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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第五章 怪物の遠征編
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百話 ギックリ腰にはダンジョン攻略が効果的

祝百話! ここまで続けてこられたのも皆様のお陰です。これからも拙作をよろしくお願いします。

 ガチャガチャと音を立てて、金属製のプレートアーマーを着た人々が走り込みや、槍の素振りや弓の試し打ちをしている。

 騎士の訓練ならそう珍しい光景ではないが、実際に訓練を受けているのは一般人、しかも若者だけではなく三十を超えた中年の男女や、中には白髪頭の老人も混じっている。


 彼等からは普段畑仕事や石工や大工などの力仕事で生計を立てているからか、ひ弱な印象は覚えない。しかし、それでも何十キロもある金属鎧を着たまま激しい運動をするのはキツいはずだ。


「いや~、身体が軽いっ! まるで羽でも生えているようだ」

「若返った気分だっ!」

「訓練ってのは、楽しいもんだねぇ」


 しかし、一般人達は気軽にスポーツでも楽しむように気持ち良く汗を流していた。新人騎士が見たら、自信を無くす事請け合いである。

『身体に余計な力が入っています。もっとリラックスして』

『もう一度型を最初からです。構え、突き、戻して構え、払い』

 だが彼らが纏っている鎧から彼ら以外の声がする事に気が付けば、自信を取り戻す事だろう。


 彼らは、霊が取り憑きアンデッド化した鎧の魔物、リビングアーマーを纏って訓練をしているのだ。

「この訓練方法、思ったより効果的ですね」

 発案者のヴァンダルーは楽しげな皆の様子を見て満足げに頷いた。


 ハートナー公爵領の赤狼騎士団だった霊を、彼らが生前使っていた鎧に宿したリビングアーマー達は生前培った【槍術】や【弓術】スキルをほぼ取り戻している。平均して4レベル、二流以上一流未満程度だが、元開拓村の一般人の教官役には十分だ。


 更に、彼らを纏う事によって一般人達はまるでパワードスーツを着ているような状態になるため、体力を補いながら長時間訓練を受ける事が出来る。

 教えるリビングアーマー側も、指導対象の緊張や筋肉の強張りなどを敏感に察知して指導力を補える。

 更に、当然鎧なので怪我をしないよう身体を守る事が出来る。


「リビングアーマー練兵術……これからもこの手で行こう」

「私は例外にしてくれないっ!?」

 頬を赤くしてそう訴えるのは、リナだ。彼女もリビングアーマーを纏っているので別に疲れている訳ではない。


『そんなに恥ずかしがらなくても良いと思いますけど』

 ただ、リナが纏っているのはマジックハイレグアーマーのサリアだった。赤狼騎士団のリビングアーマーの数が足りなかったのと、彼女に合うサイズの鎧が無かったからだ。


『別に素肌の上に着ている訳じゃないんですから』

「それはそうだけど、なんだか恥ずかしいのよっ」

 リナは動きやすい簡素な服の上下を着た上からサリアを纏っているのだが、胸の谷間も臍も背中も見えるデザインのサリアの本体は彼女の羞恥心を掻き立てるようだ。


「せめて外套ぐらい着けさせてよっ」

『でも、動きにくいですよ? 私だけなら兎も角、リナさんは慣れてないんですし、もし足や腕に絡まったら危ないです』


 リナは羞恥心からそう主張するのだが、彼女が何故恥ずかしがるのかがサリアには分からない。何せ問題に成っているのは彼女の本体の形状なのだ。既に人を止めて約七年、サリアが羞恥心を覚えるポイントは生前とは大きく変化していた。


 ただサリアが主張する事も間違いではない。身体を隠すような外套を纏った状態で、慣れない初心者に何かあったら大変だ。サリアがフォローするにしても、完全無欠ではないのだし。


『私よりも姉さんの方が良いって選んだの、リナさんじゃないですか』

「そうですわよ。そんなに恥ずかしがる事ありませんわ」

 そしてこちらは同じくサイズの合うリビングアーマーが無かったため、ビキニアーマーのリタを纏っているタレアだ。しかも、彼女の場合リナのように服の上からではなく、ヴァンダルーが実験的に作っているインナーの上にリタを着ている。


 肌にぴったり吸い付き第二の皮膚のように動きを阻害しないタイプのインナーなので、露出度は無いが胸や腰の形は丸わかりだ。

「私と同じで、肌は出ていないのですから」

 ただ、ある意味肌を晒すよりも異性の関心を掻き立てる格好をしているのだが、タレアにそれを気にした様子は無かった。


 普段から露出度が高い格好をするグールに元人種のタレアもしっかり染まっているようだ。

「あー……うん、確かに恥ずかしがるような事じゃないような気がしてきた」

 ヴァンダルー以外の男性陣の視線を深い胸の谷間に集めつつも、恥じる様子の無いタレアを見るとリナも思い直したようだ。


 自分以上に慌てている人を見ると、つい冷静に成ってしまうのと似た心理かもしれない。


 尤も、タレアも筋肉が発達して太くなってしまっている腕はインナーの上から布をリボンのように結んで目立たない様にしているのだが。彼女にとって羞恥心を覚えるのは胸や腰ではなく、二の腕なのだ。

 それをやや残念に思いながら、ヴァンダルーはシュルシュルと糸を吐き始めた。


「とりあえず、装飾を追加する形で体が見えにくいようにしましょうか」

 常にリナの横にタレアが居る訳ではないので、ヴァンダルーは【操糸術】で手早く編んで行った。

 あまり彼女を恥ずかしがらせるのも、フェスターに悪い。


 因みに、タレアに纏われたリタは若干機嫌が悪かった。それはタレアに「ちょっと胸の辺りがきついのですけど、調整できませんの?」と言われたからだった。

『くっ、流石タレアさん。大きさではまだまだ私は勝てないようです』

『リタ、その分タレアさんはお腹も太いから――』

『でも姉さんっ、それは脂肪じゃなくて腹筋なんですよ!?』


「……あなた達、丸聞こえでしてよ」




 一時間ほどの準備運動でリビングアーマーを着て身体を動かす事に慣れたリナ達は、【迷宮建築】スキルを試すために作られたE級ダンジョン、通称『グールキングの試験場』に早速潜る事になった。

 勿論、いきなり実戦で技を磨けと言っている訳ではない。


「では始めー」

「おっ、おぅっ!」

 多少ビビりつつも、ヴァンダルーの号令に応えてイワンがコボルトに向かって槍を突きだす。木偶人形の様に動かないコボルトの胸に穂先が突き刺さり、背中から顔を出した。


 イワン以外の者達もやはり動かない魔物に対して槍を突き、クロスボウの引き金を引く。それを魔物は避けるそぶりも見せずに受けて、そのまま倒れる。


「た、倒した……」

「あたしの矢が当たった?」

「ゴブリンなら退治した事もあったが、素早いコボルトを俺が……」

「うっ、思っていたより、嫌な手応えだな」


 経験値が入る感覚や達成感に高揚する者、血肉のある生物……それも魔物とは言え人型の生物を殺す手応えに顔を顰める者。様々な反応がある。

『やはり、最初は木偶人形相手に慣れさせたのは正解ですね』

 元赤狼騎士団の分隊長のリビングアーマーの言葉に、ヴァンダルーは頷いた。


 イワン達が今倒した魔物は、ヴァンダルー製ダンジョンで創られる魂の無い木偶人形の魔物だ。

 普段は通常のダンジョン産の魔物と同じく、侵入者を感知したら襲い掛かる様に設定している。ただ、戦闘不能になった相手等には止めを刺さない、逃げる者は追わない等の制限はつけているが。

 しかし今は訓練のために完全に木偶人形……訓練用の木人と全く同じで何をされても動かない様に設定し直している。


 この状態だと既にある程度の戦闘技術を持っている者にとっては、草木を刈っているのと同じでスキルは殆ど上がらない。

 しかし、スキルの無い素人が腕を磨くのなら理想的な訓練になる。


 戦闘系スキルを手に入れたい場合、最も効率が良いのはやはり実戦だ。それは、相手に勝てば武器を使いながら経験値を大量に得られるからだ。

 それが何のリスクも無く可能に成るのだから、【迷宮建築】スキルは便利である。


 しかも初心者にありがちな戦闘後の高揚感による油断や嫌悪感による放心、躊躇いを覚えなくなるまでノーリスクで慣れさせることが出来る。


 イワン達もゴブゴブ作りのためにゴブリンを退治した経験は一度や二度ならある。鼠や野兎、魚や鳥を殺して食べた回数など、数えられないくらいある。

 しかし、やはりランク2以上の魔物を倒す事で得られる経験値の量や、人型の魔物を殺す嫌悪感を無視して、油断なく次の危険に対応できる程では無い。


『まあ、ランク2程度なら油断してもいざとなったらリビングアーマーが殴り倒せば良いだけですけどね。あ、リナさん。背中に余計な力が入ってますよ。リラックスしてください』

「こ、こう?」

『そうです。そのまま引き金を引いてください』


 ヴァンダルー糸製のフリルやレースを付けて動きを阻害しないまま、恥じらいを覚えにくい形状になったように見えるサリアを着たリナが、小型クロスボウの引き金を引く。真っ直ぐ飛んだ矢が、コボルトの胸に突き刺さる。

「あ、当たった……」

『次の矢を装填してくださいね~』

「は、はいっ」


 因みに二人の横では、同じようにフリルやレースだらけに成ったリタを着たタレアが、同じようにクロスボウでヒュージホーンラビットを射殺している。

「ところでっ、訓練するのは槍とクロスボウだけで良いのかしら? 非常事態に備えるのなら、短剣や投擲の訓練もするべきではありませんの?」

『確かに、何時も槍を背負ってクロスボウを持ち歩く普通の人って、居ませんね』


 イワン達が振っている彼らの身長程ある槍も、タレアが今持っているクロスボウも、携帯性に優れているとは言えない武器だ。一般人が携帯するには大きすぎるし、重い。

 折り畳み式や組み立て式にすれば携帯性も向上するが、いざという時すぐ使えないのでは本末転倒である。


『いえ、それはスキルを獲得した後でならどうにでもなりますので』

 しかし、元分隊長が言うには大した問題ではないらしい。

『神々は大らかですから。【槍術】スキルを獲得した後、長槍から短槍に持ち替えて少々型を覚えれば良いのです。クロスボウも、【弓術】スキルを獲得したら持ち運びがしやすい短弓に替えましょう』

 ラムダのスキルシステムは、武術に関してはかなり大雑把だ。


 例えば、身の丈よりも長い長槍も一メートルも無い短槍も、どちらも【槍術】スキルで扱える。【長槍術】や【短槍術】等のスキルは存在しない。

 クロスボウにしても、【クロスボウ術】ではなく【弓術】で扱える。


 棍棒でもハンマーでも同じ【棍術】。武器の大きさで【剣術】と【短剣術】で別れている刀剣類は多少細かいが、片手で扱う繊細なレイピアも両手で振り回す豪快なクレイモアも【剣術】である。

 勿論幾ら同じスキルで扱えるとは言っても形状によって発動できる武技に違いはあるし、実際に有効な間合いや重さ、形状が異なれば使い方も異なる。

 普段クレイモアで連続して斬撃を放つ【三段斬り】が得意技の戦士が、いきなり斬撃に不向きなレイピアの達人に成れる訳ではない。


 だから本職の兵士や騎士が訓練を受ける時は、最初から将来使う武器と同じ物を使ってスキルを磨く方が良いとされる。

 しかし、今彼らが行っているのは一般市民相手の訓練だ。多少不都合があっても、戦いに生きるプロではない。


『なので、まずスキルを獲得してもらい、その後携帯性に優れた武器の扱いを覚えて頂きます。すると、スキルの恩恵を受けられるので、短い時間で扱いを覚えられるのです』

 何でも、限られた期間一般人を徴兵する場合はこの方法で訓練を施すのが普通らしい。


 神に劣等世界扱いされるラムダだが、魔物や国同士の戦いを続けて来ただけあって練兵術等はよく考えられている。


「なるほど。でも、重い長槍よりも軽い短槍の方が扱いやすいと思いますけど?」

『それはそうですが、今回の場合は我々が皆さんの筋力や体力をフォローしますから長槍でも問題ありません。

 それに、動かないとは言え人形ではなく生の魔物を相手に訓練しますので……離れていた方が良いかと考慮しました』

「あ、確かにそうですね」


 短い短槍の方が扱いやすいが、その分殺す魔物との距離が近くなる。すると、返り血を浴びたり魔物が息絶える瞬間を間近で見てしまったりする。

 それは戦闘経験の浅いイワン達の気力を削ぐには十分すぎるだろう。


『そうなんですか?』

「そうらしいですよ」

 血の臭いに食欲しか感じないアンデッド歴の長いサリア達やヴァンダルーにはピンと来ないようだが。


 因みに、【投擲術】の訓練が行われない理由は、単純に教官役のリビングアーマーに【投擲術】スキルを持っている個体が少ないからだ。

『投擲で敵を倒すには短剣や槍、斧が必要ですが、その度に使い捨てられるほど予算は無かったので。弓矢の方が多く携帯できますし』

「あら、矢が無ければ石を投げれば良いじゃありませんの。適当な大きさの石を普段から集めておけば、弾に不自由しませんわよ。ねぇ、ヴァン様?」

「ですね」


『申し訳ありません陛下、我々は生前【怪力】スキルを持っていなかったので、石では色々と無理でした』

 地球では投石は庶民にとって有効な戦術なのだが、ラムダでは【怪力】スキルでも持っていなければあまり効果は無いらしい。

 能力値が高ければ補えるだろうが……そんな高い能力値があるなら、そもそも投石に頼らなくても敵を倒せる。


 こうして僅か一日でイワンやリナ達は【槍術】や【弓術】スキルを獲得したのだった。

 次の日からは短槍や短弓に持ち替えて、基本訓練。その後同じ『グールキングの試験場』で今度はランク1の魔物と実戦の訓練。それに慣れたらランク2の魔物を相手に実戦。


 そして十日で全員がスキルレベルを2に上げたのだった。


「なんだか腹回りがすっきりした気がするな!」

「あたしはレベルも上がったわ。もうすぐジョブチェンジ出来るわね」

「こうなったら俺も探索者を目指して……いてぇっ!」

「調子に乗るんじゃないよっ! あんたじゃすぐ大怪我して迷惑をかけるのがオチだよっ」


 イワン達は訓練で使った短槍や弓矢、そして十日分の平均的な収入分のお金を受け取って帰って行った。


『たった十日で素人が、それもジョブのスキル補正も受けていない、若くもない一般人が、スキルレベル2になるとは……』

「今までには無い事なんですか?」

 がらんどうの鎧であるため驚いている事が分り難いが、多分驚いているのだろう元分隊長にヴァンダルーが話しかけると、彼はガクンと兜を上下に振った。


『今までに無いと言うか……あったら正規兵は飯が食えません』

 素人が十日で至れる程度の腕の連中に、高い給金は必要無いと言う事だろう。


 一般的に、正規兵の平均的な武術系スキルのレベルは2であるとされる。それは別に「正規兵のスキルは2レベル」と決められている訳ではない。様々な都合の結果、平均して2レベル程度に落ち着くだけだ。

 その都合とは日々の訓練や実戦経験の量と質だ。兵士であっても日々戦っている訳ではない。警備や護衛、パトロールにデスクワークもある。兵士を雇う側も、質を高めるのは重要だがそのために時間と金を際限無く使える訳ではない。


 結果、平均して2レベル程度になる。

 それなのにたった十日で一般人がそれと並ぶような事が頻発したら、為政者は大金を使って兵士達のスキルを3レベル以上に引き上げる必要に迫られる事になる。


「まあ、今までに無い方法で訓練しましたからね。そんなもんでしょう」

 リビングアーマーの教官、安全で経験値まで得られる魔物の的。そしてフォローされながらの実戦経験。

 歴史上、ここまで手を尽くして一般人を鍛えた者はヴァンダルー以外に居ないだろう。


『坊ちゃんが【導士】なのもあると思いますよ』

「かもしれませんけど……【導き:魔道】スキルって、常に発動している皆への能力値補正以外は使っている実感が無いんですよねー」

 【導き】の有効範囲が自覚できない……そもそも自分が魔道なる道を歩いている自覚も無いヴァンダルーには、実感の伴わないスキルだった。


 そんな事を言って遠ざかるイワン達の背中を眺めていると、リナを迎えに来たはずのフェスターが話しかけてきた。

「なあヴァンダルー、物は相談なんだけど……リナにサリアさんと同じ形の服って作れないか? レースとフリル付きで」

「……鎧じゃなくて服ならできますけど、本人から了解は取りましたか?」

「いや、だって相談し難い――」

 ご。


「馬鹿な相談してないでさっさと来なさいよっ! あんたはあたしを迎えに来たんでしょ!?」

 ずるずるとフェスターを引きずって帰って行くリナ。訓練は彼女をよりしっかりとフェスターの上に据える役にも立ったようだ。


『むぅ、何故姉さんの方なんでしょうか。私もセクシーなのに』

『坊ちゃん、作ってあげる時は色違いにするとか、私と見分けが付くようにしてくださいね!』

「若いですわね」


 因みに後日、探索者として交換所を出入りしているザディリスを通じてリナから見積もりの依頼がヴァンダルーの所に回ってくる事になる。

 式の時期が近いのかもしれない。


 尚、二人とも成人している場合バーンガイア大陸では婚前交渉に対する戒めは無いに等しい。


 そして職能班の女グール達も同じく十日程でスキルレベルを2に上げる事が出来た。こちらは今まで覚えようとしなかっただけで、元からある程度の素質は在ったのでそれ程驚く事ではない。

「あのー、ヴァン様、私も【弓術】が2レベルに成りましたの。ずっと御傍に居たいのはやまやまなのですけど、そろそろお仕事に――」

 しかし、これまで職人としては高い技量を持っていてもグールとしてはレベルゼロだったタレアは、この十日の訓練で初めて経験値を稼ぎ、劇的にレベルを上げていた。


 まだランクアップする程ではないが、能力値はぐっと上昇した。それは【武具職人】スキルには直接の関係は無いが、上昇した身体能力は仕事に役立つ。

 何より、腰に良い。


「ギックリ腰解消のために、タレアは続けましょう。丁度沼沢地に在る二つのダンジョンを攻略する予定ですし」

「ちょっ!? 一層目からアースドラゴンが出てくるような高難易度のダンジョンなんて入ったら、私死んでしまいますわ!」

「それは通称『鱗王の巣』の方ですね。そっちではなく、推定D級ダンジョンの『リザードマンの巣』の方ですよ」


『D級ダンジョンなら試験場の一つ上ですから、今のタレアさんなら大丈夫ですよ』

『私達もフォローしますから』

 ヴァンダルー達に着いて後ろから矢を射る程度なら、今のタレアでもD級ダンジョンの攻略に着いて行く事が可能だと、サリア達も判断していた。


 実際スキルのレベルが2あればボス戦は難しいが、上層で遭遇する魔物相手には通用する。それにタレアは能力値だけならD級冒険者に並ぶ。

「でもそのダンジョンはヴァン様が作った物では無いのでしょう!? 普通に魔物が襲ってくるじゃありませんのっ!」

 だが、ほぼ実戦の訓練と実戦ではやはり必要な覚悟が違うらしい。


「大丈夫です、俺達が守りますから。ランクアップ目指して頑張りましょう」

「うぅ、分かりましたわ。分かりましたから……もう一度言ってくださいな。俺達がではなく、俺がで」

「俺が守りますから大丈夫です」

「はい、ヴァン様♪」


 実際、D級ダンジョンなら既にヴァンダルーはソロで楽々と攻略できる訳だが。


『グールの皆さんって、歳の割に乙女ですよね』

『でもリタ、あなたは言われてみたくないの?』

『う~ん、興味が無い訳じゃありませんけど、私達って鎧じゃないですか。鎧が守られるって、結構矛盾している気がして』

『それもそうね……防具心と乙女心の板挟みか。難しい問題だわ』


「難しいのですか」

 言って喜んでくれるのなら幾らでも言うのだがと、ヴァンダルーは首を傾げた。




 そろそろ寒くなっている頃、ダンジョンを攻略するために再び沼沢地を訪れたヴァンダルーは、まず骨人とシャシュージャに案内されて各地を視察していた。

 カプリコーン牧場での職業訓練が上手くいっているか、リザードマン達の陳情、暮らしぶりに問題は無いか。

 尤も、そこはヴィダの新種族ではなく完全な魔物のリザードマン、不満を言うどころか「支配者が態々そんな事を聞きに来るなんて!」と驚愕される事の方が多かったが。


「魔物って、結構支配しやすい人達ですね」

 人とはかなり精神構造が異なる。強い者が正しいという価値観が徹底されているのだ。

 例えば、人なら支配者が幾ら強くても仲間や親兄弟や子が下らない理由で殺されたり、喰われたりしたら恨むし、裏切りを考える。


 しかし、魔物はあまり疑問に思わない。裏切るようにより強そうな誰かから促されるか強制されたら別だが。支配者が弱ったその時、初めて裏切る事を考える。

 彼らにとって支配者に無駄な犠牲を強いられて仲間が死ぬのと、他の魔物や人間に仲間を殺されるのでは全く意味が異なるのだ。


「シュゥゥ?」

 そう呟くヴァンダルーに、その何が不思議なのか分からない様子のシャシュージャが舌で自分の目を舐めている。


『主よ、魔物としては我々の方が特殊なのです』

 そう言う骨人の言う通り、生前の人格を残したアンデッドやブラガ達死属性の影響を受けた新種の様に、人の価値観を理解する魔物の方が特殊なのだ。

 実際、魔物の祖である魔王グドゥラニスは彼らを戦力として創りだした。強者である自分達に逆らう戦力は存在価値が無いという事だろう。


 仲間を殺した恨み節を何年も聞かされるよりも良いので、ヴァンダルー達としては別に構わないのだが。支配下に収まった以上無体な事をするつもりは無いが、強いというだけで従ってくれるのなら楽で良い。


そんなリザードマン達が「これは困った」と珍しく自分達から報告してきたことが一つある。それを見に行ったヴァンダルーは、卵から孵化して数日程のリザードマンの子供達を前に首を傾げた。

「健康そうですけど?」


 ギュー、クギュー、クギュー。

 リザードマンでも子供は可愛いものだ。しかし、元気に鳴いている子供達は丸々として健康そのものに見える。食欲も旺盛で、カエルや魚を上げると頭からパクリと食べる。


 しかしシャシュージャは子供達の頭を指差す。

「よく見ると……頭の形が違う?」

 シャシュージャが頷くように、子供達の頭は普通のリザードマンと同じ形ではなかった。


一言で言うと、ワニっぽい。


 何でも両親は間違いなくリザードマンなのだが、『鱗王』が倒された後孵化した卵は全て蜥蜴ではなくワニっぽいらしい。

『そう言う訳で主よ……こっそり卵を死属性の魔力に浸した覚えは?』

「全然ありませんけど……タイミング的に考えて【導き:魔道】の効果ですよね」


 どうやら勝手に新種がまた一種誕生したようだ。


「とりあえず、アーマーンと名付けましょう」




《【導き:魔道】スキルのレベルが上がりました!》




・ジョブ解説:樹術士


 植物に関する一定以上の知識と、数多く(百体以上)の植物型魔物をテイムする事で就く事が出来るジョブ。

 能力値は生命力が上がりやすい。

 また、体内に植物型魔物を装備できる【装植術】スキルを獲得できる。


 ジョブの効果として体内で植物を栽培可能になる。植物には菌やカビ、植物プランクトンも含まれる。


 このジョブに就いた者は農業、製パンや一部の製菓、発酵食品の作成、林業、また海藻や水草や植物プランクトンを活かした漁業等で優秀な結果を残す事が出来るだろう。


 ただ、常識的に考えて百体以上の魔物をテイムできるはずもなく、更にラムダ世界で賢者と称えられる者でも一定以上の知識に達していない(菌やカビ、発酵に関する知識が足りない)ので、ヴァンダルー以外がこのジョブに就くのは彼から直接教わらない限り、現状困難である。

ネット小説大賞に参加しました。応援よろしくお願いします。


5月1日に101話、2日に102話、5日に閑話を投稿する予定です。

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