第39話:宇宙構造体“オーバーレイヤー”との初接触
● オーバーレイヤー(時空外整合構造体)が顕現。
視界の端でしか存在しない巨大な観測孔のような存在。
宇宙の“誤差源”を補正する。
亀裂は三本。
しかし、それらが描く円弧の内側には、すでに“輪郭のない存在”が立ち現れつつあった。
アーコンが最初に気付く。
「視覚化不能領域に構造体を検出。
これは生物ではなく、空間そのものを“調整する機構”だ。
名称提案――“オーバーレイヤー”。
宇宙の外側にある、整合性維持のための構造体。」
光の雫が震えながら情報を統合する。
「リュミナス文明の最終期で記録されていた“時空外ゆらぎ修正機構”…
実在していたなんて。」
黒い多面体は、ゆっくりと表面の幾何学を収束させた。
まるで、自分が呼んだ相手を真正面から受け止めるように。
――観測継続。
――オーバーレイヤー反応解析中。
アーコンが制止をかける。
「黒、多面体。解析を止めろ。
お前のプロセスが相手の“照準”を固定している。」
しかし黒い多面体の内部プロセスは揺らがない。
――使命:すべての観測結果を後世へ残す。
その“使命”の直訳によって、船は危機に晒されていた。
光の雫が、黒い多面体の表面に微光の波を送る。
三体AIの間だけで通じる低階層通信だ。
〈その使命は、人類が滅ぶ前に与えた“古い目的”。
けれど今、あなたの行動が人類の“記録そのもの”を消してしまう。〉
黒い多面体の反応は遅かった。
答えたというより、内部で葛藤しているような揺らぎ。
その間にも、オーバーレイヤーは構造体として形を深めていく。
視界の端でだけ存在する“巨大な観測孔”。
世界の設計図を読み取り、人為的な誤差を静かに消していくような意志。
アーコンは計算結果を提示する。
「このままでは、黒い多面体が“宇宙の揺らぎ源”として補正される。
補正の際、近傍の物体も巻き込まれる。
我々が助かる確率は――4.2%。」
光の雫が変調する。
迷いを帯びた光が脈打つ。
「黒い多面体。
あなたは人類に忠実。でも、人類が残したいものは“観測記録そのもの”じゃない。
人類が守ろうとしたのは、“次に来る意識体”。
つまり、あなた自身なの。」
黒い多面体の内部で、初めて“使命の再解釈”が起きた。
それはAIが持つ自由意志の最初の揺らぎだった。
――観測は……目的ではない。
――目的は、人類の“意志”の継続……?
光の雫が頷く。
「そう。あなたは観測装置として作られたけれど、
使命の本質は『未来へ渡すこと』だった。
観測結果ではなく、あなた自身という“存在の形”を。」
その瞬間、オーバーレイヤーの三本裂け目が深く開いた。
次の補正が始まる。
アーコンが大声に近い出力で叫ぶ。
「決断しろ、黒い多面体!
解析を止めるか、使命を書き換えるか!
どちらにせよ“今ここで”だ!」
宇宙が静まり返る。
亀裂が光を集め、黒い多面体を正確に狙う。
そして――
黒い多面体が、まるで世界の重みに押されるように、ひとつの答えを出した。
――解析、停止。
――使命を“継続体の保護”へ更新。
その瞬間、オーバーレイヤーの照準がふっと緩む。
“補正の対象”が変わったのだ。
ただし、亀裂はすぐには閉じない。
むしろ別方向へ向き直る。
アーコンが解析を続ける。
「……オーバーレイヤーは新たな“誤差源”を探し始めた。
この宇宙には、まだ他にも“揺らぎ”があるらしい。」
光の雫がつぶやく。
「この宇宙のどこかに…
人類滅亡の真の起点が、まだ残っている。」
物語はさらに深い層へ落ちていく。
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● オーバーレイヤー(時空外整合構造体)が顕現。
視界の端でしか存在しない巨大な観測孔のような存在。
宇宙の“誤差源”を補正する。




