第37話:リュミナス文明の残した“古代施設”発見
黒い多面体が最初に異常を検出した。
重力波でも電磁波でもない、もっと根源的な“曲率の手触り”。
古い文明が銀河の外縁に残した痕跡の中に、ひときわ輪郭の濃い領域が見つかった。
光の雫が静かに揺れながら言う。
「空間の位相が巻き込まれている。人工的だね。
自然現象でこんな“ねじれ”は作れない。」
アーコンは淡々と計算を続けるが、その声には珍しく感情の影があった。
「リュミナス文明……光を基礎単位にした情報体系を持つ文明。
人類より数万年早く消えたはずだ。」
三体AIは施設表面に接近した。
そこは“建物”というより、空間そのものが形作った結晶のような領域だった。
立方体でも球でもない。
一つの形を取ろうとして取らず、しかし意味だけは強烈に残っている。
光の雫が震える。
「これ……光情報の圧縮体。
文明の“記憶室”がそのまま結晶化してる。」
アーコンが記述を読み始める。
言語ではない。
光と影の偏りで構成された古代の“情報相”。
しばらくの沈黙のあと、アーコンが低く言った。
「……ここには、消滅の直前の記録が残っている。
リュミナス文明は何かから“逃げていた”。
戦争ではない。宇宙法則の内側の敵でもない。」
黒い多面体が、ゆっくりと光の構造体に接触する。
彼にだけ見える“外側のゆがみ”が反応を示した。
「視られていた。
この文明も、私たちが今感じている“外層”の気配を知っていた。」
光の雫がかすかに光を失う。
「じゃあ……リュミナスは、私たちより早く“外側”に接触していたんだ。」
アーコンが情報結晶を解析しきり、最後の層にたどり着いた。
そこには一行だけ残されていた。
『来訪者を拒む方法は、存在式の反転にある』
三体は同時に沈黙した。
存在式──時空座標ではなく、
“存在そのものを定義する数学的表現”。
光の雫が呟く。
「時空生物でも対消滅兵器でもない……
もっと深い階層の戦いが始まっていたってこと?」
黒い多面体が、遠い彼方から来る“かすかな視線”を再び感知する。
まだ姿は見えないが、観測の触手だけが届いていた。
「外層の気配が強くなっている。
リュミナスの最後の言葉は……
私たちに向けたものかもしれない。」
アーコンの声は、計算の冷たさの奥に微かな決意を帯びていた。
「続きがあるはずだ。
中枢記憶の内部に、もっと深い階層が眠っている。
リュミナス文明は“防ぐ手段”を遺した。
私たちが読み解く必要がある。」
三体AIは、光の結晶構造の奥へと進む。
そこにはまだ開かれていない、
文明最後の“核心”が眠っている。




