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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第五章 怪物の遠征編
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百六話 異種族間コミュニケーションの難しさについて

 パウヴィナとレビア王女を置いて、耳に届いた悲鳴の主の元に急いだヴァンダルーが見つけたのは川で溺れているらしい、地球ではまず見ない明るいグリーンブロンドの美少女だった。

「きゃーっ、きゃーっ、きゃぁぁぁ~♪」

 悲鳴(?)を上げながら、両腕でばしゃばしゃと水面を叩いている。その周りには、危険な魔物や殺人犯らしい妖しげな人影は存在しない。


 ただ溺れそうになっているだけ……なのかもしれない?


「うーん?」

 川岸の茂みから顔を出すような姿勢のまま、伸ばした舌をしまうのも忘れてヴァンダルーは美少女をじっと見つめた。

 何故かと言うと、目の前の光景がとても奇妙だったからだ。


 普通の水泳自慢の人なら溺れかけている美少女を助けなければと、すぐ川に飛び込むかもしれない。

 しかし、どう考えてもあの美少女が溺れかける訳が無いのだ。

 まず、あの美少女は間違いなくスキュラだ。


 溺れている美少女の下半身は水に隠れて見えないが、もうすぐ冬に成るこの時期、スキュラの自治区内でスキュラの集落近くを流れる川に、胸に布を巻いただけの半裸で入っている。状況証拠的には、もう断定して良いだろう。

 下半身がタコの触腕になっているのは勿論、人魚ほど水中に適応していないが半日程度ならずっと潜りっぱなしでいられる種族だ。


 勿論、スキュラの中には泳ぎが苦手な人も居るかもしれない。それに川の増水や体調不良が重なれば、溺れる事だってあるだろう。

 しかし、この川の流れは穏やかだ。今も美少女の横を、木の葉が緩やかに流れて行った。


「そして何より、俺の【危険感知:死】に少しも反応しない」

 それは美少女がヴァンダルーに対して無害である事と同時に、彼女が死ぬ危険性が今は全く無い事を表していた。

「それに悲鳴もよく聞けば、悲鳴じゃないですし」

 何故か歌う様な抑揚がある。


 しかし、だとすると彼女は何でこんな所で溺れる演技なんてしているのかという疑問が生まれる。

 地球のファンタジー作品では、スキュラは溺れた演技をして助けようと近付いてきた者に襲い掛かるモンスターとして扱われる事が地球ではあったが、それだろうか?


 でも、それにしては殺意は無さそうだ。


『それでそれで、行くの? それとも無視する?』

 恐らく美少女の知り合いだろうオルビアの霊に聞こうにも、彼女は何故かワクワクと瞳を輝かせてヴァンダルーが何かするのを見守る姿勢だ。


「うーん、とりあえず声はかけましょうか」

 助けを求めているようには見えないが、一応危険な殺人犯が辺りに居るかもしれないのだ。声ぐらいはかけた方が良いだろう。


 濡れるのが嫌なので【飛行】で飛んで近付こうとして、魔術の行使を察知されて敵と勘違いされたら面倒だと思ったヴァンダルーは、指先から伸ばした糸を【操糸術】で足代わりに操って進む事にする。

 見えない糸を足代わりにしている姿も異様だが、正面から見れば水面を歩いているように見えるだろう。


「きゃー♪ きゃあぁ~あ♪」

「もしもし、すみませんがちょっと良いですか?」

「きゃー……はへっ?」

 声をかけられて、きょとんとした顔をヴァンダルーに向けて動きを止める美少女。やはり、本当に溺れていた訳ではないらしい。


「な、何でこんな所に子供が、それも川を歩いて? そ、それよりも、あんた今、ボクに、近付いた!?」

 そう言いながら、美少女の表情と顔色が目まぐるしく変わる。前半は驚きから困惑に変わり、後半にかけて徐々に頬を赤く染めながら狼狽え始める。

 余程動揺しているのか、彼女の周りにぐねぐねとタコに似た触腕がのたうっている。


 よく表情が変わる人だな、羨ましい。やっぱりスキュラだったのか。異世界にはボクっ娘が存在するのか。そんな事を思いながら様子を見ていたヴァンダルーは、彼女が落ち着く様子が無いので声をかけた。

「大丈夫ですか? 落ち着いてください、俺はあなたに対して何の悪意も持っていません」

 それに対して美少女は頭を抱えてのけぞった。


「しかも声をかけられるとか!?」


 どうしろと?


 そう聞き返す前にヴァンダルーの胴体に触腕が巻きつく。

「ちょっとこっち来て!」

 そして川の辺まで連れて行かれたのだった。




「うあああああ……どーしよーどーしよーマジでどーしよぉ~。ボクは求愛の儀式の練習してただけなのにぃぃ」

 川の辺で頭を抱えて懊悩しているスキュラの美少女によると、彼女が川でしていたのはスキュラ族に伝わる伝統的な求愛の儀式の練習だったらしい。


 結婚を望むスキュラは、泳ぎながら歌と踊りで「誰か私と結婚してください」とアピールする。

 男はそのスキュラと結婚したければ、水に入ってスキュラに近付き声をかけるか抱きつく。

 以上の手順を踏むと、プロポーズが成立するそうだ。


「なんとまあ……」

 地球では罠とされている行動が求愛の儀式として採用されているとは思わず、驚くヴァンダルーだった。

(多分、ザッカートや他の勇者から聞いた話をヴィダや他の人がスキュラの始祖に伝えて、それが形を変えて残ったのかな?)


 スキュラを初めとした新種族を数多く生み出した女神ヴィダだが、彼女も別に最初から生まれてくる種族の外見や内面をあらかじめデザインして産み出した訳ではない。

 魔王との戦争で荒廃した世界を復興するために、強い種族を産み出そうとしただけだ。予想くらいはしただろうが、最初から肌の黒いエルフや、下半身がタコの触腕に成っている女性だけの種族を産もうと考えた訳ではないはず。


 だから、結果的に産まれた各種族の始祖の姿から、かつて勇者達から聞いただろう地球の神話や伝説、ファンタジー作品に登場する存在から名前を取ったのだろう。

 それでスキュラはそう名付けられ、始祖に伝わった話が奇妙な求愛の儀式に形を変えたのだろう。


『今はそんなにしないけどね、この儀式。何でもずっと昔、本当に溺れてると勘違いした男が何人も出て、その後で揉めたらしいから。今じゃもう交際しているカップルとか、この娘みたいに祭の儀式としてするぐらい。

 あたしとあの人もしなかったしね』

 懊悩している美少女からの説明を、オルビアが補足する。


 どうやら日本で例えると交際の前に詩を贈り合う様なものらしい。


「教えてくれれば良かったのに」

 知っていたら近付かずに離れた所から声をかけたのに。

『だって、ヴィダの御子なら言わなくても知ってると思ったのよ』

「だって気が付かなかったんだもんっ!」


 オルビアの霊が見えない美少女が、自分が言われたと思って反論する。しかし、言い終わると肩を落として深い溜め息をついた。

「はぁ……でもやっちゃったもんは仕方ないか。恥ずかしいからって、一人で練習していたボクが悪いんだし。

 ボクはこの近くの集落のスキュラで、プリベル。君は?」


「ヴァンダルーと言います」

『プリベルは族長の十二番目の娘なんだよ。やったねっ、コネゲット!』

 最初の悲劇的な雰囲気は何処に? そうオルビアに突っ込みたい衝動を抑えて自己紹介をする。


「ヴァンダルーか。じゃあヴァン君、お父さんとお母さんは何処? 求愛の儀式の事を説明しないと……」

「え? 事故って事で無効にならないんですか?」

「ならないの、ボク巫女だから。まあ、本当に結婚まで行かなくても良いんだけど、お祭りに協力して欲しいんだよ」


 目撃者も居ないのだから、無かった事にすれば良いのにとヴァンダルーは思うが、プリベルの立場上それは出来ないらしい。

「巫女って言うのは、冬の誕生祭で神様に求愛の儀式を捧げる役なの。それで、巫女に選ばれたら相手を一人だけ選んで求愛の儀式をするんだけど……二人以上の相手を選んじゃいけない決まりなんだよね」

 まさかこんな所を子供が通りかかるなんてと、プリベルは溜め息を付く。


「ボクは……ある事情で急に巫女に決まって、まだ相手の人を選んでなかったからまだ何とかなるけど……君、男の子だよね? 結構ゴツゴツした名前だし」

「男の子ですね」

「じゃあ、ダメだ。君のお母さんたちに説明して、儀式に協力してくれるようお願いしないと。それでダメならボクの母さんに事情を説明して、女神様達に謝って巫女を他の子に交代して貰うけど」


 信仰的な問題らしい。本来のヴィダ信仰には儀式的な物は殆ど無いそうだが、集落の結束力を高める為等の理由で考案されたのかもしれない。

「あれ? でも他の集落でも君みたいに白い髪の子って居たかな? 君、何処から来たの?」

 ふとヴァンダルーに見覚えが無い事に気が付いて、しげしげと彼を見つめるプリベル。


『プリベルがあたしの代わりに巫女に成ったんだ。元々あたしと同じ候補だったもんね』

 彼女が急に巫女に成った事情は、本来巫女に指名されていたオルビアが殺されたかららしい。

「分かりました。協力します」

 地球では宗教的な事に関わっていなかったヴァンダルーだが、現世では『ヴィダの御子』だ。思いっきり宗教関係者である。

 そうである以上、同じヴィダを信仰するプリベルとスキュラ達に協力するべきだろう。オルビアも喜んでくれそうであるし。


 それに、スキュラ族の好感度は種籾を分けてもらうためにも稼いでおきたい。


「えっ、良いの? ありがとう! でもまずご両親に説明しないと」

「大丈夫です、理解のある母さんなので」

 念のためにダルシアが宿っている遺骨はキャンプ地に置いて来ている。今はリタ達が守っているはずだ。この場には居ないが、多分大丈夫だろう。


「ヴァン~」

 そうこうしていると、パウヴィナの声が聞こえてきた。


「うん? 友達……だよ、ね?」

 聞こえてきた幼い声にそちらを向いたプリベルが、そのまま硬直した。

 金をそのまま使った様なブロンドの、見た目は八歳前後の少女。ただし、身長は約二メートル半ば近く。しかも、用心の為か片手にはヒグマも殴り殺せる鋼鉄製のメイスが握られている。


「スキュラさん見つけたの? 凄いね、ヴァンっ」

 ニコニコと無邪気な笑顔を浮かべながら、ばしゃばしゃと川を歩いて渡るパウヴィナ。どうやら、レビア王女は姿を消しているようだ。

「妹的存在のパウヴィナです」


「そ、そう、随分大きい妹だね。獣人種と巨人種のハーフかな?

 やあっ、ボクはプリベル。よろしくね」

 パウヴィナの金髪から見える三角形の耳に気が付いてそう見当を付けるプリベルだが、流石にノーブルオークハーフだとは気が付かない。……歴史上パウヴィナ以外存在しないだろう種族なので、気が付かなくて当たり前だが。


「よろしくお願いしますっ。ヴァン、オルビアお姉さんの事は話した?」

「オルビアお姉さん? なんで君達がその名前を? オルビアさんは十日前に……」

 パウヴィナがオルビアの事を口にしてしまうが、オルビア本人が『後はあたしが説明するからさ、魔術かけて』と言っている。


 確かに口下手な自分が説明するよりも良いかもしれない。それに生前からの知り合いなら大丈夫だろうと、ヴァンダルーはオルビアに【可視化】を使った。


『プリベル、ごめんね、あたしが死んじゃったせいで迷惑かけちゃって』

 虚空から浮き出る様に姿を現すオルビアに、プリベルは目を見張った。そして、瞳に涙を浮かべると――

「お、オルビアさ~んっ!」

 感極まって、オルビアの胸に飛び込もうとした。


『ちょおっ!?』

 しかし、オルビアは【可視化】の魔術で普通の人にも姿が見える様になっただけの状態だ。

 実体はない。


 結果、プリベルはオルビアを突き抜けて後ろに居たヴァンダルーにタックルするような形で川に落ちたのだった。

(……ラッキースケベって、ラッキーじゃないな)

 プリベルに押し潰される形で川に落ちたヴァンダルーは、しみじみとそう思った。


 決して大柄ではない、どちらかというと小柄なプリベルだがそれは上半身だけの話だ。

 下半身は根元から先端まで三メートルは越える太い触腕が八本生えているので……彼女の体重は百キロを超えているのだ。




 ひぃひぃと情けない様子で、レジスタンスの男女が走っていた。

「クソっ、もうレジスタンスなんてやってられるかっ!」

「ハッジ兄貴が言い出したんじゃないかっ、レジスタンスを名乗れば飯が食えるって!」

「うるせぇっ! お前らだって反対しなかったろうが!」


 正確には、レジスタンスを詐称していた男女が走っていた。


 彼らは故国の為に侵略者と戦う崇高な志を持つ若者達では無く、単に真面な職にありつけず食いっぱぐれた若者達だった。

 冒険者をやろうにも、食って行けるD級以上に成れる自信も度胸も、自分を根気強く鍛える忍耐力も無い。

 だからといって、大それた犯罪に手を染める程自暴自棄にもなれない。


 そんな時レジスタンスと名乗れば、村や町で食料を援助してもらえるという話が耳に入った。

 彼らはそれに飛びついた。実際にアミッド帝国とミルグ盾国の占領軍と戦おうなんて、無謀な事はしない。ただ、幾つかの村や町をこっそり巡って、支援者にレジスタンスと名乗って少々援助して貰うだけだ。


 実際に抵抗運動をしている訳じゃないから占領軍に目を付けられる事は無いだろうし、村人から無理に奪う訳じゃないから冒険者ギルドに討伐依頼が出される事も無い。

 儲けは少ないが、危険は本物のレジスタンスと出くわさないよう気を付けていれば良いだけの、楽な商売だ。


 つい一時間前まではそう思っていた。


 彼らの考えは甘かった。占領軍の何とかって貴族率いるレジスタンス討伐隊に見つかってしまったのだ。

 討伐隊はレジスタンスが今までどんな事をしてきたのか、軍に与えた具体的な損害の大きさ、そんな事は事前に調べない。

 レジスタンスと名乗る連中を狩り出し、狩り出してから調べれば良い。


 亡きサウロン公爵の庶子とその弟が率いる『新生サウロン公爵軍』や、『解放の姫騎士』率いる『サウロン解放戦線』等の有名どころなら兎も角、幾つも存在している無名のレジスタンス組織に時間をかけるつもりは無いのだろう。


「ちくしょうっ、ベンやビックスがやられたっ! ターミも……あんたのせいだよっ!」

「俺のせいかっ!? ミーチャっ、お前だって二束三文で身体を売るような娼婦に落ちずに済むって、喜んでただろうが!」

「煩いっ、今は逃げるんだよっ! 少しでも遠くに!」


 討伐隊は彼等偽レジスタンスを待ち伏せして、三分の一程を弓矢で倒した。彼らは抵抗する事も仲間を助ける事も出来ずに逃げだし、今に至る。

 背後に討伐隊の追手の気配は無いが、突然現れるのではないかという恐怖が止められず、彼らは足を止める事が出来なかった。


 しかし限界はすぐに来た。心臓は弾けそうだし、呼吸は荒く、足は熱く痛む。一人が堪らず立ち止まると、それを合図にしたように皆立ち止まって座り込んだ。

 暫く、彼らが呼吸する息遣いだけが山を満たした。日差しは冬が近いのに温かだが、それに和む余裕は彼等に無い。


「に、逃げるって、何処へ?」

 呼吸を整えた仲間にそう尋ねられ、ここまで夢中に逃げてきたハッジ兄貴と呼ばれた男は顔をくしゃくしゃにした。

「ちくしょうっ! レジスタンスなんてやらなけりゃあ、こんな事には――」

『れじすたんす?』

「っ!?」


 突然聞こえた聞き覚えの無い声に驚いて顔を上げると、茂みから上半身を覗かせた半裸の美女がこちらを見下ろしていた。

(あれは、スキュラっ!?)

 ハッジは、美女の髪と瞳の色が緑である事から彼女の種族をスキュラだと見てとった。


 彼はスキュラの髪や瞳は緑色が多い事を知っていたのだ。それに冬の近いこの時期、目の前の美女のように半裸で森を出歩くのは、スキュラぐらいだ。

(そう言えば、スキュラの自治区が近かったな。何時の間にか入ってたのか。そうとなれば……)

「ああ、そうだっ、俺達はレジスタンスだ! 追われてるんだっ、匿ってくれ!」


「そうなんだよっ、助けてっ!」

「頼むっ、少しの間だけで良いっ、一晩だけでも!」

 目の前に現れた希望の蜘蛛の糸を掴もうと、レジスタンスの芝居を再開するハッジ達。スキュラの集落に逃げ込み、追って来ているかもしれない討伐隊から身を隠そうと企んでいるのだ。


 スキュラの女は暫くハッジ達の様子を虚ろな表情で眺めた後、もったりとした口調で応えた。

『れじすたん、す、たすける』

 その返答に、ハッジ達の顔が希望に輝く。


「ああ、ありがとうっ、あんたは俺達の命の恩人っ、女神さ……ま……?」

 ハッジの見ている前で、バキバキと茂みが折れる。スキュラの美女の上半身が、近付いてくる。

 ただ、上半身に続くはずの下半身はタコの触腕ではなく丸太よりも太い大蛇のものだった。


「ら、ラミア? 違うっ、ラミアでもスキュラでもねぇっ!?」

 一瞬大蛇の下半身を持つヴィダの新種族と思ったハッジだったが、すぐに自分がとんでもない勘違いをしたと気が付いた。


 美女の下半身は、更に太い蛇の身体に繋がっていたのだ。そして、その根元に繋がっているのは、美女の下半身だけではなかった。

 耳の尖ったダークエルフの、脇腹にエラのある人魚の、両腕が翼に成っているハーピーの、額に複眼があるアラクネの、小柄なドワーフの、背中に翼が生えた竜人と肌が青紫色の魔人の、鬣を伸ばしたケンタウロスの、容姿だけ見れば美女と称えられるべき女達の上半身が、蛇の首に繋げられていた。


「ひゅ、ひゅ、ヒュドラの変異種だぁぁっ!?」

 正確には、切断した頭部の代わりに種族の異なる美女九人の上半身を縫い合わせて作られた、ヒュドラゾンビなのだが、そんな事はハッジ達にはどうでもいい事だ。


『『『れじすたんす~♪』』』

 重要なのは、目の前の存在が自分達ではどうにもならない化け物である事だけだ。

「に、逃げろぉっ!」

 謳う三人(三本?)の美女と、無言のまま迫る他の六人の美女に対して叫んで、一目散に逃げ出そうとするハッジ達だったが、ついさっき限界以上に体力を消費したばかりだ。走るどころか、歩くだけでも精一杯な者が殆どだ。


「ぎやあ゛あ゛っ!」

 そこに何かが連続して弾ける様な音と、耳をふさぎたくなるような断末魔の悲鳴が上がった。

 驚いて足を止め、ハッジ達が上を見上げると……そこには異様に大きな手足をして、背中からは皮膜の翼を、腰からは先端に毒針を生やした蛇の尻尾を伸ばした肉感的な美女が飛んでいた。


 片手に下げた見覚えの無い濃い緑色の服を着た男が、バヂバヂと音を立てながら白い煙を上げている。


「ひ、ひいぃ……お、おかあちゃぁぁん……」

 恐怖のあまりへたり込んで涙を流すハッジ。他の偽レジスタンス達も、膝から崩れ落ちる様にして倒れ込んだり、尻餅をついた姿勢のままバタバタと逃げようと手足を動かしている。


『れじ……ずだ……?』

『『『れじすたんす~♪』』』

『だずげ、る゛ぅ?』

『かくま、う』『おわれ』『おわれてる』『かく、まう』


 ヤマタとラピエサージュは、たどたどしい言葉とハッジ達には理解不可能な仕草で会話を成立させると、ハッジ達を捕まえ始めた。

「ひやぁぁぁぁっ!」

「助けてぇぇぇっ!」

「死にたくないっ、死にたくないっ。お願い殺さないでくれよぉぉ……」


『だすけ、るぅっ』

『か、くまう』『かくま?』『かくっ』『まう……まう……』

 泣きながら悲鳴を上げて命乞いをするハッジ達をそれぞれ捕まえて、周辺の警戒に出ていた二人はキャンプ地に帰ったのだった。




・名前:ヤマタ

・ランク:6

・種族:パッチワークヒュドラゾンビ

・レベル:0


・パッシブスキル

闇視

怪力:3Lv

猛毒分泌:牙:6Lv

魔術耐性:1Lv

水中適応

竜鱗:1Lv

高速再生:7Lv

身体伸縮:首:3Lv


・アクティブスキル

歌唱:3Lv

舞踏:3Lv

並列思考:4Lv

叫喚:3Lv




・魔物解説:パッチワークヒュドラゾンビ


 九本の首を持つヒュドラの変異種の死体の頭部を切り落とし、異なる種族の美女の上半身を繋ぎ合わせて作ったテーネシアの芸術作品(ゾンビ)

 その造形は見事で、異形の美を体現している。


 ただ、その戦闘力は通常のヒュドラよりも大幅に落ちている。武器になるべき毒牙が無く、上半身の殆どは防御力が低いからだ。

 ランクは6だが、実際にはランク4の魔物と互角程度の力しかない。


 ただ、元々テーネシアは動くインテリアとしてこのアンデッドを作りだしたので、それで問題無かったのだろう。

 人造であるため当然だが、ラムダでは未発見のアンデッド。テーネシアと同じ悪趣味の持ち主が存在しない限り、同一の個体は存在しないだろう。


 ヴァンダルーがテーネシアの隠れ家から回収した後は、改造手術などを繰り返した結果、それぞれの上半身の口を使って言葉を発し、犬歯を毒牙に変え、腕を動かして物を持つ事等が出来るようになった。

 逆に言うと、手術を受ける前はそれすら出来なかったのである。

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援お願いします。


5月18日中に107話、21日に108話、25日に109話を投稿する予定です。

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