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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第七章 南部進出編
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百四十二話 三日天下後の国で働く王と、中の帝国に在る皇帝

 ガルギャのクーデター後、荒れる一方だったハイコボルト国の建造物や道路が見る見るうちに修繕されていく。

 その様子は建造物に使われている石材や木材、地面の石畳がまるで粘土に変わったように形を変え、欠損した部分や罅割れが消えていくと言うものだった。


「見る見るうちに街が元通りに成って行くぞ!」

「うわ~、ありがとう~!」

「ワンワンワンワァ~ン!」

 それを見て歓声を上げるハイコボルト国の人々。多くは子供で、特にハイコボルトの子供達は大興奮している様子で何を言っているのか分からない。


 尻尾を振ってくれているから、喜んでいるのは分かるのだが。


 それを成し、人々に手を振って応える一人の……筈なのだが十数人に分裂しているヴァンダルーは、若干不満だった。

「……工事より料理したい」

『シアの実……シアバター……』

『アサイー……』

『地球には無い数々のフルーツに、絶滅した動物の肉……』


 そう小声で呟く程、ヴァンダルーの関心は修復工事よりも食材に傾いていた。


 ガルギャを倒し残党の殲滅と解体も終わった。城や町に残っていた見張りもサクサクと倒し、非戦闘員は無事解放する事ができた。

 戦いでこちら側に死者は出ず、負傷者は出たが幸い戦いで手足を欠損する等の重傷を負った者はいなかったので、ザディリス達の治癒魔術とポーションで十分治療できた。


 ガルギャがクーデターを起こしてから半年と経たずに国を取り戻せたのが幸いして、ハイコボルト国の民にも深刻な状態の者はいない。ガルギャのあの様子では、元通りに治らない重傷者は「役立たずはいらん」と治療しないで食料にでもしかねなかったので、解決まで時間がかかっていたら悲惨な事になっていただろう。


 そしてガルギャが愛妾にしようと、唯一前王の直系で生かしておいたルルゥ姫をブダリオン皇子達が(カシム達はギリギリ間に合った)解放したのだが、その時も特にトラブルは起きなかった。……カシムに春も来なかったようだが。

 そこでヴァンダルーは自分にしか出来ない事として【ゴーレム創成】スキルを使用してハイコボルト国の再興の手伝いをしていた。


「別につまらない訳じゃない」

『皆から感謝されるのは嬉しいですし』

『ハイコボルト国の建物は建築様式が変わっていて面白いですし』

『ハイコボルトの人達って集団で暮らすのを好むのか、一軒一軒が大きく造られているなとか、色々発見もあります』


 ハイコボルト国は、ハイコボルトと、人種とドワーフ、エルフの民、そして多くは無いが他国から移住した他種族が暮らす国家だ。総人口は元々一万数千程で、ハイコボルトの数はガルギャのクーデターによってずいぶん減ったが、ザナルパドナに落ち延びた者達を合わせて千数百。他の国に落ち延びている者も戻って来れば、もう少し増えるだろう。

 民は一万程。人種が最も多く、エルフは百人程しかない。そして下位種族のコボルトが数百匹。


 その国家体制はノーブルオーク帝国に近く、素のランクが5であるハイコボルト達が国の防衛と国の外部やダンジョンでの狩猟採集を担当し、民が国内での生産活動を担当する。

 そして下位種族のコボルトは下級兵や警備員、肉体労働などを担当していた。ただ、国に残っているコボルトは肉体労働担当のコボルトばかりだが。


 戦闘担当のコボルトはガルギャのクーデターに賛同して獣のようになり、その後はブギータスが支配するノーブルオーク帝国に下級兵として貸し出されたからだ。


 ハイコボルトが大幅に減ってしまった事で暫くは国を維持するだけでも苦労するだろう。ただ、幸いな事にハイコボルト国には定期的に魔物を間引かなければ国家の存亡にかかわる、高難易度のダンジョンは存在しなかった。

 国内にはD級ダンジョンが一つ、周辺に同じくD級ダンジョンが幾つかしかないので、数が減ったハイコボルト達でも魔物を間引くくらいなら難しくない。


 ブギータスが支配するノーブルオーク帝国という最大の障害さえなくなれば、ハイコボルト国が再興する事は十分可能だ。

 その前に、建物や城壁が修復されていれば、それにかかる時間が少しは省略されるだろう。


 因みに、まだ地上に残っていたため回収できたハイコボルトの魂をアンデッド化させて復活させたり、【迷宮建築】スキルでダンジョンを新たに発生させたり、移動させる等の提案はしているが、ブギータスを倒した後日ハイコボルト国の新しい王と側近で検討される事に成るだろう。


 ハイコボルト国にとってヴァンダルーは簒奪者を倒した恩人だが、同時に他国の王だ。国内に他国の王の支持者を大量に創り、自由に出入りできる抜け道を発生させる事に慎重に成るのは当然だろう。


「後、戦勝の宴はブギータスを倒してからに成りそうですしねー」

 ノーブルオーク帝国軍は、情報の伝達網が整備されていない。各地に派遣した将軍達が倒されている事をブギータスはまだ気がついていないだろう。


 小競り合いすら数万年前まで遡らなければ無いこの地で生まれ、軍略について書かれた本も存在しないため読んだ事が無いまま、初めて本格的な侵略戦争を起こした簒奪者ブギータス。

 彼が戦争を始める前は、ノーブルオーク帝国の軍の役目は対魔物用の防衛、次に城壁の外やダンジョンでの狩猟採集であった。そのため、数百から千以上の大集団で、数日以上国を離れる事が元から想定されていない。


 そしてブギータスも情報の伝達や兵站の問題を重要視していないため、伝令担当の部隊がほぼいないのである。

 そしてノーブルオークは突進力に優れるし、決して鈍い種族では無いが……長距離を素早く移動する事が得意な種族でも無いし、魔物を使役するテイマーが多い訳でも無い。


 今頃ブギータスは王座で苛立ちながら、今は亡きブディルードやブーフーディンからの、決して来ない報告を待っている事だろう。

 それを利用しない手は無いので、ブギータスが魔の手を伸ばしている国を全て迅速に解放し、そして迅速に帝国に攻め込み、ブダリオン皇子にブギータスの首を獲ってもらう予定である。

 それが終わったらブギータスのカルビで焼き肉である。


「あのーっ! ちょっと良いですか!?」

 いや、チャーシューにするか? 味噌カツやポークカレーも捨てがたい。そんな事を考えているヴァンダルーだったが、歓声に混じっていたが、下から話しかけられてはっと我に返った。


「どうしましたー?」

 もしかしたら、考えるのに夢中に成っている間に建物を間違えた直し方をしてしまったのかもしれない。そう内心では慌てて地面に降りたが、話しかけてきたドワーフの女性の用件は苦情や要望では無いようだった。

「いえ、家を直してくれたのと……ワンさんの仇を取ってくれたお礼を言いたくて」

 ドワーフの女性は彼が地面に降りて来ると一瞬だけ哀しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に変えて持っていた籠を差し出した。


「これ、ワンさんが好きだった果物です! ありがとうございました!」

「これはありがとうございます」

 ワンさんって誰だろう? ヴァンダルーがそれを聞く前にドワーフの女性は自分の家に駆け戻って行った。


 その小柄な後ろ姿を見送りつつ、多分彼女と親しい関係のあるハイコボルトの事だろうと想像する。

「魔物の霊はすぐに輪廻の環に戻っちゃいますからね……ブーフーディンもガルギャも覚えが無いようですし」

 二人の霊も記憶に無いようだ。多分、ワンと言うのはハイコボルトの間では珍しくない名前なのだろう。


 それは兎も角有りがたく果物を頂こうと籠の中身を見ると、そこに在ったのは今までヴァンダルーが見た事も聞いた事も無い果物だった。赤い皮にナマズの髭のような毛が何本も生えた、手に収まるほどの大きさの果物にヴァンダルーは首を傾げる。


「あのー、これどうやって食べるんですか?」

「ワフワンワンワフ!」

「……ありがとう」

 ハイコボルトの子供は直立した子犬の様で可愛いが、やはり何を言っているのか分からない。オーク語もそうだが、コボルト語も難解だ。


 とりあえず皮を爪で切ってみると、中身は外見に反して白くつるりとした果肉が詰まっていた。食べてみると、果肉は柔らかく、甘い果汁が口の中に溢れるようだ。

「味は地球で一度だけ食べた事のあるライチに、少し似ている気がする。ラムダには面白い果物がありますね。

 ワンさん、良い趣味です」


 今は亡きワンさんに思いを馳せていると、前触れも無くヴァンダルーの周りが暗くなった。

『ヴァンダルー、ハイゴブリン国を支配していた簒奪者と、派遣されていた将軍の討伐、国の解放が終わったわ。ブディルードのゾンビが役立っていたわよ』

 その上空に、音も無くレギオンが転移してきたのだ。


「うわああああ!? ママ~っ!」

「キャインキャイン!?」

 途端逃げていく子供達。どうやら、肉で出来た人形を何体も捏ねまわして作った直径三メートル程の球体という姿のレギオンは、刺激が強すぎたらしい。


『……何も泣きながら逃げなくても良いと思うの。私、前世では狂信的なファンもいたのに』

「仕方ありませんよ、初対面ですし。ボークス達はどうです?」

 ヴァンダルーの質問に、ショックを受けている様子のプルートーに変わり、生えて来たシェイドが答えた。


『ボークスは敵が弱すぎてつまらないとぼやいてたよ。彼がハイゴブリン国を支配していたギィドー王を、派遣されていたブギャップ将軍は骨人さんが倒したけど、大した相手じゃなかったみたいだね』

『勿論、我々にとってはどちらもエレシュキガルのカウンターを上手く使わないと勝てない強敵だったがな!』

『ワルキューレ、それは言わなくても良いと思うわ』


 ヴァンダルー達は軍を二つに分けて、このハイコボルト国とハイゴブリン国を同時に攻略していた。

 それはグール国から二国が近く、更にノーブルオーク帝国に完全に支配され、戦力の供給源にされていたからだ。

 後これは倒してから分かった事だが、ブギータスを倒してもガルギャが改心するとも思えなかったので、先に解放したのは間違いではないだろう。


 レギオン達に話を聞くと、ハイゴブリン国の支配者と派遣されていた将軍も似たような連中だったようだ。

『ところで、それは?』

「謎の果物です。ラムダ独自のものらしくて、名前は聞きそびれました。食べます?」

 ヴァンダルーから果物を受け取ったレギオンは、それを皮ごと飲み込んだ。そして、にゅるりと別の人格が生えて来て答えた。


『……この果物、地球とオリジンにもあったわ。見た目も味もだいたい同じだから。ジャックも好きよ』

『ランブータンって言うんだよね、瞳ちゃん』

「マジで?」

『『マジマジ』』


 ランブータン。東南アジア原産の果物である。瞳が言うように地球にも存在する果物だが、ヴァンダルーの記憶には無かった。

 気候的にややアフリカに近いハイコボルト国で生産されているので、正確にはランブータンの近似種なのだろうが。




 時間が出来たらタロスヘイムにランブータンのイモータルエントを創りたいが、近い将来交易する相手国の特産品を自国で生産するのは問題があるのではないだろうか?

 そんな事を考えながら、ヴァンダルーはハイコボルト国のジョブチェンジ部屋に居た。


 魔物であるハイコボルト達はジョブに就く事は出来ないが、民が生産系のジョブに就くために必要なので、この国にもジョブチェンジ部屋が在った。

「今度は特に珍しい事はしていないので、増えはしないと思いますけど……」

 そう言いながら、水晶に触れる。


《選択可能ジョブ 【屍鬼官】 【病魔】 【霊闘士】 【鞭舌禍】 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥医】 【迷宮創造者】 【魔王使い】 【魔砲士】 【冥王魔術師】 【神敵】 【冥導士】 【創導士】(NEW!) 【堕武者】(NEW!) 【蟲忍】(NEW!)》


「……うーん、増えた。導士系のジョブって、こんなにポンポン出て良いものなのか?」

 このジョブシステム、バグってない? 大丈夫? 胸中でジョブやスキルを作ったとされる『時と術の魔神』リクレントに問いかけるが、答えは無かった。


 声が届かなかったのか、それとも意図的にスルーされたのかは不明である。


「しかし、他の二つは……【堕武者】って、落ち武者ですよね。【蟲忍】は、【蟲使い】ジョブとも関係があるのかな? とりあえず、次につくジョブは決まって居るのですが。

 【屍鬼官】を選択」


 最近皆を指揮しながら、若しくは皆の先頭で集団戦を行う事も多くなってきた。だから指揮官と同じ読みの【屍鬼官】ジョブに就けば、【指揮】スキルに補正が得られて事が有利に進むのではないか。そう思っての事だ。


《【屍鬼官】にジョブチェンジしました!》

《【指揮】、【連携】のレベルが上がりました!》

《【装屍術】スキルを獲得しました!》

《【装屍術】、【装植術】、【装蟲術】スキルが統合され、【装群術】に変化しました!》




・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:9歳

・二つ名:【グールキング】 【蝕王】 【魔王の再来】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【怪物】 【鱗王】 【触王】

・ジョブ:屍鬼官

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士、魔導士、大敵、ゾンビメイカー、ゴーレム創成師


・能力値

生命力:2,541

魔力 :1,190,442,646+(357,132,793)

力  :1,071

敏捷 :804

体力 :1,203

知力 :2,475




・パッシブスキル

怪力:5Lv

高速治癒:10Lv

死属性魔術:10Lv

状態異常耐性:8Lv

魔術耐性:6Lv

闇視

魔道誘引:3Lv(UP!)

詠唱破棄:6Lv

導き:魔道:5Lv(UP!)

魔力自動回復:6Lv

従属強化:8Lv(UP!)

毒分泌(爪牙舌):5Lv

敏捷強化:3Lv

身体伸縮(舌):5Lv

無手時攻撃力強化:大

身体強化(髪爪舌牙):4Lv

糸精製:3Lv

魔力増大:3Lv


・アクティブスキル

業血:3Lv

限界突破:8Lv

ゴーレム創成:3Lv(UP!)

無属性魔術:8Lv

魔術制御:7Lv

霊体:8Lv

料理:5Lv

錬金術:7Lv

格闘術:6Lv

魂砕き:10Lv

同時発動:7Lv(UP!)

遠隔操作:7Lv

手術:7Lv(UP!)

並列思考:6Lv

実体化:5Lv(UP!)

連携:6Lv(UP!)

高速思考:5Lv

指揮:6Lv(UP!)

装植術:6Lv→(装群術に統合!)

操糸術:5Lv

投擲術:5Lv

叫喚:4Lv

死霊魔術:6Lv(UP!)

装蟲術:6Lv→(装群術に統合!)

砲術:5Lv(UP!)

鎧術:2Lv(UP!)

盾術:2Lv(UP!)

装群術:1Lv(NEW!)



・ユニークスキル

神殺し:9Lv(UP!)

異形精神:7Lv(UP!)

精神侵食:7Lv

迷宮建築:7Lv(UP!)

魔王融合:4Lv

深淵:4Lv

対敵



・魔王の欠片

吸盤

墨袋

甲羅


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




 【指揮】や【連携】スキルのレベルが上がったのは想定内だったが、【装屍術】スキルと、そしてそれ等が統合され変化した【装群術】スキルを獲得した。

「どんな効果なのかは【装植術】や【装蟲術】から連想できますけど。これでボークスや骨人も装備できるようになるのかな?」

 想定以上に良い結果になったようだ。ヴァンダルーは上機嫌でジョブチェンジ部屋を後にした。


「御子殿! ブダリオン皇子が移植した目や腕が疼くと、身体の不調を訴えている! すぐ来てくれ!」

 するとギザニアが駈け込んで来た。

 まさか医療ミスを起こしてしまったのかと、ヴァンダルーは慌ててブダリオン皇子の元に向かったのだった。




 暴君の八つ当たりで床に叩きつけられた杯が、澄んだ音を立てて砕け散った。

「ブガア! ブキャブガガ!?」

 報告はまだ来ないのかと怒鳴り散らすブギータスに、部下のノーブルオークメイジ達は怯えて縮こまった。その中の一人が、見るからに嫌々と言った様子で口を開く。


『ブギータス陛下、グール国攻略中のブディルード将軍からの報告はございません。ハイコボルト国のガルギャ殿と派遣したブーフーディン将軍、ハイゴブリン国のギィドー殿とブキャップ将軍からも定期連絡が途切れております。

 また、ザナルパドナ攻略のための前線基地建設中のブブーリンからも報告の類は来ておりません』

 ノーブルオークメイジが報告を続けるごとに、ブギータスの機嫌が更に悪化していく。


 ノーブルオークメイジも出来ればこんな報告をしたくはないが、ブギータスの機嫌を良くする材料は何も無く、しかし黙っている訳にもいかない。


『鬼人国と竜人国の監視に差し向けた連中はどうした!?』

 ノーブルオーク帝国に戦力で匹敵する鬼人国と竜人国は、『解放の悪神』ラヴォヴィファードの力によって引き起こされた魔物の暴走に対処するため、帝国に軍を差し向ける余裕は無い。

 しかし、鬼人国と竜人国の武力を考えれば暴走する魔物を駆逐するのに時間はかかっても、やられる事は無いだろうとブギータスは考えていた。


 寧ろ、鬼人国や竜人国をどうにかしてしまう規模の魔物の暴走を起こされたら、自分達の身も危険にさらされてしまう。ラヴォヴィファードはダンジョンに生息する魔物をより凶暴化させ暴走させただけで、支配している訳ではない。魔物達は一番近い敵に襲い掛かっているだけなのだ。


『それが、到着後最初の連絡を寄越して以後音沙汰が……恐らく、暴走する魔物の群れに見つかってやられたのかと』

『役立たず共が! 次の偵察部隊を送り込め! あの二国の動向は確実につかんでおかねばならんのだ!

 魔人国に送り込んだゲラゾーグとブゴバー、他の中小国の相手をしているブモーガンはどうした!?』


 ブギータスは侮りがたい力を持つが距離がある魔人国には、以前帝国に留学していたゲラゾーグという名の魔人族の若者を仲間に引き込み、クーデターを起こさせる算段をつけていた。ハイコボルト国のガルギャと同じ作戦である。

 ラヴォヴィファードの加護を得たゲラゾーグが魔人国で賛同者を集め、派遣したブゴバー将軍率いる軍も加わり、クーデターを引き起こして身動きを封じる、あわよくば魔人国を乗っ取る予定だった。


『それが全く音沙汰無く……恐らく、伝令が途中で遭難したか、運悪く強力な魔物と遭遇し全滅したのかと』

 しかし、報告が一切無かった。距離があるし、道中は危険に満ちているので仕方ないと言えばそれまでだが。

『陛下っ! ブギータス陛下! ブゴバー将軍の、将軍の!』

 だが、突然王座の間に別のノーブルオークメイジが転がり込むようにして駈け込んで来た。


『伝令がやっと来たか!?』

 ようやく待ちに待った報告が聞ける。思わず玉座から立ち上がったブギータスだが、齎されたのは最悪に近い知らせだった。


『い、いえっ! ブゴバー将軍の軍の生き残りが帰還しました!』

『何だとぉぉぉぉぉぉ!?』

 激高する猪のように叫ぶブギータスに、駆け込んできたノーブルオークが失禁寸前になりながらも報告したところによると、魔人国でもクーデターは失敗に終わったらしいとの事だった。


 魔人国でクーデターの賛同者を集めようとしたゲラゾーグだったが、驚く事に殆ど賛同者が集まらなかったらしい。賛同者は数人で、しかも特別有能だったり、高い地位に在ったりする訳では無い。多少の悪巧みや一度だけのテロ計画ならまだしも、国家転覆なんてとても狙えない。


 だと言うのにブゴバー将軍は「何としても陛下の期待に応えるのだ」と無謀な忠誠心を発揮して、魔人国に対して攻め込んでしまった。圧倒的に足りない戦力を率いて善戦はしたが、そのまま玉砕。本人も討ち死にし、僅かな生き残りが何とか帰還したそうだ。

 ゲラゾーグもその中に含まれていて、亡命を希望しているそうだ。


『……馬鹿な。確かに声をかけた時から冴えない奴で、留学という名目の島流しにされたのも無理も無い愚か者だったが、ラヴォヴィファードの加護を得たのだぞ。ハイコボルト国のガルギャもハイゴブリン国のギィドーも、似たような物だったが、上手く行ったというのに!』


 そう叫ぶブギータスだが、現実は変わらない。しばらくしたらゲラゾーグ本人とブゴバー軍の生き残りから話を聞く事が出来るだろうが、愉快な事は聞けないだろう。

 ただ魔人族は数が少ない為、ゲラゾーグのクーデターが失敗したからと言ってすぐに大軍を派遣してくる事は無いだろうというのが救いか。


 ただ、魔人族は一度怒りに火がつくと恐ろしい戦人に変貌する戦闘種族だ。時間はかかっても、必ず帝国に軍を差し向けて来るだろう。


(やはり酔狂者しかいない魔人族には、ハイコボルトやハイゴブリンに使った手は通じないと言う事か……)

 そう無理矢理自分を納得させたブギータスは、怒りを何とか抑えることに成功する。

『それで、ブモーガンからは報告は無いんだな?』


『い、いいえっ! たった今届きました!』

 血走った目で問うてくるブギータスに、ノーブルオークメイジは引き攣った声で答えた。


『何だと!? まさか敗走したから撤退を助けて欲しいなんて報告では無いだろうな!?』

『いいえっ! 援軍要請です! ラミアやケンタウロス、ハーピー共が思いの外手強く、更に何故か少数の魔人族まで敵軍に加わった模様! 下級兵の損耗が激しく、物資も足りないと……』


 ブモーガンはクーデターを起こすための手駒が無いが、それほど脅威では無い国がザナルパドナやグール国と手を結んで連合軍を結成しないようにするために、軍を率いて抑えをしていた。

 ラミアやケンタウロスの国は小さく、ザナルパドナや老人と子供以外は全て戦闘員と言って過言では無いグール国と手を結ばなければ、脅威ではないと考えての布陣だった。


 しかし、実際には三国が手を結んだ連合軍が予想以上に手強く、しかも恐らくブゴバー軍を破った魔人族達が帝国に対する報復の先触れとして、少数の精鋭部隊を差し向けてきたようだ。


『ブググ……! 援軍をくれてやれ! ブモーガンにそのままザコ共を押し返して国を蹂躙するまで帰って来るなと伝えろ!』


『しかし、誰に救援部隊の指揮を執らせれば良いのか……』

『貴様が行け! 今すぐ!』

『ひぃ! ぎょ、御意っ!』

 ノーブルオークメイジの一人を指名したブギータスは、他の者達にも『下がれ!』と怒鳴りつけて王座の間から追い出した。


 このまま近くで顔を見ていると、癇癪を起して殺してしまいそうだったからだ。

 替えの効く女共なら兎も角、ノーブルオークメイジとなると簡単には代わりがいない。……本来なら数十人はいるのだが、殆どのメイジはブダリオン皇子を支持している。


 帝国内に残っているメイジの殆どは、ブギータスの力を恐れて渋々従っている者達だ。彼に忠誠を誓いラヴォヴィファードを奉じているメイジで帝国内に残っているのは、先程まで王座の間に居た数人だけだ。

 そのため、幾らブギータスでも簡単に殺す事は出来ない。


(どいつもこいつも使えん! 俺の【導き】で力を得ている筈なのに……奴らの頭は飾りか!?)

 そう胸中で罵ると、酒瓶を直接口に運び、ラッパ飲みする。喉が焼けるように熱くなるが、その熱さが苛立ちを鎮めてくれる。


(そうだ、便りが無いのが良い便りという言葉もある。ブディルードやブーフーディン、ブキャップから報告が無いのは、順調である証拠だ。そうに違いない)

 アルコールの見せる都合の良い妄想に頷くブギータス。


 だが、幸せな時間は終わりを告げた。


「ブヒ!?」

 【御使い降臨】を発動させた時と似た、しかしより強大な存在が自分に降りてきた感覚に、ブギータスの酔いは一瞬で消し飛ぶ。

 そして『解放の悪神』ラヴォヴィファードの神託によって、恐ろしい事態が進んでいる事を知った。


『馬鹿な……そんな強大な敵が存在するのか!? それでは俺はどうすれば!? ……そんな事が可能なのか!? それならば……勝てる! たとえ敵が【魔王の欠片】の所有者だとしても勝てるぞ!』


 ラヴォヴィファードから提示された解決策に、ブギータスは自身の必勝を確信した。




・ジョブ解説:ゴーレム創成師


 【ゴーレム錬成士】の上位ジョブ。【ゴーレム錬成士】のジョブを経験している事や、他の生産系スキルのレベル、更に新しい素材を創り出している等の条件を満たすと選択する事が出来る。

 能力値の上昇率は低いが、全ての生産系スキルに広く補正がかかる。


 ジョブ効果として魔力を消費して金属等の物質を創る事が出来るが、人間の枠を超えた魔力が無ければ使いこなすのは難しいだろう。

 ただこのジョブに就いた時点で、人間の枠を超えた魔力の持ち主である事が確実であるため、欠点とはいえないかもしれない。

9月26日に143話を、9月30日に144話を、10月4日に145話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
全方面に戦争仕掛けてたのかノーブルオーク帝国…… ヴァンダルーの介入無しでも自滅してそう
[良い点] 無限転職…
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