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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第五章 怪物の遠征編
130/514

百十二話 Q これは捕虜ですか? A いいえ、生餌です

「探し出すのには手間取ったが、見つけてしまえば楽な仕事だったな」

「そうね。でもこいつ等、何でアジトでもないのにこんな所に居たのかしら?」

「大方、占領軍から隠れて潜んでいたのだろうよ。レジスタンスと名乗っていても、所詮は鼠よ」


 縛り上げられた『新生サウロン公爵軍』副団長リック・パリスは、頭上で交わされる吸血鬼達の会話に端正な顔を悔しげに歪めた。

(不覚! まさか吸血鬼達が襲撃を仕掛けて来るとは……!)


 スキュラの自治区内で、占領軍との交渉を妨害するためにアルダ過激派の仕業に見せかけた殺人事件を起こしていたリック達は、次の犯行のタイミングを待つために一時的な隠れ家に潜んでいた。

 団長であり兄であるレイモンドがスキュラの各族長を説得して回っている間、リック達がまた一人占領軍の過激派の犯行に見せかけてスキュラを殺害し、兄がスキュラ達の占領軍に対する怒りを煽りたてる。


 その予定だったのだが、スキュラ自治区内の隠しアジトを十数名の吸血鬼に襲撃されてしまった。半分は従属種吸血鬼だったが、残りは全員空を飛び、高い水準で魔術を操る貴種吸血鬼だ。不意を突かれたリックは抵抗する間も無く仲間達も二人を残して皆殺しにされ、彼自身も囚われてしまった。


 この吸血鬼達のリーダー格らしい、太い顎をした野性的な美形の男が笑いながら言った。

「後はこいつの兄を捕まえるだけね。生き残りの傷を少し治してあげなさい」

 ルージュが引かれている唇で女の口調で言葉を紡いだ。リックと生き残りの仲間は思わず目を丸くして彼を見るが、吸血鬼達は既に慣れているのか大した反応も見せず淡々と指図に従う。


 傷を治療されて動けるようになった二人は、青い顔をしながらも吸血鬼達に対して気丈に振る舞った。

「俺達に何をさせるつもりだ、女神を裏切った獣共め!」

「お、お前達の思い通りには成らないぞっ! 必ず団長が俺達の仇を討ってくれる!」

 しかし二人の勇気を振り絞った啖呵は、吸血鬼達にとってお約束のギャグでしかないようだ。リーダー格の吸血鬼も、気を悪くした様子も無く笑みを深くする。


「貴方達にはちょっとしたお仕事を頼みたいの。ラッキーよぉ、一仕事するだけで命が助かるんだもの。

 これから貴方達の大切な団長さんに伝えて、『大事な弟の命を助けたければ、指定した場所に一人で来い』ってね」

(狙いはやはり兄上か!)

 リックにとって父親の違う兄、レイモンドは兄以上の存在だ。


 公爵家の血を受け継ぎながら庶子であるため冷遇され、しかし誰よりも高い才覚とカリスマ性を併せ持つ、サウロン公爵領を治めるべき大器。

 このサウロン公爵領がアミッド帝国に侵略された今の状況でさえ、リックには兄を公爵位につけるための天の采配だと思っていた。


 だからこそ兄の為なら汚れ仕事も何でもやって来た。元々サウロン公爵から自治権を認められていながら、公爵領の為に戦おうともしないスキュラ達をリックは軽蔑していたが、自分を慕うよう口説いた彼女達を騙して殺し、死体を惨たらしく晒すのも、スキュラ族をレイモンドが公爵位を得るために利用するためだ。


 それはリックだけではなく、生き残った仲間達も同じ思いだった。

「ふ、戯けるな! このオカマ野郎! 誰が団長を売るような真似を――がっ!?」

 激高して怒鳴り返した仲間の頭を吸血鬼が大きな手で鷲掴みにした。


「元気な子は好きよ、ワタシ。好きすぎて……キスマークを付けてあげたくなっちゃうのよぉっ!」

 鷲掴みにした仲間の片方を引き寄せ、太く逞しい牙を突き立てる。

「ぎやあああああああっ! ああああぁ………っ」

 絶叫が上がり、次第に小さくなっていく。そして動かなくなったそれを、吸血鬼は残り一人に成ったリックの仲間に見せつける。


「それで、あんたはどっちなの? ワタシのキスマークが欲しい元気な子? それともお仕事を頑張る素直な子かしら?」

 仲間の血で塗れて真っ赤に成った唇を舌なめずりしながら問う吸血鬼に、最後の生き残りは首が千切れんばかりに振った。縦に。


「や、やりますっ! お仕事やりますっ!」

「そう♪ 嬉しいわ。……さっさと行きなさい」

「はいぃっ!」

 脱兎の如く走り出す仲間の背中を、縛られ猿轡を噛ませたリックは見送る事しか出来なかった。


(兄上っ、間違っても助けに来るなよ! 私を見捨ててくれ!)

 この願いを兄が聞き届けてくれることを願って。


 だが、レイモンドがどうするかは吸血鬼達にとって問題ではない。既に走り出した仲間を吸血鬼達の一人が尾行しているからだ。

 レイモンドの居場所を確認次第、使い魔を通して他の吸血鬼達に報告する手筈だ。


「しかし、マイルズ・ルージュ卿、あまりに性急ではないか?」

 吸血鬼達の中で最もランクの高い、男爵の位に在るおネェ系吸血鬼、マイルズに他の貴種吸血鬼が尋ねる。

「グーバモン様から言い渡された期限にはまだ余裕がある。日光に身を晒す危険を冒してまで急ぐ必要があるのか?」


「あるのよ」

 ハンカチーフで口元を拭き、最近お気に入りの口紅を塗り直してからマイルズは答えた。

「あんたも砦の協力者から聞いたでしょ。一昨日、ハリケーンドラゴンの咆哮が響き渡ったって」

 境界山脈の上空を縄張りにするハリケーンドラゴン。その咆哮は山脈近くのスキュラ族の自治区や、隣接したサウロン公爵領の砦まで届く。


 発情期か余程の強敵と戦いでもしない限り、そこまでの咆哮は上がらないのだが……。


「それが何だ? ハリケーンドラゴンの発情周期なんて誰も正確には知らんのだ。偶然だろう」

「偶然ねぇ……ワタシは偶然よりも、ハリケーンドラゴンが境界山脈を越えようとした強敵と戦ったから咆哮が上がったのだと思うのよ」


 リックは頭上で交わされるマイルズたちの会話を訝しげに聞いていた。境界山脈を越えようとする者等存在するのかと。

 普通ならマイルズの心配は、一笑に付される類のものだ。しかし、吸血鬼達は笑うどころか怯えた声を上げた。


「ま、まさか大陸南部の『怪物』がここに来ていると言うの!?」

「そんな冗談だろう!? もし原種殺しの『怪物』に遭遇すれば、我々の命は無いぞ! 冗談だと言ってくれマイルズ!」

「喚くんじゃないわよ! そう思うってだけよ、根拠は勘! ワタシのユニークスキル【警鐘】だけよ! 後、仕事中はワタシの事は『マイちゃん』って呼びなさい!」


「それに何の意味が……?」

「ラッキーな事が起こるってジンクスよ!」

(馬鹿な、吸血鬼が怯えているだと、それに原種殺し? 『怪物』とは、一体?)

 信じられない思いで吸血鬼達のやり取りを聞いていたリックは、この先さらに信じられない事を聞く事に成る。


「正直言うとね、グーバモン様からこの命令を受けた時から【警鐘】が鳴りっぱなしなのよ。だからもし、『怪物』に出くわすような事があったら。ワタシの指示に従いなさい。

 これは今回の仕事で初めて顔を合わせた、あんた達を思いやっての提案じゃないの。あんた達がヘマするとワタシまで『怪物』かグーバモン様に殺されるから言うんだからね。信じなさいよ。

 いい、まずは――」




 『教えて、あの人が……リックがアタシを殺したの?』


 【可視化】の術で姿を見せた時とは違う、水滴が滴る濡れた姿のオルビアが炯々と輝く瞳でレイモンドを見つめながら問うた。

 明らかに雰囲気が異なる彼女に答えを告げないために、レイモンドは自分の口を手でふさごうとしたが彼の首から下の身体はまるで石に成ったように動かなかった。


「り、リックが――」

「おいっ! 止めさせろ! 止めなければ後ろのスキュラ達に矢を射かけるぞ!」

 レイモンドの部下が彼の声を掻き消すように怒鳴り声を上げる。彼等はヴァンダルーがレイモンドに【精神侵食】を仕掛けている事を正確に理解した訳ではないが、このままでは拙い事態に成ると判断して独自に動き出したようだ。


 その怒鳴り声に反応して、他のレジスタンス達も威圧ではなく本気で武器をヴァンダルー達に向ける。森の中からは、微かに弓の弦が引かれる音が聞こえた気がした。


「ボク達を人質にでもしたつもり? 冗談じゃない!」

「その通りだ。私達をか弱い乙女か何かと勘違いしているのなら、後悔するぞ」

 対人戦の経験こそ浅いが、衛兵スキュラ達はそれぞれD級冒険者や平均的な騎士数人を一人で相手取れるし、プリベルは未熟だが魔術の使い手だ。レジスタンス十数人総がかりで何とか互角に戦える程の戦力である。


「我々の矢にはスキュラを一瞬で殺せる特殊な毒が塗ってある! 掠り傷一つ負えば即座に死ぬぞ!」

「う、嘘だっ! そんな毒、聞いた事もない!」

「我々が占領軍の研究所で極秘に開発されていた物を奪取したのだ! 貴様等が知らなくても当たり前だ。

 疑うならそこのゴーストに聞くが良いっ!」


 だがレジスタンスの男の脅し文句に、プリベル達の表情が強張る。掠り傷を負ったらそれだけで即死するというのは、野生動物や弱い魔物しか相手にした事がない彼女達にとっては大きなプレッシャーだ。

「じゃあ、【消毒】」

 しかし、ヴァンダルーの呟きと同時に、辺り一帯に【消毒】の魔術がかけられた。彼を中心にして円形に広がる不可思議な魔力に、レジスタンスは全員が成す術も無く飲み込まれた。


「い、今何を……」

「念のためにこの辺りの毒を全て消しました。矢筒の中の矢に塗られたのも、懐のも全て」

「な、何だとぉっ、そんな馬鹿な!?」

「それよりも、何でその毒の効果をオルビアさんに聞くと分かるのですか?」

「っ!?」


 レジスタンス側から見たヴァンダルー達の戦力の中心である、スキュラの動きを封じるために発した脅し文句だったが、そのために口を滑らせてしまった。


『もう一度答えて。リックがアタシを、その毒でアタシを殺したの!?』

 鬼気迫るオルビアの追及にレイモンドは口の端を痙攣させて抵抗したが、結局は答えた。

「そ、そうだ。リックが、籠絡したスキュラを人気の無い場所に呼び出し、毒針を仕込んだ指輪を使って、殺害し、死体を晒す作戦だった」


 一瞬時が止まった様に静寂が広がった。


『あっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!』


 オルビアが霊体を大きく歪ませ、哀しみと怒りが混ざった絶叫を上げる。


「こ、殺せ! 皆殺せ! 団長を助けろ!」

「俺はオルビアさんにかかりきりになるので、レイモンド以外は一人を残して皆殺しにしてください」

 レジスタンスとヴァンダルーが同時に指示を出し、動き出す。


「ぎゃばばばっばばっ!?」

「ごはっ!? ぐへぇ!」

 結果は一方的だった。


『あっひゃひゃひゃ!』

 ラピエサージュに感電死させられた元討伐隊の偵察兵キンバリー、サンダーゴーストと化した彼によってレジスタンス達が黒焦げにされていく。

「ギシャアアアアアア!」

 ヴァンダルーから生える様に出現したピートの角に串刺しにされたレジスタンスが、そのまま彼が【突撃】を続けたために、山の木々とサンドイッチされて肉片に加工される。


「ま、魔物っ!? 一体何処から!?」

「団長を連れて逃げろっ!」

 『新生サウロン公爵軍』のレジスタンス達は、特にこの場に居るレイモンド直属のメンバーは、全員が腕利きだった。一人一人が最低でもD級以上、半数以上がC級冒険者に匹敵する精鋭達だった。


 レイモンドが所属していた騎士団の騎士達という経歴から、構成が前衛職に偏っていたが対人戦では十分な戦力だ。

 だが突然強力な種族の異なる魔物が出現して襲い掛かって来るという、想定外の事態に対応できる程の力は無かった。


 しかも、指揮官であるレイモンドが最初から行動不能になっている。彼の指導力に惚れこんで着いてきたメンバーばかりだったため、彼に代わって指揮を執る人物が咄嗟には出てこない。この場に副団長のリックが居ればまだ別だったろうが。


 レイモンドを守ろうとする者、魔物と戦おうとする者、ヴァンダルーに斬りかかる者、その行動はバラバラだった。


「えーい、【岩砕】!」

 ヴァンダルーに切りかかって来た者はパウヴィナの鋼鉄製メイスと【武技】によって砕かれ、ブラッドスライムのキュールに飲み込まれる。

 道の左側ではピートとサンダーゴーストがそれぞれ稲光を発しながら暴れまわり、右側ではレビア王女率いる炎のゴースト達が木々と敵を灰燼に帰していく。


 ヴヴヴヴヴヴヴ。


 因みに、ヴァンダルー達の後方に展開していたレジスタンス達はセメタリービー達によって殲滅され、現在金属鎧も切断する丈夫な顎によって、肉団子に加工中である。もうすぐ卵から孵る女王蜂の転生体への食料作りの為に、彼女達はとても貪欲だ。


「ボ、ボク達必要だったのかな?」

「……わ、私達はあなたの護衛だから」

「キチチ」

 モフモフとした体毛を生やしたシープワームのペインに護られているプリベル達は、呆然とした様子で事の成り行きを眺めていた。


 彼女達はヴァンダルーから今回の作戦……レイモンド達を誘き出して真実を吐かせる作戦について説明された時に、既に【装蟲術】やピート達に関しても説明を受けていた。

 しかし、ここまで圧倒的な戦力差に成るとは思っていなかったのである。


「ところで、山火事に成ったりは?」

『大丈夫です。範囲内の燃える物は全て燃やし尽くしましたから、延焼する事はありません!』

「そ、そう、なら大丈夫だね」

 自信満々なレビアの背後には、燃やし尽くされた炭と灰だけの斜面があった。レジスタンスが何人かそこには居たはずなのだが、骨が残っているかもプリベルには確認できなかった。


 そして呆然としたままのプリベル達にパウヴィナが声をかける。

「お姉ちゃん達、油断しちゃダメだよ。まだ生きてる敵が居る間は、気を引き締めないと。勝ったと思った時が一番危ないんだよ。

 ザンシン、って言うの」


「う、うん。そうだね。気を引き締めないとね」

「ええ、油断は良くないな」

「ザンシン、ね。分かったわ」

 焦げ臭い匂いすら急速に薄れていく現実感の薄いレビア達の戦いの後とは違い、血と何かの破片がこびり付いたメイスを持ったパウヴィナの生々しい言葉に、プリベル達も現実感を取り戻したようだ。


「って、それよりオルビアさんは!?」

 はっと我に返ったプリベルがオルビアの方に視線を戻すと、彼女はもう絶叫を上げるのを止めていた。

『コロシテ、ヤル!』

 その姿は生前や力を持たないただの霊だった頃とは大きく変わっていた。


 上半身や顔は肌が濡れている以外は変わっていない、しかし長く伸ばしていた髪や下半身の触腕が液体に代わっていた。

 それに飲み込まれたレイモンドが、ゴボゴボと口や鼻から泡を出している。


「ふぅ、元々ゴーストだったレビア王女達の時より魔力を多く使ったような気がする。

 あ、気が済んだら止めてくださいね。それはまだ使うので」

『どうしてっ!? だってこいつのせいで……っ!』

「リックって人を野放しには出来ないでしょう?」


『それは……そうだよね。分かった』

 オルビアが液体の触腕を一振りすると、ゴミのようにレイモンドが地面に転がった。白目を向いたままで、ゲホガホと咳き込みながら水を吐いている。


 意識は殆ど無さそうだが、念のために手足を糸で縛る。

「俺の目を見て勧誘しようとしたのが、間違いでしたね」

 レイモンドの精神力は平均よりも強かった。強靭、と評しても問題無い水準だった。その彼をヴァンダルーが短時間で【精神侵食】スキルで洗脳できたのは、彼自身がヴァンダルーを説得しようと彼に集中したからだ。


 余程ヴァンダルーを仲間に加えたかったのだろう。彼の挙動全てに注意を払い、集中していたため逆に【精神侵食】スキルの効果をまともに受けてしまったのだ。

 目を合わさずただ話しかけるだけなら、殆ど効果は無かったろうに。


「貴様っ! よくも団長を、皆を!」

 そこに、ピートが生け捕りにした一人の服を咥えて運んでくる。脚が曲がってはいけない方向に曲がっているが、怒りで痛覚が麻痺しているのか、悲鳴一つ上げずにヴァンダルー達を睨みつけてくる。


「レイモンド団長は、レジスタンス運動の要なんだぞ! 団長を殺す事が占領軍を喜ばせるだけだという事が分からないのか!?」

「だから殺すのはとりあえず止めたじゃないですか」

「とりあえずだと!? 今すぐ解放しろっ! 貴様はスキュラ族に肩入れするあまり、大局的視点を失っているのだ! 小さな犠牲を惜しむあまりっ、大勢の人々を――」


「……ぺろーり」

「にゃ、にゃにをするす………かへ」

 伸ばした舌で見開いていた眼球を舐めてやると、男はへにゃりと地面に突っ伏した。


「こ、殺したの?」

「いえ、面倒だったので動けなくなる毒を目から投与しただけです。動けないだけで、意識もしっかりあります」

 会話する時間が無駄にしかならないと思ったヴァンダルーは、舌をしまうと動けない男の耳元で囁いた。


「貴方にはこれから一仕事して貰います。アジトに帰って、レイモンドの命が惜しければリック副団長とスキュラ連続殺人事件に関わった団員は、全員指定の場所まで来るようにと伝えてください。

 場所は――」

 【精神侵食】スキルでその仕事を果たさなければレイモンドが殺されると思い込まされた男は、ヴァンダルーに毒を解毒され、脚の骨折を治された途端走り出したのだった。


 体内に位置を追跡するための寄生虫と寄生植物を埋め込まれている事には気が付かずに。更にその上空には、使い魔のレムルースが数匹浮かんでいる。


「他のレジスタンスの霊や、レイモンド本人からアジトの場所は聞きだせますけど、そこにリックが居るとは限りませんからね。仲間に呼び出してもらうのが一番いいでしょう」

『そっかっ、生餌って生きてないと役立たないもんね! ヴァン君、チョークールっ!』


「クールって言うか、ちょっと卑怯なような……でも山賊を捕まえるのに良く似たような事するから良いのかな。

 でも、あのリックって人来るのかな?」

 プリベルがヴァンダルーの手口に若干考えてから同意して、更に疑問を口にするが衛兵スキュラの一人が「大丈夫でしょう」と保証した。


「私も彼……奴を外見以上には知りませんが、このレイモンドは奴らのレジスタンス組織にとって要の人物の筈。単純に指導者だからではなく、人間社会では公爵家の血を引く人物であるというだけで代わりが他に居ないはずです。

 簡単には見捨てないでしょう」


「そういうもん、なの?」

 あまり血統主義に馴染みの無いスキュラ族のプリベルには、すぐ理解できない話である。しかし、実際にレイモンドがサウロン公爵家の血を引く人物である効果は大きい。


 民衆にとってのシンボルとしての効果や、選王国の貴族達への説得力、そして彼らが『新生サウロン公爵軍』と名乗っている根拠にもなっている。

 レイモンドを失った瞬間、『新生サウロン公爵軍』にどれほどの組織力が残っていても彼等は凡庸な反抗勢力に落ちぶれてしまうのだ。


『それにあの人……あいつ……リックは、兄のこいつを凄く慕ってるから、見捨てるって事は無いと思う。どんな話でも、何時の間にか兄上がどうとかって話になるし』

「オルビアお姉さん、それブラコンが過ぎると思う」

『あの時はっ! お兄さん思いの良い人なんだなって思ったのよ~っ!』

 パウヴィナの正直な一言に、水滴を振り散らしながら絶叫するオルビア。まだ情緒不安定なようだ。


『あとっ! リックの奴はこいつと種違いの兄弟だから、公爵家の庶子はレイモンドだけだから! あいつはこいつの代わりには成らないから!』


「じゃあ、まず間違いなく何かリアクションは返ってきますね。

 とりあえず一旦ペリベールさんの所に戻って、それから待ち合わせの場所……キャンプ地まで行きましょうか」




・名前:オルビア

・ランク:4

・種族:ウォーターゴースト

・レベル:1


・パッシブスキル

霊体:5Lv

精神汚染:6Lv

水属性無効

液体操作:5Lv

実体化:5Lv

魔力増強:2Lv


・アクティブスキル

格闘術:2Lv

漁:3Lv

家事:2Lv

舞踏:4Lv

射出:1Lv


・ユニークスキル

メレベベイルの加護




・魔物解説:ウォーターゴースト


 水辺で深い未練や憎しみを抱えたまま死んだ霊が変化すると言われる魔物。古くから水辺は霊が集まると伝えられる理由の一つであり、ダンジョンや魔境以外で目撃されたゴーストの上位種の中では特に件数が多い。


 主な攻撃手段は犠牲者を水辺に引きずり込んで、若しくは液体化している自分の身体の一部を使用して溺死させる。又、強力な個体は液体化した霊体を射出して飛び道具とし、水属性魔術を使いこなす。

 その性質上多くの個体が生前の記憶を持っているが、それは抱えている未練や恨みに関する事だけでそれ以外は忘れている場合が多い。


 また人格は大きく歪んでおり、自分の同類を増やすために無差別に襲い掛かる個体も少なくない。そのため、生前からの知人でも説得はほぼ不可能である。


 愛する者に殺され死体をきちんと葬られる事無く水辺に捨てられた霊から変化した個体は、特に凶暴で尚且つ強力に成ると言われており、恐れられている。


 オルビアの場合生前の記憶をほぼ維持している。更にアンデッドでありながら神の加護を所有しており、既にヴァンダルーの【導き:魔道】の影響も受けているため、通常の個体よりも遥かに強力な存在と成っている。

ネット小説大賞の応援期間が始まりました! しかも期間が六月末日まで……途中で息切れしない程度に頑張ります。


6月3日に閑話11 6月4日に113話、6月6日に114話、6月7日に115話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
こ言うの面白い
[一言] うぉーたーごーすと! これまたやっかいな、、いえ、強烈な仲間が増えましたね。
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