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page4 彼女

気がつくと、朝だった。

あの後、彼女は優しい表情を浮かべて帰っていった。

優利香は強い。けれど、本当は脆い一面を持ってる。

たぶん、帰ってから泣いていたかもしれない。

少し、学校に行くのが辛くなった。



「涼介ー、おはっス」

「明」

後ろから、沢口が背中を叩いて声をかけてきた。

沢口明。中学からの親友で、イイ奴だ。

見かけによらず頭がよくて、俺も時折世話になっている。

当の本人はあんまし思っていないらしく、能天気にしてるけど。

「どしたー?何かあったか?」

「何で」

「なーんか暗くなってんぞ。顔とか」

彼が顔を叩いてきた。

どうやら俺は、顔に出るらしい。

「考えすぎには気を付けたほーがいいぞ?ほら」

明はポンと、俺じゃないほうの肩を叩いた。

その肩は、二年の滝口ヤマトだった。

「あ、先輩。どもっス・・・」

妙に元気のない声を、滝口が口から漏らす。

「彼女のことで何かあったか?」

「・・・なんで知ってんスか、沢口先輩。まぁ、それなんスけどね」

「滝口と知り合いなのか、明」

「サッカー部の後輩だったんだよ」

滝口の肩をポンポンと叩いて、明は笑った。

サッカー部の後輩なのか。

生徒会で元気なのも、スポーツ系の部活だからか?

「あ、椿先輩。いたんスか」

落ち込んだ顔をヒョイと上げ、滝口が言った。

その言葉に、少し腹が立つ。

そんなに存在感ないか、俺は。

「で、彼女のコトで何があったのさ?」

「ケンカしたんス。カナと」

「ほーう、中崎か。いいもんゲットしたじゃんか」

カナ。中崎神奈のコトか。

噂にはなってたけど、本当だったんだな。

「どうしようか、悩んでんスよ。ハァ・・・」

彼はさらに俯き加減で呟いた。

何だか入っちゃいけない雰囲気だなぁ。

俺は歩く速度を速めて、学校に入っていった。



めんどくさくなった。

二時間目を過ぎた辺りから、というか。いつもなんだけど。

勉強なんざやりたくねぇー。っていう心が動く。

そんな気持ちから、授業をサボる。

サボって、いつもの屋上で一人。

手すりにもたれ掛かる。

吹いた風が、身体を包み込んだ。

「"We will meet you by all means. With a sound of the same beating as a mark and.

I am here. Because I call it when. When tired reasons occur at the same time and shake, I know a born reason."」

どこかで聞いた英語を、口ずさむ。

僕らは、出会う。

目印をひとつ、見つけて。

それに向かって駆けていく。

駆けたその先に、自分自身の相手を見つけられるのかもしれない。

急に、昨日のことが頭を過ぎった。

途端に顔が、耳が熱くなる。

恥ずかしかった、正直。

自分の行動もそうだが、彼女の行動もそう。

抗わない彼女を抱きしめた瞬間、心が安らいだ。

「・・・優利香のヤツ」

誰にも聞こえないくらいの小さい声で、呟く。

もしかしたら、アイツは―――。

なんて、妄想を膨らませてしまう。

直後、屋上の扉がゆっくり開いた。

「―――っ!!?」

誰か、来た。

同じサボリ魔か?

はたまた俺を探しに来た誰かか?

さっきまで顔を赤くして他から振り向きにくい。

しかし、なりふり構っていられず振り向いた。

その視線の先には、周りをキョロキョロと見渡す少女がいた。

俺が少女に目を合わせると、彼女は途端に顔が明るくなり、こっちへ駆け寄ってきた。

「あのっ、その、椿くんですよね」

「お、おう」

「よかった・・・。昨日は倒れちゃうからどうしたかと思って・・・」

倒れた、って。

あー、俺の夢のことか。

何で知ってる?

あれは夢じゃないのか?

彼女はスカートを叩くと、俺の隣にちょこんと立った。

ボブカットの髪の毛が、弱い風になびく。

「―――授業は?」

「あたしのクラスは・・・自習なので。抜け出してきたんです」

「そ、そうか」

抜け出すっていってもなぁ。

そういうのって、意外と成績に響くんだぞ。

「今日は何は話すんだ?」

「そうですね・・・」

少しの沈黙が流れる。

お互い何も話さないから、振り向く。

同時に目が合う。同時に逸らした。

「えと・・・。夢、ですかね」

「夢?」

「そう、夢です。未来への希望、叶えたい望み。様々な夢―――。椿君には・・・どんな夢がありますか?」

「夢・・・」

夢。自分の自分の叶えたい夢、どりぃむ。

あんまり考えたこともない。

適当に大学に行って、このまま一人暮らし。

そんな光景が、頭を過ぎる。

やっぱり考えなきゃいけないか?

自分の進むべき道、歩く道を。

でもやっぱり。

俺は遠い空を眺めながら、呟く。

「俺には―――ねぇよ」

「え?」

「俺には夢が、ねぇんだわ」

寂しい風が、優しく吹いた。


この時は、未来も何も。

彼女のことなんて考えていなかった。


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