保健所一括方式
この町での男児割礼は保健所で一括して行われる。春休み中は毎日、町の中心部にある保健所において集団割礼式が行われている。諸外国ではテーブルの上に何もひかず、下半身丸出しになって仕切りもなくマグロのように並ばされ、次々切っていくような光景も未だにあるようだが、さすがに日本ではそこまで開放的な状況にはならない。どこまでプライバシーが確保されるかは自治体や保健所の構造により大きく違う。中には完全にカーテンで仕切られていて医師以外に裸を見られることがない保健所もある。一方、衝立だけのところもあれば大ホールにベッドが並んでいるだけというところもある。個々のベッドだけはどこでも用意されていた。
ある町の保健所には大きめのホールに5台のベッドが並んでいた。それぞれのベッドに1人の医師と1人の看護士が待機し、町の職員が誘導してくる男児に手術を施していた。ベッドの間は衝立によって仕切られており、他の男児の様子は見ることができない。時折、隣のブースからも悲鳴が聞こえてくる程度である。一方、入り口側からは仕切る物がない。次に順番が来る子はホールの入り口にある椅子に座って待機するので、そこからは手術光景が見えている。もっともそれなりに距離があるから性器そのものがみえることはないが。親などにつれられて保健所に来た男児には整理番号が渡され、待合室で待機する。順番が近づいてくると職員がそろそろなので準備するようにと声をかける。そして3人前になると職員に連れられ、付き添いの保護者と別れて手術室となっているホールへ移動する。前後の準備時間を含め、1人あたり20分程度は要する。6年生くらいになれば剃毛が必要な場合もある。麻酔の注射を打ち、しっかりきくまでの間に医師は問診や触診をするが、子どもたちは今まさに起きようとしている恐怖で、まともな回答ができないことも少なくない。ほとんどが親に言われ、仕方なく受けに来ている子であるから、覚悟などできているわけではない。麻酔の瞬間は泣き叫ぶ子の方が多いし、待合室で既に泣いている子もいる。順番が来れば泣こうがわめこうがホールに連れてこられ、職員がしっかり横についているから逃げようがない。緩いパンツとズボンをはいてくるよう指示されているが、それでも手術が終わってパンツをはく時は相当痛い。もじもじしていると次がつかえてしまうので、職員に促される。多くの子は目に涙を浮かべたまま、待合室の親のもとへと帰る。親には塗り薬と痛み止めが渡され、帰宅する。麻酔が切れた後に本当の痛みが襲ってくるのだが、子どもたちはまだ、その事実を知らない。これから1週間近く、この痛みに耐えなければならず、親子ともに試練である。ちなみにこの町は手術受付を春休みの1日目と2日目のみ設定しているので、地域の子どもたちが沢山集まっている。
もっと人口が少ない村では、医師の数も足りない。公民館を貸し切って行われる割礼式ではひとりの医師がせわしなく動いていた。今日1日で50人近くの男児に割礼をしなければならない。このような場合は効率化のため、仕切りなどは特別にもうけない。公民館の1室にベッドを三台並べ、同時並行で進んでいく。2人目の麻酔がきくまでの間に1人目の包皮を切るといった具合である。剃毛や事前事後の準備などはこれまた1人だけの看護士や村の職員に任せ、医師は麻酔の注射と割礼のみを担当する。麻酔をした後はタイマーがおかれ、時間を管理する。手際よく、進めていかなければとても終わらない。中には兄弟や友達同士が真横で割礼されていることもある。つい先程まで皮に包まれていたピンク色の亀頭が剥きだしになるのを見て、あるいは性器から出血しているのを見て、隣の子が興奮してしまうこともあるが致し方ない。3部屋あるうち、一つは待合室として使われている。残りの1つは休憩所となっており、手術を終えたばかりの男児が少し休憩してから帰宅ができるようになっていた。中にはちょっと離れたところから車で数十分かけて来ている子もいるので、このような配慮がされている。親としても一回で済ませたいので、2つか3つ離れた兄弟やいとこがいる場合は一緒にされるケースが多い。まだ小3で、同級生はもう少し大きくなってからやることも多いのに強制的に切られてしまう子もいる。逆に仲間が既に終え、自分も早くして欲しいとねだりながら親に拒否され、6年生まで待たされる場合もある。