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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第七章 南部進出編
161/515

百三十話 南部進出の初日、森の端で蜘蛛さんに出会った

 沼沢地の更に南にある、ノーブルオークの帝国への対処のため、一週間の準備期間を終えて参加メンバーを発表する事と成った。

 まずヴァンダルー、そして【死霊魔術】に協力して貰うゴーストの面々に、【装植術】や【装蟲術】で装備する面々。


 魔物に騎乗できるオーカスで構成された、ゴーバ率いる黒牙騎士団合計十名と十匹。

 ランクアップしゾンビエピックヒーローに成った、『剣王』ボークス。

 同じくランクアップに成功したザディリスとヴィガロ、バスディア。

 そして骨人とランク10にランクアップする事に成功したエレオノーラである。


 別に戦争になると決まった訳でも無いので、特に出発式等は行われなかった。……気分的に盛り上がり過ぎて勢いそのまま突撃したら困るからだ。

『そう言えば、他国に正面から攻め込むのはこれが初めてだぜ! これまで攻め込まれてばかりだったし、ハートナー公爵領の時は、正面からじゃなかったからな!』

『攻め込む訳じゃありませんよ、ボークス。まず様子を見て、話し合いです』


 しなくても物騒な事を言ってレビア王女に窘められているので、下手に式典をしたら大変な事に成っていただろう。

『私達は陛下君達が留守の間、頑張って強く成っておくから、次の機会によろしくね』

『次の機会って言ってもそうそう無いと思うけど』

 ジーナとザンディアはボークスとザディリスが抜けた後もレベリングを続けるようだ。ザンディアは大分生前の力を取り戻しているが、ジーナはまだまだ取り戻しきれていないらしい。


「何故それに私が付き合うのだね!? B級ダンジョンになんて入ったら死んでしまう!」

 そのジーナに猫の子のように襟首を掴まれているルチリアーノが青い顔をして叫んでいた。

『えーと、覗いた責任を取るため? ほら、私、嫁入り前だし?』

「それは抑えきれない学術的興味故であって、しかも手術着一枚で師匠片手に飛び出してきたのは君じゃないか!?」


 しかもその際肋骨を何本も踏み折られているルチリアーノとしては、納得がいかないようだ。

『ザディリスさんが抜けるので、パーティーに魔術師が足りないんですよ。カチアさんにも声をかけましたけど、B級ダンジョンだと話したら『死んじゃうから堪忍して』って』

「私だって死ぬと言っているだろう!?」

『え~、ルチリアーノさんは元C級冒険者じゃないですか。元D級のカチアさんより行けますよ』

「今は明らかに彼女の方が強いだろう! 確かに彼女より『逝けて』しまうだろうがね!」


 元C級冒険者の、しかもあまり戦闘向きでは無い冒険者のルチリアーノにとってB級ダンジョンに足を踏み入れる事は自殺に等しい行為だ。そのダンジョンの攻略経験があるB級やA級の冒険者で構成されたパーティーに、援護や荷物持ち担当で参加して戦闘で出来るだけ矢面に立たないなら、生還する事は可能だ。

 しかし、ジーナとザンディアはまだ生前の力を取り戻していない。リタとサリアも加わるが、まだ不安があるようだ。


「浅い階層ならB級ダンジョンでも難易度はC級ダンジョンと変わりませんから、大丈夫ですよ。ルチリアーノが慣れるまで深い階層に行っちゃダメですよ」

『はーい』

「いや、師匠、そもそも私はレベリングよりも研究をしていたいのだが――」


「間近でジーナ達が戦っている様子が見られるのだから、良いじゃないですか」

「むぅ……貴重なデータ収集の場だと考えれば、偶にはフィールドワークも悪くないか」

 こうしてルチリアーノも納得したのだった。


「見ろ、バスディア。我達の新たなライバルだ」

「ヴィガロのライバルと言っていいのか少し微妙だが、確かに私にとってはライバルだな」

 そのジーナ達の様子を二対四本の腕を組んでみているランク9、グールアークタイラントにランクアップして額に第三の目が出現したヴィガロ。そしてランク8、グールアマゾネスジェロニモにランクアップしたバスディアが見つめている。


「何故だ? あの上腕二頭筋と深く割れた腹筋、逞しい広背筋、僧帽筋に、我のそれは劣ると言うのか?」

 どうやら、ヴィガロはライバルと断言した相手の性別は無視するらしい。

 ランクアップして王者の風格を漂わせるようになったヴィガロだが、その逞しい肉体美をもってしてもジーナのそれは脅威に映るらしい。……量では負けているし。


「劣るとは思わないが、何故と言われても、彼女は女で戦士だ。どちらかと言えば、私のライバルなのが道理だろう」

 ランクアップしても外見の変化は肌に浮き出た模様が少し変わった程度のバスディアだが、やはりその風格は大したものだ。ヴィガロ程ではないが、ジェロニモ(長老)の名を冠する種族にランクアップしただけの事は在る。


 その肉体はジーナと比べても遜色ない程逞しく力強い筋肉をつけながら、女性らしい豊かな曲線と艶を両立させている。

 サイドチェストやモスト・マスキュラーのポーズをとっても、ジーナに劣るものではないだろう。


「それは確かに。負けるなよ」

「勿論だ。ジャダルの弟か妹の父親はヴァンだからな」

 まるで認め合った戦友同士のように頷き合うヴィガロとバスディア。当人達も忘れているだろうが、この二人は父と娘である。バスディアが集落全体で子供を育てた時代の生まれなので産んだ女親は兎も角、父親の方は自覚が薄い。


 そのせいかヴィガロとバスディアは父と娘ではなく、戦士長と年若い戦士という関係としてお互いを認識しているようで、それを変えようとは思わないようだ。


 尚、当然ながら二人がライバル視しているのはジーナ達では無く、ジーナ個人である。

「母さんもザンディアに負けないように頑張るんだぞ」

「ザディリス、ヴァンダルーとの付き合いが長く、人工呼吸もしたお前なら、ザンディアには負けないだろう。我が保証する」


「別に儂はザンディアをライバル視しとらんと、何度言えば分かるのじゃ!」

 もう一人のザンディアは、むっとした様子で言い返すザディリスのライバルだと思っているからである。


「確かに名前は似ておるっ! 体つきが幼いのも認めよう! 魔術の腕では適性の多いザンディアの方が有利である事も、否定はせん。

 しかし、別に争う必要などないじゃろうが。魔術の腕だけならば兎も角……儂らに将来は無いのじゃからな」


 最初は威勢良く言葉を発していたザディリスが、肩を落とす。最初に子供を妊娠した時期で外見年齢が止まるグールの彼女と、ゾンビ化しているザンディアには、肉体的な成長性の意味で将来は闇に閉ざされているのだった。

『いや、えーっと、ランクアップすれば変わるかもしれないよ?』

 そこにザンディア本人が口を挟む。


『グールの君がそれ以上ランクアップするとどんな姿になるかは分からないけど、目や腕が増えるくらいだし、外見が成長するくらいあるんじゃないかな? それに私だって、ランクアップすればバインバインに――』

「そうかっ、ランクアップと言う可能性があったか! おおザンディアっ、礼を言う。お主は心の友じゃ!」

『よ、喜んでくれて嬉しいよ』


 喜んでいるザディリスだが、ザンディア達のレベリングに付き合った事もあって、ランク9のグールハイウィザードにランクアップしていたので、次のランクアップは当分先になるだろう。


「何はともあれ、ブゴガンが追放された国だからな。ブゴガン並のノーブルオークも珍しくないだろう。立ち塞がるなら次々に狩ってやろう」

「私達も強くなったからな。カチア達も、『逆らうならやっちゃえ』と言っていたし」


 約六年前ノーブルオークのブゴガン率いるオークの軍勢と戦っていた時とは、比べ物にならない程皆強くなっている。今ならヴィガロやザディリス、バスディアでも当時のブゴガン程度なら危なげなく勝つ事が出来るだろう。


 一方、そんなザディリス達を余所にヴァンダルーは皆と暫しの別れを惜しまれていた。

『ヴァンダルー、ハンカチは持った? 血を飲んだ後は口元を袖じゃなくてハンカチで拭くのよ。後、幾ら【状態異常耐性】があるからって、内臓は生で食べちゃダメよ。寝惚けて身体を置いて霊体だけで起きださないよう気をつけるのよ』

「はい、母さん。ところで俺、何日か毎に戻ってくる予定なのですけど」


「旦那様、僭越ながら留守の間は我々がダルシア様をお守りいたします」

「ううっ、暫しのお別れですわね。名残惜しいですわ」

『ふぅ、暫く坊ちゃん成分を貯めておかないと』

『足りなくなると、なんだか落ち着かなくなるんですよね、坊ちゃん分』

『あ、坊ちゃん。娘達だけでは無く私も宜しいですか?』


「ヴァンっ、ちゃんと帰って来ないとダメだからね」

「ヴァン君っ、向こうで足の多い人を見つけても、ボクがいる事を忘れちゃダメだよ! ボクの脚には吸盤もあるんだからね!」

『おちつ、け』

『『『どうどう』』』


『皆、アンデッド……主との間は私達が瞬間移動で往復するから、なんなら毎日でも帰って来る事が出来るのよ? 説明したわよね?』

 レギオンがそう言うが、一度盛り上がってしまった別れの雰囲気は中々変わらないようだ。


「ゴーバ、行って来い。留守任せろ。転生者来たら、皆倒す」

「俺達もいる。タロスヘイムは万全だ」

「ブラガ、ゼメド、メメディガ、俺の家族を頼む」

「任せて!」


 ゴーバは、同じ時期に生まれ以後兄弟のように育ったブラックゴブリンのブラガ、アヌビスのゼメドとメメディガと平和に暫しの別れを惜しんでいた。




「留守番の貴女に代わって、しっかりヴァンダルー様にお仕えするから安心して。留守番の貴女に代わって」

『まあ、頼もしいわ。元上司の貴女なら安心ね。今は部下も居なくて身軽に成った事だし』

 笑顔で握手を交わすエレオノーラとアイラ。張り付いたような笑顔、笑っていない瞳、ミシミシゴキボキと聞こえてくる音……心温まらない光景である。


「これも強敵と書いて友と読む関係故かな?」

『おぉぉん?』

 そんな事を言うヴァンダルーに、砦と化しているクノッヘンが不思議そうな鳴き声を上げる。


 黒牙騎士団を始め重量級のメンバーが多いので、ヴァンダルーが霊体を怪鳥の形にして飛んでも一度では運べない。そして何より正確なノーブルオーク帝国の場所が分からないため、まずはこのクノッヘン砦が活動の拠点となる。

 リザードマンとノーブルオークは長年没交渉だったため、誰も帝国がある正確な位置を知らないためだ。


 死属性魔術で作る透明な、空を飛ぶ髑髏型の使い魔『レムルース』や、蟲アンデッドを放ち、空から偵察すれば、多分数日とかからず見つける事が出来るだろう。東西が境界山脈に挟まれている大陸南部で、三メートルの巨体を誇るノーブルオークの帝国は目立つはずだ。

 ただ、その偵察に気がつかれると即敵対行為と取られかねない。


 勘が鋭い魔物はレムルースや蟲アンデッドに気がつく事がある。この魔物が跋扈する大陸南部で十万年以上帝国を維持しているノーブルオーク達なら、十分察知する可能性がある。

 ノーブルオーク帝国の周囲にどんな魔物が生息しているのか不明だが、身体を透明に出来る魔物もいるかもしれない。いるなら、その魔物の侵入を防ぐ仕組みがあるのが当然だ。


 それで関係が険悪になり、戦争になってから「実は良いオークだった」と解ったら拙すぎる。

 だからヴァンダルー達が偵察に出て、アイラ率いる闇夜騎士団はこのクノッヘン砦で魔物の侵入を警戒する予定なのである。


『だけどオリハルコン頼みの素人剣術じゃ心配ねぇ。ちゃんとお稽古出来たのかしら、エレオノーラお嬢ちゃん?』

「大丈夫よ、ご自慢の剣を素人剣術で防がれて首を落とされたアイラおばさんに心配されないように、しっかりレベリングしたから」

 抑えきれず、周囲に殺気を振りまき始めたアイラとエレオノーラ。ここまで来たら一度殴り合いでもした方が、すっきりした関係を築けるのではないだろうかとヴァンダルーは思うのだが、何故か握手の姿勢を保ったままお互いの手を握り潰そうとしながら、心理戦を繰り広げている。


 お互い【怪力】スキル持ちで猛獣の頭蓋骨を握り潰せる握力の持ち主だが、同時に【高速再生】スキル持ちでもあるので、どちらかの手が完全に潰れても数時間で治る。

 ただ逆に言うと数時間は利き腕が使用できなくなるため、お互いにそれは避けようとしているらしい。


『アイラ殿、私のリオーをよろしくお願いいたします。偶に鱗を磨いてやると喜ぶので。しかし、口の中に手を入れると噛み千切られますのでご注意を』

 乗騎だが沼沢地や水辺以外での活動に向かないリオーを置いて行く骨人がアイラに世話を頼んでいるが、エレオノーラとの戦いに忙しい彼女の耳にはあまり届いてないらしい。


 ヴァンダルーはいがみ合う二人を止めるべく、口を開いた。

「魔術無し武技無し飛行無し、先にダウンを取った方が勝ち。ファイッ」

 途端、本格的に両手でがっしりと組み合うエレオノーラとアイラ。下半身では相手の体勢を崩そうと、足払いの掛け合いを始める。


 ヒグマどころか恐竜を殴殺出来る力が込められた、柔道に似た美女同士の戦いが始まった。


『ヂュ? 主、普通止めるのでは?』

「一度決着が着けば、暫くは二人共冷静に成るでしょうから」

『おぉん……』

 戦いの舞台にされたクノッヘンが若干迷惑そうだが、彼を構成する骨は並の石材よりもずっと丈夫なので問題無いだろう。


 そのまま二人の戦いを暫く見守っていたヴァンダルー達だったが、ふと風に混じる血の臭いを感じた。

「ちょっと血の臭いがしますね」

『魔物の小競り合いか、ゴブリンが共食いでも始めたのかと』

 環境が異なる沼沢地に入ってくる魔物は極少数だが、近くに生息している魔物同士が殺し合う事は珍しくない。


 その際の咆哮や断末魔の悲鳴がクノッヘン砦に届く事は、日常茶飯事である。一応その度にクノッヘンの分身スケルトンや、闇夜騎士団のヴァンパイアゾンビが様子を見に行くのだが、現時点では帝国とは関係の無い魔物が狩りをしているだけで収穫はほぼ無い。


 ヴァンダルーも霊を幾つか回収したが、知能が低く生活していた範囲も狭くてノーブルオーク帝国の手がかりには成らなかった。

 普通なら確認作業は今まで通り、クノッヘンと闇夜騎士団に任せただろう。


「……妙な胸騒ぎがする」

 しかしヴァンダルーは血の臭いを嗅いでから、不自然に落ち着かない気分になった。原因不明の危機感を覚えて、焦燥に駆られる。

 【直感】スキルは無いし、【危険感知:死】とも異なる反応なのだが。


「ちょっと見てきます」

『ヂュ!? 主自ら!?』

「ちょっ、ちょっとヴァンダルー様っ、危険よ!」

『そうですっ! 我々にお任せください!』


 慌てる骨人の声で状況を察知したエレオノーラとアイラが組み合ったまま振り返るが、その時にはヴァンダルーは【飛行】で空中に浮かびあがっていた。

「大丈夫ですよ、俺は常に一人ではありません」

そう言った途端、ヴァンダルーの周囲にレビア王女やオルビア、キンバリーが姿を現す。


「そう言えばそうだったわね。何かあったら戻って来るのよ」

『ヂュウ、一応ヴィガロ達には声をかけておきます』

 そう言えばそうかと落ち着いて見送る三人。ヴァンダルーは「はーい」と返事をしながら、砦から飛び出して行った。


『でも陛下、まだ何があるか分からないので【死霊魔術】を含めた【死属性魔術】は隠した方が良いのではないでしょうか?』

『ノーブルオークってのは、オークと違い人間並みに知恵が回る魔物ですからねぇ。万が一の事態を考えて、あっしも情報は隠すべきだと思いますぜ』

『えー? 面倒じゃない? そう言うもんなの?』


「そう言うものらしいですよ、オルビア。では、レビア王女とキンバリーの助言に従って……ピート、キュール、アイゼン、よろしくお願いします」




「ブギィ!」

「ブッホホホホ!」

 下卑た笑い声を上げる残り十匹ほどの敵を両目と複眼で認めながら、ギザニアは苦笑いを浮かべた。


「ブケッ、ブコ……我々は貴様にまんまとしてやられたと言う訳だな」

 敵の指揮官、一匹のノーブルオークが喉の調子を整えると、オークでは無く人の言葉でギザニアに話しかけてきた。

「我らが神ラヴォヴィファードのご指示により、貴様等が沼沢地のトカゲ共を戦に巻き込もうと使者を送る事に気がつき、急ぎ襲撃をかけたが……手勢の三分の二を失い、肝心のクーネリア姫に逃げられるとは。貴様等の一族に伝わるという秘薬を侮ったわ」


 忌々しげに、しかし興奮を完全には抑えられない様子のノーブルオーク。ギザニアはそれに淡々と応えた。

「我等一族を舐めるからだ。ノーブルオークは貴様一人、他は多少使い物になる程度の練度でしかないオークやコボルトばかりでは、当然の結果だ。

 力を誇っても、所詮は簒奪者。志のある将兵はいないと見える」


「貴様っ!? ブギータス新皇帝陛下を愚弄するブギィィィィ!?」

 途端、面白い程激高するノーブルオーク。茸を想わせる形に生えた金髪が、今にも逆立ちそうだ。

「フゴオオオオっ! せめて名誉ある死を与えてやろうと思ったが、貴様は嬲り殺される事がお望みのようだな! 腕と全ての脚を切り落として、死ぬまで犯してくれるわ!」


 ノーブルオークが唾を飛ばして叫んだオーク語混じりの怒声に、周囲の生き残ったオーク達が歓声をあげる。その目は欲望で血走っていた。

(秘薬の効果とは言え、効きすぎだな)

 ギザニアは内心でそう呟きながら、挑発的な笑みを浮かべようとして……口元が引き攣って上手く出来ない。


 秘薬を使ってノーブルオーク達を自分に惹き付け、クーネリア姫達から引き剥がす事に成功した。しかもここまで惹き付けながら罠にかけ、一匹で駆け寄ってきたところを返り討ちにして、敵の数を大分減らした。

 だが代償に右側の脚を全て失い、左腕も折られている。もう戦えない以上、まだ残っている秘薬の効果を活かして、自分の身体で時間を稼ぐしかないだろう。


 どんなに無残な最期であろうとも、一族はこの献身を褒めてくれるだろう。誇り高い最期だと、記憶してくれるに違いない。

 だが……悔しいし、怖い事は否定しきれない。

 これから自分の身に起こる事を考えればいっそ自害したいくらいだが、幾らオークでも死体に盛りはしないだろう。


「こんな事なら、母上に言われたように相手を選んでおくべきだったかな。だが、ただではやられん!」

「いい度胸だ! 生き残ったのなら良い母体になるだろう! や――」

 ノーブルオークがギザニアにオーク達をけしかけようと号令を下そうとしたその時、丁度二人の間に在った茂みから巨大な黒い角を生やした百足の頭が現れた。


「ちょっとすみませーん」

 そして話しかけてきた。

「「えっ? はっ?」」

 思わずお互いに顔を見合わせ、困惑するギザニアとノーブルオーク。他のオーク達も欲望に血走っていた目を丸くして、瞬かせている。


 それに構わず大百足……ピートの腹にくっついているヴァンダルーは質問した。

「一応確認しておきますが、そちらの満身創痍の方はアラクネ族の方で、あなたはノーブルオークの方ですよね?」

 ヴァンダルーは言葉を話すノーブルオークと、巨大な出刃包丁に似た形の巨大剣を杖のようにして立つ、満身創痍の蜘蛛の下半身を持つヴィダの新種族、アラクネのギザニアを交互に見た。


「事情は分かりませんが、会話を盗み聞いて判断した結果、アラクネの方の方を助けようと思いますが……問題ありませんよね?」

 もしかしたらギザニアが凶悪な犯罪者で、このノーブルオークが真面目な豚のお巡りさんかもしれないので念のために聞いてみる。


 こんな事を聞いて、答えが返って来る訳ないと思うかもしれない。


「な、何だこいつは!? ヴィダに与する神を信仰する奴らがテイムした魔物か!?」

 意外な事に、答えが返って来た。

「どちらが善か悪かはさて置いて、どちらを倒すべきかは分かりました」

 とりあえず『ヴィダの御子』なのだから、ヴィダの信者と敵対する魔物と戦っても問題無いだろう。


「ギシャアアアアア!」

 ピートが牙を剥いて咆哮を上げ、角に稲光を纏わせた。




・名前:ヴィガロ

・ランク:9

・種族:グールアークタイラント

・レベル:1

・ジョブ:大斧豪

・ジョブレベル:11

・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、斧士、斧豪、魔斧使い

・年齢:172歳


・パッシブスキル

闇視(暗視から変化!)

怪力:9Lv(UP!)

痛覚耐性:5Lv(UP!)

麻痺毒分泌(爪):4Lv(UP!)

斧装備時能力値強化:大(UP!)

魔術耐性:2Lv(NEW!)

精力絶倫:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

斧術:10Lv(UP!)

格闘術:6Lv(UP!)

指揮:5Lv(UP!)

連携:6Lv(UP!)

伐採:3Lv(UP!)

解体:2Lv(UP!)

盾術:3Lv(UP!)

限界突破:4Lv(NEW!)

魔斧限界突破:3Lv(NEW!)

並列思考:3Lv(NEW!)




・魔物解説:グールアークタイラント


 冒険者ギルドの記録にはその名しか記されておらず、魔術師ギルドに収められた古文書に多少記述が存在するのみの魔物。

 グールタイラントの中でも特に偉大な個体が複数確認されると、その中で最も優れた一体が額に目をモチーフにした刺青を入れる儀式を行い、頂点に立つと記されている。


 以上の情報からグールアークタイラントは概念上の存在で、実際には他のグールタイラントの中でも特別に強力な個体を見間違えただけだとされている。


 当然、実際の目撃例は無い。




・ジョブ解説:大斧豪


 斧使い系のジョブの頂点に存在するジョブ。歴史上このジョブに就ける斧使いは全員が歴史に名を残しているとされる。

 貴族であれば武勇で国の内外に名を轟かし、冒険者であればA級以上に在るのが当然である。

8月17日に閑話21 21日に131話、22日に132話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大斧豪、 同じカード4枚で革命が起きるのですね。
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