九十八話 導く者と続く者達
「では、沼沢地のカプリコーン牧場化プロジェクトを開始します」
っと、ヴァンダルーは仰々しく発表したが、実際にやる事は小規模だ。山羊が変化した魔物のカプリコーンはまだ数十頭しかいないので、将来大規模牧場を作るための下準備しか出来ない。
まず約二千匹に成ったリザードマン達に、シャシュージャが纏め役に成る事を告げる。ただランク5のリザードマンジェロニモでしかない彼が、二千匹の同族を纏めるのは厳しい様に思える。
『GUOooo……』
なので、彼の下にゾンビ化した元『鱗王』、改名してリオーとその配下だったドラゴンのゾンビを暫く置く。以前の支配者のゾンビがシャシュージャの下に就くのだ。実務的な能力は皆無だが、これだけで逆らおうと言う気も削がれるだろう。
「そう言えばドラゴンでゾンビ作るの初めてでしたね」
『ぉぉぉん……』
「クノッヘン、今回は我慢してください」
無数の骨の集合体であるユニオンボーンのクノッヘンは、リオーの骨が欲しかったようだが、今回はアースドラゴン一頭の骨で我慢して貰った。
更にまだ不安が残るので、魔馬に乗った黒牛騎士団と遠征戦時は留守番だった骨人を呼び寄せて、暫く駐屯して貰う。
『ぢゅう、お任せください主よ』
魔馬は【悪路走行】スキルを持っているので、ぬかるんだ沼沢地でも平地と同じように走れる。しかも元に成った馬と違って、何でも食べるので世話がとても楽だ。
もっとも沼沢地が落ち着いたら骨人は魔馬からリオーに乗り換える予定だが。リオーは魔馬に比べると機動力にやや難があるが、彼にとって念願のドラゴンゾンビである。
「お願いします。まあ、骨人がいる間は俺もこことタロスヘイムを行ったり来たりする予定ですけど」
『主は多才ですからな』
ヴァンダルーしか出来ない事や、ヴァンダルー以外の者でも出来るが彼がするとずっと早く簡単に出来る事が多いのだ。
「まあ、今回の作業はそれ程ではないですけど」
【装植術】で生やした樹を材木にして、木造の厩舎を【ゴーレム錬成】で建てる。
そしてタロスヘイムから連れてきたカプリコーン十頭で、リザードマンに酪農を教える。
狩猟採集で生活していたリザードマン達は、当然酪農は未経験だ。しかし、彼らの中にはワニに似た魔物をテイムして騎乗するリザードマンライダーなんて種族も居るので、魔物であるカプリコーンを飼育しろと言うヴァンダルーの命令はすぐに理解された。
それが戦いの為ではなく乳を搾るためである事は、最初首を傾げられたが。リザードマンは見た目通り卵生であるため、乳に馴染みが無い。
しかし飲めない訳ではない。彼らは肉食ではあるが乳は動物性蛋白質なので、「まずは一杯」と勧めるヴァンダルーに対して戸惑ったものの、杯を受け取って一口飲むと「安定的な食料確保の為か」と納得してくれた。
カプリコーンは普通の山羊よりもやや頭が良く、更に丈夫で病気にも強い。沼沢地に幾らでも生えている藻や水草を選好みせず食べてくれるので、「除草の役にも立つ」とリザードマン達にも好評だった。
そして牧場の下準備と並行して行ったのが戦いの結果小規模に成ってしまった群の統廃合と、地図の作製だ。数匹から十数匹程度の小規模な群では縄張りの管理どころか生計を立てる事もおぼつかなくなるし、支配する以上何処にどれくらいの規模の集落があるのか把握しておかないと不便極まりない。
群の統廃合はヴァンダルーが畏れられているお蔭でとてもスムーズに進んだ。人間なら色々面倒な事が起きそうだが、リザードマン達には個々の縄張りへの愛着等は無いらしい。
そして地図は空を飛ぶ練習を中断したサムが、チェザーレ達を乗せて沼沢地を走り回って、目安程度になる程度の地図を手早く作成する。
それらの作業を数日かけて行った結果分かったのは、この沼沢地の広さだった。
「ここ、ハートナー公爵領よりも広そうですね」
正確な測量技術は無いが、大まかに人が歩いたら何日かかるか程度の目安は付けられる。すると、このタロスヘイム南の沼沢地は、ハートナー公爵領が――少なくとも一辺がニアーキの町からナインランドまでの距離、徒歩三十日前後の距離の四角形が三つは入りそうだと言う事だった。
リザードマンの中小の群れに寝返り工作をしていた時に、『鱗王』の支配地域の広さは大雑把にだが把握していた。そこから沼沢地の広さも推測していたのだが……実際にはそれ以上の規模だったようだ。
ただ、リザードマン以外に纏まった勢力を築いている魔物は存在しないようだ。沼沢地を更に南に向かうとノーブルオークの帝国があるらしいが、重量級のオークにとって沼沢地は魅力の無い土地らしく、これまで入ってきたことは無いらしい。
ノーブルオークのブゴガンはどうやってこの沼沢地を越えたのだろうかと、ヴァンダルーは不思議に思ったが……実はそもそも越えていなかったのだ。
ブゴガンは自分を追放した帝国から北上せず、すぐに西の山脈越えに挑戦し、彼でも通れる場所を苦労して辿ったら結果的にバルチェブルグの密林魔境の近くに出たのだ。
今は沼沢地を纏めるので忙しいので、ノーブルオークの帝国でオーク肉食べ放題を開催するのは後にしよう。帝国は逃げないし。
それは兎も角。
『陛下は既にオルバウム選王国の公爵達を超える存在という事ですな』
『いや、チェザーレ殿、流石にそれは言い過ぎかと。人口が少なすぎます。リザードマンを加えても、土地を持て余していますよ』
ハートナー公爵領の辺境の町であるニアーキだけでも人口は約一万人。対して、タロスヘイムはリザードマンを入れても約六千人だ。
これで公爵を超えたとは片腹痛いだろう。ヴァンダルーもサムと同意見である。
ただ、この沼沢地は資源の宝庫である。レンコンそっくりの植物が自生しており、沼にはナマズやドジョウ、そしてウナギに似た魚が生息している。
更に、リザードマン達が熱い泥が湧き出る場所があると教えてくれた。もしかしたら、それはヴァンダルーがこのラムダで初めて遭遇する温泉かもしれない。
それに二つのダンジョンが存在するので、そこでも新しい素材や食材が手に入るかもしれない。
「リザードマンは大人になるまで五年ぐらいかかるそうですし、沼沢地の繁栄はのんびりやりましょう。
とりあえず、そろそろ一度タロスヘイムに帰りましょうか」
しかし、それらを検証や攻略するのはジョブチェンジしてからだ。
『鱗王』を倒してから十日、加護を与えた僕を倒され、御使いをどうにかされた『暴邪龍神』ルヴェズフォルが何か仕掛けて来ないかと心配していたヴァンダルーだが、その様子も無いので沼沢地から離れても問題無いだろう。
そう判断したヴァンダルーは牧場の下準備や地図の作製も一段落したので、サムに乗って一旦タロスヘイムに戻るのだった。
因みに、ヴァンダルーが復讐を企てているのではないかと警戒していた『暴邪龍神』ルヴェズフォルだが、その頃彼は痛みに悶えながらも必死に大陸南部から撤退していた。
『あんな化け物の居る場所で僕集めなんてやっていられるか! 我は魔大陸に帰らせてもらう!』
手下だったリザードマン達も知らなかったが、実は『暴邪龍神』の加護を得ていた『鱗王』は【御使い降臨】の上位スキル、【分霊神降臨】を習得しており、自らが奉じる神の分霊を一時的にその身に降ろす事が出来た。
その効果は【御使い降臨】の比ではなかったのだが……降臨途中の分霊を撃ち殺されるという非常識な攻撃を受けたため、ルヴェズフォルはかなりの痛手を受けたのだ。
それは致命傷ではないが、ルヴェズフォルに復讐心よりも大きな恐怖心を抱かせるには十分なもので、彼は数千匹の信者も惜しまず、本来の本拠地である大陸全土と周りの海域全てが魔境と化している魔大陸へ逃げ出したのだった。
タロスヘイムに戻ったヴァンダルーの姿は、探索者が集う交換所の二階にあるジョブチェンジ部屋にあった。
これで勇者の仲間入り……だと考えると微妙な気分に成るが、それでもワクワクしながら水晶にヴァンダルーは触れた。
《選択可能ジョブ 【大敵】 【ゾンビメイカー】 【屍鬼官】 【病魔】 【霊闘士】 【鞭舌禍】 【怨狂士】 【死霊魔術師】 【冥医】 【迷宮創造者】 【魔王使い】 【魔導士】 【魔砲士】(NEW!) 【ゴーレム創成師】(NEW!)》
「おー、二つ増えた」
砲術に適応した新ジョブと、【ゴーレム錬成士】の上位ジョブだろう名称のジョブが増えている。【操糸術】に対応したジョブが無いが、ベルモンドが就いている【糸使い】の様にそれらは既存ジョブなのだろう。
タロスヘイムの繁栄に大きく貢献している【ゴーレム錬成】が強化されそうな【ゴーレム創成師】には興味があるが、やはり選ぶべきは【魔導士】だろう。
きっと勇者っぽい世間体の良いスキルを獲得出来る筈。具体的には分からないが、きっと光り輝くような感じの名前で、効果も実用的で強力なのが。
「【魔導士】を選択」
そう期待に胸を高鳴らせながら選択する。
《【魔導士】にジョブチェンジしました!》
《【魔力増大】スキルを獲得しました!》
《【死属性魅了】、【死属性魔術】、【詠唱破棄】スキルのレベルが上がりました!》
《【死属性魅了】が【魔道誘引】に、【眷属強化】が【導き:魔道】に変化しました!》
《ユニークスキル、【深淵】を獲得しました!》
「……はい?」
光り輝く世間体が良いスキルとは、ほど遠い名称のスキル名に思わず脳内アナウンスに聞き返すが、答えは無かった。
・名前:ヴァンダルー
・種族:ダンピール(ダークエルフ)
・年齢:8歳
・二つ名:【グールキング】 【蝕王】 【魔王の再来】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【怪物】
・ジョブ:魔導士
・レベル:0
・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士、毒手使い、蟲使い、樹術士
・能力値
生命力:856
魔力 :485,761,053(+48,576,105)
力 :295
敏捷 :329
体力 :480
知力 :990
・パッシブスキル
怪力:5Lv
高速治癒:7Lv
死属性魔術:8Lv(UP!)
状態異常耐性:7Lv
魔術耐性:4Lv
闇視
魔道誘引:1Lv(死属性魅了から変化!)
詠唱破棄:5Lv(UP!)
導き:魔道:1Lv(眷属強化から変化!)
魔力自動回復:6Lv
従属強化:6Lv(UP!)
毒分泌(爪牙舌):4Lv
敏捷強化:2Lv
身体伸縮(舌):4Lv
無手時攻撃力強化:小
身体強化(髪爪舌牙):3Lv
糸精製:2Lv
魔力増大:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
業血:3Lv
限界突破:6Lv
ゴーレム錬成:7Lv
無属性魔術:6Lv(UP!)
魔術制御:6Lv(UP!)
霊体:7Lv
大工:6Lv
土木:4Lv
料理:5Lv
錬金術:4Lv
格闘術:5Lv
魂砕き:8Lv(UP!)
同時発動:5Lv
遠隔操作:7Lv
手術:3Lv
並列思考:5Lv
実体化:4Lv
連携:4Lv
高速思考:3Lv
指揮:4Lv(UP!)
装植術:3Lv
操糸術:4Lv
投擲術:4Lv
叫喚:3Lv
死霊魔術:3Lv
装蟲術:3Lv
鍛冶:1Lv
砲術:2Lv(UP!)
・ユニークスキル
神殺し:6Lv(UP!)
異形精神:6Lv
精神侵食:5Lv
迷宮建築:5Lv
魔王融合:2Lv
深淵:1Lv(NEW!)
・魔王の欠片
血
角
・呪い
前世経験値持越し不能
既存ジョブ不能
経験値自力取得不能
「……聞き間違いではないのか」
ステータスを何度か見返して、ヴァンダルーは額に手を当てた。
【魔力増大】は別にいい。名前の通り、魔力が増えるだけのスキルだろう。問題は他のスキルだ。
【魔道誘引】に【導き:魔道】、そして【深淵】。名称からして、世間体が悪そうだ。光り輝くどころか、夜よりも深い闇に包まれていそうなスキルだ。
「でも前の二つの効果は何となく分かる。【魔道誘引】は元の【死属性魅了】の上位互換だろうし、【導き:魔道】もやっぱり【眷属強化】の上位互換だろう」
経験上、スキルが変化する場合変化前のスキルの効果から大きく変わる事は無い。魔の道に誘引するとか、魔の道に導くとか、物騒で妖しげな名称だが太陽が氷の塊に変わるような大幅な変化は無いはずだ。
ただ、深淵の方は分からない。
「……【深淵】、発動」
試しに口に出して言ってみるが、特に何かが起きる事は無い。どうやら、スイッチを切り替えて使用するアクティブスキルではなく、常に効果を発揮するパッシブスキルの様だが……。
「深淵って、どういう意味でしたっけ?」
あまり良い意味で使われなかったような覚えがあるヴァンダルーは暫く首を傾げたが、正確な意味は思い出せなかった。
後で調べてみようかとも思うが、ユニークスキルであるため情報があるかどうか不明だ。ジョブ同様、歴史上ヴァンダルーが初めて獲得したスキルである可能性も否定できない。
「あれこれ悩んでも仕方ない。獲得した以上手放せないのだから、害が無さそうなら経過を見るか」
一応勇者の条件のジョブで獲得したのだから、大丈夫。そう自分を納得させたヴァンダルーはジョブチェンジ部屋を出るのだった。
『御子よっ、この度はおめでとうございます!』
『勇者と同じ系統のジョブに成るなんて凄いわっ、今も小さいけど、もっと小さかったヴァンダルーがこんなに立派に成って……お母さん本当に嬉しい』
「今日はお祝いだな! だからヴァン、今日はもう分裂して働いたらダメだぞっ」
「そうですわ、ヴァン様。今日の主役はヴァン様なのですもの」
そして外で待ち構えていた皆に捕まり、そのままこっそり用意されていたパーティー会場に連れて行かれた。
ベルウッド没後、約十万年の歴史の中でも【導士】のジョブに就けた者は少なく、就いた者は全員残らず歴史に名を残している事をベルモンドが皆に話していたため、これは祝わなければとなったらしい。
実際、他の国で【導士】ジョブに就いた者がいると明らかになれば国を挙げてのイベントになる。何せ英雄どころか、将来神の末席に加わる可能性が高い人物が出たのだから盛り上がらない理由が無い。
その人物が国家元首だったとしたら、上も下も熱狂する事だろう。
それと比べればタロスヘイムの人々は実に慎ましやかにヴァンダルーの【魔導士】へのジョブチェンジを祝ったのだった。
祝われた当人はその事に気が付いていなかったが。
「よーし、ではお菓子を――」
『美味しそうだけど、作らなくて良いのよ、陛下』
『じゃあ、スープを――』
「だからキングっ、増えちゃダメだって言ってるでしょっ」
『では、ちょちょいと簡単な一品料理でも――おぶっ』
『う゛あ゛ぁ』
「働いちゃメッ、でしょ」
【幽体離脱】して抜け出した霊体をラピエサージュに鷲掴みにされて肉体に突っ込まれ、パウヴィナに圧し掛かられたヴァンダルーは、一切の抵抗を諦めた。
五感も四肢も全てが曖昧模糊な状態だというのに、何かが自分の近くに存在する事だけは明確に解る。
その何かは人の様で、獣の様で、巨大で小さく、醜くて美しい。そんな、何者かも分からない何かだ。
だが、決してその何かは自分から近付いてこない。その気に成ればすぐに追いつけそうな歩みで、ゆっくりと進むだけ。
そのまま見送る事も、自分から遠ざかる事も出来た。だが気が付くと自分からその何かに近付いていた。
そんな夢を見る者がタロスヘイムの人々の中から出始めた。
ある者は、その『何か』を乗せて夜空を駆けた。
ある者は、自らを『何か』を守るための城壁とした。
ある者は、その『何か』の為になれる形が欲しいと求めた。
ある者達は、その『何か』から与えられる事を求め、変わる事に歓喜した。
ある者達は、『何か』の傍らでただただ安らいだ。そして目覚めと同時に埋まる事のない空虚さと絶望に涙を流した。
だが、その夢をヴァンダルーが見る事は無かった。
神域にて、ロドコルテはタロスヘイムに移住した人種やドワーフ達の記録を見る事で、ヴァンダルーを監視していたのだが――何かが千切れるような気配と同時に、映像が途切れた。
それは一人だけで終わりではなく、記録が見られなくなる者は増え続けた。
『何事だ? アンデッドにでもされたのか? いや……これはまさかっ!?』
脳裏をよぎった嫌な予感。それが正解だと答えるかのようなタイミングで、輪廻転生システムから警報音が鳴り響く。
『タロスヘイムに存在する私の輪廻転生システムに属する存在が、システムを離れ、恐らくはヴィダ式輪廻転生システムに移っているのか!』
次の日、【魔道誘引】や【導き:魔道】の検証をするためのアンデッドを調達するため、野良を探すか自分で作るかしようと思っていたヴァンダルーは、外から聞こえる聞き覚えのある笑い声と車輪の音に気がついて、窓から顔を出した。
『坊ちゃあああああん! ご覧くださいいいいいっ!』
サムが空中を走っていた。
まるでそこに地面でもあるかのように、空中を漆黒の馬が駆け車輪が回る。
『このサムっ! 遂に空を走る事に成功しましたぞ! これも坊ちゃんのお力の賜物っ!』
「おめでとうサム、遂にやり遂げましたね。でも俺の力なんでしょうか?」
サムが空を飛ぶという、無謀にも思える目標を目指して努力を続けていた事は知っている。それが実ったのはとても嬉しいし、誇らしい。「飛ぶ」じゃなくて「走る」に変わっている事は問題ではない。
しかし、自分の力ではないのではないだろうか?
『何をおっしゃいます、坊ちゃん! 坊ちゃんが導士ジョブに就いた翌日にこのランクアップですぞ、関係があるに決まっているではありませんか』
確かにタイミング的にはそうかもしれない。
『それに私以外にも力を得た者がおりますぞ!』
「えっ? 誰ですか?」
『ご説明しますので、どうぞ私にお乗りください』
「はーい」
窓から【飛行】で飛んでサムに乗る。彼は漆黒の毛並みに血溜まりの様に紅い目と、より禍々しく変化した霊体の馬を走らせ、タロスヘイムの外に向かった。
しかし、そこに着く前にヴァンダルーは異変に気がついた。
「……外に砦が増えていますね」
最初はクノッヘンだろうと思った。無数の骨を取り込み融合したクノッヘンの大きさは、既に大きな砦ほどもある。
しかし、だんだん近付いてくるその砦には何体もの見覚えの無いスケルトンが闊歩していた。
骨しか無いスケルトンに見覚えと言うのもおかしいが、ドラゴンや恐竜、マンティコア等大きさや形に特徴がある骨でスケルトンを作ったら、絶対に記憶に残っているはずだ。
そして近付いてくるヴァンダルー達に、砦のスケルトンは一斉に声を上げた。
『『『おおおおおぉぉーん!』』』
やはり聞き覚えのある声に、ヴァンダルーは頷いた。
「うん、クノッヘンですね」
どうやら、骨で出来た砦もスケルトン達も、クノッヘンであるようだ。
『はい。どうやら、ランクアップした結果身体の骨をスケルトンとして分離し、操れるようになったようですな。坊ちゃんと同じだと、喜んでおります』
『おおおおおおおん!』
サムの言葉に同意する様に、今度は骨の砦が鳴く。どうやら本体は砦の方で、スケルトンは分身のようだ。
確かに、ヴァンダルーが【幽体離脱】で身体から霊体の分身を出すのと似ている。
「確かに、二人もこのタイミングでランクアップしたのですから偶然ではありませんよね」
一度なら偶々かもしれないが、二度なら必然である。そう考えたヴァンダルーは、きっと本人達の資質や意思、そして努力の成果が最も大きいだろうが、【導き:魔道】の効果が後押ししたのだろうと推測する。
勇者の仲間が秘奥義を習得したり、新しい特殊能力に目覚めたりするのと同じだろう。
成長ではなく変化とか進化と評した方がよさそうな効果だが、これはヴァンダルーの仲間が人ばかりではなくアンデッドも含まれるからに違いない。
導士ジョブの効果は人間に限られるなんて事は無いだろうし。
そうヴァンダルーは考え、納得した。
「それでどんな種族に成ったのですか?」
『はい、私はランク6のナイトメアキャリッジという種族の様です。クノッヘンは、ランク9のボーンフォートだそうです』
それぞれ悪夢の馬車と骨の砦に成ったようだ。サムの方は元々希少なアンデッドだから記録があるかどうか不明だが、クノッヘンの方は何か残っているかもしれない。ユニオンボーンの段階で災害指定種だったし。
後で調べてみよう。
「とりあえず、お祝いですね」
でも先にお祝いである。
だが、クノッヘンが出した分身スケルトンと輪に成って盆踊りを踊っていたヴァンダルーは飛んできたセメタリービーに拉致されたのだった。
・名前:クノッヘン
・ランク:9
・種族:ボーンフォート
・レベル:0
・パッシブスキル
闇視
怪力:10Lv(UP!)
霊体:6Lv(UP!)
骨体操作:7Lv(UP!)
物理耐性:6Lv(UP!)
吸収回復(骨):7Lv(UP!)
城塞形態:1Lv(NEW!)
分体:1Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:2Lv
ブレス【毒】:6Lv(UP!)
高速飛行:5Lv
遠隔操作:8LV(UP!)
射出:6Lv(UP!)
・名前:サム
・ランク:6
・種族:ナイトメアキャリッジ
・レベル:0
・パッシブスキル
霊体:6Lv(UP!)
怪力:5Lv(UP!)
悪路走行:5Lv(UP!)
衝撃耐性:7Lv(UP!)
精密駆動:5Lv(UP!)
快適維持:5Lv(UP!)
殺業回復:1Lv
空間拡張:4LV(UP!)
空中走行:2Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:1Lv
高速走行:4Lv(UP!)
突撃:6Lv(UP!)
サイズ変更:3Lv(UP!)
槍術:2Lv(UP!)
恐怖のオーラ:1Lv(NEW!)
・魔物解説 ボーンフォート
歴史上でも両手の指で数えられるほどしか発生していない、災害指定種。
砦ほどもある巨体は全て取り込んだ骨で出来ており、更にその骨をスケルトンとして分離させる事が出来る。
スケルトン自体の強さはさほどではなく、ランク2のスケルトンよりも力が強い程度。だがその数は脅威である。
記録に残っている中で、ボーンフォートが一度に操れるスケルトンの数は最大で一万体とされる。
更にこの魔物の恐ろしいところは、砦のような本体も移動する事が可能という点だ。
恐れを知らず糧食も睡眠も必要としない無数の兵士に護られた、移動する要塞。正に人類にとって悪夢のような存在である。
しかもクノッヘンの場合、通常のボーンフォートより更に恐ろしい。
【高速飛行】スキルを持っているため鳥を上回る速度で空を飛行可能。勿論、分離したスケルトンも空を飛ぶことが可能で、それぞれ毒のブレスを吐く事も出来る。更に【導き:魔道】、【従属強化】スキルの効果を受ける。
ただのスケルトンと甘く見ると本体に辿りつく前に、分身のスケルトンに毒のブレスを浴びせられ、動けなくなったところを生きたまま骨を抉り取られる悲惨な最期を遂げる事になるだろう。
・魔物解説 ナイトメアキャリッジ
タロスヘイムのサムが至った、ラムダで初の魔物。
空中を自由に走行し、更に全身から生物に恐怖心を抱かせるオーラを放つ。
スキル解説:魔力増大
総魔力量に+スキルレベル×10パーセントするスキル。単純だが効果が大きいスキル。
求める者は多いが、このスキルを獲得できるのは勇者本人か、その仲間のみと言われている。
ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援お願いします。
4月24日に99話、27日に100話、5月1日に101話を投稿予定です。




