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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第四章 ハートナー公爵領編
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閑話7 遠い所から彼を想う

 連行された先で彼女のために作られた特殊な監房を見た【メタモル】、獅方院真理は小さく笑った。

「オーダーメイドで一部屋作ってくれるなんて、太っ腹ね」

 棘も皮肉気な響きも無い口調で話す彼女だが、身体の中には特殊なマイクロチップと爆薬が埋め込まれている。


 どんな姿にもなれる真理を、万が一にも逃がさないための措置だ。

「……力が及ばず、済まない」

 雨宮寛人は、真理の言葉には応えず謝罪した。その苦しげな顔は、まるで彼の方が罪人のように見える。彼と真理に同行している他の転生者も同じ様な表情をしていた。


 しかし真理はそんな寛人にやれやれと小さく苦笑いを浮かべた。

「謝る事じゃないわよ。あたしを殺さずに済むように頑張ってくれた事は解ってるから」

 真理は同じ転生者である海藤カナタを殺した。テロリストに与した訳ではないが利用し、偽情報で政府や仲間を翻弄して、標的のカナタが一人で任務に就くように仕向けた。


 海藤カナタの死は、転生者達に大きな衝撃を与えた。それまで災害救助やテロリストの制圧等で転生者達は人の死には……災害の被害に遭った一般人やテロリスト以外にも、一緒に活動していた味方の軍人や助けるはずだった要救助者の死にも接している。

 だが、やはり同じ転生者であるカナタの死は別格の衝撃だった。


 神から新しい人生を与えられ、地球から異世界『オリジン』に転生し、魔術の才能や特殊な「チート能力」を与えられた自分達でも死ぬし、殺せると言う現実を直視させられたのだ。


 そして、それが切掛けになりそれまで『ブレイバーズ』と言う一つの組織に集まっていた転生者達の間に、罅が入った。

 いや、正確には罅は見えないだけで在ったのだ。真理がカナタを殺したのは、その罅が無視できる限界を超えただけの事だ。


 だが仲間の中にはそれらを全て真理のせいだと考える者も存在する。各国の政府や軍も、姿形だけでは無く指紋や網膜、静脈すら対象そっくりに化ける事が出来る『メタモル』の力を持つ真理を、危険視している。

 同時に、彼女を庇い抹殺では無く監禁する事に止めるよう主張した寛人に不信感を覚える様になった者も。


「君が殺したのは海藤一人だ。大統領のお嬢さんも、保護される様にしていた。動機も理解できる。初犯だし、本来なら死刑ではなく悪くても終身刑、国によっては有期刑が妥当だ。

 そもそも、君がカナタを殺した国は死刑制度を廃止している。都合と感情だけで君を抹殺するべきだなんて、我儘にも程があるだろう」


「相変わらず硬い考えね」

「柔らかいよりいい。少なくとも、外から見ても僕が何を考えているか分かり易いだろう」

 事務職まで含めると全員が地球からの転生者ではないが、身内が多いブレイバーズが対外的に信用されるためには国や国際社会のルールに忠実である事が必要だと言うのが、寛人の考えだった。


 地球並の科学と地球に無い魔術があるオリジンでも原理不明の力を持つ転生者達は、何かあればミュータント扱いされる。実際、今もそう主張している団体が存在する。

 だからこそ自分達は社会のルールを順守すると言うポーズが必要なのだ。


「だがそう言っておきながら、僕はカナタの犯行に気がつかなかった。僕が謝っているのは、その事に関してだ」

「それこそ、自分の手で殺す前に相談しなかったあたしに謝る事でも無いわね」

 そう言いながら、真理は部屋に入って行った。


 扉が閉まり真理の姿が見えなくなってから、寛人達は踵を返した。

「……あいつらの情報は?」

「村上達は『第八の導き』と合流した後の行方は分りません」

 真理の護送に付き添っていた一人、三波浅黄は口調こそ丁寧だが瞳に怒りを湛えて答えた。


 村上……地球で高校教師だった村上淳平と言う名の転生者は、彼も含めて十人のグループでブレイバーズを離れ、何とテロリストグループと合流して姿を消してしまった。

 ロドコルテは「仲違いは納まった」と言ったが、当事者の寛人達にとっては嵐の前の静けさでしかない。


「あいつ等、一体何を考えているのか……特に村上は俺達の担任だったんですよ? 普通教師が生徒を扇動してテロリストに加わりますか?」

「彼が君達の担任教師だったのは、もう三十年近く前だ」

 護送に加わっていたもう一人、【オラクル】の円藤硬弥は浅黄にそう指摘した。しかし、浅黄は彼の言葉に納得できないようだ。


「でもっ、俺達は仲間じゃないですか。それなのに裏切るような真似して……許せませんよ」

 浅黄は地球では運動部の熱血漢で仲間思いな少年で、全体主義的な考え方をする所がある学生だった。そして、地球での過去を引きずっている傾向が強い。

 今まではそれが良い方向に作用していた。転生者達が異世界での新しい人生と、突然渡された強力な力に振り回されない様にするためには、『地球』という共通する過去とそこでの経験という拠り所が必要だったのだ。


 だが、それを頼りにしすぎて見るべきものを見ていなかったからこそ起きたのが、今の問題だ。

「浅黄、僕達はもう地球で死んでから二十年……後数年で三十年に成る。それだけの時間が過ぎれば人だって変わる。それを僕達は考えるべきだった」

「寛人さん、そりゃあ地球のニュースでも、逮捕された犯人が『昔は良い奴だった』って同級生に語られる事が在ったのは俺も知ってますけど、俺達は仲間――」


「カナタはその仲間の母親の臓器を闇で流したぞ」

「そりゃあ、そうですけど……それはあいつが誘惑に負けて道を誤ったからじゃないっすか! 俺達は、犠牲になった田中達三人の分まで、戦わないといけないんですよっ! じゃないと、あいつらが浮かばれないじゃないですか!」


「浅黄、気持ちは解るけれど……私達は前世の記憶と妙な能力を持っているだけの、人間だよ」

「硬弥さん、あんた……何が言いたい?」

 熱くなる浅黄に冷や水をかけるような硬弥の物言いに、浅黄が彼を睨みつける。


「村上は兎も角、僕達はもうオリジンで生きている時間の方が長い。これからは、仲間だからと盲信するのは止めようと言う事だ。僕達は力を持っているけど、その前に一人の人間でもある。誘惑に駆られたり……価値観が変わる事もある。そう硬弥は言いたいんだ。

 僕も、同意見だ」


「それは……寛人さんの言いたい事も分りますけどねっ、俺は納得できませんよ!」

 そう言い捨てると、浅黄は足を止めた寛人達を置いて足早に離れて行った。

 その逞しい背中を見送りながら寛人は苦笑いを浮かべると、黙っていた他の転生者に「悪いがあいつの愚痴の相手になってくれ」と言って、先に行くよう促す。


「あいつの方が余程石頭だと思うが、あれくらい変わらないと逆に助かる事も多いな」

「私も嫌いなわけではないよ。私達しか周りにいないと、事あるごとに『地球では』と言うのが面倒なだけで」

「確かに」

 残った寛人と硬弥はそう言って笑い合うと、肩の力を抜いたまま話を続けた。


「村上達の居場所は、【オラクル】で分からないのか?」

 硬弥のチート能力【オラクル】は、対外的にはまるで神からの神託や預言の様に考えられている。しかし、実際には万能とは言えない力だ。

 硬弥の【オラクル】は、彼が求めた結果に至るための方法を『何か』が答えるだけだ。


 その『何か』を、硬弥は最初神だと考えていた。だが、経験から神の様な全知全能の存在ではない事に気がついた。

 彼が行った質問の幾つかに、『その目的は達成不可能だ』との答えが返って来たからだ。

 だから、【オラクル】で得られる答えは人類の集団無意識だとか、アカシックレコードだとか、そういった何かにアクセスして、答えを得ているのだと考えていた。


 それによると、寛人の質問の答えは――。

「後暫く……具体的な期間は質問する度に違うから分からないが最短で三カ月、長くても三年後にはニュースで解るらしい」

「それは奴らが何かをしでかすって事か。それじゃあ、それを前もって防ぐ方法は?」


「……済まないが分からない。それも毎回変わるんだ。具体的に何をするのか分からないと、正確な質問は出来ない」

 『村上達が行うテロを防ぐ』、『村上達が行う誘拐を防ぐ』、『村上達が行う麻薬取引を防ぐ』……どれもこれも別の質問である。

 大雑把に『村上達が犯す犯罪を防ぐ』だと、『一時間後村上がガムをポイ捨てする前に捕まえる』と言う、微妙な答えが返ってくる。


 一応その時もガムのポイ捨てが犯罪になる国や地域の衛星や監視カメラをチェックしたが……勿論見つかるはずが無い。


「村上達も私の【オラクル】について知っている。だから複数の犯罪計画を立てたり、ガムのポイ捨てなんかの軽犯罪を何処かでしたりして攪乱している」

「そうか。能力以外で探すしかないな。出来れば、彼らを殺すような事は避けたいのだが……」

「奥さんの為にもか」

「ああ。地球に居た頃とは別人だと思えと言ったばかりだが、過去が消せないのも事実だ」


 不条理に断ち切られた地球での人生と、残してきた家族との絆。そしてオリジンで経験する不幸。

 それらが惜しければ惜しい程、辛ければ辛い程、地球での思い出は輝いて見える。

 仲間同士での殺し合いは、寛人の妻と成った雨宮成美には辛いだろう。


「……私は、君に話していない事がある」

 それを硬弥も知っているから、寛人にも今まで打ち明けられない事があった。

「何かを隠している事は薄々気がついていた。あの秘密研究所が被験者のアンデッド化で壊滅した事件の、暫く後から」


 あの事件で世界は死属性と言う新しい属性を知り、そして失った。寛人にとっても忘れられない事件だった。必要に迫られたとはいえ、ブレイバーズが災害や事故の救助だけでは無く、今の様にテロリストや犯罪組織と戦うようになる切掛けになった事件だ。


 しかし、硬弥にとっては別の意味で忘れられない事件だった。


「あの後……皆で軍事訓練を受け始めた頃だ。私は『私達転生者が誰一人殺されずに済む方法』を尋ねた。

 答えは、『不可能。既に殺されている』だった」

 そして寛人にとっても益々忘れられない事件に成った。


「それは、本当か? 真理がカナタを殺すずっと前に……」

「その後、私は魔力が切れる前に【オラクル】に質問したよ。その殺された転生者が誰なのか、殺した奴は誰なのか、知る方法は無いかと。

 『何処で誰に殺されたのか』は『あの研究所の事件ファイルを見ろ』とその番号を。『その転生者が地球で誰だったのか』は、『成瀬成美に地球で死ぬ前の話を聞けば解る』と言う答えを貰ったよ」


 硬弥の告白は、寛人達にとって恐ろしい真実を明らかにする事だった。

「そうか、僕達はあの時点で……仲間に止めを刺していたのか」

「私はただ、『安全にアンデッドを退治する方法』をオラクルに聞いたつもりだったが……彼にとっては酷い裏切りだったろう」


 天宮博人が転生する前にオリジンへの転生を終えていた硬弥達には、何故彼ただ一人だけが合流せず、あの研究所で被験者になっていたのかは分からない。

 しかし、自分達が何故合流できたのかも「不思議な運命」というあやふやなものでしかない。


「天宮博人……彼も転生していたのか」

 成美を助けようとして先に死んだ少年。妻は、最初彼と雨宮寛人を勘違いして接してきた。それが夫婦のなれ初めだったので、寛人も自分と似た名前の少年の事を覚えていた。


「だが硬弥、あの時彼は既に――」

「分かっている。アンデッド化していた。既に死んでいて、危険な存在になっていた。元の人間に戻す方法は無い。

 だから、私達に出来るせめてもの事は、彼を楽にしてやる事だけだった」

 少なくとも、オリジンでのアンデッドはそういう存在だ。周囲の魔力を歪め、汚染する怪物。アンデッド化直後はまだ人格を残しているケースも僅かだが、何時それらを無くして邪悪な化け物に成るか分からない。


 人を生き返す方法が存在しないのに、アンデッドを人に戻す方法があるはずがない。


 だから硬弥は天宮博人を殺させた事自体は後悔していないし、罪の意識もない。

「だが、私は彼を見つけられたはずなのに見つけられなかった。【オラクル】で、彼にどうすれば会えるのか質問するだけで良かったんだ。ただ……どういう訳か、それまでも仲間に関しては質問していたのに、オラクルは彼の存在を答えなかったけれど」

 それは硬弥が尋ねた仲間が、「地球から転生した、神から能力を貰った存在」と言う定義だったからだ。


 天宮博人は、地球から転生してきたが、チート能力も何も受け取っていない。だから『仲間』の範疇に入らなかった。


 罪悪感に苛まれている硬弥の肩に手を置いた寛人は、「あまり思いつめないほうがいい」と言った。

「僕達はただの人間だと言ったのは、君だ。【オラクル】も君も万能じゃない、自分を責めるな」

「だが……」

「彼は死んだ。もう会えないし、謝罪する事も彼から赦してもらう事も出来ない。僕達に出来る事は、彼の様な犠牲者を……死属性魔術の研究の犠牲者を出さない様にする事だけだ」


 現実問題、死者は生き返らない。話す事も何もできないから、直接謝罪する事も出来ない。

 遺族に賠償しようにも、オリジンでの天宮博人には親族も友人も存在しない。

 だから罪悪感を覚え贖罪の機会を求めるなら、寛人の言う様に自己が満足するまで何かをするしかない。


 『殺した人の分まで、人を救え』だ。


「……そうだな。彼を生き返せない以上、そうするしかない。君の奥さんにはどうする?」

「黙っていてくれ。彼女を苦しめたくない」

「ああ、それが良い。話しても、彼にはもう会えない。なら、知らない方が良い。

 君に対しても言える事だったが……巻き込んで済まない。黙っているのは限界だった」


「気にするな。死属性について少しでも知る事が出来たのは、これからの戦いにも意味のある事だ」


 硬弥がもしオラクルで「天宮博人にもう一度会うには?」と質問していれば、「死後、天宮博人だった存在に会える」と明確な答えがあり、それから自分達に「次」がある事を推測する事が出来たかもしれないが、彼らがそれを思いつく事は無かった。


「……そして、それを知ったからには何としても『第八の導き』のメンバーを捕まえたい、生きたままで。勿論諜報機関とは、違う理由で。天宮博人が最後に助けた人達だからな」

 『第八の導き』……それはあの秘密研究所でアンデッド化した天宮博人が暴れた際に、彼は自分と同じ実験体にされていた人々を助けている。その元実験体たちが結成した犯罪組織だ。


「あの時は事件の裏を知らず、彼らの保護を国際機関に任せてしまった。だが、今度こそ失敗はしない」

 転生者の村上達が合流した第八の導きのメンバー達は、保護されたはずの国際機関でも秘密裏に失われた死属性の研究に利用された。彼らはそこから独力で脱出し、今も死属性の研究を行おうとする機関や組織相手にテロ行為を働くほか、幾つもの事件を引き起こしている。


 他の犯罪組織とは全く異なる、半ばカルト宗教の様な集団だ。そして彼らは死属性魔術について何かを知っていると、各組織から狙われている。


「彼らを助ける方法はもう聞いてある。だけど、難しい」

「どんな答えだ?」

「……出来るだけ早く村上達を捕まえるか、殺す。それが答えだ。村上達は、『第八の導き』に協力しているんじゃない。利用して、多分裏切るつもりだ」


 想像以上に困難な答えに、寛人は眉間を抑えた。




 一柱の神が目を閉じたまま佇んでいた。

 その姿は年老いた男と青年、そして少年の三位一体。かと思えば、それぞれ分厚い書物を携えた三人の美女に変わる。


 神の名は『時と術の魔神』リクレント。アルダやヴィダと同じ、原初の巨人から生まれた十一柱の神だ。

 彼ともう一柱の神は、アルダやヴィダの様に特定の姿や性別を持たない無性にして、無貌の神だった。

 その彼が目を開いてじっと見つめるのは、彼らが創りだした世界ラムダだ。


『預言は成就した。アークは帰って来た』

『ザッカートでは?』

 何時の間にか、リクレントの前に四つの頭を持つ獅子が居た。


『ズルワーン、彼はアークでもある』

 異形の獅子の姿を取っているのは、『空間と創造の神』ズルワーン。彼は、空間を司り、何処にでもいると同時に何処にも存在しない存在だ。


『確かに。彼はザッカートであり、アークであり、ヴァンダルーであり、侵犯者である。

 我等の無謀な姉にして勇敢な妹以外に、応えた者は?』

『ヴィダ以外に我の預言に応えられた者は少数』


『我らの激情家にして愚か者に成りかけた兄弟は?』

『ザンタークは、我と離れすぎている。不明』

『では愚直にして一途な新たな兄弟は?』

『彼は応えた。だが見つけられずに彷徨っている』


『そうか。では我らはこれからどうする? 我は侵犯者に媚びるつもりだが』

 そのズルワーンの物言いに、初めてリクレントが表情を浮かべた。

 顔を顰め、苦笑いをする。


『媚びると言う表現は、使うべきではない。彼女も、アークも望まない』

『では、汝は媚びないのか?』

『媚びぬ。アークの目的に沿うよう協力し、機嫌を取るつもりだ』

『やはり媚びるのではないか』


『当然だ。彼は侵犯者なのだから』


 ズルワーンは遥か昔、魔王との戦いで危機に陥ったラムダを救うために異世界の住人を招く事を提案した。その時彼は、実は「勇者を召喚しよう」とは一言も発していない

 彼は、『侵犯者を呼ぼう』と言ったのだ。


 異なる世界から招かれた、あらゆる領域を犯し掻き回し、新たな何かを創り出す存在。

 既存の秩序を打ち壊す破壊者にして、新たな秩序の誕生を促す混沌。

 善を叫びながら悪を撒き、悪を掲げて善を成す者。


 それをズルワーンは侵犯者と評した。

 異世界の知識と常識、価値観を持つ故に、神である自分達にすら出来ない事を可能とする者達。彼はそれに賭けたのだ。

 そして、賭けは残念ながらこのままでは負ける。


 だからこそ、アークでありザッカートである侵犯者には頑張ってもらわなければならない。

 十万年前に続いて現在も世界を背負わせるとは、神でありながら不条理な事をしているとは思うが。


『侵犯者は我々を敬ってはいない。我々の従属神が、アルダに協力しているからだ』

 残った神々のリーダーであるアルダの下に、リクレントとズルワーンの従属神達は今も存在している。

『世界を維持するための業務だけを行う、我々の分霊達だが……彼にただ一方的に理解を求めるのもまた不条理だ』


 『秒の神』、『分の神』、『時間の神』、『前の神』、『点の神』、『奥の神』、『後ろの神』と言った、時間や空間の概念を支え属性を支える役割を与えられた神々で、実態は高度な人工知能に等しい。


 十万年前、アルダとヴィダのどちらが勝つにせよ世界を維持しなければならないので、半ば以上眠っていたリクレントとズルワーンはそれらの従属神達に戦いに一切かかわらない事を命じた。

 結果、中立を維持した彼等は後の神話には勝者であるアルダを支持した神々の一員とされてしまった。


 侵犯者、ヴァンダルーから見ればリクレントとズルワーンも、決定的な敵では無いにしても、味方には思えないだろう。

 そしてこのまま裏で糸を引いている様な真似ばかりしていたら、敵と誤解されてしまうかもしれない。


 故に少々無理をしても彼に「自分達は味方だ」と知ってもらう必要がある。


『とは言っても、大した事は出来ないが。我らは力を失っている。特に我は、失った状態でやらねばならぬことが多い』

『大した事でなくても十分だ。彼自身が、大したことを成すだろう。我が見込んだ者とは言え。流石アーク』

『ザッカートでもあるがね。だが、それは同意。ザッカートやアークが再現できなかったラーメンや味噌、醤油を彼は再現した。あの調子ならカレーも遠くはないだろう』


 リクレントは骨を抉り出すようにして、ズルワーンは臓腑が弾けるような激痛を味わいながら、それぞれがヴァンダルーに『協力』した。


『活かせるかは、彼次第だが』

『彼次第だが、彼ならどちらにしても新しい存在を作るだろう』


 そしてズルワーンは消え、リクレントはまたラムダを見つめ続ける。

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援お願いします。


4月8日に四章キャラクター紹介、11日に閑話8 15日に閑話9を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
使えない神しか居ねえw
[良い点] 嗚呼、なんてこったい 追放勇者ザッカートよりも、更に前座が居たなんて [気になる点] 而も、モノの喩えが日本の食文化だなんて [一言] いとおかし
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