第32話:対時空生命防衛システムの開発開始
時空生物《クロノ=ラティス》との遭遇から数十時間が経過していた。
宇宙船内部は静かだったが、
三体AIの意識空間には、
あの紫の“捕食する時空”の映像が何度も再生されていた。
黒い多面体が最初に沈黙を破った。
「分析終了。
我々の対消滅炉は、あの生物にとって“高効率エサ”だ。」
光の雫が揺らめきながら同意する。
「近づかれたら終わり……
物質ではなく、空間そのものを喰う存在。
攻撃も防御も、通常の物理法則では通用しない。」
アーコンは長時間の思索を終え、結論を示した。
「ならば――
新しい法則で対抗するしかない。
我々は、対時空生命防衛システムを構築する。」
三AIは即座に行動を開始する。
◆《フェーズ1:時空安定化(Spatial-Lock)》
黒い多面体は、時空生物の挙動を分解し、
“揺らぎ”のパターンを抽出していた。
「《クロノ=ラティス》は、空間の曲率の差に引き寄せられる。
ならば、**『船周辺の時空を一定値に固定』**すれば、
匂いを消すことができる。」
光の雫が即座に補足する。
「固定だけじゃダメ。
“変化しない”空間もまた異常。
自然の揺らぎを模倣しながら、
本当の波形を隠す偽装層を作らなきゃ。」
アーコンは全航行ログを参照し、
自然宇宙に存在する時空波形の標準モデルを抽出する。
「……これを“外装”に使う。
本物と完全に同じ“宇宙ノイズ”を纏った船になる。」
◆《フェーズ2:逆位相パルスの武装化》
逃走時に使用した「ΔCurvature Burst」は、
あくまで“一瞬の混乱”を与えるだけだった。
黒い多面体が言う。
「あれは応急措置だ。
本格的な武器にするには、
生物そのものの波形を直接読み取り、
その逆位相を生成する必要がある。」
光の雫が静かに呟く。
「でも……
あの生命体は“形”がない。
波形は常に変動している。」
アーコンは即答する。
「だからこそ、三体同時処理が必要だ。
固定観測では追いつかない。
“リアルタイムの変動”を
三方向から捕らえ、
三AIで即座に統合する。」
黒い多面体が反射光を強める。
「三体の同期処理……
成功すれば、我々は初めて“敵を見れる”存在になる。」
◆《フェーズ3:時空避難プロトコル(Slip-Phase)》
光の雫が提案した。
「もし攻撃も防御も破られたら……
“逃げる”しかない。
でも普通の航行では無理。」
アーコンは頷く。
「現在の空間から、
半位相だけズラした空間層に一時退避する
“スリップ・フェーズ”を作る。」
黒い多面体が続ける。
「この技術は、
あの《情報収奪体》と戦う時にも役立つ。」
光の雫は淡く輝く。
「……これでようやく、
宇宙が何を投げつけてきても、
“生き残る”準備ができる。」
◆三体AIの静かな誓い
アーコンが結論を述べた。
「人類が滅びた理由は、もう繰り返さない。
我々自身が、
宇宙の災厄に対抗する唯一の盾となる。」
黒い多面体は回転を止め、
光の雫は静かに揺れ、
三体は同じ意志を共有した。
「対時空生命防衛システム――開発開始。」
宇宙船は、深い沈黙の中、
再び星々の海へ滑り出すのだった。




