epilogue 雪とコート
私の世界と彼の世界、何色に染まったろうか。
彼が振り向くまで。私は、歩くことを止めない。
彼にだけ見せた姿。あれが本当の私。そう。
奔放に生活して奔放に生きて。アイツとは違う、俺の姿。
昼寝して欠伸。それの繰り返し。それが俺。
俺はどんな風に生きてきたのか。どんな風に生きるのか。
epilogue 雪とコート
時代は変わっていく、なんていうけど。
この07の年はさして変わっていないと思う。
立ち並ぶビルを屋上から眺めて、私は思った。
なんて綺麗で汚い町なんだ、と。
ポケットからiPodを取り出し、最近気に入ってる曲を聴く。
虹色の声をしたアーティスト。
テレビになど出てないから、素顔とかは知らないけど。
きっと、いい人なんだろう。
元気にやってるだろうか。
ふと、そんなことが頭を過ぎった。
もしかして、忘れてるかもとか。違う|女<<ヤツ>>と付き合ってるとか。
まぁ色々考えて、一つため息をつく。
別にいっか。2年も前だし。
気にしない気にしない。
そんな時、携帯電話が唸った。
「―――っ」
噂をすれば何とやら、なのか。
驚いて、焦って、とりあえずは深呼吸。
そして、ケータイを開いた。
「・・・メール」
だった。
相手は―――、香坂さん。
「 To : yurika913r&t@xxx.ne.jp
題名:お久しぶりです。
本文:お久しぶりです。
メール返していなくてスイマセン。
今日は、涼介君がそっちに向かったのでお伝えしておきました。
由紀」
やっぱり、噂をすれば何とやらなのかな。
「涼介君、どうしてるかな」
「さぁな。でも、二年もガマンしてたんだ。たまってんじゃねーの?」
「ちょっ、沢口君!」
「ん?アレだよ。谷山への想いだよ」
彼は笑うと、タバコに火をつけた。
煙が風になびいて、こっちへ飛んでくる。
「沢口君・・・けむた・・・っ、ごほっ・・・」
「ん、悪ィ」
沢口君は少し向きを変えると、煙を勢いよく吐き出した。
「メール、見てくれたかな。谷山さん」
「まぁ。見たら驚いてテンパるかもな」
「・・・そだね」
私はクスッと笑って答えた。
彼はタバコを吸い終えると、スッと歩き出した。
その彼の腕に、私は掴まる。
「・・・なんだよ」
「ん?新しい恋をみつけるぞー!ってね」
「そりゃ頑張れ。この前見たくならないように、な」
「うん」
私は笑って答えた。
明るい私があるのは、彼のおかげ。
でも彼は―――本当に好きな人のところに、走っていったんだ。
相変わらずこいつは、静かに寝息を立てて・・・。
まったく。
「起きなさい。勉強するんでしょ?」
「ふぁ。七海・・・かよ」
寝言のように、彼は答えた。
そしてまた眠りに落ちる。
もう本当に、2年前から変わってない。
「ほら、起きろ大村!起きてよ、もう!!」
彼の背中を叩くが、反応なし。
私はため息をついて壁に凭れた。
アレから二年・・・。
アイツを見てるとそうは思わないものの、早いものだ。
椿は元気にしてるだろうか。
もう行っちゃったのだろうか。
前からラブラブなんだろうか。
乙女心が、色々な妄想を膨らませる。
私だって、アイツのこと―――。
「あーもう!何でこんなこと考えて・・・ッ」
「ふぁ・・・っく。何か言った?」
突然、コタツで寝ていた大村がのそっと身体を起こした。
彼は頭を掻くと、
「くぁ」という変な声を出した。
どうかしたんだろうか、と聞いてみると
「んー、コーヒーが欲しい。瞼が下りちまう」
「・・・ったく」
起きたと思ったらおねだりですか。
それで動く私も私だと思うんだけど。
ため息をついて、私はコーヒーメーカーの前に立った。
熱いコーヒーが湯気を立ててる。いい匂いだ。
「あ、言うの忘れてた」
「なによ」
とぼけた声で言ったので、私は言葉を強くした。
そこに少しの沈黙が起こる。
まるで私が起こしたかのような。
注ぎ終わったコーヒーコップを持って、その沈黙の真ん中へ。
机にコップを置いたその時だった。
「俺、お前のコト好きらしい」
「・・・え?」
思いもよらない言葉が、彼の口から漏れた。
当然それもとぼけた声。
よく状況が飲み込めず、ぽかんとしていると
「好き、らしい」
「えと・・・あの・・・私・・・は、性格が―――」
「性格なんて、後々分かって行くさ。今のお前が、俺は好き。それだけだよ・・・っと」
机の上に置かれたコーヒーを、彼は少し口にした。
「えと、あの、その」
私はさらに戸惑って、地に戻って言葉が出なくなってしまった。
「とにかく、勉強しようぜ。俺このままだとまた大学落ちちまうよ」
「う・・・うん」
どうやら神サマは、私にいじわるをしたらしい。
アイツを思っていたのに、大村からの―――。
彼のいつもの感じに、何故か今日は心が動いた。
少し、考えて、見ようか、。な。
それぞれの道は、それぞれの眼前に落ちる。
それが幻であるかもしれないし。
現実であるかもしれないし。
掴めないかもしれないし。
掴めるかもしれない。
それは自分たちが決めることだ。
掴みたければもがけばいい。現実であって欲しいなら願えばいい。
道はそれぞれの場所にある。
それを瞳に入れるのも、見逃すのも、手にするのも、落とすのも、進むのも、戻るのも。
自分次第。
―――自由、なんだな。
屋上を飛び出した。
昼休みに学校を早退した。
どうすればいいか分からなかった。
けど、走った。
一生懸命走った。
たどり着いたのは、このあたりで一番大きい駅。
見れば分かるような大きな駅。
正面まで来て、息が切れた。
こんなんで息が切れるなんて。
運動しておけばよかったなぁ、なんて後悔した。
けど、そんなことはどうでもいい。
どうすれば。
と、誰かに肩を叩かれた。
いや、それは誰かの肩がぶつかったのかもしれない。
何かがぶつかったのかもしれない。
気になってそっちを振り向いた。
振り向くと、指がぽにゅっと頬に触れた。
「久し振り」
彼は笑ってそう言った。
一ヶ月足らずで、雪が降った。
その日、彼と一緒に私は外に出かけた。
寒いからコートを着て、二人で手を繋いで。
私の左手は、すっぽり彼の右ポケットに。
「綺麗だね」
「そうだな」
一面の白い世界は、まるで銀世界だった。
隣を歩いていった少年少女の声が、少し聞こえた。
次の曲はどんなのにしようか。
やっぱり"虹"が入ってるほうがいいのかな。私たちらしいって言うか。
さぁ。柚花に任せるよ。
二人は笑いながら歩いていった。
楽しそうだなぁ。
そうだ、と私は彼に話しかけた。
「ねぇ、涼ちゃん」
私が声をかけると、
「何」と彼は返して来た。
「抱きついてもいい?」
は?なんでだよ、恥ずかしい。彼は横を向いて答えた。
「いいじゃん」
私はそう言って、彼にしがみつく。
嫌がる彼を、私は楽しそうに笑った。
雪とコートに、キミの笑顔が重なった。
二人の笑顔が重なった。
あ、雪。
私の声に、彼の顔が空を向く。
ほんとだ。
綺麗だね。
そうだな。
私たちは、笑いあった。
雪とコートと、キミの笑顔の物語。
俺はそれを、隣で見ていた。
...fin
連作小説を載せさせていただきました。これは前からできていたものなので、早かったんです。