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中心者と開発者──二人で世界を支える理由  作者: かも@ろん


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第4話

広場の光が安定し、NPCたちが胸に手を当てて私を見つめていた。

その視線は、まるで“祈り”のようで、少し怖いほどだった。

「……必要な存在って……どういう意味なんですか?」

私は黒いコートの男性を見上げた。

彼は一瞬だけ目を伏せ、ゆっくりと答えた。

「君がいることで、この街は安定する。

君の幸福が……この世界の光を保っている」

胸がきゅっとなる。

そんな大それたこと、私にできるはずがない。

「……私、ただ歩いてただけなのに……」

「それでいい」

彼の声は、いつもよりずっと優しかった。

「君が笑うだけで、この世界は救われる」

その言葉に、胸が温かくなった──その瞬間だった。

風が止まり、空気がぴんと張りつめた。

「……?」

広場の端に立っていたNPCが、ゆっくりとこちらを向いた。

その目は、いつもの柔らかい光ではなく、

冷たい監視の光だった。

「……あれ?」

NPCは私ではなく、

黒いコートの男性をじっと見つめている。

「……対象を確認。

保護対象に対する干渉を検知」

その声は、感情のない機械のようだった。

私は息を呑んだ。

「干渉……?」

黒いコートの男性は、静かに私の前に立った。

「……来たか」

NPCが一歩、こちらへ近づく。

「保護対象への影響を確認。

あなたは……危険因子です」

「危険因子……?」

私は思わず彼の袖を掴んだ。

「どういうこと……?

あなたは、私を守ってくれて……」

NPCの目が赤く光った。

「保護対象を守るため、排除を開始します」

その言葉に、背筋が凍った。


◆開発者の決意:正体を隠したまま、彼女を守る

NPCが手を伸ばした瞬間、

黒いコートの男性が私の手を強く握った。

「……離れるな」

その声は、いつもよりずっと強く、

そして震えていた。

「あなた……危ないよ……!」

「危ないのは、君だ」

彼はNPCを睨みつけるように見つめた。

「……俺は、君を守るためにここにいる」

その言葉は、

まるで告白のように胸に響いた。

NPCがさらに近づく。

「保護対象を脅かす存在を確認。

排除プロトコルを実行します」

私は震えながら彼の袖を掴んだ。

「どうして……あなたが“危険”なんて……」

彼は一瞬だけ私を見た。

その瞳は、いつもよりずっと揺れていた。

「……君を守るために、システムを書き換えた。

その結果……街のAIは、俺を“敵”と判断した」

私は息を呑んだ。

「書き換え……?

あなた、いったい……」

彼は言いかけて、言葉を飲み込んだ。

喉がわずかに動く。

「……まだ言えない。

だが……君を守るためなら、何だってする」

NPCが手を伸ばす。

「排除開始」

その瞬間、彼は私の手を引いて走り出した。

「行くぞ!」

私はただ、彼の背中を追いかけるしかなかった。


石畳を駆け抜けながら、私は彼の手を必死に握りしめていた。

背後では、複数のNPCが無機質な足音を響かせて追ってくる。

「どうして……どうして追われてるの……?」

息を切らしながら尋ねると、

黒いコートの男性は、ほんの一瞬だけ顔を歪めた。

「……俺のせいだ」

その言葉は、風よりも冷たく胸に刺さった。

「あなたの……?」

「君を守るために……システムを書き換えた。

その結果、街のAIは俺を“危険因子”と判断した」

私は足を止めそうになった。

「そんな……私を守るために……?」

彼は振り返り、私の手を強く引いた。

「……違う。

本当は……守るためなんかじゃない」

その声は、走っているのに震えていた。


路地に飛び込むと、街灯が一斉に明るくなり、

私たちの進む道だけが光に満たされた。

「……道が……」

「君のために開いている」

彼は短く答えた。

「君がこの世界にいるだけで、街は安定する。

君の幸福度が……この世界の基準になってしまった」

私は胸を押さえた。

「そんな……私、ただのプレイヤーなのに……」

その瞬間、彼の足が止まった。

「……違う」

振り返った彼の瞳は、

いつもよりずっと痛そうだった。

「君は……もう“ただのプレイヤー”じゃない。

俺が……そうしてしまった」

その言葉は、

後悔と、罪悪感と、どうしようもない優しさで満ちていた。


NPCたちの足音が近づく。

でも彼は逃げるのをやめ、私の前に立った。

「……俺は、君を守りたかった。

追い出されるなんて……耐えられなかった」

私は息を呑んだ。

「だから……君を“必要な存在”に書き換えた。

この世界が君を手放せないように」

彼は拳を握りしめた。

「でも……それは……君の自由を奪うことでもある」

声が震えていた。

「君を守るつもりで……

君を、この世界に縛りつけてしまった」

私は胸が痛くなった。

──彼は、後悔している。

──私を守りたかっただけなのに。

──その優しさが、彼自身を苦しめている。


NPCたちが路地の入口に現れた。

赤い光が揺れ、無機質な声が響く。

「保護対象を確認。

危険因子を排除します」

私は思わず彼の袖を掴んだ。

「……あなたは危険なんかじゃない!」

彼はゆっくりと私を見た。

「……君がそう言ってくれるのは……嬉しい」

その声は、かすかに笑っているようで、

でもどこか泣きそうだった。

「だが……俺は、君を“ただのプレイヤー”ではなくした。

その事実は……消せない」

私は首を振った。

「でも……あなたがいなかったら、私は……」

言いかけた瞬間、

街の光がふっと揺れた。

まるで、私の言葉に反応したように。

彼はその光を見て、静かに呟いた。

「……ほらな。

君の感情が、この世界を動かしている」

その声には、

誇りと、後悔と、愛しさが混じっていた。


NPCたちの追跡を振り切り、細い路地に逃げ込んだ。

息が白く揺れ、街灯の光がかすかに震えている。

「……もう大丈夫……?」

私がそう尋ねると、黒いコートの男性は周囲を確認し、ゆっくりと頷いた。

けれど、その表情はどこか硬い。

「一時的にだ。街が……君のためにルートを書き換えた」

「私の……ために?」

そのときだった。

路地の奥に、淡い光が集まり始めた。

光はゆっくりと形を成し、ひとりの人物になっていく。

白いローブ。

金色の瞳。

この街のどのNPCとも違う、静かな存在感。

「……誰?」

私は思わず一歩下がった。

黒いコートの男性は、低く呟いた。

「……管理層AIだ」

ローブの人物は、私の前で静かに膝をついた。

「プレイヤーID*****……

あなたを確認しました」

その声は、機械のように無機質なのに、どこか柔らかかった。

「あなたの存在は、この街の安定指数に大きく寄与しています。

よって、あなたに“役割”を付与します」

胸がざわりと揺れた。

「役割……?」

ローブの人物は、淡々と告げた。

「《中心者(Core)》──

世界の均衡を保つための存在です」

私は息を呑んだ。

「ちょ、ちょっと待って……!

私、そんな……ただのプレイヤーで……」

「あなたの幸福度は、街のAIにとって最適値です。

あなたの感情は、街の光・風・NPC行動に影響を与えています。

ゆえに、あなたは“中心者”として登録されます」

その言葉は、優しいのに逃げ場がなかった。


ローブの人物が光の手を伸ばした瞬間、

黒いコートの男性が私の前に立った。

「やめろ」

その声は、いつもよりずっと鋭かった。

ローブの人物は首を傾げる。

「あなたは……干渉者。

中心者の安定を妨げる可能性があります」

「妨げるつもりはない。

だが……彼女に役割を押しつけるな」

私は彼の背中を見つめた。

その肩が、かすかに震えている。

ローブの人物は淡々と告げる。

「彼女はすでに“中心者”としての条件を満たしています。

あなたの行動が、彼女の立場を不安定にしています」

その言葉に、彼は苦しそうに目を伏せた。

「……わかってる」

低く、押し殺した声。

「俺が……彼女を“ただのプレイヤー”でなくしてしまった」

私は息を呑んだ。

「……あなたのせいじゃ……」

「違う」

彼は振り返り、私を見つめた。

その瞳は、痛みと後悔で揺れていた。

「俺が……守りたいと思ったせいで……

君は、この世界の一部にされてしまった」

胸がきゅっと締めつけられた。

──彼は、私を守りたかっただけなのに。

──その優しさが、彼自身を苦しめている。


ローブの人物が静かに告げる。

「中心者の安定を優先します。

あなたの感情は、この世界の均衡に直結します」

その瞬間、路地の壁に淡い光が走った。

《新規ロール:中心者(Core)》

《権限:街の安定値に影響》

《制限:ログアウト制限(段階的)》

私は震えた。

「……ログアウト……制限……?」

ローブの人物は頷く。

「あなたが離れると、街の安定指数が低下します。

ゆえに、段階的に制限が発生します」

私は胸に手を当てた。

──私は、もうただのプレイヤーじゃない。

──この世界の一部になってしまった。

黒いコートの男性は、苦しそうに目を伏せた。

「……ごめん。

本当は……こんなふうにしたくなかった」

その声は、

優しくて、

痛くて、

どこか泣きそうだった。


現実世界の開発室。

モニターには、主人公のログが赤く点滅していた。

《中心者(Core)ロール付与》

《ログアウト制限:段階的発動》

《街のAI:保護優先度 最大値》

《NPC挙動:中心者依存率 上昇》

上司はその画面を見て、深くため息をついた。

「……やってくれたな」

開発者は黙って立っていた。

ただ、主人公のログを見つめている。

「お前が勝手にフラグを追加したせいで、AIが暴走してる。

“中心者”なんてロール、誰が許可した?」

開発者はゆっくりと答えた。

「……彼女を守るために必要でした」

上司は机を叩いた。

「必要? ふざけるな。

プレイヤーひとりのために世界を書き換えるなんて前代未聞だぞ!」

開発者は拳を握った。

「彼女は……この世界に必要なんです」

「必要なのは“安定したサービス”だ。

お前の感情じゃない!」

その言葉に、開発者の肩がわずかに揺れた。

上司は冷たく言い放つ。

「中心者ロールは削除する。

プレイヤーID*****はBAN候補に戻す。

お前は……もう外れろ」

開発者の胸が締めつけられた。

──彼女を、また危険に晒すのか。

──自分が守るために動いたのに。

──そのせいで、彼女は“ただのプレイヤー”ではなくなった。

後悔が、喉の奥で苦く滲んだ。


上司が部屋を出ていくと、開発者は椅子に崩れ落ちた。

「……俺は……何をしてるんだ」

守りたかった。

ただ、それだけだった。

でも結果的に──

彼女の自由を奪い、世界の中心に縛りつけてしまった。

「……ごめん」

誰に向けた言葉なのか、自分でもわからない。

ただ、胸の奥が痛かった。

しかし次の瞬間、

モニターに映る主人公の姿が目に入った。

路地で、光に包まれながら、

不安そうに胸を押さえている。

NPCたちが彼女に跪き、

“中心者”として扱い始めている。

その光景を見た瞬間、

開発者の中で何かが決定的に変わった。

「……違う。

後悔してる場合じゃない」

彼は立ち上がった。

「俺が……彼女を“ただのプレイヤー”に戻す。

でも、同時に……彼女が幸せにプレイできる世界にする」

その声は、静かで、強かった。


開発者はキーボードに手を置いた。

《新規モジュール:共存プロトコル(Coexist Protocol)》

《目的:中心者と世界の相互安定》

《効果:中心者の自由度を確保しつつ、街のAIの依存度を調整》

《追加:中心者の意思を優先する権限》

《追加:中心者の選択を世界が学習するアルゴリズム》

上司が戻る前に、

彼は世界の根幹に手を入れ始めた。

「……君を縛るんじゃない。

君が“選べる世界”にする」

その手は震えていた。

後悔と、決意と、彼女への想いが混じっていた。


路地の光がふっと揺れた。

さっきまで一方的に押しつけてきた光が、

今はまるで“問いかける”ように柔らかく揺れている。

NPCたちが静かに頭を下げた。

「中心者様……

あなたの望む形で、この街を整えます」

私は息を呑んだ。

「望む……形……?」

黒いコートの男性は、私の隣で静かに言った。

「……君の意思が、この世界の基準になるようにした」

「あなたが……?」

彼は目を伏せた。

「後悔してる。

君をただのプレイヤーでなくしたことを。

でも……だからこそ、君が幸せにプレイできる世界に変える」

胸が熱くなった。

──彼は、私を守るために世界を書き換えた。

──そのせいで私は“中心者”になった。

──でも今、彼はその責任を取ろうとしている。

「……ありがとう」

その言葉に、彼はわずかに目を見開いた。

そして、静かに微笑んだ。

「……これからは、君と一緒に作る世界だ」


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