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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第六章 転生者騒動編
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百二十八話 跳ねる肉球

 カレーを皆で食べ終わった後、ヴァンダルーはイリス達に滅ぼしたはずの【デスサイズ】を除く転生者達の情報を渡し、注意する様にと伝えた。

 それぞれが持つチート能力と、得意とする属性魔術、各人の名前。そして転生者達の共通点だ。


 チート能力に関してはユニークスキルのような物だと説明すると、『ラムダ』では大体通じる。そしてどんなに不可思議で常識はずれなチート能力でも、大抵は「そういうユニークスキルだから」と説明すると「ユニークスキルなら仕方ない」と納得してくれるので便利だ。

 これは実際、過去に理屈や常識を無視するようなユニークスキルが確認されているからだ。


 転生者達がそれぞれ得意とする属性魔術も教えたのは、転生者達がチート能力を【グングニル】のカナタの様に乱発せずに隠した場合、その代わりに魔術を使うのではないかと思ったからだ。

 転生者達はヴァンダルーとは違い『オリジン』で培った経験と知識、技術を転生した瞬間からスキルとして獲得出来るらしい。

 だが大人の身体で転生してくる場合チート能力以外で頼りにするのは、武術では無く魔術の筈だ。


 転生者達は『オリジン』で軍隊式の訓練を受け、銃の扱いは勿論様々な戦闘技術を身につけている。海藤カナタも【投擲術】や【格闘術】スキルを身につけていた。

 ただ、レギオンによるとこれまで死んだ『ブレイバーズ』の中に武術の達人は存在しないらしい。


 彼等はそれなりに高いレベルで軍隊式格闘術やナイフの扱いを習得しているが、多くは「普通のプロ」でしかないらしい。『ラムダ』でのスキルレベルに直すと、大体5から6程度か。

 例外は【メイジマッシャー】の三波浅黄と、【オーディン】の狭間田彰ぐらいらしい。


 『オリジン』では武技が存在しないため、どうしても武術は様々な点で魔術に劣る。特に銃や爆弾等の近代兵器が存在するため、尚更だ。

 それでも『オリジン』にも武術の達人は存在するが……チート能力を与えられた転生者の多くはそうした達人を目指すよりも、チート能力と魔術の研鑽を積む事を選んだのだろう。


 そして『ラムダ』では銃も爆弾も存在しない。……黒色火薬くらいなら転生者達も作れるかもしれないが、それをやったら「俺は転生者です」と看板を掲げるような物だ。

 それに元アルダ信者のイリスによると、アルダ教では勇者ベルウッドの名で『燃える黒い粉』の作成と使用を禁忌に指定しているそうだ。……実際に作った者が十万年間一度も出ていないため、古く分厚い聖典にしか記載されていない、殆ど忘れ去られた禁忌らしいが。


 そしてロドコルテは転生者達に魔術の素質や適性を与える事は出来るが、経験を直接与える事は出来ない。そうでなければ、転生者達を『オリジン』へ一度転生させた意味が無いからだ。

 だから転生者達が突然新たな属性魔術の達人に成る事は無い。


 近代兵器に頼らず、武技も使えない転生者達が『ラムダ』で活動するには魔術を、それも『オリジン』で培った各人が得意とする属性魔術を使うしかないのだ。


「しかし、名前は意味があるのでしょうか? 生まれ変わって来るのなら、その際に新しい名前がつけられるのでは?」

「イリスの言う事も尤もですが、それは赤ん坊から生まれ直す場合です。大人の身体でやって来る場合は、名前も前世と同じ物になるはず。

 名前は簡単に変えられる物では無いのは、聞きましたし」


 『ラムダ』では地球の様に手続きを踏めば改名できる訳では無い。何故なら、ステータスで表示されるのはその人が本名だと認識する名前だけだからだ。

 しかも『ラムダ』で長期間活動するのに必要に成る身分証の登録は、本名でなければならない。口先だけの偽名で登録しようとしても、マジックアイテムを使用してのカード発行の時点でばれてしまう。


 転生者の中には、明らかに日本に居た時と名前が異なる者もいるが……赤ん坊からやり直しもせず急に名前に関する認識を変えられる物ではないだろう。


「なるほど。ですが、顔を教えてもらえないのは何故ですかい?」

「体や、多分種族は変える事が出来るからです。後、年齢で結構顔つきが変わりますし」

 ヴァンダルーが【千里眼】の天道達也を【深淵】スキルで見つめ返した際、魂だけの転生者達の姿をほぼ一通り見た。


 その姿は、レギオンからの情報があったからこそ特定できたものの、地球での記憶だけだったら絶対見分けられなかっただろう。

 人しか居ない『オリジン』でそれなのだから、異種族が存在する『ラムダ』ではどうなるか分かったものでは無い。

 体格が人種に近いエルフならまだしも、体格が大きく異なるドワーフや、獣の特徴を宿す獣人種、竜人等にでも転生されたら見た目だけで見分ける事は絶対に無理だろう。

 実際には、ロドコルテはシステムが異なるせいで転生者をヴィダの新種族へ転生させる事は出来ないのだが。


「そして転生者の共通点は、最初は【無属性魔術】が使えない事です」

 『オリジン』には時間属性と、無属性魔術が存在しない。時間属性に関してはロドコルテが改めて適性を与えたとしても、無属性魔術の適性は存在しないので使えるように成るにはヴァンダルーがしたように最初から研鑽を積むしかない。


「つまり、我々は情報に在る効果を持つユニークスキルを持ち、特定の属性魔術を得意とする人物や、属性魔術が使えるのに無属性魔術が使えない人物を警戒すれば良いのですね」

「そうなります」

 大人の身体で転生してくる場合、イリスが言う様にどうしても前歴が不明に成ってしまう。それでいて既に5レベル前後のスキルを獲得しているのだ。


 余程巧妙に立ち回らなければ、絶対に目立つ。

 特にイリス達がいるサウロン領はアミッド帝国の占領下に在る。オルバウム選王国側からの出入りは難しく、アミッド帝国側からの出入りも、軍人と通行証を持った商人以外は制限されている。


 なのでサウロン領の人々に広く支持され、占領軍にも内通者がいるイリス達なら転生者達の存在に気がつく事が出来るだろう。


「しかし、ここへの侵入が難しいのは転生者達も気がつくはず。私達が役に立てるかどうか……」

「いや、気がついたら捕まえようとかしちゃダメですからね。俺にこっそり教えてくれれば、それで良いですからね。連絡用のゴーレムとか残しておきますし」


「そんな陛下っ! 俺達なら負けませんて! いくらユニークスキルを持ってても武技も使えねぇ奴等なんか、一捻りでさぁっ! なあっ、皆!」

 ハッジ達はスプーンを握ったまま拳を突き上げて戦意を露わにする。ヴァンダルーはそれを「いや、ちょっと厳しいでしょう」と落ち着かせようとする。


「落ち着けってのよ! いい、奴らはとんでもない連中なの、あんた達が敵う相手じゃないわ!」

 そのヴァンダルーの声を掻き消す大声を出したのが、マイルズだ。

「昨夜ボスはその転生者の一人と戦って、死にかけたのよ! あんた達は大人しく報告だけすればいいのよ! 分かった!?」


「な、何だって!? 陛下が死にかけた!?」

「そんな、陛下が……原種吸血鬼グーバモンを相手にしても余裕すらあったという陛下が……くっ、確かに、今の私達では足手まといにしかならない」

 驚愕に目を見開くハッジ達に、悔しげに唸るイリス。


「……いや、まあ、確かに死にかけましたけど」

 しかし微妙に彼女達を騙しているような気分に成るヴァンダルー。確かに、心臓と呼吸は止められたし、ザディリス達もやや危なかったのだが。


「良いじゃない、納得してくれたんだし。嘘も方便よ」

 バチン! そんな音がしそうな力強いウィンクをしながらそう囁くマイルズ。

「それもそうですね。実際転生者が強敵なのは事実ですし。じゃあ、俺はこのアジトに【千里眼】対策をしたら帰るので」


 その後、ヴァンダルーによってアジトの屋根に奇怪な文様が刻まれ、周囲には謎のストーンサークルが配置されたのだった。




 タロスヘイムに戻ったヴァンダルーは、何時ものジョブチェンジ部屋に向かった。

 本来なら自分も一緒に戦いながらレベルを上げた方がスキルの獲得も進むのだが、今回は時間が無かったのでボークスがミハエルを倒す時に近くに分身を配置したりして、寄生する様に経験値を稼ぎ、【ゾンビメイカー】のレベルを百まで到達させたのだ。


「【千里眼】対策にけっこう時間がかかりそうですからね。リザードマンとスキュラの沼沢地には、ストーンサークルかな」

 転生者への対策の為に時間が取れないのに、転生者達が新たな脅威であるため対抗するために強くならなければならない。何とも面倒な話だ。


《選択可能ジョブ 【屍鬼官】 【病魔】 【霊闘士】 【鞭舌禍】 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥医】 【迷宮創造者】 【魔王使い】 【魔砲士】 【ゴーレム創成師】 【冥王魔術師】 【神敵】(NEW!) 【冥導士】(NEW!)》


 水晶に触れたヴァンダルーの意識に表示された選択可能なジョブに、また物騒な名称のジョブが増えた。

「【冥導士】は【魔導士】と似たジョブとして……導士って、一人が複数就けるものなのか? しかし【神敵】……誰かに知られたらそれだけで邪悪な存在扱いされそうなジョブだ」

 最近神様とも親しく付き合っているのにこんなジョブが生えるのは、きっとロドコルテか、それとも法命神アルダのせいに違い無い。


 ……単にグーバモンを滅ぼしたせいかもしれないが。いや、あの後【ゾンビメイカー】にジョブチェンジする前には出なかったから、やはりロドコルテのせいか。


 気を取り直して、ジョブチェンジするジョブを選択する。

「……【ゴーレム創成師】を選択」

 能力値の上昇率を考えるなら【魔導士】と同じ導士系ジョブの【冥導士】だろう。しかし、錬金術と関係がありそうな【ゴーレム創成師】をヴァンダルーは選んだ。


 何故なら生金や霊銀等新しい金属を創造し、錬金術の三大奥義に成功した状態で、更に【錬金術】スキルへの補正を高めれば、ダルシアの復活へ更に近づくのではないかと思ったからだ。

 それに、やはり【ゴーレム錬成】スキルは有用だ。


《【ゴーレム錬成】、【錬金術】スキルのレベルが上がりました!》

《【ゴーレム錬成】スキルが【ゴーレム創成】スキルに覚醒しました!》

《【大工】、【土木】、【鍛冶】スキルが【ゴーレム創成】スキルに統合されました!》




・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:9歳

・二つ名:【グールキング】 【蝕王】 【魔王の再来】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【怪物】 【鱗王】 【触王】

・ジョブ:ゴーレム創成師

・レベル:0

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士、魔導士、大敵、ゾンビメイカー


・能力値

生命力:2,241

魔力 :1,082,220,588+(324,666,176)

力  :996

敏捷 :748

体力 :1,053

知力 :2,225




・パッシブスキル

怪力:5Lv

高速治癒:10Lv(UP!)

死属性魔術:10Lv

状態異常耐性:8Lv

魔術耐性:6Lv

闇視

魔道誘引:2Lv

詠唱破棄:6Lv

導き:魔道:4Lv

魔力自動回復:6Lv

従属強化:7Lv

毒分泌(爪牙舌):5Lv

敏捷強化:3Lv

身体伸縮(舌):5Lv

無手時攻撃力強化:大

身体強化(髪爪舌牙):4Lv

糸精製:3Lv

魔力増大:3Lv


・アクティブスキル

業血:3Lv

限界突破:8Lv(UP!)

ゴーレム創成:1Lv(ゴーレム練成から覚醒!)

無属性魔術:8Lv

魔術制御:7Lv

霊体:8Lv

大工:6Lv→(ゴーレム創成に統合!)

土木:4Lv→(ゴーレム創成に統合!)

料理:5Lv

錬金術:7Lv(UP!)

格闘術:6Lv

魂砕き:10Lv(UP!)

同時発動:6Lv

遠隔操作:7Lv

手術:6Lv(UP!)

並列思考:6Lv

実体化:4Lv

連携:4Lv

高速思考:5Lv

指揮:4Lv

装植術:5Lv

操糸術:5Lv

投擲術:5Lv

叫喚:4Lv

死霊魔術:5Lv

装蟲術:5Lv

鍛冶:1Lv→(ゴーレム創成に統合!)

砲術:4Lv

盾術:1Lv(NEW!)

鎧術:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

神殺し:8Lv(UP!)

異形精神:7Lv(UP!)

精神侵食:6Lv(UP!)

迷宮建築:6Lv

魔王融合:4Lv

深淵:4Lv(UP!)

対敵



・魔王の欠片

吸盤

墨袋

甲羅


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




 鳴り響く脳内アナウンス。生産系スキルが一気に【ゴーレム錬成】の上位スキルらしい【ゴーレム創成】に統合された。


「ふむ……?」

 ヴァンダルーは若干困惑した。これまでの経験からスキルが統合される場合、統合前のスキルも消える訳では無いのは分っている。

 なので、早速試そうと今持っている投擲用のクナイの死鉄を使って試そうと思ったのだが……なんだか感覚がおかしい。


「違和感は覚えますが、【危険感知:死】に反応は無いし……魔力の問題かな?」

 クナイをゴーレムにして形を変化させようとすると、二通りの方法が直感的に思い浮かぶのだ。一つは、今まで通りの方法。もう一つは、今までとは桁違いの魔力を消費する方法。


「何でしょう、この百円ショップの一画に百万円コーナーが出来たみたいな感覚は?」

 そういえば、何時かタロスヘイムにも一ルナショップとか作った方が良いだろうか? 地球の百円ショップの利益率はどうなっていたのだろう。夜行性の国民が多いので、既に二十四時間経営の小売店は増えているのだが。


 若干思考をあさっての方向に飛ばしつつ、ヴァンダルーはまず何時も通りの方法で死鉄製クナイをゴーレムにした。

 形を変える感覚も精度も、何時も通りだった。


「次に、大量消費の方を……っ!?」

 すると、魔力がごっそりと減った。百万どころか、一億以上減っただろう。

 そしてヴァンダルーの手の平からクナイが出現し、そのまま落下して足の甲に「びじゃん!」と重い音を立ててぶつかった。幸いな事に液体金属故に刺さりはしなかったが……液体でも重さは鉄と同じなので、結構痛かった。


 涙目になりながら足元に広がるクナイ型で出現した死鉄と、ゴーレム化して形を変えた死鉄製クナイを交互に見る。

「これは、ルチリアーノが見たら喜びそうな結果ですね」

 どうやら【ゴーレム創成】スキルは、その名称の通り物質を創成し、それをゴーレムとして扱えるようだ。


 これまでの【ゴーレム錬成】では既に存在する物質を材料にしなければゴーレムは作れなかった。建造物を作るにも、材料となる石材や木材は必要不可欠だった。

 しかし、上位スキルの【ゴーレム創成】は無から物質を創り出す事が出来る。

 その分大量の魔力を使うようだ。ヴァンダルーが投擲用に使うクナイ一本分の死鉄を創成するのに一億以上の魔力が必要となると、通常の荷物運びや戦闘要員として使うゴーレムを創成するのにどれ程魔力が必要になるのか。


 しかし、このスキルを使いこなす事が出来ればヴァンダルーは本当に何も無い荒野に城塞都市を築く事も可能に成るだろう。

「まあ、もうクノッヘンが居るのでそこまで出来なくても良い気もしますけど」

 大量の骨が組み合わさって骨でできた砦と成ったボーンフォートのクノッヘンは、空を飛ぶ移動要塞である。今もアイラ率いる闇夜騎士団の拠点として、沼沢地南端で砦をしている。


「とりあえず、物質の種類や量によって消費する魔力量を検証して……その前に、蘇生装置を修理できるか試しましょう」

 そう言いながら彼はジョブチェンジ部屋を後にした。




 C級ダンジョン、『ボークス亜竜草原』に生息する亜竜……今では恐竜と呼称されている魔物達は、肉球に恐れをなして逃げ出していた。

『ハハハハハハハッ!』

 肉球と言っても、犬科や猫科の動物の足にある肉球ではない。巨大な球体状の肉の塊である。

 それが巨大シダ植物の木をなぎ倒しながら迫って来るのだ。幾ら通常の魔物よりも凶暴性が増しているダンジョン産の魔物でも、反射的に逃げ出しても無理は無い。


 しかもその肉塊の表面には幾本もの腕や脚が側面に生えていて、地面を叩き蹴り、自走しているのだ。

『フアッハッハハッハハハハハッハッハァ!』

 しかも、何処からか女の声で哄笑を上げながら。


 思わずティラノサウルスが逃げ出しても無理は無い。

 ただ、ティラノサウルスの魔物としてのランクは4。C級ダンジョンである『ボークス亜竜草原』ではザコに分類される魔物だ。


『BMOOOOOOOO!』

 そのティラノサウルスが逃げ出す先に居たのが、ランク5のヒュージトリケラトプスだ。既に臨戦態勢だった巨大角竜は、肉食恐竜も蹴散らす突進を持って肉塊を迎え撃った。

『フハハハハ! 我ガ進軍ハ、のんすとっぷダ! スパイラルアターク!』

 非常に怪しい発音で、女の声が叫ぶ。だが、その瞬間肉塊から生えた腕が高速で動き、肉塊全体の回転運動が超加速! 


『BUMO!?』

 体長十メートルを超える巨体で突進してくるヒュージトリケラトプスと正面から激突し、何と角竜の方を弾き飛ばした。

 衝撃の大きさのあまり角と頸椎を砕かれたヒュージトリケラトプス、そして両者の激突から逃げきれなかった数匹のティラノサウルスが周囲に転がる。

 その光景は、サイズを無視すれば交通事故で車に跳ねられた動物を連想させる。


『ハハハハハ! ズィーク!』

 突進対決を制した肉塊は回転を止めると、上部からにゅっと女の上半身が生えた。表面は肉塊と同じ色で、目も鼻も無いが、輪郭とフォルムから長身の女の上半身だろうと言う事が分かる。


 女の上半身は腰に手を当てると胸を張り、高らかに勝ち誇る。

 だが、その横から少年か少女か分かり難い中性的なフォルムの上半身が起き上がり、声をかけた。

『ワルキューレ、アウト』

『ナッ!? 閻魔、何故!?』


『ズィークは、ラムダでは通じないからだよ』

『ソ、ソンナっ! 経験値モ入ッタシれべるモ上ガッタカラ良イネ!? OK!?』

『ダメだよ。ラムダ語しか話しちゃいけないゲームなんだから。ベルセルク、ワルキューレを抑えて』

 新たに出現した肉色の熊がワルキューレを押しつぶすようにして肉球本体に戻る。


『ノーッ!? 私ハ、貧弱ナンダゾ! 労ワ――』

『ワルキューレ、君がプルートーの次に貧弱だったのは前世までだ。現世では能力値は全員共通だよ』

 肉塊……レギオン達はレベリングでレベルを上げ、スキルの獲得やジョブチェンジを行う内に、ある程度思考を分割させる事に至った。


 今ではワルキューレや閻魔達『第八の導き』のメンバーと【ゲイザー】の見沼瞳は、別々に発言する事も可能に成っていた。

 ただ一つの肉体に間借りしている状態や多重人格とは異なり、記憶は完全に共有している。


例えるなら、レギオンというサーバーに閻魔やワルキューレという名の端末が繋がっている。そんな状態だ。

 そんな状態のレギオン達は、(正確には、地球では無くアースの)日本語が元に成っているラムダ語を習得するために「ラムダ語しか話しちゃいけないゲーム」をしながら、レベリングに励んでいたのだった。


『全く……痛いじゃないか』

 ふと閻魔が彼から見て後ろの方を見てみると、隙ありとでも思ったのか三匹のティラノサウルスが齧りつき、肉を食い千切っていた。


『GAAAA!』

 鋭い牙と強靭な顎でブチブチと肉を喰い千切り、咀嚼する三頭のティラノサウルス。既に人間十人分の肉が喰われただろうか。

 しかし、閻魔は大した痛みも危機感も覚え無かった。

『ステータス。……なるほど、これが生命力の存在する事で起きる現象か』

 冷静に無属性魔術のステータスを唱え、自分達の状態を確認する。


 レギオンの一千万程在る生命力が、一万程減っていた。つまり、今レギオンは一万点のダメージを受けている。

 それなのに閻魔を含めたレギオン達が大した痛みを覚えないのは、全体から見るとそのダメージが小さいからだ。


 ティラノサウルスに噛みつかれ肉を口一杯喰い千切られたら、『地球』や『オリジン』の生物なら痛いでは済まない。人間や、大型哺乳類でも絶命するだろう。クジラやゾウなら噛みつかれた場所によっては生きているかもしれないが、激痛に絶叫を上げてとても平静ではいられまい。


 しかし、生命力……ゲームでのヒットポイントの概念が存在するラムダでは、傷の大きさは最大ヒットポイントに対するダメージの大小によって決定されるのだ。

『最大ヒットポイントが大きければ、ティラノサウルスに噛みつかれても掠り傷に過ぎないのか』

『……だからっテ、食われすギ』

『すぐ、治るけどねぇ』


 閻魔の横に、エレシュキガルとイザナミが上半身を生やす。二人とも曖昧なフォルムだけで、特に腫瘍のような突起物が無いイザナミは、一見しただけでは分からないが。

『そう思うなら、反撃してよ。僕はまだ戦うのが苦手なんだから』

『分かっタ』

 エレシュキガルがそう呟くと、次の瞬間レギオンを一方的に食っていたティラノサウルスの内一頭が、血を迸らせながら見えない牙に肉を抉られ絶命した。


 突然の反撃に怒り狂って再び牙を突き立てようとする残り二頭のティラノサウルス。だがその内一頭は牙の隙間に残っていたレギオンの肉塊が突然爆発し、頭部が弾け飛んだ。

 残り一頭は何時の間にか伸びていたレギオンの腕の一本が握る短剣が放った武技、【クイックブロー】によって首の動脈を切り裂かれて絶命した。


 そして大きく抉られていたレギオンの傷口は、新しい肉が盛り上がり瞬く間に元通りになってしまった。

『じゃあ、運動した分食べようか』

『皮と魔石と骨は食べちゃダメよ、ジャック』

『分かったヨ、瞳チャン』


 レギオンの側面から生えている手足が伸びて蠢き、死んでいるヒュージトリケラトプスやティラノサウルスの肉を、まるで同化する様に喰らって行く。


 その様子をやや離れた場所で見ている、休憩中のパウヴィナ達はのほほんとお弁当を食べていた。

「ねぇ、『ずぃーく』ってなんて意味なの?」

『勝利、と言う意味よ、パウヴィナ』

 その中には、少女のフォルムをした肉塊……レギオンから分離しているプルートーの人格がいた。


「ところで、【遠隔操作】スキル発動中の君達って、どんな状態なの?」

『離れている間は、アンデッド……ヴァンダルーと違って記憶の共有は出来ないわね』

「ふうん。やっぱり、一人が分裂しているヴァン君と違って、元々別人だからかな?」

『だと思うわ。私達の場合【遠隔操作】というよりも、【分離】って感じね』

『おたべよぅ』

『ありがとう、アイゼンさん』


「周りの恐竜が全部レギオンに行くから俺、とても楽だ。お前、もしかして美味しい?」

『食べないでね、ブラガさん』

 レギオンはパウヴィナとラピエサージュ、ヤマタ、プリベル、アイゼン、そして斥候職として付いて来たブラガとパーティーを組んでレベリングをしていた。


『分離……』

『『『分離……♪』』』

 ラピエサージュとヤマタは、プルートーの真似をして【遠隔操作】スキルを試しているらしい。それぞれツギハギ部分のパーツを離して、動かしている。


 ラピエサージュは既に【遠隔操作】を獲得していたが……ヤマタの場合地面の上で上半身だけの美女九人分が地面を這い回るという、見た目だけは凄惨な光景に成っている。


 因みにエレオノーラは、昨日はレギオンやパウヴィナ達が『ボークス亜竜草原』で通用するか確かめるために一緒にいたが、上層階から中層なら問題無いと考えたのか、今日からB級ダンジョン『鱗王の巣』でレベリングをしている。

 ランク9のヴァンパイアバイカウントである彼女にとって、C級ダンジョンで得られる経験値では不満だったらしい。


 ……ランク10の訓練用木人、ミハエルと戦えば良いのかもしれないが、エレオノーラの戦闘能力では彼に勝てないため、スキルを磨くための熟練度は大量に得られるが、経験値が全く手に入らないのだ。


 英雄ゾンビのザンディアとジーナも別行動である。二人は今朝、レギオンの一部であるイシスの【手術】で生前の状態に限りなく近くなり、今ボークスと共にアンデッド化した身体に慣れる為B級ダンジョン『バリゲン減命山』で訓練をしている。十分慣れたら、因縁のある相手と一度戦うらしい。


「ご馳走様! じゃあそろそろ行こう。ところでさ、あんなに大きくなって階段通れるの? 詰まっちゃわない?」

『るの?』

『ない?』


 パウヴィナが、ひょいひょいと地面に転がるヤマタの上半身を拾い集めながらプルートーに聞く。今のレギオン本体は直径十メートル半ば以上にまで巨大化していたので、そう思っても無理は無い。


『あれは【サイズ変更】スキルで大きさを変えているだけだから、問題無いわ』

「そうなんだ! いいなぁ、【サイズ変更】。あたしも覚えたいなーっ。覚えられたらブラガ達の御家に遊びに行けるのに」

 身長二メートル半ばのパウヴィナは、大きさを自由に変えられるのが羨ましいようだ。しかし、【サイズ変更】は通常は魔物しか獲得できないスキルだ。


『マジックアイテムや薬で小さくなる効果の物は無いの?』

「うーん、分かんない」

「ボクも知らないなぁ。大きくなる類の物なら昔話で聞いた事があるけど。帰ったら母さんに聞いてみるね」


 こうして一週間、人外魔境な女子+αなパーティーはレベリングを続けたのだった。




・名前:レギオン

・年齢:0

・二つ名:無し

・ランク:6

・種族:レギオン

・レベル:87

・ジョブ:巨肉弾士

・ジョブレベル:0

・ジョブ履歴:見習い魔術師、魔術師、見習い戦士、戦士、肉弾士


・パッシブスキル

精神汚染:7Lv

複合魂

魔術耐性:3Lv(UP!)

特殊五感

物理攻撃耐性:5Lv(UP!)

形状変化:3Lv(UP!)

超速再生:2Lv(UP!)

怪力:3Lv(NEW!)

魔力増大:1Lv(NEW!)

生命力強化:6Lv

能力値強化:食肉:3Lv(NEW!)


・アクティブスキル

限定的死属性魔術:10Lv

サイズ変更:5Lv(UP!)

指揮:3Lv

手術:5Lv

格闘術:6Lv(UP!)

短剣術:3Lv(UP!)

融合:2Lv(UP!)

突撃:5Lv(NEW!)

詠唱破棄:1Lv(NEW!)

並列思考:5Lv(NEW!)

遠隔操作:3Lv(NEW!)

無属性魔術:1Lv(NEW!)

魔術制御:2Lv(NEW!)

限界突破:1Lv(NEW!)

高速走行:1Lv(NEW!)

再生力強化:食肉:3Lv(NEW!)



・ユニークスキル

オリジンの神の加護

ズルワーンの加護

リクレントの加護

ゲイザー:5Lv




・ジョブ解説:ゾンビメイカー


 死体からゾンビを創るジョブ。ゾンビを含めたアンデッド(特にゾンビ)を創る際に必要な時間や魔力を大幅に削減するジョブ効果がある。

 能力値の上昇率は僅かだが、大量のゾンビを創る事が可能に成る。ただヴァンダルーの場合、元々あまり時間を使わずにアンデッドを創る事が可能で、莫大な量の魔力を保有していた。


 そのため、ゾンビメイカーにジョブチェンジして必要な時間と魔力が削減された結果、無意識に周囲の死体をアンデッドにしてしまう予想外の副作用が発生してしまった。




・ジョブ解説:肉弾士


 体重千キロ以上の肉だけの知的種族のみが就く事が出来るジョブ。当然ながら、ラムダでこのジョブに就いたのはレギオンが初めてである。

 力、体力、生命力が大幅に上昇し、【格闘術】や【突撃】、【高速治癒】(又はその上位スキル)、【サイズ変更】、【料理】の獲得に大きな補正を持つ。また肉が美味しくなる、肉を美味しく出来るようになるジョブ効果がある。


 肉弾士のレベルが百に到達し、一万キロ以上の肉だけの肉体を持つ場合、上位ジョブの【巨肉弾士】のジョブにチェンジ可能となる。


 尚、上記のレギオンのステータスはレベリング終了時の物である。

投稿が遅れてすみません。


8月9日に129話、8月13日に130話、14日に131話を投稿する予定です。

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[良い点] レギオンの中の子たちが楽しそうなのはほっこりする
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