百四十一話 供される強肉
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何者かの襲撃によってブーフーディンが討ち死にした事を知ったガルギャは、軍に出動を命じ自ら指揮を執った。
しかし、簒奪者であるガルギャはハイコボルト国で全面的に支持されている訳では無い。ブーフーディン将軍が倒れた今、自分に忠実な者達ばかり集めたらその隙に反乱を起こされかねない。
そのためガルギャは故意に自身に対して反抗的な者達を集め、最前線に立たせた。そしてその後ろに、弓や魔術の使い手の部隊を配置した。
反抗的なハイコボルトを使い捨ての戦奴部隊にして敵に突っ込ませ、後ろからは逃げ出さないよう督戦部隊に監視させる。
『こうすれば逆らうどころか逃げ出す事も出来まい!』
奴隷で構成された戦奴部隊を使う事は境界山脈外の国家では珍しくも無いが、国家規模の戦争が長期間無かった境界山脈内では画期的なアイディアだった。
だが襲撃者達は既に城門の内側に入っている。そのため最前線に立たされた戦奴部隊は国の大通りを密集して進み、その後ろを督戦部隊とその護衛、そしてガルギャが指揮する精鋭大隊の順でガルギャ軍は進んだ。
『余程自信があるようだな。いい気に成りやがって』
何故か人型を思わせる形に変形している城門を背に、一人のノーブルオークを先頭にグール、そして少数のハイコボルトが武器を構えている。
それをハイコボルトメイジが光属性魔術で拡大した映像から見てとったガルギャは、気に食わないと唸り声を上げる。
『ガルギャ様、遠吠えにあったアラクネやエンプーサの姿がありません』
部下の一人がそう進言するが、ガルギャは鼻で笑った。
『どうせ隠れているに違いない。戦奴部隊の連中をぶつけて、炙り出せ!』
ガルギャの号令で戦奴部隊が突撃していく。ブーフーディン軍の兵隊とは違い彼等は理性を失っていない。心情的にはグール国とザナルパドナの連合軍らしい敵に味方したいのだが、背後の督戦部隊は飢えた獣に等しい連中ばかりだ。
その督戦部隊の矢や魔術を掻い潜って逃げるか、勇気を振り絞って反逆しても、家族や民の身が危ない。
士気は上がらないが、逆らう事は出来ない。
そんな状態の戦奴部隊が通り過ぎた地面から、何かがにゅっと生えた。
「……ガル?」
戦奴部隊と督戦部隊の間の地面から生えた小さな人影……ヴァンダルーの姿に思わずガルギャも目を丸くした。
戦奴部隊は背後で音も気配も無く生えてきたヴァンダルーに気がつかずにそのまま進むが、督戦部隊は驚いて一瞬動きを止めてしまった。
「壁に成れ」
そして轟音を立てて地面から高い壁が生えた。
「っ!?」
督戦部隊と更にその後方のガルギャ達本隊は、視界を高く伸びていく壁に敵軍と戦奴部隊との間を遮られてしまった。
「ガアアア!」
しかし、動揺して動きが止まったのは一瞬だった。ガルギャが、壁が出現した原因らしいヴァンダルーごと攻撃してブチ破れと、単純極まりない号令をかけたからだ。
そして血を見たくて堪らなかった督戦部隊は、嬉々として弓の弦を引き絞り、呪文を唱えた。ランク5のハイコボルトの一斉攻撃を受ければ、子供にしか見えないヴァンダルーは勿論土の壁は砕け散り、その向こうに居るはずの戦奴部隊もただでは済まないだろう。
【弓術】スキルの武技、【連続射ち】、【乱れ射ち】、【強射】。そして【石弾】や【炎弾】等の各種魔術が放たれた。
「【骸炎獄滅弾】、【冥轟雷】、【死氷牢獄】」
だが、督戦部隊の攻撃が放たれた直後に、ヴァンダルーの死霊魔術が発動した。か弱い矢や魔術を蹴散らし、巨大な黒い炎の髑髏や雷、纏わりついて温もりを根こそぎ奪う氷の触手が督戦部隊を飲み込む。
「――――っ!!」
「ギャイィィィィィン!?」
氷に飲まれて数秒で凍死できたハイコボルト達はまだ幸運だった。黒い炎に飲まれた者や雷に打たれた者は、一瞬で死ねず、しかし一目でもう助からないと分かる致命傷を負って断末魔を上げながら踊る事になったのだから。
「キャインキャイン!」
「ワウゥン! ワウウゥゥン!」
仲間の無残な死を目にした残りの督戦部隊は士気が崩壊し、逃げ出した。
約三百いた督戦部隊は、戦闘が開始してから一分と経たずに瓦解してしまった。
「……一度に大勢を、しかし素材が残るように魔術で殺すのって難しいですね」
『ドンマイです、陛下! まだ沢山います!』
『そうそう、もう一回やってみようよ! 今度は上手く行くって!』
生き物が焼ける、食欲を刺激する香りで肺を満たしたヴァンダルーが呟き、戻ってきたレビア王女とオルビアが励ます。因みに、キンバリーはまだ「ヒャッハァ~!」と逃げるハイコボルトを追い回し、感電死させるのに忙しいようだ。
後方のガルギャ率いる精鋭大隊は、今度こそ言葉を失い、棒立ちに成っていた。
「ガ……ガガ……?」
ヴァンダルーが放った三つの死霊魔術。そのどれか一つでも真面に当たれば、自分は致命傷を負う。それが本能的に分かってしまったからだ。
ランク7のハイコボルトジェネラルが【鎧術】と【盾術】の武技を発動し、更にハイコボルトメイジが魔術防御を増す付与魔術を唱えて、何とか重傷で済む。
十万年の時と共に薄れていたはずの魔物としての本能。それを取り戻し、更に肥大しているからこそ気がつく事だ。
『ぉ……怖気づくな! あれほどの高等魔術、そう何度も唱えられるものか! 壁を作りだした土属性魔術も考えれば、今ので打ち止めのはずだ!』
だがガルギャのコボルト語での指揮で、ハイコボルト達は確かにその通りだとは考え直した。
すると先程まで本能的に覚えた恐怖感は消え去り、逆にヴァンダルーに対する嘲りや侮蔑が浮かんでくる。
自分達の前に立ち塞がるのは、小さな見かけによらず高度な魔術の使い手だが既に魔力を使い果たした愚か者だと。
周囲に使い魔らしい魔物が三匹ほど浮いているが、たった三匹で何が出来る。彼等ガルギャ直属の精鋭大隊は千もいるのだ。
『さあ、役立たず共ごと奴を蹴散らし、壁を突き崩し、その向こうに居る敵を食い殺して来い!』
ガルギャの号令が下り、最低でもランク6以上のハイコボルトで構成された精鋭大隊が攻撃を開始する。
それでも武技を発動し魔術を唱えて攻撃するという念を入れたのは、彼等の中にまだ「もしかしたら」という危機感があったからだろう。
逃げ出した督戦部隊の生き残りを跳ね飛ばし、踏みつけながらヴァンダルーとその背後の壁へと迫る。
ただその頃には、ヴァンダルーは身体を【霊体化】させていた。
『では、迎撃開始』
半透明になったヴァンダルーの姿が、巨大な門のような四角形に変化する。
「ギシャアアア!」
「サムライ隊、敵を迎撃するぞ!」
「クノイチ隊も行くでござるよ!」
「うぷっ、二連続はきついっ!」
そして門と化したヴァンダルーからピート達魔物、アラクネやエンプーサ軍が怒涛の勢いで出現する。
「グルル!?」
「ギャギャワン!?」
予期せぬ大勢の敵の出現にハイコボルト達の陣形が乱れる。
「【冥雷】、【氷血死水】、【黒炎槍】」
そこに再びヴァンダルーの死霊魔術が飛び、先程よりも被害自体は少ないが更に混乱して陣形を崩すハイコボルト達にまずピートが、そしてヴァンダルー軍が突っ込む。
ハイコボルト達とて、群れで戦う事に長けた種族であり、しかもランクアップを一度以上経験した精鋭で構成された大隊である。更にガルギャが指揮している事もあって、総崩れに成る事は無かった。しかし、流れはどうしようもなくヴァンダルー側に傾いた。
「【岩砕】! って、うお!?」
体勢を崩したハイコボルトソルジャーの頭部をメイスで砕くカシムだったが、その隙を突いて別のハイコボルトソルジャーが斧の柄頭を突きいれて来る。それは辛うじて盾で受け止めたが、今度はカシムの体勢がやや崩れた。
「カシムっ!」
横で別のハイコボルトと切結ぶフェスターが仲間を助けようとするが、間に合わない。
「調子に乗るな!」
だがカシムの鎧に斧が食い込む前に、そのハイコボルトソルジャーの胸板を緑色の鎌が貫いた。
大柄なエンプーサが、鎌腕を振るってカシムを助けたのだ。
「た、助かった」
「ふんっ……男は男らしく、無理せず守りに徹していろ」
礼を言うカシムに、大柄なエンプーサ……クーネリア姫の護衛団の一員だったエンプーサバーサーカーのガオルは、不愛想に言い捨てると他のハイコボルトと切り結び始めた。
二本の鎌腕を振るい、それを掻い潜って来た敵には二本の腕にそれぞれ構えた剣と盾で身を守るガオルはハイコボルト達を押して行く。
ランクの上ではガオルもハイコボルト大隊の兵達と同じ6なのだが、ヴィダの新種族のエンプーサであるガオルはジョブにも就く事が出来る。そのため身体能力でもスキルでもハイコボルト達よりも有利だった。
しかしその心中は荒れていた。
(そうだ、弱い人種の男、それも二十年も生きていない子供のような奴らに後れを取る訳にはいかない!)
大陸南部ではドワーフやエルフ、そして人種は男でも戦闘力に劣るため、守られるべき存在に位置付けられている。
だからガオルはカシム達が自分と肩を並べて戦っている事が気に食わなかったのである。
理性ではカシム達がザナルパドナの人種達とは違い、高い戦闘技術を持ち身体能力も鍛え上げられている事は理解している。生半可な腕でどうにかなるほど、ハイコボルトは容易い相手では無い。
彼等の実力はガオルと肩を並べて戦うのに、何の問題も無い。
しかし感情ではすぐに納得できるものではない。だから苛立ってしまうのだ。それが動きに出てしまったか。
「【鉄裂】!」
重武装のハイコボルトナイトを鎌腕で斬り倒したガオルだったが、ナイトの影に小柄なハイコボルトアサシンが隠れているのを見逃してしまった。
(しまった!)
ハイコボルトアサシンは素早くガオルの鎌腕の内側に、そして剣や盾も潜り抜けて肉薄する。逆手に握った短剣が、ガオルの脇腹を薙ぐ。
「【インビジブルスラッシュ】っ」
その刹那、ハイコボルトアサシンの首が深く切り裂かれた。
「なっ!?」
「前に出過ぎだ、一旦下がろう」
何時の間にかいたゼノによって助けられたガオルは、彼の気配に気がつけなかった事に驚き言葉を失う。
そのガオルの様子を奇妙に思いながらも、ゼノはガオルの腕を掴み、そのままハイコボルトにナイフを投げて牽制しながら彼女と一緒に後ろに下がった。
「カシムを助けてくれて、ありがとな」
そして、そうガオルに言って再び戦っている仲間の元に戻って行った。彼の後姿に、ガオルはあの時たとえ自分がカシムを助けていなくても、ゼノが助けていただろう事に気がつく。
だがそれはガオルにとって重要な事では無かった。
「私は……まだ二十年も生きていない人種の男に助けられた……守られたのか」
その事実がガオルの心を大きく揺さぶるが、その衝撃は彼女の心を荒ませるものでは無かった。
ガオルがゼノの後ろ姿を見送った直後、ヴァンダルーによって造られた壁が再び轟音を響かせながら地面に戻って行った。
「余に続け、誇り高き真のハイコボルト達よ! 獣の手から国と家族を取り戻せ!」
そして戦奴部隊だったはずのハイコボルト達が加わったグール達が、ブダリオン皇子を先頭に切り込んできた。
「ウオオオオオオン!」
「ブダリオン皇子に続け! 簒奪者ガルギャを倒せ!」
ヴァンダルー達が戦っている間、壁で隔てられた向こうでブダリオン皇子が戦奴部隊のハイコボルト達を説得していたのだ。
既にブーフーディンは敗れていて、襲撃者の正体は力を取り戻したブダリオン皇子と、高ランクのグールの戦士達。エレオノーラの存在も、大陸内部では『ヴィダの寝所』を守る原種吸血鬼達からの援軍と解釈されてプラスに働いた。
そして壁の向こうから聞こえるのはガルギャの手下達の断末魔と、コボルト語では無い大勢の声。
ここまで材料が揃えば、戦奴部隊のハイコボルト達がガルギャへの恐怖から解放されるまで数分とかからなかった。
数でも質でも劣勢に立たされた事を理解したガルギャだが降伏する事も、そして逃げ出す事も出来なかった。
「グワオオオオオオン! こうなれば俺様直々に貴様を殺してやる!」
自分がしてきたことを考えれば、降伏が受け入れられるはずがない。そして逃げ出すのはガルギャのプライドが許さなかった。
(ここで逃げ出しても俺様に未来は無い! 運良く逃げられても、ラヴォヴィファードに見捨てられたら力を失っちまう!)
ならば逆転の可能性を信じて、全力で戦うまでだ。
(俺様は既にランク10! ブダリオンが力を取り戻していたとしても、俺様と互角程度の筈! だが、まず倒すのはあの正体不明の何かだ!)
豊かな獣毛を逆立たせ、ハイコボルトビーストキングに至っているガルギャはヴァンダルーに向かって駆け出した。
「ガルルル!」
「王の、邪魔、するな!」
ガルギャ軍のハイコボルト達が王自らの出陣に士気を取り戻し、ガルギャが進む道を確保するためにヴァンダルー軍に我が身を省みず襲い掛かる。
……ヴァンダルー軍が無理に阻もうとしなかった事に気がつく前に、ガルギャはヴァンダルーを視界に捉えた。
(この集団の頭はブダリオンじゃねぇっ! 貴様だ! 貴様を殺せば俺様にも勝機はある!)
「ラヴォヴィファードォ!」
【限界超越】スキルを発動し、更に【御使い降臨】スキルでラヴォヴィファードの御使いを我が身に降ろす。
そして何も出来ず立ち尽くしているように見えるヴァンダルー目がけて、【格闘術】の武技を発動させ剣よりも鋭い鉤爪を上から振り下ろした。
「グオオオン!」
「【魔王の甲羅】発動」
「グゲア!?」
だがガルギャの爪は、ヴァンダルーの皮膚から生じ全身を包んだ黒い甲羅によって阻まれた。
ガルギャの鉤爪は耳障りな音を立てて甲羅に深く傷を刻んだが、反動で腕に痺れを生じさせていた。以前の彼なら鉤爪と指の骨が砕けていたかもしれない。
(信じられネェ程硬てぇっ! だが、硬いだけなら……!)
ガルギャは反対側の手で拳を作ると、それで【格闘術】スキル7レベル以上で初めて使える武技、【透撃】を発動させた。威力そのものは強化されないが、衝撃を透過させ防具越しに直接肉体にダメージを与えられる武技だ。
大きく鈍い音と共に衝撃が届いた手応え。ひょこりと甲羅から顔を出したヴァンダルーの口元に、血が滲んでいる。ガルギャは攻略法を見つけたと、再び【透撃】を発動させる。
だが、今度は鈍い音はしても手応えは無かった。
「【魔王の甲羅】と冥銅の鎧越しにダメージを与えて来るのはちょっと驚きましたけど、1レベルの【鎧術】で【石体】を発動させたら、完全に防げる程度ですか。
それで、他にもっとパワーアップする手段ってあります?」
一撃目の後、甲羅の内側で液体金属の鎧を纏い【鎧術】の、甲羅を盾に見立てて【盾術】の武技を発動させたヴァンダルーは実験を行う研究者の目でガルギャを見つめた。
「ヒュッ……グルアアアア!」
その瞳に得体の知れない何かを見てしまったガルギャは、付与魔術で拳に炎を纏わせ、そして何度も何度もヴァンダルーに向かって【透撃】を振り下ろし続けた。
その爪は、ドラゴンでも肉塊にしかねない威力があったかもしれない。
「アァァァァァァ!」
だがそれを繰り出すガルギャの姿は、怯えた子供が恐怖の対象に対して滅茶苦茶に腕を振り回している光景を連想させた。
それはガルギャの怯えた様子以外にも、その攻撃が何の意味も無い事が誰の目にも明らかだったからだ。
「……ああ、別にパワーアップする方法が無いなら無理しなくていいのですよ? 隠し技とか奥の手も、無いみたいですね」
拳がぶつかる度に甲羅が大きな音を立てるが、その程度でヴァンダルーは涼しい顔をしていた。
高等武技を発動させて攻撃したのに、血反吐を少々吐かせる程度しかダメージを負わせられなかったのだ。
その後、防御態勢をより固めたヴァンダルーに対して、簡単な付与魔術をかけた以外は同じ攻撃を繰り返して劇的に何かが変わる訳がない。
(【危険感知:死】に反応が無いのは分かっていたけれど、この程度か)
【限界超越】スキルの効果が切れたのか、目に見えて動きが鈍くなるガルギャ。それに対してヴァンダルーはもう用は無いと、【魔王の血】と【魔王の角】を発動させた。
「ファイエル」
甲羅の隙間から出現した、筒状に凝固した【魔王の血】の銃口から発射された【魔王の角】製弾丸が、ガルギャの下腹から入り肩から抜ける。
ガルギャの後方に在る建物や、その中に居るかもしれない人達へ配慮した一撃だった。
「ギャバァン!?」
『――――!』
ガルギャと、何かの絶叫が響く。ガルギャの全身から発散されていた御使いの存在感が消え、どす黒い血を口と傷から吐き出しながらよろめき、仰向けに倒れる。
「【魂砕き】スキルを使うと、【御使い降臨】中の御使いも殺せるみたいですね。うん、これは収穫」
実験結果に満足したヴァンダルーは、息も絶え絶えの様子のガルギャの四肢を【魔王の角】で串刺しにする。
絶叫と血飛沫が上がるが、ヴァンダルーはそれを無視して後ろを振り返った。
「カシム、フェスター、ゼノ。どーぞー」
準備万端、瀕死の経験値の元を用意されたカシム達は若干口元を引き攣らせた。
「本当に良いのか? 俺達で。これ、ヴァンダルーが倒した方が手柄に成るんじゃないのか?」
「まあ、確かに最近ぶつかった壁が厚くて、レベルが上がり難いとは言ったけどさー……幾らなんでも酷いような気がしなくもないぜ?」
カシム達三人はC級冒険者相当にまで実力を高めたが、そこで誰もがぶつかる試練、レベルやスキルが極端に上がり難くなる通称壁にぶつかっていたのだ。
この壁を超える一般的な方法は、壁を超えるまで地道に諦めず経験を積み続ける事。
ただ、裏技として自分達の実力を大きく超える魔物を倒して大量の経験値を獲得し、強引に壁を突破する方法がある。普通はそんな裏技、実行する事は出来ない。
だがヴァンダルーはカシム達にその裏技を、ガルギャを使って実行させるつもりだった。
「気にしないでください。どのみち俺が直接倒しても経験値は手に入らないので」
「呪いのせいか。じゃあ、お言葉に甘えて倒そう。カシム、フェスター」
「じゃあ、遠慮無く」
「ああ、恩に着るぜ」
一方、四肢と口を封じられた瀕死のガルギャはヴァンダルー達のやり取りを聞いて、気が狂うような屈辱感に苛まれた。
(この俺様が! ラヴォヴィファードの加護を得てっ、真の王に成るべきこの俺様がっ! 人種の小僧共の餌だと!?)
ヴァンダルーに殺されるかと恐怖に震えていたら、それ以上の惨い最期が迫っていると気がついたガルギャは、血が沸騰しそうになった。
強い奴に殺されるのなら、まだ納得はできる。彼が正しいと信じた、弱肉強食のルールの内だからだ。だが、自分より明らかに弱い奴の経験値に成るなんて耐えられない。
(フザケルな小僧共がぁぁぁ!)
怒りのあまり串刺しにされた四肢を振るわせ、凝固した【魔王の血】越しに不明瞭な唸り声を上げるガルギャ。
「あ、こいつ痙攣してるぞ! ヤバイっ、早く止めを刺さないと!」
しかし、それをフェスターはガルギャが死の間際の痙攣を始めたと勘違いした。
「よし、同時に行くぞ!」
「せー、のっ!」
そしてヴァンダルーがフェスターの勘違いを訂正しなかったので、ガルギャに長剣とメイス、ナイフが振り下ろされる。
「弱肉強食なんて、こんなもの。強者が弱者を喰らう際のマナーが悪くても、誰も注意しませんよ。
では皆さん、残党狩りを始めましょうか」
ハイコボルト達が邪悪な簒奪者の死に歓声を上げ、そのまま武器を掲げて逃げ散った督戦部隊や精鋭大隊の生き残りを狩るためにグール達と駆けていく。
ハイコボルト達にとって元々は同じ国の仲間だった者達だが、同時に彼等は親兄弟を殺した裏切り者だ。それに、簒奪者を倒したといっても国が元通りに再興された訳じゃない。
国力が減退している状態で、危険分子を生かしておく余裕は無い。
それに、生き延びた者が新たにラヴォヴィファードの加護を得て第二第三のガルギャに成らないとも限らないのだ。
「ほら、ヴァンダルー様、口元を拭いて。幾らブギータスと戦う前にラヴォヴィファードの加護を獲得している敵の力を試したかったからって、無茶し過ぎよ」
「それより先に甲羅から出さないとダメだろう。ところでギザニアとミューゼは何処だ?」
「二人ならブダリオン皇子やハイコボルト達の一部と城に行ったようじゃよ」
エレオノーラに口元を拭かれ、バスディアに甲羅からすぽんっと引き抜かれたヴァンダルーは、ザディリスの言葉にはっとした。
「カシム、早く城へ行ってください。大至急です」
「えっ!?」
急激なレベルアップの快感に酔っていたカシムは、突然名指しで指示されて驚いて聞き返した。
「な、何で俺が? 俺、ハイコボルトの人達の顔の見分けもつかないんだぞ!? 誰かと知り合いって訳でもないし、行く意味があるのか?」
「いいから行ってください。ダッシュで」
「カシム、ヴァンダルーがここまで言うんだ。きっと何か意味がある!」
「よし、行こうぜ皆! ダッシュで!」
戸惑うカシムだったが、ゼノとフェスターに引っ張られるようにして城へ走って行った。
「……フェスターは行かない方が良かったんじゃないの?」
「まあ、大丈夫じゃろう。ヴィガロがグール国での二の舞を恐れてノーブルオークの解体に専念している今がチャンスじゃ」
ヴァンダルーは三人の後ろ姿を見つめながら、カシムに出会いがあるようにと祈った。
「ヴァン。普通にお見合いというものをセッティングした方がいいんじゃないか?」
バスディアの言葉を聞いて、「そう言えばそうかも」と言いながら。
《【従属強化】、【ゴーレム創成】、【同時発動】、【連携】、【指揮】、【装植術】、【死霊魔術】、【装蟲術】、【砲術】、【鎧術】、【盾術】、【神殺し】のレベルが上がりました!》
・名前:カシム
・種族:人種
・年齢:18
・二つ名:無し
・ジョブ:超重戦士
・レベル:35
・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、重戦士、守護戦士
・パッシブスキル
体力増強:6Lv(UP!)
生命力増強:6Lv(UP!)
暗視(NEW!)
痛覚耐性:3Lv(NEW!)
病毒耐性:2Lv(NEW!)
金属鎧装備時防御力増強:中(NEW!)
盾装備時防御力強化:小(NEW!)
気配感知:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
農業:1Lv
棍術:5Lv(UP!)
盾術:6Lv(UP!)
鎧術:6Lv(UP!)
限界突破:4Lv(NEW!)
魔盾限界突破:1Lv(NEW!)
格闘術:1Lv(NEW!)
・名前:ゼノ
・種族:人種
・年齢:18
・二つ名:無し
・ジョブ:短剣使い
・レベル:37
・ジョブ履歴:見習い盗賊、盗賊、暗殺者、探索者
・パッシブスキル
気配感知:5Lv(UP!)
直感:4Lv(UP!)
暗視(NEW!)
病毒耐性:4LV(NEW!)
短剣装備時攻撃力強化:中(NEW!)
・アクティブスキル
短剣術:6Lv(UP!)
弓術:3Lv(UP!)
罠:4Lv(UP!)
忍び足:5Lv(UP!)
解体:2Lv(UP!)
開錠:2Lv(UP!)
投擲術:1Lv(NEW!)
鎧術:3Lv(NEW!)
暗殺術:3Lv(NEW!)
・名前:フェスター
・種族:人種
・年齢:18
・二つ名:無し
・ジョブ:魔剣士
・レベル:29
・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、剣士、魔剣使い
・パッシブスキル
筋力強化:4Lv(UP!)
暗視(NEW!)
剣装備時攻撃力強化:中(NEW!)
・アクティブスキル
漁業:1Lv
剣術:6Lv(UP!)
解体:1Lv
鎧術:4Lv(UP!)
限界突破:5Lv(UP!)
魔剣限界突破:3Lv(NEW!)
無属性魔術:1Lv(NEW!)
魔術制御:1Lv(NEW!)
すみません、主人公のジョブチェンジは次話に成ってしまいました。
9月22日に142話、26日に143話、30日に144話を投稿する予定です。




