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page14 ベル。

交わった時は、全てを映し出す。

例えそれが雁であっても。




 

page14 ベル。




 

寒空の下、彼女を見送る。

今日はその日だ。

別にもう、寂しくはない。

悲しくもない。

彼女とは見えない場所で手を繋いでいるから。

「もう、か」

「そうだな・・・」

ホームの上で、右側から来る電車を待った。

その一秒一秒が、実は怖かった。

寂しくも悲しくもないけど、怖かった。

もういなくなるんだと言う、そのことが。

「あ、あのさ・・・」

「ん?」

彼女が少し俯いて口を開いた。

少しの間、沈黙の空気が流れる。

その空気が、何だか息を苦しくした。

「本当に大丈夫?」

「何がだよ」

「私がいなくて」

彼女は俺の手を掴んだ。

心臓がトクンと疼いた。

そんな目で俺を見るなよ。

俺は心の中でそう呟く。

綺麗に光る彼女のつぶらな瞳に弱いんだから。

その彼女の瞳を、少しだけ見つめる。

キラキラしていた。

ずっと見つめていたかった。

「・・・涼ちゃん?」

「ん?」

「私の顔、何かついてる?」

「―――いや、ついてねーよ」

視線の先を、彼女の瞳から顔へと移した。

本当は抱きしめたかった。

抱きしめて離したくなかった。

けど、もう。

いいんだ。

そんなことしたら本当に戻れなくなる。

―――心なしか、気のせいか。

彼女の瞳がこっちを向いたとき、心の中を覗かれた気がした。




 

彼の視線が私の顔じゃなくて私の眼に向いているのが分かった。

昔からそうだ。

彼は私を見るとき、時折私の瞳を見ている。

・・・忘れてるとは思うけど、子供の頃に聞いたことがあった。

“何で私の目を見るの?”って。

すると

“それはね、ゆりかの目がきれいだからだよ”

そう、言ってたっけ。

今でも変わってないんだよね。

涼ちゃんってば。

私は心の中で微笑んだ。

彼が目を背けたのも、私が気づいたと思ったからかな。

いいのに、私は。

涼ちゃんが好きだから。




 

ホームに電車の来る音が響いた。

もう・・・か。

後悔したって遅いんだ。優利香の背中を押したのは俺だ。

そう言い聞かせていたけど、気がつけば俺は彼女の手を掴んでいた。

そして、彼女の華奢な身体を抱きしめる。

「ちょっと、涼ちゃん?」

彼女の声が聞こえたけど、聞かずに肩に顔をうずめた。

何で俺はこんな性格なんだ。

強気なコト言って、最後は弱くなってしまう。

「電車来ちゃうから・・・さ」

「別に、そんなに人は来ないだろ」

胸が痛い。

彼女のコトを考えていたのに、今は自分のコトしか考えていない。

なんで。

なんでなんでなんで。

なんでなんだよッ・・・。

「涼ちゃん」

ふいに、耳元で彼女の囁く声が聞こえる。

「いいんだよ、そんなに悩まなくっても。私が残れば、それでさ―――」

「だから、それじゃ駄目だろ!!」

電車の停車する音で、声が少しかき消された。

程なくして扉の開く音がした。

「だって・・・こんなに涼ちゃん・・・」

「俺は優利香に触れられただけでいい」

彼女を身体から離すと、電車の扉を指差した。

少し乱れた呼吸を整えて、言う。

「行ってくれ」

「・・・でも」

「早く、してくれ。取り返しのつかないことしちまうから」

そう言って、俺は一、二歩後ずさった。

彼女は少し震えながら、それでもコクンと頷いた。




 

電車に乗り込んだ彼女の瞳は、悲しそうに震えている。

「約束・・・だよ。絶対また逢えるよね?」

震えた唇から、精一杯の言葉が聞こえる。

強がってる口調だけど、本当は優しさのこもった口調。

「当たり前だ。逢えるに決まってるっての」

アナウンスの方から、発車のベルが鳴り響く。

そして、俺と優利香の間のドアが閉まった。

彼女は笑っていた。

精一杯の笑顔だったんだろう。

俺はその笑顔に、手を振った。

泣いてたと知っていても、手を振った。

電車が見えなくなるまで。




 

そしてそこで、意識が途切れた。


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