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閑話9 タロスヘイムな日々

 耳に突き刺さる甲高い絶叫を上げて、最後のゴブリンバーバリアンが倒れた。

 そのまま敵が動かない事、新たな敵が出てこない事を確認したカシムはぽつりと呟いた。


「……勝ったな」

「ああ、勝った。俺達だけで」

「しかも四匹同時にな」


 大きく息を吐いて、胸いっぱいに息を吸い込む。そして叫んだ。

「いぃぃぃやったぞぉぉぉぉっ!」

「やったぁぁぁっ! 俺達はやったんだぁぁぁっ!」

「よっしゃっ……でもそろそろ静かにしようぜ。まだダンジョンの中なんだし」


「そうだな……」

「ゼノ、お前いつも落ち着いてるよな」

「斥候職が落ち着いてなくてどうする」

 一転して落ち着いた三人は、速やかにゴブリンバーバリアンの死体から魔石が無いか探して剥ぎ取って行った。




 『ガランの谷』から地上に戻ったカシム達は、魔石や素材を運びながらギルドカードに似た薄い金属板を眺めていた。

「このダンジョンカード、かなり便利だな」

 それはヴァンダルーが開拓村の冒険者ギルド出張所に在った、ギルドカードに情報を入力するためのマジックアイテムを調べ、タロスヘイムに残っていた冒険者ギルドのギルドカード用のマジックアイテムを改造して発行できるようにした物だ。


 冥銅と、ヴァンダルーの血。そして発行を希望する者の血を使って作るそのカードは、何と所有者に条件付きだがダンジョン内の転移を可能にする機能がある。

「ヴァンダルーはダンジョンからダンジョンに転移できるようにしたかったらしいけど、今のままでも十分便利だよな」

「転移できるのはカードの所有者が到達した事のある階層の入り口だけだけど、それが普通だもんな」


「普通じゃない。一流の錬金術師が作った装置が置いてあるか、限られたダンジョン以外では階段を全部上り下りして移動するのが、普通だ」


 ダンジョンは危険な魔物の巣だが、同時に資源の宝庫でもある。だが、その資源を利用するためには冒険者が背負って外まで運ぶしかないのが殆どだ。アイテムボックスやその劣化版(それでも希少で高額だが)のマジックアイテムでも持っているか、空間属性魔術の使い手が仲間にいるか、そのダンジョンが馬車や荷車を持ちこめる構造でなければ、最大でも背負って運べる分しか持ち帰れない。

 そしてその量も、途中魔物に襲われる危険性を考えれば上限を下げなければならない。


 だがこのダンジョンカードはそれを随分楽にしてくれる。目的の階層まで一度到達すれば、次回からは途中で消費するはずの体力や時間を零にして、転移する事が出来る。

 更に、帰る時も階段まで辿り着ければ、地上まで一瞬で帰れる。やはり時間と体力の消費も零で。


 だからやりようによっては階段の近くで魔物を狩って、素材を十分集めたら階段に入って地上に戻り、素材を置いたらその日の内にもう一度ダンジョンに潜る。そんな事も可能だ。


「やっぱりダンジョンは違うな。強い魔物がこれでもかって出てくるから、経験値がどんどん稼げるし」

「そうだな。開拓村の周りだと、ランク2が最大だったもんな」

 だがカシム達の様な新米冒険者にとって重要なのは、ダンジョンの存在そのものだ。通常の魔境を上回る頻度で魔物と遭遇するダンジョンは、勝てる実力があるなら経験値の宝庫である。


「開拓地に居た頃の俺達じゃ、『ガランの谷』の下層階に近付くのも難しかったけど」

 ゼノの言う通り、彼らがゴブリンバーバリアンの群れを大した怪我もせず倒せたのは彼等の実力が上がったというのもあるが、ヴァンダルーの【眷属強化】スキルで能力値が爆上げされたのと、装備の水準が上がった事が大きい。


 カシム達はヴァンダルーの友人だから特別に高性能な装備を貰った……訳ではない。赤狼騎士団との戦いで武器や防具にガタが来ていたので、タロスヘイムで普通に流通している武具の中でも安い初心者用装備を融通してもらっただけだ。

 ……その安い初心者用装備が、彼等が元々装備していた安物よりもずっと高性能だっただけで。


「確かに、前の盾と鎧だったら怪我くらいしたかもな」

 カシムが見るのは、自身が装備しているアイアンタートルの盾と鎧。元々彼が装備していた型に溶けた金属を流し込んで作る、鋳造の青銅の盾と鎧と比べて防御力は段違いに高く、しかも若干だが軽い。


「ああ、鋳造品で良いって言ったら、あの爺さんに滅茶苦茶怒られた。儂は鍛造武具しか作らんって」

 フェスターの剣も、ダタラが鍛え上げた一品である。一応安物であるため彼の渾身の作と評される一品に比べれば、ずっと切れ味も硬度も劣っている。

 しかし、ニアーキの町の冒険者ギルドで「安物だ」と言って見せたら、同世代の冒険者は金持ちの嫌味としか解釈しないだろう。


「ああ、タレアさん達も含めて……良い人なんだけど、皆感覚がちょっとズレてるよな」

 ゼノの装備も地味にアップグレードされている。普通なら中堅冒険者が愛用する水準の品を、「余り物ですけど」と渡されたのだ。


 このタロスヘイムは外部と隔絶されているため、外の経済や情報が入って来ない。なので、一歩町を出るとランク3……鋭い牙と鉤爪を生やした凶暴なラプトルかそれ以上の魔物がうろついている環境で生き残れる水準が、最低限だと定義される。

 結果、普通の町で流通している安物は作る意味が無いのだ。


「まあ、良い事ばっかりじゃないけどな」

「確かにな」

 そう言いながら旧冒険者ギルド跡、現在は完全にリフォームされて看板も下げられている交換所へと入った。


 中は本物の冒険者ギルドと何も変わらない。

「はい、買い取りですね? 五千ルナに成ります」

『マヨネーズとケチャップとエントシロップのセットと交換ですね?』

『すみません、生クリームは売り切れなんです』

 違うのは、現金以外にも物品と交換できる事だろうか。


「クリーム、売り切れたのか」

「ワサビマヨ、まだ入ってないのか」

「お前等……今日は現金で買い取ってもらうって決めただろ」

 悲しげな顔をするカシムとフェスターの後頭部を、そう言ってゼノが軽く小突く。


 ルナと言う通貨が流通しているタロスヘイムだが、まだまだ商店の類が少ない。そのため、ここで現金よりも物品に交換する者も変わらず多かった。


 小突かれたフェスターは「そうだったな」と気を取り直すと、輝くような笑顔を浮かべて列に並び、カウンターの少女に話しかける。

「リナっ、今帰ったぜ」

「ようこそ交換所へ。換金ですか? 交換ですか?」

「おいリナ、俺だって」

「換金ですか? 交換ですか?」

「おーい、リーナー?」


 カウンターの受付嬢、第七開拓村の冒険者ギルド出張所の非正規職員だったリナは、営業スマイルで恋人のフェスターに対応していたが、徐々に笑顔が引き攣り始める。

「リーナー?」

「だからっ、今仕事中なのっ! 怪我は無い無事でよかった心配してたのよ大好き! これで満足なら早く素材を出して換金か交換か選びなさいっ」


「は、はいっ!」

 慌てて背負って来た素材をカウンターに並べるフェスター。カシムとゼノはその背後で仕草だけでリナに謝る。

 因みに、フェスターとリナはこれが二人の平常運転だ。既にしっかり尻に敷かれているが、それぐらいがフェスターには丁度良いのだろう。


「討伐証明以外は魔石ばっかりね。あ、やったじゃない。ゴブリンバーバリアンを自分達だけで倒すって目標を叶えたのね。

 はい、全部で五百ルナよ」

「五百、かぁ……」

「ええ、別に怒っているから少なく見積もった訳じゃないんだけど……ここの相場だとね」


 リナが集計したカシム達が狩って来た魔物の討伐報酬と魔石は、ハートナー公爵領の冒険者ギルドなら二千バウム以上で買い取ってもらえるだろう量と質だ。

 しかし、タロスヘイムだと五百ルナ程度に成ってしまう。


 これは巨人種アンデッドやグールの探索者(冒険者ギルドに登録している訳ではないが、実質同じ事をやっているので、何時の間にかこの名称が定着した)の質が高い事と、タロスヘイムの周囲やダンジョンで出現する魔物のランクと遭遇率が高いから。そしてヴァンダルーが存在するのがその理由だ。


 ランク3の魔物が頻繁に出現し、二千人を超える大勢の探索者が普通にそれを狩る。なので、魔物の討伐報酬は必然的に外の世界と比べて安く設定されている。

 更に、都市全体のマジックアイテムの動力源である魔力をヴァンダルーが常識はずれの魔力で充填するので、魔石の需要も外の世界よりも低くなってしまう。


 開拓村の面々が来るまでは国民の殆どがC級冒険者に相当する戦闘能力を持っていたタロスヘイムだが、逆に言うと探索者として食っていくには、C級冒険者並の戦闘力が必要に成るのだ。


「ここ、結構過酷だな」

「まあ、強くなるまでの辛抱だ。頑張ろう」

「そうだな。実際レベルも上がったし」

「頼むわよ。共働きでも良いけど、養うつもりは無いからね」




 換金を済ませたカシム達は、リナと勤務時間が終わったら食事をする約束をして交換所を出た。

 屋台で売っている物で軽食を済ませながら、ダンジョンでかいた汗を流すために公衆浴場に向かう。

「……さっきは過酷だって言ったけど、やっぱり俺、今から外に戻るかって聞かれたら断るな」

「俺も」

「俺も絶対断る」


 カシムの言葉に間を置かず同意するフェスターとゼノ。彼らの手には、食べかけの屋台食がある。

 カシムはホットドッグ、フェスターとゼノはハンバーガーだ。

 一口食べれば肉汁とソースが口の中を弾け、レタスや刻んだ玉葱の食感が歯に心地良く響き、柔らかいふかふかのパンがそれを程よく吸って口の中に長居しない。そして飲み下せば、二口目を食べたくなる。


 これが一つ五ルナで売っているのだ。それも、別に知る人ぞ知る名料理人が営んでいる隠れ屋台ではなく、交換所を出入りする探索者を客にする普通の屋台で。しかも作っているのは、カシム達と同じ元開拓村の村人だ。


「ニアーキの町で同じくらい美味い物を食べようと思ったら、どれくらいかかるかな?」

「うーん……白パンに肉に新鮮な野菜にソースに……十バウムくらいか?」

「前に一度、教官がオーク肉の焼肉食わせてくれた事あっただろ? あれ、十バウムくらいらしいぞ」

「後このパン、明らかに町で売ってる白パンより柔らかいし」

「じゃあ、二十バウムくらいかな?」


 改めて手に持っている軽食を見る三人。

 ふわふわのパンに、腸詰と言う未知の技術で作られた肉を挟んだホットドッグ。ミンチにした後成形して焼いただけとは思えない程肉汁豊かなハンバーグ、食感を豊かにするための玉葱とレタス、そしてケチャップソース。

 それらを合わせた料理が、たったの五ルナ。通貨が違うので正確には同価値では無いのだが……ニアーキの町で、予算五バウムで買える屋台食は――。


「えーっと、黒パンと干し肉のサンドイッチ。正体不明のソース付」

「乾燥野菜と豆のスープ、運が良ければ肉の欠片が何個か入ってる」

「混ぜ飯大盛り」


 最後にゼノが言った混ぜ飯とは、屋台の亭主がその日安く手に入れた食材を南部米と一緒に炒めた物だ。日によって具が肉だったり魚だったり変わるため、同じ屋台でも当たり外れが大きい。

 売りは量と安さ。


 今手の中に在るご馳走がそれらに変わるぐらいなら、多少の変化は笑って受け入れるべきかもしれない。


「ところで、何でこれホットドッグって言うんだ?」

「ヘルハウンドの肉を使ってるからじゃないか」

「……ヘルハウンドの肉って、食えたっけ?」

「いや、普通に異世界での名前をそのまま持って来たんじゃないか? たい焼きとかキューバサンドイッチと同じで」


 そう言いつつ軽食を済ませて、公衆浴場に入る。因みに、巨人種以外の住人も増えたので人種サイズの浴槽も併設されている。時々巨人種アンデッドが「半身浴」している時もあるが。

「入りに来たぜ、お義父さん」

「その呼び方はまだ早いって言ってんだろ!」

 「何でも屋」の親父だったリナの父親がフェスターに怒鳴って返した。


 他の都市との交流も無く、全ての住民に住居が支給されたタロスヘイムでは宿屋の需要は無い。そこで、「事務官しません?」とのヴァンダルーの誘いを「宮仕えは性に合わねェ」と断って、この公衆浴場で働いているのだ。

 そして資金を貯めて、タロスヘイムが他の都市と交易する時までにまた商売を始めるつもりのようだ。


 入浴料を支払って、服を脱いで風呂に入る。因みに、この公衆浴場は男女別である。混浴の浴場は男女の出会いの場になっているので、フェスターが入れないのだ。

「ふぅ……風呂っていいなぁ」

 肩まで浸かって、一言、残りの二人も「そうだな」と同意する。


 カシム達がお湯の風呂に初めて入ったのは、タロスヘイムに来てからだ。サウロン領でも開拓村でも都合良く温泉が湧いている様な事は無かったし、大量のお湯を沸かせる経済力も無かった。

 地球の現代日本なら気軽にお湯を沸かせるが、ラムダでは薪を集めるか高価なマジックアイテムを使うか、火属性魔術でも習得しなければお湯を沸かせないのだ。


 普通に薪を使うにしても、切り倒した後乾燥させないと木材は燃えにくい。手間と時間がかかり、風呂の為に毎日消費する事は出来ない。


 それがタロスヘイムだと気軽に、安く入れる。最近ではボイラーに燃料ではなくフレイムゴーストが入っていたりするので、自然にも優しい。ゴースト達にとってもじっとしているだけでそこそこの給料が稼げるので、人気のバイトらしい。


「それに石鹸も安いもんな。ニアーキの町で見た時は一個百バウムだったけど、ここだと三ルナだし」

「確か、魔物の脂肪から作ってるんだっけ?」

「一番安いのはな。果物から作ったのは高いが、良い匂いがするぞ。女に贈ると喜ばれる」

 ぐるぐると唸るような口調で居合わせたグールの男が話しかけてくる。


「あ、ボダンさん。どうも」

 どうやらボダンという名のグールは、カシム達と同じ探索者で顔見知りらしい。

「……フェスター、俺はバデンの方だ」

「えっ? あっ、すんません!」

 顔見知りではあったようだが、他のグールと間違えたらしい。だが、仕方ないだろう。男グールの顔は獅子のものなので人種とは作りが大きく違うので、余程見慣れないと見分けを付けにくい。


 浴場で全裸に成っている状態では中々見分けはつかない物だ。

「ところでバデンさん、その石鹸について詳しくっ!」

「どれくらいの値段なんですか!?」

 日々一人身の寂しさを感じているカシムとゼノが話題に食いついた事で、バデンも人違いについてはあまり気にしなかったようだ。


 最近発売された蜂蜜石鹸を贈り物にすると良いかもしれないと、贈る相手も居ないのにカシムとゼノが結論を出した頃に、バデンは風呂から上がって行った。

 バデン以外にもアヌビスやブラックゴブリン、オーカス、巨人種アンデッドがこの浴場では汗を(一部かかないのもいるが)流している。


 カシム達を含めた元開拓村の面々も、タロスヘイムに移住した当初は驚いたがすぐに慣れてしまった。【眷属強化】による親近感の効果もあるが、話して見ると意外なほど話が通じるからだ。

 旧来の住民と新住民を交流させるためのイベントも開かれているので、起きるトラブルも精々ケンカぐらいで激しい対立には発展していない。


 開拓村が難民の寄せ集めで村に複数の種族が暮らしていた事も、良かったのかもしれない。

 それにこの一言で大抵の奇妙な隣人に対して納得できる。

「ヴァンダルーに比べると皆普通だしな」

 本人はそんな言われ方をするのは不本意だろうけれど。


「でも、あいつって結構普通の子供っぽいところもあるよな」

「ああ、何考えてるか分かり易いし」

 生前のパブロ・マートン辺りが耳にしたら「気でも狂ったのか!?」と聞き返しそうな言葉だが、カシム達は至って正気だった。


 ヴァンダルーは無表情で声も平坦だが、実は顔以外を見ると存外何を考えているか分かり易い。手足や、最近ではある程度自由に動くようになった髪も使って動揺や驚き、感情を表現しているからだ。

 自分でも表情と声に変化が無い事を分かっているので、顔以外の部分を使う事で感情表現のバランスを取っているのだろう。


 緊張している時は完全に感情表現をしなくなるので、それはそれで分かり易い。


 それに開拓村に居た時から気が付いていたカシム達が、ヴァンダルーに普通に接するのは当然の事だろう。

 当人が聞いたら、自分の精神年齢の退行具合を客観的に思い知らされて、それなりに衝撃を受けるだろうが。

 もうすぐ八歳のヴァンダルー。彼は地球とオリジンを含めると、四十代半ばで壮年も見えてくる年月を生きているのだ。


「それに、怖いとか『怪物』とか言われると落ち込むみたいだしな。俺達くらいは怖がらない様にしてやろうぜ」

「カシム、そう言うお前もこの前ヴァンダルーと公衆浴場でばったり会った時、悲鳴あげたじゃないか」

「いや、あれは……仕方ないだろ!? お前らだってビビってたじゃないか!」


 カシムが湯船に浸かっていると、実は先に湯船の中で(懲りずに)脳天まで浸かっていたヴァンダルーが音も無く真横に出てきたのだ。本人は湯の中で目を瞑っていて、息継ぎのために頭を出しただけだったらしいがあれは驚く。

 不可抗力だとカシムが主張するのも無理は無い。


「まあ、確かに仕方ないよな。俺も気が付かなかったし。【気配感知】スキル、持ってるのに……」

 斥候職としてのプライドが傷付いた事を思い出し、地味にゼノが落ち込んでいる。

「何にしても、俺達は『怖い』とか言わない様にしようぜ」

「そうだな」

 そう言ってこのタロスヘイムの王兼友人との接し方を決めたのだった。




 水銀鏡に反射される日光も弱くなる黄昏時。

 リナとの待ち合わせの場所に向かっていた三人は、通りがかりに出来ていた人集りに興味を惹かれてそれを見てしまった。


 十数人の子供達が開けた土地に建てられた遊具で遊んでいる。

 カシム達は見慣れていなかったが、地球では代表的な遊具の砂場や滑り台、ジャングルジム、鉄棒等を使って子供達が元気に遊んでいる図は、本来なら微笑ましいものかもしれない。


 しかし、遊んでいる子供達が全員同じ顔で、一言の笑い声も漏らさず人形のような虚ろさだけを漂わせ、音も無く動き回っている光景は、とても微笑ましいとは思えない。


「「「怖い……」」」

「おや、奇遇ですね」

 思わずカシム達が呟くのと、ヴァンダルーが彼等に気が付くのは同時だった。

 その瞬間、無数に居たヴァンダルー達が輪郭を崩し、ただ一人そのままだった肉体を持つヴァンダルーに集約される。


 幸い、カシム達の呟きは聞こえなかったようだ。

「えーっと、何をしてたんだ?」

「皆の憩いの場兼子供達の遊び場として公園を作ったので、設置した遊具に不具合が無いか確かめていました」

 元々タロスヘイムには公園等が無かったので、ヴァンダルーが周囲の建物を「ちょっと横に動かしますね」と移築して、作ったスペースに公園を作ったようだ。


 そして【ゴーレム錬成】で材料の形を変えて設置した遊具に不具合は無いか、自分で試していたらしい。


「公園か……都会にはこういう場所があるのか?」

「さぁ? ナインランドには在りませんでしたね。でも、こういう場所はあると便利ですし」

「そういうもんか」

 態々公園を作る理由とその価値に思い至らないカシム達もそう言うが、ヴァンダルーも「何となくあった方が良いだろう」と言う程度の感覚で作っているので、詳しく説明できない。


 公園には親の目が届く子供の遊び場や親同士の交流の場、様々なレクリエーションに使える等の様々な利点があるのだが。

「それで、点検は終わったのか?」

「はい」

「じゃあ、これから早めの夕飯でもどうだ? リナと待ち合わせしてるんだ」


「食べる場所を王城にしても良いなら。今日は新しい調理器具を使って新しい料理に挑戦する予定なのです」

「マジかっ!? ラッキーっ」

「それで何を作ってくれるんだ?」


「カリーとナンです」

「えっ? カリーと何だって?」

「ナンです」


 どうやらヴァンダルーは、タンドリーオーブンを自作してカレーよりもカリーを先に作るつもりらしい。

「フェスターとリナが結ばれる時に作ると言ったので。

 ところで、もうすぐ情報収集も一段落するのでクリーム遠征が本格的に始まりますけど、カシム達はどうします?」


「あー、あれか。リザードマンかぁ……まだちょっと地力を鍛えたいな」

 新作料理やもうすぐ始まる遠征戦について話ながら、和やかにリナとの待ち合わせ場所に向かう四人だった。

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援お願いします。


4月16日に登場済み種族紹介 19日に五章97話、23日に98話を投稿予定です。

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