page13 innocent
彼女の涙に触れると、とても熱かった。
彼女の瞳は澄んでいて綺麗だった。
彼女の唇は、柔らかくて甘かった。
息を止める、彼女との口付け。
唇を離すと、彼女は息を漏らした。
何で息とめるんだよ。
なんでかな、なんでだろ。
それだと舌とか入れるとき大変だぞ。
舌っ!?涼ちゃんってば!!
まぁ、可愛いからいいんだけどな。
俺はまた、彼女の唇を塞いだ。
彼女を更に抱き寄せ、息を止めてる彼女の口に舌を入れた。
「――――っ!?」
彼女は驚いて声にならない声を上げる。
それでも俺は、彼女の舌を追い回した。
「んっ・・・」
閉じた口から、甘い吐息が漏れる。
舌を絡ませ、口の中を泳ぎまわる。
目を閉じているから、その状況がより明確に脳に伝わってくる。
「ぷわぁ」
「っは」
絡め合った舌を離し、舌を離した。
銀色の糸が口を伝う。
「なんだか・・・すごいね」
「意外と上手いんじゃないのか?」
「もう!涼ちゃんがいきなりやるからでしょ!」
彼女は顔を真っ赤にして、また叩いてきた。
さっきのよりは、少し強かった。
屋上を出た俺たちは、そのまま俺の家へと向かった。
「二次会、みたいなモノかな」
「わかんね」
小さいベッドの上で、二人きり。
俺たちは座っている。
空気が空気なのか、二人して恥ずかしがり、前に出ようとしなかった。
「・・・」
「て、繋ごっか」
沈黙を破ったのは、彼女の優しい声だった。
「・・・おう」
俯いた彼女の一言に、答える。
ゆっくりと手を伸ばし、しっかりと握った。
彼女の手は、華奢な身体と同じで細く、綺麗だ。
触れると彼女の温もりが、じっくりと身体の芯に伝わってくる。
握っている間、俺はたぶん顔が真っ赤だったろう。
そのあとの事はヒミツだ。誰にも言わねえ。
俺と優利香だけの、秘密だ。
別にやましい事は何もないぞ。
ただ、うん。
やましいことはなにもない。
ベッドの上に、二人で寝転ぶ。
天井が、やけに近く感じられた。
「本当に、大丈夫?」
「何が」
少し服のはだけた彼女が、俺の手を握ってきた。
「私がいなくなっても」
「・・・」
俺はその手を握り返した。
「大丈夫じゃないかもね。寂しがり屋の涼ちゃんだし」
「分かんねェ。多分泣くかも」
俺の言葉に、彼女があはは、と笑う。
笑うなよ、と俺は呟いた。
「二股とか、そういうのしないでよ?」
「おう。分かんねェけど」
「ひどい。涼ちゃんひどい」
二人でまた、笑った。
笑いあった。
彼女の笑顔は綺麗で、眩しかった。
窓から日の光が差し込む。
蜜柑の鳴き声が、部屋の隅から聞こえた。
心の中が、白く澄んだ気持ちになった。
ここはどこだ。
夢ではない夢のどこか。
光の差す事のない、空間のどこか。
亜空間?異空間?
全く分からない場所に、俺は放り出されている。
っ!?
止めろよ、邪魔すんな!
空間が、闇がついに俺の脚を掴んだ。
離せよ!離せ!
俺はそんなところに引きずり込まれる気はないんだ!
俺は・・・俺は―――。
ここはどこだ。
目を開くと、彼女が寝ていた。
布団に包まり、静かな寝息を立てている。
彼女の寝顔が、可愛かった。