page7 ココロ
「涼ちゃんと、同じ気持ちだから」
優利香の口から、その一言が零れた。
俺の気持ちと同じ。つまり。
「その・・・、ヤラシイ気持ちとか、そんなんじゃないんだよ。うん」
俯きながら、彼女が声を出す。
恥ずかしがってるのはわかる。当たり前だ。
こっちだって恥ずかしいってのに。
「わ、分かってるよ。分かってるけどよ、つまりその。俺と同じってコトは―――」
「うん。涼ちゃんが・・・好き」
「俺なんかのどこが?」
「ん、なんだろ。・・・全部かな」
彼女は顔を更に赤くし、遂には顔を手で覆い隠した。
口調もいつからか、変わってる。
本当の優利香はこうなのか?
突然の事に、頭があんまし回転してくれない。
彼女の口が、静かに開く。
「やっぱりダメ、だよね。突然すぎるよね。・・・ごめん」
次第に言葉が小さくなっていく。
「私なんか、なんにもないもんね。スタイルいいわけじゃないし、顔もかわいいわけじゃ―――」
「そんな事ねェよ」
「ふぇ?」
泣きかけていた彼女の手を取り、引き寄せる。
そしてそのまま、やさしく抱きしめた。
やさしさの加減が分からないから、すこし強かったかもしれない。
「涼ちゃん・・・?」
「何にもなくねェよ。可愛いし。何より、抱きしめたら暖ったけェじゃねーか」
・・・恥ずいコトを、躊躇もなく口にしている俺がいる。
「なんつうのか、説明できねーくらい胸がドキドキすんだよ。コレが"恋"ってヤツなんかな?」
「・・・ほんとだ、すごくドキドキって音がする。―――私も、ドキドキする。一緒だね」
「上目遣いすんな。恥ずかしい」
俺はそう言って顔を背けた。
彼女は軽く笑って、上目遣いを続けた。
俺は彼女を見る事ができなかった。
恥ずかしいね。
そうだな。むちゃくちゃ恥ずかしい。優利香のせいだ。
うー、そんな事言わないでよ。
うはは。
学校では、ナイショだよ?
なんでだよ。
・・・恥ずかしいじゃん。
そうだなー。
あのあと数分間笑いあった。
楽しかった。
少しもやがかかった気持ちがすっきりした。
そんな感じだった。
「なーん」
「ん、ゴメンな蜜柑。帰ったら牛乳やるから」
「蜜柑っていうんだ、そのネコくん」
「くんじゃねェんだ。メスだからな」
蜜柑を撫でながら、笑った。
「ふぅん。よろしくね、蜜柑ちゃん」
「なーん」
彼女が蜜柑を撫でると、それに答えるようにして蜜柑が鳴いた。
彼女が笑った。
俺も笑った。
「それじゃあ、帰るね」
「送っていくか?」
さり気なくそう言うと、彼女は
「いいよ。だいじょぶだから」
「・・・おう」
手を振る彼女に、手を振った。
彼女が消えていくまで、俺はその場に立ったままだった。
夕日が沈む。沈んでいく。
その光景がとても綺麗だ。
影が伸びていく。
ゆっくりゆっくりと、伸びていく。
なんだか遠くへ、行きたくなった。
「なーん」
「分かってるっての」
いつものように牛乳を皿に注いで、蜜柑にやった。
蜜柑はそれを美味しそうに飲んだ。
「それ飲んだら、寝ろよ」
「にゃー」
俺の声に、蜜柑は答えた。
優利香も俺が好き、か。
この前まで、幼馴染だどうだとか騒いでたくせに・・・。
しっかり意識してるじゃんかよ。
前から思ってたのかもしんねぇけど。
俺はひとつため息をついた。
座っていたベッドから立ち上がり、窓から外を眺める。
点々と、小さな星のようなものが目にとまった。
輝いていた。星が。
星を見終え、ベッドに寝転ぶ。
あ、電気。と思って電気を消した。
彼女の温もりが、まだ腕の中に残っていた。