、ヴァン。母さんが呼んでいるぞ」
「分かりました。じゃあ、後はよろしくお願いします」
ペコリと一礼してその場を後にするヴァンダルー。彼のお蔭で重労働をしないで済んだグール達の声援は、しばらく続いていた。
タレアの集落も含めて四つの群れを吸収したグール達の数は、二百七十を超えた。その半分は女であるし、老人も僅かだが居る。しかしグールは三百歳近くまで男女にかかわらず優秀な戦士であり続ける種族だ。
四つの群れにいるのは最高でもランク4のグールウォーリアーで、ヴィガロやザディリスのようなランク5以上の強いグールは存在しなかったが、彼らはタレアによって充実した装備で武装している。
フルプレートアーマーに匹敵する防御力を誇りながら、それよりもずっと軽いアイアンタートルの甲羅鎧。
鉄の鎧も貫くランスブルの角を穂先に使用した槍。
冒険者でもD級以下なら中々手が届かない充実ぶりだ。マジックアイテムではないものの、それで武装したグール達の戦闘能力は、単純にランクで計れるものではない。
身体能力や特殊能力で魔物に劣る人間が、魔物に勝てる三大要素。それは連携、スキル、そして充実した装備。その最後の一つを彼らは持っているのだ。
しかしその代償に彼女達には無いものがあった。
「その年で碌に戦えないとはどういう事だ? お前は本当に私の十倍近く生きているのか?」
「それが何? 私は武具を作る事と女が自前で持っている武器でここまで成りあがったのよ、子供を産んだ事も無い小娘は黙っていなさいな」
睨みあうバスディアとタレア。片や二十代半ばで身長百九十の女戦士、片や十代後半の小柄な少女。実際には二十六歳の小娘と、壮絶な人生を過ごしてきた二百六十歳の女族長。
何故かこの二人は仲が悪かった。
ただ実際タレアと彼女の集落の女達は戦う術を知らなかった。武術系スキルどころか、適性があるはずの魔術も、生活の役に立てる程度の簡単な物しか使えず、戦いの役に立てるのは難しい。
しかしタレアによって、彼女達はグールという種族に似つかわしくない職能集団として機能している。全員がタレアに及ばないものの一人前以上の武具職人であるため、今も戦士達が使うための武具を製作してくれている。
「こ、子供はヴァンが産ませてくれる!」
「この小娘にヴァン様が!? そうなのですか、ヴァン様!?」
「……ニュアンスが違いますけど、そうです」
少子化問題に取り組んでいるという意味で。しかし何故この二人は喧嘩腰なのだろうかと、ヴァンダルーは遠い目をしていた。
「そもそもヴァンに馴れ馴れしいぞ」
「様を付けずに呼んでいるあなたの方こそ馴れ馴れしいですわ」
眼光鋭く睨みあう二人。もれなくギリギリと牙が音を立てる辺りがグールらしい。
二人の仲の悪さは、タレア達を連れてヴァンダルーが戻って来た時から始まった。
グールキングに早速取り入ろうとタレアはヴァンダルーに、「これからの戦いの事でご相談がございますの」と言葉巧みに馬車に乗り込んだ。そして幼児らしく昼寝に入ったヴァンダルーを抱いて集落に到着したのだ。
それを出迎えに来たバスディアが目撃して口論になって……この有様である。
いや、原因は大体ヴァンダルーも解っている。しかし結婚という概念を持っていないグールのバスディアが、何故タレアに突っかかるのかが分からない。仲の良い弟を取られたような気分になっているとも、これまでの言動を考えると思えない。そもそも、何故この二人はここまで真剣に二歳児を取り合うのか。
「少しは歳の事も考えたらどうだ?」
「あら、ごめんなさい。私は元人間のせいか、つい見た目通りの歳のつもりで振る舞ってしまうの。羨ましいわぁ、あなたみたいな老けている人が」
「……その割には垂れているな」
「た、垂れ!? 違わいっ! これは垂れてんじゃなくて大きいの!」
「そうか? 私のは全く下を向いていないが」
口調を崩して猛烈に抗議するタレアと、それを余裕の表情で見下ろすバスディア。二人とも豊かなバストの持ち主であり、そして事実バスディアの胸は砲弾のように前に突き出ていて垂れる様子も無い。
「この筋肉バカ!」
「知らないのか? ヴァンは筋肉が好きだぞ」
「まあ、好きというか憧れますけど」
筋肉はパワー、パワーがあれば強者、つまり筋肉があれば踏み躙られる側から卒業できるのだ。ああ、素晴らしきかな、筋肉。
そんなヴァンダルーの呟きが聞こえているのかいないのか、バスディアとタレアの喧嘩が続いている。その様子はギャンギャン喚くタレアを余裕のあるバスディアがあしらうという感じで、年の功が若さの前に敗北する未来しか見えない。だがタレアが諦めないので未来が中々やって来ない。
ノーブルオーク対策の建設的な話し合いを始める未来は、何時来るのだろうか?
「どうすれば止まるかな?」
そう質問してみても、ザディリスは「筋肉も胸も、どちらも無い儂の身に成ってみろ」と何か呟いているし、ヴィガロは腕を組んで何か考え込んでいる……ように見える。他の集落の長達は、元々力関係でタレアに負けていたので口を出すつもりは無さそうだ。
『ここは坊ちゃんが止めるべきです』
馬車から離れられないサムの代わりに出席しているサリアはそう言いきった。
『坊ちゃんは貴族に成りたいのでしょう? でしたら、それくらい出来ないと』
「……俺の中の貴族のイメージに、大きな変更が加えられそうです」
『貴族は、女性関係で苦労するものですよ。私達が働いていた貴族の家もそうでした』
正妻と妾の争いが凄いらしい。そういえば、日本に生きていた頃に聞いた江戸時代の大奥も凄い事になっていたらしいなと、ヴァンダルーは思い出した。
バスディアとタレアは正妻でも妾でもないが、ケンカの原因が自分なのは事実なので、なら自分が止めるべきだとヴァンダルーは立ち上がった。
「フン! 決着はノーブルオークの首を私が作った武器が刎ね飛ばした後まで待って差し上げますわ!」
「ああ、お前の武器を私が役立ててやった後だな」
立ち上がった瞬間終わるのは何なんだろうか?
「では、これからノーブルオーク攻略の作戦を練りたいと思います」
動揺せずにすぐにそう言えただけ良かったかもしれない。
現在の戦力はグールが約二百三十と、ヴァンダルー一行。武装はヴァンダルーが提供したマジックアイテムとタレア達が制作する装備で充実している。
数は負けているが、装備の水準では明らかにノーブルオーク達の軍勢を上回る。幾らオークやゴブリン、コボルトを纏めても、配下の頭が良くなる訳ではないのだから、武装は他の魔物の群れより多少マシな程度だろう。
ただそれだけで数と質の差をひっくり返せるかどうかは分からない。
数の差については、ヴァンダルーがゴーレムやアンデッドを量産する策もあったのだが、ここが密林でオークに対応できるストーンゴーレムやロックゴーレムの材料に成る、石や岩が少ないという事情でゴーレムは却下。
アンデッドにしても、魔物の骨や死体から作ったばかりの状態ではランク1程度なのでオーク相手には戦力に成らないので却下。
元からランク3で作れるリビングアーマーを増やすという手もあるが、それに鎧を使うよりはグールの武装を充実させるために使う方が、確実に戦力がアップするので却下となっていた。
ままならないものだ。
「まず、こちらから襲撃をかける。これは決まりだと思います」
ヴァンダルーの言葉に全員が同意した。数では大分、質でもそれなりに差があるのだから、こちらから攻めるしかないのだ。
そもそも相手の主力であるオークは突進力と怪力に優れた魔物だ。そんな物相手に守りに回れるのは、しっかりとした城砦を築ける人間だけだ。グールの集落の外側を囲む木の外壁では、数秒と持たないだろう。
逆に言えば、オーク達も守るのは苦手だ。
「既に相手の陣地は判明し、放った虫アンデッドの目を通して偵察も済ませてあります。苦労して地図に起こしたのが、これです」
虫の複眼を通して見たので細かいところまでは分からなかったが、建物の配置を探るには十分だ。紙代わりにしたモンスターの皮に染料で描いた地図を見せると、おおとグール達がどよめく。
「これが地図か」
「この四角は何だ?」
「凄いなヴァン、地図が描けるのか」
「ヴァン様、グールは普段地図を使わないので……もう少し説明が必要ですわ」
「……俺の努力って」
滞在してもうすぐ二年になるため忘れていたが、文化の差は大きかった。
頑張って地図を描いた時間を思い出すと軽く落ち込むので、ヴァンダルーは竪穴式住居の地面をアースゴーレムにすると、【ゴーレム錬成】でノーブルオークの集落の模型を作った。
会心の出来である。
「坊や……最初からこの方法なら、苦労して地図を描く事も無かったのではないかの?」
「あ……」
そこそこ落ち込んだ。
「おお、これは凄い!」
「土属性魔術か!? しかしこれ程緻密な制御が出来る者は見た事が無い!」
「もっと凄いぞヴァン! 地図よりずっと分かりやすい!」
しかもギャラリーの評価はこっちの方が高かった。次からは地図を描くなんて面倒な事はせずに、こうやって模型を作る事にしよう。そう心に決めるヴァンダルーだった。
「それは兎も角、敵集落の外壁は丸太を組んだ木製で、出入り口は東と西の二つ、見張り櫓が東西南北に一つずつ。ただし、居るのはコボルトかゴブリンです」
「オークは体が重い。櫓に登りたがらないだろう」
平均的なオークの身長は二メートル程。体重は百キログラムを楽に超え、武器や鎧を装備していたら更に重くなる。櫓に昇りたがらないのではなく、その体重に耐えられる櫓を作れないのかもしれない。
「基本的に全ての建物は木で出来ています。でも、火は出来るだけ使わない方向で」
「うむ、延焼したら捕まっている女達まで焼け死んでしまうからの」
集落には百を超える女グール達と、十数人の女冒険者が囚われ慰み者にされている。オーク達にとって彼女達は貴重な母体だが、戦いの最中に自分の命を危険に晒してまで守ってくれるとは思えない。
「それどころか人質にされかねないな」
「ああ、やりそうだな」
今までヴァンダルーは救出目標を人質にされる心配などした事が無かった。しかし、それはアンデッドである骨人達が戦いの前面に出ていたため、それを見た敵が勝手に「人質は無意味」と思い込んでくれたからだ。
今回の主力はヴィガロ達グールなので、当然オーク達も捕えている女グール達を人質にする事を考えるだろう。
「なのでまずこことここ、後この建物を確保するのが第一目標です」
囚われている女グール達は助ける事が決まっている。ヴァンダルーはグールの霊達から助けてくれと散々頼まれているし、ザディリス達にしてもどうせ攻め込むなら助けておこうという考えなので、反対は出なかった。
「人間の女はどうするつもりだ?」
「それも助ける方向で。助けた後どうするかは、後で考えましょう」
ヴィガロの質問に、ヴァンダルーはそう答えた。囚われているとは言え女冒険者はグールとヴァンダルー共通の敵だ。助けてくれたからと恩を感じてくれるとは限らないし、寧ろ彼女達からしたらオークからグールに飼い主が変わるだけだと思われるかもしれない。
それどころかどさくさに紛れて逃げ出すか、最悪攻撃してくる可能性もあるが、多分大丈夫だろう。オーク達が女達を紳士的に扱う訳がないので、助けた直後は精神的にも肉体的にもボロボロだろうから、碌に動けないはずだ。
ヴァンダルーとしては、将来転生してくるチート共に攻撃してくる材料を与えないために出来るだけ助けておきたいという理由もある。
「では、ヴァンダルーの合図で突撃後、女達の確保。その後、敵が逃げ出すまで殺す。これでいいな」
「所詮は恐怖だけで縛り付けている群れだ。ある程度オークの数が減ったらゴブリンやコボルトは逃げ出すはず」
「ノーブルオークが無条件に服従させられるのは、下位種族のオークだけですものね」
魔物の群は基本的に群れの支配者が恐怖で支配している。そのため、その恐怖より大きい恐怖に晒されればあっさり瓦解してしまう。
オークは上位種であるノーブルオークに服従し続けるだろうが、こっちは残ってもらわないと困る。あっさり逃げられてまた数年後に大集落を築かれるとキリが無いからだ。
「っで、問題のノーブルオークは俺達がヴァンダルーの援護で倒すと」
この中で最も戦闘能力に優れたヴィガロに、ヴァンダルーの援護が付けばランクが1~2違うノーブルオーク相手でも良い勝負が出来るはずだと推測していた。
「そして、集落の首領のノーブルオークが出て来るまでは指揮はヴィガロとザディリスに任せます。俺達は遊撃という事で」
「キングが遊撃というのもどうかと思うが、坊やの力を活かすにはそれが一番じゃからな。しかし、偵察のアンデッドや連絡手筈は整えるのじゃぞ。坊や以外虫アンデッドや霊の言葉は聞こえないのじゃからな」
グールキングに就任したヴァンダルーだが、就任時に言った通り彼に集団戦の指揮能力は無い。そのためキングであるにもかかわらず、彼はこの戦いでは遊撃部隊として行動する事にした。
「気を付けるんだぞ、ヴァン。お前の命はお前だけのものじゃないんだからな」
「はい、少子化対策的な意味で俺だけの命じゃないですし、まだやりたい事もあるので気を付けます」
【錬金術】スキルを覚えてグール達の少子化問題を解決。その後は胡桃味噌やドングリ味噌作りにチャレンジしてみたいし、オルバウム選王国に旅立つ前に【熟成】のマジックアイテムや【鬼火】を使った冷蔵庫も作っておきたい。
グール達のためにやりたい事は沢山あって、ノーブルオークを殺さなければならない理由も沢山ある。気を付けて無茶や無理をしなくては。
その上、ダルシアを生き返らせ、復讐を達成しなければならない。死ねない理由には事欠かない。
「では、出発は三日後という事で」
ブブブブブブ。
何匹もの虫が東へ東へと羽を震わせて飛んでいた。
甲虫も居れば蠅もトンボも、虻もテントウ虫も居る。中には捕食者と被捕食者の関係にある虫もいるが、そんな事は関係無いと言わんばかりに飛んでいる。
この虫はヴァンダルーが一月以上前、念のためにと放った虫の死骸を使ったアンデッドだった。
彼らの使命は、万が一の時グール達が逃げ込む他の魔境を探す事。そして将来東の山脈を越える旅をするヴァンダルーのために、道中に何があるのか探る事。
夜も昼も無く虫達は進んだ。何匹か鳥や生きている虫に捕まって数を減らしていたが、構わず進む。刃のように鋭い岩が連なる崖も、悍ましい食獣植物が繁茂する丘も越え、只管進む。
そして虫達が止まったのは、山脈を一つ越えた所にある長大な石造りの壁の一部だった。山脈の一部ではないかと思う程大きな、しかし所々罅が入り場所によっては崩れている壁の周囲を飛び、探った後虫達は壁に張り付いた。
使命は達成した。後はここで主人からの連絡を待つだけだ。それまで、じっとしている。
・名前:骨人
・ランク:3
・種族:スケルトンソルジャー
・レベル:100
・パッシブスキル
闇視
怪力:2Lv(UP!)
・アクティブスキル
剣術:1Lv
盾術:1Lv
弓術:1Lv
忍び足:1Lv
連携:1Lv(NEW!)
・名前:(骨鳥)
・ランク:3
・種族:ファントムバード
・レベル:98
・パッシブスキル
闇視
霊体:2Lv(UP!)
怪力:2Lv(UP!)
・アクティブスキル
忍び足:1Lv
高速飛行:1Lv
・名前:サム
・ランク:3
・種族:ゴーストキャリッジ
・レベル:65
・パッシブスキル
霊体:3Lv(UP!)
怪力:3Lv(UP!)
悪路走行:2Lv(UP!)
衝撃耐性:2Lv(UP!)
精密駆動:3Lv
・アクティブスキル
忍び足:1Lv
高速走行:1Lv
突撃:2Lv(UP!)
・名前:サリア
・ランク:3
・種族:リビングハイレグアーマー
・レベル:82
・パッシブスキル
特殊五感
身体能力強化:2Lv
水属性耐性:2Lv
物理攻撃耐性:2Lv
・アクティブスキル
家事:2Lv
槍斧術:2Lv(UP!)
弓術:1Lv(NEW!)
連携:1Lv(NEW!)
・名前:リタ
・ランク:3
・種族:リビングビキニアーマー
・レベル:81
・パッシブスキル
特殊五感
身体能力強化:2Lv
火属性耐性:2Lv
物理攻撃耐性:2Lv
・アクティブスキル
家事:1Lv
薙刀術:2Lv(UP!)
弓術:1Lv(NEW!)
連携:1Lv(NEW!)