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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第六章 転生者騒動編
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閑話16 前哨戦(オリジン)

 『第八の導き』による『ブレイバーズ』本部爆破事件。

それはメンバーの一人だった海藤カナタが過去に犯した犯罪が明らかに成った、『堕ちた勇者事件』の衝撃から未だ立ち直りきれていなかった『ブレイバーズ』の威信を、大きく傷つけた。


 それまでオリジンの人々にとって、『ブレイバーズ』は文字通りの意味でヒーローだった。

 メンバー全員が天才的な魔術の才能や高い身体能力を持ち、更にそれまでフィクション作品の中でしかありえなかった、魔術では無い特殊なスーパーパワーを一つ以上持っている。


 事故や災害が起これば駆けつけて、助けてくれる。テロとの戦いでも先頭に立ち、数々の活躍で魅せてくれた。

 人々の中にはブレイバーズを神が遣わした天使だと、崇拝する者までいた。


 しかし海藤カナタが犯した犯罪が明らかに成ると、『ブレイバーズ』のメンバーもただの人間なのだと言う事が証明されてしまった。


 その失墜したイメージから何とか立ち直ろうとしていた時に起こったのが、爆破事件だった。

 『ブレイバーズ』のメンバー二名、島田泉と町田亜乱の死亡に加え、スタッフ数人の負傷。

 世間からは『ブレイバーズ』への同情と、『第八の導き』への怒りが寄せられた。だが、対テロ組織としては拭いがたい敗北だ。


 何より、仲間が二人殺されている。

 あらゆる偽りを見抜く【監察官】の島田泉と、生きるスーパーコンピューターの【演算】の町田亜乱を喪ったのは組織として大きな痛手であり、何よりもこの世界に百人しかいない地球からの仲間が二人減ってしまった。しかも、母親の臓器を裏ルートで売りさばかれた獅方院真理が海藤カナタに行ったような、ある意味自業自得の死ではない。


 これまで二人が裏方として支えて来てくれたおかげで、『ブレイバーズ』は活躍する事が出来たのだ。


「必ずあの三人の仇を討つ!」

 地球では運動部だった三波浅黄の様に、『第八の導き』とそれに与している裏切り者の村上淳平達に対して激しい怒りに燃え、自分達の手で罰しようと拳を振り上げる者は多かった。


 三波浅黄も含めて、『ブレイバーズ』全員が『第八の導き』のメンバー全員が死属性研究の被害者であり、かつて自分達が一度保護しておきながら、研究機関にみすみす身柄を渡してしまった事は知っている。

 確かに、あの時自分達がしっかりしていれば彼等はテロリストには成らなかったかもしれない。

 しかし、だからと言って仲間が殺された事は許せない。


「島田、町田、あいつらは俺達の命を何度も助けてくれた仲間だ。そして真理……あいつはカナタを殺したが、その罪をこれから償うはずだった! その途中でテロリストに殺されていい理由は無い! そうだろう!?」

 床も天井も、全てが白い空間で浅黄はそう仲間達に同意を求めた。


 そこにいるのはリーダーの雨宮寛人に、彼と結婚して姓が成瀬から変わった雨宮成美。十数人のブレイバーズのメンバーが集まっていた。

 全員が軍用のボディーアーマーや銃火器、ナイフ類、そして最新式の『杖』内蔵式グローブで武装している。


「その通りだ!」

「後悔させてやる!」

 そしてメンバーの半数以上が浅黄に同調していた。やはり、仲間を殺された衝撃は転生者達にとって冷静に受け止められる物では無かったのだ。


 訓練を受けテロリストとの実戦を経験しても、転生者達はまず負けなかった。与えられた魔術の才能や幸運、チート能力によって、今までは勝ち続ける事が出来たからだ。

 重傷を負う事もあったし、死にそうな目にも遭った。しかし、傷は魔術やチート能力によって癒され、修羅場も最終的には掻い潜って来た。


 例外は、同じ転生者に殺された海藤カナタぐらいだ。


 それ故に、転生者達は仲間が死ぬ事に慣れていない。


(拙いな。悪い方向に進むばかりだ)

 寛人は気勢を上げる浅黄と仲間達に渋面を浮かべていた。【オラクル】の円藤硬弥以外に唯一アンデッドの正体が自分達と同じ転生者であると知っている彼は、『仲間』が最後に助けた『第八の導き』を出来るだけ穏便に保護するつもりだった。


 『第八の導き』は既に世界中で、特に先進各国で犯行を重ねている以上無罪放免は不可能だ。出来るだけ人権が保護された施設に収容するか、説得が可能なら表向きは死んだ事にして、密かに第三国に脱出させるつもりだった。

 しかし寛人と硬弥の想定以上に『第八の導き』のメンバーは頑なで、そして本気だった。


 後方支援担当の島田泉と町田亜乱を殺し、更に既に独房に収容されていた【メタモル】の獅方院真理も同じように爆殺している。

 合流した村上達の影響で活動が先鋭化したのかもしれないが、とても穏便にと説得できる状態ではなくなってしまっていた。


「気持ちは分かる。だが、あくまでも任務は『第八の導き』の確保だ。抹殺じゃない。それを忘れないでくれ」

 そう寛人が仲間達を落ちつけようとすると、浅黄達もその言葉に異議は唱えなかった。

「分っているさ。だがあいつらが抵抗しても反撃するなって意味じゃない。そうだろう?」

 だが、そう浅黄に聞き返されると、「そうだ」としか寛人には応えられない。


 『第八の導き』は助けたい。だが、そのために浅黄を含めた仲間達の命を失って良い訳がない。


「寛人、あなたの気持ちは分かるわ。プルートー達も被害者だから助けたいのよね。でも、これはあの人達の選択の結果よ。……仕方ないわ」

「成美、それは……そうだな。今は、任務に集中しよう」

 妻の言葉に、『第八の導き』が崇めているのは昔彼女が自分と間違えた恩人の少年だと、真実を伝えられない寛人は胸の中に苦い思いが広がっているのを押し隠して、頷く事しか出来なかった。


 それに、これは『第八の導き』を助けるための選択でもある。

 円藤硬弥が【オラクル】で村上が潜伏する『第八の導き』のアジトを遂に割り出したのだ。そして、『第八の導き』を出来るだけ助け、同時に仲間が受ける被害を最大限抑えるためには、急いでアジトを強襲しなければならない。


 その連絡を『ブレイバーズ』の専用回線で受け取った寛人は、こうして集められるだけのメンバーを集めて行動に出た。どうしても自分達だけで動く事が出来ず、各国の特殊部隊も作戦に加わる事に成ったが、それも硬弥の指示には含まれている。


 だから、今のこの状況も【オラクル】が出した選択に沿ったものだ。何も不安に思う必要はない。

(そのはずだが……信じて良いんだな、硬弥)

 寛人と硬弥は親友と言える関係だが、【オラクル】の指示を告げる連絡が文章だけのメールだった事に、引っ掛かりを覚えていた。


「雨宮、随分浮かない顔つきだね。リーダーがそんな様子では、全体の士気に関わる」

 そう話しかけて来たのは、【アバロン】の六道聖。『ブレイバーズ』の中では珍しい、特殊能力よりも魔術に秀でた技巧派の男だ。


 地球では成美や浅黄とは別のクラスの学級委員長をしていた人物だ。


「聖君、ごめんなさい。でも今は――」

「君達の気持ちもわかるが、『第八の導き』だけじゃない、村上達……【クロノス】や【ヴィーナス】、【マリオネッター】や【デスサイズ】、【オーディン】、【ヘカトンケイル】……危険な能力を持ち、しかもこちらの手の内を知り尽くした十人の裏切り者とも戦う事に成る。

 浅黄は頭に血が上っているようだが、これは今まで私達が経験してきたどんな任務よりも危険で過酷な戦いだ」


「すまない、確かにそうだ」

 六道の言う様に、【クロノス】の村上を初めとした自分達とは同じ能力者が敵になる。『第八の導き』だけに目を向けていたら、どんな犠牲が出るか分かったものではない。

 雨宮の返事に満足したのか、六道はフッと小さく口元を緩める。


「分ってくれればいい。ミセス雨宮、偶には夫に厳しい事を言うのも良い奥さんの条件だよ」

「そうね、気をつけるわ。でも、貴方にそんな事を言われるなんて思わなかったわ。奥さんに甘やかされているくせに」

「それは私が夫として完璧だからさ。夫としての経験は、私の方が上だよ、雨宮君」


「確かに。結婚三回、離婚二回の経験豊かなお前には敵わないな」

 それは言わない約束だろうと笑う六道。適度に緊張と顔の強張りが解けた雨宮は成美と六道に短く礼を言い、今度は自分の番だと演説を続ける浅黄の頭を冷やしに向かった。




「……浅黄の奴、相変わらず煩いね」

 一人で特殊ステルス機を操縦しているマオ・スミスはそう言って舌打ちをした。

 地球では長野真桜の名でフェリーの乗務員をしていた彼女は、オリジンでは地球の欧州圏に相当する国に転生した。


 そして地球では船で海を行き来していた彼女は、オリジンでは何と戦闘機のパイロットに成っていた。

 オリジンで生まれついた家が代々軍人一家だった事が影響して、何時の間にか空を飛ぶようになっていた。


「人の能力の中で好き勝手演説してくれるわ、まったく。気が散るでしょうが」

 対魔術と対レーダーのステルス結界が機能しているか、水晶製の計器類に視線を走らせて確認するマオ。

 彼女が得たチート能力は、【ノア】。特殊な亜空間を保持し、その中に生物や物品を入れて運ぶことが出来る力だ


 所謂、ゲームのプレイヤーキャラが持つ能力だ。上限はあるが、大体タンカー一隻分程度の容量まで物でも人でも、特殊な亜空間に入れ重さを無視して自由に運ぶことが出来る。


 それを利用してマオは災害現場に大量の援助物資を運び、逆にテロリストのアジトから大量の証拠品を押収してそれを迅速に持ち帰って来た。

 今回は、仲間の運送である。輸送ヘリを使っても良いが、こうしてマオが一人で戦闘機を操縦して運んだ方が圧倒的に速く、『第八の導き』のアジトに仲間を届ける事が出来る。


「しかし、妙な指示だったね」

 マオが気にしていたのは、円藤硬弥からの指示だった。このステルス戦闘機にはもう一つシートがあるのだが、そこにはサブパイロットの代わりに、小さな箱が設置されていた。


 その箱の存在を彼女以外の『ブレイバーズ』に教えないまま運び、目的地に到着後に箱の中身を雨宮寛人に渡す事。それが指示だった。

 何故【ノア】で一緒に運ばず、しかも箱の存在そのものを秘密にしなければならないのか。不可解すぎる。


「だけど、【オラクル】の指示じゃねぇ。多分、円藤に直接聞いても答えられないだろうし」

 【オラクル】で出た結果には、解説が付いていない。能力を保持する円藤硬弥自身、何故そうなるのか分からないはずだ。


 だが、【オラクル】の妙な指示が仲間の命を幾度も救って来たのは事実だ。

「小さな箱を一つ秘密にするぐらいで仲間の命が助かるなら安い物か。さて、もうそろそろ到着か」

 ステルス戦闘機を飛行モードから垂直移動モードに移行する操作にマオが取りかかろうとした時だった。

「村上とシェイドが言った通りになったね」

 前触れも無く、聞き覚えの無い甲高い声が背後から聞こえたのは。


「っ!?」

 何事かと反応する前に、後ろから伸びて来た白い手が握るナイフが、彼女の首に刺さる!

「これで呪文使えないよね、ジャック、大金星?」

 視界の隅に映るのは、カボチャでも被っているかのように肥大した頭部を持つ『第八の導き』のメンバー、『ジャック・オー・ランタン』。


「ああ、凄いわ、ジャック。これで皆、死ねるわ」

 そしてホラームービーから出てきた幽霊のように精気の無い女。村上達と共に、正確には拉致されて『第八の導き』に連れて行かれた転生者、【ゲイザー】の見沼瞳だった。


(こいつ等、第八の導きのメンバーに、【ゲイザー】!? なんで、ここにっ!? この機体はまだ減速してないっ、音速で飛んでいるのよ!?)

 空間属性魔術を使えばテレポートは可能だ。しかし、それには目標と成る地点の正式な座標が必要に成る。


 どんな達人でも音速で飛行中の戦闘機の、それもコックピットの中にテレポートするなんて絶対に不可能だ。

 少しでもタイミングがずれれば戦闘機と衝突するか、上空何千メートルもの空に放り出される。


(そもそもこいつ等、どうやってこのステルス機の空路を……ヤバイっ、考えている時間が無いっ!)

 疑問は尽きなかったが、マオにはそれを追及する時間は無かった。運悪く計器の操作中で自動操縦装置を切ってしまったから、操縦桿から手を離せない。狭いコックピットの中では、得意の風属性魔術も使えないし、そもそも呪文の詠唱に必要な声が出せない。


「これでジャックたちが一番乗りかな? ヒトミちゃん」

「まだよ、ジャック。そのナイフをもっと深く突き刺すか、強く引くの。こいつ等は緊急時に生命を維持するためのマジックアイテムを持っているから、殺さない限り生き残る可能性があるのよっ!」

「そうなんだっ! ありがとう、ヒトミちゃん」


 ギリギリとジャックが【ゲイザー】の指示に従って、マオの首を切断しようとナイフを握り手に力を込める。

 マオにとってせめてもの幸いは、ジャックが殺しに慣れておらず、また腕力自体もさほど無い事だった。しかし、このままでは後十秒も持たないだろう。


(どうするっ!? 【ゲイザー】はその気に成れば魔術が使えるから、操縦桿を放して抵抗すれば最悪自分ごと自爆しかねない! 私は、まだ死ねない!)

 何故なら、【ノア】の中には仲間達がいるのだ。自分が死んだら、彼等がどうなるか分からない。


 【ノア】は、所有者であるマオが死ねば恐らく解除される。中に居る雨宮寛人達は、その場に放り出される事だろう。

 そして、ここは雲よりも高い空の上を音速で飛行中の戦闘機。突然放り出されても『ブレイバーズ』全員が一流の魔術の使い手だから、生き残れるかもしれない。


 しかし、出現した瞬間この音速で飛行中のステルス戦闘機と激突したら? 気圧の変化等で瞬間的に気絶したら? 


 マジックアイテムがあったとしても、とても楽観はできない。【ゲイザー】は過大評価しているが、あれの性能は、致命傷を負っても死ぬまでの時間を幾らか稼ぐ事が出来る程度でしかないのだ。


(まさかっ、私が命と引き換えに仲間を助けようとするほど、熱い奴だったなんてね!)

「ジャックっ、早くその女を――っ!」

「ヒトミちゃんっ、お顔に怪我しちゃうよ」


 【ゲイザー】とジャックの声がした瞬間に、コックピットが爆発するように弾け飛んだ。そして、マオが座るシートが射出される。


(脱出成功。自分の仇も、取れそうね)

 脱出装置を起動したマオは、大空に射出されそのまま落下を開始した。その視界には、瞬く間に遠のく彼女の生涯年収より高価なステルス戦闘機が、そして地面に向かって落下して行くジャックと【ゲイザー】の姿があった。


 マオが脱出する刹那、ジャックは【ゲイザー】を庇った。そのせいでその肥大していた頭部は大きく凹んでいる。あれでは即死だろう。

 そして即死したジャックを、【ゲイザー】は抱きしめたまま落ちて行く。


(独り身に見せつけやがって。どうしてそんなに好きな相手がいるのに、こんな自爆みたいな真似が出来るのよ……)

「ごぶっ」

 喉からナイフが抜けたせいで、出血が一層激しくなった。音速で飛行中に脱出装置を無理矢理起動させたせいで、骨も何か所が砕けている。内臓もまずそうだ。


 これではマジックアイテムも、どの致命傷を癒せば良いか分からないだろう。


(この分じゃ、【ノア】の中から皆を出して助けて貰う余裕も無いね……絶賛地面に向かって加速中だし)

 【ゲイザー】が最期に攻撃したからか、開くはずのパラシュートが開かない。

(そして私は、これで気絶……か……)

 もし外に放り出されても無事だったら、私の葬式は盛大にやってくれよと思いながら、マオは意識を手放した。




「そろそろジャックと【ゲイザー】が先に逝った頃かな」

 円藤硬弥は、そう言いながらパソコンを操作していた。

「ここをこうして、ここは……ややこしいなぁ、これだから機械を操るのは嫌いだよ」

 そう言いながら、複雑な手順を幾つも踏んで、プログラムを仕込んで行く。


「これで終り、と。これで全ては君の犯行って事に成った。犯行理由はとりあえず『悪魔の声が聞こえた』で、【オラクル】は全て悪魔の預言だったって、事にして置いたから。悪魔っていうのが何なのか、僕は知らないけどね」

 たった一人しかいない部屋で、鏡に向かってそう告げる円藤硬弥。勿論、鏡に映っているのも彼一人だ。


 しかしその顔が、奇妙に引き攣る。顔面の筋肉が痙攣を起こし、口元や頬が歪む。

「そう怒るなよ、【オラクル】の円藤硬弥。村上と僕達を探す事に夢中に成って、自分の身を守る事を疎かにした君が悪いんだぜ。

 そんな事だから、悪霊に……『シェイド』に身体を乗っ取られるのさ」


 円藤硬弥の肉体を操る人物、それは『第八の導き』のメンバーの一人、肉体を喪う代わりに死体に憑りつく能力を得たシェイドだった。

 本来彼は死体にしか憑りつけない存在だが、実は一度だけなら生きている人間に憑りつき、肉体を乗っ取る事が出来る。その力で、村上達を囮にしてその隙に円藤硬弥の肉体を乗っ取ったのだ。


 そして、【オラクル】の指示だと言って雨宮寛人達を罠にかけた。ステルス戦闘機のコックピットに仮死状態にした鼠の箱を設置させ、死にかけている人……正確には、死にかけの生物の近くに転移できるジャックを送り込むための細工を指示した。


「楽だよね、【オラクル】の結果だって言えば、それだけで皆面白いように動いてくれる。君が言えば、どんな妙な指示も皆実行する。

 例えば、『アンデッド』の前で敵意が無い演技をしろ、とか」

 そうシェイドが言った瞬間に、顔の痙攣が止った。


「驚いてるの? 村上や【ゲイザー】から聞いて、知っているよ。だから、君は絶対殺すって決めたんだ」

 そう言いながら、シェイドはやはり【オラクル】の指示に必要だからと手に入れておいた手榴弾を手に取った。


「肉体を奪っても、君達の能力や魔術が使えるようになる訳じゃない。だから確実に死ぬ方法を取らせてもらうよ。

 ああ、自分だけの肉体が無いと自殺も手間だなぁ」

 シェイドが生きている人間の肉体を奪えるのが一度だけなのは、その際に奪った肉体と融合して二度と出る事が出来なくなるためだ。


 つまり、円藤硬弥が死ねばシェイドも死ぬ。

 死ぬ事が出来る。肉体を持たない自分が、皆と同じように死ぬ事が出来る!


「三時間後、円藤硬弥の身体で僕が細工した偽情報が世界中に流れるのを待っても良いけど……もし皆死んだ後僕だけ生き残ったら嫌だからね」

 ピンを引き抜き、シェイドは手榴弾を口に咥え、目を閉じた。


「ほぉやふひ……」




「ジャック、ゲイザー、マオ・スミス、円藤硬弥、そしてシェイドが逝った」

 本来なら白目の部分まで黒一色に染まった眼球を持つ少年、『閻魔』が仲間達に告げた。


 『第八の導き』のアジト……正確には、決戦の為にプルートー達が用意した戦場は、北欧にある廃墟だった。

 前の大戦で使われた最終兵器とやらの結果、生きとし生ける者が死に絶え岩だらけの岩石砂漠と化した土地の真ん中に残る、歴史の遺物だ。


 インフラも何もかも死んでいて、普通なら長期間の滞在は出来ない。その砂漠の地中に残った地下鉄網をプルートー達はアジトとして使っていた。


 廃墟で見つけた大きなテーブルを残ったメンバー全員で囲む『第八の導き』は、一斉にプルートーに視線を向けた。

「それで、他の連中は死んだの?」

 仲間達の視線を受けても眉一つ動かさないプルートーの質問に、『死んだ存在の名前や顔が分かる』能力を持つ閻魔は、暫く目を閉じて集中した後答えた。


「いや、雨宮寛人達の名前は無い。他の連中も無いから、全員生きている」

「まだ死んでいないだけで、致命傷を負っているかも」

 ドレッドヘアの黒人系の女、『イシス』がそう言うが、閻魔は首を横に振った。


「あいつ等は高度な属性魔術に、俺達より強力な能力の使い手だ。マジックアイテムもある。数人が無事なら、それで治してしまう。

 確実なのは即死だけだ」


「そうか、じゃあ今頃こっちに向かっている頃だな」

 シルバーブロンドを長く伸ばした長身の美女、『ワルキューレ』がそう言って腕を組んだ。


 仲間が一人殺されたからと言って、ブレイバーズは引き返す事は出来ない。既にこのアジトの周りには各国の特殊部隊が展開しつつある。

 それよりも、仲間の仇を取るために動き出す筈だ。煩わしい事にリーダーの雨宮寛人は自分達を助けようとしているらしいが、そのためにも作戦から離れる事は無いだろう。


 今更雨宮寛人が作戦を止めても、もう特殊部隊は動いている。彼等と村上達がぶつかれば、特殊部隊は全滅。ブレイバーズは自分達が呼びかけた作戦を中断して、特殊部隊員を見殺しにした事に成る。

 尤も、それが無くてもシェイドのした工作で『ブレイバーズ』の名声は地に堕ちるだろうが。


 『ブレイバーズ』の名声が地に堕ちようと、プルートー達にとってただの嫌がらせで大した意味は無い。何せこれから自分達は死ぬのだから、死んだ後の事なんてどうでもいい。

 だが、自分達が死んだ後も生き残った他の『ブレイバーズ』が苦労するなら、良い気味だと思う。その程度だ。


「じゃあ、村上達ももうすぐ裏切るのね」

 全身に赤ん坊の頭程の瘤が生えた性別不明の、辛うじて人型をしていると分かる生物、『イザナミ』が同盟者の裏切りを決めつける。

 しかし、それを誰も否定しない。彼等の中でブレイバーズを裏切った村上達が自分達も裏切る事は、既定路線だったからだ。


「それでどうするんだい、プルートー?」

 髪を三つ編みに纏めた可憐な容姿の『バーバヤガー』が尋ねる。

「そうね。とりあえず、食事を済ませましょうか」

 テーブルの上に並んだ皿の上にある、幾つものオニギリを指差してプルートーは言った。


 今は食事中である。

 『第八の導き』のルール、「一日一回は、皆で食事を取る」を実行中だ。


 ただ、肉体の無いシェイドは常に憑りついた死体の胃袋に流し込むだけだったし、彼は数日前から別行動をとっている。それに今日は、予定よりマオのステルス戦闘機が速く発進したせいで、ジャックと【ゲイザー】が途中で居なくなってしまった。


「お休みジャック、シェイド、ゲイザー。向こうで会いましょう」

「どうかな、シェイドは今頃寝ているかもしれないよ。肉体が無いから寝られないって、夜になると愚痴を言っていたから」

「ジャックとゲイザーはどうしているかな? アンデッドに挨拶出来たと思う?」

「ふんっ、あの二人じゃ緊張して何も言えやしないさ」

「それじゃあ、シェイドは寝ている暇も無いな。アンデッドに二人を紹介しないといけない」


 そう言いながら、楽しげに『第八の導き』のメンバーは様々な具を包んだオニギリを口に運ぶ。

 アンデッドが生前食べたいと言っていたらしい、米で出来たオニギリを。


 そして食べ終わると、それぞれ立ち上がってテーブルから離れて行く。

「それでは、向こうで」

 最後の会食は、終わった。そして、今生の命が終わるのはこれからだ。


「……」

 最後にオニギリを食べ終わったプルートーは、瞳が座っていた席に視線を向けた。彼女が最後に残した予言が気に成ったからだ。


『プルートー。貴方は、二人見逃す』


「私が、二人見逃す……助けるじゃなくて見逃すって事は、『ブレイバーズ』やそれ以外の軍人よね? 確実に後者ね」

 多分、故郷に婚約者がいるとか、幼い子供や身重の妻が帰りを待っているとか、それとも情けなくママに助けを求めて泣きじゃくる奴とか、そんな連中から二人見逃すのだろう。

 実は特殊部隊の中に生き別れの兄弟が……なんて事は、流石に無いか。


 しかし、確実に『ブレイバーズ』では無いだろう。

「私達があいつ等を見逃すなんて、あり得ないのだから」




ブレイバーズ:円藤硬弥、マオ・スミス死亡。死者二名


 第八の導き:ジャック・オー・ランタン、シェイド、【ゲイザー】見沼瞳 死亡 死者三名


 村上淳平率いる反ブレイバーズ:九人全員生存

7月8日に閑話17 連鎖 7月12日に閑話18 勝ったぞ 7月13日に閑話19を投稿する予定です。

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