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page6 ネコが鳴く夜

部屋に入ってすぐに、段ボールを探した。

あのまま持ってくればよかった。

なんて頭の中でぼやきつつ、潰れた段ボールを見つけた。

そのダンボールを丁寧に組み立て上げ、中にネコを置いた。

「なーん」

少し鳴き声が弱くなっている。

「はいはい」

俺はすぐに浅底の皿に牛乳を注ぎ、小さな毛布を持った。

毛布をかぶせ、皿をネコの前に置く。

「飲め飲め」

「なーん」

ネコはペロペロと少し舐めたあと、美味しそうに牛乳を舐めた。

明日病院に連れてって、オスメス調べてもらうか。

「名前は明日だな」

「なーん?」

呟く声が、部屋を通り抜けた。



土曜日、とりあえず学校のない日。

12月も前半、試験や勉強などで忙しい中、俺はペットショップへと向かった。

オスかメスか。ついでに年も聞いてみた。

メスの2才だそうだ。

「メスか・・・。じゃ、俺の好きな"蜜柑"かな」

「にゃー?」

「お前の名前だよ。蜜柑」

意味をわかったのか、嬉しそうに

「にゃーん」と鳴いた。

俺も喜んで撫でてやった。



月曜。

俺は肩にネコを乗せて登校した。

結構嫌がるかと思ったが、案外すんなりと乗ってくれた。

学校の校風は自由だった気がしたので、何も言われないと思ったら怒られた。

いや、先生にじゃない。

七海に。

「生徒会のクセに・・・。何ネコなんか連れてきてんのよ・・・」

「んー、気分」

「気分ってアンタねぇ・・・」

七海はガックリと肩を落とす。

「いいじゃねェか。もう終わりなんだし」

「なーん」

蜜柑の鳴き声が変わった。

腹でも減ったのか。

俺はため息をつくと、カバンから紙皿と牛乳パックを取り出した。

牛乳を皿に注ぐと、蜜柑の前に出した。

「なーん」

蜜柑は可愛らしい声を上げると、牛乳を舐めだした。

どうやら腹が減っていたらしい。

「可愛いんだからいいじゃないっスか。先輩」

「そうですよ・・・。ネコさん可愛いですよね・・・」

滝口に合わせて、香坂が口を揃えた。

滝口の顔はまだ浮かない表情だった。

そのせいか、神崎は今日来ていない。

しかし、それ以上に珍しい事が。

「ま、会長も怒る事じゃねェでしょ」

「あんたはうるさいの。大村」

会議中に大村が起きている事はかなり珍しい。

まったく持って珍しい光景に、俺はケータイで写メを撮っておいた。

「・・・もういいわ。とっとと解散して」

「うぇ?まだ始めて10分も経ってないっスよ?」

「いいの。今日はとりあえず書類渡すだけだったし」

そう言って、机の上にあった書類を、ヒョイと渡した。

なんだか最近投げやりだな。

何かあったのか?

そう思いたくなった。



ネコ。ネコ。ネコ!? ネコ。

「どこへ行っても驚くのか、ネコに」

校内でネコを肩に乗せながら歩いていると、周りのみんなが驚いた目でこっちを見てくる。

やっぱし学校にネコなんて珍しいか。

すれ違った教頭なんて、

「ほほう、クロネコか」

と呟いて去っていったもんだ。

ふぅん、と思いつつ、俺は校門を出た。

「―――待って」

ふと、後ろから呼び止める声がする。

俺か。

「・・・誰だ?」

振り向くと、そこには優利香が立っていた。

「涼ちゃん、あのね・・・」

「優利香じゃねーか、久しぶりだな。立ち話もなんだから、一緒に帰ろうぜ」

「え、あっ、ちょっと!」

嫌がってた彼女の腕を強引に引っ張った。

どーせあの話だろ。聞きたくねぇよ。

・・・恥ずかしくなるから。

「あのね、涼ちゃん。涼ちゃんってば!」

「―――何だよ」

「この前は、ゴメン。私、どうかしてて・・・」

やっぱかよ。

すんなっつってんのに、優利香ってヤツは・・・。

「いいよ。俺にも責任あるし。行くとこまで行かなくて良かったじゃねェか」

「行くとこ・・・って、涼ちゃん! 何考えてんのよ!!」

「うはは、嘘だよ嘘」

笑いに流して誤魔化したが、何と言うか、もう心が跳ねてる。

この前の事からだろうか。彼女を見ると、やけに胸が跳ね回る。

なんだよ、この気持ち・・・。

そんな事を考えていると、急に身体が熱くなってきた。

「どうしたの、涼ちゃん。顔赤いよ?さてはヘンなこと考えてたんじゃ・・・」

「そ、そんなんじゃねェ!断じて、断じてだ!」

必死に弁解の言葉を言うと、彼女は笑った。

「あはは、涼ちゃん必死すぎだよ。そんなに必死にならなくてもさ―――」

言葉が途切れる。

何だよ、“必死にならなくても―――”?

彼女は言葉を飲み込みかけて、口を開いた。

「必死にならなくても、たぶん涼ちゃんと同じ気持ちだから」

言葉を言い終えた彼女の顔は、真っ赤に染まった。

その顔を隠そうと、俯く。

沈黙だ。

恥ずかしがる彼女が、目の前にいる。

俺がいる。


蜜柑が鳴いた。

暗がりの空、白くなる息が宙に舞う。


俺の心臓が、高鳴った。


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