表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/514

アラクネ、エンプーサ、魔人族+α種族紹介

●ヴィダの新種族の強さについて(ハートナー公爵領ニアーキの町、魔術師ギルド支部の書物より抜粋)


 ヴィダの新種族の内魔物にルーツを持つ者はジョブの他に魔物と同じランクがステータスに表示される。

 そのランクに応じて人種等よりも能力値が高くなる。

 彼等はジョブによる補正と、魔物の身体能力を併せ持ち、武具で武装する事が可能な存在なのだ。


 そのためジョブチェンジを繰り返す事が可能で、更に武具を揃えられる環境が整っていれば、アラクネやスキュラ、ラミア等は当然人間の平均的な冒険者よりも強くなる。吸血鬼や魔人族が脅威とされるのも同じ理由である。

 そうした環境で力量を高められるヴィダの新種族は、生涯を通じて一度もランクアップを経験できない魔物の方が多いのに対して、平均して二回程ランクアップを経験する事が出来る。(そのために必要な時間は個人や種族ごとに異なる)


 またそれらのヴィダの新種族の力量をランクだけで測るのも危険だ。ジョブによる能力値とスキル補正、更に装備を整えている個体の場合、ランクを超えた実力を持っていると考えるべきだろう。


 幸いな事かは兎も角、ヴィダの新種族の内魔物にルーツを持つ種族は冒険者や国軍の兵士や騎士になる事が制限されている事が多い。

 しかし人間社会に深く入り込んでいる吸血鬼の例があるため、油断は禁物である。




・種族紹介 ルチリアーノ著

 以下の記述は冒険者ギルドや魔術師ギルドの物とは異なる部分があるかもしれないが、境界山脈内部の国々や各種族と直に見て会話し、調べた上で書き残している。


●アラクネ


 『生命と愛の女神』ヴィダと『甲殻と複眼の邪悪神』ザナルパドナの間に産まれた二つの種族の内一つ。

 美女の上半身と蜘蛛の下半身を持つ。現在では大型種、中型種、小型種の三種に分かれ、それぞれ異なった特徴を持つ。


 誕生直後は基となる一種、恐らく中型種のみが存在しており、三種に分かれるようになったのは十万年前のヴィダとアルダの戦いの後だと思われる。


 因みに、ザナルパドナの魔術師長バコタ氏から借りた資料を参照するところ、どうやらアラクネの水中種というのは存在しないらしい。

 冒険者ギルドの書物に記された水中種とは、糸で空気を蓄えた袋を創る等文化を発達させて水中での生活を可能にしたアラクネ達なのだろう。生態としては他のアラクネと変わり無いようだ。


 女性だけの種族であるため上半身は人間から見ると美女揃いで、多くが人種に似ている。ただ額や背中に複眼が付いているが、それも隠されると上半身だけを見た場合正体を見抜くのは難しいだろう。

 上半身の特徴はスキュラと違い千差万別で、個人毎様々な色の髪や瞳、複眼をしている。


 ただ数世代に渡って特定の種族の男性と種族を残すと、その特徴が上半身に現れる事があるらしい。


 蜘蛛の下半身は鎧のような外骨格と見た目より奇妙な鉤爪が生えた八本の足を持つ。小型種は熱帯に生息する魚を思わせる派手な色合いの者が多く、中型種は地味な色合いの者と逆に毒々しい色合いの者が半々。そして大型種はふさふさとした刺激毛を生やしている以外は地味な者が多い。


 中型種は始祖の特徴をそのまま残す、アラクネの中で最も数が多い種である。基本的なランクは3。

 上半身は十代後半から二十代の女性に見え、寿命は三百年程。武術、そして魔術の適性をバランス良く持つ。冒険者としての適性も様々。

 又、アラクネの中で一日に作り出す事が出来る糸の量が最も多く、質も安定している。


 小型種は敏捷性と巧みな糸使いに特化した種で、多くの者が風属性に適性を持つ。基本的なランクは2。

 身体の大きさは人種の成人男性よりも小さく、上半身は十代半ばから前半程に見え、寿命は二百年程。斥候職に向いた種族である。


 性格は見た目通り子供っぽい者が多く、糸を使った悪戯を仕掛ける事がある。私が滞在した短い間だけで、師匠が何回か引っかかっているのを目撃した。

 アラクネの中では糸の品質が最も高く、また繊細な細工も得意とする。ただ一日に出せる量は中型種よりも少ない。


 大型種はアラクネの中で最も数が少ないが強力な重戦士だ。魔術的な才能に乏しい代わりに、肉体的な素質が抜きんでている。身体の大きさは馬車並で、馬力もある。上半身は外見から連想される年齢は中型種と同じだが、下半身に合わせて大柄で巨人種の女性に近い。寿命は四百年で、重量級の武器を持てば並の冒険者では蹴散らされる一方だろう。


 ただ小回りが利かないので、冒険者になったとしたら活躍できない場面も少なくないはず。……人間社会でならだが。タロスヘイムや、境界山脈内部ではそうでもない。

 ただ糸を作る能力が退化しているのか、品質は低めで作れる量も小型種よりずっと少ない。


 これらの三種は全てアラクネであり、どの種族からでも生まれる可能性がある。小型種の母親から大型種の娘が生まれる事や、その逆もあり得る。

 また脚が速いのも共通した特徴である。


 ザナルパドナを始めとした境界山脈内部では一般人のアラクネはほぼ存在しないが、基本的には自分達で作る糸を活用した機織りや服飾、武具職人等になるようだ。この辺りは境界山脈外部のアラクネと同じである。


 違うのは【スパイダーテイマー】や【サムライ】、【クノイチ】等の独自のジョブに就く事だろう。これらのジョブが存在するとはアミッド帝国やミルグ盾国、オルバウム選王国の資料には存在しなかった。

 外部のアラクネが秘匿している可能性もあるが、恐らくザナルパドナへの信仰や、勇者ヒルウィロウが残した異世界の文化を知っているか否かが原因だろう。


 ザナルパドナでの食生活は主に周囲の魔境やダンジョンでの狩猟採集、そして『殻要らずの原っぱ』のような危険度の低いダンジョンで栽培する麦などの穀物で賄われる。

 ただ基本的には肉や魚が好まれる。ソウルフードはマンモス肉であるようだ。


 恋愛観はザナルパドナの場合グループ婚を行い、複数の男女が同じ塔の形をした住居で暮らす事が一般的。同じグループ内の男女なら、誰と付き合っても浮気にはならないそうだ。

 因みにそのグループから抜けて別のグループに移る者も普通にいるらしい。


 ザナルパドナを出て他の国の他種族、ノーブルオークや他の国の主だった種族の元に嫁入りするケースも昔からあったようだ。彼女達からしてみると自分達より強い、つまり頼りがいのある伴侶を得る数少ない機会なのだろう。


 境界山脈の外では、スキュラと同じ様に集落内に他種族の男性を住まわせ、共生する形を取る。


 大体十年に一回ほど出産し、一度に複数個の卵を産む事を数回繰り返す事が多い。産まれた子供は当初はどの種も似たような外見をしているが、年に一度の脱皮を繰り返しながら身体の大きさや外骨格の色を変化させ、刺激毛を生やす等して別れていく。

 この脱皮によって下半身の脚や外骨格の傷、上半身の複眼等の再生が可能。ただ、脚を失うなどした場合元通りに再生するまで複数回の脱皮が必要なようだ。


 ザナルパドナにはその脱皮で出来た殻を加工して作る『親愛の首飾り』を贈り、友情や愛情を確かめる文化がある。男性が受け取るとプロポーズを受けたのと同じなので、注意すべし。


 非ヴィダの種族を同族にする際の儀式は、ザナルパドナの司祭に祝福された特別な蜘蛛(育成に何年もかかる)と対象者(女性限定)を糸で包む。すると十年後アラクネに生まれ変わって出てくるというもの。

 この儀式を行った場合、多くは中型種になる。ただ儀式に使用した蜘蛛が小型、もしくは大型の蜘蛛を使うと小型種や大型種になる場合も極稀にあるらしい。


 因みに、砂漠に住むアンドロスコーピオンという種が存在するのだが、アラクネと関係があるのだろうか? 興味はあるが、境界山脈内部には少なくとも存在しないらしい。

 師匠が人間社会に出た時に手伝ってもらうとしよう。




●エンプーサ


 『生命と愛の女神』ヴィダと『甲殻と複眼の邪悪神』ザナルパドナの間に産まれた二つの種族の内一つ。

 カマキリと女性が混ざった様な姿をしており、人種等と同じ形の腕の他に一対の鎌腕が生えている。その鎌腕や膝から下が外骨格に覆われており、背中には羽が生えている。

 ただ飛行能力は蟷螂同様に低く、長距離を自由自在に飛ぶ事は出来ないようだ。殆ど滑空に使われる。


 人種の女性と比べて長身な者が多く、中には二メートルを超える者もいる。

 境界山脈外部では存在が久しく忘れられているが、れっきとしたヴィダの新種族の一種だ。


 外骨格の強度はアラクネの小型種と同じ程度で、軽装の皮鎧と同じ程度。しかし鎌腕の強度と切れ味は子供のエンプーサの物でも安物の武器より余程切れ味が鋭い。

 ランクアップを何度も重ねた者の鎌は、ミスリルやアダマンタイトの魔剣と比べても劣らないそうだ。


 エンプーサの基本的なランクは4。ただ魔術的な才能に乏しい種族で、風属性以外に適性を持つ者は少ない。


 寿命は四百年で、ザナルパドナではアラクネと共生し同じグループで生活している。他国に嫁に行く場合は、その国の習慣に合わせるようだ。


 一般人はアラクネよりさらに少なく、いないと言ってよい。冒険者としてはアラクネよりも人型に近いので活動の幅も広いだろう。

 斥候職と前衛職に就く者の割合は半々で、攻撃は鎌腕のみで行い残った両手で盾を構える攻撃的な盾職になる者も少なくない。


 忍者や武士に憧れる者がアラクネ同様に多い。【サムライ】や【クノイチ】ジョブに就くのはアラクネ同様だが、特殊なテイマー系ジョブとしてザナルパドナの加護を得れば蜘蛛では無くカマキリ型の魔物をテイムする【マンティステイマー】に就く事が出来る。


 エンプーサの恋愛観は……「君達女性だよね?」と思わず質問したくなる言動が多い。

 異性に対してアピールする際、自分が如何に強いか、格好良いか、経済力があるかを見せる事を重視する傾向が強い。

 エンプーサバーサーカーのガオルがゼノをダンジョン攻略や狩りに誘うのも、その為だ。


 性別が逆転しているかのようだが、冷静に考えればエンプーサは鎌腕に象徴される様に種族全体が狩猟や戦闘に特化している事、そして周囲を魔境に囲まれている境界山脈内部の状況を考えれば当然かもしれない。

 ガオルとゼノには是非その文化の違いを乗り越えて欲しいところだ。


 エンプーサにもアラクネと同じ親愛の首飾りを贈る文化があり、同性なら友情、異性になら愛情の印であることも同様だ。ただ脱皮した殻を使用する事までは同じだが、エンプーサは糸を吐かないので親しいアラクネに糸を出してもらい、作成の補助を頼む事になる。

 これは頼まれたアラクネにとって、親愛の首飾りを贈られたのと同じ意味を持つ。


 子供を作るときはアラクネと同じで十年に一度程のペースで、複数個の卵を産む事を二回から三回ほど繰り返すようだ。


 非ヴィダの種族を同族に変化させる儀式は、アラクネと同様の手順を踏む。違うのは蜘蛛がカマキリに、そして包むのが糸では無く泡状の粘液になるだけだ。




●魔人族


 人間社会では、アルダ信者だけでは無くヴィダ信者の間でもヴィダが強力な魔物と交わった結果生まれた種族とされている。その性格は邪悪で、冷酷無比。世の全ての悪徳を好む悪の権化の様に評され、発見次第冒険者ギルドでは討伐依頼が張り出される。


 しかし実際はヴィダと、邪神や悪神と融合した『炎と破壊の戦神』ザンタークとの間に産まれた種族である。

 人間社会では魔人族の一種と考えられている鬼人とは、別の種族になる。アラクネとエンプーサと同様魔人族の始祖と鬼人族の始祖が双子の関係の為、誤解されているようだ。


 性格も特に善良と言う訳ではないが、邪悪でも冷酷無比でも無く、悪徳を好んでいる訳でも無い。やや享楽的で快楽主義な面が強いが、私や師匠と比べれば常識的な範囲に収まる者が多いようだ。


 ザンタークの血の内邪神や悪神の血が濃い方の子が魔人族、ザンターク本来の血が濃い方の子が鬼人族になったと境界山脈内部では語られている。


 現在の魔人族は大まかに三つに分けられるが、アラクネ同様十万年前の戦争以前は基になる一種のみが存在し、その後別れたらしい。魔人国にはその原種の記録が残されていたので、それも合わせて四種について解説しよう。


 まず、当時魔人とだけ呼ばれていた元となった原種。素のランクは残っていた言い伝え等から推測すると5。姿は頭に二本の角を生やし、青い肌をした人種といったシンプルなものだったらしい。

 翼が無いから空を飛行する事は出来なかったが、身体能力と魔術的な素質に優れているのは現在と同様で、やはり強力な種族であったようだ。


 次に闘魔人ディアブロ。今の魔人王ゴドウィンがこの種だ。

 二本の角と皮膜の翼、先端が三角形に尖った尻尾、青い肌。そして巨人種と同等の巨体と発達した肉体美を誇る。武術、魔術両方に優れた戦闘種族で、素のランクは7。

 冒険者ギルドでは炎の魔人と呼ばれ恐れられており、多くの者が【火属性魔術】の達人で、同時に炎に対して強い耐性を持つ。マグマの池で泳いでいたという目撃証言もある。


 淫魔人サキュバス……男性の場合はインキュバスと呼称される。イリス・ベアハルトが変化した種であり、クーデターに失敗したゲラゾーグも一応この種であるらしい。

 角や皮膜の翼、肌の色等の特徴はディアブロと同様だが、体格は人種と同じ程度で多くの者が均整のとれたプロポーションをしている。……後、噂だと尻尾が三角形では無くハートの形をしている者が多いとか。


 素のランクは6で、身体能力に劣る訳ではないが魔術的な素質の方が優れている。ただ最も特徴的なのは種全体が所持している【色香】と【精気吸収】、そして【幻影変身】スキルだ。

 これらのスキルを使用してサキュバスは男を、インキュバスは女を惑わし、精気を吸うとされている。


 ただ同性には【幻影変身】スキルの効果が無効であるため、人間社会では寝室を分ける様な仲の悪い夫婦は淫魔人の格好の標的だとされていた。

 魔人国でそれを淫魔人達に話したら、「いや、普通はまず一人暮らしの独身者を狙わないか?」と言われた。至極もっともである。


 尚、別に【精気吸収】をしなくても生存には問題無いそうだ。淫魔人達にとって精気とは、酒等の嗜好品のような物であるらしい。


 獣魔人ヴァンデル。二本の角と肌の色以外他の二種の魔人族とは共通点が少ない種だ。師匠と名前が似ているのはただの偶然である。


 身体に獣の特徴……若しくは獣の部位そのものを生やしており、同じヴァンデル同士でも別種のように見える。

 獣毛や鱗、殻で体の半分以上が覆われ、獣の耳や尻尾、牙や鉤爪等を生やしているだけの個体は地味な方で、腕の半ばから狼や虎の上半身が生えている場合や、下半身そのものが巨大な四肢獣や蛇になっている場合もある。


 素のランクは6で、魔術よりも身体能力に優れる。性格も獣じみている者が多いようだ。


 魔人族は共通して寿命が無く、不慮の事故や病、戦いでの死亡等が無い限り何時までも永遠に生き続ける。そのためか種族単位での同族意識が強い傾向にある。

 自分が実際に関わりを持った者については、特に重視する傾向にある。そのため属している集団内の結束は強い。ただそれは同族に限らないため、排他的とは言い難いようだ。


 魔人国を裏切ったゲラゾーグの場合は、ゴドウィン達よりもブギータス達の方に絆を覚えてしまったのだと推測される。


 魔人族の一般人は基本的に存在しない。魔人国でも腕を磨いて戦う事を是としているため、全ての魔人族は戦闘系ジョブに就く。しかし、寿命に際限が無い為手慰みの趣味などに凝り、結果一流の職人並の技術を身につける事が少なく無いようだ。


 冒険者としての適性は、記すまでも無いだろう。


 魔人族が就く事が出来るジョブには複数の独自のジョブが確認されている。その中で最も知られているのが【デーモンテイマー】ジョブだ。恐らくザンタークが融合した邪神か悪神、若しくはその両方が汚染された魔力が凝り固まって出来る魔物であるデーモンを司るか、近い性質を持っていたからだろう。

 このジョブのせいで人間社会では魔人族をデーモンの上位種と考える者が圧倒的に多い。


 元人間社会の一員としてフォローするなら、アークデーモンやグレーターデーモンはディアブロと似ていなくもないし、山羊の頭部を持つレッサーデーモンはヴァンデルと共通点があるといえなくもない。珍しいが、サキュバスに似たデーモンも存在するので、誤解しても無理はないと思う。


 独自のジョブには他にも【獣魔士】や【魔人剣士】、【闘魔将】等の数多くのジョブが存在する。


 魔人族の恋愛観、結婚観は個人による。多くの人間と同じで特定の男女で夫婦生活を行う者もいれば、子供が出来た場合のみ養育を手伝いながら共同生活を行い、子供が育ったら別れる男女もいる。子供が出来ても共同生活せず、母親になった者が親兄弟と一緒に子供を育てる場合もある。


 魔人国では婚姻は制度では無く、個人が自由に行う男女交際における形態の一種であるとしている。つまり、国家公認で「好きにしろ」という訳だ。ただあまり無責任な事をしていると、ゲラゾーグのような目に合うそうだ。


 魔人族は寿命が無い反動か種族全体で子供が出来にくく、また当人達も無理に子供を作る必要を覚えない事が多いようだ。結果的には多くの者が一人以上の子供を作るが、それまでに長い年月がかかる事も珍しくない。

 しかし、極端な例だが過去には十数以上の子供を儲けたインキュバスが存在したそうなのでやはり個人による差が大きいようだ。


 魔人族の子供の成長に関してもそれは同様で、人種と同じペースで成長して十五程で大人になる場合もあれば、エルフやダークエルフのように十代前半で成長する速さが落ちて大人になるのに二十年から三十年かかる場合、中には子供の様な見た目のまま外見が固定される場合もある。


 そのため魔人国では保護者と子供本人が共に「成人した」と認め、役所で試験に合格すれば以後成人として扱われるという、成人の免許制度が採用されている。

 試験である以上毎年不合格者が出るのだが、大体百歳までには合格するようだ。……審査員が魔人族では無く民である人種やエルフである点から考えると、それなりに厳しい試験らしい。


 魔人族での成人は免許であるため、余程馬鹿な事をすると失効、及び剥奪される。

 因みにゲラゾーグはその馬鹿な事を繰り返し、何度目かの成人免許剥奪中にクーデターを画策したようだ。……誰も賛同しない訳だ。


 他種族を魔人族化させる儀式について。魔人族の場合人種、エルフ、ドワーフだけでは無く同じヴィダの種族でも魔物にルーツを持たない者(ステータスにランクが無い者)は魔人族化させる事が可能という特徴がある。


 最も知られている儀式は……儀式と呼んでいいのか微妙だが、淫魔人との性交を繰り返す方法である。単に長期間、及び継続的に淫魔人と性交を繰り返すと結果的に相手が魔人化するという、時間と過程を無視すれば最も簡単な方法だ。

 淫魔人がその身に宿す魔力が性交を通じて相手に伝わり、それが一定量を超えると魔人化すると推測される。


 必要な時間は……あまり詳細な記録が残っていないので正確ではないが、長くて一年。頻度の方は……敢えて記すまい。ランクの高い淫魔人程、短い時間と低い頻度で相手を魔人化させるようだ。

 そんな事が可能なら、魔人族が爆発的に増えないとおかしいのではないかと思うかもしれない。しかしそんな長期間継続的に性交を繰り返す相手は、淫魔人にとって当然特別な相手である訳で……爆発的に増える事は無いようだ。


 次にゴドウィンがイリス・ベアハルトに施した、闘魔人の『血の繭』の儀式。必要な時間こそ七日七晩と短いが、特別な魔術陣と聖杯が必要であり、大量の生贄を用意しなければならない。本来なら難易度が高い儀式だ。

 そのため魔人国でも滅多に行われなかった。人間社会では儀式の存在そのものが知られていない。


 最後に獣魔人ヴァンデルの『獣魔窟』だが、魔人化を望む者が聖別された狭い穴に入り、そこでヴァンデルの血肉のみを食し続けると、出て来る時には魔人族と化しているという血腥い儀式だ。

 淫魔人の性交と同じ効果を、食事で行っているのだろう。『血の繭』以上に実行例が少なく、記録が殆ど無いので細部は不明だ。


 魔人族化する際どの種になるかは、儀式を行う魔人族では無く受ける非魔人族の生まれ……肉体によって決まる。


 人種やエルフ、ドワーフ、ダークエルフ等で大体身長が二メートル未満の場合は、ほぼ淫魔人になる。

 巨人種等身長が二メートル強の場合は闘魔人に。

 そして獣人や、獣人の特徴を色濃く受け継いだ者は獣魔人になる事が多い。

 

 ただ時折身長三メートルで筋骨隆々とした肉体を誇るインキュバスや、逆に背が大人の胸ほどまでしかない闘魔人、獣の耳を生やしたサキュバスが儀式の結果誕生した記録も魔人国には存在する。




●ノーブルオークハーフ


 師匠が初めて疑似転生を行った結果誕生した種族だ。……そう、魔物では無く新種の人類である。ジョブに就けるのだから、間違いない。


 特徴としては豚に似た耳と短い尻尾を持つ、巨大な……現時点で三メートル程の女児。今の成長ペースから推測すると、恐らく十歳程で人種の十五歳程の外見になる、つまり成人すると思われる。

 その外見を見ただけの者は、多くの場合巨人種と獣人のハーフだと勘違いするのではないだろうか? 猪系獣人種という種は存在しないので、後々奇妙さに気がつくかもしれないが。


 生まれつき力が強く、耐久力に優れる。まだ今年六歳……人種に換算すると九歳になる前だというのに、既にランク3の魔物ぐらいなら徒手空拳で圧倒できる筋力を誇る。

 ただ逆に魔術は苦手なようだ。それが種族全体の特徴なのか、単に彼女の年齢に対して魔術の習得難易度が高すぎるのかは、不明だ。


 ……同じ年頃の師匠と比べるのは、意味が無いので省く。


 まだ一人だけなので種族全体の調査は不可能だ。男性が存在する事が出来るのかも不明。ノーブルオーク帝国に師匠が進出すると聞いて、ノーブルオークハーフ大量誕生のチャンスかと思ったのだが……。

 師匠が人間社会で冒険者稼業をする際には、是非オークやミノタウロス退治の依頼を何度も受けて欲しいところだ。


 その際相手がオークの場合はオークハーフ、ミノタウロスの場合はミノタウロスハーフになるのか分かる事だろう。




●レギオン


 人類である。異論もあるだろうが……ジョブに就く事が出来る、れっきとした人類の一員である。

 外見は肉で出来た(筋肉が剥き出しになっているのとは違う)人形十数人から数十人分で球体を編んだような……球体の表面に人の手足や頭部そっくりな形状をした肉の突起が無数に生えている様な、そんな形をしている。


 尤も、それは彼女達にとっては基本形でしか無く、【サイズ変更】や【形状変化】スキルで自由自在に大きさや形を変える事が可能だ。

 身体には皮膚、毛髪、骨、内臓、心臓……脳すら無く、全て肉で出来ている。


 肉で出来たスライムの様だが、スライムであってもコアとなる核が体内には存在する。しかし、それも無い。つまり完全に急所となる部分が無いのだ。その上凄まじい生命力と、驚異的な再生能力を持つ。

 以前は熱と電撃という弱点があったが、耐性スキルを獲得する事でそれも無くなったと考えていいだろう。


 そして私にとって最も信じがたいのは、彼女達レギオンが誕生した原因が師匠では無いという点だ。

 師匠はレギオンの元となる『生命の原形』と『霊の原形』を創り上げただけで、主にレギオンを誕生させたのは『時と術の魔神』リクレントと『空間と創造の神』ズルワーン、そして異世界『オリジンの神』である。


 彼等三柱の神々は、ヴィダを超えたのではないだろうか? 何を超えたのかは、あえて記さないが。


 性格というか精神的には……難解極まる。記憶も感覚も共有されているので、師匠が頻繁に行う【幽体離脱】による分身が異なる人格を持っているのと近い状態らしいが。


 基本的にはプルートーがリーダーシップを取る事が多いようだが、彼女が人格の中心にいるという訳でもないらしい。実際、彼女の人格が【遠隔操作】スキルで分離している間も、レギオン達は残った人格で問題無く行動する事が出来る。

 人格の一人である閻魔によると、『一人が皆で、皆が一人』という状態らしい。


 そして種族である以上増える……子孫を作る事が出来るはずなのだが、それも謎だ。

 スライムと同様に分裂する形で増える可能性が高いように思えるが……実はスライムの繁殖方法には分裂説以外にも卵生説が存在する。

 体内に身体と同じ色の卵を育て、出産と同時に卵が孵化するので分裂しているように見えるのだという説だ。


 はたしてレギオンはどちらなのか……是非知りたい。




 ルチリアーノはペンを置くと、深く息を吐いた。

「その為には寿命が足りないか。やはり吸血鬼かな? 私がインキュバスに成った姿が想像できないし……しかし、彼女達の誰かから『親』を選ぶのか。

 やはり、とりあえず師匠に【若化】してもらう方法で寿命を延ばすか」


 それは兎も角と、ルチリアーノはノーブルオークハーフとレギオンについて書かれた紙を横に置き、新しい紙を用意した。

「今の内に境界山脈内部のヴィダの種族に付いて記しておかなければ。師匠の事だから、各国にそれまでの文化や生活が大きく変わるような影響を、遠慮する事無く与えるだろう。そうなった後以前はどうだったのかを調べるのは大変だろうからね」


 自分はアンデッド専門の研究者だったはずだが、何故こんな博物誌モドキを記しているのだろうか?

 そう疑問に思わなくもないルチリアーノだったが、悪い気はしなかった。

拙作「四度目は嫌な死属性魔術師」の発売日が12月15日に決定しました!

ネット小説大賞のホームページでキャラクターラフ等も公開されていますので、よければご覧ください。


もし書店で見かけましたら手にとって頂けると幸いです。


11月25日にルチリアーノレポート2 29日に八章開始 154話を投降する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ